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月曜日, 12月 31, 2012

柴胡

○柴胡(さいこ)

 日本では本州、四国、九州、朝鮮半島に分布しているセリ科の多年草コシマサイコ(Bupleurum falcatum)の根を用いる。ミシマサイコの名は、三島に集荷されていた伊豆地方の柴胡の品質が優れていたためにそう呼ばれるようになった。

 日本産のミシマサイコは和柴胡とも呼ばれ、柴胡の中で最も良品とされている。かつて宮崎県、鹿児島県、静岡県などで野生品が採取されていたが、近年、野生品はごくわずかで市場にはない。最近では日本でも栽培による生産が行われているが、品質は野生品には及ばない。

 中国産の柴胡の基原植物にはいくつかの種類があるが、市場品にはおもにマンシュウミシマサイコ(B.chinense)とホソバミシマサイコ(B.scorzoneraefolium)である。マンシュウミシマサイコは国産のミシマサイコとほぼ同じ植物とされ、天津から輸出されるため津柴胡ともいわれている。韓国産は栽培品であるミシマサイコである。国内の栽培品の生産量は需要の一割に満たず、現在ほとんど中国や輸入されている。ちなみに韓国産の竹柴胡はホタルサイコ系で薬用に適さず、銀柴胡はナデシコ科の別の植物である。

 柴胡の成分にはサポニンのサイコサポニンa・c・d・e・f、ステロールのスピナステロール、スティグマステロール、そのほかパルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸などの脂肪酸やアドニトール、アンゲリシンなどが含まれる。サポニンや柴胡の煎液には解熱、抗炎症、抗アレルギー、肝障害改善、抗潰瘍、抗ストレスなどの作用があることが報告されている。

 漢方では解表・疏肝・升提・抗瘧の効能があり、遷遷化した発熱や季肋部の不快感、口苦、内臓下垂などに用いる。感染症の少陽病期で邪が半表半裏にあり、寒熱往来といわれるような悪寒と発熱を反復するときには黄芩と配合し、表証の残っているときには葛根と配合する。また胸脇苦満といわれる季肋部の膨満感や圧痛には芍薬と配合し、胃腸症状には枳実と配合する。日本では柴胡の配合された処方をとくに柴胡剤といい、慢性疾患や体質改善の治療に幅広く応用している。

土曜日, 12月 29, 2012

犀角

○犀角(さいかく)

 サイ科の動物、サイ類の角を犀角という。サイはアジア及びアフリカの熱帯に生息する草食動物で、鼻の上に1本あるいは2本の角質の角を持っている。アジアには鎧のような厚い皮をもつ1角のインドサイ、ジャワに分布するインドサイよりもやや小さい1角のジャワサイ、スマトラに分布する最も小型で体毛の多いスマトラサイが、アフリカにはクロサイとシロサイが生息している。

 一般に犀角は大きく烏犀角と水犀角の2つに区別される。烏犀角とはインド犀の角を基原とし本犀角とも呼ばれるが、これらの動物は絶滅に瀕しており中国でも市場にはほとんど出ていない。これに対して水犀角はアフリカのクロサイの角に基づくものである。犀角の市場品はほとんどが水犀角である。ただし現在はワシントン条約により日本への輸入は禁止されている。このため近年、中国では水牛角が代用品として注目されている。

 犀角の主要成分はケラチンであるが、ケラチンを構成しているアミノ酸にはシスチン、ヒスチジン、リジン、アルギニンなどが含まれている。そのほか他のタンパク質、ペプチド類、遊離アミノ酸、グアニジン誘導体、ステロール類などが含まれている。

 漢方では清熱・定驚・涼血・解毒の効能があり、感染症による高熱や煩躁、痙攣、意識障害、出血、斑疹、発疹などに用いる。高熱に伴う意識障害には連翹・玄参などと配合する(清営湯)。痙攣のみられるときには羚羊角などと配合する(紫雪丹)。出血するときには生地黄・牡丹皮を配合する(犀角地黄湯)。発疹するときには石膏・知母などと配合する(化斑湯)。

金曜日, 12月 28, 2012

牛膝

○牛膝(ごしつ)

 日本の本州以南、中国に分布するヒユ科の多年草ヒナタイノコズチ(Achyranthes fauriei)の根を用いる。ヒナタイノコズチはイノコズチ(A.japonica)の近縁種で、路ばたや野原に普通にみられ、その根はイノコズチより大きい。

 かつて日本でも野生のもの(ヤブ牛膝)が採取されたり、茨城県で栽培されていた(作り牛膝)こともあるが、今日では流通していない。中国産の牛膝はイノコズチの同属植物モンパノイノコズチ(A.bidentata)の根であり懐牛膝または淮牛膝という。またイノコズチモドキ属の川牛膝(Cyathula officinalis)の根は川牛膝と呼ばれ、この川牛膝も最近では日本に多く輸入されている。

 イノコズチの名はイノシシの膝という説もあり、牛膝と同様に茎のある節の形から名づけられたものである。果実は動物や衣服にくっつくため、ドロボウグサとかヤブジラミなどの方言もある。根の成分には昆虫変態ホルモンのイノコステロンやエクジステロン、サポニンのオレアノール酸配糖体、各種アミノ酸、βシトステロール、スティグマステロールなどが含まれ、子宮収縮作用や腸管抑制作用、降圧作用、止痛作用などが報告されている。

 漢方では活血・通経・止痛・強筋骨の効能があり、婦人科疾患や関節痛、打撲、神経痛、足腰の筋肉の萎弱や疼痛などに用いる。ちなみに牛膝には下行する性質があり、月経血の排出促進や利尿、通便し、上半身の充血を軽減する。さらに他の生薬の効能を下半身に導く引経薬ともいわれている。このため月経困難症や排尿障害、歯肉炎の治療薬としても知られている。また堕胎に用いられたこともあり、妊婦や性器出血、下痢などには用いないほうがよいとされている。一般に懐牛膝は滋養・強壮作用が強く、川牛膝は活血・止痛の作用が強いといわれている。

木曜日, 12月 27, 2012

コンフリー

○コンフリー

 ヨーロッパ原産でヨーロッパからシベリア、中央アジアにかけて自生しているムラサキ科の多年草ヒレハリソウ(Symphytum officinale)の根や葉を用いる。

 日本には観賞用として明治時代に輸入された。若い葉を食用にするが、コーサカス地方の長寿村で常食されていたことから日本でもコンフリーの青汁療法がブームとなったことがある。

 全草にはアルカロイドのコンソリジンやタンニン、アラントイン、各種ビタミンなどが含まれ、貧血予防や新陳代謝促進の効果があるといわれている。ただし、動物実験で発癌性があるという報告もある。

 ヨーロッパでは根をシムフィツム根と呼び、おもに胃潰瘍や下痢、気管支炎、出血の治療に用いる。骨折や挫傷の外用薬としてもよく知られている。また根や葉のエキスにはパップ剤や湿布剤として下肢静脈瘤などに用いる。乾燥した葉はお茶の代用にも利用できる。ちなみにヨーロッパでは主に飼料用作物として利用されている。

 2004年6月、厚生労働省はコンフリーについて、根茎に含まれるピロリジディン・アルカロイドによると思われる肝臓障害(肝静脈閉塞性疾患)を招いた事例が海外で報告されているため、販売自粛を要請した。

水曜日, 12月 26, 2012

昆布

昆布

 コンブ科のマコンブ(Laminaria japonica Areschoug)やクロメ(Ecklonia kurome Okamura)、ワカメ(Undaria pinnatifida Suringar)の葉状体を用いる。北海道の沿岸でマコンブが生産されるが、日本では古くからヒロメとかエビスメと呼ばれて食用にされている。出汁や煮物などの食用以外にもアルギン酸製造の原料にもされている。

 クロメは本州南部から九州沿岸に分布し、本来は暗褐色だが、乾燥すると黒色に変化するためその名がある。クロメは食用のほか、ヨードの原料としても利用される。中国の植物名で昆布といえばクロメのことであり、マコンブは海帯という。ワカメは日本の北海道の西岸から九州まで、および朝鮮半島の沿岸に分布し、古来、日本の最も身近な海藻として利用されている。

 マコンブには炭水化物として多糖類のアルギン酸、フコイジン、ラミナリンなどが含まれ、また旨味のグルタミン酸やアラニン、ヨードやカルシウムなどの無機物なども多く含まれる。ヨードは甲状腺に不可欠な成分で、ヨード不足による単純性甲状腺腫に効果がある。また降圧作用や鎮咳作用なども報告されている。

 漢方では軟堅・利水消腫の効能があり、癭瘤(甲状腺腫)や瘰癧(頸部リンパ腺腫)、浮腫、睾丸腫痛などに用いる。甲状腺の腫大には海藻・貝母などと配合する(海藻玉壺湯)。浮腫や脚気には他の利水薬とともに用いる。ただし脾胃の虚寒証で下痢気味のときには用いない。

 現在、昆布のヌメリから抽出したアルギン酸ナトリウムは、コレステロールの吸収を抑え、また整腸作用があるとして特定保健用食品の関与成分に認定されている(コレカット)。またコンブの一種、ガゴメコンブ(Kjellmaniella crassifolia)のヌメリ成分、多糖体のフコイダンに抗ウイルス・抗菌、免疫賦活、血液凝固抑制、肝機能改善などの健康効果、さらにアポトーシス誘導作用、NK細胞活性化作用といった抗癌作用が認められ注目されている。

火曜日, 12月 25, 2012

コンズランゴ

○コンズランゴ

 南米のペルー、コロンビア、エクアドルのアンデス山脈の自生するガガイモ科のつる性低木コンズランゴ(Marsdenia cundurango)の幹皮を用いる。現在では東部アフリカなどで栽培されている。元来、南米の原住民が昔から用いていた薬木で、ヨーロッパに胃癌の治療薬として用いられるようになった。

 成分にはプレグナン配糖体のコンズラゴグリコシド、シクリトールのコンズリトールなどが含まれる。苦味質のコンズランギンは冷水には溶けて澄明であるが温めると水溶液が濁り、約40℃でゼリー状になって固まるという特異な溶解性がみられる。

 コンズランゴは芳香性苦味健胃薬として消化不良や食欲不振などに用いられる。とくに胃粘膜の病変に有効であるといわれている。一般には煎剤やコンズランゴ酒として用いられるが、市販されれいる胃腸薬にはコンズランゴ流エキスがしばしば配合されている。

月曜日, 12月 24, 2012

コロンボ

○コロンボ

 アフリカ東岸のモザンビーク地方やマダガスカル島の森林地帯に自生するツヅラフジ科のつる性本木コロンボ(Jateorhiza columba)の塊茎を用いる。現在、アフリカやインドなどで栽培されている。アフリカではコロンボの根を赤痢の薬として用いていたといわれる。

 薬材のコロンボは塊茎を輪切りにして乾燥したもので、厚さ0.5~2cm、径3~8cmの円盤状をしている。切断面は淡黄色をした粉性で、側面には灰褐色の周皮をつけている。

 成分にはベルベリン系アルカロイドのパルマチン、ヤテオリジン、コルンバミンや苦味質のコルンビンなどが含まれ、胃酸分泌を促進する作用が知られている。特有の臭いと苦味があり、苦味健胃薬として粉末で服用する。日本でも家庭薬として市販されている胃腸薬にしばしば配合されている。

土曜日, 12月 22, 2012

胡芦巴

胡芦巴(ころは)

 南西アジア原産のマメ科の一年草コロハ(Trigonella foenum-graecum)の種子を用いる。胡芦巴(huluba)はアラビア語の本品名(hullba)に由来する。香料としてはフェヌグリーク(Fenugreek)と呼ばれ地中海地域やインドなどで栽培されている。

 草丈50cmぐらいで、全株に特有の香気があり、夏に6~9cmの細長い鎌状に曲がった豆果をつける。その中に大きさ2~3mmの矩形をした褐色の種子が10~20個含まれている。

 フェヌグリークはエチオピアやエジプト、中近東ではポピュラーな香料であり、インドでは種子や葉をカレー粉やチャツネの原料として用いる。焦げた砂糖とメープルのようなほろ苦味があり、合成メープルシロップの主成分でもある。薬としては古代エジプトの時代から用いられ、口腔疾患や口唇のひび割れ、胃病などに利用され、その配合された軟膏は臭いため「ギリシャの糞」と呼ばれていた。

 インドや中近東では催乳作用があると伝えられ、授乳期の女性が食べる風習がある。種子にはマンノガラクタンなどの粘質が含まれるほか、トリゴネリンやコリンなども含まれる。また、種皮にはステロイド型サポニンのフェヌグリークサポニンが含まれ、これが体内で女性ホルモンであるプロゲステロンに変換されるということが指摘されている。また、フェヌグリークの胚乳には血糖降下作用があることも報告されている。

 漢方では腎陽を温め、寒湿を去る効能があり、インポテンツや遣精、冷えによって生じる下腹部痛や下肢痛、月経痛などに用いる。腎虚によって生じる痰の絡む卒中や喘息、気の上衝、腹痛などの症状に附子・補骨脂などと配合する(黒錫丹)。市販薬では滋養強壮薬に配合されている(ナンパオ)。近年、母乳の出をよくしたり、豊胸や更年期障害の予防などへの効果も期待されている。

木曜日, 12月 20, 2012

五霊脂

○五霊脂(ごれいし)

 中国の各地に生息するムササビ科のムササビの一種、中国名で橙足鼯鼠(Trogopterus xanthipes)および飛鼠(Pteromys volans)などの乾燥した糞便を用いる。

 かつて五霊脂はオオコウモリの糞と考えられていたこともある。鼯鼠は体長50cmくらい、飛鼠は体長15cmくらいのムササビで、前後の足の間には飛膜があり、樹木の間を滑空する。夜行性で木の実や若い枝葉などを食べる。飛鼠は木の穴に巣を作るが、鼯鼠は崖の上の洞穴や岩の割れ目に巣を作り、洞穴の周囲には灰黒色の糞便がみられる。現在、おもに中国の河北・山西・陝西省で産出する。

 五霊脂は形状によって霊脂と霊脂米に区別され、霊脂塊は粒状の糞が凝縮した不規則な塊状のもので、霊脂米は細長い卵円形のものである。表面の色は褐色で軽くて砕けやすく、断面は黄褐色で繊維状である。味は塩辛く苦味があり、臭いはほとんどない。

 成分にビタミンA類の物質が含まれている。漢方では活血化瘀・止痛の効能があり、生理痛や産後の腹痛など主に瘀血による疼痛に用いる。生で用いると活血作用、炒って用いると止血作用が強まるとされている。炒りながら酢や酒を加え、乾燥したものがよく用いられる。

 産後の腹痛や生理痛、狭心症などに蒲黄と配合する(失笑散)。腹部に腫塊があり、疼痛や出血のみられるときには当帰・赤芍などと配合する(少腹逐瘀湯)。また解毒薬として蛇やムカデ、サソリなどに咬まれたときに外用する。

水曜日, 12月 19, 2012

五味子

○五味子(ごみし)

 日本では本州の中部以北、北海道、朝鮮半島、中国大陸などに分布するマツブサ科のつる性落葉低木チョウセンゴミシ(Schisandra chinensis)の果実を用いる。

 秋に深紅色をしたブドウ状の果実がなる。チョウセンゴミシという名は渡来植物のようであるが、日本にも自生しており、かつては市販されていたこともある。五味子の名の由来は皮と肉は甘く酸く、核は辛く苦い。全体に鹸味があるためといわれる。

 この五味子を北五味子というのに対し、日本ではマツブサ科のサネカズラ(Kadsura japonica)の果実を南五味子という。中国ではチョウセンゴミシの近縁植物、華中五味子(S.sphenanthera)の果実を南五味子と称して五味子の代用にする。日本に中国、朝鮮から輸入されているものは全て北五味子で、日本産の南五味子も現在では流通していない。

 果実にはクエン酸、リンゴ酸などの有機酸、シザンドリン、ゴミシン、プレゴミシンなどのリグナン類、シトラール、カミグリンなどのセキステルペン類などが含まれる。シザンドリンやゴミシンAには鎮痛、鎮痙、鎮静、鎮咳、抗潰瘍作用があり、近年、ゴミシンAの肝機能改善作用が注目され、急性肝炎の治療薬として研究されている。

 漢方では止咳・止渇・止瀉・止汗・固精の効能があり、固渋薬として慢性の咳嗽や喘息、口渇、下痢、多汗、疲労、遣精などの治療に用いる。なお民間では滋養強壮に焼酎に漬けた五味子酒が用いられている。

火曜日, 12月 18, 2012

胡麻

○胡麻

 アフリカ大陸が原産と推定され、世界各地で栽培されているゴマ科の一年草ゴマ(Sesamum indicum)の成熟種子、つまり食用にされるゴマの乾燥したものを用いる。紀元前1世紀に張騫によって西域(胡)から中国に伝えられたといわれ、現在では中国が世界一の産国である。

 一般に中国では胡麻といわず、芝麻あるいは脂麻という。日本でも奈良時代には栽培され、食用や薬用、灯火用にも使用された。ゴマは種子の色によって黒ゴマ、白ゴマ、黄ゴマなどがあるが、薬用には黒ゴマが用いられる。

 種子は脂肪とタンパク質が豊富で、含油率は40~55%もあり、炒って砕いた後に蒸して圧搾すれば風味のよいゴマ油が得られる。種子には脂肪酸としてオレイン酸やリノール酸が多く含まれるほか、カルシウム、鉄分、γ-トコフェロールやセサミン、セサモリン、セサモール、セサミノールなどのリグナン化合物などが含まれている。

 ゴマリグナンの大半を占めるセサミンには抗酸化作用、アルコール分解促進作用、血中コレステロール低下作用などが認められている。ゴマ油が植物油に比較して酸化変敗しにくいのは、強力な抗酸化作用があるセサミノール、セサモールなどによることが知られている。またゴマペプチドには降圧作用があり、特定保健用食品の成分として認められている。ただ、生ゴマの種皮は硬くて消化されないため、砕いて用いる。

 漢方では補陰・潤腸・補肝腎の効能があり、虚弱体質や高齢者、病後、腸燥便秘などに用いる。老人性皮膚掻痒症などには当帰・地黄などと配合する(消風散)。高齢者のめまい、視力の低下には何首烏・杜仲などと配合する(首烏延寿丹)。また胡麻油は紫雲膏中黄膏などの軟膏基剤として用いられている。

月曜日, 12月 17, 2012

牛蒡子

○牛蒡子(ごぼうし)

 ヨーロッパからシベリア、中国東北部にかけて分布するキク科の越年草ゴボウ(Arctium lappa)の種子を用いる。

 日本にゴボウの野生種はないが、千数百年前に中国から渡来し、日本で改良されて作物化した。ゴボウの根は日本独特の野菜で、日本人以外はほとんど利用しない。ヨーロッパでは新葉をサラダに用いる。

 種子には脂肪油のほか、リグナン系誘導体のアルクチゲニンやアルクチインが含まれ、最近ではアルクチゲニンの抗腫瘍作用が注目されている。欧米ではゴボウの根をバードック(Burdock)と呼び、血液の浄化や発汗、解毒、利尿の作用があるとして感冒、関節炎、リウマチ、皮膚疾患、浮腫などに利用し、根から抽出されたオイル(Bur oil)はフケや頭皮の痒みの治療に用いられている。

 漢方では疏散風熱・去痰・止咳。解毒の効能があり、涼性の解表・解毒薬として風熱型の感染症や扁桃炎、麻疹の初期、咳嗽、皮膚化膿症などに用いる。ただし牛蒡子には寒で滑利の性質があり、下痢気味のものには用いないほうがよい。日本の民間では生の根の汁が痰が咽に絡んだときや胃の痛みに用いたり、生の葉の汁を関節腫痛や腫れ物に用いる。

土曜日, 12月 15, 2012

牛皮消根

○牛皮消根(ごひしょうこん)

 日本の各地、南千島などに分布するガガイモ科のつる性多年草イケマ(Cynanchum caudatum)の根を用いる。北海道や新潟の山野林中に産し、イケマとはアイヌ語の「大きな根」という意味で、アイヌの霊草として知られている。

 有毒植物であるが、アイヌは若苗や根を水にさらし、煮て食用にしていたほか、薬用として食中毒や腹痛、感冒、切り傷などの治療に用いていた。ところが生馬という漢字を用いたため馬の治療薬という誤解が生じたこともある。

 イケマの根には強心配糖体やシナンコゲニンなどをアグリコンとする配糖体が多く含まれ、強心利尿作用がある。茎を切ると白い乳液が出るが、この茎を食べるとよだれが出て嘔吐し、さらに痙攣を引き起こす毒性がある。この有毒物質はシナンコトキシンという。近年、これに含まれるプレグナン配糖体の免疫増強作用や抗腫瘍作用が発表されている。

 浅田宗伯によれば牛皮消には和血・止痛の効能があり、打撲、出血に用いるほか、帯下の奇方としても用いていた。華岡青洲は八珍湯に牛皮消・川骨を加えた調栄湯を金創などの出血に用いた。また会津地方ではカラス退治にイケマの根を団子に入れて用いたと伝えられている。一般に利尿薬として用いられるが、毒性が強いため現在はほとんど使われない。

金曜日, 12月 14, 2012

琥珀

○琥珀(こはく)

 古代マツ科やスギ科植物の樹脂が長い期間、地中に埋没して凝結し、化石となったものを琥珀という。産地としてバルト海の沿岸地方が最も有名で、中国の撫順やドミニカ共和国、日本では岩手県の久慈地方がよく知られている。江戸時代には琥珀のことを薫陸香と読んでいたこともある。

 粘土層や砂層、炭層、堆積岩の中に産する黄褐色~赤褐色の塊状で、透明及び不透明、断面は貝殻状で光沢があり、中には昆虫などが混入していることもある。燃やすと容易に溶け、芳香を放ち、また有機媒体などにも溶ける。一般に装飾品の原石として有名である。

 成分にはアビエチン酸やコハク酸などが含まれ、コハク酸の名はコハクの乾留によって初めて得られたことに由来する。漢方では定驚・安神・利水・通淋・活血の効能があり、不眠症や神経症、痙攣、排尿障害、無月経、腹部腫瘤などに用いる。

 産後の浮腫には商陸・猪苓などと配合する(琥珀湯)。腹水や下肢の浮腫が著明で、尿が出ないときには五苓散に滑石などと加える(茯苓琥珀散)。精神が不安定で不眠や動悸がみられるときに遠志・羚羊角などと配合する(琥珀多寐丸)。

木曜日, 12月 13, 2012

五倍子

五倍子(ごばいこ)

 ウルシ科のヌルデの葉に寄生しているアブラムシ科のヌルデシロアブラムシ(ヌルデノミミフシ)などが樹木に作った虫癭(虫こぶ)を用いる。

 このアブラムシは幼虫で越冬し、翌年の春に羽化してヌルデの木に産卵する。そこで雌雄の無翅雌虫を産み、これらが交尾した後さらに無翅雌虫を産み、この雌虫がヌルデの若葉に寄生する。その汁液を吸う刺激のため葉の組織が次第に増殖し、虫癭を形成する。その中で雌虫は単性生殖を行って仔を産み、それが秋に有翅雌虫となって飛散する。

 秋に虫の入ったまま採取し、熱湯で数分煮たのち乾燥する。日本では虫癭を一般に木附子、また加熱して乾燥したものを白附子、熱湯を通したものを黒附子ともいう。

 成分には多量のタンニンが含まれ、タンパク質と結合して凝固し、止血、止瀉、抗菌作用が認められる。工業的にはなめしや黒色染料、インク製造原料などに用いられる。かつて日本には五倍子の粉末を鉄汁で黒く発色させたもので歯を染める御歯黒の風習があった。

 漢方では収斂・固渋薬として止瀉・止咳・止汗・止血の効能があり、慢性の下痢や咳嗽、脱肛、盗汗、鼻出血や痔出血に用いる。かつて五倍子の粉末に茶を加えて麹で発酵させた百薬煎が止瀉薬として用いられた。

水曜日, 12月 12, 2012

胡桃仁

胡桃仁(ことうにん)

 西アジア原産のクルミ科の落葉高木ペルシャグルミ(Juglansregia)の種仁を用いる。種仁とはクルミの種子の子葉、つまり固い殻の中の可食部である。この未成熟果実の外果皮は胡桃青皮といい、また殻の中の薄い隔壁を分心木といって薬用にする。現在、ペルシャグルミはアメリカやヨーロッパをはじめ、日本の長野県山形県など世界各地で広く栽培されている。この胡桃は漢の時代に張騫が西域から持ち帰ったといわれ、胡桃の名がある。

 日本には18世に朝鮮半島を経て、また明治初年にはアメリカから伝えられた。これとは別に日本全域からサハリンかけて同属植物のオニグルミ(J.mandshurica)やヒメグルミ(J.subcordiformis)が自生しており、これらの種仁も胡桃仁として用いる。

 胡桃仁は脂肪油を40~50%含み、その主成分はリノール酸のグリセリドである。またタンパク質や炭水化物、カルシウム、鉄、カロテンなども含み、栄養価に富む。漢方では止咳・潤腸・補陽の効能があり、高齢者や虚弱体質者の滋養薬として、また老人の喘息や咳嗽、腰痛、下肢倦怠、便秘などに用いる。

 高齢者など肺腎両虚の喘息や咳嗽には人参・生姜と配合する(人参胡桃湯)。腸燥便秘には単独あるいは麻子仁・当帰などと配合する。腎陽虚による足腰の衰えには杜仲・補骨脂などと配合する。腎結石による腰痛にも用いる。

 一般に滋養薬として用いるときには皮を除くが、喘息には薄皮をつけたまま用いる。なお分心木は収斂薬として遣精・帯下・頻尿などに、胡桃青皮は腹痛や下痢などに用いる。民間療法では未熟な果肉をすりおろして、水虫や湿疹に外用する。アメリカでは古くから先住民がクログルミ(ブラックウォルナット:J.nigra)の樹皮を殺菌・駆虫薬として、また整腸剤や皮膚病の治療薬として利用している。

火曜日, 12月 11, 2012

梧桐子

○梧桐子(ごとうし)

 日本の紀伊半島、伊豆半島、四国、九州、台湾、中国、インドシナに分布するアオギリ科の落葉低木アオギリ(Firmiana simplex)の種子を用いる。青桐は街路樹や公園樹としても利用される。

 種子は船状に開いた果皮の周辺に付着した直径が6~8mmぐらいの球形のもので、炒って食べることもできる。ちなみに梧桐子大といって古くから丸薬の大きさの基準とされていた。

 種子にはカフェインや不乾性油などが含まれている。漢方では健胃・消食の効能があり、消化不良や腹痛、小児の口内炎などに用いる。小児の口内炎には梧桐子は焼いて粉にしたものを貼付する。胃痛や下痢には炒ったものを煎じて服用する。

 また樹皮にはガラクタンやアラバンなどの粘液質が含まれ、コルク皮を取り去ったもの(梧桐子)を打撲傷やリウマチの関節痛、痔、丹毒などに用いる。しかし近年は日本でも中国でも余り用いられない。

月曜日, 12月 10, 2012

骨砕補

骨砕補(こつさいほ)

 中国の南部や台湾などに自生しているシダ植物ウラボシ科のハカマウラボシ(Drynaria fortunei)などの根茎を用いる。そのほかの基原植物にはウラボシ科の中華槲蕨(D.baronii)、石蓮姜槲蕨(D.propinqua)、光亮密網(Pseudodrynaria coronans)のほか、シノブ科のシノブ(Davallia mariesii)や大葉骨砕補(D.orientalis)の根茎などが用いられる。

 ハカマウラボシの根は淡褐色ないし暗褐色で、黄褐色の毛のように柔らかい鱗片に覆われている。一般に根茎の鱗片を除去したものを骨砕補といい、毛状の鱗片をつけたままのものを猴姜とか、申姜という。骨砕補という名は骨折の治療に効果のあることに由来し、毛状の形から猴姜・申姜・毛姜などとも呼ばれている。

 成分にはナリンギンやナリンゲニンなどが含まれる。漢方では補腎・活血・強筋骨の効能があり、骨折や打撲、捻挫、腎虚の歯痛や耳なり、下痢、腰痛などに用いる。リウマチなどによる関節痛や運動障害に威霊仙・地竜などと配合する(舒筋活絡丸)。骨折・捻挫などの外傷には自然銅・シャ虫などと配合する(接骨Ⅱ号方)。また外傷の患部に骨砕補の粉末をワセリンに混ぜて塗布する。歯痛や歯肉炎には牛車腎気丸と一緒に服用したり、黒く炒めて粉にしたものを歯肉に擦り込む。

土曜日, 12月 08, 2012

胡荽子

○胡荽子(こずいし)

 地中海東部沿岸を原産とするセリ科の一~二年生コエンドロ(Coriandrum sativum)の果実を用いる。全草は生薬として芫荽と呼ばれる。現在、インドやロシア、モロッコ、東欧諸国、アメリカなどで栽培されている。

 胡荽子は香辛料のコリアンダーとしても知られ、独特の芳香がある。コリアンダーという名は、ギリシャ語で南京虫という意味のコリスに由来し、事実、若い果実にはカメムシのような臭いがある。ヨーロッパや南米、インドなどで果実が香辛料としてよく利用され、ピクルスやカレー粉、ソーセージなどに用いられている。

 古代ギリシャ・ローマ時代から医薬のひとつとしてよく使われ、消化不良や腹痛、めまい、腎臓病、胆石の治療のほか、中世には媚薬としても有名であった。中国には漢代に張騫が西域から持ち帰ったといわれ、種子を食べると不老不死が得られるという伝説がある。日本には9世紀頃に伝えられ、コニシと呼ばれたこともあるが、臭いが日本人に好まれなかったため普及しなかった。和名のコエンドロはポルトガル語のコエントロに由来している。

 果実に含まる精油の主要成分はd-リナロールで、そのほかリモネンやピネンなども含まれている。漢方では透疹・健胃の効能があり、発疹しにくい麻疹や天然痘、食欲不振、痔核などに用いる。歯痛には煎じた液を口に含んだり、痔疾患に乳香などと混ぜたものを焼いて患部を燻す方法がある。

金曜日, 12月 07, 2012

虎杖根

○虎杖根(こじょうこん)

 日本各地、朝鮮半島、台湾、中国などに自生するタデ科の多年草イタドリ(polygonum cuspidatim)の根と根茎を用いる。地方によってはスカンポやスイバとも呼ばれているが、一般にスイバといえば別のタデ科の植物のことをいう。

 春先に出る若芽には酸味があり、生のままや塩漬けにして食用にする。ただし、シュウ酸を多く含むため多食すると下痢や尿路結石の原因となることがある。戦時中には乾燥したイタドリの葉をタバコの代用にしたこともある。イタドリという名は「痛み取り」に由来するといわれ、中国では若い茎の紅紫斑を虎の模様に例えて虎杖という。

 成分にはアントラキノン誘導体のポリゴニンなどが含まれ、加水分解するとエモジンを生じる。また、赤ワインに含まれていたことで知られるポリフェノールの一種、レスベラトロールも多く含まれており、レスベラトロールの原料として利用されている。

 漢方では清熱解毒・止痛・退黄・活血の効能があり、関節痛や黄疸、生理不順、火傷などに用いる。リウマチなどによる関節の痛みや手足のしびれに桑枝・臭梧桐などと配合する(桑枝虎杖湯)。中国の報告では抗菌作用、特に緑膿菌に対する抗菌作用があり、火傷に虎杖の粉末を茶や食用油で練って患部に塗布する治療が行われている。

 また急性肝炎や新生児黄疸、気管支炎、骨髄炎などの治療効果も報告されている。民間では生の若芽を切り傷の薬として、また根を煎じて便秘や蕁麻疹などに用いる。

木曜日, 12月 06, 2012

呉茱萸

○呉茱萸(ごしゅゆ)

 中国の長江流域、広東省、海南省、広西チワン族自治区、陝西省などに分布するミカン科の落葉低木ゴシュユ(Evodia rutaecarpa)の成熟する少し前の未成熟果実を用いる。そのほかホンゴシュユ(E.officinalis)の果実なども利用される。

 呉茱萸は中国原産であり、呉というのは江蘇省一帯のことである。日本にも江戸時代に薬木として渡来し栽培されているが、雌株だけだったため種子のない果実しかできなかった。なお日本ではグミに茱萸の漢名を当てているが、これは誤用であり、中国で茱萸といえば呉茱萸あるいは山茱萸のことである。ちなみに中国ではゴシュユの種子から油を搾ったり、葉を黄色染料に用いている。

 薬用にされる未成熟果実は直径5mmくらいの小さな偏球形で基部に果柄がついている。独特の強い臭いがあり、味は辛くて苦い。呉茱萸の成分にはアルカロイドのエボジアミン、ルテカルピン、シネフリン、鎖状テルペンのエボデン、苦味成分のリモニン、芳香成分のオシメン、サイクリックGMPなどが含まれ、駆虫、抗菌、鎮痛、健胃作用などが知られている。近年、エボジアミンにカプサイシンと同様のバニロイド受容体を介した脂質代謝促進作用が認められ、肥満防止に効果があるとして注目されている。

 新鮮な果実は服用すると嘔吐を起こすこともあり、1年以上経過したものを用いる。また多量に服用すると咽に激しい乾燥感が生じる。漢方では呉茱萸は大熱の性質があり、厥陰肝経の主薬とされ、温裏・疏肝・止痛の効能がある。とくに虚寒による腹痛や脇痛の常用薬であり、嘔吐や頭痛などにも用いる。この効用は乾姜とよく似ているが、乾姜が上焦を温めるのに対し、呉茱萸は下焦を温めるといわれ、とくに下腹部痛や生理痛、下痢などに効果がある。民間では浴湯料として知られ、腰痛や冷え性などに用いられている。

火曜日, 12月 04, 2012

胡椒

○胡椒(こしょう)

 南インド原産のコショウ科の常緑つる性植物コショウ(Piper nigrum)の果実を用いる。コショウはすでに紀元前4~5世のヨーロッパで有名なスパイスの一つで、防腐効果や食欲増進の効果が知られていた。中世ヨーロッパでは金と同じくらいの価値があり、このためヨーロッパ列強諸国は東方へ進出し、大航海時代をもたらすこととなった。

 中国へはインド産のものが中央アジア経由で伝わり、西域(胡)の山椒に似た辛いものということで胡椒と呼ばれた。日本にも古くから伝えられ、奈良時代の文献には薬種として記載されている。現在、インド、スリランカ、東南アジア、ブラジルなどで栽培されている。

 コショウには黒コショウと白コショウの2種類があるが、未成熟の青い果実を数日間天日乾燥した黒くなったものが黒コショウであり、赤く成熟した果実を流水に漬けた後、果皮を取り去って乾燥したものが白コショウである。香味成分は果皮に多いため、芳香性と辛味は黒コショウのほうが強い。サプリメントやアロマでは辛味成分が多く含まれているブラックペッパー(黒コショウ)が用いられる。

 辛味成分はアルカロイドのピペリンやシャビシンであり、香気成分は精油の中のフェランドレンやピネン、リモネンなどである。ピペリンには、抗菌・防腐・殺虫作用、消化促進作用などがあり、血管を拡張し、血流を促進し、エネルギー代謝を高め、消費カロリーを増やす効果がある。また、黒コショウエキス(バイオペリン)にはビタミンやミネラルなど各種栄養素の吸収率を高める効果のあることが注目されている。

 漢方では温裏・止嘔・止瀉・解魚毒の効能があり、冷えによる腹痛や嘔吐、下痢、食中毒などに用いる。冷えによるシャックリには半夏・乾姜などと配合する(治吃逆一方)。胃寒による嘔吐や腹痛、下痢には硫黄などと配合する(澄涼丸)。小児の遣尿には補骨脂などと配合する(尿牀丸)。

月曜日, 12月 03, 2012

コケモモ葉

○コケモモ葉(こけももよう)

 本州、四国、九州では高山、北海道や北半球の寒帯・針葉樹林帯では低地に分布するツツジ科の常緑小低木コケモモ(Vaccinium vitis-idaea)の葉を用いる。中国では越橘葉という。

 コケモモの果実は未熟なときは赤くて酸味が強いが、熟すと赤紅色に変わって甘酸っぱくなるため、ジャムや果実酒の原料となる。古代ギリシャ時代から果実が赤痢に効果のあることが知られ、口内炎や腸内異常発酵にも用いられる。また漿果の色素であるアントシアニンは網膜の血管障害や夜間の視力低下に効果があるといわれている。

 葉には配糖体のアルブチン、メチルアルブチン、フラボノイドのイソクエルシトリン、ハイドロキノンなどが含まれ、利尿、防腐作用がある。コケモモ葉が日本で薬用植物と知られるようになったのは昭和初期で、本来はウワウルシ(クマコケモモ)の代用品として取り上げられ、膀胱炎や腎盂炎などの尿路感染症に用いられたが、味が悪いため最近ではあまり用いられない。

 ヨーロッパでは葉に熱湯を加えた浸出液を糖尿病の治療に用いている。また果実を漬けたコケモモ酒を疲労回復に用いる。日本では高山植物を保護する立場から、一般に高山帯での採取が禁止されている。

土曜日, 12月 01, 2012

虎耳草

○虎耳草(こじそう)

 本州以南、中国などに分布しているユキノシタ科の常緑多年草ユキノシタ(Saxifraaga stolonifera)の葉または全草を用いる。湿った所や岩場に生え、観賞用として庭先などにもよく栽培されている。一説に冬に雪の下にあっても葉が枯れないことからユキノシタといわれ、肉厚の毛深い葉の形から虎耳草の名がある。葉はテンプラにしたり、茹でて食べることもある。

 成分には硝酸カリウム、塩化カリウム、クェルシトリン、アルブチン、ベルゲニンなどを含み、抗菌作用や利尿作用が知られている。漢方ではあまり使用しないが、民間療法として日本でも中国でもよく知られている。

 清熱・解毒・涼血の効能があり、湿疹や皮膚化膿症、中耳炎、気管支炎、痔患などに用いる。湿疹や蕁麻疹、咳嗽、膿痰には煎じて服用する。ミミダレグサという方言もあるように、葉から搾った汁を化膿性中耳炎に点耳する。痤瘡や腫れ物に生葉の汁をつけたり、煎液で湿布する。葉を火であぶって貼り付けてもよい。

 子供のひきつけには生葉の搾り汁を口に含ませる。また痔の痛むときに乾燥させた虎耳草をくすべて患部に当てるという方法もある。近年、ユキノシタ全草のエキスに紫外線がもたらすDNA障害の修復を促進する効果が報告され、アンチエイジングや美白作用を目的とした化粧品に配合されている。

金曜日, 11月 30, 2012

虎骨

○虎骨(ここつ)

 大型哺乳度物であるネコ科のトラ(Panthera tigris)の骨を用いる。トラはアジアに広く分布しているが、中国東北地方にはシベリア虎とか満州虎と呼ばれている東北虎、華南地方には華南虎が生息している。

 トラは体長約2m、全身は橙黄色で黒の横縞があり、狂猛な性質でほかの獣類を捕食する。シベリア虎はやや大型で毛が長いのに対し、華南虎は小型で縞模様の幅が広い特徴がある。虎骨として全身の骨を薬用にするが、とくに脛の骨を虎脛骨として重んじる。なかでもシベリア虎の中年の雄が最良とされている。虎骨を長時間にわたって煎じつめたものを虎骨膠という。

 主成分はリン酸カルシウムであるが、虎骨膠には抗炎症作用や鎮痛作用が報告されている。漢方では強筋骨・止痛・定驚の効能があり、四肢の関節痛や下肢の萎弱、麻痺、痙攣、ひきつけなどに用いる。リウマチや神経痛による関節や筋肉の痛みやしびれには木瓜・当帰などと配合する(舒筋丸)。老化により腰や膝がだるく、四肢のしびれや歩行障害のみられるときには熟地黄・牛膝などと配合する(虎潜丸)。また虎骨を蒸留酒に浸した虎骨酒や木瓜などと配合した木瓜虎骨酒も足腰の痛みや神経痛の治療薬としてよく知られている。

 かつて日本にも虎骨が配合されている舒筋丸活絡丸海馬補腎丸、健歩丸、虎骨酒などが輸入されていた。現在トラの生息数が減少しており、ワシントン条約でも虎骨の含まれる漢方薬は制限されている。そのため近年ではイヌ(狗)の狗骨などで代用されている。

木曜日, 11月 29, 2012

五穀虫

○五穀虫(ごこくちゅう)

 クロバエ科のオビキンバエ(Chrysomyia megacephala)などの幼虫を乾燥したものを用いる。オビキンバエは中国をはじめ東洋では普通にみられるハエで、腐肉や人糞、獣糞に集まって産卵する。本草綱目では蛆とある。かつて日本ではハナアブの幼虫である尾長蛆を五穀虫と称していた。

 オビキンバエの成虫の体長は1cmくらいであるが、幼虫は1.5cmくらいでサバサシといって釣りの餌に用いられる。かつてアメリカで南北戦争のときに膿の除去にクロバエの蛆を用いた治療を行ったといわれるが、最近でも、欧米を中心に難治性潰瘍に蛆(マゴット)を用いた腐肉の除去、デブリードメントが再び注目されている。日本でも岡山大学などで、クロバエ科のヒロズキンバエ(Phaenicia sericata)を用いた糖尿病性潰瘍によるマゴット療法が行われている。

 幼虫の成分にはタンパク分解酵素のエレプシンやトリプシンが含まれている。幼虫を水中で洗って内容物を排出したあと日干しし、弱火で黄色くなるまで炒めたものを生薬とする。漢方では清熱・消疳の効能があり、小児の疳積の治療や解熱・解毒薬として用いる。

水曜日, 11月 28, 2012

蜈蚣

○蜈蚣(ごこう)

 中国や日本の全土に分布する節足動物、オオムカデ科のトビズムカデ(Scolopendra subspinipes mutilans)などのムカデを乾燥した全虫を用いる。主産地は浙江・湖北・湖南省などであり、江蘇省のものは脚が赤く良品であるため、蘇浙江省という。

 ムカデの体長は10~15cmくらいで20数節の環節があり、各環節から一対の歩脚があり、百足の異名をもつ。頭部の脚は歩行に関係せず、顎に変化して口器の役目をしており、この顎脚に毒腺を有する。冬から春にかけて採取し、市場には一頭ずつ竹串に刺して乾燥させたものが出ている。一般に体が長く、頭が赤く、背中が黒緑で、腹が黄色いもので、折れにくいものが良品とされている。

 ムカデの毒には蜂毒に類似したヒスタミン様物質と溶血性タンパク質の2種類の有毒成分が含まれ、咬まれるとしびれるような痛みがあり、発赤して数日間も腫れがひかない。蜈蚣には抗結核菌・抗真菌作用や新陳代謝を促進する働き、筋肉痙攣に拮抗する作用などが報告されている。

 漢方では平肝・止痙・解毒消腫の効能があり、脳卒中の後遺症、痙攣、破傷風、顔面神経麻痺、結核、瘡瘍などの皮膚病、火傷などに用いる。鎮痙作用は全蝎よりも強く、全蝎が熱性の痙攣に適しているのに対して蜈蚣は風寒の痙攣に適している。

 熱性痙攣やひきつけ、破傷風、激しい頭痛や関節痛には全蝎と配合する(止痙散)。また皮膚の潰瘍や疔、癰などの化膿、中耳炎、痔などに外用薬として使用する。日本の民間ではゴマ油や椿油にムカデを漬けたムカデ油が傷薬や火傷の治療薬として知られている。

火曜日, 11月 27, 2012

黒大豆

黒大豆

 中国原産で世界各地で栽培されているマメ科の一年草ダイズ(Glycine max)の栽培品種であるクロマメの種子を用いる。普通、ダイズといえば黄大豆のことであるが、薬用には黒大豆が珍重されている。またクロマメの黒い種皮は黒大豆皮あるいは黒豆衣、モヤシのように発芽させたものは大豆黄巻、納豆にして乾燥させたものは豆豉と呼ばれ薬用にされる。

 ダイズは中国では約5000年前から栽培され、日本でも紀元前2000年ごろより食用にされていたと推定されている。現在、世界一の主産地はアメリカであるが、黒船で来日したペリーが日本からアメリカに持ち帰ったのがはじまりといわれている。

 日本でマメといえば大豆のことを指すように、日本の食生活に欠かせないものである。大豆を原料とした豆腐納豆、きな粉、湯葉、味噌、醤油などの伝統食品のほか、ダイズ油としても利用価値が高い。しかし、現在、国内生産量は5%程度で、そのほとんどはアメリカから輸入している。

 ダイズの種子にはタンパク質、脂質、糖質、食物繊維、ビタミン、カルシウム、ファイトケミカルなどが豊富に含まれ、健康食品などの素材として利用されている。大豆タンパク質やリン脂質結合大豆ペプチドは血中コレステロール低下作用が認められ、特定保健用食品素材として利用されている。また大豆オリゴ糖は腸内細菌叢を改善し、便通を整える作用があり、大豆イソフラボンは女性ホルモン様作用のある植物エストロゲンのひとつで、更年期障害や骨粗鬆症などへの効果が期待されている。また、黒大豆の種皮には抗酸化作用のあるポリフェノールの一種、アントシアニンやプロアントシアニジンが含まれている。

 漢方では活血・利水・去風・解毒の効能があり、浮腫や脚気、筋肉の引きつり、化膿などに用いる。また烏頭や巴豆の中毒の解毒薬としても用いる。水銀療法の副作用による口内炎、歯肉炎、嚥下困難の治療に桔梗・紅花などと配合する(黒豆湯)。癰腫、湿疹、火傷などの皮膚疾患には濃く煮た大豆汁や大豆を削って粉末にしたものを外用する。なお、黒大豆皮には滋養(補血)作用があり、盗汗や眩暈、頭痛などに用いる。

月曜日, 11月 26, 2012

穀精草

○穀精草(こくせいそう)

 本州以西、台湾、中国などに分布するホシクサ科の一年草オオホシクサ(Eriocaulon buergerianum)の花序をつけた花茎を用いる。湿地や水田に自生し、穀物を刈り取った後に生えることから穀精草といわれ、茎の先に小さな白い花が咲くため日本ではホシクサ、中国では戴星草とも呼ばれる。

 成分は不明であるが、抗菌・抗真菌作用が報告されている。漢方では解表・止痛・明目・退翳の効能があり、頭痛、歯痛、鼻出血や眼科疾患に用いる。穀精草の性質は軽いため、上焦に行き、頭部の風熱を疏散し、頭痛や眼科疾患に効果がある。結膜炎や角膜の混濁、夜間の視力減退に鴨の肝臓と一緒に煮て服用する。

金曜日, 11月 23, 2012

穀芽

○穀芽(こくが)

 イネ科のイネ(Oryza sativa)のもみをつけたままの種子を発芽させたものを穀芽という。イネの茎と葉は稲草、うるち米は粳米、もち米は糯米、もち米の根と根茎は糯稲根鬚と呼ばれ、役用にされている。これに対して発芽したオオムギを麦芽という。

 発芽期の種子には消化酵素のジアスターゼが含まれている。漢方では開胃・消食の効能があり、消化不良で胃がもたれたときや食欲が低下したとき、また胃腸が弱い体質の改善に用いる。単独では効力が弱いため麦芽と一緒に使用したり、人参・白朮などと配合して用いる。穀芽の消化作用は麦芽とほぼ同じであるが、嘔気や嘔吐があるときには穀芽、吸収の悪いときには麦芽がよいといわれる。

 近年、玄米を1~2日、32℃で水分を含ませ、1mmほど芽を出させた発芽玄米が商品化されている。発芽玄米にはアミノ酸の一種であるγ-アミノ酪酸(ギャバ、GABA)が白米の10倍含まれていることが注目されている。ギャバは、中枢神経系における抑制系の神経伝達物質として知られ、脳の血流を改善し、血圧や精神を安定する作用なとがあることで知られている。

木曜日, 11月 22, 2012

コカ葉

○コカ葉(こかよう)

 南米ペルーやボリビアのアンデス地方を原産とするコカノキ科の常緑低木コカノキ(Erythroxylum coca)の葉を用いる。現在、南米以外でもインドネシアのジャワ島で栽培されている。

 アンデスのインディオたちは紀元前からコカ(Coca)の葉を咀嚼していたといわれるが、インカ帝国ではコカの葉は特権階級のものとして統制を受けていた。その後、再び一般のインディオの間にもコカの葉を咀嚼する習慣が広まった。コカの成分は水に溶けにくいので生石灰や灰をつけて噛むことが多い。

 コカの葉を噛むと飢えを忘れ、疲労が回復し、忍耐力が増し、活力が甦るような気分になる。コカ・コーラの名は本来このコカの葉とアフリカ原産で興奮・食欲増進作用のあるコーラ子を混合した飲料であった。

 コカ葉の主成分はアルカロイドのコカインである。1860年、ドイツのヴェーラーらによってコカインが結晶化され、1884年には局所麻酔薬として臨床に用いられた。今日ではプロカインやノボカインなどの合成麻酔薬が開発されたため臨床ではほとんど使用されていない。

 コカインの中枢興奮作用は即効性で、一時的に元気になり、多幸的になるが、短時間で効果が消滅し、疲労感や不快感が出現する。このためコカインには精神的依存がみられ、依存症になると多動、不眠、興奮状態が続き、幻覚や妄想などもみられるようになる。副作用としては嘔吐、発汗、知覚異常、呼吸困難なども出現する。

 日本ではコカインは麻薬および向精神薬取締法の中で麻薬として指定されているが、効果からいえば覚せい剤のひとつであるるコカインは毒性が強いため、常用者はごく微量を鼻粘膜から吸引する方法を用いている。

水曜日, 11月 21, 2012

五加皮

○五加皮(ごかひ)

 中国の華中、華南、西南に産するウコギ科の落葉低木ウコギ(Acanthopanax gracilistylus)の根皮を用いる。ウコギとは五加皮の中国音によるものである。ウコギは日本各地の山野でも野生化しており、山村では垣根などに植栽されている。中国での五加皮の基原植物として、そのほかマンシュウウコギ(A.sessiliflorus)、エゾウコギ(A.senticosus)などもある。

 日本ではエゾウコギの根皮をとくに刺五加と呼んでいる。一方、カガイモ科のクロバナカズラ(Periploca sepium)の根皮である香加皮を五加皮ともいう。たとえば五加皮酒の中には香加皮の配合されているものもある。このため香加皮を北加皮と呼び、ウコギ科の五加皮を南五加皮という。現在、日本の市場品は一般に香加皮である。

 ウコギの有効成分は明らかでなく、マンシュウウコギではセサミン、サビニン、アカンシドA・Dなどのリグナン類が含まれている。リウマチなどによる関節痛や筋肉痛、腰や膝の筋力低下、インポテンツ、浮腫、脚気などに用いる。とくに下半身の治療薬として知られている。

 漢方では去風湿・強筋骨・補肝腎の効能があり、リウマチなどによる関節痛や神経痛、腰や膝の倦怠感などによる関節痛や神経痛には木瓜・羗活 ・独活などと配合する(木瓜酒)。浮腫や乏尿には茯苓皮・大腹皮などと配合する(五皮飲)。滋養・強壮作用のある不老長寿薬として有名な五加皮酒には五加皮のほかに当帰・陳皮・木香などが配合されている。

 一方、香加皮(南五加皮)にも同様に去風湿・強筋骨の効能がある。香加皮は強心配糖体のペリプロシンが含まれ、五加飲には香加皮が適しているとされる。ただし、使用量が多くなると中毒を起こすことがあるので注意が必要である。

火曜日, 11月 20, 2012

胡黄連

○胡黄連(こおうれん)

 インドやチベットなどヒマラヤ地方の高山地帯に分布するゴマノハグサ科の多年草コオレン(Picrorrhiza kurrooa)の根茎を用いる。そのほか同属植物の西蔵胡黄連(P.scophulariaeflora)なども利用される。薬用としては地上部が枯れた後に根を採取する。

 胡とは中近東などの西方を表し、胡黄連は西域から伝えられた黄連という意味である。キンポウゲ科の黄連とは植物学的には全く関係ないが、根茎の性味や効能が似ているため黄連の代用とされている。ちなみに胡黄連は日本の正倉院にも黒黄連として保存されている薬物である。入手しにくいため、鎌倉時代以降、日本では胡黄連の代用としてセンブリ(当薬)などか開発された。朝鮮産の胡黄連はメギ科のタツタソウ(Jeffersonia dubia)であり、鮮黄連ともいわれている。

 コオレンの根茎には苦味成分のクトキンやトキオール、クトキステロールなどが含まれ、抗菌、抗真菌、利胆作用などが報告されている。漢方では清熱燥湿・清虚熱の効能があり、細菌性の下痢や疳積、結核などによる発熱に用いたり、また黄連の代用にする。とくに小児の疳積の治療薬として有名である。

 寄生虫症や栄養失調による発熱などの疳積症状には人参・茯苓・山査子などと配合する(抑肝扶脾散)。脾腫などの腹部腫瘤には三稜・莪朮などと配合する(浄府散)。肺結核や慢性肝炎などで発熱や顔面紅潮、手足の煩熱などのみられるときに青蒿・地骨皮・別甲などと配合する(清骨散)。ちなみにコオレンはヒマラヤ地方では万能薬として、またインド医学でも小児の疳症の治療薬として知られている。

土曜日, 11月 17, 2012

牛黄

牛黄(ごおう)

 ウシ科の動物ウシ又はスイギュウの胆嚢や胆管の中にできた結石を用いる。ウシは新石器時代にはシリア・エジプトなどですでに家畜化されていた。日本でも古代から役用、食用に用いられた記録があるが、仏教の伝来とともに殺生が禁じられ食べられなくなった。

 ウシはひづめが2つに分かれた偶蹄類であり、草食動物であるため臼歯が発達し、胃袋は4つある。胆嚢から胆石が見つかることは極めて稀で、日本にはオーストラリアや南米など世界各地から輸入され、特にオーストラリア産は品質が良いといわれる。現在、ウシの胆石を取り出して結石を合成した人口牛黄やウシの胆嚢内で人為的に結石を形成された培養牛黄などが安価な牛黄として開発されている。

 大きさは4cm以下の球形あるいは不定形で、表面は黄褐色ないし赤褐色であるが、空気に長時間触れると酸化されて黒褐色に変化する。軽くて脆く、砕けやすい。味ははじめ苦く、次第に甘く感じ、芳しい香りがして、噛んでも歯に粘りつかない。

 成分にはビリルビン、ビルベルジンなどのビリルビン系色素が約75%、コール酸やデオキシコール酸からなる胆汁酸、コレステロール、各種アミノ酸などが含まれている。薬理作用として中枢神経鎮痙・鎮静作用、利胆作用、強心作用、血球新生作用、解熱作用などが知られている。

 牛黄は神農本草経の上品に収載され、古くから高貴薬として用いられてきた。漢方では清熱瀉火・涼血・解毒・開竅・定驚の効能があり、熱病による意識障害や熱性痙攣、脳卒中、腫れ物、口内炎、歯槽膿漏などに用いる。煎剤として用いずに散剤や丸剤に配合する。

 熱病による意識障害や熱性痙攣、煩躁、脳卒中、精神不安などには犀角・麝香・朱砂などと配合する(安宮牛黄丸・牛黄清心円)。扁桃炎など咽頭の腫痛、皮膚化膿症などには麝香・竜脳などと配合する(六神丸)。小児の熱病や疳の虫の薬として知られている樋屋奇応丸宇津救命丸、動悸・息切れ・きつけの救心などの一般薬にも広く配合されている。

金曜日, 11月 16, 2012

香料

○香料

 一般に芳香があり生活に役立つ物質を香料という。時代や習慣などにより、その定義は明らかではない。香料のことを英語でパフュームというが、この語源は「薫ずる」という意味で、古くは宗教儀式の際に樹木を火で焚いたのが香料の起源と考えられている。

 香料は火で焚くと芳香を発する焚香料、料理に用いられる香辛料、体につける化粧料などに区別されるが、その多くは生薬としても利用されている。焚香料では西方のアラビアにおける乳香(オリバナム)・没薬(ミルラ)、東方のインドや中国における沈香・白檀などが有名である。いずれも樹木や樹脂を利用したもので、これら芳香を有する樹木を香木と呼ぶこともある。薬用としても利用される香木には、このほか竜脳、蘇合香、安息香などがある。

 近年、欧米においてアロマセラピー(香気療法)が注目されており、植物の葉や花から揮発性の精油を抽出し、吸入したり、浴湯料として利用したり、またマッサージ・オイルに加えて皮膚から浸透させたりする。一般に芳香には不安や抑鬱などの神経症状を改善し、前進の機能を調整する効果があるといわれている。このようなハーブとしてはカミツレ、カムラス(菖蒲)、クローブ(丁字)、白檀、ベルガモット、乳香、ラベンダー、レモンバーム、ローズ、ローレル(月桂樹)などが用いられている。そのほか動物性の香料としてはムスク(麝香)、シベット(霊猫香)、アンバー・グリース(竜涎香)などがある。

木曜日, 11月 15, 2012

藁本

○藁本(こうほん)

 中国中南部に分布するセリ科の多年草コウホン(Ligusticum sinense)や中国北部に分布する同属植物のムレイセンキュウ(L.jeholense)などの根および根茎を用いる。

 日本ではセリ科のヤブニンジン(Osmorhiza aristata)や中国原産のセリ科のカサモチ(Northosmyrnium japonicum)を和藁本と称して藁本の代用にあてている。

 平安時代の本草和名にはカサモチが藁本として栽培されていたとあるが、江戸時代には藁本のひとつとしてヤブニンジンも市場に出回るようになり、現在流通している和藁本は全てヤブニンジンの根である。また韓国産の藁本の基原はニオイウイキョウ(L.tenuissimum)である。

 コウホンの根茎には精油成分として、ブチリデンフタライド、クニジライド、メチルオイゲノールなどが含まれ、抗炎症、鎮痙、通経作用などが報告されている。漢方では解表・去風湿・止痛の効能があり、風寒による頭痛や寒湿による腹痛、鼻炎や蓄膿症などに用いる。

 藁本は太陽経の風薬といわれ、頭痛、特に頭頂部の頭痛には不可欠の要薬とされている。感冒を伴う頭痛および頭痛全般に川芎・白芷と配合する(駆風蝕痛湯)。頭痛や全身の筋肉痛、急性の関節痛などに羗活・独活などと配合する(羗活勝湿湯)。蓄膿症や慢性鼻炎などで鼻に悪臭があるときには山梔子・黄柏などと配合する(加味八脈散)。

水曜日, 11月 14, 2012

厚朴

○厚朴(こうぼく)

 中国の南部を原産とし中国の各地に分布しているモクレン科の落葉高木カラホウ(Magnolia officinalis)や凹葉厚朴(M.offcinalos var.biloba)の幹や枝の樹皮を用いる。日本ではホウノキ(M.obovata)が利用されている。

 中国産では根に近い部位が良品とされている。生薬では両者を区別して日本産を和厚朴、中国産を唐厚朴という。唐厚朴では四川省の川朴、浙江省の温州厚朴(温朴)などが有名である。これまで日本薬局方では日本産の厚朴(和厚朴)のみを規定していたが、1996年の改正により中国産の厚朴も認められるようになった。

 樹皮にはアルカロイドのマグノクラリン、マグノフロリン、リグナン類のマグノロール、ホオノキオール、精油成分のオイデスモールなどが含まれ、厚朴エキスには鎮痛、抗痙攣、筋弛緩、クラーレ様作用などが報告されている。

 漢方では燥湿・消痰・徐満・下気の効能があり、腹部膨満感や消化不良、嘔吐、悪心、下痢、喘息、咳嗽など消化器疾患だけでなく呼吸器疾患にも応用する。一般には消化不良には蒼朮と、腹痛には木香と、腹満感には枳実と、冷えには乾姜と、便秘には大黄と、痰には半夏と、咳嗽や喘息には麻黄・杏仁と配合する。

 最近、厚朴に含まれるマグノリグナンにメラニン生成に関与する酵素の成熟阻害作用が発見され、外用により美白の効果が認められることが報告されている。

月曜日, 11月 12, 2012

粳米

○粳米(こうべい)

 インド北部から中国の雲南省を原産とし、アジアおよび世界各地で食用として広く栽培されているイネ科のイネ(Oryza sativa)の穀粒(種仁)、すなわちうるち米を玄米にした状態で用いる。生薬名では、もち米の穀粒を粳米、両者とも全草を稲草、もみがらのつけたまま発酵させたものを穀芽という。

 イネの栽培の歴史は古く、日本でも縄文時代の晩期には北九州で稲作が行われていた。米は粘性によってうるち米(粳米)、ともち米(米)に区別され、もち米はうるち米よりも粘性が強い。これは米のデンプンを構成するアミロースとアミロペクチンの割合が違うためで、うるち米はアミロースを約20%含むが、もち米はほとんどがアミロペクチンで、アミロースを含まない。

 外観からも成熟した米粒ではうるち米が半透明なのに対し、もち米は乳白色に濁っている。生薬として用いるのはうるち米の精白していない玄米で、古いものが適している。ただし、長い間貯蔵した粳米はとくに陳蔵米という。

 穀粒の75%以上はデンプンであるが、オリゼニン、ジアスターゼなどのタンパク質、ビタミンB1なども含む。漢方では補気・健康脾臓・止渇の効能があり、 口渇や下痢に用いる。

 傷寒論、金匱要略では百虎湯・麦門冬湯・竹葉石膏・附子粳米湯・桃花湯など7つの処方に配合され、滋養強壮のほかにも石膏や附子などの胃に対する影響を緩和する目的がある。たとえば附子と配合して冷えに対する腸鳴、腹痛に用いる(附子粳米湯)。乾姜・赤石脂と配合して下痢、血便に用いる(桃花湯)。石膏・知母と配合して発熱に伴う口渇に用いる(白虎湯)、麦門冬などと配合して乾燥性咳嗽に用いる(麦門冬湯)。また桂枝湯や大建中湯を服用した後に薬効を強めるため、粥をすするよう支持されている。陳蔵米にも同様の効能があり、下痢や口渇に用いる。

土曜日, 11月 10, 2012

香附子

○香附子(こうぶし)

 全世界の温帯に分布し、日本でも関東以西に自生するカヤツリグサ科の多年草ハマスゲ(Cyperus rotundus)の根茎を用いる。おもに砂浜や川原の砂地に生えるが、畑や公園の雑草として嫌われている。

 中国の植物名は莎草といい、生薬では地上部の全草を莎草という。ときに香附子の別名として莎草ということもある。ハマスゲの塊茎には芳香があり、附子を小さくしたような形のため香附子という。ひげ根を火で焼き取ったものは光附子という。

 根茎には精油成分としてシペロール、シペロン、シペレン、コブソンなどが含まれ、香附子エキスには鎮痛作用や子宮弛緩作用、抗菌作用が知られている。漢方では理気・疏肝・調経・止痛の効能があり、胃の痞塞感や脇腹部の張満感、腹痛、頭痛、月経痛、月経不順に用いる。

 香附子は「気病の総司・女科の主帥」ともいわれ、気を調えて欝を除き、気が行れば血は流れ、肝欝を解して三焦の気滞を除くとされている。とくに肝欝による脇痛、気滞による上腹部痛、生理痛などに用いる。

金曜日, 11月 09, 2012

猴棗

○猴棗(こうそう)

 インド、マレーシア、中国南部に生息するサル科のアカゲザル(Macaca mulatta)の内臓結石を用いる。アカゲザルはベンガルザルとも呼ばれ、ニホンザルに似るが尾が長く、灰茶色の体毛で覆われている。森林に群居し、野草や木の実、昆虫などを食べている。

 性質は温和で人にもよく馴れ、ヒンドゥー教では聖なるサルとされている。また生物医学の分野ではアカゲザルを用いた研究が広く実施されている。アカゲザルの四肢骨や全身骨を獼猴骨といい、薬用にされる。

 猴棗は老いたサルの胃や胆道系にできた結石であり、ナツメの実に似ている楕円形のためその名がある。鶏卵大から大豆大まであり、表面は青銅色ないし緑黒色で光沢がある。硬いが砕けやすく、断面は灰黄色で層になっている。おもにインドやマレー半島、南洋諸島などで産するが、非常に高価なもので入手しにくい。

 漢方では消痰、鎮驚・清熱・解毒の効能があり、痰の絡む咳や小児の熱性痙攣。ひきつけ、瘰癧(頸部リンパ腺腫)などに用いる。小児急性気管支炎や熱性痙攣などに沈香・天竺黄などと配合する(猴棗散)。一般に煎剤としては用いず、散剤、丸剤として用いる。ちなみに日本ではサルの頭の黒焼きを猿頭霜と称し、脳病や頭痛、夜尿症に効果があると言い伝えられている。

木曜日, 11月 08, 2012

葒草

○葒草(こうそう)

 アジア大陸の温暖な地域を原産とするタデ科の一年草オオケタデ(Polygonum orientale)の全草を用いる。生薬では花序を葒草花といい、果実を水葒草子という。

 オオケタデは日本にも古くから伝来し、観賞用に花壇や庭に植えられたが、今日では野生化している。大型のタデが全体で粗い毛で覆われているためにオオケタデという名があり、淡紅色の小さな花を穂のようにつけることから中国では葒草と呼ばれている。

 またポルトガルのマムシの毒消しに用いる薬用植物と混合されたため、ポルトガル語由来のハブテコブラという異名もある。

 全草にはフラボノイドのオエンチン、エイエントシド、そのほかβシトステロールなどが含まれ、血管収縮や血圧上昇などが認められている。漢方ではリウマチや脚気、蛇咬傷の治療に煎じて用いる。

 民間では生の葉の汁を腫物や虫刺されに外用する。水葒草子には消癥・健脾の効能があり、腹部の腫塊、瘰癧(頸部リンパ腺腫)、胃痛、消化不良、糖尿病、慢性肝炎、肝硬変などに用いる。また葒草花は腹痛や下痢などに用いられる。

水曜日, 11月 07, 2012

紅豆蔲

○紅豆蔲(こうずく)

 中国南部や台湾、熱帯アジアに分布するショウガ科の多年草ナンキョウソウ(Aloinia galanga)の果実を用いる。根茎は大良姜と呼ばれ、香辛料としても用いられている。

 開宝本草に紅豆蔲は高良姜の子とあるのは誤りである。広西省の一部では良姜の基原植物としてナンキョウソウを用いている。果実は赤褐色の長さ1.5cm、直径1cmくらいの楕円球形であり、味は辛い。果実の成分は明らかではないが、根茎にはフラボノイドのガランジンなどが含まれる。

 漢方では温裏・化湿・消食の効能があり、胃腸の痞えなどに用いる。李東垣は胃腸薬として紅豆蔲をしばしば用いている。近年、ナンキョウソウ葉エキスに皮膚のヒアルロン酸の生成に促進する作用があることが注目され、化粧品に配合されている。

月曜日, 11月 05, 2012

香辛料

○香辛料

 香辛料は植物の種子や果実、葉、根、樹皮などを乾燥し、その芳香や風味、絡み、色合いを飲食物に付加する目的のものである。香辛料の基本的な作用として矯臭作用、賦香作用、辛味作用、着色作用があり、同時に防腐作用もある。すなわち肉や魚などの臭みを消し、風味を増し、料理の味や色に独特の特徴づけをし、食物の保存性を高め、食欲を増進させるものである。

 一方、香辛料は一般に芳香性の精油成分、辛辣味や苦味などの刺激性成分を含むため、古くから世界各地で薬としても利用されている。漢方生薬としても知られるスパイスには以下のようなものがある。

ジンジャー:生姜

ガーリック:大蒜

ローレル:月桂樹

クローブ:丁子

カルダモン:小豆蔲

シナモン:肉桂

コリアンダー:胡荽子

デイル:蒔蘿子

フェンネル:茴香

スターアニス:大茴香

ナツメグ:肉豆蔲

セサミシード:胡麻

ボウフウ:防風

ユズ:

ネギ:葱白

シソ:蘇葉

ペッパー:胡椒

マスタード:白芥子

サンショウ:山椒

プシカムペッパー:唐芥子

ワサビ:山葵

カラシナ:芥子

ハッカ:薄荷

ターメリック:鬱金

フェヌグリーク:胡芦巴

サフラン:番紅花

土曜日, 11月 03, 2012

降真香

○降真香(こうしんこう)

 現在、降真香の基原植物にはマメ科のダルベルギア・オドリフェラ(Dallbergia odorifera)の根の心材をあてる場合と、ミカン科のオオバゲッケイ(Acronychia oedunculata)の心材や根をあてる場合とがある。

 降真檀は中国の広東省の海南島、広西省に分布し、栽培される。10~15mにも達する高木である。薬材は紅褐色ないし紫褐色でつやがあり、硬くてよい匂いがし、焼くと強い芳香がする。かつて降真香としてインド産のインド黄檀(D.sisoo)や海南黄檀(D.hainanensis)なども用いていたが、これらは表面が淡黄色から黄褐色である。

 降真香の根にはビサボレン、ファルネセン、ネロリドールなど、インド黄檀にはダルベルギンなどが含まれ、ダルベルギンには抗凝固作用や冠動脈血流増加作用が知られている。理気・止血・止痛の効能があり、出血や打撲傷、腫れ物、関節痛、心痛、胃痛などに用いる。狭心症には紅花・丹参・川芎などと配合する(冠心Ⅱ号方)。

 一方、オオバゲッケイは中国南部、東南アジアからマレーシアにかけて分布するミカン科の常緑高木で、ジャワでは若芽を食用にしたり、根を魚毒として使用している。この心材は沙塘木ともいう。この成分にはシトステロールやアクロニシンなどが含まれ、アクロニシンには抗癌作用が報告されている。

 漢方では理気・活血・健脾の効能があり、足腰の痛みや心痛、胃痛、打撲傷などに用いる。打撲や捻挫などには乳香・没薬などと配合して服用する。外傷には止痛・止血を目的として粉末を外用する。現在、マメ科の降真香は中国政府により輸出が禁止されている。

金曜日, 11月 02, 2012

紅参

○紅参(こうじん)

 ウコギ科多年草オタネニンジン(Panax ginseng)の根を蒸した後に乾燥したものを用いる。せいろで2~4時間蒸した後に熱風乾燥すれば、赤褐色で半透明の人参となるため、これを紅参という。

 日本で生産される人参はほとんどが紅参に加工され、おもに輸出に用いられる。韓国では専売品になって、やはり香港、東南アジアに輸出され、華僑などに愛用されている。

 太い人参は皮をつけたままだと乾燥が十分できず、中から腐ることもある。このため皮を剥いで速やかに乾燥させたものが白参である。ただし周皮の付近が特にサポニン含量が高いため、白参のサポニン量は少なくなっている。紅参にするのも本来は保存性を高めるためであり、清の時代に中国から高麗に伝えられた修治法といわれている。

 紅参は蒸す過程で若干のサポニンの損失がみられるが、加工の際に新しいサポニンが生成されることも報告されている。また蒸すことで有効成分が抽出しやすくなっている。とくに紅参は滋陰の効能に優れ、脱水症状や病後の衰弱に適しているといわれる。

 一般に煎じ薬としては東日本では湯通し、西日本では白参が用いられることが多く、エキス材の原料にはおもに生干し人参が用いられ、単独で服用するときには粉末にした紅参末が利用されている。

火曜日, 10月 30, 2012

紅娘子

○紅娘子(こうじょうし)

 中国南部、インド、マレーシアなどに分布するセミ科のハグロゼミ(Huechys sanguinea)の乾燥した全虫を用いる。紅娘子は神農本草経に収載されている樗鶏としばしば混同されているが、現在では樗鶏は全く別の昆虫で、ハゴロモ科のシタベニハゴロモ(Lycorma delicatula)と考えられている。

 ハグロゼミは体長1.5~2cmくらい、黒と赤の二色からなるチッチゼミに類する小型のセミである。このセミは皮膚を刺激する毒液を分泌するため、採取の時には手袋やマスクをつけて行う。成分としてはカンタリジンを含むという報告もあるが、不詳である。肢や翅を除いた後、米や小麦などと一緒に黄色くなるまで炒り、取り出してから粉末にして用いる。

 漢方では攻毒・活血化瘀の効能があり、内服で無月経や瘀血、狂犬病、腰痛などに用いる。またに外用したり、発疱薬として皮膚病に用いる。

月曜日, 10月 29, 2012

香薷

香薷(こうじゅ)

 日本をはじめアジアの温帯に広く分布するシソ科の一年草ナギナタコウジュ(Elsholtzia ciliata)の開花期の全草を用いる。

 中国では中国、朝鮮半島、ウスリー地方に分布する同属植物の海州香(E.splendens)を用いる。日本産や韓国産はおもにナギナタコウジュであるが、中国でもさまざまなシソ科の植物が香薷として流通している。江西省に多く産する良質の香薷はとくに江香薷といわれる。

 全草には精油成分としてエルショルチジオール、チモール、カルバクロールなどが含まれ、葉や茎を揉むと強い芳香がある。漢方では解暑・化湿・利水消腫の効能があり、夏の発熱や頭痛、悪寒、腹痛、嘔吐、下痢、浮腫などに用いる。

   香薷は夏の解肌薬として有名で、古くから「夏に香薷を用いるは、冬に麻黄を用いるがごとし」といわれている。夏の寝冷えや冷たいもののをとりすぎて起こる悪寒、発熱、頭痛、下痢などに厚朴や白扁豆と配合して用いる(香薷飲)。浮腫や尿量減少などには単独あるいは白朮と配合して用いる(薷朮丸)。

 通常、解表に用いるときは煎じる時間を短くし、発汗が多いときには用いない。利水に用いるとは長く煎じるか、丸薬として服用する。また熱服すると嘔吐しやすいので冷服するほうがいい。この他、香薷の煎液は口臭を除く含嗽薬としても用いられる。

水曜日, 10月 24, 2012

唅士蟆

○唅士蟆(ごうしま)

 中国の寒い地方に生息するアカガエル科の中国林蛙(Rana chensinensis)、黒竜江林蛙(R.amurensis)の内臓を除いたものを乾燥して用いる。雌の輪卵管を乾燥したものを唅蟆油という。ちなみに唅蟆油は古代中国の八大珍味の一つとされている。

 中国林蛙や黒竜江林蛙は体長5cmくらいのトノサマガエルによく似たカエルである。唅士蟆というのは満州語であり、黒竜江林蛙は黒竜江省の松花江一体の山林に生息している、比較的寒さに強いため雪唅とも呼ばれ、食用にも用いられる。

 中国林蛙にはステロールの一種であるラノールが含まれる。漢方では止咳・滋養の効能があり、虚労咳嗽に用いる。唅士蟆の薬材は長さ2cmほど折り重なった塊で、黄白色で脂肪のような光沢がある。大部分はタンパク質で、脂肪は4%前後にすぎず、水で戻すと10~15倍に膨張する。これを民間では強壮・強精薬として病後や産後、結核、神経衰弱などに用いている。

 日本でも江戸時代から戦前まで、アカガエルの生や乾燥したもの、丸薬(赤蛙丸)にしたものを小児の疳の虫の妙薬として街中で売り歩いていた姿がみられたという。

火曜日, 10月 23, 2012

光慈姑

○光慈姑(こうじこ)

 本州の福島県以南、四国、九州、朝鮮半島、中国大陸に分布するユリ科の多年草アマナ(Amana edulis)の鱗茎を用いる。チューリップと近縁の野生種であり、鱗茎は古くから食用にされ、食べると甘いためアマナ(甘菜)の名がある。

 生薬名を山慈姑ともいうが、ラン科のサイハイランの鱗茎を基原とする山慈姑に対してとくに光慈姑という。鱗茎にはカタクリに類似した良質のデンプンが含まれる。

 中国では軟堅散結の効能があるとして、咽頭腫痛や瘰癧(頸部リンパ腺腫)、腫れ物などに用いる。日本の民間では煎じて焼酎に漬けたアマナ酒を滋養・強壮に用いている。また葉を腫れ物に外用する。

月曜日, 10月 22, 2012

紅景天

紅景天(こうけいてん)

 中国のチベット自治区、四川、青梅、甘肅、雲南省やロシアのシベリアの海抜2000~5000mの高地に分布するベンケイソウ科の多年生植物、紅景天(Rhodiola sacra)などの全草を用いる。

 ロディオラ属はヨーロッパには200種以上、中国には40種以上の多くの種類がある高山植物であり、中国では聖地紅景天(R.sacra)のほかにも、高山紅景天(R.sachalinensis)、大花紅景天(R.crenulata)玫瑰紅景天(R.rosea)なども薬草として利用されている。とくに玫瑰紅景天は、ロディオラ・ロゼアとして、ロシアや北米ではよく知られている。8世紀頃のチベット医学経典「四部医典」や「晶珠本草」の中には、紅景天の効能として滋養強壮、養肺清熱、止血解毒、滋補元気などの記述がある。

 紅景天には、配糖体のクマリン類、必須アミノ酸類、ビタミン類などの栄養成分が含まれ、抗酸化、血糖値上昇抑制、免疫力向上、抗ウイルス、強心作用などが報告され、老化防止や疲労回復、糖尿病、ウイルス感染症、肝臓病、癌などに対する効果が期待されている。

 そのほか、赤血球の酸素の取り込みを高め、高山病に効果があることでよく知られている。高山病の予防薬といわれている高原安や、紅雪冬夏などに配合されている。

木曜日, 10月 18, 2012

高貴薬

○高貴薬(こうきやく)

 高貴薬とは非常に高価であり、容易に手に入りにくい薬物のことである。今日、ワシントン条約で規制されている野生動物からの生薬も多く、今後は代用品の開発を検討することも必要であろう。またこれらの生薬には贋偽品がしばしば出回り、鑑定も容易ではない。

 効能に関して、科学的な根拠の乏しいものもあり、希少価値に対する過大評価もあるように考えられる。中国四大貴薬材と呼ばれている高貴薬は犀角・牛黄・羚羊角・麝香である。高貴薬として以下のようなものがある。

一角:ウニコルンの歯牙

海馬:タツノオトシゴ

牛黄:ウシの胆石

麝香:ジャコウジカの分泌腺

冬虫夏草:昆虫の幼虫に寄生した菌核

鹿茸:鹿の幼角

海狗腎:オットセイの陰茎と睾丸

海竜:ヨウジウオ

犀角:サイの角

蟾酥:シナヒキガエルの分泌物

熊胆:クマの胆嚢

羚羊角:サイガカモシカの頭角

水曜日, 10月 17, 2012

合歓皮

合歓皮(ごうかんひ)

 日本各地、中国、東南アジアなどに広く分布するマメ科の落葉高木ネムノキ(Albizzia julibrissin)の樹皮を用いる。花や花蕾は合歓花、合歓米という。

 かつて日本ではニシキギ科のマユミの樹皮が代用されたこともある。暗くなると眠るように葉と葉を重ねて閉じることから、日本ではネムノキ、中国では合歓樹あるいは夜合樹と呼ばれている。樹皮にはサポニンやタンニンが含まれ、サポニンのアルビトシンには子宮収縮作用の報告がある。  漢方では疏肝・安神・止痛の効能があり、不安感やうつ状態、不眠、腫れ物、打撲傷などに用いる。不眠や心煩、動悸、めまいなどに夜交藤仙鶴草などと配合する(養血安神片)。打撲や骨折などによる腫張や疼痛に当帰・紅花などと配合する。また膿性痰の出る慢性気管支炎などに単独あるいは白蘞や十薬などと配合する。

 日本の民間療法では、腫れ物や打撲傷、関節痛に合歓皮の煎液で患部を洗ったり、浴湯料として使用する。また合歓皮の黒焼きと黄柏末とを酢で練り合わせて患部に冷湿布する方法もある。また江戸時代から伝わる「久保田の速康散」というトゲ抜きの内服薬は合歓皮とニシキギの枝を黒焼きにしたものである。なお合歓花にも安神作用があり、食欲不振や不眠症の治療に用いる(安神丸)。

火曜日, 10月 16, 2012

蛤蚧

蛤蚧(ごうかい)

 中国南部の広西省やベトナム、タイなどに生息する爬虫類のヤモリ科オオヤモリ(Gekko gecko)を用いる。体長は20cm余りもある大きなヤモリで、山間の岩場や樹木の穴、壁の上などに生息し、夜行性でおもに昆虫などを捕食している。オオヤモリを蛤蚧というが、雄を蛤、雌を蚧という謂れがある。

 薬材としてはオオヤモリの内臓を除き、四肢を開いた後あぶって乾燥し、二匹を対にして竹に固定したものが市場に出ている。尾の部分の薬効が優れているとされ、尾の欠けたものは劣品とされる。通常、用いるときには頭と足や鱗片を除く、あるいは尾だけを用いる。

 漢方では補気・補陽・止咳の効能があり、虚労や喘息、肺結核、インポテンツ、頻尿、糖尿病などに用いる。滋養・強壮薬として参茸丸至宝三鞭丸に蛤蚧が配合されている。また、とくに血痰のみられる肺結核の常用薬として知られ、人参・杏仁・貝母などと配合する(人参蛤蚧散)。薬酒として有名な蛤蚧酒は、新鮮な蛤蚧の内臓を除き、雄雌あわせて丸ごと蒸留酒に浸してつくったものである。

月曜日, 10月 15, 2012

紅花

紅花(こうか)

 エジプト原産のキク科の二年草ベニバナ(Carthamus tinctorius)の管状花の乾燥したものを用いる。薬用としては開花初期の黄色の多いときの花を、そのまま風乾したものを用いる。

 古くから南ヨーロッパ、中近東、インド、中国などで栽培され、日本には奈良時代に渡来した。古名のクレノアイの語源は呉(高麗)の国から伝わった藍ということを表し、韓呉藍(からくれない)とも呼ばれていた。古くから口紅や染料などに用いられていたために臙脂花、紅藍花などともいわれ、また黄から赤に変化した後に摘み取るので末摘花とも呼ばれた。江戸時代には最上地方で多く栽培され最上紅として有名であった。現在も山形県の尾花沢周辺で広く栽培されている。

 ベニバナには紅色色素のカルタミンと黄色色素のサフロールイエローが一緒に含まれている。赤くなった花弁を集めて水に漬けると、水溶性であるサフロールイエローが流れ出るが、この色素を除いた花弁をよく揉み、しばらく発酵させて臼で搗いて餅紅を作る。この餅紅に含まれるカルタミンをアルカリ性の灰汁で溶かし出し、酸性の梅酢で中和すると色素の結晶が得られる。現在でも食品の着色料や口紅などの原料に使用されている。またベニバナの種子からとる油はサフラワー油(ベニバナ油)と呼ばれ、塗料、石鹸をはじめサラダ油やマーガリンの原料として用いられる。

 ベニバナの成分には色素のカルタミン、サフロールイエローのほか、フラボノイドのカルタミジン、ネオカルタミンなどが含まれ、煎液には血圧降下作用や免疫賦活作用、抗炎症作用などが知られている。

 漢方では活血・通経・虚瘀・止痛の効能があり、月経異常や腹部のしこり、打撲傷、脳血管障害、瘀血による痛みなどに用いる。かつて日本漢方では大黄・甘草・黄連と配合した甘連湯を「まくり」と称して胎毒の治療に用いていた。なお蕃紅花というのはサフランのことである。

金曜日, 10月 12, 2012

香櫞

○香櫞(こうえん)

 インド原産のミカン科の常緑低木シトロン、すなわちマルブッシュカン(Citrus medica)の成熟果実を用いる。シトロンは直径が10cm以上の大果で、熟すと橙黄色になり、よい香りがする。

 中国ではシトロンを枸櫞というが、日本ではレモンの果皮を枸櫞皮という。またブッシュカン(仏手柑)はシトロンの変種のひとつである。市場の薬材はこの果実を厚さ2~3mm輪切りにして乾燥したものである。

 シトロンの果実にはヘスペリジンクエン酸、リンゴ酸、d-リモネンなどが含まれている。漢方では疎肝・理気・化痰の効能があり、胃痛、腹満感、咳嗽、食欲不振、嘔吐などに用いる。

 仏手柑と比較すると香りや効力はやや劣るが、化痰の作用は強い。おもにストレス(肝欝)による腹満感や胸の痞寒感、脇腹の痛み、食欲不振、嘔吐などに陳皮・香附子などと配合して用いる。また痰が絡んですっきりしない咳嗽には半夏・茯苓・生姜などと配合する。

木曜日, 10月 11, 2012

膠飴

○膠飴(こうい)

 粳米または糯米を蒸したのち、麦芽のアミラーゼを用いてデンプンを分解し、糖化させて製した飴である。膠飴には軟らかいものと固形のものとがあり、軟らかいものは黄褐色、半透明の濃厚な水飴状であり、固形のものはこの水飴を攪拌し、空気と混和して凝固させたものである。味は甘く、特異な麦芽臭があり、一般に水飴状のものが良品とされている。

 成分にはマルトース(麦芽糖)やデキストリンなどが含まれる。麦芽糖はマルツエキスとして乳児の便秘薬に利用されている。漢方では健脾・止痛・止咳の効能があり、過労による胃腸障害、腹痛、咳嗽、吐血、口渇、咽痛、便秘などに用いる。

 とくに胃腸虚弱者によくみられる腹痛を緩和する。たとえば小建中湯、大建中湯、黄耆建中湯、当帰建中湯などの建中湯の処方に配合され、いずれも虚弱な体質を改善し、冷えなどによる腹痛を緩和する効果がある。また止咳薬として乾咳の症状に単独あるいは杏仁・百部などと併用する。

 ただし膠飴は非常に甘いため腹部膨満感をきたしやすく、多量に服用すると嘔吐することがあるので注意を要する。なお膠飴は他の生薬を煎じて滓を漉した後に溶かして服用する。

水曜日, 10月 10, 2012

玄明粉

○玄明粉(げんめいふん)

 芒硝を風化、乾燥させて得られる白色の粉末をいう。芒硝の主成分は含水硫酸ナトリウム(Na2SO4・10H2O)であるが、空気中で風化されると結晶水を失い無水硫酸ナトリウム(Na2So4)に変化する。これは玄明粉あるいは風化硝という。

 効能などはほとんど芒硝と同じである。華岡青洲は口内炎や咽頭の痛みに、竜脳・硼砂などと配合した氷硼散を口中剤として用いた。

火曜日, 10月 09, 2012

拳柏

○拳柏(けんぱく)

 日本各地および台湾、朝鮮半島、中国、インドなどに分布し、岩壁などに生えている常緑シダ植物イワヒバ科のイワヒバ(Selaginella tamariscina)の全草を用いる。岩場に生えて、針葉樹のヒバの葉に似ていることからイワヒバの名がある。

 イワヒバの茎は乾燥すると内側に巻き込み、湿度が上がるとともに戻る特徴がある。全草にはビスフラボンやオリゴサッカライドのトレハロースなどが含まれる。

 漢方では生では活血・去痰の効能があり、無月経や腹部腫瘤、打撲傷などに用いる。炒って巻柏炭とすれば止血の効能があり、吐血や下血、血尿、脱肛などに用いる。ちなみに中国では類縁植物のオニクラマゴケ(S.doederleinii)の全草を大葉菜(別名:石上柏)といい、絨毛上皮癌や咽頭癌などに対する抗癌作用の研究が行われている。

月曜日, 10月 08, 2012

現之証拠

○現之証拠(げんのしょうこ)

 日本各地、台湾、朝鮮半島、中国などに分布するフウロソウ科の多年草ゲンノショウコ(Geranium thunbergii)の全草を用いる。日本の代表的な民間薬であるが、中国では知られていない。

 江戸時代初期から民間で用いられ、ゲンノショウコという名は下痢にはっきりとした効果があることを意味し、イシャイラズやイシャナカセといった別名もある。かつて中国の牛扁がゲンノショウコとされたこともあるが、牛扁はキンポウゲ科の別の植物である。ちなみに津田玄仙の牛扁丸はゲンノショウコの黒焼きを原料にしたものである。

 中国の救荒本草にあるフウロソウ科のキクバフウロ(Erodium stephanianum)がゲンノショウコに似ていることから混同され、これが民間薬として利用されるきっかけになったと考えられている。中国には類似植物としてミツバフウロ(G.wilfordii)として薬草があるが、止瀉の効能はあまり知られていない。日本のゲンノショウコを中国ではネパール老鸛草と称している。

 葉には多量のタンニンが含まれ、その約2/3はゲラニインである。健胃・整腸・止瀉作用があり、あらゆる下痢に応用されるが、とくに赤痢など裏急後重を伴う下痢に効果がある。下痢止めを目的とするときは、タンニン類がよく抽出されるように半量になるまで煎じる。短く煎じると緩や下剤になり、便秘にも応用される。胃・十二指腸潰瘍などには決明子と配合する。医療用の整腸薬としてベルベリンと配合されている(フェロベリンA)。そのほか民間では強壮、保健のお茶として飲まれたり、煎じた液が腫れ物や霜やけに外用されている。

土曜日, 10月 06, 2012

ゲンチアナ根

○ゲンチアナ根

 ヨーロッパ原産でスペインからトルコまでの亜高山帯に分布しているリンドウ科の多年草ゲンチアナ(Gentoana lutea)の根および根茎を用いる。

 植物学上、リンドウと同じ仲間であるが、ゲンチアナは高さ2mにも達する大型植物で、根も大きい。日本の北海道でも栽培されているが、おもにピレネー山脈やアルプスに産するゲンチアナがスペインやドイツから輸入されている。薬用にはゲンチアナの根や根茎を多少発酵させて乾燥したものを用いる。

 根には苦味配糖体のゲンチオピクロシドやスウェルチアマリン、アマロゲンチンなどが含まれ、胃液の分泌亢進や消化促進の作用などがある。ヨーロッパで古くから用いられている代表的な苦味健胃薬で、慢性胃炎や食欲不振などに用いられている。

 かつて日本ではリンドウ(生薬名:竜胆)やセンブリ、延命草などで代用されたこともある。現在も家庭薬の苦味健胃薬として(キャベジンコーワ)、またゲンチアナ・重曹散など医療用にも広く利用されている。

金曜日, 10月 05, 2012

芫荽

○芫荽(げんすい)

 地中海東部沿岸が原産とされるセリ科の一~二年草コエンドロ(Coriandrum sativum)の全草を用いる。現在では香料植物として東欧や東アジアなど世界各地で栽培されている。

 和名のコエンドロはポルトガル語に由来し、中国では張騫が西域から持ち帰ったため胡荽とも呼ばれている。果実は香辛料のコリアンダー(生薬名:胡荽子)として知られている。

 一方、未熟な果実や青葉にはカメムシに似た独特の臭いがある。この臭いは普通の日本人には不快な悪臭と感じられるが、葉をとった葉茎を中国では香菜(シャンツァイ)、タイではパクチーと呼ばれ、東南アジアや中南米の国々では肉や魚料理のつけあわせとして好まれている。最近では、日本でも中華料理や東南アジア料理などで全草が用いられるようになった。

 全草にはビタミンCやノニルアルデヒドなどが含まれ、不快臭の主成分はモノテルペン類のセルミン、デカナールといわれている。この臭いの成分は乾燥に弱く、生葉にしか含まれない。漢方では発汗・透疹・消食の効能があり、麻疹や消化不良などに用いる。とくに発疹の出にくい麻疹や風疹などに用い、発疹の出現を促進することによって内攻を予防し、全身症状の改善を行う。

 また発疹や丹毒に、芫荽を沸騰した湯に入れて1~2回沸騰させ、その湯気や熱湯でぬらしたタオルを皮膚に軽くあてる方法もある。近年、中国パセリ(芫荽)に体内の鉛が蓄積するのを抑制し、鉛中毒を緩和する作用があることが発表されて話題となっている。

 なお芫荽は子宮の筋肉を収縮させ、出産や堕胎を促進する民間薬として言い伝えられている。このため妊娠中は摂るべきではない。

木曜日, 10月 04, 2012

芫青

○芫青(げんせい)

 中国の各地に分布するツチハンミョウ科のアオハンミョウの一種である緑芫青(Lytta caraganae)の乾燥した全虫を用いる。

 緑芫青は体長1~2cmくらいの細長い昆虫で、体は緑色あるいは藍緑色で光沢がある。かつて日本薬局方に収載されていたカンタリス(L.vesicatoria)と同属の昆虫であり、中国ではカンタリスのことを洋芫青という。

 日本ではマメハンミョウ(Epicauta gorhami)をカンタリスの代用品として用いていたが、中国ではマメハンミョウの生薬名を葛上亭長という。その他、ヨコジマハンミョウ(生薬名:斑蝥)、ヒメツチハンミョウ(生薬名:地胆)などのツチハンミョウ科の昆虫もカンタリジンを含み、薬用にされる。このカンタリジンは、これらの昆虫が外的からの自己防衛のために分泌する刺激性の強い化学物質で、皮膚に付着すると水泡が生じるくらいの炎症を引き起こす。

 カンタリスは約2cmの金緑色の昆虫で、古代ヨーロッパで薬用昆虫として知られ、水腫や卒中、黄疸の治療、また毒薬として用いられたという。

 カンタリジンの薬理作用として発疱作用や抗腫瘍作用が知られている。外用では皮膚病や腫瘍の治療、発毛剤として用いる。内服すると利尿作用があり、また尿道を刺激するため催淫剤としても知られている。瘰癧(頸部リンパ腺腫や狂犬病、堕胎などに用いられた。日本では蘭学の影響で江戸時代以降に芫青を配合した発疱剤が腐食・排膿薬として皮膚化膿症の治療に用いられた。

水曜日, 10月 03, 2012

玄参

○玄参(げんじん)

 中国の江蘇・安徽・浙江省などに分布するゴマノハグサ科の多年草ゲンジン(Scrophularia ningpoensis)の根を用いる。日本や中国北方地区では近縁植物のゴマノハグサ(S.buergeriana)の根を用いることもある。ゴマノハグサとは葉の形がゴマの葉に似ていることに由来し、玄参とは黒い人参という意味である。

 ゲンジンの根にはハルパガイド、スタキオースなどが含まれ、降圧作用や解熱・抗菌作用などが報告されている。漢方では滋陰・清熱・除煩・解毒の効能があり、熱病による口渇や煩躁、発斑、結核などによる発熱、瘰癧(頸部リンパ腺腫)、咽頭腫痛、不眠症、自汗、盗汗、鼻血、吐血、便秘、腫れ物などに用いる。

 漢方理論では滋陰・降火の代表的な薬物であり、熱病(実熱)にみられる脱水症状や陰虚による熱症状(虚熱)のいずれにも用いることができる。また陰虚による咽頭や口舌部の疼痛に玄参は重要である。咽頭痛には煎液でうがいする方法もある。また生の根をつき砕いたものを腫れ物などに外用する。

火曜日, 10月 02, 2012

拳参

○拳参(けんじん)

 日本各地をはじめ広く北半球に分布するタデ科の多年草イブキトラノオ(Polygonum bistorta)などの根茎を用いる。イブキトラノオの名は滋賀県の伊吹山に多く産し、花穂がトラの尾に似ていることによる。

 中国ではこの生薬名を慣例的に草河車とか蚤休などと呼ぶこともある。ただし蚤休は本来、ユリ科の植物である重桜や七葉一枝花を基原とする生薬の異名であるので注意を要する。

 根茎にはタンニンが多く含まれ、止血作用や抗菌作用が報告されている。漢方では清熱解毒・止痙・止血・消種の効能があり、熱病による痙攣や細菌性下痢、気管支炎、肝炎、痔出血、性器出血などに用いる。また口腔内の炎症にこの煎液でうがいをしたり、痔や腫れ物に外用する。欧米では収斂薬として下痢や痔などに用いるほか、ヨーロッパ北部では昔から葉を煮て食用にしている。

月曜日, 10月 01, 2012

芡実

芡実(けんじつ)

 日本各地、台湾、中国、インドなどに分布するスイレン科の一年草オニバス(Euryale ferox)の成熟した種子の仁を用いる。池や城の堀などで直径1m以上にもなる大きな葉を広げ、葉や葉柄に刺が密生してフキに似ているためミズブキとも呼ばれる。

 種子は球形で黒いが、種皮を除いた薬材は直径6mmくらいで赤褐色をしている。種子にはデンプンを多く含むため、芡実米とか鶏頭米などと呼ばれ食用にされる。粉にしたものは芡粉といって片栗粉と同様にあんかけ料理に用いる。

 成分にはデンプン、タンパク質、カルシウム、鉄分、ビタミンB1・B2などが含まれる。漢方では健脾・止瀉・補腎・固精の効能があり、遣清、頻尿、夜尿、尿失禁、帯下、下痢などに用いる。

 ハスの果実である蓮肉と同じく滋養・強壮作用にすぐれ、虚弱者や高齢者などの腎虚状態に用いる。腎虚による遣精や夜尿、頻尿には竜骨・牡蠣・蓮肉などを配合する(金鎖固精丸)。また遣精や帯下には金桜子と配合する(水陸二仙丹)。小児の胃腸虚弱による下痢には人参・茯苓・白朮などと配合する。婦人の帯下には黄柏・車前子などと配合する。ただし芡実の効果の発現は緩慢であり、1ヶ月以上服用する必要がある。

金曜日, 9月 28, 2012

牽牛子

○牽牛子(けんごし)

 熱帯アジア原産とされるヒルガオ科のつる性一年草アサガオ(Pharbitis nil)の種子を用いる。熱帯アメリカ原産のマルバアサガオ(P.purpurea)の種子も用いられる。

 朝早く咲いて午前中にしぼむため朝顔という名があり、中国名の牽牛子とはひこ星のことである。日本では古くはキキョウやムクゲのことを朝顔と呼んでいたが、奈良時代にアサガオが薬用植物として渡来し、次第にこれを朝顔と呼ぶようになった。近世になって庶民の間にアサガオが普及し、文化・文政時代には栽培ブームが起こり、品種改良が盛んに行われた。

 牽牛子は種皮の色によって区別され、白いものを白丑、黒いものを黒丑という。両者の効能は変わらないが、古くは白種子を尊んだ。今日では黒種子のほうがよく用いられている。種子には樹脂配糖体類のファルビチンや脂肪油などが含まれ、熟していない種子にはジベレリンが含まれる。この主成分のファルビチンには強い瀉下作用があり、過量に服用すると水様便になる。このほか利尿作用や駆虫作用もある。

 漢方では逐水・下気・駆虫の効能があり、浮腫や腹水、喘息、痰飲、食滞、便秘などに用いる。とくに下半身の浮腫や尿閉証の治療に用いる。急性の浮腫や関節膨張には大黄と配合する(牛黄散)。腎性の浮腫には甘逐・芫花と配合する(舟車丸)。痰飲があり、咳嗽や呼吸困難のみられるときに葶藶子・杏仁などと配合する。食積があって膨満、腹痛があり、便秘のみられるときには檳榔子・木香などと配合する(木香檳榔丸)。ただし妊婦や虚弱体質者には用いない。

木曜日, 9月 27, 2012

芫花

○芫花(げんか)

 中国、台湾原産のジンチョウゲ科の落葉低木フジモドキ(Daphene genkwa)の花蕾を用いる。サツマフジとも呼ばれ、日本には江戸時代初期に渡来し、庭や公園など植栽され、九州では野生化している。春に淡青紫色の小さな花を咲かせる。

 花にはゲカニンやアピゲニン、刺激性の脂状物質が含まれ、利尿作用があり、また毒性がある。芫花は神農本草経の下品に収載され、古くから逐水薬として知られていた。ただし毒性が強いため、数年間貯蔵したものや酢酸で加工した醋芫花がよいといわれている。

 漢方では瀉下と利尿作用を兼有する逐水の効能があり、浮腫や腹水、胸水、喘息などに用いる。効能は甘逐・大戟とほぼ同じであるが、逐水作用は甘遂より弱い。とくに上半身の胸水や喘息、咳嗽に適している。

 肋膜炎などによる胸水や肝不全の腹水などに甘逐・大戟などと配合する(十棗湯)。浮腫や腹水などがあり、大小便が出ないときには牽牛子・甘遂・大戟などと配合する(舟車丸)。

 近年、中国では日本住血吸虫による腹水や急性肝炎にも応用している。また精神病に対しての報告もある。ただし瀉下作用が強く有毒であるため、比較的体力のある場合に短期間のみ使用する。

火曜日, 9月 25, 2012

血余炭

○血余炭(けつよたん)

 ヒトの頭髪の毛を黒焼きにして炭にしたものを用いる。集めた髪の毛を鍋の中に入れて密封し、とろ火で焼いて、冷めるのを待って取り出す。色は真っ黒色で光沢があり、非常に軽くて脆い。

 成分には高タンパク質、配分中にはカルシウム、ナトリウム、カリウム、亜鉛、銅、鉄、マンガン、ヒ素などの金属が微量含まれれている。血余とは髪の毛のことで、本草綱目に髪は血のあまりであるから血の疾病を治すとある。

 漢方では収斂・止血の効能があり、吐血、鼻血、歯茎の出血、下血、血尿、不正性器出血などに用いる。一般に粉末にして内服するが、患部にすり込む用法もある。その他、血余炭には利水作用もあり、金匱要略には黄疸に対して豚脂と配合した猪膏髪煎、また排尿障害に対して滑石・白魚を配合した滑石白魚散が記されている。

月曜日, 9月 24, 2012

決明子

○決明子(けつめいし)

 熱帯地方に分布するマメ科の低木性植物コエビスグサ(Cassia tora)およびエビスグサ(C.ovtusifolia)の種子を決明子という。

 日本でおもに栽培されている決明子は北米原産のエビスグサである。しかし中国でいう決明子は熱帯アジア原産のコエビスグサの種子で、日本では沖縄県でしか栽培できない。エビスグサは外国の草という意味であり、決明とは目を明らかにするということである。アワビを石決明というのに対して草決明とも呼ばれている。

 決明子の飲料は中国では決明子茶として、日本ではハブ茶としてよく親しまれている。ハブチャは本来、ハブソウ(生薬名:望江南)のお茶という名前であるが、今日では決明子が用いられている。

 種子の成分はアントラキノン誘導体のエモジンやアロエエモジン、クリソファノールなどが含まれ、降圧作用、利尿作用、コレステロール低下作用、緩下作用などが報告されている。漢方では明目・利水・通便の効能があり、目の充血や痛み、視力障害、夜盲症、高血圧、肝炎、肝硬変、腹水、便秘などに用いる。

 とくに眼科疾患の常用薬であり、たとえば角膜炎、結膜炎などによる目の充血や疼痛、羞明に菊花・蔓荊子などと配合する(洗肝明目湯)。二重に見えたり、目がかすむときには石斛・人参などと配合する(石斛夜光丸)。また高血圧に伴う眩暈や頭痛には竜胆・黄芩・夏枯草などと配合する。

 さらに習慣性便秘には単独あるいは麻子仁・郁李仁などと配合する。ハブ茶は便秘症や高血圧症、高脂血症などに効果があるが、下痢がちの人や低血圧の人は飲まないほうがよい。

土曜日, 9月 22, 2012

血竭

血竭(けっけつ)

 スマトラやボルネオ、マレー半島などに産するヤシ科の常緑つる性本木キリンケツヤシ(Daemonorops draco)、または同属植物の果実表面の鱗片間および樹幹から分泌する紅色の樹脂を用いる。別名を麒麟血といい、英語でもdragon's bloodというが、これらは乾燥した樹脂が赤く、未知の動物の血塊と考えられたことによる。

 薬材は赤褐色あるいは茶褐色をした定形の塊で、断面はガラス状の光沢がある。表面が鉄のように黒く、粉末が血のように赤く、燃やすと鼻をつくものが良質といわれている。生薬以外に家具用ニスの原料、紅色の着色料や染料などとしても利用されている。

 おもな成分はエステルとドラコレジノタンノールの混合物である。漢方では止血・活血の効能があり、捻挫、打撲傷、出血、瘀血による痛み、潰瘍などに用いる。一般に散薬、丸薬にして用いる。打撲傷によるうっ血などで痛むときに内服すれば瘀血を除き痛みが止まる。外用すれば傷口を収斂し、化膿を防止し、肉芽を促進する(生肌散)。日本ではあまり薬用に利用されていない。

 ちなみに西洋で一般にdragon's blood tree(竜血樹)と呼ばれているのは、Dracaena dracoやD.cinnabariなどのリュウゼツラン科の植物であり、それらから採取される赤い樹脂も古代ローマ時代から鎮痛や止血のための薬品として利用されていた。

木曜日, 9月 20, 2012

月桂樹

○月桂樹(げっけいじゅ)

 地中海を原産とするクスノキ科の常緑高木ゲッケイジュ(Laurus nobilis)の葉や果実を用いる。葉を月桂葉、果実を月桂実ともいう。

 月桂樹は1905年頃にフランスから日本へ渡来した新しい輸入植物であり、日露戦争の戦勝記念樹としても有名である。月桂樹は英語名でローレルとか、ベイトゥリー(Bay Tree)と呼ばれ、香辛料としてもローレルとかローリエ、ベイリーフなどと呼ばれている。

 ギリシャ神話の中で月桂樹はダフネの化身と伝えられ、また古代ギリシャでは葉の冠、月桂冠を勝利の象徴としてオリンピックの勝者の頭に飾った。ローマ時代には万能薬とされ、病人が出ると戸口にこの枝を下げたと伝えられている。また葉はヒステリーに、果実は堕胎薬として用いられたという。

 葉には芳香と苦味があり、単独であるいは他のハーブとともブーケ・ガルニとして魚や肉の煮込み料理に用いられる。葉には精油が1~3%含まれ、主成分はシネオール、オイゲノール、ゲラニオールなどである。芳香性の苦味健胃薬や駆風薬、去痰薬、利尿薬として知られている。また民間では実や葉の煎液などを、神経痛やリウマチの治療薬として用いている。また浴湯料やポプリ、不眠症のハーブピローなどにも利用している。

水曜日, 9月 19, 2012

月季花

○月季花(げっきか)

 中国原産で中国の西部に分布しているバラ科の常緑低木コウシンバラ(Rosa chinensis)の花蕾や開きかけた花を用いる。紅紫色や淡紅色の花が四季を通して咲くためコウシン(庚申)バラの名がある。

 花にはローズ油と同じ成分が含まれ、よい香りがある。漢方では活血・調経・消腫の効能があり、月経不順や生理痛、打撲傷、腫れ物、瘰癧(頸部リンパ腺腫などに用いる。月経不順や胸腹が張って痛むときには丹参、益母草・当帰などと配合する。腫れ物や打撲には新鮮は花や葉をすりつぶしたものを塗布する。

火曜日, 9月 18, 2012

軽粉

○軽粉(けいふん)

 粗製塩化第一水銀の結晶を軽粉という。化学名を甘汞(Hg2Cl2またはHgCl)という。軽粉をさらに生成すると粉霜になる。

 水銀と胆礬(硫酸銅)や白礬(硫酸アルミニウム・カリウム)、さらに食塩(塩化ナトリウム)を混合して過熱すると、蒸発した蒸気から昇華して上蓋に白い粉が付着する。これが軽粉である。

 古代から化粧用の白粉としても使われた。日本でも伊勢白粉という軽粉がよく知られていた。これ軽粉は江戸時代には駆梅の聖薬としても盛んに利用されていた。軽粉の毒性は低いとされているが、日光により有毒の塩化第二水銀(昇汞)や金属水銀に変化し、色も黒くなる。

 甘汞はかつて西洋医学でも水銀利尿剤、あるいは緩下剤、防腐剤として用いられていた。漢方では駆梅・逐水・消腫の効能があり、内服および外用薬として用いる。

 内服では排便、排尿を促進する全身性の浮腫や腹水、便秘、梅毒などの症状に用いる。全身の浮腫で便秘を伴うときには大黄・牽牛子・甘逐・大戟などと配合する(舟車丸)。梅毒による筋肉痛、関節痛には牛膝・土茯苓と配合する(七宝丹)。梅毒が進行して関節の屈伸ができないときには黄連解毒湯と配合する(甘汞丸)。

月曜日, 9月 17, 2012

桂皮

○桂皮(けいひ)

 中国南部やインドシナ半島に自生し、栽培されているクスノキ科の常緑高木ケイ(Cinnamomum cassia)の樹皮を桂皮という。

 桂皮は薬料、香料として古くから世界各地で用いられ、神農本草経をはじめエジプトのエーベルス・パピルス、インドのチャラカ本草、ギリシャのマテリア・メディカなどにも記載がみられる。古代エジプトでは没薬などの香薬とともにミイラを作るときに用いられていた。

 現在、日本にはおもに中国から1600トンあまりの桂皮が輸入されているが、薬用とされるのは約15%程度で、大部分は香辛料としてソースなどの原料に用いられている。

 日本では漢方生薬として桂皮と呼ばずに、桂枝と肉桂とを区別として用いている。日本薬局方では桂皮としてのみ規定し、老木の枝や樹齢6~7年の比較的若く、樹皮の薄いものが用いられている。中国ではおもに樹齢10年以上のケイの樹皮を肉桂、柔らかい 枝を桂枝として称しているため、日本でいう桂皮は桂枝ではなく、どちらかというと肉桂に準じるものである。日本市場には桂枝も流通しているので、桂枝を用いる場合には桂枝と指定すればよい。

 日本市場の桂枝はおもに広南桂皮やベトナム桂皮(安南桂皮)であり、市場での桂皮は幹皮の最外層が削り落とされ、管状あるいは半管状になっている。桂枝は製油を1~3.5%含み、その成分のほとんどは芳香性のケイアルデヒドである。そのほかジテルペノイド類や各種タンニンが含まれている。

 ケイアルデヒドには解熱、鎮静・鎮痙、抹消血管拡張、抗菌作用などが認められ、また水製エキスには抗アレルギー、利尿、抗血栓作用などが報告されている。中国医学では体表を温める桂枝は解表薬、体内を温める肉桂は温裏薬に分類され、区別されている。

 日本漢方では桂皮を桂枝と肉桂のいずれの場合にも応用し、両者の効能を合わせたものとして認識しているため、効能に関しては各項目に譲る。また注意事項として、桂枝を含む医療用の漢方製剤には薬物アレルギー(薬疹)に注意するよう指示されている。

金曜日, 9月 14, 2012

鶏内金

○鶏内金(けいないきん)

 キジ科ニワトリの胃である砂囊の内膜を用いる。砂囊を取り出してまだ温かいうちに内膜を剥ぎ取って水洗いし、乾燥する。

 養鶏は朝鮮を経て弥生時代に日本に伝わり、紀元前300年よりも以前に飼われていたと推定されている。最初は闘鶏や観賞用として雄鶏が珍重され、祭礼などに用いられていた。ちなみに日本で鶏卵や鶏肉が一般に食べられるようになったのは明治以降である。

 薬としては鶏肉や鶏肝などさまざまな部分が用いられ、砂囊にはホルモンのベントリクリン、ケラチン、ビタミンB1・B2、ナイアシン、ビタミンCなどが含まれ、内服により胃液の分泌量や酸度の増加が認められている。

 漢方では消食積・止瀉・縮尿・化結石の効能があり、消化不良や腹部膨満感、悪心、嘔吐、下痢、夜尿、遣尿、胆石、尿路結石などに用いる。消化不良には単独あるいは山査子・神麹・麦芽などと配合する。胆石症には茵蔯蒿・金銭草などと配合する(胆道一号方)。

木曜日, 9月 13, 2012

景天三七

○景天三七(けいてんさんしち)

 日本全土、東アジアからシベリアにかけて分布するベンケイソウ科の多年草ホソバノキリンソウ(Sedum aizoom)の全草を用いる。根は景天三七根という。

 全草にはアルカロイドやフラボノイドなどが含まれ、凝血時間や出血時間の短縮する作用がある。漢方では止血・化瘀の効能があり、吐血や鼻血、下血、血尿、性器出血、打撲傷などに用いる。また動悸や煩躁、不眠にも用いる。外傷性の出血や火傷には生の全草から搾った汁を塗布する。

水曜日, 9月 12, 2012

景天

○景天(けいてん)

 中国原産で、日本にも古くに渡来して本州や九州などにも野生化しているベンケイソウ科の多年草ベンケイソウ(Sedum erythrostictum)の全草を用いる。根を抜いても容易に枯れない強さがあり、不死身といわれた弁慶にたとえてベンケイソウという。日光地方では戸口に吊り下げて魔よけにし、イキグサ(生草)とも呼ばれている。

 葉は肉質であり、糖質のセドヘプツロース、フルクトース、ショ糖などが含まれる。漢方では清熱解毒・止血の効能があり、腫れ物や丹毒、吐血、下血、創傷などに用いる。

 日本の民間では肉厚の葉をあぶって表面の薄皮を除き、肉面を腫れ物に貼り、膿を吸い出す。チドメグサともいわれ、傷口に葉を揉んでつけたり、薄皮を剥いで貼る。ハチ刺されにも葉の絞り汁を塗る。日本で観賞用に栽培されているオオベンケイソウ(S.spectabile)は大正時代に日本に渡来したものであるが、同様に用いられる。

火曜日, 9月 11, 2012

鶏屎白

○鶏屎白(けいしはく)

 キジ科ニワトリの糞の白い部分を用いる。糞の白い部分を日干しした後、白酒を加えながらとろ火であぶって乾燥し、それをすって粉末にする。一般に雄鶏の分がよいとされている。

 鶏屎白は黄帝内経素門にも鶏矢として記載されているくらいに古くから用いられていた薬物である。漢方では利水消種・解毒・止痙の効能があり、腹水、浮腫、黄疸、尿路結石、関節炎、筋肉の痙攣、痛風などに用いる。

 金匱要略ではこむら返りや四肢の硬直に鶏屎白を粉末にして単独で服用する(鶏屎白散)。またスズメの糞も白丁香と呼ばれ、腹部の腫瘤、虫歯、目の混濁(目翳)などの治療に用いられる。日本では江戸時代からウグイスの糞が美顔料として親しまれている。

月曜日, 9月 10, 2012

鶏子白

○鶏子白(けいしはく)

 キジ科ニワトリの卵の白身を用いる。卵殻膜は鳳凰衣という。鶏卵の約65%は白身であり、白身は粘性の違う外水様卵白、濃厚卵白、内水様卵白からできている。そのタンパク質はオボアルブミン(75%)、オボムコイド、オホムチン、コンアルブミン、リゾチームなどでほとんど全てのアミノ酸が含まれている。

 卵白は糖質や脂肪が少ない高タンパク低カロリー食品で、生よりも加熱凝固させたほ方が消化吸収がよい。リゾチームは鶏卵から発見された溶菌作用のある酵素の一つで、生物界に広く分布しているが卵白中に多く含まれるため、現在全てのリゾチームの生産は卵白から行われている。

 リゾチームはソーセージカマボコなどの保存料や清酒の変敗の予防などに用いられるほか、医薬品にも利用される。リゾチーム塩化物には抗菌作用のほか、痰や膿の分解、出血抑制、組織修復、消炎などの作用があり、消炎酵素剤として風邪薬や皮膚疾患、歯槽膿漏などの外用薬に配合されている。

 漢方では清熱解毒・潤肺・利咽の効能があり、咽頭の炎症や嗄声、咳嗽、結膜炎、下痢、火傷、腫れ物などに用いる。口内炎に炎症があり、声が出ないときには半夏・苦酒などと配合する(半夏苦酒湯)。

 火傷や皮膚炎、子宮頸部のびらんなどには新鮮な卵白で外用する。日本の民間療法で鶏卵はひょう疽の治療に有名で、生卵の一端に指の入るだけの穴を開け、その中にひょう疽になった指を40~50分入れると痛みが緩和する。生卵に砂糖や蜂蜜を加えてかき混ぜたところに、やや熱くお燗した日本酒を少しずつ入れとろりとさせた卵酒も、よく知られた風邪の民間療法である。なお鳳凰衣には補陰・止咳の効能があり、慢性的な咳嗽、咽痛、嗄声、口内炎などに用いる。

土曜日, 9月 08, 2012

鶏子黄

○鶏子黄(けいしおう)

 キジ科ニワトリの卵の黄身を用いる。白身を鶏子白、卵殻を鶏子殻、卵殻膜を鳳凰衣といい薬用にする。卵黄は約15%のタンパク質と約30%の脂肪分を含み、糖質は0.2%と少ない。卵黄タンパク質の大部分はリポビテリン、リポビテレニンなどのリポタンパク質であり、リポタンパク質と結合している脂質の大部分はレシチンを主とするリン脂質である。

 卵黄のタンパク質のアミノ酸組成はイソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニンなどの必須アミノ酸をはじめ、ほとんど全てのアミノ酸が含まれている。また脂溶性ビタミンA・D・Eのほか、ビタミンB1・B2、ナイアシン、パントテン酸、葉酸、鉄、リン、カルシウムなども含まれる。

 黄色の色素はカロテノイド系のカロチンとキサントフィルである。レシチンは痔や湿疹、あせも、あかぎれなどの外用薬、また静脈用脂肪乳化剤として用いられるほか、肝硬変の予防やアルツハイマー病の治療にも効果があると報告されている。化粧品としても乳液、口紅、クリーム、ポマード、シェービングクリームなどに配合されている。また卵黄にはコレステロールが含まれているが、レシチンには血中コレステロールを減らす作用もある。

 漢方では補陰・補血・止痙の効能があり、煩悶、不眠、熱病による痙攣や意識障害、吐血、下痢、下血、火傷、湿疹などに用いる。胸部に熱がこもって苦しく、眠れないときには黄連・黄芩などと配合する(黄連阿膠湯)。熱病による痙攣や脱水症状には阿膠・牡蠣などと配合する(大定風珠)。また金匱要略には腫れ物に排膿散を用いるときに枳実・桔梗・芍薬の散剤を鶏子黄で飲み下すとある。

 また、卵黄をフライパンに入れて弱火で長時間炒ると黒く粘り気のある油が得られる。この卵黄油は古くから日本の民間療法として心臓病、白髪、腰痛などに用いられている。

金曜日, 9月 07, 2012

桂枝

○桂枝(けいし)

 中国南部やインドシナ半島に自生し、栽培されているクスノキ科の常緑高木ケイ(Cinnamomum cassia)の若枝を桂枝という。ケイは学名をシナモム・カシアといい、カシア(シナ肉桂)とも呼ばれている。

 一般にケイのことをシナモンと総称するが、欧米でシナモンといえばおもにセイロンケイヒ(C.zeylanicum)のことである。いずれも香料として用いられるが、辛味はカシアがシナモンよりも強く、甘味はシナモンのほうが強い。このため香辛料としてはシナモン、漢方生薬としてカシアが利用される。

 日本や局方では桂枝としてのみ規定しているため、日本漢方ではあまり桂枝と肉桂の区別を厳密にしないが、日本薬局方解説書では直径1cm以下の皮を帯びた細枝を桂枝として記載している。中国ではその年に芽吹いた若い嫩枝を桂枝といい、樹齢10年以上の樹皮を肉桂と称している。張仲景の傷寒論や金匱要略の処方では全て桂枝とあり、この桂枝が細い若枝のことかどうかは疑問視されている。

 桂枝には芳香性の精油成分であるケイアルデヒドが含まれ、血行促進、鎮静・鎮痙、解熱、抗菌、利尿などの作用が報告されている。ただし、ケイアルデヒドは時に皮膚アレルギーを起こすことがある。

 桂枝は漢方では発汗・止痛・温通・利水などの効能があり、感冒、筋肉痛、関節痛、血行障害、月経異常などに用いる。また薬徴には「主に衝逆を治す」とあり、のぼせを鎮めるために用いられる。とくに張仲景の処方の多くに桂枝が配合され、幅広く応用されている。

 中国医学では桂枝と肉桂を対比して、体表を温める桂枝は解表薬、体内を温める肉桂は温裏薬に分類している。このため中国では一般に八味地黄丸の桂枝を肉桂に代えて用いる(附桂八味丸)。

木曜日, 9月 06, 2012

鶏骨草

○鶏骨草(けいこつそう)

 東南アジアからマレーシアにかけて分布しているマメ科のつる性木本シロトウアズキ(Abrus fruticulosus)の根つきの全草を用いる。鶏骨草は中国の広東・広西省で用いられていた民間薬である。

 成分にはアブリン、コリン、ステロイド、フラボノイドが含まれ、抗炎症作用や赤血球溶解抑制作用が報告されている。漢方では清熱解毒・退黄・活血の効能があり、黄疸、肝炎、胃痛、化膿性乳腺炎、瘰癧(頸部リンパ腺腫)、打撲傷などに用いる。

 民間では生の搾り汁を乳腺化膿症や蛇咬傷などの外用薬として、また煎じて黄疸や打撲傷、関節痛の内服薬として用いている。近年、中国では急性肝炎の特効薬(鶏骨草丸)として注目されているが、慢性肝炎に対してはあまり効果がないという報告もある。黄疸の治療には鶏骨草に紅棗を配合して服用する。

水曜日, 9月 05, 2012

鶏血藤

○鶏血藤(けいけっとう)

 中国の南部、台湾に分布し、沖縄県で観賞用として栽培されるマメ科のつる性植物ムラサキナツフジ(Millettia reticulata)などのつる茎を用いる。

 この鶏血藤と呼ばれる生薬は広東・広西・甘粛省ではムラサキナツフジ、広東・広西・雲南省では蜜花豆(Spatholobus suberectus)、広東・広西・雲南省では白花油麻藤(Mucuna birdwoodiana)、江西、四川省では香花岩豆藤(Millettia dielsiana)などの植物が用いられている。特にムラサキナツフジの茎は昆明鶏血藤と呼ばれ、香花岩豆藤は豊城鶏血藤と呼ばれている。

 このように鶏血藤の基原植物はさまざまであるが、切ると赤い汁が出ることからその名がある。それぞれの成分は不詳であるが、動物実験では昆明鶏血藤に子宮収縮作用、豊城鶏血藤に消炎作用や鎮静・催眠作用、蜜花豆に心臓抑制作用などが報告されている。

 漢方では補血・行血・舒筋活絡の効能があり、月経異常や生理痛、麻痺、関節痛、打撲痛などに用いる。月経不順や無月経には四物湯・八珍湯などと、生理痛には川芎・延胡索・香附子などと、リウマチなどによる関節や筋肉の痛み、痺れには羌活・独活などと、脳卒中による麻痺には桃仁・紅花などと配合する。

 近年、中国では再生不良性貧血や放射線治療による白血球減少などにも応用されている。鶏血藤を煎じつめて濃縮し固めたものを鶏血藤膠という。効能はほぼ同じであるが、鶏血藤よりも滋養作用や止痛作用が優れている。これを製剤化したものが鶏血藤浸膏片という名で販売されている。ただし、有名な雲南省凰慶の鶏血藤膏はマツブサ科の南五味子などを主薬とした複合剤である。

月曜日, 9月 03, 2012

鶏冠花

○鶏冠花(けいかんか)

 熱帯アジア、インドを原産とするヒユ科の一年草ケイトウ(Celosia cristata)の花序を用いる。ただし一般に流通しているのはノゲイトウ(C.argentea)の花穂である。本来、ノゲイトウの花は青葙花、種子は青葙子というが、混同されることが多い。一方、ケイトウの種子である鶏冠子もしばしば青葙子として扱われている。

 花の色が赤く雄鶏のとさかに似ていることから鶏頭とか鶏冠という名がある。ただし花の色には紅色、桃色、黄色などがあり、薬用には白鶏冠花が最もよいとされている。花の成分にはアルカロイドやトリテルペノイドが含まれるといわれるが、詳細は不明である。

 漢方では収渋薬として止血・止瀉・止帯などの効能があり、痔、下血、吐血、血痰、血尿、血性帯下などさまざまな出血に対して用いる。下血には・地楡・塊花、痔には防風炭・黄芩炭、性器出血には血余炭・棕櫚炭・烏賊骨などと配合する。

 赤白痢や難治性の下痢には椿根皮・石榴皮などと配合する。また帯下には烏賊骨・芡実などと配合する。凍瘡には煎液で患部を洗う方法もある。

土曜日, 9月 01, 2012

鶏肝

○鶏肝(けいかん)

 キジ科のニワトリの肝臓を用いる。紀元前3200年頃にマレー半島でニワトリの野生種を飼育して家畜化したのが養鶏の始まりで、前1400年頃に中国に伝わり、日本には弥生時代に青銅器文化とともに朝鮮から伝えられたといわれている。

 ニワトリはさまざまな部位が薬用にされ、肉は鶏肉、砂囊の内壁は鶏内金、糞便の白い部分は鶏屎白と呼ばれている。肝臓にはタンパク質、脂肪、炭水化物、カルシウム、リン、鉄、ビタミンA・B1・B2、ニコチン酸、ビタミンCなどが含まれている。

 漢方では肝臓を補う効能があり、視力の低下や栄養障害、妊娠中の出血などに用いる。鶏肝をゆでた後に乾燥し、山薬の粉末を加えて細末にしたものを丸薬として虚弱体質や夜盲症の治療に用いる(鶏肝丸)。また中国の民間療法では百日咳の治療に鶏肝など家禽の肝が用いられている(百日咳片)。日本でも百日咳やマイコプラズマ肺炎による咳嗽に効果があったことが報告されている。

金曜日, 8月 31, 2012

荊芥

○荊芥(けいがい)

 中国北部原産で中国、朝鮮半島に分布し、栽培されるシソ科の一年草ケイガイ(Schizonepeta tenuifolia)の花穂あるいは地上部を用いる。ケイガイはアリタソウとも呼ばれているが、これとは別にアカザ科のアリタソウという植物もあり、この全草は土荊芥という。

 ケイガイは日本にも古くから伝えられ、仮蘇という異名もある。全草に柔毛があり、強い香気がある。中国では花穂のついた全草を用い、特に花穂だけを荊芥穂、茎葉のみを荊芥梗という。日本薬局方では花穂のみが規定され、一般に香味の強いものが良品である。

 全草には精油を含み、精油成分のメントン、プレゴン、リモネン、ピネンなどやフラボノイドのシゾネペトサイドA・B・Cが含まれる。荊芥には鎮痛、抗炎症作用、抗結核菌作用などが報告されている。

 漢方では解表・利咽・消種・止血の効能があり、感冒、発熱、頭痛、咽痛、結膜炎、腫れ物、種々の出血など用いる。荊芥は性質が軽揚であり、辛味も激しくなく、微温でも燥性がないため、風寒、風熱のいずれの熱性疾患にも応用できる。また咽痛の要薬としても有名である。荊芥穂は香気が強く、発散・発汗の効能に優れ、眩暈、とくに産後の眩暈発作に効果がある。また黒くなるまで炒ったものを荊芥炭といい、止血の効能に優れ、鼻血や血便、不正性器出血などさまざまな出血症状に用いる。

木曜日, 8月 30, 2012

薫陸香

○薫陸香(くんろくこう)

 薫陸香の名は「名医別録」に収載されているが、本草綱目では乳香と薫陸香は同じものとして扱われている。現在、中国では一般に薫陸香は乳香の別名とされている。しかし、乳香はカンラン科の植物の樹脂であり、薫陸香はインドの乾燥高地に自生する同属植物のボスウェリア・セラータ(Boswellia serrata)の樹脂と考えられている。

 この樹脂はインドではサライグックル(Salai guggul)と呼ばれ、一般にインド乳香と呼ばれている。かつて古代オリエントやエジプトでは用いられた乳香がインドに伝わり、インドではこれとよく似たボスウェリア・セラータの樹脂に本物の乳香を混ぜて加工したものを用いていたが、5~6世紀にこれが中国に伝わり薫陸香し呼ばれた。

 8世紀には本物の乳香がアラビアから伝わるようになったため、乳香と薫陸香の区別が曖昧になったと考えられる。また同じウルシ科の植物で地中海沿岸に産するものの樹脂をマスチック(Mastic)といい、古代オリエントでは口中剤としてチューインガムのように噛む習慣があった。これも薫陸香や乳香と混同されていたが、現在では洋乳香という。この洋乳香はギリシャのキオス島に多く産することからキオス・マスチックといい、インドに産する薫陸香はインデイアン・マスチックという。

水曜日, 8月 29, 2012

黒焼き

○黒焼き

 日本の伝統的な修治法のひとつで、空気を絶った状態で生薬を加熱し、黒色の粉末にしたものをいう。黒焼きは室町時代に中国から伝えられた加工法であるが、江戸時代に独自に発展し、漢方だけでなく民間療法として多く用いられた。

 一般に生薬を素焼きの土器に入れて粘土で密閉し、窯の中に入れて蒸し焼きにする。単に炭化させるのではなく、薫製化したものであり、焼いて性を存すというように有効成分を残している。植物や昆虫は3~4時間、動物は4~5時間くらい加熱し、温度は400℃ぐらいが適当といわれている。

 普通は灰黒色で光沢があり、窒素やリンなどの有機化合物が含まれる。しばしば「~霜」と呼んでいるが、「~霜」は必ずしも黒焼きを意味するものではない。日本の民間薬としてよく知られているものにモグラの黒焼き(土竜霜)、シカの角の黒焼き(鹿角霜)、マムシの黒焼き、フナの黒焼き、ナスの蔕の黒焼き、髪の毛の黒焼き(血余霜)、サルの頭の黒焼き(猿頭霜)にどがある。

 伯耆の国(現在の島根県)の民間薬として有名な伯州散は津蟹、反鼻、鹿角の黒焼きを配合したもので、化膿性疾患の排膿促進や肉芽形成の効能がある。一方、中国では空気を遮断せずに黒焼きにすることを妙炭といい、しばしは収斂止血の効能を増強する目的で行われる。例えば荊芥(荊芥炭)、山梔子(山梔炭)、乾姜(炮姜)、蒲黄、大薊、小薊、地楡、血余炭、陳棕炭などがある。

月曜日, 8月 27, 2012

黒文字

黒文字(くろもじ)

 北海道の渡島半島、本州、四国、九州のほか、中国大陸などに分布するクスノキ科の落葉低木クロモジ(Lindera umbellata)の枝葉や根皮を用いる。クロモジの名は樹皮にある黒い斑点を文字にみたてたものである。

 材には芳香があり、噛むと甘い香りがあり、皮つきのまま削って楊枝として賞用される。このため爪楊枝のことをクロモジということがある。また雪の上を歩く輪かんじきの材料としても知られている。

 枝葉には精油成分のシネオール、ゲラニオール、リナロールなどが含まれ、虚痰作用が知られている。枝葉を水蒸気蒸留して得られるクロモジ油は石鹸香料香水としても利用される。

 漢方では用いないが、中国ではおもに根皮を、日本(山陰地方)では枝葉を民間薬として用いる。島根県の出雲地方ではマキのように束ねて、八百屋でも売られている。一般に煎じて脚気や浮腫、胃腸炎の治療に、粉末を止血薬に、また浴湯料としていんきん、たむしなどの皮膚病にも用いる。ひょう疽には樟脳・甘草とともに煎じた液で痛む指を温めるとよい。

土曜日, 8月 25, 2012

苦楝皮

○苦楝皮(くれんぴ)

 西南アジア原産と考えられ、日本では伊豆半島以南、四国、九州に野生状態で生育しているセンダン科の落葉高木センダン(Melia azedarach)の樹皮を用いる。

 分類に諸説があるがセンダンを一般に楝樹といい、タイワンセンダンを苦楝、トウセンダン(M.toosendam)を川楝という。いずれも苦楝皮の基原植物として用いられる。一方、タイワンセンダンの果実である苦楝子は、川楝子として流通している。ちなみに双葉よりかんばしいといわれるセンダンはビャクダン(白檀)のことで全く別の樹木である。

 一般にセンダンの幹皮や樹皮を苦楝皮というが、根皮をとくに苦楝根皮ともいう。中国ではおもに根皮を用い、日本ではおもに幹皮を用いる。樹皮の成分にはトウセンダニン(メルソシン)、センダニン、メリアノン、マルゴシン、アスカロール、バニリン酸、クマリン誘導体などが含まれ、駆虫作用化や抗真菌作用が報告されている。近年、センダン葉の抽出エキスに、直接、インフルエンザウイルスを不活性化する効力が認められ、空間消毒用の噴霧器が開発されている。センダンエキスは有毒とされるが、多量に用いると顔面紅潮や眠気が出る程度で、副作用はあまり強くない。

 漢方では清熱燥湿・駆虫の効能があり、おもい回虫や条虫の駆虫に用いる。寄生虫症の治療には単独で、あるいは石榴根皮と配合して用いる(石榴根湯)。また蕁麻疹や湿疹、刺虫症などの外用薬として用いる。またセンダンの花を楝花といい、むしろの下に敷いて蚤やの予防に用いたり、焼いて出る煙を蚊の駆除に用いた。

水曜日, 8月 22, 2012

クラーレ

○クラーレ

 南アメリカ大陸の熱帯低地、アマゾン川やオリノコ川流域などで原住民が矢毒として用いていた黒褐色の植物性毒物のことをいう。各地域で毒物の貯蔵容器が異なるため、その容器によりアマゾン川流域の竹筒クラーレ(tubo-curare)、オリノコ川流域の壺クラーレ(pot-curare)、ギアナ、コロンビア地方の瓢箪クラーレ(gourd-curare)に区別される。

 これらの基原植物はひとつではなく、マチン科の植物Strychnos castelnaei、ツヅラフジ科の植物Chondrodendron tomentosumなどが知られている。竹筒クラーレはツヅラフジ科の植物、壺クラーレはツヅラフジ科やマチン科の植物、瓢箪クラーレはマチン科の植物を用いている。これらの樹皮や材をよく煮詰めた煮汁がクラーレで、これを狩猟の際の矢の先に塗る。この毒を射込まれた動物は痛むことなく筋肉が弛緩して動かなくなり、呼吸麻痺で死亡する。しかもこの動物をすぐに食べても、有毒物質は消化管から吸収されないため中毒を起こさない。

 これらのクラーレから多数のアルカロイドが分離されているが、ツヅラフジ科の植物から得られたツボクラリンが有名である。ツボクラリンは運動神経の伝達物質であるアセチルコリンと拮抗し、アセチルコリンの作用を失活させる。ツボクラリン塩化物(アメリゾール)は手術時の筋弛緩薬として用いられている。

火曜日, 8月 21, 2012

瞿麦

瞿麦(くばく)

 本州北部、北海道根アジア・ヨーロッパの温帯に分布するナデシコ科の多年草カワラナデシコ(Dianthus superbus)及び中国原産のセキチク(D.chinensis)の全草を用いる。

 ナデシコは本州中部以南のカワラナデシコと中部以北のエゾカワラナデシコなどの変種に区別されるが、種のレベルは同じであり、同様に用いられる。またセキチクをカワラナデシコ(唐撫子)というのに対して、カワラナデシコはヤマトナデシコ(大和撫子)ともいう。

 生薬としては開花時の地上部の全草を瞿麦として用いる。また9月頃に果実ごと全草を採取し、乾燥させた後に手で揉んで集めた種子は瞿麦子という。一般に中国では全草が、日本では種子が好んで用いられている。

 ナデシコの全草には少量なアルカロイド、セキチクにはサポニンなどが含まれ、瞿麦には利尿作用や心臓抑制作用、腸蠕動の興奮作用などが報告されている。漢方では全草に清熱・利尿・破血・通経の効能があり、主に尿路疾患に応用され、血尿を伴う膀胱炎や尿路結石に適している。

 膀胱炎には木通・滑石・車前子などと配合する(八正散)。尿路結石には車前子・石韋・滑石などと配合する(石葦散)。金匱要略では排尿障害には栝楼根・茯苓などと配合して用いている(栝楼瞿麦丸)。一方、瞿麦子には利尿作用のほか通経作用があり、民間薬として浮腫や月経不順に用いられている。ただし瞿麦子を多量に用いると流産の恐れがあり、かつて妊娠中絶薬として利用されたこともある。

月曜日, 8月 20, 2012

熊柳

○熊柳(くまやなぎ)

 日本全土の山野に自生するクロウメモドキ科のつる性落葉低木クマヤナギ(Berchemia racemosa)の葉や茎を用いる。福島県の山間部では、古くからこのつるを乾かして利尿剤として用いていた。有効成分は不詳である。

 日本固有の生薬であり、民間療法として膀胱炎や尿路結石、胆石、腰痛などに利用されている。胆石や尿路結石には連銭草裏白樫などと配合する(消石茶)。

 幹を30cmくらいに切って真ん中を炙ると、両端から油が出る。この油を口内炎に塗って治療する方法もある。ちなみに太平洋戦争中、医薬品が不足したため、クマヤナギの茎葉を乾燥したものを煎じた苦味健胃薬として用いたといわれている。

土曜日, 8月 18, 2012

隈笹

隈笹(くまざさ)

 日本に分布するイネ科のチシマザサ(Sasa kurilensis)などのササの葉を用いる。属名にSasa属という学名がつけられているように、ササは日本の温帯林に特徴的な植物である。ササはタケ類の小型化したもので、寒冷な地域に適応したものとされている。

 クマ笹という名は葉の緑が白く隈どられていることに由来する。若葉の時には全体に緑色であるが、秋から冬にかけて緑が枯れて白い隈ができる。しかし、大型のササの葉を俗に「熊笹」と呼ぶこともあり、また実際に熊がササを好んで食べることもよく知られている。

 クマ笹エキスには、チシマザサ、クマイザサ(S.senanensis)などが利用されている。ササの葉は笹だんごやちまきなど食べ物を包むのに利用されている。ササの葉に包むと食べ物が長持ちするといわれるが、これはササに含まれる安息香酸の殺菌・防腐作用と関係があるといわれる。

 葉にはクロロフィル(葉緑素)やリグニン、多糖体(バンフォリン)、鉄、カルシウム、ビタミンC・K・B1・B2などが含まれ、胃潰瘍や胃炎、歯槽膿漏、口内炎、口臭、体臭などに対する薬理作用が知られている。近年、成分のバンフォリンに免疫賦活作用や制癌作用があるとも報じられている。

 民間では健胃薬や疲労回復、糖尿病高血圧の予防などに用いられている。また外用薬として切り傷、口内炎、湿疹などに、薬湯にして汗疹によいといわれている。一般にササの葉をミキサーにかけた青汁や、何度か煮詰めるように煎じたクマ笹エキスが服用される。製剤化されたものではサンクロンや松葉などと配合した松寿仙などがある。

金曜日, 8月 17, 2012

狗脊

○狗脊(くせき)

 奄美諸島以南、台湾、中国南部、東南アジアなどに分布するシダ植物タカワラビ科のタカワラビ(Cibotium barometz)の根茎を用いる。秋から冬にかけ、地上部が枯れたときにこの根を採取する。長く這った根茎の形が犬の脊骨に似ているため狗脊といわれ、根茎と葉柄の基部の周囲が黄色の毛に覆われているため金毛犬脊ともいわれる。

 中国四川省で多く産出されるが、福建省産のほうが品質がよい。また陜西省ではオシダ科の植物の根茎が狗脊あるいは黒狗脊と呼ばれたり、湖南・江西・広西省ではシシガシラ科のオオカグマ(Woodwardia japonica)の根茎が狗脊として用いられている。

 タカワラビの根茎にはデンプンが約30%のほか、アスピジノールなどが含まれる。漢方では肝腎を補い、筋骨を強め、風湿を去る効能があり、足腰の衰弱、失禁、頻尿、遣精、帯下などに用いる。高齢者などで不眠、健忘、精神疲労、眩暈、脱力感のみられるときには人参・地黄・夜交藤などと配合する(滋補片)。腰や背がこわばって痛み、仰向けになれず、足や膝の弱ったときには桑寄生・杜仲・牛膝などと配合する。リウマチなどによる関節痛や腰痛などには秦艽・続断・牛膝などと配合する。

 根茎の周囲の柔毛は金狗脊黄毛と呼ばれ、あぶって粉末にしたものを止血・生肌薬として外傷性の出血などに外用する。

木曜日, 8月 16, 2012

苦参

○苦参(くじん)

 日本各地、朝鮮半島、中国、シベリアなどに分布するマメ科の多年草クララ(Sophora flacescens)の根を用いる。苦参という名は苦い根という意味で、和名のクララも苦いためにクラクラとすることに由来する。

 成分にはアルカロイドのマトリン、オキシマトリン、アナギリンやフラボノイドのクラリノールなどが含まれ、マトリンには中枢神経抑制や血管や子宮を収縮する作用、利尿作用、抗真菌・駆虫作用などが報告されている。

 このマトリンや種子のシチシンなどのアルカロイドは有毒であり、誤飲すれば痙攣などが発現する。またクララの茎や葉の煎液は農業用の殺虫剤としても知られている。漢方では清熱燥湿・止痒・利水の効能があり、さまざまな炎症や細菌性の下痢、排尿障害、湿疹や皮膚掻痒症などに用いる。

 下痢には木香・甘草などと配合し、黄疸には竜胆・山梔子などと配合し、帯下などには黄柏・蛇床子などと配合する。皮膚疾患には外用薬としても用いる。近年、中国では細菌性腸炎や肺炎、扁桃炎などに苦参注射液、急性肝炎などに苦参の粉末カプセル、白癬菌症に苦参エキスの配合された軟膏などが応用されている。

水曜日, 8月 15, 2012

枸櫞皮

○枸櫞皮(くえんひ)

 日本ではミカン科の常緑果樹レモン(Citrus limon)の成熟果実の皮を枸櫞皮という。ところで中国の植物名で枸櫞というのはシトロン(マルブッシュカン:C.medica)のことで、その生薬名は香櫞という。レモンはインド北東部原産とされ、シトロンから派生したといわれている。ちなみにレモンのことをフランス語でシトロンという。

 レモンは中国も宋の時代に伝えられたが、あまり栽培されなかった。日本には江戸時代末になって伝わり、瀬戸内海の島々などでもかなり栽培されていたことがある。クエン酸という名はレモン汁から最初に単離されたことに由来し、かつてクエン酸の製造原料にもされていた。

 レモンの皮には精油が含まれ、主成分のd-リモネンやシトラールのほか、フラボノイドのヘスペリジンなどが含まれる。レモンは古くから航海などにおけるビタミンCの補給源として利用され、また果汁のクエン酸には殺菌効果がある。枸櫞皮は芳香性健胃薬や芳香料として用いられるほか、レモンパックやレモン風呂などの美容面にも利用されている。

火曜日, 8月 14, 2012

枸杞葉

枸杞葉(くこよう)

 ナス科の落葉小低木クコおよびナガバクコの柔らかい葉や茎を用いる。果実は枸杞子、根は地骨皮という。クコの若葉は和え物にしたり、ご飯に炊き込んで枸杞飯などにも利用できる。

 仙人の薬といわれる地仙丹とは、春のクコの葉「天精草」、秋のクコの果実「枸杞子」、冬のクコの根「地骨皮」を併せて丸薬にしたものと伝えられている。

 葉にはベタイン、ルチン、β-シトステロール、ビタミンCなどが含まれ、動脈硬化の予防や降圧作用がある。漢方では滋養・清熱・明目の効能があり、体力の低下や精力の減退、微熱、視力低下などに用いる。ただし、葉は漢方生薬としてより茶剤として利用されている。一般にクコ茶として動脈硬化や高血圧の予防によく利用されている。民間では安眠薬としても用いられる。また茎や葉を煎じた液は毛髪のクセを治す作用があるともいわれる。

月曜日, 8月 13, 2012

枸杞子

枸杞子(くこし)

 日本から朝鮮、中国、台湾、マレー半島に分布するナス科の落葉小高木クコ(Lycium chinense)、およびナガバクコ(L.barbarum)の成熟した果実を用いる。クコの根皮は地骨皮といい、葉は枸杞葉という。

 神農本草経の上品にも枸杞の名があり、古くから不老長寿の効があるといわれ、日本でも平安時代から強壮薬としてよく知られている。果実は2cm程度の長楕円形で、成熟した果皮は赤く光沢がある。枸杞は中国の薬膳料理にもしばしば用いられ、また日本でも枸杞酒として親しまれている。

 果実にはベタイン、ゼアキサンチン、フィサリエンや各種ビタミンなどが含まれ、降圧作用や抗脂肪肝作用などが報告されている。漢方では肝腎を補い、血を補い、目を明らかにする効能があり、視力の低下や眩暈、腰や下肢の倦怠感、性機能障害などに用いる。すなわち枸杞子は不老長寿、抗老薬の代表的な生薬である。枸杞子は寒熱に偏らないため陰虚と陽虚のどちらにも使用できるが、おもに陰虚に用いられる。

土曜日, 8月 11, 2012

藕節

藕節(ぐうせつ)

 インド、中国、ペルシャ、オーストラリアに分布するスイレン科のハス(Nelumbo nucifera)の根茎の節部を用いる。ハスは部分によりいくつかの生薬に分けられ、葉は荷葉、花托は蓮房、雌しべは蓮鬚、果実は蓮実、種子は蓮肉、子葉は蓮子芯という。

 日本にも古代からハスは渡来していたが、鎌倉時代以降に食用品種が導入され、さらに明治時代に優れた中国系の食用バスが導入されてハスの栽培が盛んになった。ハスの根はレンコン(蓮根)であり、中国や東南アジア、日本などで食用にされている。中国では根茎を藕といい、節のところだけを藕節といって生薬に用いる。

 藕節にはタンニンやアスパラギンが含まれる。漢方では止血の作用があり、新鮮な新藕節には涼血・止血、炒った藕節炭には去痰・吐血の効能がある。一般には下血や血尿、喀血、鼻血、不正性器出血などに広く用いるが、炎症性のものには新鮮な藕節の汁のほうが効果がある。例えば鼻血が止まらないときには新鮮な汁を飲むと同時に鼻にたらす。しかし薬力は弱いので、一般には他の止血薬と配合して用いる。中国南部では止血以外にもハスの節やレンコンを咽の痛みや咳嗽などに用いている

木曜日, 8月 09, 2012

キンマ

○キンマ

 マレーシア地域を原産とするコショウ科の常緑つる性植物キンマ(Piper betle)の葉を用いる。中国では果穂を蒟醤、葉を蒟醤葉という。現在ではインド、アフリカ、中国南部、台湾などでも栽培されている。

 葉には香りがあり、刺激的な味がする。東南アジア、インド、ミクロネシアなどでは、古くから檳椰子を割ったものと、消石灰をキンマの葉で巻きつけ、ベテルと称するチューインガムのような嗜好品として知られている。地方によってはこれに阿仙薬やタバコ、丁香も肉豆蔲なども混ぜて供されている。

 ベテルは酒やタバコに匹敵する嗜好品で、口臭を除き、消化を助けるとともに興奮剤としての効果もある。檳椰子の中の成分が石灰と反応して、噛むと真っ赤な汁が出て、唾液や唇が赤くなり、歯や歯茎は赤黒く染まる。タンニンが多いため歯槽膿漏の予防になるともいわれている。

 キンマの葉にはカビコール、カビベトールなどの精油成分が含まれ、降圧、抗菌、抗寄生虫作用などが知られている。中国医学では止咳・止痛・消腫の効能があり、咳嗽や胃痛、脚気、湿疹などに用いる。

水曜日, 8月 08, 2012

金沸草

○金沸草(きんふつそう)

 日本の各地、朝鮮半島、中国に広く分布するキク科の多年草オグルマ(Inula japonica)、および同属植物の全草を用いる。中国では地上部を用いる。また頭花の部分だけを旋覆花という。よく似た同属植物のオオグルマ(I.helenium)の根は土木香として用いる。

 オグルマの地上部にはイヌリンシンなどが含まれるが、詳細は不明である。漢方では解表・消腫の効能があり、感冒や咳嗽、脇の痛み、腫れ物などに用いる。旋覆花と効能はよく似ているが、化痰・化飲の効能は金沸草のほうが強いといわれている。感冒や気管支炎などによる咳嗽や喀痰には前胡・荊芥などと配合する(金沸草散)。

火曜日, 8月 07, 2012

金蝉花

○金蝉花(きんぜんか)

 金蝉花とはいわゆるセミタケ(Cordyceps sobolifera)のことである。セミの幼虫とそれに寄生したバッカクキン科の真菌であるセミタケの子実体とを合わせたものを金蝉花という。

 セミタケの属名を冬虫夏草属といい、同属のフユムシナツクサタケによる冬虫夏草も生薬として有名である。中国産のセミタケはセミ(山蝉)の幼虫の頭部から1.5~6cmの柄が叢生しているもので、新鮮なときは白色をしている。

 漢方では定驚・退翳の効能があり、小児のひきつけや癲癇、夜泣き、角膜混濁などに用いる。ちなみに日本各地でニイニイゼミに寄生するセミタケがしばしば採取されるが、この子実体は淡褐色の棍棒状であり、市場性はない。近年、ツクツクボウシの幼虫に寄生するツクツクボウシタケ(Lsaria cinclairii)の培養液から抽出された活性成分のミリオシンに免疫抑制作用が認められ、ミリオシンから合成されたFTY20は新しい特性を有する免疫抑制剤として注目されている。

土曜日, 8月 04, 2012

銀柴胡

○銀柴胡(ぎんさいこ)

 中国の陝西・甘粛・遼寧省などの乾燥地域に分布するナデシコ科の多年草フタマタハコベ(Stellaria dichotoma)、またはその近縁植物の根を用いる。銀柴胡とは銀州(陝西省神木県)に産する柴胡という意味であるが、柴胡はセリ科の植物で全く異なる。

 フタマタハコベは乾燥した草原や岩の間に生え、ハコベのような花が咲く。根にはサポニンが含まれ、加水分解するとギプソゲニンが得られる。漢方では清熱涼血・清虚熱の効能があり、虚労による発熱、マラリア、虚弱児の発熱などに用いる。

 虚熱とは結核やマラリアなど慢性の消耗性疾患にみられる長く続く微熱や盗汗などの症状のことをいい、銀柴胡はもっぱら虚熱の治療薬としてよく知られている(清骨散)。また小児の栄養失調や腺病質にみられる発熱にも用いる。

金曜日, 8月 03, 2012

金銀花

○金銀花(きんぎんか)

 日本、朝鮮半島、中国に分布するスイカズラ科の常緑つる性植物スイカズラ(Lonicera japonica)の花蕾を用いる。スイカズラの名は口に含むと蜜のよい香りがして甘い、あるいは花弁の形が子供が蜜を吸う口の様子に似ていることに由来する。

 漢名では花の色が白から黄に変化することから金銀花あるいは双花と呼ばれ、葉が冬でも枯れないことから忍冬の名がある。中国では茎や葉が忍冬という生薬名で古くから用いられていたが、明代以降はおもに花が用いられるようになった。一般に花のほうが茎葉よりも清熱・解毒の効能が優れているといわれている。

 花の成分には蠟質のセリルアルコール、イノシトール、タンニンなどが含まれ、抗菌作用、抗真菌作用などが認められている。漢方では解表・清熱解毒の効能があり、化膿性皮膚疾患や感冒、扁桃炎、乳腺炎、腸炎などの感染症に常用されている。日本の民間では花を酒に浸し、少し温めたのち1ヶ月間置いて薬酒を作る。愛知県犬山の忍冬酒が有名で、皮膚病や不老長寿の薬酒として知られている。

木曜日, 8月 02, 2012

金橘

○金橘(きんきつ)

 中国原産のミカン科の常緑低木キンカン(Fortunella japonica)の果実を用いる。栽培されているキンカンにはいくつかの種類があり、普通キンカンと呼んでいるのはナガキンカンである。一説によると14世紀ごろにマルキンカンが、江戸時代前期にナガキンカンが日本に渡来したといわれる。今日では宮崎県、和歌山県、鹿児島県、高知県などで生産されている。

 果実は晩秋から冬にかけて橙黄色に熟し、直径2cmくらいの球形または楕円形で、果皮には芳香があり、甘味があって皮ごと生食できる。

 果皮にはビタミンCのほか、ガラクタン、ペントザン、フラボノイド配糖体のホルツネリンが含まれる。漢方では理気・止嘔・解酒毒の効能があり、二日酔いや消化不良に用いる。日本ではキンカンは風邪や百日咳のときの咳止めの民間薬として有名で、氷砂糖と一緒に煎じて服用する。また焼酎に漬けたキンカン酒は疲労回復に用いる。

水曜日, 8月 01, 2012

金果欖

○金果欖(きんからん)

 中国の広西・広東省からベトナムにかけて分布するツヅラフジ科のつる性植物キンラン(Tinospora capillipes)、または同属植物の青牛胆の塊根を用いる。塊根が球形で胆嚢に似ているため金果欖を金牛胆と地胆ともいい、また地方によっては山慈姑として用いている。

 塊根には変形ジテルペンのコルンビンやアルカロイドのパルマチンなどが含まれ、抗血糖作用や抗結核菌作用が認められている。漢方では清熱・解毒・利咽・止痛の効能があり、おもに咽頭炎や扁桃炎、耳下腺炎、乳腺炎、中耳炎などの炎症性疼痛疾患に用いる。また家畜の感染症の治療にも用いられている。

火曜日, 7月 31, 2012

金桜子

○金桜子(きんおうし)

 中国南部、台湾原産といわれ、日本では本州、四国、和歌山などに野生化しているバラ科の常緑つる性低木ナニワイバラ(rose laevigata)の成熟果実を用いる。ナニワイバラの根は金桜根、葉は金桜葉、花は金桜花という。大阪の植木屋から広まったことからナニワイバラの名があり、生け垣などに利用されている。

 果実にはクエン酸、リンゴ酸、タンニンなどが含まれ、コレステロール降下作用や抗菌作用が知られている。漢方では固渋薬のひとつで、止瀉・固精・縮尿の効能があり、下痢、遣尿、頻尿、遣精、帯下、咳嗽、自汗、盗汗などに用いる。

 漢方理論によれば脾虚(胃腸虚弱)による下痢を止め、腎陽虚による遣精・頻尿・夜尿を抑え、肺虚による喘息や咳嗽などを改善するといわれる。腎虚による遣精や滑精、婦人の白帯下などには芡実と配合する(水陸二仙丹)。ただし多量あるいは長期に服用すると便秘や服痛がみられる。金桜根や金桜花には金桜子と同様の効能があり、金桜葉は腫れ物や潰瘍に外用する。

月曜日, 7月 30, 2012

豨蘞

○豨蘞(きれん)

 日本の全土、朝鮮半島、中国大陸に分布するキク科の一年草メナモミ(Siegesbeckia pubescens)、および同属のツクシメナモミ、コメナモミなどの全草を用いる。日本の山野に普通に見られ、果実には粘液を分泌する腺毛を有し、衣服や動物にくっつきやすい。ナモミとはくっつくという意味のなずむに由来するもので、同じキク科にオナモミという植物もある。オナモミの果実も蒼耳子といって薬用にされる。

 メナモミの全草には苦味質のダルチンやアルカロイドが含まれ、煎液の抗炎症作用や降圧作用が知られている。漢方では関節の腫痛を除き、筋骨を強める効能を利用して、関節の疼痛や足腰の冷痛、筋肉の萎弱や麻痺、高血圧に用いる。

 一般に関節の痛みには生で用い、筋肉の萎弱や麻痺には酒で蒸して用いる。関節リウマチおよび高血圧に臭梧桐と配合する(風湿豨桐片)。

金曜日, 7月 27, 2012

キランソウ

キランソウ

 日本の本州、四国、九州、朝鮮半島、中国に分布するシソ科の多年草キランソウ(Ajuga decumbens)の全草を用いる。山野の道端の地面にへばりついて生え、初夏に紫色の小さな花をつける。

 日本ではイシャダオシ(医師倒し)、中国でも筋骨草や金瘡小草と呼ばれて薬草として知られている。漢方生薬としては用いられないが、民間薬としてよく知られている。

 全草にフラボノイドのルテオリン、ステロイドのシアステロンや昆虫変態ホルモンのアジュガステロンCなどが含まれ、鎮咳、去痰、抗菌、止瀉などの作用が知られている。中国では止咳・去痰・清熱解毒の効能を利用して、慢性気管支炎や咽頭腫痛、下痢、腫れ物などに用いる。

 日本では生の葉汁を火傷や切傷、湿疹などに、また膿の吸い出しとして腫れ物に外用する。また浴湯料としてあせもや湿疹に用いる。北九州では煎剤が胆石の民間薬として知られている。

木曜日, 7月 26, 2012

魚脳石

○魚脳石(ぎょのうせき)

 ニベ科の海水魚である。フウセイ(Pseudosciaena crocea)または小黄魚(P.polyactis)の頭骨中の耳石を用いる。フウセイの肉は石首魚という。おもに東シナ海の中国沿岸に生息し、回遊する性質がある。フウセイという名は朝鮮語に由来し、日本ではあまり知られていない。日本ではニベ科のイシモチ(Argyrosomus argentatus)の耳石がよく知られている。

 耳石とは平衡器官に存在する固形物で、聴石、平衡石などとも呼ばれている。これらの魚の頭蓋中にはかなり大きくて白い耳石があり、大きなものでは直径2cm、幅1.5cmくらいの長卵形で突起を有する。

 主成分は炭酸カルシウムであるが、詳細は不明である。漢方では通淋・消炎の効能があり、尿路結石や排尿障害、中耳炎や蓄膿などに用いる。尿路結石には瞿麦・滑石・海金砂などと配合する(腎石一方)。鼻炎には辛夷・青黛・竜脳と一緒に粉末にして鼻腔に散布する。

水曜日, 7月 25, 2012

玉竹

玉竹(ぎょくちく)

 日本、朝鮮半島、中国にかけて分布するユリ科の多年草アマドコロ(Polygonatum odoratum)、およびその近縁植物の根茎を用いる。別名を葳蕤といい、神農本草経には女萎とある。同属植物のナルコユリ(P.falcatum)もアマドコロとよく似ているが、ナルコユリの根茎は生薬名を黄精という。

 アマドコロは白い花を2個ずつ鈴のようにつけ、可憐なために観賞用として栽培され、また切花にもよく用いられる。根茎がヤマノイモ科のトコロに似て甘いのでアマドコロの名がある。

 玉竹の成分として強心配糖体のコンバラマリン、コンバラリン、粘液多糖類のオドラタンなどが知られている。漢方では滋陰・潤肺・生津の効能があり、熱病による脱水、咳嗽、口渇、頻尿、盗汗などに用いる。その効能は麦門冬に似て、体内を潤し、元気を益す作用がある。

 乾咳や口渇、咽の乾燥を伴う感冒や気管支炎には豆豉・葱白などと配合する(加減葳蕤湯)。熱性疾患や慢性の肺疾患などで口渇、倦怠感、食欲不振などのみられるときには沙参・麦門冬などと配合する(沙参麦門冬湯)。日本でも滋養・強壮の薬酒としてアマドコロを焼酎につけたアマドコロ酒がよく知られている。また民間では打撲傷にすりおろした汁や粉末を酢でねったものを外用する。

月曜日, 7月 23, 2012

杏仁

○杏仁(きょうにん)

 中国北部原産で、古くから栽培されているバラ科の落葉高木アンズ(Prunus armeniaca)の種子(仁)で、硬い殻を割って取り出したものを用いる。

 三国時代に呉の名医、薫奉は治療費の代わりに杏の木を植えさせ、数年で立派な杏の林ができたという故事から、杏林という言葉が医者の異称となった。日本には奈良時代に薬用として渡来し、かつては唐桃と呼ばれていた。今日では長野県や山梨県で栽培されている。

 アンズは品種により、種に苦味のある苦杏仁(別名:北杏)と甘味のある甜杏仁(別名:南杏)とがある。外形は区別できないが生薬としては苦杏仁を用い、甜杏仁はおもに菓子などの食用にする。杏仁豆腐の杏仁は甜杏仁で、アンニンとは上海地方の発音である。今日、生薬のアンニンはほとんどが中国からの輸入品である。

 アンニンはアーモンドのような形をし、桃仁とよく似ているが、杏仁の底は偏平である。杏仁には青酸配糖体のアミグダリン、加水分解酵素のエムルシン、バンガミン酸などが含まれる。アミグダリンは杏仁中の酵素エムルシンにより加水分解されて青酸とベンズアルデヒド、ブドウ糖となり、このため多量に服用すると青酸による中毒が現れる。

 杏仁を原料とするキョウニン水は、もともと西洋の鎮咳・去痰薬である苦扁桃水の代用として作られたものである。日本薬局方にはキョウニン、キョウニン水を鎮咳・去痰薬として収載している。現在では化学的にベンズアルデヒデとシアン酸を混合し、これを合成キョウニン水と称している。

 杏仁を圧搾してとったキョウニン油は軟膏基剤や化粧品の基剤としても用いられている。またキョウニンエキスに男性の体臭成分、アンドロステノンの生成を抑制する効果があることが発見され、男性用制汗デオドラントに配合されている。

 漢方では止咳、喘息、喉痺、便秘などに用いる。とくに乾咳や粘稠痰のみられるときに適しており、肺を潤して去痰する。喘息には麻黄と配合することが多く、「麻黄は宣肺し、杏仁は降気する」とか「杏仁は麻黄を助ける」といわれている。また杏仁は肺気を開くことで胸中の痰飲や浮腫を去る作用があるという説もあり、薬微には「胸間の停水を主治し、ゆえに喘咳を治す。しかして旁ら短気、結胸、心痛、形体浮腫を治す」と記されている。そのほか腸を潤して排便を容易にする作用もある。

土曜日, 7月 21, 2012

來竹桃

○來竹桃(きょうちくとう)

 インド原産で、日本には江戸時代に渡来したキョウチクトウ科の常緑低木キョウチクトウ(Nerium indicum)の葉や樹皮を用いる。日本の気候に適し、塩風や公害などの環境にも育つため、防塵、防音用としてよく植えられている。

 葉や樹皮には強心配糖体のオレアンドリン、アディネリン、ネリアチンのほか、オレアノール酸、ウルソール酸などが含まれ、オレアンドリンにはジキタリス配糖体と類似の強心作用がある。ジキタリスよのも強心作用は強いが、利尿作用は弱く、蓄積性があり、また催吐作用もある。誤って摂取すれば嘔吐や腹痛、下痢、不整脈、心臓麻痺などをひきおこす、かつてキョウチクトウの枝を箸代わりに利用して死亡した例もある。民間では打撲による腫れや痛みに煎液で患部を洗う治療法がある。

金曜日, 7月 20, 2012

羗活

○羗活(きょうかつ)

 中国で四川・陜西・雲南省などの高山に分布するセリ科の多年草キョウカツ(Notopteygium incisum)、および寛葉羗活(N.forbesii)の根と根茎を用いる。日本にはこのキョウカツと同じノトプテリギウム属の植物は産せず、日本産の羗活、すなわち和羗活はウコギ科のウド(Aralia cordata)の根である。

 ウドはキョウカツとまったく別の植物であり、中国ではウドの根を土当帰という。ちなみに日本ではウドの地下部のうち根茎部や宿根を独活といい、側根や若根を羗活という。中国から日本に年間数トン輸入され、唐羗活と呼ばれている。中国産ではとくに四川省産の品質が優れ、川羗と称されている。現在、日本には和羗活と唐羗活のいずれも流通しており、単に羗活といえば中国産のものをいい、日本産のものは和羗活という。

 唐羗活の成分にはポリアセチレン系化合物やフロクマリン類、リモネン、ピネンなどの精油が含まれる。漢方では解表・去風湿・止痛の効能があり、感冒や頭痛、筋肉痛、関節痛、麻痺などの治療に用いる。独活とは効能はよく似ているが、「風を療ずるには独活を用いるが宣し、水を兼ねたるには羗活を用いるが宣し」といわれている。また、一般に上半身の痛みには羗活、下半身の痛みには独活を用い、全身の痛みには一緒に用いる。

木曜日, 7月 19, 2012

姜黄

○姜黄(きょうおう)

 東南アジア、中国南部に分布するショウガ科の多年草ウコン(Curcuma longa)あるいはキョウオウ(C.aromatica)の根茎を用いる。ウコンとキョウオウはよく似た植物であるが、ウコンの開花期が秋であるため秋ウコンと呼ばれ、キョウオウ葉5~6月に花が咲くため春ウコンと呼ばれている。沖縄ではキョウオウのことを春ウッチンとか沖縄ウコンと呼んでいる。

 日本と中国では、原植物のウコンとキョウオウの名称が逆転しており、中国ではウコンを姜黄、キョウオウを欝金という。ただし、中国の生薬名ではいずれの根の先にできる紡錘形の塊茎を欝金、茎に続く根茎を姜黄という。一方、日本薬局方では生薬の欝金をウコンの根茎と規定しており、日本で漢方生薬として流通している欝金は、中国でいう姜黄のうちウコンを基原とするもののことである。香辛料のターメリックも、ウコン(秋ウコン)の根茎である。

 黄色色素のクルクミンはウコン(秋ウコン)の方が多く含有するが、クルクモール、クルクメンなどの精油成分はキョウオウ(春ウコン)の方が豊富である。クルクミンには抗酸化作用、抗炎症作用、抗菌作用のほか、胆汁分泌を促進し、肝機能を改善する効果があり、またアルコールの分解を促進することから、一般に二日酔い防止などの肝庇護薬として利用されている。

 また、1991年アメリカでマウスにクルクミンを塗布する実験で、皮膚癌の発生を抑制すると発表され、その後、胃癌、大腸癌などさまざまな癌の発生を抑える効果が報告されている。ウコンにはクルクミン以外に胆汁分泌を促進する作用のあるターメロン、シネオールなどの精油成分が含まれている。ただし、ウコンの副作用として、皮膚が痒くなるアレルギー症状や肝障害、胆管障害なども報告されている。

 中国医学の姜黄(日本名:欝金)には活血・理気・通経・止痛の効能があり、胸や腹の張痛、産後の腹痛、生理痛、腫瘤、腕の痛み、打撲傷などに用いる。女性の腹痛で背中や肩に痛みが及ぶときには延胡索・乳香などと配合する(延胡索湯)。ストレスなどで脇腹部が痛み、消化の悪いときには木香・陳皮などと配合する(舒肝丸)。

 なお欝金と姜黄の異なるところは、性味では欝金が涼であるのに対し姜黄は温であり、欝金が活血作用に優れるのに対し、姜黄は血中の気を行らせる作用があると説明されている。

水曜日, 7月 18, 2012

九竜虫

○九竜虫(きゅうりゅうちゅう)

 東南アジアから中国南部にかけて分布するゴミムシダマシ科のキュウリュウゴミムシダマシ(Marianus dermestoides)の全虫を用いる。成虫の体長でも6~8mmくらい、暗黒色で光沢のある小さな長楕円形の虫で寿命は約3ヶ月である。

 幼虫、成虫ともに穀物や果実などを食べる害虫とされているが、江蘇・浙江・福建省などでは飼育されている。日本では第二次大戦直後などに強精剤として生きたまま呑むことが流行ったことがある。

 漢方では活血化瘀・温裏・理気の効能があり、中風の半身不随や胃痛、虚労による咳嗽などに用いる。打ち身や外傷には擦りつぶして患部に塗布する方法もある。ただし、この虫がサナダムシなど寄生虫の中間宿主になる可能性が指摘され、生きたまま服用しないほうがよいともいわれている。

火曜日, 7月 17, 2012

急性子

○急性子(きゅうせいし)

 インドから東南アジアが原産であるツリフネソウ科の一年草ホウセンカ(Impatiens balsamina)の種子を用いる。ホウセンカの全草も鳳仙あるいは透骨草として生薬に用いられる。日本には室町時代に中国から伝えられ、漢名がそのまま和名となった。

 熟した果実は少しでも触れると果皮が裂開して種子が飛び散るしかけになっている。種子には脂肪酸のパリナリシンなどが含まれ、子宮収縮作用があると報じられている。

 漢方では軟堅・去瘀の効能があり、無月経、噎膈、腹部の腫瘤や死胎の排出に用いる。民間では陣痛の誘発薬としても利用されていた。また咽に骨が刺さったときに急性子を噛んで飲み込むとよい。

 近年、中国ではフィラリアや食道癌の治療効果が研究されている。全草の鳳仙には去風湿・止痛の作用があり、関節痛や脚気に、根の鳳仙根には活血・消腫の作用があり、打撲傷などに用いられる。近年、ホウセンカ抽出成分、インパチエノールに育毛効果があると報告されている。

月曜日, 7月 16, 2012

韮子

韮子(きゅうし)

 東アジア原産で、中国、東南アジア、日本などで栽培されているユリ科の多年草ニラ(Allium tuberosum)の種子を用いる。葉も韮白あるいは韮葉と称して薬用にする。

 ニラは中国で栽培されていた最も古い野菜のひとつで、日本へも古い時代に渡来して野生化したもので古事記にはカミラという名で呼ばれている。葉に特有の強い臭いがあるため戦前はあまり利用されなかったが、戦後にギョーザなどの中国料理が普及するにつれて急速に需要が増えた。

 ニラの葉は刺激性の成分である硫化アリル類のほか、ビタミンA・B2などを多く含み、栄養価も高い。禅寺では「淫を発する」とされる五葷のひとつで、持込みが戎められている。

 漢方では種子に肝腎を補い、腰膝を温め、補陽、固精の効能があり、インポテンツや頻尿、遣尿、下半身の冷え、下痢、帯下などに用いる。インポテンツや早漏には杜仲・巴戟天などと配合する(賛育丹)。民間では腰痛や頻尿のときに種子を水で服用する。またニラの葉(韮菜)にも温裏・強壮作用の効能があり、腹痛や下痢、疲労にはニラ雑炊を食べるとよい。またニラの生葉汁を鼻血や日射病のときに服用したり、切り傷やかぶれなどに外用する。

土曜日, 7月 14, 2012

九香虫

○九香虫(きゅうこうちゅう)

 中国の揚子江以南の地域に分布するカメムシ科の昆虫ツマキクロカメムシ(Aspongopisu chinensis)の乾燥した全虫を用いる。主産地は雲南・四川・貴州・広西省などである。

 体長2cm前後、幅1cmくらいの紫黒色のカメムシの一種で、後肢の基部に臭孔があり、強烈な臭気を放つため打屁虫とか酒香虫などの名もある。日本でもカメムシをヘクサムシとかクサガメと呼んでいる。なおカメムシの名は虫体が亀の甲に似た六角形をしていることに由来する。一般に瓜類や柑橘類の害虫として扱われている。

 冬季間は成虫のまま石の下などで越冬するため、採取は晩秋に行う。熱湯の中に入れて殺し、日乾あるいは焙って乾燥する。薬材の九香虫は乾燥しているが油性があり、質は脆くて切断すれば茴香のような香りがある。

 成分にはトランス-2-ディセナル、オクテナル、ヘクサナルなどが含まれている。漢方では理気・止痛・温中・壮陽の効能があり、胸や腹の痞満や痛み、足腰の衰え、インポテンツなどに用いる。

金曜日, 7月 13, 2012

牛角鰓

○牛角鰓(ぎゅうかくさい)

 哺乳動物のウシ科のウシ(Bos taurus domesticus)の角を牛角、スイギュウ(Bubalus bubalis)の角を水牛角といい、その中の骨質角髄を牛角鰓という。近年、牛角鰓は犀角の代用として用いられる。

 牛角鰓の作り方は、ウシの角から角髄を取り出し、数日間水に漬け、きれいに洗浄して乾燥する。ウシの角と同じ形のまま中空で、表面は灰色~灰黄色、小さい無数の穴があり、ザラザラとした硬いものである。中国ではおもに江蘇省に産する。

 成分は炭酸カルシウム、リン酸カルシウムを含む。漢方では止血・止瀉の効能があり、鼻出血、下血、性器出血、下痢などに用いる。

木曜日, 7月 12, 2012

ギムネマ葉

○ギムネマ葉(ぎむねまよう)

 インド南部、東南アジア、中国の南西部に分布するガガイモ科の常緑つる性植物ギムネマ・シルベスタ(Gymnema sylvestre)の葉を用いる。中国ではこの植物の茎を武靴藤という。

 ギムネマ葉はインド伝承医学アユルヴェーダの中で2000年以上も前から糖尿病の薬として利用されていた。ギムネマ葉を噛んだ後、1~2時間は甘味だけが感じられなくなることから、19世紀半ばからヨーロッパにも知れ渡った。1887年には有効成分が抽出され、この甘味抑制物質は酸性を示すことからギムネマ酸と名付けられた。

 葉にはギムネマ酸のほか、ヘントリアコンタン、プロトカテキュ酸などが含まれている。ギムネマ酸には甘味抑制作用のほか、抗う蝕性作用、小腸におけるブドウ糖吸収抑制作用、血糖値の上昇抑制作用などが認められている。この甘味抑制作用や腸管吸収抑制作用は数時間で回復する。

 これらの作用により糖尿病の治療および予防に利用できるのではないかと注目されている。しかし大量に服用すると、甘味以外の味覚にも抑制作用がみられ、血糖値はかえって上昇することが報告されている。近年、日本では食品や飲料などの中にギムネマ酸を添加したさまざまな健康食品が開発されている。ちなみに中国では武靴藤を腫れ物や乳腺炎などの化膿性疾患の治療に用いている。

水曜日, 7月 11, 2012

亀板

亀板(きばん)

 本州の中部以南、朝鮮、中国などに分布するイシガメ科のクサガメ(Chinemys reevesii)の甲板、主として腹甲を用いる。ちなみに別甲はスッポンの背の甲羅を主に用いる。

 中国では揚子江流域で多く産する。クサガメは小川や沼などの淡水に生息し、全身が茶褐色ではっきりとした亀甲があり、甲長が約15cm、体臭があるのでその名がある。小ガメはゼニガメ(金線ガメ)として知られている。

 殺して肉を除いた後、腹甲を洗って乾燥したものを血板といい、腹甲を湯で煮てから乾燥したものを湯板という。血板のほうが光沢があり、品質が良いとされている。亀板を煮詰めて固形の膠にしたものを亀板膠という。

 漢方では補陰・清虚熱・強筋骨・補肝腎の効能があり、おもに慢性の消耗性疾患、老人性疾患、虚弱体質に用いる。亀板膠は補陰・補血・止血の効能があり、陰虚による発熱やアトピー性皮膚炎などの乾燥肌、子宮出血などさまざまな出血に用い、滋養作用は亀板よりも優れている。

火曜日, 7月 10, 2012

キナ皮

○キナ皮(きなひ)

 アンデス山中を原産とするアカネ科のアカキナノキ(Cinchona pubescens)などの枝や幹、根などの樹皮を用いる。ペルー住民は古くからキナノキの樹皮をマラリアなどの熱病に用いていた。これが17世紀にヨーロッパに伝えられたマラリアの特効薬や解熱薬として有名になり、需要が増加した。

 しかし南米は列強によって分割され、キナの輸入が難しくなってきたため、各国が熱帯の植民地での栽培を試み、1854年にオランダ人はジャワでの移植に成功した。現在はアカキナノキを台木とし、キニーネ(quinine)含有量の多いボリビアキナノキ(C.ledgeriana)を接木して栽培される。20世紀初頭、マラリア患者の心房細動がキニーネの服用で軽快するという経験から、抗不整脈薬として開発されるようになった。

 キナ皮にはキニーネ、シンコニン、キニジンなどの多数のアルカロイドが含まれ、キニーネには抗マラリア、陣痛促進作用、解熱作用、キニジンには抗不整脈作用がある。明治時代には万能薬的に用いられ、戦時中にはマラリアの治療に盛んに利用された。

 今日でもキニーネ塩酸塩やキニーネ硫酸塩は抗マラリア剤として用いられている(1930年には合成抗マラリア薬が開発された)。またキニジンは不整脈治療剤として用いられているが、近年、合成されるようになった。キナ皮はヨーロッパでは強壮剤、解熱剤、健胃剤として利用するほか、民間では創傷や皮膚の潰瘍に外用する。

月曜日, 7月 09, 2012

橘皮

○橘皮(きっぴ)

 中国ではミカン科のオオベニミカン(Citrus tangerina)やコベニミカン(C.erythrosa)などいくつかの柑橘類の成熟果実の果皮を橘皮という。日本ではウンシュウミカンの成熟果実の果皮を陳皮あるいは陳橘皮といい、とくに新鮮なものを橘皮という。

 一般に橘皮の古くなったものを陳皮というが、中国では陳皮とあまり区別していない。日本でも橘皮はあまり用いられず陳皮で代用されることが多い。現在、流通している橘皮のほとんどは中国産であるが、日本産の陳皮のほうが中国産の橘皮よりも新しいことがしばしばある。橘皮の成分や効能はほとんど陳皮と同じである。

 金匱要略には橘皮の配合される処方として胸が苦しいときに用いる橘皮枳実生姜湯、しゃっくりに用いる橘皮竹茹湯などがある。なお中国では成熟した果実の皮の白い肉質を除いた外側だけの果皮を橘紅、その白い肉質の部分を橘白、内果の周囲にある網状の維管束の部分を橘絡、種子を橘核といい、別々に使用される。

 橘紅は橘皮よりも香りと温燥の性質が強く、おもに肺寒の咳嗽に用いられる。橘白は健胃薬として、橘絡は去痰薬として、橘核は止痛薬として応用されている。ちなみにウンシュウミカンの果肉に含まれる色素、βクリプトキサンチンに抗腫瘍作用、脂質代謝改善作用のあることが報告され、注目されている。

土曜日, 7月 07, 2012

吉草根

○吉草根(きっそうこん)

 北海道から九州、朝鮮半島、台湾に分布するオミナエシ科の多年草カノコソウ(Valeriana fauriei)の根および根茎を用いる。中国ではカノコソウなどの根茎がクモの足に似ているため蜘蛛香という。

 根には精油が含まれ、甘松香に似た芳香があるため、和の甘松香ともいわれている。同属植物のセイヨウカノコソウ(V.officinalis)の根は、薬用のワレリアナ根(バレリアン:Valerian)として知られる。

 日本では江戸時代に蘭方医学の影響により、ワレリアナ根の代用生薬としてカノコソウが知られるようになった。日本薬局方にもカノコソウの名前で収載されている。日本の市場品はほとんど北海道で栽培されている北海吉草といわれるエゾカノコソウである。日本産の吉草根はワレリアナ根よりも精油を多く含み、優秀な品種とされている。

 カノコソウの根茎は精油8%を含有し、成分にはボルニールイソバレレイトやケッシルアルコールなどが含まれ、鎮静作用などが認められている。吉草根やワレリアナ根のチンキは鎮静、鎮痙薬として動悸やヒステリー症状、あるいは虚脱状態の興奮剤として用いられる。現在、市販されている婦人用保健薬などによく配合されている。

水曜日, 7月 04, 2012

枳実

○枳実(きじつ)

 日本ではミカン科のダイダイ(Citrus aurantium)やナツミカン(C.natsudaidai)などのミカン類の未成熟果実を枳実という。中国ではおもにカラタチ(Poncirus trifoliata)やダイダイなどの果実が用いられている。枳実よりも多く成熟直前の果実を枳殻、また成熟した果実の果皮をダイダイは橙皮、ナツミカンは夏皮と称している。

 本来、枳実は風などにより落ちた未成熟果実を拾い集めたものをそのまま、あるいは横割りにして天日で乾燥したものである。古いものをよいとする半夏・陳皮など六陳と呼ばれるものの一つとされている。

 枳実には芳香性のリモネンを主成分とする精油やフラボノイドのヘスペリジン、ナリンギンなどが含まれる。薬理的には胃腸の非生理的な収縮を抑制し、蠕動を強め、リズムを整える働き、さらに抗炎症作用、抗アレルギー作用などが認められる。

 漢方では理気・健胃・消積・去痰の効能があり、気を行らし、気の滞りによる硬結や痰による胸を痞えを消す作用がある。臨床的には胸満感や胸痛、腹満感や腹痛、便秘、食積、浮腫、胃下垂、脱肛などに応用される。また可能性炎症にも硬結を解する作用があるとして用いられる。

 米国ではダイダイの未熟果から抽出したエキス(シトラス)が、ダイエット素材として注目されている。シトラスに含まれているシネフリンなのサーモアミンが、交感神経系に働きかけ、脂肪細胞を刺激して脂肪酸を遊離して燃焼しやすくする働きがあると説明されている。

火曜日, 7月 03, 2012

キササゲ

キササゲ

 中国原産で、古くから日本の温暖な地方で栽培されているノウゼンカズラ科の落葉高木キササゲ(Catalpa ovata)の果実を用いる。中国生薬では梓実というが、中国ではあまり用いず、専ら根皮や樹皮を梓白皮と称して利用している。日本の生薬でキササゲといえば、この梓実のことをいう。

 キササゲとは木のササゲ(マメ科)という意味で、秋に径は5mmで長さ30cmくらいの細長い果実がササゲのように多くできる。果実は熟すと裂けてしまうので、緑色から褐色に変わる少し前に採取して日干しにする。

 果実にはイリドイド配糖体のカタルポシドが多量に含まれ、このカタルポシドには強い利尿作用がある。またその他のクエン酸やカリウム塩などの成分にも利尿作用が認められる。日本では浮腫を治療する民間薬として有名で、かつては漢方医や漢方薬局の家の庭によく植えられていた。腎炎、妊娠浮腫、脚気などの浮腫に効果があり、しばしば南蛮毛などと配合する。

 今日でも家庭薬として用いられている利尿剤にはしばしばキササゲが配合されている。ただし多量に服用すると悪心、嘔吐、徐脈などの副作用がみられる。

土曜日, 6月 30, 2012

枳殻

○枳殻(きこく)

 日本ではミカン科のダイダイ(Citrus aurantium)やナツミカン(C.natsudaidai)などの未成熟の果実を枳実といい、それよりもう少し大きくなった成熟間近の果実を枳殻という。中国産の枳殻や枳実はおもにミカン科のカラタチ(Poncirus trifoliata)、ダイダイなどの果実も用いられている。成熟果実の果皮も薬用にされダイダイは橙皮、ナツミカンは夏皮などと呼ばれている。

 カラタチは中国中部を原産とし、古くから日本に渡来したもので、唐から来たタチバナという意味である。枳殻と枳実の区別ははっきりしておらず、大きいものを枳殻、小さいものを枳実といったり、あるいは丸ままのものを枳実、二つに割ったものを枳殻といったりもする。中国の成書では幼果を枳実といい、成熟直前の果実を枳殻と述べている。一般に苦味の強いものを枳実、苦味の薄いものを枳殻として扱っている。

 かつて日本漢方の古方は枳実、後世方は枳殻を好んで用いていたが、今日ではほとんど枳実が用いられている。枳実と枳殻の効能はほぼ同じであるが、枳実がおもに水分(痰飲)や食積などの滞りを下降させるのに対し、枳殻は胸の痞えや腹満感など気の滞りを除く作用があるといわれている。また枳殻は枳実よりも作用が弱く、虚弱体質などにも応用できる。

金曜日, 6月 29, 2012

枳ぐ子

枳ぐ子(きぐし)

 日本全土、朝鮮半島、中国に分布するクロウメモドキ科の落葉高木ケンポナシ(Hovenia dulcis)の成熟した果実あるいは種子を用いる。一般に果柄を伴った果実を用いる。

 秋になるといくつかの小さな果実が曲がった多肉質の果柄をつけたまま落下するが、これを噛むと甘くて熟した梨の味がする。枝分かれして凹凸した果柄と果実の様子はニワトリの足に似ている。かつてハンセン病(癩病)を続にテンボと呼んだことからテンボのような梨ということでケンポナシと名づけられている。

 成分にはトリテルペノイドのホベン酸、ブドウ糖、硝酸カリ、リンゴ酸カルシウムなどが含まれる。漢方では解酒毒・止嘔・通便の効能があり、二日酔い、口渇、嘔吐などの症状に用いる。おもに二日酔いの薬としてよく知られるが、あまり漢方処方には利用しない。ちなみにケンポナシの幹から採った樹液を枳ぐ子汁といい、これを煎じてワキガの治療に用いる。

木曜日, 6月 28, 2012

菊花

菊花(きくか)

 中国を原産とするキク科植物のキク(Chrysanthemum morifolium)の頭状花を用いる。日本漢方では、単に菊花といえば野菊花のことをいう。中国では2000年以上前からキクを薬用として栽培していた記録がある。

 日本にも古くから観賞用として多くの品種が栽培されているが、薬用には食用ギク(料理ギク)を用いる。山形県では「もってのほか」、青森県八戸市では阿房宮といった品種が栽培されている。中国各地で菊は花をお茶として飲む風習(菊普茶)や、菊を原料とするお酒、菊花を用いた料理などがある。また古くから薬枕の一つとして枕の中に菊花をつめる習慣もある。

 中国産では山地を冠した名称も多く、安徽省亳県などに産する亳菊花は最佳品とされている。このほか、安徽省の貢菊花や滁菊花、浙江省の抗菊花などが有名である。日本ではおもに抗菊花が輸入されている。しかし、日本の市場では、単に菊花といえば野菊花であるため、本来の菊花を求める場合には抗菊花と指定する。

 菊花の成分にはクレサンテミン、アミノ酸、β-カロテン、ビタミンB1などが含まれているが、薬理作用は明らかではない。漢方では解表・平肝・明目・清熱解毒の効能があり、頭痛、めまい、目の充血、視力の低下、化膿症の炎症などに用いる。

 一般に亳菊花は視力の改善(明目)の作用が強く、抗菊花は頭痛や目の充血など炎症(風熱)に対する作用が強いといわれている。ちなみに野菊花はシマカンギクの花であり、中国医学では清熱解毒薬のひとつとして、肺炎や皮膚化膿症、高血圧などの治療に用いられる。

水曜日, 6月 27, 2012

桔梗

○桔梗(ききょう)

 日本、抽選半島、中国などにかけて分布するキキョウ科の多年草キキョウ(Platycodon grandiflorum)の根を用いる。日本各地に自生しているが、生薬のほとんどは中国などから輸入している。

 万葉時代にはアサガオと呼ばれ、秋の七草にあるアサガオはキキョウのこととされている。桔梗の名は根が結(桔)実して硬(梗)いことに由来する。桔梗を韓国語ではトラジといい、根を塩漬けなどにして食べる習慣がある。一般にキキョウの寿命は1~3年といわれているが、まれに長年生き延びているキキョウが発見されることがあり、韓国では大変体によいものとして珍重してきた。近年、このドラジの栽培に成功し、とくに21年以上育成したキキョウの根を長生ドラジとして商品化している。根には有毒のサポニンが含まれるが、ゆでて水にさらせば食べられるので日本でも重要な救荒植物であった。

 根にはキキョウサポニンのプラチコジン、ポリガラシンなどが含まれ、鎮痛、鎮咳、去痰、抗炎症、解熱作用などが知られている。漢方では宣肺・止咳・去痰・排濃の効能があり、咳嗽、咽頭腫痛、下痢、腹痛などに用いる。とくに呼吸器疾患の要薬として知られている。

 また桔梗は「船楫の剤」とも呼ばれ、他の薬剤の効果を上部の病変部に運ぶ働きがあるという説もある。このため肺など上焦の疾患に桔梗が適している。龍角散浅田飴など多くの鎮咳・去痰の家庭薬にも配合され、同様の効能のあるセネガと配合したセネガ・キキョウ水もよく知られている。ただ、多量、あるいは長期に桔梗を服用するとサポニンのため胃が荒れ、吐き気を催すことがある。

火曜日, 6月 26, 2012

旱蓮草

旱蓮草(かんれんそう)

 本州以南、世界各地の温暖な地域に分布するキク科の一年草タカサブロウ(Eclipta prosrata)の地上部全草を用いる。中国産では地方によってはオトギリソウ科のトモエソウ(Hypericum ascyron)やキク科のハマグルマ(Wedelia chinensis)などの植物も旱蓮草と称している。

 かつや皮膚や目のただれをタタラビといい、その治療に用いることからタタラビソウといわれ、いつしかタカサブロウという名になったといわれる。中国名の墨旱蓮と鱧腸という中国名は茎を折ると断面が黒くなることに由来する。これは茎に含まれるウエデロラクトンという成分が酵素によって酸化されるための現象で、この搾り汁は黒色染料や毛染めに使われたこともある。

 漢方では清熱涼血・止血の効能があり、吐血、喀血、血尿、下血、性器出血、若白毛、淋病、帯下、陰部湿疹などに用いる。さまざまな出血に用いられるが、とくに血尿には効果があり、生の旱蓮草とオオバコ車前草)を混ぜた汁を服用する。また切り傷にも生の汁で湿布すると効果がある。  眩暈や腰痛、白髪、不眠などに女貞子と配合する(二至丸)。日本の民間療法では結膜炎に洗眼薬として、インドではアメリカタカサブロウ(ブリンガラジ:E.alba)を育毛剤として用いている。

土曜日, 6月 23, 2012

漢防已

○漢防已(かんぼうい)

 従来、防已は漢防已と木防已とに区別されてきたが、いずれの基原植物に関しても日本と中国では異なっている。ただし今日の臨床では木防已はほとんど用いられず、漢防已のみを防已として用いている。

 漢防已として日本ではツヅラフジ科のオオツヅラフジ(Sinomenium acutum)のつる性の茎を用いるのに対し、中国ではツヅラフジ科のシマハスノハカズラ(Stephania tetrandra)などの根を用いている。しかも日本の漢防已であるオオツヅラフジの茎は中国でも青風藤と称して別に扱われている。現在、日本に中国産の漢防已は輸入されていない。

 オオツヅラフジの成分には鎮痛・消炎作用のあるアルカロイドのシノメニンが含まれ、かつて鎮痛薬として利用されていた。一方、シマハスノハカズラの成分ではテトランドリンというアルカロイドが注目されている。またシマハスノハカズラの近縁植物で日本の南西諸島や中国南部に産するタマサキツヅラフジ(S.cephalantha)の塊根は白薬子と呼ばれている。このタマサキツヅラフジに含まれるアルカロイドのセファランチンは、免疫増強剤や育毛剤などに用いられている。

金曜日, 6月 22, 2012

款冬花

○款冬花(かんとうか)

 地中海の沿岸からインド、中国に分布しているキク科の多年草フキタンポポ(Tussilago farfara)の花蕾を用いる。日本には自生しておらず、明治中期に薬用として伝えられた。かつて日本ではフキを款冬と称していたが、フキの中国名は蜂斗菜である。フキタンポポの名は葉がフキに、花がタンポポに似ているところによる。花期は2~3月ごろであるが、採取は晩秋から初冬にかけてまだ地中にある花蕾を掘り出して行う。

 花蕾にはファラジオール、ルチンなどが含まれ、鎮咳・去痰作用などが報告されている。漢方では止咳、潤肺の効能があり、咳嗽、喘息、咽頭の閉塞感に用いる。鎮咳の常用薬で、寒熱・虚実を問わず一切の咳嗽に用いることができる。紫苑と併用することが多く、両者の効能は似ている。相違点としては款冬花は鎮咳、紫苑は去痰に優れ、款冬花は寒咳、紫苑は燥咳によいといわれている。

 欧米ではコルツフット(Coltsfoot)と呼ばれ、古くから葉や花の煎じ液やチンキなどが咳の治療薬として知られている。さらに喘息や咳に対してコルツフットの葉をタバコのように喫煙するというギリシャ時代からの伝統的な治療法も行われている。

 フキタンポポには肝毒性のあるピロリジンアルカロイドが含まれるため注意が必要であるが、30分以上煎じることにより熱分解されることが知られている。

木曜日, 6月 21, 2012

寒天

○寒天

 紅藻類テングサ科の海藻を煮て溶かして固めたものをところてんといい、さらに凍結乾燥したものを寒天という。一般にテングサといえばGelidium amansii、ヒラクサ(G.subcostatum)をいうが、そのほかオバクサ(Pterocladia)、オゴノリ(Gracilaria verrucosa)なども原料に利用されている。

 1658年の冬、参勤の途上の京都で島津侯が食べ残したところてんを戸外に捨てたものが凍結して鬆の入った干物になっていたことから、宿屋の主人が創製したのが寒天の由来といわれる。ちなみにところてん(心太)は、中国から渡来したものといわれているが、千数百年以上も前から日本で好まれてきた食べ物である。

 寒天は現在、長野県、岐阜県、大阪府などで製造されている。伝統的な天然寒天は、冬期に屋外で自然凍結、自然乾燥させて製造する。テングサ類の体細胞間壁には10~20%の寒天質が含まれ、その煮出した汁はゾル状であるが、40℃以下に冷えると凝固してゲルになる特性がある。

 寒天の主成分はアガロース、アガロペクチンなどの多糖類で、消化吸収しにくく、低カロリー食としても知られる。粉末のまま服用すると保水力が強く膨張するため慢性便秘の改善にも利用できる。また軟膏の基剤やオブラート原料にも利用されている。

 現在、寒天由来の食物繊維は整腸作用があることから特定保健用食品に認定されている。また、アガロースから生成されるアガロオリゴ糖に癌細胞のアポトーシス誘導や血管新生抑制作用といった抗癌作用、NO過剰生成抑制によるリウマチ予防作用などのあることも報告されている。

水曜日, 6月 20, 2012

甘草

甘草(かんぞう)

 ウラル地方、シベリア、モンゴル、中国北部に分布するマメ科の多年草ウラルカンゾウ(東北甘草・Glycyrrhiza uralensis)、スペインカンゾウ(西北甘草・G.glabra)、新疆甘草(G.inflata)などの根及び匍匐茎を用いる。日本薬局方においては、G.uralensisまたはG.glabraを基原植物としている。

 日本市場においては東北甘草が良品とされているが、中国では西北甘草が一般的に用いられている。甘味が強いために甘草という名があり、甘味料として醤油、漬物、菓子、タバコなどに用いられている。英語ではリコリス(Licorice)といい、リコリス菓子やルートビアなどの原料として利用されている。

 甘草は漢方薬との中で最も多く配合され、ほかの薬物の効能を高めたり、毒性を緩和することから国老という別名もある。カンゾウは洋の東西問わず古くから薬として用いられている。西洋ではヒポクラテスの全集やテオフラストスの植物誌などにカンゾウについての記述がみられ、中国最古の本草書である神農本草経の中にも上薬として甘草が収載されている。

 カンゾウは甘味味成分としてグリチルリチンを5~10%含み、グリチルリチンは砂糖の約150倍の甘さがある。グリチルリチンの薬理作用にはステロイド様作用、抗炎症作用、抗潰瘍作用、鎮咳作用などがあり、とくに肝機能改善薬として広く用いられている。また近年、エイズ治療薬としても注目されている。新薬にも強力ネオミノファーゲンCやグリチロンなどいくつかのグリチルリチン製剤がある。

 漢方では補気・清熱解毒・止痛などの効能があり、胃腸の虚弱、虚労、腹痛、下痢、動悸、咽頭腫痛、消化性潰瘍、腫れ物、薬毒などに用いる。一般に甘草を生で用いれば清熱解毒の作用が強く、炒めて炙甘草にすると補気作用が強くなる。また百薬の毒を解すといわれるように他の生薬の刺激性や毒性を緩和する目的でも配合される。この場合も本来は炙甘草を用いるべきであるが、日本ではしばしば生甘草が用いられている。甘草の多量投与による副作用として浮腫、高血圧、低カリウム血症などの偽アルドステロン症、ミオパチーなどが知られており、特に高齢者や女性、また利尿剤併用時に注意すべきである。