スポンサーリンク

金曜日, 12月 04, 2015

蒼耳子

○蒼耳子(そうじし)

 日本各地に自生するキク科の一年草オナモミ(Xanthium strumarium)の果実を用いる。オナモミはユーラシア大陸に広く分布し、日本にも古くから帰化して普通に見られる植物である。近年では北米原産の帰化植物であるオオオナモミ(X.occidemtale)が多くなっている。

 トゲのある果実は衣服によくひっ付くが、オナモミの「ナモミ」とは引っかかるという意味の「ナゴム」に由来する。また蒼耳とは婦人の耳飾りに似ていることによる。果実を包む総苞には多数のかぎ状の刺があり、動物に付着して分散される特徴がある。

 果実の成分としてキサントール、キサンツミンが知られ、キサンツミンには中枢神経の抑制作用があり、有毒である。果実のほかに葉や茎にも神経毒が含まれ、中毒症状として眩暈、頭痛、嘔吐、下痢、蕁麻疹、さらには意識障害や痙攣、肝機能障害などが出現する。

 漢方では鼻孔(窮)を通じ、風湿を去る効能があり、感冒による頭痛、鼻炎、歯痛、四肢のしびれや痛み、皮膚病などに用いる。急性・慢性鼻炎や蓄膿症、アレルギー性鼻炎などには辛夷などと配合する。炎症性の鼻づまりには菊花・金銀花と配合する(鼻淵丸)。鼻がつまって頭痛がするときには辛夷・白芷などと配合する。

木曜日, 12月 03, 2015

桑枝

○桑枝(そうし)

 日本産は北海道から九州、朝鮮半島、中国に分布するクワ科の落葉高木ヤマグワ(Morus bomnycis)の幼枝を用いる。中国産は中国、朝鮮半島を原産とするトウグワ(M.alba)を用いる。クワはおもに養蚕用に栽培され、毎年刈り込まれているため低木になっているが、自然状態では樹高は10mに達する。

 生薬ではクワの葉を桑葉、根の皮を桑白皮、果実を桑椹子という。桑枝は晩秋から初夏に採取し、葉を取り除いた直径0.5~1cmくらいの枝を用いる。

 漢方では去風湿の効能があり、関節の痛みや四肢のひきつり、搔痒感、浮腫などに用いる。関節リウマチや関節炎などで腫れて痛むときには羗活・独活などと配合する(程氏蠲痺湯)。上海の民間療法では関節痛に虎杖湯や臭梧桐根などと配合して用いる(桑枝虎杖湯)。

 桑枝のみを濃く煎じた液に砂糖を加えて膏剤にした桑枝膏は四肢の関節痛や麻痺に用いられている。ちなみに日本では桑枝をクワ茶として飲用している。

木曜日, 11月 05, 2015

皂莢

○皂莢(そうきょう)

 日本産のものはマメ科のサイカチ(Gleditsia japonica)、中国産(G.sinensis)のものはトウサイカチの果実を用いる。日本の本州、四国、九州に分布するサイカチの豆果は長さ25cmくらいでねじれている。

 トウサイカチの豆果の長さは同じくらいであるが、まっすくで肉厚である。熟すと濃く褐色になり、中には扁平楕円形な種子が多数入っている。中国では小形の果実を特に猪牙皂というが、これはトウサイカチの木が衰えたときなどにできたものといわれている。

 果皮にはサポニンが多く含まれ、石鹸の代用として利用されていた。莢や種子にはサポニンのグレジシアサポニンやグレジニン、スチグマステロールなどが含まれ、去痰作用や抗菌作用が報告されている。ただしサポニンには溶血作用や胃腸粘膜の刺激作用があり、過量に服用すると嘔吐、下痢が出現し、さらには中枢神経にも影響する。

 漢方では開竅・去痰・止瀉の効能があり、脳卒中や顔面神経麻痺、発作性の頭痛、咳嗽、喀痰、下血、下痢などに用いる。猪牙皂は開竅の作用が強いとされている。

 脳卒中や失神などで急に意識不明となったときには細辛と共に粉末にしたものを鼻に吹き込んで覚醒させる(通関散)。明礬と共に粉末にしたものを口に流し込んで嘔吐させる方法もある(稀涎散)。痰が多く、胸に痰が痞え苦しく、横にもなれないときに細辛・麻黄などと配合する(冷哮丸)。なお皂莢子には潤腸・解毒・消種の効能があり、便秘や皮膚疾患などに用いる。

月曜日, 9月 28, 2015

蚤休

○蚤休(そうきゅう)

 中国各地に分布しているユリ科の多年草、金線重(Paris polyphylla)や七葉一枝草(P.polyphylla var.chinensis)、そのほか数種類の同属植物の根茎を用いる。ただし、蚤休草河車と称されている基原植物は混乱しており、しばしばタデ科のイブキトラノオ(Polygonum bistorta)の根が流通している。このイブキトラノオの根は、本来、拳参という。

 蚤休の成分にはパリフィリン、パリジン、バリスチニンなどが含まれ、鎮咳・去痰作用や抗菌作用などが知られている。毒性もあり、過量に服用すれば悪心、嘔吐、頭痛がみられ、ひどければ痙攣が現れる。近年、成分のステロイド様サポニン、ポリフィリンDに癌細胞に対してアポトーシスを誘導する抗癌作用が認められ、肝癌や乳癌など様々な悪性腫瘍に対する研究が行われている。

 漢方では清熱・解毒・止咳・鎮驚・消種の効能があり、小児の熱性痙攣、肺炎、気管支炎、喘息、マラリア、脳炎、扁桃炎、腫れ物や蛇咬傷などに用いる。たとえば毒蛇に咬まれた時には内服と併せて創口の周囲に湿布する。また腫れ物や乳腺炎、耳下腺炎、神経性皮膚炎などの患部にも湿布する。

火曜日, 9月 22, 2015

桑寄生

○桑寄生(そうきせい)

 さまざまな樹木に規制するヤドリギ科の常緑小低木ヤドリギ(Viscum albumvar.coloratum)やオオバヤドリギ(Taxillus yadoriki)、桑寄生(Scurrula parasitica)などの茎葉を用いる。日本では、近年までサルノコシカケ科の菌体も桑寄生と呼ばれ、断面の赤黒いものを梅寄生、白いものを桑寄生と称して誤用されていた。

 ヤドリギ科の植物は半寄生性の植物で、樹木に寄生するが葉緑体も有している。たとえばヤドリギはニレ科、ブナ科、バラ科、クワ科などの植物に寄生する。本来、桑寄生とはクワの老大木に寄生するものを指している。日本のヤドリギ科の植物にはヤドリギやアカミヤドリギのほか、マツ科に寄生するマツグミ(Taxilluskaempferi)などがある。ヤドリギは鳥が果実を食べて種子を運ぶ鳥散布型で、鳥の消化管を通過しても種子に粘着性が残っており、その種が他の樹木に付着する仕組みになっている。

 宿木の茎葉にはオレアノール酸、アビクラリン、イノシトール、ケルセチン、ルペオールなどが含まれている。漢方では補肝腎・去風湿・強筋骨・安胎の効能があり、肝腎を補って筋骨を強め、風湿を除いて腰や関節の痛みを和らげ、胎動不安や妊娠時の出血を治す。

 腰痛には独活・防風などと配合する(独活寄生湯)。近年、桑寄生は高血圧や狭心症の治療にも応用されている。また日本の民間療法ではマツグミをマツの緑と称し、糖尿病や高血圧などに用いている。ヨーロッパでは古くからセイヨウヤドリギ(V.album)を躁鬱病や癲癇、高血圧などに用いている。

金曜日, 9月 18, 2015

皂角刺

○皂角刺(そうかくし)

 日本においてはマメ科のサイカチ(Gleditsia japonica)、中国ではトウサイカチ(G.sinensis)の刺を用いる。サイカチは日本の中部以南、四国、九州に分布し、川原など水辺に生える落葉高木で、カワラフジノキともいわれ、サイカチの名は種子の皂角子に由来する。

 サイカチの幹や枝には太くて鋭い刺があるが、刺は枝が変化したものである。かつては日本でも採取していた。サイカチの果実は皂筴、種子は皂角子といい薬用にする。

 樹皮や刺にはアルカロイドのトリアカンチンやタンニンが含まれている。トリアカンチンにはパパベリン様作用があり、高血圧や喘息、潰瘍などに有効といわれている。

 漢方では消腫・解毒・排膿の効能があり、腫れ物やでき物、ハンセン病(癩病)、乳腺炎などに用いる。皮膚化膿症の初期には金銀花や生甘草を配合して消退させ、腫張しているときには黄耆・当帰などを配合して自壊を促進して治す(皂裏消毒飲)。

水曜日, 9月 16, 2015

草果

○草果(そうか)

 中国の雲南・広西・貴州省に分布するショウガ科の多年草アモムム・ツァオコ(Amomum tsao-ko)の果実を用いる。果実は褐色の長さ2~3cm、直径1~2cmの楕円形で、中が三室になり、各室には10個前後の多年体の小さな種子が固まって入っている。果実には特徴的なにおいと辛味があり、中国ではアヒルや鶏の煮込み料理などの香辛料として用いている。

 果実には精油のピネン、ボルネオール、カンフェンなどが含まれる。漢方では芳香化湿・消食・健胃・抗瘧の効能があり、消化不良による腹部膨満感や悪心、嘔吐、胸の痞え、下痢、マラリアなどに用いる。草果は温性の芳香健胃薬であり、とくに肉食の消化不良に効果がある。

 胃腸型感冒などで発熱と下痢のみられるときには藿香・蒼朮などと配合する(人参養胃湯)。マラリアなどで高熱が続くときには柴胡・黄芩などと配合する(九味清脾湯)。またマラリアの治療に常山の補助薬として用いられ、常山の副作用である嘔気を抑制する。

火曜日, 9月 15, 2015

草烏頭

○草烏頭(そううず)

 キンポウゲ科の多年草トリカブト類の母根を烏頭といい、とくにカラトリカブト(Aconitum carmichaeli)やエゾトリカブト(A.kusnezoffii)などさまざまな野生種のトリカブト類の根を総称して草烏頭という。つまり四川省などで産する栽培品種の川烏頭と区別された呼称である。

 日本では佐渡島などに産する野生種のトリカブトを草烏頭と称して扱っている。また韓国産の草烏頭はミツバトリカブトである。川烏頭と草烏頭は明代以前には烏頭と総称されており、本草綱目ではじめて区別されたといわれる。またトリカブト類が栽培されるようになったのは、宋代以降と考えられている。

 一方、中国で一般に附子といえば減毒処理されたものをいうが、これに対して烏頭はほとんど減毒処理を受けていない。このため附子より烏頭のほうが毒性が強い。しかも川烏頭と草烏頭とを比較すれば、草烏頭のほうが毒性が強い。そのほか性味や効能は川烏頭とほぼ同じである。

 1804年、<華岡青洲<が乳癌の手術に用いた全身麻酔薬、通仙散の中には曼荼羅華・天南星などとともに草烏頭が配合されていた。

火曜日, 9月 08, 2015

川楝子

○川楝子(せんれんし)

 中国の四川・河北・湖南・河南省などに分布するセンダン科の落葉高木トウセンダン(Melia toosendon)の果実を川楝子という。センダンは日本だけでなく世界各地で公園樹や街路樹として利用されているが、変種が多くて分類が困難である。

 一般に中国ではセンダンを楝樹といいい、タイワンセンダンを苦楝、トウセンダンはその主産地の四川省の名を冠して特に川楝という。しかし市場では習慣的にトウセンダン(川楝)の樹皮は苦楝皮として、一方、タイワンセンダン(苦楝)の果実は川楝子として扱われている。日本ではおもにタイワンセンダンの果実が流通している。タイワンセンダンの果実はやや小型で、毒性が強いといわれている。

 トウセンダンの果実にはトウセンダニン(メルソシン)、タンニン、リンゴ酸などが含まれ、トウセンダニンには回虫に対する殺虫効果がある。漢方では理気・止痛・駆虫の効能があり、さまざまな腹痛、例えばストレスや情緒と関係した腹痛や脇通で、張ったような重苦しい間欠的な痛みや、陰囊などの下腹部痛(仙痛)、寄生虫による腹痛に用いる。

 腰や股間に響くときには当帰・附子・茴香などと配合する(当帰四逆湯)。回虫による腹痛には烏梅・花椒などと配合する(椒梅湯)。このほか川楝子をあぶって粉にしたものを急性乳腺炎のときに服用したり、シラクモ(頭部白癬)などに外用する。

木曜日, 9月 03, 2015

仙芧

○仙芧(せんぽう)

 本州の中国地方以南、東アジア、オーストラリアなどに広く分布するキンバイザサ科の多年草キンバイザサ(Curculigo orchioides)の根茎を用いる。葉は笹に似て、花が黄色くて金梅を思わせるため金梅笹という名がある。

 一方、仙芧といのは葉がカヤ(茅)に似て、長く服用すれば体が軽くなるということより名づけられたという。バラモンの僧が唐の皇帝玄宗に仙茅を献上したことから娑羅門参という名もある。

 漢方では腎陽を温め、筋骨を壮んにする効能があり、腰痛、下肢萎弱、インポテンツ、尿失禁、耳鳴りなどに用いる。更年期障害や眩暈、高血圧、自律神経失調症に威霊仙・巴戟天などと配合する(二仙湯)。日本では一般薬のナンパオなどに配合されている。ただし毒性があり、過量に服用するのはよくないとされている。

火曜日, 9月 01, 2015

センブリ

○センブリ

 日本の各地や朝鮮半島などにも分布するリンドウ科の1~2年草センブリ(Swertia japonica)の全草を用いる。一般には開花期に採取する。

 センブリは日本以外にも分布するが、日本独自の民間薬である。中薬大辞典では同属植物の当薬(S.diluta)を淡味当薬の生薬名で収載しているが、中国ではほとんど用いられていない。ちなみにカシミールからブータンにかけて分布する同属植物のチレッタ草(S.chirata)をインドやチベットでは古くから健胃薬、解熱薬として用いている。日本では室町時代末期から薬草として知られ、千回振り出しても苦味があることからセンブリといわれる。

 苦味成分としてスウェルチアマリン、スエロサイド、ゲンチオピクロサイトなどの配糖体が含まれ、スウェルチアマリンには胆汁、膵液、唾液などの分泌を促進する作用がある。古くは殺虫剤として肌着の染料にして蚤や虱の虫よけや、屏風や襖を張る糊に混ぜて虫よけに用いられた。その後、苦味の強い胡黄連の代用として利用されていたらしい。ただし代用品になるかどうかの定説はない。

 蘭方のゲンチアナと同じ苦味健胃薬として使われ始めたのは江戸時代末で、西洋医学の影響があったとも考えられる。明治25年には竜胆の代用品として日本薬局方にも収載され、苦味健胃薬として今日でも家庭薬に配合され、胃痛、消化不良、食欲不振の治療に応用されている。

 近年ではセンブリのエタノール抽出エキス(スエルチオール)が育毛剤として注目されている(薬用紫電改)。民間療法ではセンブリの煎液を頭虱を除去するための洗髪料や結膜炎の洗浄液としても利用している。

日曜日, 8月 30, 2015

旋覆花

○旋覆花(せんぷくか)

 日本の各地、朝鮮半島、中国に分布するキク科の多年草オグルマ(Inula japonica)および同属植物の頭花の部分だけを用いる。またオグルマの全草は金沸草として薬用にする。

 オグルマは野原や田畑などの湿ったところに生え、夏から秋にかけて黄色い花が咲く。花は中央の管状花の周りを整然と一列の舌状花が取り囲み、これを小さな車に見立ててオグルマという名がある。旋覆花という名も、周囲の舌状花が花序を覆うことを意味する。

 花の成分にはブリタニン、イヌリシン、クロロゲン酸などが含まれるが、詳細は不明である。漢方では去痰・止咳・止の効能があり、胸の痞塞感や咳嗽、喀痰、オクビ、嘔吐、しゃっくりなどに用いる。

 このように旋覆花には痰を除き、気を降ろす作用があり、嘔気や咆逆などの消化器症状、咳嗽、喀痰などの呼吸器症状に応用される。ただし、そのまま使用するとかえって嘔気や嘔吐を催すこともあるので蜜炙して用いたほうがよい。

 胸が痞えてオクビがでたり、嘔気や嘔吐のある場合には代赭石などと配合する(旋覆花代赭石湯)。粘稠な痰が胸に凝結して食べ物が下がらないときに附子・細辛などと配合する(旋覆花湯)。

金曜日, 8月 28, 2015

川貝母

○川貝母(せんばいも)

 中国では貝母を浙貝母と川貝母に区別する。浙貝母は、ユリ科のアミガサユリ(Fririllaria veticillata)の鱗茎であるが、川貝母にはアミガサユリと同属植物の巻葉貝母(F.cirrhosa、烏花貝母F.cirrosa var.ecirrhora、稜砂貝母F.delavayi)の鱗茎を用いる。

 川貝母の基原植物は一般に四川省をはじめ、雲南省、チベット自治区の高山地帯に分布している。これらの鱗茎(川貝母)はアミガサユリの鱗茎(浙貝母)よりも小さい。

 川貝母にはペイミン、ペイミニン、フリチミンといったアルカロイドが含まれ、鎮咳、去痰、排膿作用が知られている。漢方では止咳・化瘀・潤躁・散結の効能があり、咳嗽、喀痰、喀血、胸の塞がり、瘰癧(頸部リンパ腺腫)、扁桃炎、乳腺炎などに用いる。

 適応は浙貝母とほぼ同じであるが、浙貝母が急性の咳嗽に適しているのに対し、やや慢性化した呼吸器感染症に用いる。一般に川貝母は虚証に、浙貝母は実証に用いる。また川貝母には潤肺作用があるので、痰が少ないとか痰に血が混じっているような肺陰虚の症状に適している。さらに去痰すると同時に痰の分泌を抑制する作用もあり、痰の多いときにも使用できる。気分が落ち込み、胸が塞がり、食欲がないときにも川貝母が適する。ただし、日本では一般に貝母といえば、浙貝母のことをいう。

木曜日, 8月 27, 2015

センナ

○センナ

 アフリカを原産とする常緑低木、マメ科のセンナ(Cassia acutifolia)やホソバセンナ(C.angustifolia)の小葉を用いる。中国では異国の瀉下薬という意味で番瀉葉と呼ばれている。

 センナはアレキサンドリアセンナとも呼ばれ、ナイル川流域で栽培されるもので、アレキサンドリアとはエジプトの集散地の名前である。ホソバセンナはチンネベリセンナとも呼ばれ、アフリカ東岸やアラビア、インドなどに産するもので、チンネベリはインド南部の栽培地の名前である。現在、中国の海南島や雲南省でもアレキサンドリアセンナが栽培されている。現在、日本に輸入されているのはおもにチンネベリセンナである。

 センナは最古の医学書である「エーベルス・パピルス」にアロエなどとともに収載されている下剤であり、古くからアラビア医学で使用されていた生薬である。今日でも欧米諸国で繁用され、日本には明治以降に西洋医学の薬物として導入されたものである。

 成分にはアントラキノンのレイン、アロエエモジン、ジアンスロン配糖体のセンノサイドA~Dなどが含まれる。センノサイド類は経口では強い瀉下作用があるが、静脈内投与では効果がみられない。センノサイドA・Bは腸内細菌によりレインアンスロンが生じ、これにより瀉下作用が発現する。

 センナは少量で苦味健胃薬となり、消化を促進する。適量を用いれば緩下作用を起こす。センナの成分を製剤化したものがプルゼニドである。漢方処方に配合されることは余りないが、家庭用の下剤には単独で、あるいは配合されて用いられている。センナには子宮収縮作用もあり、妊婦には用いない。ちなみにセンナ、大黄、アロエなどの生薬などのアントラキノン系下剤を連用すると大腸に色素沈着(大腸メラノーシス)が発現する。

火曜日, 8月 25, 2015

蝉退

○蝉退(せんたい)

 中国ではセミ科のクマゼミによく似た黒蚱(Cryptotympana atrata)の羽化後の抜け殻、日本ではアブラゼミやクマゼミの抜け殻を用いる。ただし市場品の種類は多く、黄金色で透明なものを金蝉衣、灰褐色で光沢のないものを土蝉衣という。

 成分は明らかではないが、抗痙攣鎮静作用、神経節遮断作用が報告されている。漢方では散風熱・透疹・止痒・退翳・解痙の効能があり、熱性疾患、咽頭腫脹、嗄声、発疹、掻痒症、目の翳障、ひきつけ、腫れ物などに用いる。とくに小児科領域で用いることが多い。

 麻疹の透疹を促進するために葛根・牛蒡子・薄荷などと併用する。炎症性の目の充血や角膜混濁などには菊花などと配合する。湿疹や皮膚掻痒症には荊芥・防風などと配合する(消風散)。破傷風の痙攣には天麻・全蝎・白僵蚕などと配合する(五虎追風散)。夜泣きや小児のひきつけには釣藤・薄荷などと併用する。化膿症や中耳炎には粉末にして塗布する治療方法もある。近年、中国では破傷風、慢性秦麻疹、化膿性中耳炎などに対する臨床研究が報告されている。

月曜日, 8月 24, 2015

茜草根

○茜草根(せんそうこん)

 日本をはじめ中国・東南アジアからヒマラヤにかけた広く分布するアカネ科の多年草アカネ(Rubia cordifolia)の根および根茎を用いる。

 根が赤いことからアカネという名があるが、アカネは古くから茜染めの染料として有名である。茜染めはあらかじめ灰汁につけて乾かした布を、根を煎じた液で数十回も浸して染めるもので、灰汁の濃さで赤から黄色になる。色素成分のアリザリンが合成されるようになってから染料としての栽培はすたれてしまった。現在、工芸染料としては専らセイヨウアカネ(R.tinctorum)が用いられ、日本のアカネは用いられていない。

 アカネの根にはオキシアントラキノン誘導体のプルプリン、ムンジスチンなどが含まれ、止血、抗菌、去痰作用などが認められている。漢方では止血・活血の効能があり、子宮出血や鼻出血、吐血、あるいは無月経や産後の悪露に用いる。生で用いると活血作用が強く、炭にしたものは止血作用が強い。

 喀血や吐血、鼻血、歯肉出血などには大薊・小薊などとともに炭にして用いる。(十灰散)。ヨーロッパでは古くから赤色染料の原料として栽培されているセイヨウアカネも黄疸、浮腫、無月経、尿路結石などの治療に用いられていた。2004年、厚生労働省はセイヨウアカネから抽出されたアカネ色素の発癌性が報告されたため、食品添加物としての使用を禁止した。

金曜日, 8月 21, 2015

蟾酥

○蟾酥(せんそ)

 ヒキガエル科のシナヒキガエル、ヘリグロヒキガエルなどの耳後腺および皮膚腺から分泌される乳液を加工、乾燥したものを用いる。これらのカエルをそのまま乾燥させたものは蟾蜍という。

 ヒキガエルの分泌物は日本でも古くから「ガマの油」として有名であったが、毒性のあるガマ毒である。一般にガマ毒はそれほど強烈なものではないが、目に入ると激しく痛む。

 捕獲したヒキガエルをよく洗い、耳後腺や皮膚腺を刺激して乳液を分泌させ、それを磁器で採取して銅製のふるいで濾過し、円形の型に流し込んで乾燥させる。日本に輸入されている蟾酥は団蟾酥または東酥と呼ばれるものが中心である。これは直径8cm、厚さ1.5cmくらい、濃褐色の偏平な円盤状のもので、おもに河北・三東省で生産されている。

 1匹のカエルから約2mgの蟾酥が得られるといわれている。ガマ毒は最初にブフォトキシンが発見されたが、これはブフォタリンなどの結合物で、そのほかシノブファギン、シノブフォタリンなど現在までに数十種類の強心ステロイドが報告されている。そのほかステロール類、ブフォテニン、ブフォテニジン、セロトニン、トリプタミンなどが含まれ、ブフォテニンには幻覚作用がある。

 薬理学的に蟾酥には強心作用、局所知覚麻痺作用、胆汁や膵液、胃液の分泌促進作用、抗炎症作用などが報告されている。蟾酥の強心作用はジギタリスに似ているが、作用が早く、蓄積性がない。局所麻酔剤として蟾酥チンキがある。

 漢方では開竅・解毒・消種・止痛・強心の効能があり、意識障害、瘡癰などの皮膚化膿症、咽頭の腫痛、小児の疳積、歯痛、心臓衰弱に用いる。癰などの皮膚の化膿、乳腺炎、骨髄炎などには軽粉などの配合された蟾酥丸がよく知られている。

木曜日, 8月 20, 2015

穿心蓮

○穿心蓮(せんしんれん)

 マレーシアからインドにかけて分布しているキツネゴマ科の一年草センシンレン(Andrographis paniculata)の地上部全草を用いる。中国では長江以南の温暖な地域で栽培されている。漢方医学では穿心蓮と呼び、インドのアーユルヴェーダではカンジャンと読んでいる。最近、日本ではアンフィスとも呼ばれている。

 成分には苦味質のアンドログラフォライドが含まれ、抗菌・抗ウイルス、抗炎症作用のほか、胆汁の流れを促進し、肝臓を保護する作用が認められている。漢方では清熱解毒の効能があり、咽頭炎、気管支炎、細菌性腸炎、膀胱炎、皮膚化膿症、湿疹に用いる。黄連の代用に用いることもある。

 生の汁や煎液は腫れ物や、咬傷、中耳炎などの外用薬としても利用されている。近年、中国では錠剤や注射薬としても開発され、さまざまな感染症に応用されている。インドでは新鮮な葉から汁をとり、カルダモンやシナモンと混ぜて錠剤にしたものが細菌性赤痢などの下痢症状の治療に用いられている。

 インドネシアでは利尿・解熱薬のほか、堕胎薬としても用いている。スウェーデンでは20年以上前からエキス剤が風邪薬(KoldKare)として一般的に利用されている。近年、日本でもエキス剤が発売され、胆石の予防や二日酔いなどに有効といわれている。欧米では、癌やエイズに対しても効果が期待され、ブームになっている。

火曜日, 8月 18, 2015

蟾蜍

○蟾蜍(せんじょ)

 ヒキガエル科のシナヒキガエル(Bufo bufo gargarizans)。ヘリグロヒキガエル(B.melanostictus)などの全体のまま乾燥したものを用いる。これらの耳後腺および皮膚腺からの分泌物が蟾酥であり、皮、舌、肝、胆なども薬用にされる。

 シナヒキガエルは中国全土に分布し、泥の中や岩石の下に生息する体長10cm以上のカエルで、皮膚には多数のイボが密に分布している。ヘリグロヒキガエルは中国南部に分布し、体長は10cm以下で全身がざらざらした黄褐色のカエルである。これらヒキガエルの耳の後ろには耳腺があり、有毒な乳液が分泌される。

 漢方では解毒・消腫・消癥の効能があり、疔疳などの腫れ物や腹部腫瘤、浮腫、小児の疳症などに用いる。小児の脾疳には黒焼きにした蟾蜍に人参・甘草を配合する(蟾蜍散)。ちなみに日本ではヒキガエルのことをガマ(蝦蟇)ともいうが、中国での蝦蟇はアカガエル科のヌマガエルのことである。

月曜日, 8月 17, 2015

穿山甲

○穿山甲(せんざんこう)

 有鱗目の動物、ミミセンザンコウ(Manis pentadactyla)の鱗甲片を用いる。東南アジアや中国南部の丘陵地帯や樹木のある湿地帯に生息している。体長は50cm~1mぐらいの動物で、頭から尾の先まで瓦のように硬い角質の鱗片に覆われている。

 洞窟に住み、夜行性で木にも登り、泳ぐこともでき、敵に襲われると丸く体を縮める習性がある。食物はシロアリ、クロアリなどの昆虫である。捕獲した後、甲羅だけをとり、熱湯に入れると鱗片は自然と剥がれ落ち、それを乾燥して薬用とする。

 通常、幅4~5cm、長さ3~5cmぐらいの薄い扇形ないし菱形で、外面は濃く褐色で縦に多数の線紋があり、内面は色が薄く光沢があり、強靭で弾性がある。

 漢方では排膿・通乳・通経・通経絡の効能があり、瘡癰などの腫れ物、乳汁不足、無月経、リウマチなどの関節痛などに用い。皮膚化膿症で、まだ潰瘍化していないときに用いる排膿を促進する透膿の効果がある(透膿散)。しかし口が開いた瘡癰には用いない。あるいは王不留行・木通などと配合する(下乳涌泉散)。現在、ワシントン条約
により入手できなくなっている。

水曜日, 8月 12, 2015

川骨

○川骨(せんこつ)

 北海道、本州、四国、九州、朝鮮半島に分布するスイレン科の多年草コウホネ(別名:カワホネ Nuphar japonicum)の根茎を用いる。川骨という生薬名は日本名の「カワホネ」を読み代えただけで、中国名ではない。中国では生薬としてコウホネを用いていないが、近縁種のネムロコウホネ(N.pimilum)を萍蓬草といい、根茎や種子を薬用にしている。

 コウホネは水性植物で、掘り出した根茎は乾燥すると骨のようにみえるためその名がある。コウホネの根茎にはアルカロイドのヌファリジンやデオキシヌフアリジンなどが含まれ、中枢麻痺や血管収縮などの作用がある。

 日本漢方では利水・活血・強壮の効能があり、浮腫や婦人病、打撲傷などに用いる。打撲による内出血や腫張、疼痛に川芎・桂枝などと配合する(治打撲一方)。産前・産後の血の道症に当帰・地黄・人参などと配合する(実母散)。民間では生の根茎をすって小麦粉とあわせて練ったものを乳腺炎に外用する。

火曜日, 8月 11, 2015

川穀

○川穀(せんこく)

 熱帯アジアが原産で日本各地に自生するイネ科の多年草ジュズダマ(Coixlacryma-jobi)の果実を川穀という。根は川穀根という。中薬大辞典では薏苡仁の基原植物としてジュズダマの種子をあげ、とくにハトムギ(C.lachryma-jobivar.yuen)と区別していない。一説に「中国名の川殻ハトムギのことで、薏苡はジュズダマである」という見解もある。

 ハトムギはジュズダマの栽培変種とされ、両者は極めてよく似ている。ジュズダマの表面は硬いホウロウ質で灰黒色をしていて、指で押しても砕けないが、ハトムギは茶褐色で縦じまがあり、指で強く押すと砕ける。ちなみにジュズダマは数珠を作る玉、ハトムギは鳩の食べる麦という意味である。

 川殻の成分も薏苡仁とほぼ同じであり、一般に薏苡仁の代用とされるが、日本ではほとんど用いられない。根にはコイクソール、スチグマステロール、β・γシトストロールな度が含まれる。漢方では川殻根に清熱・利湿・健脾・殺虫の効能があり、黄疸や排尿困難、関節炎や下痢、回虫症などに用いる。民間療法では根を鎮咳剤として、あるいは神経痛、リウマチ、肩こりなどに用いる。

月曜日, 8月 10, 2015

前胡

○前胡(ぜんこ)

 本州の関東以西、四国、九州、朝鮮半島、中国に分布するセリ科の多年草ノダケ(Angelicadecursiva)などの根を用いる。日本にみられるノダケは紫色の花をつけるが、中国では白い花をつける白花前胡(A.praeruptorum)もあり、薬用にはおもに白花前胡を用いている。現在、日本産の前胡は市場性がない。

 ノダケの根にはフロクマリンのノダケニンやデクルシン、精油成分のエストラゴール、リモネンなどが含まれ、抗炎症、坑浮腫作用などが知られている。漢方では解表・止咳・去痰の効能があり、熱性病(風熱)による頭痛や気管支炎に用いる。

 頭痛や発熱、咳嗽、鼻炎などの感冒症状には蘇葉・葛根などと配合する(参蘇飲)。化膿症の初期で悪寒、発熱、頭痛のみられるときには荊芥・防風などと配合する(荊芥敗毒湯)。また気管支炎などで粘稠な痰が多く、呼吸が苦しいときには紫蘇子・半夏・陳皮などと配合する(蘇子降気湯)。前胡と杏仁はいずれも去痰薬として用いるが、前胡は炎症性の粘稠痰(熱痰)、杏仁は希薄な痰(寒痰)に適している。

土曜日, 8月 08, 2015

川芎

○川芎(せんきゅう)

 中国を原産とするセリ科の多年草センキュウ(Cnidiumofficinale)の根茎を用いる。本来は神農本草経にある芎藭と称したが、四川省産のものが有名であったため川芎の名が一般的になった。

 江戸時代に薬用として日本にも渡来し、現在ではおもに北海道で栽培されている。ところが日本産は雑種性2倍体で結実しないため、株分けで繁殖させている。また結実しないため分類学上の位置づけが困難で、中国産と日本産との基原植物の異同に関して諸説がある。現在、中国産川芎の基原植物はLigusticumchuanxiongといわれている。日本薬局方では日本産の川芎のみを収録しており、輸入品は適合しない。現在、日本から持ち込んだ株が中国でも栽培されている。

 日本産川芎の成分にはクニデライド、リグスチライド、ブチルフタライドなどが含まれ、鎮痙、鎮痛、鎮静、降圧、血管拡張作用などが認められている。漢方では活血・理気・止痛の効能があり、頭痛や腹痛、筋肉痛、生理痛などに用いる。

 当帰とともに婦人科・産科の要薬として有名で、活血作用と行気作用とがあり、血中の気薬といわれている。また李東垣は頭痛には必ず川芎を用いると述べているが、川芎は頭痛だけでなく、瘀血による痛みや関節痛、四肢の麻痺や痺れにも用いられる。

木曜日, 8月 06, 2015

全蝎

○全蝎(ぜんかつ)

 クモ類のキョクトウサソリ科のキョクトウサソリ(Buthusmartensii)の全体を用いる。捕獲した後、水に漬けて泥を吐かせ、沸騰した湯の中で食塩とともに煮沸する。とくに後腹部だけを蠍尾または蠍梢という。

 サソリの多くは熱帯ないし亜熱帯に分布するが、キョクトウサソリは中国の北部・中部、朝鮮半島の一部に分布する。中国では飼育されており、おもに河南。山東・湖北・安徽省に産する。体調は約6cm、体色は黄緑色で、後腹部の末端節に毒袋があり、先端は鋭い毒針が上屈している。

 人命にかかわるサソリの猛毒種はアフリカやメキシコにしかおらず、キョクトウサソリの毒は比較的軽い。サソリの毒はカツトキシン(ブトトキシン)といわれ、ヘビ毒によく似た神経毒のあるタンパク質であり、筋肉の痙攣や流涎、呼吸麻痺などが生じる。

 全蝎にはそのほか、レシチン、コレステロール、ベタイン、タウリン、脂肪酸などが含まれる。薬理学的には抗痙攣作用、降圧作用などが報告されている。市場品には塩漬けにしたものが多く、止痙・熄風・止痛・通経絡の効能があり、癲癇や痙攣、小児のひきつけ、脳卒中、半身不随、顔面麻痺、関節痛などに用いる。

 癲癇や中風、破傷風などによる痙攣には蜈蚣・白僵蚕などと配合する(止痙散)半身不随や顔面麻痺には白僵蚕・白附子などと配合する(牽正散)。

月曜日, 7月 27, 2015

仙鶴草

○仙鶴草(せんかくそう)

 日本全土およびアジアに分布しているバラ科の多年草キンミズヒキ(Agrimoniapilosa)の全草を用いる。細長い穂に黄色い花が咲く様子が「水引」に似ているためキンミズヒキの名がある。なおミズヒキ(Polygonumfiliforme)はタデ科であり、花のつきかたは似ているが赤い花をつける。キンミズヒキは春先に柔らかい若葉と若芽を摘み、おひたしや和え物にして食べることができる。

 キンミズヒキの根にはアグリモノリドやタンニンのアグリモニインなどが含まれ、止血、抗菌、抗炎症作用がある。漢方でも止血・健胃・強壮の効能があり、鼻出血、吐血、血便、血尿、性器出血など全身の出血や下痢、倦怠感、精力減退に応用する。

 民間では下痢止めや口内炎、歯肉炎などに用いる。湿疹やかぶれには煎液を冷やして患部を冷湿布する。中国では実験的に癌の抑制効果が認められ、癌治療の臨床研究も報告されている。ヨーロッパでは近縁種のアグリモニー(Agrimony)を止血薬として消化性潰瘍などに用いるほか、胆石や肝硬変、痛風などにも利用している。

金曜日, 7月 24, 2015

川烏頭

○川烏頭(せんうず)

 キンポウゲ科の多年草トリカブト類の母根をいい、とくに四川省などの栽培品種であるカラトリカブト(Aconitumcarmichaeli)の母根のことを川烏頭という。川烏頭とは四川省で産する烏頭という意味で、専ら栽培品種のものをいい、野生種の草烏頭(そううず)と区別して扱われている。

 現在、日本ではトリカブト類の塊根はすべて附子として扱われているが、本来は母根と烏頭、子根を附子と呼ぶ。ただし中国では減毒処理したものを附子、ほとんど減毒処理をしていないものを烏頭として区別することが多い。とくに日本では中国産からトリカブトの子根でも減毒処理をせずにそのまま乾燥したものを川烏頭と称している。

 ところで金匱要略に収載されている烏頭湯の中に川烏という生薬名がみられるが、宋代以前にトリカブトが栽培されていたという証拠はなく、野生種のものと考えられている。川烏頭と草烏頭の効能はほぼ同じであるが、草烏頭のほうが総アルカロイド量が多くて鎮痛作用や毒性が強いとされている。

木曜日, 7月 23, 2015

セネガ

○セネガ

 北アメリカの山林に自生しているヒメハギ科の多年草セネガ(Polygalasenega)およびヒロハセネガ(P.var.latifolia)の根を用いる。日本では明治以降に北海道でヒロハセネガが栽培され、日本産セネガの名でヨーロッパにも輸出されている。

 セネガは古くからアメリカインデイアンのセネガ属が毒蛇に咬まれたときに治療に用いた民間薬で、そのためセネガとかスネイク・ルートという名がある。北米産セネガには北部セネガと南部セネガ根の2種類があるが、北部セネガはセネガ、南部セネガはヒロハセネガといわれている。

 セネガの根にはトリテルペンサポニンであるセネギンⅠ~Ⅳやサリチル酸メチルが含まれ、セネガサポニンは気道の粘膜を刺激して分泌を促進する。なおセネギンⅢ・Ⅳは遠志の成分であるオンジサポニンB・Aと同一である。

 セネガはセネガシロップやセネガ・キキョウ水などの製剤にして感冒・気管支炎、喘息などの鎮咳・去痰薬として用いられている。咽頭の炎症による痛みや嗄声には甘草・桔梗などと配合する(龍角散)。

火曜日, 7月 21, 2015

接骨木

○接骨木(せっこつぼく)

 日本の各地に自生するスイカズラ科の落葉低木ニワトコ(Sambucussieboldiana)の茎を接骨木という。中国産の接骨木は同属植物のトウニワトコ(S.williamsii)の茎枝を用いている。ニワトコ属は古くから世界各地で薬用とされ、ヨーロッパではセイヨウニワトコ(S.nigra)は薬用ハーブ(エルダー:Elder)として有名である。

 接骨木のいわれはニワトコの枝を黒焼きにして、うどん粉と酢を加えて練ったものを骨折した患部に塗布し、副木を当てておくという治療をしていたことによる。

 ニワトコの成分には硝酸カリウムやトリテルペノイドのアミリンなどが含まれ、利尿、鎮痛作用が認められている。セイヨウニワトコの花や葉には青酸配糖体サンブニグリンが知られているが、日本のニワトコには含まれていない。

 漢方では去風湿・活血・止痛の効能があり、関節や筋肉の疼痛、打撲傷、骨折、浮腫などに内服する。民間では、ニワトコの枝や葉を煮だしたものを風呂に入れて神経痛やリウマチ、外傷の治療に用いたり、接骨木の粉末と黄柏末を合わせてねったものを打撲した患部に塗布する。また小鳥の病気にニワトコの煎じた汁が効果があるといわれている。

月曜日, 7月 20, 2015

石斛

○石斛(せっこく)

 日本の本州、四国、九州、朝鮮半島南部、中国などに分布するラン科の多年草セッコク(Dendrobiummoniliforme)およびその同属植物の茎を用いる。セッコクには「スクナヒコグスリ(少名彦薬)」とか「イワグスリ(岩薬)」などという和名があり、日本でも古くから薬用にされたと考えられている。中国ではコウキセッコク(D.nobile)、ホンセッコク(D.officinale)などが用いられている。

 セッコク属は熱帯アジアの高山帯に多くの種類がみられ、樹上や岩石などに着生している。生薬では鉄皮石斛がもっとも良品とされ、高貴薬として扱われている。

 石斛には粘液質やデンドロビン、ノビロビンなどが含まれ、デンドロビンには解熱、鎮痛作用が、煎液には胃液分泌や胃腸蠕動の促進作用が認められている。官報では清熱・滋陰・生津・強壮の効能があり、発熱時の口渇や糖尿病、陰虚による発熱、食欲減退、インポテンツなどに用いる。

 石斛は生(鮮石斛)で用いたほうが清熱・生津の効力は強く、熱性疾患による口渇には鮮石斛、一般的な陰虚による口渇には乾石斛を用いる。また慢性胃炎で嘔吐や乾嘔があり、舌苔が剥落している胃陰虚や糖尿病にみられる食欲亢進や口渇などの胃熱にも用いる。

 口腔内がただれて痛むときには地黄・枇杷葉などと配合する(甘露飲)。視力低下や夜盲症などには菊花・決明子などと配合する(石斛夜光丸)。なおセッコク属の茎を加工してバネや螺旋形に曲げたものは耳環石斛とか楓斗と呼ばれ、滋養・強壮薬として茶の代わりに飲まれている。

土曜日, 7月 18, 2015

石膏

○石膏(せっこう)

 天然の硫酸塩類鉱物セッコウの鉱石を用いる。日本でもわずかに産するが、専ら湖北・湖南・山東省を主産地とする中国から輸入している。石膏は白ないし灰白色の光沢のある結晶塊で、主として含水硫酸カルシウム(CaSO4・2H2O)からなる。

 石膏の鉱石には軟石膏と硬石膏とがあり、軟石膏には繊維石膏と雪花石膏とがある。薬用には主に繊維石膏が用いられ、雪花石膏は彫刻材として用いられる。

 硬石膏は無水硫酸カルシウムの結晶であるが、正倉院薬物にある石膏は硬石膏であり、古代にはこの硬石膏を石膏として使用していたと考えられる。かつて理石、長石、方解石と呼ばれた生薬に関して、今日では理石は繊維石膏、長石や方解石は硬石膏のこととされている。

 石膏は110~120℃くらいで数時間焼くと結晶水が半減して白い粉末になるが、これを焼石膏という。この加熱には湿式と乾式とがあり、焼石膏はそれぞれα半水石膏とβ半水石膏に区別される。いずれも水を加えると固まる性質があり、β半水石膏は整形外科で固定に用いるギプスに、α半水石膏は歯科の印象彩得に利用される。さらに200℃で加熱しすぎると結晶水が全部なくなり、無水石膏(生薬名:椴石膏)となる。この粉末を押し固めたものがチョークである。

 天然の石膏には硫酸カルシウムのほか、SiO2、MgO、Al2O3、Fe2O3などが含まれている。薬理実験では解熱、止渇、利尿作用などが報告されているが、石膏は離溶性であり、大量に用いなければ解熱作用は発現しないといわれている。詳細は不明であるが、胃酸によってイオン化されたCa2++や微量に含まれる夾雑物の作用が推測されている。

 漢方では清熱・止渇・除煩の効能があり、熱性疾患に見られる高熱や煩躁、口渇、咽痛、譫妄、炎症性の浮腫、搔痒感、歯痛などにも用いる。日本漢方では陽明病気の裏熱証、中国医学では肺胃における気分の実熱証の要薬である。石膏の1日の常用量は10~20gであるが、症状に応じて100g以上用いることもある。なお椴石膏は火傷や湿疹の分泌を抑え、皮膚潰瘍を収斂する作用がある。

水曜日, 7月 15, 2015

石決明

○石決明(せきけつめい)

 ミミガイ科のアワビ類、九孔鮑(Haliotisdiversicolor)や番大鮑(H.giganteadiscus)などの貝殻を用いる。日本ではアワビ(H.gigantea)やトコブシ(Sulculusaquatilis)の貝殻などを用いる。石決明や千里光の名は目疾患の治療薬であったことを意味する。

 これらの貝は夏に捕獲した後、肉を除き、殻をよく洗って乾燥する。薬剤には生で用いる生石決明、るつぼの中で灰色~灰白色になるまで焼いた煅石決明がある。

 成分は主として炭酸カルシウム(CaCO3)であり、有機酸、鉄、マグネシウムケイ酸塩、硫酸塩、リン酸塩、ヨウ素なども含まれるが、焼くと酸化カルシウムを生じ、有機酸は破壊される。漢方では平肝・鎮静・明目の効能があり、陰虚陽亢による眩暈や頭痛、肝火上炎による目の充血や痛み、角膜混濁に用いる。日本の経験方では下肢の筋力低下に対し、四物湯に亀板とともに加味する(亀板湯)。ちなみに決明子とはエビスグサの種子のことである。

金曜日, 7月 10, 2015

石決明

○石決明(せきけつめい)

 ミミガイ科のアワビ類、九孔鮑(Haliotisdiversicolor)や番大鮑(H.giganteadiscus)などの貝殻を用いる。日本ではアワビ(H.gigantea)やトコブシ(Sulculusaquatilis)の貝殻などを用いる。石決明や千里光の名は目疾患の治療薬であったことを意味する。

 これらの貝は夏に捕獲した後、肉を除き、殻をよく洗って乾燥する。薬剤には生で用いる生石決明、るつぼの中で灰色~灰白色になるまで焼いた煅石決明がある。

 成分は主として炭酸カルシウム(CaCO3)であり、有機酸、鉄、マグネシウムケイ酸塩、硫酸塩、リン酸塩、ヨウ素なども含まれるが、焼くと酸化カルシウムを生じ、有機酸は破壊される。漢方では平肝・鎮静・明目の効能があり、陰虚陽亢による眩暈や頭痛、肝火上炎による目の充血や痛み、角膜混濁に用いる。日本の経験方では下肢の筋力低下に対し、四物湯に亀板とともに加味する(亀板湯)。ちなみに決明子とはエビスグサの種子のことである。

木曜日, 7月 09, 2015

石灰

○石灰(せっかい)

 方解石を主とする石灰岩(ライムストーン:Limestone)を過熱し焼成した生石灰および消石灰を用いる。石灰岩は炭酸カルシウム(CaCO3)を主成分とし、焼くと二酸化炭素が発生して酸化カルシウム(CaO)の生石灰ができる。

 生石灰は白色の不規則な塊状あるいは粉末で、酸に溶けやすく、水にもわずかに溶ける。生石灰に水を加えると激しく反応して熱を発生して水酸化カルシウム(Ca(OH)2)の消石灰(熟石灰)となる。また放置するだけで空気中の水分を吸収して次第に消石灰になる。

 消石灰も白色の粉末である。さらに生石灰や消石灰を長い間空気に晒しておくと、二酸化炭素を吸収して炭酸カルシウムに変化する。有毒であるため、漢方では内服に使用せず、外用のみに用いる。

 消石灰には解毒・止血・収斂の作用があり、生石灰には悪肉を除く腐食作用があり、火傷や出血、下肢潰瘍、疣贅、痣、悪瘡などに用いる。

水曜日, 7月 08, 2015

セージ

○セージ

 ヨーロッパ南部を原産とするシソ科の多年草ヤクヨウサルビア(Salvia pfficinalis)の葉を用いる。ヨーロッパでは古くからハーブとして、観賞用として家庭でもよく栽培されている。また香辛料としてよく知られ、葉には強い香りと爽やかな苦さがある。肉の臭みを消すので、特に豚肉料理によく合い、ソーセージの中にセージの名がみられる。

 セージの語源はサルビアであり、ラテン語のサルバーレ(救う)に由来する。セージは園芸栽培されているサルビア(S.splendens)と同属植物であり、実際よく似ている。またセージは中国のタンジン(S.miltiorrhiza)とも同属植物である。

 葉にはαおよびΒツヨン、シネオール、ボルネオール、リナロール、ピネン、チモールなどの精油成分が含まれる。欧米ではハーブ・ティーとして知られ、咽頭炎のうがい薬や胃腸薬として、あるいは生理通や無月経の治療に用いる。そのほか発汗を抑え、更年期障害のほてりを改善する効果や母乳の分泌過多を抑える作用なども報告されている。またセージの芳香は歯の病気予防に効果があるとされ、歯磨き粉ができるまではセージの葉で歯をこする習慣があった。

 近年、セージのアルコール抽出物が記憶力を高め、アルツハイマー病に効果があると報告されて注目されている。ちなみに濃縮サルビアと称される幻覚薬が日本にも出回って問題となった。これはメキシコ奥地に生息するメキシコサルビアのことで、その有効成分はサルビノリンAであり、2006年に脱法ドラッグとして規制されるようになった。

火曜日, 7月 07, 2015

石榴皮

○石榴皮(せきりゅうひ)

 小アジア地方を原産とするザクロ科の落葉高木ザクロ(Punicagranatum)の果皮または根皮を用いる。ザクロは漢代に張塞が安石国から中国に種を持ち帰ったもので安石榴と呼ばれた。日本には平安時代以前に渡来している。

 石榴には種子が多いため、古代ヨーロッパでは豊穣のシンボルとして、中国では子孫繁栄の象徴として考えられていた。平安朝のころザクロの種子や果汁は有機酸を多く含むため、銅鏡を磨くのに用いられた。日本で一般に石榴皮といえば根皮のことであるが、中国では果皮すわなち石榴果皮のことである。ただし、近年では日本の市場に石榴根皮はみられなくなった。

 樹皮にはアルカロイドのペレチエリンやイソペレチエリン、タンニンが含まれ、イソペレチエリンには条虫を麻痺させる作用がある。イギリスやドイツでは条虫駆除に用いられていた。樹皮には毒性があり、普通量でもめまいや震えなど副作用がみられるため、最近は使用されない。果皮にはガラナチンなどのタンニンが多く含まれる。いずれも駆虫・止瀉の効能があり、とくに細菌性、アメーバ性腸炎の下痢や条虫などの寄生虫症に用いる。

 駆虫作用は根のほうが強いが、下痢症状には専ら果皮が用いられる。虫下しには苦楝皮と配合する(石榴根湯)。また果皮には止血・止痒作用もあり、性器出血や帯下、脱肛にも用いる。民間療法では口内炎や扁桃炎、歯痛などに果皮の煎液でうがいをする。

 近年、ザクロに女性ホルモン様作用があることで話題になった。事実、ザクロの種子にはヒトのエストロゲンと同じ構造を有するエストロンとエストラジオールが含まれていることが報告されている。しかし、2000年4月、ザクロ果汁に女性ホルモン物質は検出されなかったことが国民生活センターによって発表され、ザクロブームは下火になった。なお番石榴とはグァバのことである。

日曜日, 7月 05, 2015

菥蓂

○菥蓂(せきめい)

 ヨーロッパ原産とされ、日本をはじめ世界各地に分布するアブラナ科の越年草グンバイナズナ(Thlaspiarvense)の全草を用いる。種子は菥蓂子という。神農本草経の上品に収載されているが、現在ではあまり用いられていない。

 中国の市場ではグンバイナズナの果実のついた全草が敗醤として扱われていることもある。ちなみに敗醤はオミナエシ科のオトコエシやオミナエシを正条品としている。グンバイナズナはナズナより少し大きく、その名は果実の形が軍配の形に似ていることに由来する。

 全草や種子にはシニグリンが含まれ、シニグリンは酵素によって加水分解されると刺激性の強いアリルイソチオシアネートとなり、強い殺菌作用を有する。また尿酸の排泄を促進する効果もある。

 菥蓂は腎炎や子宮内膜炎、痛風などに有効である。また種子の菥蓂子は目の痛みや流涙症に用いる。菥蓂を細かな粉末にして点眼するという方法もある。

金曜日, 7月 03, 2015

浙貝母

○浙貝母(せきばいも)

 中国原産で日本でも切り花や鉢植えに栽培されているユリ科の多年草アミガサユリ(Fritillariaverticillata)の鱗茎を用いる。日本ではこれを単に貝母というが、中国では川貝母と区別して浙貝母という。

 中国の浙江省象山県が原産とされているため浙貝母あるいは象貝母と呼ばれる。18世紀の初めに日本に渡来し、今日でも奈良や兵庫で栽培され、奈良県産のものは大和貝母と称されている。これまで日本の国内需要を上回る生産高があり、輸出もされていたが、近年では円高のため輸出できなくなった。

 アミガサユリの鱗茎にはペイミン、ペイミニン、ペイミジン、ペイミノシド、フリチリンなどのアルカロイド類やジテルペン類などが含まれている。ペイミンはペイミノシドには顕著な鎮咳作用や降圧作用が認められている。また貝母のメタノール画分には冠血管拡張作用や強心作用、抗セロトニン、抗コリン作用がある。ただし多量に用いる毒性が現れるので注意が必要である。

 漢方では清熱・化瘀・散結・解毒の効能があり、咳嗽、肺癰、腫れ物などに用いる。止咳・化痰薬として呼吸器疾患にみられる咳嗽や喀痰、とくに黄色い粘稠痰のときに用いる。また頸部リンパ腺結核やリンパ腺炎、乳腺炎などの化膿症にも用いる。

木曜日, 7月 02, 2015

石南葉

○石南葉(せきなんよう)

 日本の東北地方よりも南の地方に自生しているツツジ科の常緑低木シャクナゲの葉を用いる。日本では通常、アズマシャクナゲ(Rhododemdron degronianum)、ホンシャクナゲ(R.var.hondoense)、ツクシシャクナゲ(R.subsp.heptamerum)をシャクナゲと呼んでいる。

 ツツジとは近縁植物であるが、一般にツツジは落葉樹であるのに対し、シャクナゲは常緑樹である。ところで日本では石楠あるいは石南花と書いて「しゃくなげ」と読むが、これは中国語の石楠、つまりバラ科のオオカナメモチ(Photinia serrulata)の誤用である。日本の民間ではシャクナゲの葉を石南葉というがね中国では石楠葉といえばオオカナメモチの葉のことである。

 シャクナゲの葉にはジテルペン化合物のグラヤノトキシンⅠやロドデンドリンなどが含まれる。グラヤノトキシンⅠは痙攣性の有毒物質で、中毒量では嘔吐、痙攣、麻痺を生じ、昏睡から死に至ることもある。

 日本漢方では強壮・鎮痛の効能をいうが、これは中国の石楠葉の誤解という説もある。日本の民間では利尿薬として浮腫やリウマチ、痛風の治療に茶として用いている。オオカナメモチの葉(石楠葉)にき去風湿・止痛・強筋骨の効能があり、リウマチ、頭痛、下肢の痙攣や足の萎弱に用いる。

水曜日, 7月 01, 2015

石菖蒲

○石菖蒲(せきしょうぶ)

 日本の各地や中国、ヒマラヤなどに分布し、おもに山間の渓流沿いに生えるサトイモ科の多年草セキショウ(Acorusgramibeus)の根茎を用いる。同じサトイモ科でよく似た植物にショウブ(A.calamus)があり、生薬名を水菖蒲という。

 日本で菖蒲湯や菖蒲根として利用されているのは、おもにショウブである。ちなみに中国で菖蒲といえばセキショウ(石菖蒲)のことであるが、岩場に生えていることから石菖蒲と呼ばれることが多い。

 古来より「一寸九節のものがよい」といわれるように、根に多くの節のあるものが好まれ九節菖蒲という別名もある。ただし、今日の市場で九節菖蒲というのはキンポウゲ科のキクザキイチリンソウ(Anemonealtaica)の根茎のことであり、全く別の生薬である。

 セキショウの前走には精油が含まれ、芳香がある。精油成分にはアサロンやカリオフィレン、フムレン、セキショーンなどが含まれ、鎮静、健胃作用などが認められている。漢方では芳香性開竅薬に分類され、開竅・鎮静・健胃・解毒の効能があり、高熱時の意識障害や小児のひきつけ、癲癇、精神不安、健忘、耳鳴、耳聾などに用いるほか、腹痛や下痢、食欲不振、腫れ物、打撲傷などにも用いる。

 脳卒中などによる言語障害や顔面麻痺などには全蝎・附子などと配合する(神仙解語湯)。精神的なうつや興奮、眩暈には半夏・遠志などと配合する(清心温胆湯)。耳鳴りや耳聾、眩暈などには山梔子・羚羊角などと配合する(耳聾丸)。

月曜日, 6月 29, 2015

赤小豆

○赤小豆(せきしょうず)

 中国南部原産のマメ科の一年草アズキ(Phaseplusangularis)やツルアズキ(P.calcaratus)の成熟した種子を用いる。ツルアズキはアズキに似ているがつるがあり、インドや東アジアで栽培されている。

 アズキは古くから食用としてアジアを中心に栽培されているが、日本での栽培量が最も多い。アズキは世界中で日本人だけに好まれる特異な存在で、アズキを米とともに炊いて赤飯や小豆粥にしたり、餡にして和菓子の原料として広く利用している。

 アズキの成分にはフラボン配糖体のロビニンや結晶性サポニンなどが含まれている。漢方では清熱燥湿・利水消腫の効能があり、腎炎や脚気、栄養障害にみられる浮腫、下痢、下血、黄疸、癰腫に用いる。

 脚気や肝硬変の腹水、腎炎による浮腫には赤小豆と鯉魚を一緒に煮込んで服用する(赤小豆鯉魚湯)。黄疸や浮腫、蕁麻疹などに麻黄・連軺などと配合する(麻黄連軺赤小豆湯)。民間療法でも水だけで煮たあずき粥を脚気の浮腫や母乳の出が悪いとき、便秘や二日酔いに用いている。

土曜日, 6月 27, 2015

石松子

○石松子(せきしょうし)

 日本、北半球の温帯・暖帯に広く分布する常緑シダ植物ヒカゲノカズラ科のヒカゲノカズラ(Lycopodiumclavatum)の胞子を用いる。全草は石松あるいは伸筋草という生薬名で呼ばれる。

 ヒカゲノカズラは産地の林緑などの日当たりのよいところに自生し、太い針金状の茎が長く地上を這う。この茎葉は花束や花輪などの装飾用に用いられている。胞子は微細なさらさらとした淡黄色の粉末で、吸湿性がない。このため線香花火に混ぜたり、レンズ磨きや塗料に混ぜ、のびをよくするのに利用されていた。

 胞子には脂肪を約50%含み、この主成分はリコポジウムオレイン酸である。全草にはアルカロイドのリコポジンやトリテルペノイドのαオノセノンなどが含まれている。薬用としては吸湿性が全くないため、丸薬の衣や、汗疹や湿疹などの散布薬として用いられていた。

 伸筋草には去風湿・舒筋活絡・活血などの効能があり、リウマチなどの関節痛、麻痺やしびれ、打撲傷、水腫などに用いる。西洋の民間療法では全草を利尿薬として膀胱炎や尿路結石の治療に用いている。近縁植物であるトウゲシバ(L.serratum//Huperziaserrata)の全草は千層塔と呼ばれ、アルツハイマー病に効果があると期待されている。

金曜日, 6月 26, 2015

赤芍

○赤芍(せきしゃく)

 中国北部を原産とするボタン科の多年草シャクヤク(Paeonia lactiflora)の根の外皮のついたままのものを用いる。外皮を除いたものを白芍という。また赤芍には野生種のベニバナヤマシャクヤク(P.obovata)やセンセキシャク(P.veitchii)などの根も用いられている。これに対し白芍といえば栽培品種のみが用いられている。赤芍は日本薬局方による芍薬の規格に適合したないため、中国産では白芍のみを芍薬として用いている。

 芍薬の根にはペオニフロリンが含まれ、鎮痙、鎮痛、鎮静、抗炎、抗潰瘍、降圧作用など報告されている。中国医学では白芍に補血・止痛の効能があるのに対し、赤芍には清熱涼血・活血の効能があると区別し、温熱病、無月経、腹部腫瘤、腹痛、出血、腫れ物などに用いる。ちなみに同じボタン科のボタン(P.suffruticosa)の根である牡丹根には清熱涼血・去瘀の効能があるが、日本漢方的にいえば、赤芍はちょうど芍薬(白芍)と牡丹皮との中間的な生薬と考えられる。このため瘀血による疼痛や内出血などには白芍よりも赤芍を用いたほうが効果的である。

木曜日, 6月 25, 2015

石蒜

○石蒜(せきそう)

 日本の本州以南、中国の温帯に分布するヒガンバナ科の多年草ヒガンバナ(Lycorisradiata)の鱗茎を用いる。9月下旬、秋の彼岸のころに鮮やかな赤い花をつけるので彼岸花と呼ばれる。赤い花を意味するマンジュシャゲ(曼珠沙華)の別名もあるが、本来、サンスクリット語のマンジューシャカは別の植物の名前である。

 有毒植物ではあるが、鱗茎をすりつぶして水にさらし、毒抜きをすると食べられるため救荒食物として利用されてきた。日本には縄文時代に食用として中国から渡来したと考えられている。また鱗茎をすりつぶして海苔状にしたものは防虫の目的で衣類や襖の下張りなどに用いられた。

 ヒガンバナにはリコリン、ホモリコリン、ガランタミンなどのアルカロイドが含まれ、誤って食べると強い苦味があり、嘔吐、下痢、流涎、神経麻痺などが起こる。これらのアルカロイドには鎮痛、降圧、催吐、去痰作用がある。リコリンはアメーバ赤痢や喀痰の治療薬、ガランタミンは小児麻痺後遺症、アルツハイマー病の治療薬としても知られている。

 石蒜には去痰・利尿・解毒・催吐る効能があるが、日本でも中国でも専ら民間療法として用いられている。一般に催吐の目的で内服させる以外は外用し、鱗茎をすりおろしたもので肩こりや乳腺炎、乳房痛などの湿布薬とする。また腎炎などによる浮腫に石蒜を単独あるいは唐胡麻(蓖麻子)と混ぜたものをすりおろして足裏の涌泉穴に塗布する方法がよく知られている。

 ちなみに欧米ではヒガンバナ科のスノードロップ(Galanthusworonowill)やスノーフレーク(Leucojumaestivum)から抽出されたガランタミンがアルツハイマー病の治療薬として用いられている。

水曜日, 6月 24, 2015

石韋

○石韋(せきい)

 日本の関東以南及び朝鮮半島や台湾、中国南部、インドシナに分布するウラボシ科の常緑シダ植物ヒトツバ(Pyrrosia lingua)などの同属植物の葉を用いる。ヒトツバは暖地の乾燥した岩や葉に群生し、普通にみられる常緑のシダである。根は石韋根という。

 ヒトツバの全草には配糖体、フラボノイド、サポニンなどが含まれるが、詳細は明らかではない。漢方では清熱・利水・通淋・止血の効能があり、淋病、血尿、腎炎、子宮出血、下痢、気管支炎、癰疽などに用いる。とくに通淋薬として有名であり、熱淋、石淋、血淋などの膀胱炎や血尿に滑石・瞿麦などと配合する(石葦散)。また気管支炎や喘息などの治療に効果がある。

 日本ではほとんど利用されていないが、中国では今日でも尿路結石や腎炎などによく用いている。石韋根の粉末は止血薬として傷に散布する。

火曜日, 6月 23, 2015

西洋トチノキ

○西洋トチノキ

 バルカン半島のトチノキ科の落葉高木セイヨウトチノキ(Aesculus hippocastanum)の種子を用いる。欧米では街路樹として広く植栽され、パリのマロニエとして知られているのはこのセイヨウトチノキのことである。ちなみに英語名はホース・チェスナット(栗)、その翻訳名のウマグリ(馬栗)という和名もある。仏語名のマロニエもマロン(栗)に由来し、かつてマロングラッセもマロニエの実が使われていたといわれる。

 種子にはトリテルペン系サポニンのエスシンのほか、クマリン、エスクリンなどが含まれ、静脈壁を強化し、静脈の透過性を下げる作用のほか、血流促進、凝固抑制、抗炎症、抗潰瘍作用などが知られている。

 外傷や炎症による腫張を緩和し、静脈の血流を改善視することが認められており、ドイツなどでは静脈瘤や下肢血流障害(足のだるさ、こむら返り)、痔核の治療、手術後の浮腫の回復などに用いられ、日本でも軟部腫張の治療薬として用いられ、市販の痔治療薬や湿布薬、化粧品などに配合されている。ちなみに生の種子にはエスクリンが含まれるため、過量に用いると死に至ることがあり、一般にはエスクリンを除去した種子エキスのみを利用する。副作用として消化器症状や痒みの出ることがある。

 日本のトチノキ(A.turbinata)も民間薬として知られ、種子の栃の実を乾燥粉末にして胃痛や打ち身、痔などに用いている。また樹皮を煎じて痔や子宮出血、蕁麻疹、下痢等に用い、葉を煎じて咳の治療に用いている。

西洋参

○西洋参(せいようじん)

 北アメリカ原産で、カナダやアメリカの肥沃な森林に自生しているウコギ科のアメリカニンジン(Panax quinquefolis)の根を用いる。

 17世紀末に薬用人参の効能がヨーロッパに紹介され、18世の初めにその論文を目にしたカナダの宣教師がよく似た植物として見出し、薬用として広まったのがアメリカ人参である。この人参は星条旗を意味する花旗を冠して花旗参とも呼ばれている。アメリカで栽培されたものが広東経由で東南アジアに輸出されるため広東人参という名もある。現在では中国でも栽培されている。

 根にはサポニンのパナキロンやジンセノサイドなどが含まれ、人参と同様な中枢神経に対する刺激や血圧降下、疲労回復などの作用が認められている。官報でも補気・滋陰清熱・止渇の効能があり、人参の代用として用いられる。

 人参に比べれば補気の力は弱いが、滋陰清熱の作用はかえって優れている。このため熱証の患者の滋養・強壮に適しており、高熱のために脱水となり、体力が弱ったとなどには西洋参を用いる。

 暑気あたりや夏かぜには石斛・麦門冬などと配合する(王氏清暑益気湯)。また最近の中国では白虎加人参湯の人参の代わりにしばしば西洋参が用いられているる

日曜日, 6月 21, 2015

青木香

○青木香(せいもっこう)

 関東以西、四国、九州及び中国に分布するウマノスズクサ科のつる性多年草ウマノスズクサ(Aristolochiadebilis)などの根を用いる。

 日当たりのよい山野に自生するつる性の植物で、つるからぶらさがった果実の形が馬の首にかける鈴に似ていることからウマノスズクサとか馬兜鈴という名が付けられている。ウマノスズクサの葉をつけた茎は天仙藤、果実を馬兜鈴という。キク科の植物の根にも青木香という生薬があるが、全く別のものである。

 ウマノスズクサの根にはアリストロキア酸やアリストロン、マグノフロリンなどが含まれ、降圧、鎮静、気管支拡張作用が報告されている。漢方では止痛・理気・解毒・消腫の効能があり、胸腹部の張痛みや下痢、腫れ物、湿疹などに用いる。

 夏季の下痢や腹痛、暑気あたりには青木香の粉末を服用する。腫れ物や咬傷、湿疹には粉末をゴマ油などで練って塗布する。近年、中国では青木香に降圧作用があることから高血圧の治療にも使用されている。ただし、アリストロキア酸は腎障害を引き起こすことが指摘されており、使用には注意が必要である。

青風藤

○青風藤(せいふうとう)

 ツヅラフジ科のオオツヅラフジ(Sinomenium actum)や華防己(Diploclisia chinensis)、アワブキ科のアオカズラ(Sabia japonica)などのつる性の茎をいう。

 オオツヅラフジは単にツヅラフジともいい、日本の関東以西、四国、九州、台湾、中国などに分布するつる性落葉低木で、その茎を日本では防己あるいは漢防己と称している。つまり日本産の防己を中国では青風藤として扱っている。

 中国産の防己の基原とされるツヅラフジ科のシマハスノハカズラ(Stephania tetrandra)はオオツヅラフジによく似ているため、日本では江戸時代の前から防己と称してオオツヅラフジで代用していたと考えられる。一方、中国では青風藤はあまりよく知られていない生薬であるが、民間では脚気などによる浮腫やリウマチなどの関節痛の治療薬として用いている。成分や効能に関しては防己の項に記す。

土曜日, 6月 20, 2015

青木香

○青木香(せいもっこう)

 関東以西、四国、九州及び中国に分布するウマノスズクサ科のつる性多年草ウマノスズクサ(Aristolochia debilis)などの根を用いる。

 日当たりのよい山野に自生するつる性の植物で、つるからぶらさがった果実の形が馬の首にかける鈴に似ていることからウマノスズクサとか馬兜鈴という名が付けられている。ウマノスズクサの葉をつけた茎は天仙藤、果実を馬兜鈴という。キク科の植物の根にも青木香という生薬があるが、全く別のものである。

 ウマノスズクサの根にはアリストロキア酸やアリストロン、マグノフロリンなどが含まれ、降圧、鎮静、気管支拡張作用が報告されている。漢方では止痛・理気・解毒・消腫の効能があり、胸腹部の張痛みや下痢、腫れ物、湿疹などに用いる。

 夏季の下痢や腹痛、暑気あたりには青木香の粉末を服用する。腫れ物や咬傷、湿疹には粉末をゴマ油などで練って塗布する。近年、中国では青木香に降圧作用があることから高血圧の治療にも使用されている。ただし、アリストロキア酸は腎障害を引き起こすことが指摘されており、使用には注意が必要である。

木曜日, 6月 18, 2015

青皮

○青皮(せいひ)

 日本ではミカン科の常緑高木ウンシュウミカン(Citrus unshiu)のまだ青い、黄熟する前の果皮を青皮という。成熟果実の果皮は陳皮といい、未熟な果実は枳実としても用いられる。中国ではオオベニミカン(C.tangerina)やコベニミカン(C.erythrosa)などの未成熟果実の皮を青皮として用いている。今日、日本の市場品は全て中国産である。

 青皮には疏肝・理気・消積化滞の効能があり、胸や腋の張ったような痛み、肩や乳房の痛み、消化不良による下腹部痛などに用いる。青皮の性質は陳皮よりも激しく、陳皮の理気作用よりも強い疏肝・破気の効能があるといわれている。

 脇腹の痛みには柴胡・川芎などと配合する(柴胡芎帰湯・疏肝湯)。ストレスによる肩こりには香附子・莪朮などと配合する(治肩背拘急方)。

青黛

○青黛(せいたい)

 キツネゴマ科のリュウキュウアイ(Strobilanthes cusia)、マメ科のタイワンコマツナギ(Indigofera tinctoria)、アブラナ科の植物のホソバタイセイ(Isatis tinctoria)などの葉や茎に含まれる色素を用いる。

 リュウキュウアイはインドからインドシナ半島、中国南部、台湾、小笠原諸島や沖縄などで藍の原料として栽培されている。リュウキュウアイやホソバタイセイの葉は大青葉、根は板藍根という。これらの葉や茎を数日間水に浸して発酵させ、石灰を加えてかき混ぜ、浸出液が紫色になったら液面の泡を掬いとり、これを日干ししてできた藍色の粉末を青黛という。つまり葉や茎に含まれるインジカンが発酵やアルカリを加えることにより加水分解されてインドキシルとなり、次に空気による酸化をうけて藍色のインジゴに変わる。

 青黛にはおもにこのインジゴが含まれている。一般にはインジゴは藍染めの染料として用いられている。薬理的には種々の細菌に対する静菌作用が知られている。漢方では清熱涼血・解毒の効能があり、大青葉や板藍根と同様に清熱薬として幅広く用いられ、丹毒などの発疹や発斑を伴う熱病、仕様煮のひきつけ、吐血や喀血、鼻血などの出血、湿疹、腫れ物、蛇噛傷などに応用する。

 小児の栄養不良で、発熱や腹水のみられるときには柴胡・莪朮などと配合する(消疳退熱飲)。高血圧や熱性疾患などで大便が秘結して眩暈やひきつけ、精神変調などがみられ、脇腹の痛むときには当帰・竜胆・芦薈などと配合する(当帰竜薈丸)。

 中国では肝炎や脳炎、耳下線炎、心筋炎などに対する臨床研究が行われている。口内炎や咽頭炎、耳漏、湿疹などには外用薬として用いる。鼻血には青黛の粉を直接出血部に当てて止血する。潰瘍性大腸炎に対する効果が検討されている。

火曜日, 6月 16, 2015

青葙子

○青葙子(せいそうし)

 熱帯の荒地に広く分布するヒユ科の一年草ノゲイトウ(Celosia argentea)の種子を青葙子という。ただし習慣的なケイトウ(C.cristata)の種子(生薬名:鶏冠子)も青葙子として市場に出ている。また神農本草経には青葙子を草決明と記している。ノゲイトウは日本でも本州西部、四国、九州南部などに帰化し、切花用にも栽培されている。

 青葙子にはセロシアオールを主成分とする脂肪油が含まれ、降圧作用や瞳孔散大作用が知られている。漢方では降圧・明目・止痒の効能があり、高血圧、眼科疾患、鼻血、皮膚掻痒症などに用いる。決明子と同様におもに眼疾患に用いられ、眼の充血や疼痛などを伴う急性結膜炎や慢性ブドウ膜炎、視力障害、飛蚊症などに用いる。また頭痛や頭暈などを伴う高血圧症や皮膚掻痒症には単独で煎じて服用する。鼻血には青葙子の汁を点鼻する。

月曜日, 6月 15, 2015

蠐螬

○蠐螬(せいそう)

 コフキコガネ科のチョウセンクロコガネ(Holotrichia diomhalia)などの昆虫の幼虫を乾燥して用いる。この幼虫は体長1.5~2cmくらいでカブトムシの幼虫によく似ている。

 中国では黒龍江省から長江以南に至る広い地域に分布している。しかし生薬の蠐螬にはさまざまな昆虫の幼虫が含まれ、コフキコガネ科、スジコガネ科、ハナムグリ科、カブトムシ科の幼虫も報告されている。台湾ではコフキコガネの幼虫が用いられている。

 これらは日本ではジムシ(地虫)、ネキリムシ(根切虫、スクモムシ)などと呼ばれているものに相当する。成分は不明だが、家兎の子宮を興奮させ、腸管を抑制し、血管を収縮させる作用がみられ、有毒とされている。

 漢方では活血化瘀・通乳の効能があり、打撲や骨折、瘀血による痛み、関節痛、乳汁不足などに用いる。金匱要略に収載されている駆瘀血剤の大黄シャ虫丸の中にも配合されている。

日曜日, 6月 14, 2015

薺菜

○薺菜(せいさい)

 日本の各地をはじめ北半球に広く分布しているアブラナ科の越年草ナズナ(Capsella bursa-pastoris)の全草を用いる。ナズナは春の七草の一つで、1月7日の朝に七草粥に入れる風習が残っている。

 ナズナの語源は「撫菜」で、「めでる菜」の意味といわれ、果実が三味線のバチに似ていることからペンペングサという呼び名もある。かつては七草粥以外にも和え物やおひたしにして食べていた。

 成分にはフラボノイドのジオスミンやコリン、アセチルコリン、ブルシン酸などが含まれ、子宮収縮、降圧、利尿、止血作用が認められている。戦前には、止血剤として用いていたこともある。

 漢方では利水・止血・明目の効能があり、浮腫、淋病、下血、産後の出血、目の充血、翼状片に用いる。日本でも中国でもおもに民間療法として用いられ、近年では緩下、利尿、血圧効果の目的で単独で煎じて服用する。目の炎症には煎じた液で洗浄する。欧米ではシェパーズパース(Shephard's Purse)と呼ばれ、止瀉、利尿、止血薬として用いられている。

木曜日, 6月 11, 2015

青蒿

○青蒿(せいこう)

 本州、九州、四国、朝鮮半島、中国に分布するキクカの二年草カワラニンジン(Artemisia apiacea)の全草を用いる。このほかアジア、ヨーロッパに広く分布するクソニンジン(A.annua)の全草を用いることもある。ただしクソニンジンの全草はとくに黄花蒿とも呼ばれている。

 葉の形がニンジンに似ていて、よく川原にみられるのでカワラニンジンというながある。一方、クソニンジンのなはその悪臭にちなむ。カワラニンジンは中国から薬用植物、すなわち神麹の原料の一つとして日本に渡来し、その後に野生化したといわれている。

 カワラニンジンの成分にはαピネン、カンフェンのほか、クマリン類のスコポレチン、ダフネチン、ヘルニアリンなど、クソニンジンの成分にはアルテミジアケトン、ヘキサナール、シネオールなどが含まれ、抗真菌、解熱作用などが知られている。

 漢方では清熱・解暑・退虚熱の効能があり、日射病や熱射病、結核やマラリアなどの慢性消耗性疾患の発熱、潮熱、盗汗などの症状に用いる。肺結核などで熱が続き、痩せて全身倦怠感のあるときには知母・別甲などと配合する(青蒿別甲湯)。また鼻出血には新鮮な青蒿の汁に水を加えて服用する。

 近年、クソニンジンを原料とした抗マラリア薬、アーテスネート(アーテミシニン)が中国の製薬会社によって開発され、世界的に広く普及している。

火曜日, 6月 09, 2015

西河柳

○西河柳(せいかりゅう)

 中国北部及びモンゴルを原産とするギョリュウ科の落葉小高木ギョリュウ(Tamarix chinensis)の葉のついた細い幼枝を用いる。日本には江戸時代に渡来し、切花や庭園樹として植栽されている。

 水湿地を好み、枝は細く垂れ下がって全体の形はヤナギに似ている。5月と8月頃の年2回に淡桃色の小さな花が咲くといわれ、三春柳の名もある。楊貴妃が非常に愛したため御柳と呼ばれ、神聖な木という意味で檉柳ともいう。

 成分は明らかでないが、止咳・抗菌・解熱作用が報告されている。漢方では発表・透疹の効能があり、専ら麻疹の治療に用いる。日本にも麻疹の薬として導入された。麻疹で発疹が遅く、高熱、煩躁、口渇、咽頭痛のみられるときには淡竹葉・葛根・蝉退などと配合する(竹葉柳蒡湯)

月曜日, 6月 08, 2015

西瓜

○西瓜(すいか)

 熱帯アフリカ原産のウリ科のつる性一年草スイカ(Citrullus vulgaris)の果実を用いる。中国へは中央アジアを経て11世紀に、日本には寛永年間に渡来したといわれている。スイカの果肉部分を西瓜といい、その汁を服用する。また厚皮の最外層の部分を乾燥したものを西瓜皮あるいは西瓜翠衣という。

 果肉の90%は水分で、果汁には約8%の糖質のほかアミノ酸のアルギニンやシトルリン、色素成分のリコピンやカロテンなどが含まれる。シトルリンは西瓜の果汁から発見されたアミノ酸の一種で、強力な抗酸化作用があり、利尿作用や血管拡張作用などにも関与していると考えられており、欧米では疲労回復、血流改善、動脈硬化予防、精力増強のサプリメントとして利用されている。

 漢方では解暑・止渇・利水消腫の効能があり、暑気あたり、口渇、排尿減少、浮腫に用いる。一般に果汁にして100~300mlを1日に数回飲む。。成熟した果実の果汁を土鍋に入れてとろ火で煮つめ水飴状にしたものを西瓜糖と称し、腎炎や浮腫に用いる。これにキササゲ、南蛮毛を配合した薬用西瓜糖が腎炎や脚気の利尿薬として市販されている。ただ寒の性質があるため、体内の冷えたものには用いない。

 西瓜皮も西瓜と同様の効能があり、暑気あたりや夏風邪による浮腫に用いる。暑気あたりや夏風邪には西洋参・石斛など配合する(王氏清暑益気湯)。また皮を焼いて灰にしたものを口内炎や歯痛に塗布する。このほかも成熟の果実のヘタの部分を切って壺を作り、中に天然の芒硝を入れてヘタで蓋をして密封し吊るしておくと皮の外側に白色顆粒状の結晶が透析してくるが、これを西瓜霜といい、咽頭炎や口内炎、咽頭の嗄れや腫痛に用いる。

 ちなみに地中海で栽培されているスイカの同属植物コロシントウリ(C.colocynthis)の果実は苦くて食用にならないが、コロシンチンという苦味配糖体を含み、ヨーロッパでは緩下薬として利用されている。

金曜日, 6月 05, 2015

鈴蘭

○鈴蘭(すずらん)

 北海道や本州の長野県・群馬県・朝鮮半島、中国、シベリアなどに分布するユリ科の多年草スズラン(Convallaria majalis var.keiskei)の根及び全草を用いる。

 高山や山地の湿地帯に群生し、キミカゲソウ(君影草)という別名もある。現在、園芸的に栽培されているものはおもにヨーロッパ産のドイツスズラン(C.majalis)である。花には芳香があり、ドイツスズランは香水の原料にもされる。

 全草、とくに根茎や根には強心配糖体のコンバラトキシン、コンバラトキソール、コンバロサイドなどが含まれ、ジギタリスと類似の強心、利尿作用がある。コンバラトキシンの強心作用はジギタリスの10~15倍の強さがあり、中毒症状として流涎、悪心、嘔吐、頭痛などを起こし、多量に摂取すると呼吸停止、心不全に陥る。またコンバロサイドには血液凝固作用がある。

 ヨーロッパや日本でも強心利尿薬として利用されていたが、毒性が強いため用いないほうがいい。

豆豉

○豆豉(ずし)

 マメ科ダイズのの種子(Glycine max)を蒸して麹菌を用いて発酵させたものを乾燥して用いる。中国では淡豆豉あるいは香豉、淡豉などという。漢方生薬では一般に「豆豉」と称しているが、最近、健康食品として「豆鼓」という名称でも扱われている。

 豉は「くき」ともいい、大豆を発酵させたものを指し、日本の浜納豆や大徳寺納豆などに似たものである。蒸して発酵させるときに桑葉や青蒿を用いたり、蘇葉や麻黄を用いるなどいくつかの異なる加工方法がある。

 豆豉には鹸豉と淡豉との区別があり、塩を加えたものを鹸豉といい、塩を加えていないものを淡豉という。かつて鹸豉は醤油や味噌よりも古い調味料として利用されていた。薬用には塩を加えない淡豉を用いる。淡豆豉では豆の表面は黒く、縦横にしわがあり、質はもろくて砕けやすい。かび臭いにおいがあり、甘い味がする。

 成分には脂肪やタンパク質、酵素などが含まれている。近年、豆豉から抽出した成分(トウチエキス)が、αグルコシダーゼを阻害して、糖の吸収を遅らせ、血糖値の上昇を抑えることが明らかとなり、特定保健用食品として認められている。

 漢方では解表・除煩の効能があり、熱性疾患や熱病後の不眠、煩躁などに用いる。軽い風寒型の感冒などで発熱、悪寒、頭痛のみられるときには葱白などと配合する(葱豉湯)。熱感や咽痛がある風熱型の感冒には薄荷・金銀花などと配合する(銀翹散)。この際、麻黄や蘇葉とともに加工した豆豉は風寒型の感冒、桑葉や青蒿を用いた豆豉は風熱型の感冒に適しているといわれている。また熱病の後で胸中が煩悶したり、不眠が続くときには山梔子と配合する(梔子豉湯)。

水曜日, 6月 03, 2015

津蟹

○津蟹(ずがに)

 日本から台湾にかけて生息するイワガニ科のモズクガニ(Eriocheir japonicus)を用いる。中国の近縁種のシナモクズガニ(E.sinensis)を蟹として薬用にする。

 モズクガニは河口の泥地や磯辺に生息する蟹で、甲羅は5cmくらいの四角形で体色は暗緑色をしており、鋏脚は大きく房状の毛が生えている。肉が多くて食用にもされる。薬用には薬性を残す程度に黒焼きにしたものを用いる。

 漢方では清熱・消腫・生肌の効能があり、筋肉や骨の損傷、疥癬、火傷、漆かぶれなどに用いる。日本では排膿・強壮の目的で反鼻・鹿角の黒焼きとともに配合し(伯州散)。皮膚化膿症や痔などに内服・外用し、火傷や漆かぶれなどには生のカニをつぶして塗布する。日本の民間でも漆かぶれに淡水産のサワガニをつぶして外用すると効果があるといわれているる。

火曜日, 6月 02, 2015

水蓼

○水蓼(すいりょう)

 日本をはじめ北半球に広く分布するタデ科の一年草ヤナギタデ(Polygonum hydropiper)の全草を用いる。果実は蓼実という。河川や湿地など水辺に生え、中国名は水蓼という。

 ヤナギタデはホンタデ、マタデとも呼ばれ、一般にタデといえばこのヤナギタデのことである。蓼食う虫も好き好きの名のように、葉は非常に辛くて口の中がタダレルということから、タデの名がある。

 奈良・平安時代よりタデは香辛料のひとつとして用いられている。この栽培品種にアオタデ(青蓼)とベニタデ(紅蓼)があり、アオタデの葉をすりつぶして酢と合わせたものを「たで酢」、深紅色のベニタデの芽を「芽たで」といい、さしみのつまとして用いている。

 辛味成分はタデオナールやポリゴディアールで、葉茎にはケルセチン、ピネンなどが含まれており、血液凝固促進作用や降圧作用が報告されている。漢方では去風湿、止瀉・消腫の効能があり、脚気、リウマチ、下痢、打撲傷などに用いる。

 日本の民間療法として暑気あたりで倒れたときに飲ませる方法が知られている。また虫さされや腫れ物、打撲傷に生の葉の汁や煎じた液で外用する。蓼実には明目、温中、利水の効能があり、胃腸炎の腹痛や顔面浮腫などに用いる。

日曜日, 5月 31, 2015

水揚梅

○水揚梅

 日本の各地や中国に自生しているバラ科の多年草ダイコンソウ(Geum japonicum)の全草を用いる。下葉(根生薬)の形が大根の葉に似ているためダイコンソウという。中国で水揚梅という植物には、このほかアカネ科の植物Adina rubellaがあるが、形や効能は全く別である。

 ダイコンソウの成分にはフェノール配糖体のゲインや苦味質のゲウムビターなどが含まれるが、薬理作用は明らかでない。漢方では補気・活血・解毒の効能があり、眩暈やふらつき、四肢倦怠感、インポテンツ、腹痛、月経不順、腫れ物、打撲傷などに用いる。とくに老人の眩暈の治療薬として有名で、頭暈薬の別名がある。

 日本の民間では腎性浮腫や夜尿症、糖尿病などに用いる。また生の葉の汁や煎液を腫れ物や打撲傷に外用薬として用いる。ヨーロッパに分布するセイヨウダイコンソウ(G.urbanum)の根にもゲインが含まれ、西洋では胃腸薬や鎮痛薬として利用している。

水曜日, 5月 27, 2015

水蛭

○水蛭(すいてつ)

 日本、中国、朝鮮半島の池や沼に生息するヒルド科のチスイビル(Hirudo mipponia)をはじめ、ウマビル(Whitmania pigra)、チャイロビル(W.acranulata)などをそのまま乾燥したものを用いる。

 チスイビルは体長3~5cm、ウマビルは6~13cm、チャイロビルはウマビルよりもやや小さく、いずれも細長い扁平形で前後端に吸盤がある。一般に補足したあと石灰や酒に漬けて殺し、日干しあるいは炙って乾燥する。

 ヒルはヨーロッパでは古くから瀉血療法の道具として利用され、20世の初め頃までフランス、ドイツ、オランダ、イタリアなどで盛んに用いられていた。これは生きているヒルを皮膚に吸い付かせて患部の血液を吸収させる単純な方法であり、脳卒中や緑内障、肺結核などの治療に応用されていた。

 ヒルの唾液にはヒルジンといわれる抗凝固物質が含まれ、フィブリノーゲンに対するトロンビンの作用を阻止する。ただ乾燥体ではヒルジンは破壊されている。また水蛭にはヒスタミン様物質やヘパリンなども含まれる。

 漢方では活血化瘀・通経・消癥の効能があり、瘀血による月経障害、子宮筋腫、打撲傷などに用いる。蓄血証で下腹部が硬く膨張し、月経不順や神経症状の見られるときに大黄・虻虫などと配合する(抵当湯)。肝硬変や結核性腹膜炎、子宮筋腫などがあり、るい痩や食欲不振、皮膚の甲錯などのみられるときに大黄・虻虫・シャ虫などと配合する(大黄シャ虫丸)。

火曜日, 5月 26, 2015

水仙根

○水仙根(すいせんこん)

 地中海沿岸に分布し、ギリシャ、中国を経て、日本に渡来したヒガンバナ科の多年草スイセン(Narcissus tazetta)の鱗茎を用いる。また花は水仙花という。ニホンズイセンはフサザキスイセンの変種といわれ、現在では伊豆や淡路島、越前海岸などの海岸部に大群落をなして野生化している。

 根はヒガンバナ(石蒜)と同様に有毒であるリコリンやプソイドリコリンなどのアルカロイドを含み、誤って食べると嘔吐や腹痛をおこし、ひどければ痙攣や昏睡に陥り、死に至る。催吐薬として用いたこともあるが、内服しないほうがよい。

 薬用には生の鱗茎を金属以外のおろし器ですりおろし、その汁を腫れ物や筋肉痛に外用する。とくに乳腺炎の腫れ物に効果がある。水仙花には芳香性の精油としてオイゲノール、リナロールなどが含まれ、活血薬として生理痛や月経不順に用いる。

月曜日, 5月 25, 2015

水菖蒲

○水菖蒲(すいしょうぶ)

 日本をはじめ中国、東アジア、インドに分布し、池や沼などの水辺や水中に自生するサトイモ科の多年草ショウブ(Acorus calamus)の根茎を用いる。日本では菖蒲根という。

 同じサトイモ科でよく似た植物にセキショウがあり、生薬名を石菖蒲というが、中国で菖蒲といえばセキショウのことである。ショウブには芳香があり、古くから魔除けや邪気払いなどに利用され、端午の節句に葉を菖蒲湯とする風習がある。

 精油成分にはアサロンやオイゲノールなどが含まれ、鎮痛、鎮静、珍痙、健胃、去痰作用などが認められている。漢方では芳香開竅薬のひとつで開竅・去痰・化湿・解毒の効能があり、高熱時の意識障害や湿疹、癲癇あるいは健忘症や精神病などに用いられるほか、腹痛や下痢、関節痛、打撲傷、腫れ物、気管支炎にも用いる。

 煎じた液や粉末にして服用するほか、腫れ物に煎液を塗布したり、歯痛にも粉末をすりこんだりする。日本の民間療法でも胃炎、発熱、ひきつけ、創傷、リウマチなどの治療に根を煎じたものややろしたものが利用されている。また打ち身には根をおろして患部にすり込む。

 しかし煎剤の服用でしばしば悪心や嘔吐を催すため、最近はあまり用いられていない。この服作用は新しいほど起こりやすいので、1年以上たったものや、粉末を用いるほうがよい。ヨーロッパではショウブの根茎はカラムスと呼ばれ、食欲不振や消化不良の治療に、北米では呼吸器症状の治療に用いられている。またアロマオイルではスイートフラッグ(sweetflag)とも呼ばれている。

日曜日, 5月 24, 2015

水銀

○水銀(すいぎん)

 常温で液体金属の水銀(Hg)を用いる。おもに天然の赤い辰砂鉱(HgS)を煉製するが、一部は天然水銀からとるものもある。古くから知られた金属のひとつであり、汞とは水銀のことを表す。水銀化合物の朱砂、霊砂、軽粉なども漢方では薬用にする。

 水銀には消毒、利尿、瀉下の作用があり、塩化第二水銀の昇汞は殺菌消毒薬として、有機水銀のマーキュロクロム(赤チン)は傷の消毒薬として知られている。かつて甘汞(塩化第一水銀)は緩下、利尿薬として、水銀注射は駆梅剤として、水銀軟膏は梅毒、毛虱、の塗布駆虫剤として、そのほか農薬としても使われていた。しかし、水銀の毒性により、今日ではほとんど姿を消している。

 一般に無機水銀はわずかして腸管から吸収されないが、有機水銀はほとんど吸収される。無機水銀を摂取すると腹痛や下痢、嘔吐、疲労感、腎障害などの急性中毒や水銀蒸気による気管支炎、肺炎などが現れる。また慢性の水銀中毒では口内炎、貧血や白血球減少、肝障害、腎障害、消化不良、さらには知覚喪失、精神異常などの神経症状を生じる。有機水銀中毒として水俣病がよく知られている。

 かつて中国の神仙家は朱色の辰砂から白く輝く水銀に、さらに白色の塩化水銀や黒色の酸化水銀に変化することに象徴的な意味を起き、不老不死の薬を求める錬丹術にしばしば水銀を用いた。このため錬丹術の流行した唐代には皇帝6人が丹を飲んで死んだといわれている。

 近年、内服薬に水銀を用いることはないが、かつて脚気衝心や脳卒中で危篤の時には黒錫と配合した黒錫丹や養生丹が用いられたり、浮腫や梅毒に水銀を配合したものを薫じて鼻から入れる方法もあった。また油脂とよく混ざるので外用薬として用いられ、疥癬や真菌症など皮膚疾患の治療に応用され、とくに梅毒による悪瘡にしばしば用いられた(神水膏)。

土曜日, 5月 23, 2015

水牛角

○水牛角(すいぎゅうかく)

 中国南部、東南アジアなどで飼育されているウシ科のスイギュウ(Bubalus bubalis)の角を用いる。黒褐色の湾曲した中空の角で、基部は方形~三角形になっている。

 成分は犀角とほぼ同じであり、水牛角にも強心作用、血液凝固時間短縮作用、鎮静作用などがある。漢方では清熱涼血・解毒の効能があり、発熱時の頭痛、意識障害、熱性痙攣、出血症状、紫斑などに用いる。サイの捕獲がワシントン条約により禁止されているため、犀角の代用として使用されることが多い。

水曜日, 5月 20, 2015

蕤核

○蕤核(ずいかく)

 中国の内モンゴル自治区、山西・甘粛・河南省などに分布するバラ科の落葉低木、プリンセピア・ウニフローラ(Prinsepia uniflora)の成熟した果実の種子(核果)を用いる。

 7~8月頃に直径1~1.5cmくらいの球形の果実がなり、黒く熟す。熟した果実を摘みとり、果肉を除いて核果を取り出して乾燥する。使用するときには割って内果皮を除いて心臓形の種仁を用いる。

 種仁は脂肪油を多く含む。漢方では明目の効能があり、目の炎症や鼻血、不眠に用いる。眼病の要薬といわれ、結膜炎などで目が赤く腫れたり、涙や眼脂の出るときに用いる。内服にも用いるが、おもに点眼薬として外用する。外用には油分を除いて練って膏として点眼薬にしたり、煎液を眼洗浄に用いる。

火曜日, 5月 19, 2015

○酢(す)

 米、麦、高梁などの穀物や酒などを醸造して得られる酢酸を含む酸性の液体、酢のことである。醸造酢の作り方は、穀物などのデンプンや糖分原料を糖化し、アルコール発酵させた後、酢酸菌によって酢酸発酵させて作るものである。

 酢は酸拝した酒が起源と考えられ、かつて中国では苦酒と呼ばれ、日本でも「からさけ」といわれていた。紀元前5000年頃にバビロニアで樹液や果汁から酒やビネガーをつくったという記載があり、中国では周の時代に酢を司る役人がいたということが周札に書かれている。

 日本には応神天皇の時代、約5世紀のころには中国から酢の製法が伝えられていたといわれてる。米酢などの成分として酢酸(3~5%)、フマル酸、蟻酸、乳酸、コハク酸、クエン酸などの有機酸のほか、グリシン、アラニン、バリン、ロイシンなどのアミノ酸、糖類などを含み、複雑な酸味や香気がある。酢はその酸によって細菌類のタンパク質を変成させる性質があるため、殺菌作用や防腐作用があり、酢洗い、酢漬け、酢じめなどの料理方法に応用されたり、夏の食品保存にも利用される。

 また酸味はストレスを和らげ、酸味の刺激により、胃液の分泌を高め、食欲を増進させる。胃酸分泌の低下しているときには、胃酸の代わりにペプシンなどの消化酵素を活性化させ、タンパク質の消化を促進すると同時に、食物中の雑菌を殺す。

 酸味の感じ方は感情の変化を受けやすく、ストレスや情緒不安定の時には酸味の感覚が鈍るといわれる。また妊娠している人も酸味に対する味覚が鈍るため、酸味の強いものを好むようになる。またーー高血圧ーや動脈硬化の予防、水虫などの白癬菌に対する治療効果なども知られている。

 漢方では肝胃に入り、活血・止血・解毒の効能があり、産後のめまい、黄疸、盗汗、鼻血や吐下血、腫れ物などに用いる。咽に炎症があり、声が出にくいときには半夏と醋を卵殻の中に入れて沸騰させたものを冷やして服用する(半夏苦酒湯)。また金匱要略の中に黄汗の治療に黄耆・芍薬・桂枝を苦酒と水を混和した液で煎じる方法がある(黄耆芍薬桂枝苦酒湯)。腫れ物には大黄の粉末を酢で調えて塗布する。ちなみに薬用には古いほどよいといわれている。

 近年、鹿児島県のー福山町ーなどで伝統的に作られてきた黒酢が注目されている。ーー黒酢ーは玄米を原料として陶製の壺(アマン壺)の中で1年以上にわたって糖化・発酵させて熟成したもので、一般の米酢に比較するとアミノ酸の含有量が著しく多いという特徴がある。また、中国の鎮江でもち米を長期に熟成させて作られる香酢(香醋)。沖縄県で泡盛の製造過程でできるもろみを原料にしたもろみ酢なども健康食品として登場している。

土曜日, 4月 11, 2015

秦皮

○秦皮(しんぴ)

 日本の本州中部以北に自生するモクセイ科の落葉高木トネリコ(Fraxinus japonica)などの樹皮を用いる。中国ではオオトネリコ(F.rhynchophylla)やヒメトネリコ(F.bungeana)などの樹皮を用いる。

 これらの幹や皮にイボタロウムシが白色の蠟を分泌することから白蠟樹の名があり、これを練ったもので戸のすべりをよくしたことから、戸ねり粉という語源説もある。市場にはクルミ科のヒメグルミの樹皮も秦皮として出ているが、適当ではない。

 秦皮にはクマリン類のエスクリンやエスクレチン、タンニンなどが含まれ、エスクリンのために切り口を水をつけると水は青い蛍光をする。薬理的には消炎、鎮痛、尿酸排泄作用が知られている。

 漢方では止瀉・清熱燥湿・明目の効能があり、下痢、帯下、目の充血などに用いる。裏急後重を伴う細菌性下痢には白頭翁や黄連・黄柏と配合する(白頭翁湯)。目の充血に秦皮の煎液で洗眼したり、目の痛みには菊花や黄連と配合して服用する。ヨーロッパや北アジアに分布する近似種のセイヨウトリネコ(F.excelsior)は通風の治療薬として知られている。

人尿

○人尿(じんにょう)

 健康人の小便の中間尿を用いる。とくに10歳以下の男子の小便を童便といい、良品とされている。また妊娠2~3ヶ月の健康な妊婦の尿を妊娠尿として用いることもある。

 用法は新鮮な尿をそのまま1~2杯飲むか、薬湯に混ぜて飲む。成分は電解質や尿素、硫酸、尿酸、アンモニアなどのほかビタミンやホルモンも含まれる。妊娠尿では2ヶ月前後に尿中HCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)の含量が最も多くなる。妊娠尿は尋常性乾癬に効果があるという報告もある。

 漢方では滋陰清熱・止血・活血化瘀の作用があり、結核などの発熱や喀血、高齢者や病後の衰弱に用いる。傷寒論では下痢で陰液まで損なわれたときに白通湯に猪胆汁とともに人尿を配合する。

 古くから世界各地に民間療法として自分が排泄した尿を飲む飲尿療法が行われている。かつてヨーロッパで歯磨き粉や口腔洗浄液の原料として人尿が利用されていたといわれている。また人尿を癌治療に応用する試みも行われており、中国で人尿から抗癌作用がある成分が抽出されたとの発表もある(CDA-Ⅱ)。

 今日、医薬品として人尿から血栓溶解剤のウロキナーゼや酵素阻害剤のウリナスタチンが抽出精製されている。また尿中の沈殿物が便器に付着したものを人中白、童尿と石膏で加工したものを秋石という。

金曜日, 4月 10, 2015

沈丁花

○沈丁花(じんちょうげ)

 中国原産のジンチョウゲ科の常緑低木ジンチョウゲ(Daphne odora)の花を用いる。中国では宋の時代から栽培されているが、今日では栽培種ばかりで、自生種は発見されない。日本に渡来した年代は不明であるが、室町時代にはすでに栽培されていたという。

 早春に芳香の強い花をつけるため、中国では瑞香と呼ばれている。また沈丁花という和名は沈香と丁香をあわせた匂いの花という意味である。ただし花弁のように見えるのは萼である。  花や葉にはクマリン類のダフニン、ウンベリフェロンなどが含まれる。民間療法では利咽・止痛の効能があり、咽頭の腫痛や歯痛にうがいや、内服薬として用いる。また中国では乳癌の初期に外用したり、リウマチの痛みに内服する民間療法もある。日本にも花や葉の煎じ汁で、腫れ物を洗う治療法がある。