スポンサーリンク

木曜日, 7月 31, 2014

白芥子

○白芥子(びゃくがいし)

 中央アジア原産とされ、ヨーロッパや中国で栽培されているアブラナ科の一年草~越年草、シロガラシ(Brassica alba)の種子を用いる。種子の色が淡黄白色のため白芥子というが、単に芥子といえばカラシナ(B.juncea)の種子のことをいう。

 香辛料としてシロガラシの種子は「洋がらし」すなわちマスタード、カラシナの種子は「和がらし」の原料に用いられる。一般に漢方では白芥子を用い、日本の民間療法では芥子が用いられる。

 白芥子の辛味成分はシナルビンであり、芥子の辛味成分はシニグリンである。シナルビンは共存する酵素のミロシンの作用により加水分解され、イソチアン酸パラヒドロオキシルベンジルを生じる。ただし揮発性がないため鼻に対する刺激はない。芥子と同じく皮膚刺激性があり、また抗菌作用もみられる。

 漢方では温裏・理気・去痰・止痛の効能があり、咳嗽、喀痰、嘔吐、腹痛、中風による言語障害や麻痺、脚気、歯痛、腫れ物などに用いる。白芥子は温化寒痰の常用薬で、痰の多いときに適している。

水曜日, 7月 30, 2014

蓖麻子

○蓖麻子(ひまし)

 北部アメリカを原産とするトウダイグサ科の木質の草本トウゴマ(Ricinus communis)の種子を用いる。ヒマやカラエとも呼ばれ、日本では冬に枯れるので一年草とされるが、熱帯では多年にわたり生長を続けて草丈が6mを越えることがある。

 種子の大きさは長さ15mm、直径8mmくらいの扁平楕円形で、種皮には光沢があり、暗褐色の斑紋が見られる。古代エジプトの最古の医学書にも薬物として収載されているもので、日本には中国から9世紀ころに渡来した。このため唐胡麻という名がある。種子を圧搾して得られる脂肪油をヒマシ油という。

 現在ではブラジルやインドなど世界各地で栽培され、その油は印刷用インクなどの工業用や化粧品原料などに利用されている。かつては航空エンジンの潤滑油としても利用されたことがある。

 種子には30~50%の脂肪油が含まれ、成分としてリシノール酸やステアリン酸などのグリセリドのほか、毒性タンパクのリシン、有毒アルカロイドのリシニンなどが含まれている。リシンやリシニンには催吐、降圧、呼吸中枢麻痺などの毒性があり、小児では5~6個、成人では20個より多く食べると死亡するといわれる。

 リシノール酸のグリセリドが腸管の中で分解されてリシノール酸ナトリウムを生じ、これが小腸粘膜を刺激して腸管の蠕動を亢進させる。それと同時に油やグリセリンの粘滑作用も加わり、2~4時間で排便がみられる。このため食中毒のとき、あるいは検査や手術の前処置として健やかな便の排出を目的として利用される。

 漢方ではあまり用いられず、民間療法では生のまま削ったり、炒ったものを瀉下剤として単独で服用する。しかし、一般にはおもに殻を除いて泥状につぶしたものを外用薬として用いる。たとえば腫れ物の初期や火傷、犬の噛傷の患部に塗布する。

 また独特の治療法として顔面神経麻痺には患部および手掌、子宮下垂や脱肛には百会、難産の時には湧泉といった経穴に塗布する方法がある。

火曜日, 7月 29, 2014

蓽茇

○蓽茇(ひはつ)

 東南アジアに分布するコショウ科のつる性常緑木本植物ヒハツ(piper longum)の未熟な果穂を用いる。ヒハツは長い房になったまま用いるのでナガコショウとも呼ばれている。

 現在、カレー粉などの香辛料として現地の人しか用いていないが、ギリシャ・ローマ時代にはコショウよりもナガコショウ(ヒハツ)のほうが一般的であった。実際、英語のpepperとヒハツは、サンスクリット語のPippeliに由来する。

 果穂にはアルカロイドのピペリン、チャビシン、ピペルロングミンなどが含まれ、抗菌作用や血管拡張作用が報告されている。漢方では散寒・止痛の効能があり、冷えによる嘔吐、腹痛、下痢に用いる。そのほか、頭痛や歯痛、鼻水や鼻づまりにも用いる。虫歯の歯痛には蓽茇と胡椒の粉を蝋で固めたものを穴に詰めるとか、片頭痛には蓽茇の粉末を温水で鼻に通すといった方法がある。

 近年、ヒハツが血流を促進し、新陳代謝を高め、体温を上昇させて、脂肪の燃焼を促進させることから、ダイエット素材として利用されている。ちなみに沖縄県(八重山列島)でピハーツ、フィファチ、沖縄コショウと呼ばれているのは、ヒハツモドキ(P.retrofractum)のことで、インドナガコショウに対して、ジャワナガコショウ(Java long pepper)という別名もある。

月曜日, 7月 28, 2014

蓽澄茄

○蓽澄茄(ひっちょうか)

 ジャワ原産で東南アジア、インドなどに分布するコショウ科のつる性常緑木本植物ヒッチョウカ(Piper cubeba)の果実を用いる。これをクベバ実ともいう。そのほか中国南部、台湾、インドネシアなどの東南アジアに分布するクスノキ科の落葉低木リツェアクベバ(Litsea cebeba)の果実を用いることもある。

 このリツェアクベバは、タイワンヤマクロモジ(別名リトセア:L.citrate)やアオモジ(L.citriodora)としばしば混同されている。いずれも果実からシトラールを含む精油が得られる。本来、ヒッチョウカの果実が中国に伝わり、中国に産するリツェアクベバの果実と色や形状、気味などが類似しているためヒッチョウカの代用にされたと考えられている。しかし、成分に関しては全く異なっている。

 ヒッチヨウカの果実には精油の成分としてサビネン、カレン、シネオールなどのほか、リグナンのクベビン、クベビノライドなどが含まれ、日本住血吸虫の早期治療やアメーバ赤痢に効果がある。かつてヨーロッパなどでは健胃・利尿作用があるとされ、専ら淋病の治療薬として用いられた。リツェアクベバの果実には精油成分としてシトラール、メチルヘプテノン、リモネンなどが含まれ、喘息およびアレルギー性ショックに対して効果がある。

 漢方では温裏・止痛・理気の効能があり、冷えによる嘔吐、吃逆、ゲップ、腹部膨満感、腹痛や小便不利に用いる。インドネシアでは下痢や感冒、喘息などに用いている。アロマセラピーでは、リツェアクベバの果実はメイチャン(May Chang)とも呼ばれ、エッセンシャルオイルとして知られている。

水曜日, 7月 23, 2014

砒石

○砒石(ひせき)

 ヒ素を含む生薬には雄黄、雌黄、砒石、砒霜、石譽などがある。砒素の「砒」とは天然に産する無水亜ヒ酸(三酸化ヒ素)の砒華鉱石、つまり砒石のことである。

 しかし、現在では硫化物の鶏冠石やヒ化鉱物の石譽(硫砒鉄鉱:FeAsS)などを加工したものが砒石として用いられている。また砒石を昇華させて精製したものは砒霜という。無水亜ヒ酸(As2O3)は単に亜ヒ酸とも呼ばれ、これは細胞を変成、壊死させる細胞毒で、内服すれば胃腸に出血性炎症を生じ、肝障害や腎障害、皮膚にヒ素疹などをひきおこす。

 致死量は約0.1gであり、急性中毒ではコレラ様の胃腸症状、筋肉痙攣をおこし、昏睡となり、死亡する。慢性中毒では食欲不振、皮膚の色素沈着や白斑、抹消神経障害や頭痛などがみられる。また発癌性物質として取り扱われている。

 かつてヒ素化合物のサルバルサンが水銀に代わる駆梅薬としてよく知られていた。ヒ素をごく微量だけ飲むと体力がつき、女性は肌が美しくなるという説もあり、アジア丸などが強壮薬として用いられたこともあった。

 漢方では性味は辛酸・熱・大毒で、去痰・抗瘧・殺虫・去腐の効能がある。おもに痔や瘰癧(頸部リンパ腺腫)、歯槽膿漏、皮膚潰瘍などの外用薬として利用された。内服ではごく微量を慢性気管支炎やマラリアに用いる。

金曜日, 7月 18, 2014

榧子

○榧子(ひし)

 中国の揚子江以南に分布する常緑高木シナガヤ(Torreya grandis)の種子を用いる。日本では同属植物のカヤ(T.nucifera)を榧と書いているが、本当の榧は日本には自生していない。ただし日本や韓国ではカヤの種子を榧子の代用にしていたこともある。

 カヤは東北地方から屋久島、済州島に分布し、その柾木材は碁盤、将棋盤の最高級品として知られる。カヤの実の油は食用や頭髪油、灯火油としてり利用されていた。シナガヤの種子は脂肪酸を多く含有し、パルミチン酸をはじめステアリン酸、リノール酸、オレイン酸などのグリセリド、ステロールが含まれる。抽出エキスにはの条虫の駆除作用が知られている。日本産のカヤの種子にはアルカロイドが含まれ、子宮収縮作用が報告されている。

 漢方では殺虫・潤肺の効能があり、穏やかではあるが広範囲の駆虫薬として用いる。鉤虫や蟯虫、条虫、フィラリアなどへの効果が報じられている。煎剤や丸剤としても用いるが、単独で炒ったものをよく噛んで食べる方法もある。日本ではカヤの実を炒って粉末にしたものを寄生虫や小児の夜尿症の治療に用いる。また民間では堕胎薬としても用いられた。

木曜日, 7月 17, 2014

萆薢

○萆薢(ひかい)

 日本の各地や中国大陸に分布するヤマノイモ科のつる性の多年草オニドコロ(Dioscorea tokoro)やタチドコロ(D.gracillima)などの根茎を用いる。そのほか中国では粉背署蕷、叉心署蕷、繊細署蕷などの根茎も用いている。

 オニドコロやタチドコロは日本各地の山野や道端に自生し、全体にヤマノイモに似ている。オニドコロはトコロとも呼ばれ、根は肥大せずに横走し、ヒゲ根が多く、長寿の象徴として正月の飾りに用いられることもある。また根には苦味はあるがデンプンを含み、飢饉のときの食用にもされた。ただし、そのまま食べると嘔吐や胃腸炎を起こすため、灰汁で煮て水に晒して調理することが必要である。

 根茎にはステロイドサポニンのジオスシン、ジオスコリン、グラシリン、ジオスコレアサポトキシンAなどが含まれる。この根を砕いて川に流し、魚をしびれさせて漁をする魚毒としても利用される。

 漢方では去風湿・利水の効能があり、リウマチなどによる関節痛や足腰の疼痛、排尿障害や混濁尿、湿疹などに用いる。古くから萆薢は「治湿に最も長じ、治風これに次ぎ、治寒はそれに次ぐ」といわれている。膀胱炎や淋疾、膣炎、前立腺炎には烏薬・益智仁などと配合する(萆薢分清飲)。湿疹や丹毒には黄柏・牡丹皮などと配合する(萆薢滲湿湯)。リウマチや神経痛には防風・牛漆などと配合する(萆薢酒)。

水曜日, 7月 16, 2014

繁縷

○繁縷(はんろう)

 世界各地に広く分布するナデシコ科の越年草コハコベ(Stellaria media)の全草を用いる。一般にコハコベとミドリハコベ(S.neglecta)を合わせてハコベと称し、いずれも薬用にできる。春の七草の一つで若い茎や葉は食用とされる。またヒヨコグサの別名もあって小鳥の餌としてもよく知られているが、英語ではChickweedと呼ばれている。

 成分は不詳であるが、青汁には葉緑素やカルシウム、酵素などが含まれる。日本の民間では動悸や息切れの妙薬として、また催乳薬、胃腸薬として用いられている。昭和初期には虫垂炎の妙薬として騒がれたこともある。中国でも民間薬として知られ、活血・催乳・解毒の効能があるとして、産後の腹痛や母乳不足、嘔吐や下痢、腸癰などに用いる。

 茎や葉をカラカラに干したものや炒ったものをすりつぶし、できた緑色の粉と塩を混ぜたものが「はこべ塩」である。今日でも歯茎の出血や歯槽膿漏の予防に用いられる。欧米でもハコベはパップ剤や軟膏として皮膚の化膿症や潰瘍の治療に利用されている。

火曜日, 7月 15, 2014

板藍根

○板藍根(ばんらんこん)

 アブラナ科に属するホソバタイセイ(Isatis tinctoria)やタイセイ(I.indigotica)、キツネノマゴ科のリュウキュウアイ(Storobilanthes flaccidifolius)の根茎および根を用いる。これらの葉や枝葉は大青葉、精製された藍色の色素は青黛として生薬に用いられる。ホソバタイセイはヨーロッパや南西アジアが、タイセイは中国が原産とされている。

 これらの植物はインジゴを含み、古くから世界各地で藍色の染料として用いられた。植物に含まれるインジカンは、発酵させることにより加水分解されてインドキシルとなり、さらに空気による酸化を受けインジゴとなる。薬理学的には抗菌作用、抗ウイルス作用が認められている。

 漢方では清熱涼血・解毒の効能があり、高熱や発疹、咽頭痛を伴うような感染性熱性疾患、脳炎、髄膜炎、丹毒、肺炎、耳下腺炎などに用いる。顔面の丹毒や腫れ物、中耳炎、耳下腺炎などで熱のみられるときには黄芩、黄連などと配合する(普済消毒飲)。

 近年、中国では日本脳炎、インフルエンザ、ウイルス性肝炎などに対する臨床研究が行われ、板藍根の注射液なども開発されている。また、中国では一般家庭でも板藍根うがい薬や風邪薬としてよく知られており、最近ではSARS(重症急性呼吸器症候群)にも有効だとしてブームとなった。

金曜日, 7月 11, 2014

斑蝥

○斑蝥(はんみょう)

 中国各地に分布するツチハンミヨウ科の昆虫、南方大斑蝥(Mylabris phalerata)やヨコジマハンミョウ(M.cihorii)の乾燥した全虫を用いる。

 南方大斑蝥は体長1.5~2cmくらいの細長い昆虫で、背には黄色と黒の縞模様があり、大豆やナスなどの葉や花を食べる害虫としても知られている。ヨコジマハンミョウの外形は南方大斑蝥とよく似ているが、体長は1~1.5cmくらいと小さい。日本でミチオシエともいわれるハンミョウ(ハンミョウ科)とは別の科の昆虫であり、ツチハンミョウ科のマメハンミョウ(Epicauta gorhami)に近い昆虫である。

 かつて日本ではミチオシエを和斑蝥と称し、斑蝥の代用として用いられたこともある。しかし和斑蝥には、斑蝥などツチハンミョウ科の昆虫に含まれているカンタリジンが含まれていない。カンタリジンはツチハンミョウ科の昆虫が外敵から身を守るために分泌する刺激性の物質で、皮膚に付着すると炎症を起こし、水疱ができる。

 カンタリジンの薬理作用として発疱作用や抗腫瘍作用が知られ、内服すると利尿作用があり、また尿道を刺激するため催淫剤としても用いられた。漢方では攻毒・逐瘀の効能があり、瘰癧(頸部リンパ腺腫)や狂犬病、堕胎などに用いた。

 近年、中国では外用薬としてリウマチや神経痛、顔面神経麻痺、脱毛症に、内服薬として肝臓癌の治療に試みられている。しかし、刺激発疱剤としては毒性が強すぎ、用いる機会も少ないため日本薬局方から削除された。なおツチハンミョウ科の昆虫生薬として芫青、葛上亭長(マメハンミョウ)、地胆(ヒメツチハンミョウ)などがある。

木曜日, 7月 10, 2014

半辺蓮

○半辺蓮(はんぺんれん)

 日本の各地、朝鮮半島、中国、東南アジアなどに分布するキキョウ科の多年草ミゾカクシ(Lobelia chinensis)の全草を用いる。中国では花が下方だけに広がるために半辺蓮と呼ばれ、日本では田んぼの畦道などで溝が隠れるほど繁殖するのでミゾカクシ、あるいはアゼムシロと呼ばれている。

 日本にも普通に分布するが、一般にミゾカクシ属は有毒植物として知られ、薬用としてはほとんど利用されていなかった。中国で住血吸虫病による肝硬変の腹水に有効であることが報告されて以来、非常に注目されている。

 成分にはアルカロイドのロベリン、ロベラニン、ロベラニジンなどが含まれ、利尿作用や呼吸興奮作用、循環系に対する作用を有する。漢方では利水・消腫・解毒の効能があり、下痢や浮腫、腹水、皮膚化膿症、毒蛇咬傷などに用いる。とくに住血吸虫による腹水と毒蛇咬傷の治療は有名である。

 毒蛇に咬まれた時には生汁あるいは煎液を内服すると同時に生汁を患部に貼付する。同属の薬用植物としては北米に分布するロベリア草(L.inflata)がある。

水曜日, 7月 09, 2014

反鼻

○反鼻(はんび)

 クサリヘビ科マムシ属のマムシ(Agkistrodon halys)の内臓を除去した全体を用いる。マムシは体長50cm前後で、全体は褐色で黒褐色の円形の斑紋が少しずれて並び、頭は小さく三角形である。日本全土に生息する唯一の毒蛇で、水辺に近い草むらに生息し、夜行性でネズミやカエルなどを捕食する。卵を体内で孵化する卵胎生である。

 中国、韓国にも分布しているが、反鼻と称されるものの中にはハブ、アオハブ、ヒメハブなども含まれている。日本では滋賀県や九州南部が産地として有名であるが、現在ではほとんどが韓国産のマムシである。

 薬材ではマムシを皮を剥いで棒状にしたものを反鼻あるいは五八霜といい、皮付きのまま蒸して円盤状にしたものをマムシの蒸し焼きと呼んでいる。五八霜の名は、五十八本で1斤(600g)になることに由来する。マムシの蛇毒は血液毒成分と神経毒成分が含まれ、血液循環障害や出血、壊死、浮腫などが出現する。

 漢方では性味は甘温、有毒で、解毒・攻毒・強壮の効能があり、ハンセン病や腫れ物、皮膚のしびれ、腹痛、痔疾などに用いる。健忘症やうつ病などによる放心状態には茯苓・香附子などと配合する(反鼻交感丹)。夜尿症には丁子と配合する(香竜散)。

 日本では古くからマムシの黒焼きも有名で、おもに伯州散などの解毒剤に配合されて用いられている。マムシは明治以後には滋養強壮剤として用いられることが多く、今日でも栄養剤やドリンク剤などにハンビチンキの名前で配合されている。また民間療法ではマムシの生き血や生胆、生きたまま漬けたマムシ酒などが疲労回復や冷え性などの治療に用いられている。

月曜日, 7月 07, 2014

胖大海

胖大海(はんたいかい)

 インドから東南アジアにかけての熱帯に分布するアオギリ科の落葉高木ハンタイカイ(Sterculia scaphigera)の種子を用いる。ベトナム、タイ、インドネシア、マレーシアなどで産するが、ベトナム産の品質が最もよいとされている。

 乾燥した種子は長さ2~3cm、直径1~1.5cmの楕円形で表面には細かい不規則なしわがある。水に浸けると大きく膨らんで海綿状となるので胖大海の名がある。このような種子として同属植物のハクジュ(S.lychnophora)の種子は莫大海と呼ばれ、水に入れると寒天質のゼリーをつくるため、中国では薬膳料理などに利用され、日本でも刺身のつまとして利用されている。

 種子の外層には多量の粘液質のバッソリン、果皮にはガラクトース、アラビノース、ペントースなどの糖類が含まれる。食べると腸の内容物を増大させるので緩下作用があり、また降圧、利尿、鎮痛作用などが知られている。漢方では利咽・潤肺・通便の効能があり、扁桃炎などによる咽の痛みや嗄声、乾燥性の咳嗽、歯痛、便秘などに用いる。煎じるほか、お茶に浸して服用する。インドネシアでは喘息の治療に利用している。

木曜日, 7月 03, 2014

蕃石榴

○蕃石榴(ばんせきりゅう)

 熱帯アメリカ原産で、熱帯および亜熱帯の世界各地で栽培されているフトモモ科の常緑小高木バンジロウ(Psidium guajava)の果実や葉を用いる。生薬では未成熟の果実を番石榴乾といい、葉を番石榴葉という。

 バンジロウは紀元前から古代いんかインカ族によって栽培されていたといわれ、16世紀にスペイン人によってフィリピンに伝えられた。17世紀ごろには台湾や沖縄県にも伝えられ、現在、琉球諸島で野生化している。果実がザクロに似ていることから中国では番石榴といい、その漢字を日本でバンザクロ、バンジロウと呼んでいる。

 日本では、グァバとしても知られているが、グァバとはスペイン語の果実という意味に由来する。また、学名をシジュウム・グァバというが、近年、南米産の葉をシジュウムとも呼んでいる。グァバの果実はビタミンに富み、そのまま食用にしたり、ジュースやジャムに利用される。台湾では葉をパーラ茶と呼んで飲用する習慣がある。

 果実にはビタミンC、カロテン、シトステロール、ケルセチンなどが含まれ、葉には多量のタンニンなどのポリフェノール(グァバ葉ポリフェノール)が含まれている。中国やインド、東南アジアでは果実や葉を収斂性の止瀉薬として下痢に用いている。台湾では古くから糖尿病の治療や肥満防止の効果が知られている。

 グァバはポリフェノールにはαアミラーゼ、αグルコシダーゼなどの糖質分解酵素の働きを阻害し、糖分の吸収を抑制して、血糖上昇を抑える効果が確かめられており、血糖が高い人のための特定保健用食品の機能性成分として認められている(蕃爽麗茶)。また、グァバの一種と考えられているシジュウムの葉には、ヒスタミンやロイコトリエンの遊離抑制効果が報告されており、花粉症やアトピーなどのアレルギー症状に効果があるといわれている。

水曜日, 7月 02, 2014

半枝蓮

○半枝蓮(はんしれん)

 中国の各地、台湾などに分布し、湿地に生えるシソ科の植物スクテラリア・バルバータ(Scutellaria barbata)の全草を用いる。コガネバナ(生薬名:黄芩)やタツナミソウと近縁植物である。中国の江蘇省地域の民間薬で、古い本草書には収載されていない。

 成分にはアルカロイド、フラボノイド配糖体などが含まれるが、詳細は明らかではない。水製エキスにて白血病細胞に対する軽度の抑制作用が認められている。民間薬として止血・止痛・清熱・解毒の効能があり、外傷や鼻血、吐血、下血、肝炎、咽頭腫痛、皮膚化膿症、肺化膿症などに用いる。

 乾燥したものを煎じて用いたり、新鮮な絞った汁を服用する。また皮膚病や打撲傷、毒蛇咬傷などに新鮮な汁を外用する。近年、中国で白花蛇舌草と併用し、胃癌、大腸癌、肝癌などの消化器系癌や肺癌、子宮癌、乳癌に対してある程度の効果があることが報じられている。