スポンサーリンク

水曜日, 2月 29, 2012

営実

○営実

 日本の各地、朝鮮半島に分布するバラ科のつる性落葉低木ノイバラ(Rosa multiflora)の果実を用いる。中国ではノイバラの花を薔薇花、根を薔薇根と称して薬用にする。そのほか近縁種のテリハノイバラ(R.wichuraiana)やフジイバラ(R.fujusanensis)などの果実も用いる。これら果実は偽果であるが、薬用には赤く成熟する一歩手前の、少し青味がかったものを採取し、それを乾燥して用いる。

 営実にはフラボノイドのムルチフロリンA・B、ムルチノサイドA・B、紅色素のリコピンなどが含まれる。漢方では通便・利水消腫・活血・解毒の効能があり、浮腫や脚気、瘡毒、月経痛などに用いる。

 実証の腹水に大黄・甘草と配合する(営実湯)。営実は神農本草経の上品に収載されているが、中国では余り用いられず、むしろ日本の民間薬としてよく知られている。日本の民間では古くより便秘や浮腫の瀉下・峻下薬として知られ、今日でも家庭薬の下剤にはしばしば配合されている。ただし使用量が多くなると激しい下痢となるので注意を要する。また腫れ物や痤瘡には煎液で洗ったり、冷湿布として用いる。

 欧米では近縁種のドッグローズ(R.canina)などの偽果をローズヒップと呼んで花弁とともに、ビタミンCの豊富なハーブティーとして愛飲している。

火曜日, 2月 28, 2012

雲母

○雲母

 おもに花崗岩ペグマタイトに産する珪酸塩鉱物の白雲母を用いる、かつてヨーロッパでウラル山地の白雲母をモスクワ(マスコ)経由で輸入し、窓ガラスに用いたためマスコバイト(Muscovite)という。中国では雲は岩石の精気が立ち上って凝集したと考えられたことから雲母と呼ばれ、日本ではガラス様の光沢があることから「きらら」および奇良といわれる。千枚はがしの異名があるように非常に剥がれやすく、薄片は透明で弾力性と絶縁性とがある。

 雲母はカリウム、アルミニウム、ケイ素、酸素、水素、フッ素などからできており、電気関係や断熱材として重要である。漢方では平喘・止帯・止血・斂瘡の効能があり、喘息や婦人の帯下、出血などには内服し、切り傷や悪瘡には外用する。婦人の帯下が止まらないときには蒲黄と配合する(蒲雲散)。

月曜日, 2月 27, 2012

ウワウルシ

○ウワウルシ

 ヨーロッパ、アジア、北米などの北半球の寒冷地に分布するツツジ科の常緑低木ウワウルシ(Arctostaphylos uva-ursi)の葉を用いる。ウワウルシの名は熊のブドウという意味であり、英語ではベアベリー、日本でもクマコケモモと呼ばれている。ヨーロッパでは17世紀ごろより実が薬用とされ、18世紀中ごろから葉が治療に盛んに用いるようになった。

 葉には主成分のフゥノール配糖体アルブチンのほか、メチルアルブチン、ハイドロキノン、タンニン、ケルセチンなどが含まれる。アルブチンは尿中で分解されてハイドロキシノンを生じ、ハイドロキシノンには殺菌作用のほか、腎細胞を刺激するため利尿作用もある。ケルセチンにも利尿作用が認められている。

 葉の煎液は尿路消毒薬、利尿薬として膀胱炎や腎炎などの尿路感染症、尿路結石などに用いる。また膣洗浄液としても利用されている。このウワウルシ葉の粗粉末を精製水を用いて熱水抽出したものがウワウルシ流エキスである。家庭薬として膀胱炎などに用いる利尿剤にはウワウルシの配合されたものも少なくない。

 近年、アルブチンにメラニン色素の生成を抑制する効果があることから、ウワウルシエキスが美白のハーブとして化粧品などに配合されている。

土曜日, 2月 25, 2012

烏斂莓

○烏斂莓(うれんぼ・うれんも)

 日本各地、台湾、中国、インドなどに分布するブドウ科のつる性多年草ヤブガラシ(Cayratia japonica)の根及び根茎を用いる。ヤブガラシとは、繁殖力が旺盛で「藪を枯らす」という意味であり、俗にいうビンボウカズラ(貧乏葛)ともいわれる雑草である。新芽を塩ゆでにして水によくさらし、和え物にして食べる。

 根にはアラバンを含む粘液質や多量の硝酸カリウム、タンニンが含まれる。漢方では清熱・解毒・利尿の効能があり、化膿性疾患や扁桃炎、膀胱炎、関節炎、打撲傷などに用いる。民間療法としては生の根茎を突き砕いて出てきた粘液を腫れ物や化膿、虫刺されなどの患部に塗布する。ただし、かなり刺激があるのでかぶれないように注意が必要である。

木曜日, 2月 23, 2012

裏白樫

○裏白樫

 日本の東北地方以南の地域から台湾にかけて分布するブナ科の常緑高木ウラジロガシ(Quercus salicina)の小枝や葉を用いる。ウラジロガシのはその名の通り葉の裏は白い蝋質でおおわれ、その白粉は熱によって溶ける。木材は農耕器具や薪炭用として、また庭園の樹木として利用されている。ウラジロガシは近年になって知られた日本の民間薬の一つで、おもに徳島県や和歌山県に産する。

 小枝や葉にはフラボノイドのケルセチン、ケンフェロール、トリテルペノイドのフリーデリン、タラクセロールなどのほか、カテコール、ピロガロールなどが含まれ、エキスの動物実験では膀胱内結石の生成抑制や溶解作用が認められている。徳島県地方では早くから胆石、腎結石、尿路結石などの民間治療薬として用いられていた。

 本来、胆石症に効果があるということから研究されたが、現在では尿路結石にも応用されている。尿路結石にはカキドオシ(連銭草)と配合して服用する。ウラジロガシエキスは尿路結石の治療薬として医療用に用いられている。

水曜日, 2月 22, 2012

兎余粮

○兎余粮(うよりょう)

 兎余粮は不純な褐鉄鉱あるいは沼鉄鉱のひとつであり、さまざまな形の塊や土状をしている。本来、余粮とは鉄質の殻の中に粘土質の核を有する鉱物のことであり、薬用には中の粘土を用いたとされる。その中の粘土が淡黄~灰色のものを兎余粮といい、鉄分を多く含んだ濃赤色のものを太一余粮と称していたと考えられている。ときに中の空洞のできてることもあり、振ると音がするため一般に鈴石とか鳴石、子持ち石などと呼ばれている。

 この中の粘土の多くは加水ハロサイト(Al2o3・2Sio2・2H2O)である。本草綱目の中には「池沢に産出するものが兎余粮であり、山谷に産出するものが太一余粮であり、その中の黄濁した水が石中黄水であり、それが粉のように凝結したものが余粮であり、石のように乾燥して凝結したものが石中黄である」と記載されている。

 古くから基原に関して諸説があって一定せず、現在の市場では兎余粮と太一余粮とを区別しない。また中国医学のテキストでは兎余粮の基原を褐鉄鉱とし、主成分はFe2O3で砂石有機物、リン酸塩などを含むとある。通常、無味・無臭で、水飛によって細末にしてから用いる。

 漢方では止瀉、止血の効能があり、慢性的な下痢や子宮出血、帯下、痔などに用いる。傷寒論では赤石脂と配合した赤石脂兎余粮湯を下痢の治療に用いている。

火曜日, 2月 21, 2012

烏薬

○烏薬(うやく)

 中国原産のクスノキ科の落葉低木テンダイウヤク(Lindera strychuifolia)の根を用いる。日本の近畿や九州にも野生化している。秦の始皇帝の命により、不老長寿の薬をもとめに来た徐福が、この木を日本に伝えたという伝説が和歌山県新宮市に残っている。浙江省天台産の品質が優れているため天台烏薬または台烏薬ともいわれる。一方、ツヅラフジ科のイソヤマアオキ(Cocculus laurifolius)の根を衡州烏薬と呼ぶが、現在ではあまり使用されない。

 烏薬には精油成分としてボルネオール、リンデラン、リンデレン、リンデリロールなどが含まれ、芳香性の健胃作用がある。漢方では理気・止痛・温裏の効能があり、消化不良、腹痛、嘔吐、頻尿などに用いる。烏薬は「上下の諸気を通理する」といわれ、冷えやストレスなど気滞や気逆による腹痛に広く用いられる。とくに下腹部の張った痛みに効果がある。烏薬は木香・香附子と同じく理気止痛薬のひとつで、木香は胃腸の気滞に、香附子は肝の気滞に、烏薬は下腹部や膀胱(下焦)の気滞に効果がある。

月曜日, 2月 20, 2012

烏梅

○烏梅(うばい)

 中国中部を原産とし古くから日本に渡来したバラ科の落葉小高木ウメ(Prunus mume)の未成熟果実を用いる。薬材は未熟な果実、つまり青梅を薫蒸して乾燥したものである。外面が黒いため烏梅といい、和名では「ふすべうめ」という。日本には樹木よりも先に薬として烏梅(うめい)が渡来したため、木そのものをウメと呼ぶようになったといわれる。ウメの花蕾は白梅花といい、種子は梅核仁という。

 梅の核には青酸配糖体のアミグダリンが含まれているが、未熟な果実の核はやわらかくて砕けやすいため、核を出たアミグダリンは酵素分解により青酸を生じる。このため青ウメは生で食べると中毒を起こして腹が痛むことがある。ただし、この青酸は熟するにつれて蒸散する。

 ウメの果肉の酸味としてクエン酸やコハク酸、リンゴ酸、酒石酸などの有機酸が含まれるが、未熟な果実にはリンゴ酸が多く含まれ、成熟するとクエン酸のほうが多くなる。クエン酸は胃液の分泌を高め、ペプシンを活性化してタンパク質の消化を促進する。また烏梅の煎液には抗菌・抗真菌作用がある。中国や台湾では暑気ばらいの飲料として、烏梅に山査子や甘草、砂糖などを加えた酸梅湯がよく知られている。

 漢方では止渇・止嘔・止瀉・安蛔の効能があり、口渇や悪心・慢性の下痢、回虫症による腹痛、咳嗽、燥熱などに用いる。例えば老人の消化不良などのために下痢や食欲不振のみられるときには蒼朮・麝香などと配合する。(人参養胃湯)。日本の民間療法としては頭痛にコメカミにウメボシの果肉を貼り付ける治療がよく知られている。また青ウメを加工した日本独自の梅肉膏がある。

土曜日, 2月 18, 2012

烏蛇

○烏蛇(うだ)

 ヘビの一種ウショウダ(Zaocys dhumnades)の内臓を除去した全体を用いる。烏梢蛇の脱皮した皮は蛇退皮という。ウショウダは全長2m以上で、体は青味を帯びた灰褐色、背中央に黄褐色の二列の縞と、その外側に細い黒の縦線の模様がある。

 中国各地に分布するが、主に揚子江以南の平地や丘陵地帯の草むらに生息し、カエルやトカゲ、魚などを捕食する。無毒であり、捕獲した後、腹部を裂いて内蔵を去り、円盤状に丸めて柴草で薫じて乾燥する。煎じたり、酒に浸して服用するほか、あぶって乾かしてから粉末にし、散剤や丸剤として用いる。

 漢方では去風湿・通経絡の効能があり、リウマチなどによる関節の痛みや手足のしびれ、麻痺、皮膚疾患などに用いる。脳卒中後遺症やリウマチなどによる関節痛に用いる大活絡丹や風湿舒筋丸に配合されている。

金曜日, 2月 17, 2012

烏頭

○烏頭(うず)

 キンポウゲ科トリカブト属の母根を烏頭という。一般にトリカブトには茎に続く塊根(母根)の周囲に数個の新しい塊根(子根)が錬生している。この母根を烏頭といい、子根を附子という。塊根の形が烏の頭に似ていることから烏頭、母根に付着した根ということから附子という名がある。ただし、近年、中国においてその区別は曖昧であり、一般には減毒処理したものを附子、減毒処理されていないもの烏頭としている。また、子根を有しない細長い根は天雄と称し、子根の小さいものを側子、さらに小さくて籠の目から漏れるほどのものを漏藍子という。

 トリカブト属は種類が多く、中国では宋の時代からカラトリカブト(A.carmichaeli)が四川省で栽培されている。このため中国では栽培品種である川烏頭と野生種の草烏頭とが区別されている。このカラトリカブトはハナトリカブトとも呼ばれ、日本でも薬用や切花用に栽培されている。一方、日本では佐渡島などに産する野生種を草烏頭と呼んでいる。

 一般に烏頭は附子よりもアコニチンの含有量が多く、鎮痛作用は附子よりも強いが、温熱・強心作用は附子よりも弱いといわれる。烏頭は毒性が強いため専門家でない限り、使用すべきではない。

 漢方では去風湿・温裏・止痛の効能があり、傷寒論、金匱要略でし関節痛や神経痛に麻黄・オウギと配合した烏頭湯、腹痛に桂枝湯に烏頭・蜂蜜を加えた烏頭桂枝湯などが収載されている。

木曜日, 2月 16, 2012

鳥賊骨

鳥賊骨(うぞくこつ)

 日本の近海や中国の沿岸に生育する軟体動物コウイカ(Sepia esulenta)などの内殻、すなわちイカの甲を用いる。日本近海には100種以上のイカが知られているが、コウイカ類は楕円形をした胴の左右に薄いひれを有するという特徴がある。

 一般にイカの甲はセルロイド質であるが、コウイカ類の甲は石灰質である。コウイカの甲は長さ10~15cmくらいの紡錘系で、後端にはするどい針がある。成分は主に炭酸カルシウムであるが、そのほかリン酸カルシウム、リン酸マグネシウムなども含まれる。炭酸カルシウムには制酸作用があり、胃・十二指腸潰瘍に効果がある。

 薬用には細かく砕いて使用するが、一般には焙って粉末にしたものを用いる。漢方では止血・止帯・固精・生肌の効用があり、鼻血、吐血、血便、性器出血、帯下、皮膚潰瘍等に用いる。代表的な収斂薬の一つで、収斂作用には各種の出血に対する止血、傷口や潰瘍に対する斂瘡、精液の漏れるのを防ぐ固精、婦人の帯下を止める止帯などがある。

 不正性器出血や帯下には茜草・オウギなどと配合する(清帯湯)。胃酸過多や胃・十二指腸潰瘍などによる疼痛、出血などに白芨と配合する(烏芨湯)。外用薬としての応用範囲も広く、鼻出血や外傷性の出血、中耳炎、臍周囲炎、皮膚潰瘍、湿疹などに粉末を塗布する。とくに分泌物の多い化膿瘡や湿疹、潰瘍などに適している。日本でも膿の吸い出しに有名な破敵膏に配合されている。

水曜日, 2月 15, 2012

鬱金

○鬱金(うこん)

 熱帯アジア原産で、インド、東南アジア、中国南部などで栽培されているショウガ科の多年草ウコン(Curcuma longa)の根茎を用いる。ウコンの根茎の皮を除いた乾燥し、粉末にしたものが香辛料のターメリックである。カレー粉の黄色の主原料として、また沢庵やピクルスの着色料としても用いられている。

 日本には江戸時代中期に渡来し、沖縄県や九州南部で栽培されている。ウコンのことをウッチンというのは沖縄県の方言である。ところで日本と中国ではウコンの植物名や生薬名が錯綜しているので注意が必要である。

 植物名では日本でいうウコンは中国では姜黄といい、日本のキョウオウ(春ウコン)は中国では鬱金という。一方、生薬名では日本でいう鬱金は、ウコンの根茎と規定されているのに対し、中国の生薬で鬱金といえば、ウコン、キョウオウ、ガジュツの根の先にある紡錘形の塊根のことであり、姜黄といえば、ウコン、キョウオウの茎と続いている根茎の部分をいう。すなわち、日本市場の鬱金は、中国の姜黄のことであり、その中のウコンを基原植物とするもののみをいう。一方、中国の鬱金は玉金とも呼ばれ、市場ではウコン(C.longa)のものを広玉金、キョウオウ(C.aromatica)のものを川玉金と称している。

 ところで、健康食品市場において利用されているウコンには、秋ウコン、春ウコン、紫ウコンの3種類がある。秋ウコンはC.longa、春ウコンはC.aromatica、紫ウコンはガジュツC.zedoariaのことを指している。これとは別にインドネシア原産のクスリウコン(C.xanthorrhiza)というウコンも注目されている。また、白ウコンと呼ばれているのは、ハナショウガ(Zingiber zerumbet)のことであり、ショウガ科ではあるが、全く種類の違う植物である。

 このうち秋ウコンは香辛料ターメリックの原料として、また健康食品として最も多く利用されている。春ウコンは秋ウコンに比べ強い苦味と辛さがあるため、食用には不向きであり、専ら薬用として栽培されているが、生産量もあまり多くない。根茎の切断面では秋ウコンは赤みがかった黄橙色であり、春ウコンは明るい黄色である。ガジュツは根茎の切断面が紫色がかった青白色のため紫ウコンと呼ばれている。

 黄色い色素成分はクルクミンであり、秋ウコンには春ウコンの約10倍も多く含まれ、一方ガジュツにはクルクミンはほとんど含まれていない。黄色色素のクルクミンはウコン(秋ウコン)の方が多く含有するが、クルクモール、クルクメンなどの精油成分はキョウオウ(春ウコン)のほうが豊富である。動物実験で、クルクミンに皮膚癌の発生を抑制することが報告され、クルクモールにも抗癌作用が認められており、中国では子宮癌の臨床に用いられている。

 日本では中国名の鬱金(玉金)はほとんど流通していないが、中国医学では鬱金に関して次のように説明されている。中国医学では鬱金は姜黄と同じく活血・理気薬であるが、鬱金(日本名:川玉金)の薬性は寒であるのに対し、姜黄(日本名:鬱金)は温として区別して扱われている。

 漢方では理気・活血・止血・退黄の効能があり、胸脇部や腹部の疼痛、乳房の痛み、月経痛、鼻血、吐血、煩燥、黄疸、肝炎などに用いる。鬱金は血中の気薬といわれ、気滞と同時にお血を改善して疼痛を緩和する。ストレスなどによる胸や腹の痛みや月経痛には柴胡・香附子などと配合する。腹部の腫塊には丹参・ガジュツ・青皮・別甲などと配合する。熱病による意識障害には牛黄・黄連などと配合する(牛黄清心丸)。またや切り傷には粉末を水に溶いて外用薬として用いる(中黄膏)。

火曜日, 2月 14, 2012

烏骨鶏

○烏骨鶏

 キジ科の鶏の一種、ウコッケイの肉または内臓を除いた全体を用いる。鶏冠は紫色であるが、皮膚や足、くちばし、肉や骨まで黒いため烏骨鶏と呼ばれ、全身は柔らかい糸状の絹糸状に覆われている。羽毛の色は白や黒などがあるが、一般に白毛烏骨鶏が珍重される。普通のよりもやや小型で、性質は温順であり、美しいため愛玩用に飼育されている。

 江西省泰和県が原産地であるが、現在は世界各地で飼育されている。日本にも江戸時代に輸入され、天然記念物に指定されているが、特別指定ではないため鶏肉や鶏卵は流通している。成分としてビタミンA・B2・E、カルシウム、鉄などが豊富に含まれている。

 漢方では滋陰・清熱の効能があり、虚労や胃腸虚弱、慢性熱性疾患などに用いる。虚弱体質や結核などの慢性消耗性疾患、慢性胃腸炎などの時には肉や骨を煮て食べるとよい。薬膳料理に烏骨鶏の腹の中に種々の生薬を入れて煮込む料理がよく知られている(烏骨鶏湯:オゴルゲタン)。また虚弱な女性の月経不順や生理痛などには四物湯をはじめ人参・枸杞子・鹿茸などを配合した烏骨鶏白鳳丸を用いる。

月曜日, 2月 13, 2012

烏桕根皮

○烏桕根皮(うきゅうこんぴ)

 中国原産のトウダイグサ科の落葉高木ナンキンハゼ(Sapium sebiferum)の根の皮を用いる。日本には江戸時代に中国から渡来し、紅葉がハゼノキに似ているためナンキンハゼという。九州では野生しているところもある。落葉した後の白い小さな果実の様子は晩秋特有の風情がある。

 ナンキンハゼの種子を烏桕子といい、これは過熱・圧縮すると蝋様物質が得られる。これは中国木蝋といい、油煙の少ないローソクの原料となる。また油脂は石鹸や灯油としても用いられる。薬用には根の皮を剥ぎ、コルク層を除去して用いる。

 樹皮にはキサントキシリン、セビフィル酸などが含まれる。また葉に含まれるTPAは強烈な皮膚刺激性の発癌プロモーターとして知られている。

 漢方では逐水・消腫の効能があり、浮腫や腹水、湿疹、腫れ物などに用いる。とくに全身に浮腫があって大小便の排出が悪いときに用いる。巴豆や牽牛子などより薬効は穏やかだが、副作用で嘔吐することがある。このほか外用薬として毒蛇による咬傷や湿疹や虫刺されに用いる。烏桕子も薬用とするが毒性が強いので内服はされず、ひびやあかぎれ、湿疹の外用薬として用いる。

土曜日, 2月 11, 2012

茴香

○茴香(ういきょう)

 ヨーロッパ地中海沿岸地方を原産とするセリ科の多年草ウイキョウ(Foeniculum vulgare)の果実を用いる。現在では世界中で栽培され、日本にも明治初期に渡来し、長野県、岩手県などで栽培されている。全草に独特の芳香があり、とくに果実は香りが強く、わずかに辛味がある。果実はフェンネルの名で香辛料として知られ、魚や肉の料理によく合い、フランス料理やイタリア料理などによく用いられている。欧米では新鮮な茎、とくに根に近い白い部分を生で食べることもある。

 古代エジプト時代には既に栽培され、また中世ヨーロッパでは魔術の草としても知られていた。中国には4~5世紀に西域から伝わり、腐った魚肉に混ぜると香気を回復するので「回香」と呼ばれたのが茴香の語源である。シキミ科のダイウイキョウ(大茴香)と区別するため、とくに小茴香とも称する。市場には中国からの輸入品がほとんどを占めており、90%は香辛料に使われている。日本産の茴香は精油の含量が多く最良の品質といわれている。芳香性の精油成分にはアネトール、エストラゴール、ピネン、フェンコン、アニスアルデヒドなどが含まれ、腸の蠕動運動を促進し、駆風作用がある。

 漢方では理気・止痛・健胃の効能があり、胃痛、嘔吐、下腹部痛、腰痛などに用いる。茴香は温裏薬のひとつで、冷えを原因とする胃痛をはじめとする種々の内臓痛に応用される。また蒸留して得られる精油のウイキョウ油は健胃薬、去痰薬、矯味・矯臭薬として用いられる。

金曜日, 2月 10, 2012

淫羊藿

○淫羊藿(いんようかく)

 メギ科の多年草で、日本の温帯から暖帯に分布するイカリソウ(Epimedium grandiflorum)や、本州中部以西に分布するトキワイカリソウ(E.sempervirens)の地上部全草を用いる。中国では主にホザキノイカリソウ(E.sagittatum)や心葉淫羊藿(E.brevicornum)などが用いられている。和名のイカリソウという名は花の形が錨に似ているためで、中国では葉の付き方から三枝九葉草と呼ばれている。

 淫羊藿は古くから代表的な強精、催淫薬として知られ、その名も雄の羊がこれを食べると1日に100回交合するという言い伝えによるものである。また、仙霊脾とか放杖草という別名もその効能を表している。

 成分にはフラボノール配糖体のイカリイン、エピメジンなどが20余種、そのほかアルカロイドのマグノフロリンなどが含まれる。イカリインには、一酸化窒素(NO)レベルを上昇させて海綿体血流を増やし、勃起状態を保つ物質を分解する酵素、PDE-5に対して阻害する作用があり、バイアグラと同じ効果があると説明されている。また、エピメジンには性ホルモンの分泌を促し、神経を刺激する作用がある。また淫羊藿の煎液には催淫作用のほか、抗ウイルス・抗菌作用、鎮咳・去痰作用などが報告されている。

 漢方では強壮・補陽・去風湿・強筋骨の効能があり、生殖機能の低下、老化に伴う衰弱、関節の痛みなどに用いる。インポテンツや遣精には仙芽・熟地黄・枸杞子・肉蓯蓉などと配合し、足腰の萎弱やしびれ感には杜仲・狗脊などと配合する。女性の月経不順や更年期の高血圧には仙芽・当帰・黄柏など配合する(二仙湯)。リウマチなどによる関節痛や筋肉痛、麻痺やしびれ感などに威霊仙・肉桂・川芎などと配合する。

 日本でも市販されている体力や精力の低下を補う滋養強壮薬やドリンク剤薬用養命酒などの薬用酒などに淫羊藿は幅広く配合されている。ただし淫羊藿は燥性が強く、服用しすぎると嘔吐・口渇・口苦・鼻血などの症状が出現する。

木曜日, 2月 09, 2012

印度蛇木

○印度蛇木(いんどじゃぼく)

 インド、ビルマ、マレー半島などに分布し、熱帯に生えるキョウチクトウ科の常緑低木インドジャボク(Rauwolfia serpentina)の根を用いる。日本でも九州南部で栽培されている。この植物の根が蛇に似ていることからインディアンスネイクウッド(インド蛇木)と呼ばれ、実際に蛇の咬傷に用いられていた。

 学名は、ドイツ人の植物学者ラウヴォルフにちなみラウオルフィア・セルペンチナという。中国では同属植物の根を羅芙木と称して用いている。インドでは、この木は「月の病(精神病)」と関係するチャンドラの名で呼ばれていた。ヒマラヤ地方では古くから子供が蛇に咬まれたときの薬草として知られていた。インド伝承医学の古典アユルヴェーダの中にも、精神病や不眠症、高血圧、さらに解熱薬として用いられていたという記載がある。

 根の成分にはインドール系のアルカロイド、レセルピンやレシナミン、アジマリンなどが含まれ、レセルピンには著しい中枢性鎮静作用及び血圧降下作用、アジマリンには抗不整脈作用がみられる。レセルピンは1950年代には血圧降下薬及び精神病治療薬として脚光を浴びたが、眠気、脱力感、性欲減退、さらには抑うつ状態をもたらす深刻な副作用があるため、精神病薬としては、近年あまり用いられなくなった。今日では、レセルピン(アポプロン)などのラウオルフィア製剤が降圧剤として、アジマリンは抗不整脈剤として利用されている。

水曜日, 2月 08, 2012

茵蔯蒿

○茵蔯蒿(いんちんこう)

 日本の本州以南、朝鮮半島、台湾、中国などに分布するキク科の多年草カワラヨモギ(Artemisia capillaris)を用いる。日本では専ら初秋に採取した花の蕾(頭花)を用いるが、中国では春に収穫した幼苗(開花前の地上部)も用いられている。この幼苗は特に綿茵蔯と呼ばれる。沖縄県では近縁植物のリュウキュウヨモギ(A.campestris)をハママーチと呼んで用いている。カワラヨモギの名は川原や海岸に生えているヨモギという意味で、日本では徳島県や長野県より出荷されている。

 葉の成分にはクマリン類のスコパロン(エスクレチン-ジメチルエーテル)、精油成分のカピレンやカピロン、カピリン、クロモン類のカピラリシンなどが含まれる。そのうちスコパロンやカピラリシンなどには利胆作用が知られている。ただし、このスコパロンは花や種子、蕾などに多く含まれるが、幼苗には含まれていない。そのほか茵蔯蒿の薬理作用として肝障害改善、抗炎症、解熱、利尿、抗真菌作用などが報告されている。

 漢方では退黄・清熱燥湿の効能があり、黄疸、尿量減少、湿疹、掻痒症などに用いる。茵蔯蒿は古来より黄疸を治療する代表薬として知られているが、このような退黄(利胆)作用のある生薬としてその他には大黄・黄柏・鬱金・竜胆などがある。

月曜日, 2月 06, 2012

茵芋

○茵芋(いんう)

 台湾や中国南部に分布するミカン科の常緑低木インウ(Skimmia reevesiana)の茎や葉を用いる。日本の関東地方以西には同属植物のミヤマシキミ(S.japonica)が自生している。沖縄に自生する変種のリュウキュウミヤマシキミを中国の茵芋と同一とする説もあるが定かではない。これらの属名はスキミアといい、シキミ科のシキミと混同されるが、葉が似ているだけでまったく別の植物である。

 日本のミヤマシキミと同様に、インウのは及び茎には毒性のアルカロイドスキミアニン、配糖体のスキミンなどが含まれる。ミヤマシキミは古くから有毒植物として知られ、殺虫作用があるため農薬として使用されていた。中毒症状は少量で軽い痙攣が生じ、大量の場合には血圧が降下して死に至る。

 漢方では去風湿・止痛の効能があり、リウマチなどによる関節痛や筋肉痛、下肢萎弱に用いる。日本の民間療法でも頭痛、めまいなどに応用されている。ただし内服には注意が必要で、漢方処方としてもあまり用いない。中国では一般に酒に浸すか丸剤として服用する。

日曜日, 2月 05, 2012

岩ぢしゃ

○岩ぢしゃ

 本州から琉球諸島、台湾に分布しているイワタバコ科の多年草イワタバコ(Conandron ramondioides)の全草を用いる。山地の湿った岩場に生え、葉の形がタバコの葉に似ていることからイワタバコという。「チシャ」というのは野菜のサラダ菜のことで、山菜として利用されてきたことを表している。

 苦味は少しあるが、独特の風味で天ぷらや和え物に適している。また淡紅色の花が美しいため、山野草として観賞用に栽培されたりもする。成分には苦味配糖体のコナンドロシドやアクテオシドが含まれる。民間療法では開花時に葉をつみとり日干しにし、健胃・整腸薬として煎じて服用する。中国では葉の汁を傷口に塗布して止血薬として用いている。

土曜日, 2月 04, 2012

威霊仙

○威霊仙

 沖縄県、台湾、中国南部、インドシナ半島東部に分布するつる性低木キンポウゲ科のサキシマボタルヅル(別名:シナセンニンソウ Clematis chinensis)の根を用いる。そのほか中国では同属植物のセンニンソウ(C.terniflora)や東北鉄線蓮(C.manshurica)などの根も使用されている。日本でも同属のテッセン(C.florida)やカザグルマ(C.patens)などの根を威霊仙として代用している。これらはいずれもクレマチス属(センニンソウ属)のつる性植物である。ただし、中国ではセンニンソウの根を特に鉄脚威霊仙と称している。また「開宝本草」や「救荒本草」などではゴマノハグサ科のクガイソウ(Veronicastrum sibiricum)を威霊仙あるいは草本威霊仙と記しているが、現在は使用されていない。生薬名の威霊仙の威とはその性質が猛、霊仙とはその効果が速やかなことをいう。

 威霊仙の成分にはアネモニン、アネモノール、有機酸などが含まれ、血糖降下作用や鎮痛作用が報告されている。ちなみにセンニンソウには毒性があり、生汁が皮膚につくと発赤・水泡ができるが、生の葉を手首に貼り、水泡を作って扁桃炎を治療するという民間療法もある。かつて葉は魚毒やウジ退治などにも利用されていた。

 漢方では去風湿・通経絡の効能があり、リウマチや痛風などによる関節痛や筋肉痛、手足のしびれ、脳卒中後遺症による半身不随などに用いる。また魚の骨がのどに刺さったときには威霊仙を水あるいは米酢で煎じて、ゆっくりと飲めばよいといわれている(去骨湯)。

金曜日, 2月 03, 2012

委陵菜

○委陵菜(いりょうさい)

 日本の本州以南、朝鮮半島、中国、台湾などに分布するバラ科の多年草カワラサイコ(Potentilla chinensis)の根または根のついた全草を用いる。川原や海岸の砂地などに生え、根の形がセリ科のミシマサイコ(柴胡)に似ているためカワラサイコといわれる。この全草は中国の東北・華北地区で翻白草、中国南部の地区では白頭翁として作用されている。日本では柴胡の代用品として解熱薬に用いられたこともあるが、効果は疑問視されている。

 中国医学では清熱解毒・去風湿の効能があり、アメーバ赤痢や細菌性腸炎などによる下痢や腹痛、あるいはリウマチなどによる関節炎や四肢の麻痺に用いる。また出血や皮膚化膿症に止血・解毒薬としても外用する。

木曜日, 2月 02, 2012

伊保多蠟

○伊保多蠟(いぼたろう)

 カタカイガラムシ科の昆虫イボタロウカイガラムシ(Ericerus pela)の幼虫がモクセイ科の樹木の枝や幹に分泌した蠟状の物質を精製したものを用いる。この昆虫の寄生する樹木として日本ではモクセイ科のイボタノキ(Ligustrum obtusifolium)やトネリコ(Fraxinus japonica)が知られているが、中国ではトウネズミモチ(L.lucidum)やシナトリネコ(F.chinensis)が有名である。

 イボタノキは日本各地の山林中に見られる落葉低木である。伊保多蠟は富山県や福島県で多く産する。イボタロウカイガラムシの成虫のオスは翅開張は4mmくらいの小さな虫である。メスは受精すると著しく膨大して球形となり、イボタノキに産卵する。孵化した幼虫のオスは枝にじっとしたまま樹液を吸って体から白色の蠟物質を分泌し、体外を包み、この蠟が相互につながって枝が白く覆われる。夏の早朝にこの枝を切り、沸騰した湯の中に入れて蠟を溶かし、水面に浮いたものを冷やして固めたものが伊保多蠟(虫白蠟)である。このロウは戸のすべりや家具のつや出しに、中国ではロウソクの原料に用いられる。

 成分には脂肪酸のセロチン酸、イボタセロチン酸、セリルアルコールなどが含まれる。民間では疣(いぼ)の根元を絹糸で縛り、その上からロウをつけて治療するため、イボタノキ(イボ取リノ木)の名前がある。漢方では止血・生肌・止痛の効能があり、おもに膏薬として外科の治療に用いる。

水曜日, 2月 01, 2012

イヌサフラン

○イヌサフラン

 北アフリカ、ヨーロッパ南部を原産とするユリ科の球根植物イヌサフラン(Colchicum autmnale)の種子(コルヒクム子)や根茎(コルヒクム根)を用いる。秋にサフランに似た花が咲くが、葉がないうちに花が咲くので「裸の貴婦人」という呼び名もあり、日本でも観賞用に栽培される。

 古代エジプトにおいてイヌサフランを種々の痛みに用いたといわれているが、非常に有毒であるため、その後はあまり利用されなかった。摂取すれば嘔吐、下痢、皮膚の知覚障害、呼吸困難などが出現し、死に至ることがある。6世紀にヒマラヤ地方に成育するイヌサフランの近縁植物が痛風に効果があることが記述されているが、イヌサフランが薬用として注目されたのは18世紀以降である。フランスにおいて薬用酒が痛風の特効薬として売り出され、ヨーロッパ大陸やイギリスで大変よく売れた。

 イヌサフランの全ての部位にアルカロイドのコルヒチンが含まれ、コルヒチンには中枢性の知覚麻痺、末梢性の血管麻痺作用があり、痛風の痛みに特異的に奏功する。コルヒチンは痛風の原因である尿酸の合成や排泄には作用せず、白血球の代謝活性を抑制し、尿酸の微細結晶に対する食作用を減少させ、結晶沈着の循環を阻害すると説明されている。

 ヨーロッパではチンキ剤として、日本では精製した純品が痛風の治療に用いられている。近年ではベーチェット病の眼症状の治療にも用いられる。副作用として悪心や嘔吐、下痢、脱毛などがみられる。このほかコルヒチンは植物の細胞分裂を妨げるが、染色体の分裂は阻害しないため染色体数を倍化させる特異な性質があり、種なしスイカや収穫量の多いワタなど新品種の開発などに応用されている。