○大棗(たいそう)
ヨーロッパ南部からアジア西南部が原産とされているクロウメモドキ科の落葉高木ナツメ(Zizphus jujuba var.inermis)の半熟果実を用いる。ナツメの枝には刺はないか、あるいは少ないが、この母種といわれるサネブトナツメ(Z.jujuba)には刺が多い。このサネブトナツメの果実は小さくて酸味が強く、核が大きいので食用にはならないが、種子は生薬の酸棗仁である。
ナツメは中国では紀元前よりモモやアンズとともに重要な五果のひとつとして栽培され、日本にも奈良時代に渡来した。ナツメの名前の由来は初夏に芽が出ることによるとされ、また茶の湯の道具のナツメは器の形がナツメの実に似ているためといわれる。日本でもよく庭に植えられているが、中国では子供の誕生にこの樹を植えて、嫁ぐときに持参するという風習がある。
果実は熟すと甘くなり、生のままでも食べられているが、中国では薫製にした烏棗や砂糖に漬けた密棗などの菓子もよく親しまれている。薬用には成熟しきらずに赤くなった頃に採取し、そのままあるいは湯通しして用いる。加工により色が変化するため紅棗や黒棗に区別される。薬用には主として紅棗を用いる。虫やカビがつきやすいので保管には注意が必要である。
ナツメの成分には糖類、有機酸、トリテルペノイド、サポニンが含まれ、また水浸液に多量のc-AMP、c-GMPが存在することが注目されている。薬理作用としては抗アレルギー、抗潰瘍、抗ストレスのほか、細胞内のc-AMPを増加させる作用などが報告されている。
漢方では脾胃を補い、精神を安定させ、刺激の強い薬性を緩和する効能があり、食欲不振、下痢、動悸、ヒステリーなどに用いる。中国ではアレルギー性紫斑症や血小板減少症の治療効果に関して研究されている。ただし、過量に用いると便秘や腹部膨満感を生じることもある。