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土曜日, 6月 29, 2013

水菖蒲

○水菖蒲(すいしょうぶ)

 日本をはじめ中国、東アジア、インドに分布し、池や沼などの水辺や水中に自生するサトイモ科の多年草ショウブ(Acorus calamus)の根茎を用いる。日本では菖蒲根という。

 同じサトイモ科でよく似た植物にセキショウがあり、生薬名を石菖蒲というが、中国で菖蒲といえばセキショウのことである。ショウブには芳香があり、古くから魔除けや邪気払いなどに利用され、端午の節句に葉を菖蒲湯とする風習がある。

 精油成分にはアサロンやオイゲノールなどが含まれ、鎮痛、鎮静、珍痙、健胃、去痰作用などが認められている。漢方では芳香開竅薬のひとつで開竅・去痰・化湿・解毒の効能があり、高熱時の意識障害や湿疹、癲癇あるいは健忘症や精神病などに用いられるほか、腹痛や下痢、関節痛、打撲傷、腫れ物、気管支炎にも用いる。

 煎じた液や粉末にして服用するほか、腫れ物に煎液を塗布したり、歯痛にも粉末をすりこんだりする。日本の民間療法でも胃炎、発熱、ひきつけ、創傷、リウマチなどの治療に根を煎じたものややろしたものが利用されている。また打ち身には根をおろして患部にすり込む。

 しかし煎剤の服用でしばしば悪心や嘔吐を催すため、最近はあまり用いられていない。この服作用は新しいほど起こりやすいので、1年以上たったものや、粉末を用いるほうがよい。ヨーロッパではショウブの根茎はカラムスと呼ばれ、食欲不振や消化不良の治療に、北米では呼吸器症状の治療に用いられている。またアロマオイルではスイートフラッグ(sweetflag)とも呼ばれている。

水曜日, 6月 26, 2013

水銀

○水銀(すいぎん)

 常温で液体金属の水銀(Hg)を用いる。おもに天然の赤い辰砂鉱(HgS)を煉製するが、一部は天然水銀からとるものもある。古くから知られた金属のひとつであり、汞とは水銀のことを表す。水銀化合物の朱砂、霊砂、軽粉なども漢方では薬用にする。

 水銀には消毒、利尿、瀉下の作用があり、塩化第二水銀の昇汞は殺菌消毒薬として、有機水銀のマーキュロクロム(赤チン)は傷の消毒薬として知られている。かつて甘汞(塩化第一水銀)は緩下、利尿薬として、水銀注射は駆梅剤として、水銀軟膏は梅毒、毛虱、の塗布駆虫剤として、そのほか農薬としても使われていた。しかし、水銀の毒性により、今日ではほとんど姿を消している。

 一般に無機水銀はわずかして腸管から吸収されないが、有機水銀はほとんど吸収される。無機水銀を摂取すると腹痛や下痢、嘔吐、疲労感、腎障害などの急性中毒や水銀蒸気による気管支炎、肺炎などが現れる。また慢性の水銀中毒では口内炎、貧血や白血球減少、肝障害、腎障害、消化不良、さらには知覚喪失、精神異常などの神経症状を生じる。有機水銀中毒として水俣病がよく知られている。

 かつて中国の神仙家は朱色の辰砂から白く輝く水銀に、さらに白色の塩化水銀や黒色の酸化水銀に変化することに象徴的な意味を起き、不老不死の薬を求める錬丹術にしばしば水銀を用いた。このため錬丹術の流行した唐代には皇帝6人が丹を飲んで死んだといわれている。

 近年、内服薬に水銀を用いることはないが、かつて脚気衝心や脳卒中で危篤の時には黒錫と配合した黒錫丹や養生丹が用いられたり、浮腫や梅毒に水銀を配合したものを薫じて鼻から入れる方法もあった。また油脂とよく混ざるので外用薬として用いられ、疥癬や真菌症など皮膚疾患の治療に応用され、とくに梅毒による悪瘡にしばしば用いられた(神水膏)。

火曜日, 6月 25, 2013

水牛角

水牛角(すいぎゅうかく)

 中国南部、東南アジアなどで飼育されているウシ科のスイギュウ(Bubalus bubalis)の角を用いる。黒褐色の湾曲した中空の角で、基部は方形~三角形になっている。

 成分は犀角とほぼ同じであり、水牛角にも強心作用、血液凝固時間短縮作用、鎮静作用などがある。漢方では清熱涼血・解毒の効能があり、発熱時の頭痛、意識障害、熱性痙攣、出血症状、紫斑などに用いる。サイの捕獲がワシントン条約により禁止されているため、犀角の代用として使用されることが多い。

月曜日, 6月 24, 2013

蕤核

○蕤核(ずいかく)

 中国の内モンゴル自治区、山西・甘粛・河南省などに分布するバラ科の落葉低木、プリンセピア・ウニフローラ(Prinsepia uniflora)の成熟した果実の種子(核果)を用いる。

 7~8月頃に直径1~1.5cmくらいの球形の果実がなり、黒く熟す。熟した果実を摘みとり、果肉を除いて核果を取り出して乾燥する。使用するときには割って内果皮を除いて心臓形の種仁を用いる。

 種仁は脂肪油を多く含む。漢方では明目の効能があり、目の炎症や鼻血、不眠に用いる。眼病の要薬といわれ、結膜炎などで目が赤く腫れたり、涙や眼脂の出るときに用いる。内服にも用いるが、おもに点眼薬として外用する。外用には油分を除いて練って膏として点眼薬にしたり、煎液を眼洗浄に用いる。

金曜日, 6月 21, 2013

○酢(す)

 米、麦、高梁などの穀物や酒などを醸造して得られる酢酸を含む酸性の液体、酢のことである。醸造酢の作り方は、穀物などのデンプンや糖分原料を糖化し、アルコール発酵させた後、酢酸菌によって酢酸発酵させて作るものである。

 酢は酸拝した酒が起源と考えられ、かつて中国では苦酒と呼ばれ、日本でも「からさけ」といわれていた。紀元前5000年頃にバビロニアで樹液や果汁から酒やビネガーをつくったという記載があり、中国では周の時代に酢を司る役人がいたということが周札に書かれている。

 日本には応神天皇の時代、約5世紀のころには中国から酢の製法が伝えられていたといわれてる。米酢などの成分として酢酸(3~5%)、フマル酸、蟻酸、乳酸、コハク酸、クエン酸などの有機酸のほか、グリシン、アラニン、バリン、ロイシンなどのアミノ酸、糖類などを含み、複雑な酸味や香気がある。酢はその酸によって細菌類のタンパク質を変成させる性質があるため、殺菌作用や防腐作用があり、酢洗い、酢漬け、酢じめなどの料理方法に応用されたり、夏の食品保存にも利用される。

 また酸味はストレスを和らげ、酸味の刺激により、胃液の分泌を高め、食欲を増進させる。胃酸分泌の低下しているときには、胃酸の代わりにペプシンなどの消化酵素を活性化させ、タンパク質の消化を促進すると同時に、食物中の雑菌を殺す。

 酸味の感じ方は感情の変化を受けやすく、ストレスや情緒不安定の時には酸味の感覚が鈍るといわれる。また妊娠している人も酸味に対する味覚が鈍るため、酸味の強いものを好むようになる。また高血圧や動脈硬化の予防、水虫などの白癬菌に対する治療効果なども知られている。

 漢方では肝胃に入り、活血・止血・解毒の効能があり、産後のめまい、黄疸、盗汗、鼻血や吐下血、腫れ物などに用いる。咽に炎症があり、声が出にくいときには半夏と醋を卵殻の中に入れて沸騰させたものを冷やして服用する(半夏苦酒湯)。また金匱要略の中に黄汗の治療に黄耆・芍薬・桂枝を苦酒と水を混和した液で煎じる方法がある(黄耆芍薬桂枝苦酒湯)。腫れ物には大黄の粉末を酢で調えて塗布する。ちなみに薬用には古いほどよいといわれている。

 近年、鹿児島県の福山町などで伝統的に作られてきた黒酢が注目されている。黒酢は玄米を原料として陶製の壺(アマン壺)の中で1年以上にわたって糖化・発酵させて熟成したもので、一般の米酢に比較するとアミノ酸の含有量が著しく多いという特徴がある。また、中国の鎮江でもち米を長期に熟成させて作られる香酢(香醋)沖縄県で泡盛の製造過程でできるもろみを原料にしたもろみ酢なども健康食品として登場している。

木曜日, 6月 20, 2013

秦皮

秦皮(しんぴ)

 日本の本州中部以北に自生するモクセイ科の落葉高木トネリコ(Fraxinus japonica)などの樹皮を用いる。中国ではオオトネリコ(F.rhynchophylla)やヒメトネリコ(F.bungeana)などの樹皮を用いる。

 これらの幹や皮にイボタロウムシが白色の蠟を分泌することから白蠟樹の名があり、これを練ったもので戸のすべりをよくしたことから、戸ねり粉という語源説もある。市場にはクルミ科のヒメグルミの樹皮も秦皮として出ているが、適当ではない。

 秦皮にはクマリン類のエスクリンやエスクレチン、タンニンなどが含まれ、エスクリンのために切り口を水をつけると水は青い蛍光をする。薬理的には消炎、鎮痛、尿酸排泄作用が知られている。

 漢方では止瀉・清熱燥湿・明目の効能があり、下痢、帯下、目の充血などに用いる。裏急後重を伴う細菌性下痢には白頭翁や黄連・黄柏と配合する(白頭翁湯)。目の充血に秦皮の煎液で洗眼したり、目の痛みには菊花や黄連と配合して服用する。ヨーロッパや北アジアに分布する近似種のセイヨウトリネコ(F.excelsior)は通風の治療薬として知られている。

水曜日, 6月 19, 2013

人尿

○人尿(じんにょう)

 健康人の小便の中間尿を用いる。とくに10歳以下の男子の小便を童便といい、良品とされている。また妊娠2~3ヶ月の健康な妊婦の尿を妊娠尿として用いることもある。

 用法は新鮮な尿をそのまま1~2杯飲むか、薬湯に混ぜて飲む。成分は電解質や尿素、硫酸、尿酸、アンモニアなどのほかビタミンやホルモンも含まれる。妊娠尿では2ヶ月前後に尿中HCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)の含量が最も多くなる。妊娠尿は尋常性乾癬に効果があるという報告もある。

 漢方では滋陰清熱・止血・活血化瘀の作用があり、結核などの発熱や喀血、高齢者や病後の衰弱に用いる。傷寒論では下痢で陰液まで損なわれたときに白通湯に猪胆汁とともに人尿を配合する。

 古くから世界各地に民間療法として自分が排泄した尿を飲む飲尿療法が行われている。かつてヨーロッパで歯磨き粉や口腔洗浄液の原料として人尿が利用されていたといわれている。また人尿を癌治療に応用する試みも行われており、中国で人尿から抗癌作用がある成分が抽出されたとの発表もある(CDA-Ⅱ)。

 今日、医薬品として人尿から血栓溶解剤のウロキナーゼや酵素阻害剤のウリナスタチンが抽出精製されている。また尿中の沈殿物が便器に付着したものを人中白、童尿と石膏で加工したものを秋石という。

火曜日, 6月 18, 2013

沈丁花

○沈丁花(じんちょうげ)

 中国原産のジンチョウゲ科の常緑低木ジンチョウゲ(Daphne odora)の花を用いる。中国では宋の時代から栽培されているが、今日では栽培種ばかりで、自生種は発見されない。日本に渡来した年代は不明であるが、室町時代にはすでに栽培されていたという。

 早春に芳香の強い花をつけるため、中国では瑞香と呼ばれている。また沈丁花という和名は沈香と丁香をあわせた匂いの花という意味である。ただし花弁のように見えるのは萼である。

 花や葉にはクマリン類のダフニン、ウンベリフェロンなどが含まれる。民間療法では利咽・止痛の効能があり、咽頭の腫痛や歯痛にうがいや、内服薬として用いる。また中国では乳癌の初期に外用したり、リウマチの痛みに内服する民間療法もある。日本にも花や葉の煎じ汁で、腫れ物を洗う治療法がある。

月曜日, 6月 17, 2013

人中白

○人中白(じんちゅうはく)

 人尿が自然に沈殿して固まってものを人中白という。

 便器などの内側に長年に渡って凝固したものを削り取って夾雑物を除いて乾燥する。尿を放置しておくと尿中のpHが酸性からアルカリ性へと変化し、酸性のときには尿酸、尿酸塩、硫酸カルシウム、リン酸水素カルシウムなどが、アルカリ性のときには炭酸カルシウム、リン酸マグネシウム、リン酸カルシウム、尿酸アンモニウムなどが沈殿する。人中白の主成分はリン酸カルシウムと尿酸カルシウムである。

 漢方では清熱解毒・止血の効能があり、結核などの消耗熱や喀血、鼻出血、口内炎などに用いる。咽頭腫痛や口内炎には黄連・黄柏・竜脳などの粉末と混ぜて口中に吹きつける。一般には粉末を外用にして用いることが多い。また尿と石膏を混ぜて固めたものは秋石という。

土曜日, 6月 15, 2013

人中黄

○人中黄(じんちゅうおう)

 甘草の粉末を竹の筒に入れ、人の便壺の中に浸してできたものを用いる。荒く挽いた甘草の粉末を節のある竹筒に入れ、もう一方を布で堅く塞ぎ、これを人糞の溜まった便器の澄んだ液の中に冬季の2~3ヶ月間漬け、取り出し後、臭いがなくなるまで日干しにする。薬材は暗黄色の円柱形をしたやや固い甘草の塊である。

 漢方では清熱解毒の効能があり、高熱や斑疹のある急性伝染病や丹毒、咽頭痛、腫れ物に用いる。温疫などの熱病には黄連・黄芩などと配合する(人中黄丸)。

木曜日, 6月 13, 2013

真珠

○真珠(しんじゅ)

 ウグイスガイ科やイシガイ科などの貝の体内にできる球体を真珠あるいは珍珠といい、その貝殻の真珠層を珍珠母という。日本ではウグイスガイ科のアコヤガイ(Pinctada fucata martensii)が養殖真珠として有名であるが、真珠は海水産のシロチョウガイ(P.maximz)、クロチョウガイ(P.margaritifera)、淡水産でもイシガイ科のカワシンジュガイ(Margaritifera laevis)などにできることがある。

 養殖品も天然品も市場に出ているが、装飾用にならないシジミ真珠を薬用にしている。貝川の内部にある外套膜が、異物にも膜の層を形成し、球状の真珠を作る。このため真珠の成分は、母貝も真珠層と同じで、ほとんどが炭酸カルシウム(CaCo3)で、有機物としていくつかのアミノ酸も含んでいる。養殖真珠では核に貝殻を用い、真珠の大部分は核である。

 薬理的には抗ヒスタミン作用などが知られている。漢方では安神・定驚・清熱・解毒・除翳・収斂生肌の効能があり、心肝の火を清して動悸や痙攣、目の混濁に用いる。

 動悸や心悸亢進には単独で、高熱による痙攣には犀角あるいは石膏などと配合する。消化性潰瘍には単独で用いて胃酸を中和する。また口内炎や咽頭の腫痛に牛黄と配合する(珠黄散)。また結膜炎には内服し、角膜混濁には点眼薬として外用する。さらに傷口の治癒促進や化膿症に外用する。

 珍珠母には平肝潜陽・明目安神・止血の効能があり、安神・定驚作用は真珠よりも弱いが、肝陽上升による眩暈、頭痛、動悸、不眠、鼻血や性器出血に用いる(安神補心丸)。なお古くから真珠の配合された化粧品、珍珠霜(パールクリーム)などが市販されているが、近年、真珠に含まれるコンキオリンというポリペプチドに保湿効果や皮膚細胞の活性効果が認められ、アンチエイジング効果も期待されている。

水曜日, 6月 12, 2013

鍼砂

○鍼砂(しんしゃ)

 鋼鍼を製造するときに削り落とされた鉄屑を用いる。主成分は鉄であり、酸化鉄や炭素、リン、ケイ素、硫黄なども含まれる。鉄は一般に吸収されにくいが、一部は胃酸の作用で塩化第一鉄となり、小腸上部で吸収される。

 西洋で鉄が貧血の治療に有効であることが知られたのは17世紀のことである。近年まで硫酸鉄や塩化第一鉄などの還元鉄が用いられていたが胃腸障害が起こりやすく、現在では除法性鉄剤や有機酸鉄、有機鉄(ヘム鉄)がおもに用いられている。

 漢方では補血・利水の効能があり、血虚黄胖や浮腫の治療に用いる。貧血に伴う動悸、眩暈、呼吸困難、浮腫などの症状に苓桂朮甘湯に鍼砂・牡蠣・人参を加える(鍼砂湯)。

火曜日, 6月 11, 2013

沈香

○沈香(じんこう)

 台湾や中国南部、東南アジアに分布するジンチョウゲ科の常緑高木ジンコウ(Aquilaria agallocha)の樹脂を含んだ木材を用いる。古来より、有名な香木として知られ、良質のものは比重が大きく水に沈むために沈香あるいは沈水木という名がある。

 ジンコウは生木に芳香性の樹脂が含まれているではなく、切株の損傷部や枯死した後に自然と集まってくる樹脂である。また木材が倒れて土中に長い期間埋まり、腐敗した後に樹脂を含んだ部分だけが残ることがあり、これを珍重する。最近では、幹に人工的に傷をつけて樹脂を分泌させたり、木材を10年以上土中に埋めて腐らせて沈降を採取する方法が用いられている。

 黒色の最良品を伽羅木とか奇楠木というが、漢方では伽南香とも称されている。日本には推古天皇の時代に沈水という香木が淡路島に漂着したことが記録されており、また正倉院には黄熟香と全桟香といわれる2種類の沈香が収蔵されている。この黄熟香は蘭奢待と呼ばれ、最高級の沈香といわれている。

 沈香を燃やすと独特の甘い芳香を放つため、燻香料として材を粉末にしたものが練り香や線香の中に入れられている。仏教をはじめとする宗教儀式や香道には不可欠のものである。

 芳香の精油成分はベンジルアセトン、P-メトキシベンジルアセトン、高級テルペンアンコールなどがあり、そのほかにヒドロケイヒ酸やアガロスピロールなどが含まれる。精油には鎮静作用が、煎液には抗菌作用が報告されている。

 漢方では降気・止痛・止嘔・平喘の効能があり、体内を温めて痛みや吐き気を止め、腎気を補い、喘息を治す作用がある。たとえば下腹部痛や嘔吐、しゃっくり、便秘、気管支喘息、インポテンツなどに用いる。

 胸が苦しく、煩悶して食欲不振や喘息などの見られるときには人参・烏薬などと配合する(四磨飲)。気が滞って大便が秘結するときに大腹皮・蘇葉などと配合する(三脘中湯)。四肢の冷えるときには紫蘇子・乾姜などと配合する(喘理中湯)。小児の疳の虫に用いる樋屋奇応丸や急病の際に用いる気付け薬の万病感応丸などの家庭薬にも配合されている。

 近年、人口の葉(沈香葉)に含まれるゲンクワニン配糖体が、アセチルコリンの分泌を促し、腸の蠕動運動を促進して排便を促すことが報告されて注目されている。ただし、沈香の取引はワシントン条約などで制約されているため、一般には入手困難である。

月曜日, 6月 10, 2013

秦艽

○秦艽(じんぎょう)

 中国の東北部から内蒙古、西北部に分布するリンドウ科の多年草ジンギョウ(Genitiana macrophylla)をはじめ、チベット自治区、雲南・四川省などに分布するソケイジンギョウ(G.crassicaulis)、チベットリンドウ(G.tibetica)などの植物の根を用いる。いずれもリンドウと同じゲンチアナ属の植物である。

 根にはゲンチアニン、ゲンチアニジンなどのアルカロイドが含まれ、抗炎症、鎮静、降圧、抗菌作用などが認められている。漢方では去風湿・清虚熱・退黄の効能があり、リウマチなどによる関節痛や筋肉の痛み、痙攣、結核などによる虚熱、黄疸、小便不利などに用いる。

金曜日, 6月 07, 2013

神麹

○神麹(しんきく)

 日本では米を蒸して酵母菌により発酵させた麹を神麹という。中国では小麦粉や米の麩に赤小豆粉、杏仁泥、青蒿、蒼耳、野辣蓼を混合して発酵させたものをいう。

 現在、一般的な中国の製法は新鮮な青蒿(カワラニンジン)、蒼耳(オナモミ)、野蓼(ヤナギタデ)を細切りにし、これに赤小豆の粉にしたもの、杏仁の渋皮をとってスライスしたものを加えてかき混ぜ、さらに小麦粉と米のふすまと水を加えて練って団子状にする。その後、これを押しつぶして厚さ1cmの平板状にし、表面に黄色い菌糸が伸びたころに乾燥させて作る。もともと小麦を除いた六味で作られてたため六曲ともいう。神麹の薬材は厚さ1cmで、3cmくらいの方形に切ったものである。

 神麹には酵母菌のほか、アミラーゼ、プロテアーゼ、ビタミンB複合体、配糖体類などが含まれ、消化酵素製剤に類するものと考えられる。漢方では健脾・消化・止瀉の効能があり、消化不良や食欲不振、腹部膨満感、下痢などの症状に用いる。

 小児の食べ過ぎや消化不良による痞満やむかつきには山査子・陳皮などと配合する(保和丸)。食欲不振、消化不良には人参・白朮などと配合する(人参健脾丸)。また胃腸虚弱者の眩暈症に用いる半夏白朮天麻湯にも神麹が配合されている。

 ちなみに福建省産の有名な建麹は約40種類の生薬を混ぜ合わせて作ったもので茶料として利用されているが、かつて日本では建麹を神麹として用いていたこともある。

木曜日, 6月 06, 2013

晋耆

○晋耆(しんぎ)

 中国の甘粛省・寧夏・四川省などに分布するマメ科の多年草ヘディサルム・ポリボトリス(Hedysarum polybotrys)の根を用いる。これと同属植物にイワオウギ(H.esculentum)があり、イワオウギの根は和晋耆と称されている。

 いわゆる黄耆の基原植物はマメ科ゲンゲ属のキバナオウギ(Astragalus membranaceus)やナイモオウギ(A.mongholicus)などであるが、この晋耆は同じマメ科でもイワオウギ属である。この晋耆は日本市場で束黄耆として流通していたが、日本薬局方では除外されている。ただし、中国ではこの晋耆も黄耆のひとつとして扱われ、むしろ本品のほうが尊ばれて高価である。

 晋耆には黄耆と同様に利水・止汗・補気の効能があり、浮腫や盗汗、麻痺、脱肛、子宮下垂などに用いる。

水曜日, 6月 05, 2013

辛夷

○辛夷(しんい)

 中国を原産とするモクレン科の落葉樹モクレン(Magnolia quinquepeta)やハナモクレン(M.heptapeta)、ボウシュンカ(M.bionadii)などの花蕾を乾燥したものを用いる。

 中国で辛夷といえば紫色の花のモクレン(シモクレン)のことで木蓮・桂蘭ともいい、一方、白い花のハナモクレンは中国では玉蘭あるいは白木蓮という。日本ではコブシ(M.praecocissima)に辛夷の漢字をあてているが、コブシは日本特産である。

 ところで現在流通している日本産の辛夷はほとんどタムシバ(M.salicifolia)の花蕾である。タムシバはコブシに似た落葉高木であり、本州、四国、九州に自生している雑木である。現在、日本に流通している辛夷はおもにボウシュンカの蕾ともいわれている。これら花蕾は毛筆状で、外面に細かい毛が密集し、特有の芳香がある。

 花蕾の成分にはシトラールやオイゲノール、シネオール、ピネンなどの精油が含まれ、消炎、抗真菌、降圧、クラーレ様作用などが認められている。漢方では解表・通竅の効能があり、おもに鼻の竅を通じる要薬としてよく知られている。鼻炎や蓄膿などによる鼻づまりのほか、頭痛や歯痛などに用いる。

 風邪に罹患して鼻閉や鼻汁の症状がひどいときには葛根湯に配合する(葛根湯加川芎辛夷)。慢性鼻炎や蓄膿症で鼻閉や頭痛のあるときには山梔子・黄芩などと配合する(辛夷清肺湯)。また、同様の作用を有する蒼耳子とも配合する(鼻淵丸)。

月曜日, 6月 03, 2013

地竜

○地竜(じりゅう)

 日本、朝鮮半島、中国の山野や畑などに生息するミミズ科の乾燥したものを用いる。中国ではフトミミズ科の参環毛蚓(Pheretima aspergillum)やツリミミズ科に属するカッショクツリミミズ(Allolobophora caliginosa trapezoides)というミミズを用いる。

 前者は大きなものでは体長36cm、幅1cm以上もあり、後者は大きなものでは体調25cm、幅4mm程度とやや小さい。生薬名で前者を広地竜、後者を土地竜という。広地竜は腹を開いて内臓を出してから乾燥したもの、土地竜は草木灰の中に入れて殺し、そのまま乾燥したものが流通している。日本産の地竜はカッショクツリミミズである。

 地竜は古くから薬用に用いられ、神農本草経の下品に白頸蚯蚓という名で収載されている。成分にはルンブリフェブリン、ルンブリチン、テレストロルンブリシンなどが含まれ、解熱作用、降圧作用、気管支拡張作用、鎮静、抗痙攣作用などが認められている。

 漢方では清熱瀉火・定驚・通経絡・止咳の効能があり、高熱時のひきつけや煩躁、癲癇、脳卒中後遺症、喘息、気管支炎、リウマチなどに用いる。例えば脳卒中による半身不随や言語障害、小児麻痺などに黄蓍・当帰などと配合する(補陰還五湯)。またリウマチなどによる関節痛や神経痛に用いる大・小活絡丹にも配合されている。

 日本の民間でも発熱性疾患や咳嗽、中耳炎、尿路感染症、浮腫などに用いる。また生のミミズはひょう疽の特効薬ともいわれ、すりつぶして米飯と混ぜて患部に塗ったり、裂いた皮を指に巻いて用いる。

 近年、欧米に広く生息している体長3~4cmのアカミミズ(red worm)の一種、ルンブルクス・ルベルスからルンブルキナーゼという血栓溶解酵素が発見され、アカミミズの皮を除いた内臓を凍結乾燥させた粉末が健康食品として市販されている。

土曜日, 6月 01, 2013

蒔蘿子

○蒔蘿子(じらし)

 ヨーロッパの地中海沿岸地方や西アジアを原産とするセリ科の一年草イノンド(Anethum graveolens)の果実を用いる。ヒメウイキョウとかデイルという名の香辛料としても知られ、古代メソポタミアやエジプトで栽培された最も古い香草、薬草の一つである。

 果実はデイルシードと呼ばれ、サラダや煮込み料理、ソースやスープなどに用いられる。イノンドという名はスペイン語のEneldoの音訳で、江戸時代の中期にスペイン人が長崎に伝えたといわれている。葉もスープやピクルスの香り付けに使用される。

 果実には精油成分のカルボン、リモネン、ジラピオールなどのほか、キサントン配糖体のジラノサイドなどが含まれ、芳香性の健胃薬、駆風薬として知られている。

 漢方でも脾腎を温めて健胃・理気の効能があり、食欲不振や嘔吐、下痢、腹痛などの症状に用いる。民間では嘔吐やしゃっくりを止めるのに用いている。水蒸気蒸留した蒔蘿水は小児の食べ過ぎに用いる。ヨーロッパでは泣き叫んでいる幼児を鎮めるために用いている。