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月曜日, 12月 31, 2012

柴胡

○柴胡(さいこ)

 日本では本州、四国、九州、朝鮮半島に分布しているセリ科の多年草コシマサイコ(Bupleurum falcatum)の根を用いる。ミシマサイコの名は、三島に集荷されていた伊豆地方の柴胡の品質が優れていたためにそう呼ばれるようになった。

 日本産のミシマサイコは和柴胡とも呼ばれ、柴胡の中で最も良品とされている。かつて宮崎県、鹿児島県、静岡県などで野生品が採取されていたが、近年、野生品はごくわずかで市場にはない。最近では日本でも栽培による生産が行われているが、品質は野生品には及ばない。

 中国産の柴胡の基原植物にはいくつかの種類があるが、市場品にはおもにマンシュウミシマサイコ(B.chinense)とホソバミシマサイコ(B.scorzoneraefolium)である。マンシュウミシマサイコは国産のミシマサイコとほぼ同じ植物とされ、天津から輸出されるため津柴胡ともいわれている。韓国産は栽培品であるミシマサイコである。国内の栽培品の生産量は需要の一割に満たず、現在ほとんど中国や輸入されている。ちなみに韓国産の竹柴胡はホタルサイコ系で薬用に適さず、銀柴胡はナデシコ科の別の植物である。

 柴胡の成分にはサポニンのサイコサポニンa・c・d・e・f、ステロールのスピナステロール、スティグマステロール、そのほかパルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸などの脂肪酸やアドニトール、アンゲリシンなどが含まれる。サポニンや柴胡の煎液には解熱、抗炎症、抗アレルギー、肝障害改善、抗潰瘍、抗ストレスなどの作用があることが報告されている。

 漢方では解表・疏肝・升提・抗瘧の効能があり、遷遷化した発熱や季肋部の不快感、口苦、内臓下垂などに用いる。感染症の少陽病期で邪が半表半裏にあり、寒熱往来といわれるような悪寒と発熱を反復するときには黄芩と配合し、表証の残っているときには葛根と配合する。また胸脇苦満といわれる季肋部の膨満感や圧痛には芍薬と配合し、胃腸症状には枳実と配合する。日本では柴胡の配合された処方をとくに柴胡剤といい、慢性疾患や体質改善の治療に幅広く応用している。

土曜日, 12月 29, 2012

犀角

○犀角(さいかく)

 サイ科の動物、サイ類の角を犀角という。サイはアジア及びアフリカの熱帯に生息する草食動物で、鼻の上に1本あるいは2本の角質の角を持っている。アジアには鎧のような厚い皮をもつ1角のインドサイ、ジャワに分布するインドサイよりもやや小さい1角のジャワサイ、スマトラに分布する最も小型で体毛の多いスマトラサイが、アフリカにはクロサイとシロサイが生息している。

 一般に犀角は大きく烏犀角と水犀角の2つに区別される。烏犀角とはインド犀の角を基原とし本犀角とも呼ばれるが、これらの動物は絶滅に瀕しており中国でも市場にはほとんど出ていない。これに対して水犀角はアフリカのクロサイの角に基づくものである。犀角の市場品はほとんどが水犀角である。ただし現在はワシントン条約により日本への輸入は禁止されている。このため近年、中国では水牛角が代用品として注目されている。

 犀角の主要成分はケラチンであるが、ケラチンを構成しているアミノ酸にはシスチン、ヒスチジン、リジン、アルギニンなどが含まれている。そのほか他のタンパク質、ペプチド類、遊離アミノ酸、グアニジン誘導体、ステロール類などが含まれている。

 漢方では清熱・定驚・涼血・解毒の効能があり、感染症による高熱や煩躁、痙攣、意識障害、出血、斑疹、発疹などに用いる。高熱に伴う意識障害には連翹・玄参などと配合する(清営湯)。痙攣のみられるときには羚羊角などと配合する(紫雪丹)。出血するときには生地黄・牡丹皮を配合する(犀角地黄湯)。発疹するときには石膏・知母などと配合する(化斑湯)。

金曜日, 12月 28, 2012

牛膝

○牛膝(ごしつ)

 日本の本州以南、中国に分布するヒユ科の多年草ヒナタイノコズチ(Achyranthes fauriei)の根を用いる。ヒナタイノコズチはイノコズチ(A.japonica)の近縁種で、路ばたや野原に普通にみられ、その根はイノコズチより大きい。

 かつて日本でも野生のもの(ヤブ牛膝)が採取されたり、茨城県で栽培されていた(作り牛膝)こともあるが、今日では流通していない。中国産の牛膝はイノコズチの同属植物モンパノイノコズチ(A.bidentata)の根であり懐牛膝または淮牛膝という。またイノコズチモドキ属の川牛膝(Cyathula officinalis)の根は川牛膝と呼ばれ、この川牛膝も最近では日本に多く輸入されている。

 イノコズチの名はイノシシの膝という説もあり、牛膝と同様に茎のある節の形から名づけられたものである。果実は動物や衣服にくっつくため、ドロボウグサとかヤブジラミなどの方言もある。根の成分には昆虫変態ホルモンのイノコステロンやエクジステロン、サポニンのオレアノール酸配糖体、各種アミノ酸、βシトステロール、スティグマステロールなどが含まれ、子宮収縮作用や腸管抑制作用、降圧作用、止痛作用などが報告されている。

 漢方では活血・通経・止痛・強筋骨の効能があり、婦人科疾患や関節痛、打撲、神経痛、足腰の筋肉の萎弱や疼痛などに用いる。ちなみに牛膝には下行する性質があり、月経血の排出促進や利尿、通便し、上半身の充血を軽減する。さらに他の生薬の効能を下半身に導く引経薬ともいわれている。このため月経困難症や排尿障害、歯肉炎の治療薬としても知られている。また堕胎に用いられたこともあり、妊婦や性器出血、下痢などには用いないほうがよいとされている。一般に懐牛膝は滋養・強壮作用が強く、川牛膝は活血・止痛の作用が強いといわれている。

木曜日, 12月 27, 2012

コンフリー

○コンフリー

 ヨーロッパ原産でヨーロッパからシベリア、中央アジアにかけて自生しているムラサキ科の多年草ヒレハリソウ(Symphytum officinale)の根や葉を用いる。

 日本には観賞用として明治時代に輸入された。若い葉を食用にするが、コーサカス地方の長寿村で常食されていたことから日本でもコンフリーの青汁療法がブームとなったことがある。

 全草にはアルカロイドのコンソリジンやタンニン、アラントイン、各種ビタミンなどが含まれ、貧血予防や新陳代謝促進の効果があるといわれている。ただし、動物実験で発癌性があるという報告もある。

 ヨーロッパでは根をシムフィツム根と呼び、おもに胃潰瘍や下痢、気管支炎、出血の治療に用いる。骨折や挫傷の外用薬としてもよく知られている。また根や葉のエキスにはパップ剤や湿布剤として下肢静脈瘤などに用いる。乾燥した葉はお茶の代用にも利用できる。ちなみにヨーロッパでは主に飼料用作物として利用されている。

 2004年6月、厚生労働省はコンフリーについて、根茎に含まれるピロリジディン・アルカロイドによると思われる肝臓障害(肝静脈閉塞性疾患)を招いた事例が海外で報告されているため、販売自粛を要請した。

水曜日, 12月 26, 2012

昆布

昆布

 コンブ科のマコンブ(Laminaria japonica Areschoug)やクロメ(Ecklonia kurome Okamura)、ワカメ(Undaria pinnatifida Suringar)の葉状体を用いる。北海道の沿岸でマコンブが生産されるが、日本では古くからヒロメとかエビスメと呼ばれて食用にされている。出汁や煮物などの食用以外にもアルギン酸製造の原料にもされている。

 クロメは本州南部から九州沿岸に分布し、本来は暗褐色だが、乾燥すると黒色に変化するためその名がある。クロメは食用のほか、ヨードの原料としても利用される。中国の植物名で昆布といえばクロメのことであり、マコンブは海帯という。ワカメは日本の北海道の西岸から九州まで、および朝鮮半島の沿岸に分布し、古来、日本の最も身近な海藻として利用されている。

 マコンブには炭水化物として多糖類のアルギン酸、フコイジン、ラミナリンなどが含まれ、また旨味のグルタミン酸やアラニン、ヨードやカルシウムなどの無機物なども多く含まれる。ヨードは甲状腺に不可欠な成分で、ヨード不足による単純性甲状腺腫に効果がある。また降圧作用や鎮咳作用なども報告されている。

 漢方では軟堅・利水消腫の効能があり、癭瘤(甲状腺腫)や瘰癧(頸部リンパ腺腫)、浮腫、睾丸腫痛などに用いる。甲状腺の腫大には海藻・貝母などと配合する(海藻玉壺湯)。浮腫や脚気には他の利水薬とともに用いる。ただし脾胃の虚寒証で下痢気味のときには用いない。

 現在、昆布のヌメリから抽出したアルギン酸ナトリウムは、コレステロールの吸収を抑え、また整腸作用があるとして特定保健用食品の関与成分に認定されている(コレカット)。またコンブの一種、ガゴメコンブ(Kjellmaniella crassifolia)のヌメリ成分、多糖体のフコイダンに抗ウイルス・抗菌、免疫賦活、血液凝固抑制、肝機能改善などの健康効果、さらにアポトーシス誘導作用、NK細胞活性化作用といった抗癌作用が認められ注目されている。

火曜日, 12月 25, 2012

コンズランゴ

○コンズランゴ

 南米のペルー、コロンビア、エクアドルのアンデス山脈の自生するガガイモ科のつる性低木コンズランゴ(Marsdenia cundurango)の幹皮を用いる。現在では東部アフリカなどで栽培されている。元来、南米の原住民が昔から用いていた薬木で、ヨーロッパに胃癌の治療薬として用いられるようになった。

 成分にはプレグナン配糖体のコンズラゴグリコシド、シクリトールのコンズリトールなどが含まれる。苦味質のコンズランギンは冷水には溶けて澄明であるが温めると水溶液が濁り、約40℃でゼリー状になって固まるという特異な溶解性がみられる。

 コンズランゴは芳香性苦味健胃薬として消化不良や食欲不振などに用いられる。とくに胃粘膜の病変に有効であるといわれている。一般には煎剤やコンズランゴ酒として用いられるが、市販されれいる胃腸薬にはコンズランゴ流エキスがしばしば配合されている。

月曜日, 12月 24, 2012

コロンボ

○コロンボ

 アフリカ東岸のモザンビーク地方やマダガスカル島の森林地帯に自生するツヅラフジ科のつる性本木コロンボ(Jateorhiza columba)の塊茎を用いる。現在、アフリカやインドなどで栽培されている。アフリカではコロンボの根を赤痢の薬として用いていたといわれる。

 薬材のコロンボは塊茎を輪切りにして乾燥したもので、厚さ0.5~2cm、径3~8cmの円盤状をしている。切断面は淡黄色をした粉性で、側面には灰褐色の周皮をつけている。

 成分にはベルベリン系アルカロイドのパルマチン、ヤテオリジン、コルンバミンや苦味質のコルンビンなどが含まれ、胃酸分泌を促進する作用が知られている。特有の臭いと苦味があり、苦味健胃薬として粉末で服用する。日本でも家庭薬として市販されている胃腸薬にしばしば配合されている。

土曜日, 12月 22, 2012

胡芦巴

胡芦巴(ころは)

 南西アジア原産のマメ科の一年草コロハ(Trigonella foenum-graecum)の種子を用いる。胡芦巴(huluba)はアラビア語の本品名(hullba)に由来する。香料としてはフェヌグリーク(Fenugreek)と呼ばれ地中海地域やインドなどで栽培されている。

 草丈50cmぐらいで、全株に特有の香気があり、夏に6~9cmの細長い鎌状に曲がった豆果をつける。その中に大きさ2~3mmの矩形をした褐色の種子が10~20個含まれている。

 フェヌグリークはエチオピアやエジプト、中近東ではポピュラーな香料であり、インドでは種子や葉をカレー粉やチャツネの原料として用いる。焦げた砂糖とメープルのようなほろ苦味があり、合成メープルシロップの主成分でもある。薬としては古代エジプトの時代から用いられ、口腔疾患や口唇のひび割れ、胃病などに利用され、その配合された軟膏は臭いため「ギリシャの糞」と呼ばれていた。

 インドや中近東では催乳作用があると伝えられ、授乳期の女性が食べる風習がある。種子にはマンノガラクタンなどの粘質が含まれるほか、トリゴネリンやコリンなども含まれる。また、種皮にはステロイド型サポニンのフェヌグリークサポニンが含まれ、これが体内で女性ホルモンであるプロゲステロンに変換されるということが指摘されている。また、フェヌグリークの胚乳には血糖降下作用があることも報告されている。

 漢方では腎陽を温め、寒湿を去る効能があり、インポテンツや遣精、冷えによって生じる下腹部痛や下肢痛、月経痛などに用いる。腎虚によって生じる痰の絡む卒中や喘息、気の上衝、腹痛などの症状に附子・補骨脂などと配合する(黒錫丹)。市販薬では滋養強壮薬に配合されている(ナンパオ)。近年、母乳の出をよくしたり、豊胸や更年期障害の予防などへの効果も期待されている。

木曜日, 12月 20, 2012

五霊脂

○五霊脂(ごれいし)

 中国の各地に生息するムササビ科のムササビの一種、中国名で橙足鼯鼠(Trogopterus xanthipes)および飛鼠(Pteromys volans)などの乾燥した糞便を用いる。

 かつて五霊脂はオオコウモリの糞と考えられていたこともある。鼯鼠は体長50cmくらい、飛鼠は体長15cmくらいのムササビで、前後の足の間には飛膜があり、樹木の間を滑空する。夜行性で木の実や若い枝葉などを食べる。飛鼠は木の穴に巣を作るが、鼯鼠は崖の上の洞穴や岩の割れ目に巣を作り、洞穴の周囲には灰黒色の糞便がみられる。現在、おもに中国の河北・山西・陝西省で産出する。

 五霊脂は形状によって霊脂と霊脂米に区別され、霊脂塊は粒状の糞が凝縮した不規則な塊状のもので、霊脂米は細長い卵円形のものである。表面の色は褐色で軽くて砕けやすく、断面は黄褐色で繊維状である。味は塩辛く苦味があり、臭いはほとんどない。

 成分にビタミンA類の物質が含まれている。漢方では活血化瘀・止痛の効能があり、生理痛や産後の腹痛など主に瘀血による疼痛に用いる。生で用いると活血作用、炒って用いると止血作用が強まるとされている。炒りながら酢や酒を加え、乾燥したものがよく用いられる。

 産後の腹痛や生理痛、狭心症などに蒲黄と配合する(失笑散)。腹部に腫塊があり、疼痛や出血のみられるときには当帰・赤芍などと配合する(少腹逐瘀湯)。また解毒薬として蛇やムカデ、サソリなどに咬まれたときに外用する。

水曜日, 12月 19, 2012

五味子

○五味子(ごみし)

 日本では本州の中部以北、北海道、朝鮮半島、中国大陸などに分布するマツブサ科のつる性落葉低木チョウセンゴミシ(Schisandra chinensis)の果実を用いる。

 秋に深紅色をしたブドウ状の果実がなる。チョウセンゴミシという名は渡来植物のようであるが、日本にも自生しており、かつては市販されていたこともある。五味子の名の由来は皮と肉は甘く酸く、核は辛く苦い。全体に鹸味があるためといわれる。

 この五味子を北五味子というのに対し、日本ではマツブサ科のサネカズラ(Kadsura japonica)の果実を南五味子という。中国ではチョウセンゴミシの近縁植物、華中五味子(S.sphenanthera)の果実を南五味子と称して五味子の代用にする。日本に中国、朝鮮から輸入されているものは全て北五味子で、日本産の南五味子も現在では流通していない。

 果実にはクエン酸、リンゴ酸などの有機酸、シザンドリン、ゴミシン、プレゴミシンなどのリグナン類、シトラール、カミグリンなどのセキステルペン類などが含まれる。シザンドリンやゴミシンAには鎮痛、鎮痙、鎮静、鎮咳、抗潰瘍作用があり、近年、ゴミシンAの肝機能改善作用が注目され、急性肝炎の治療薬として研究されている。

 漢方では止咳・止渇・止瀉・止汗・固精の効能があり、固渋薬として慢性の咳嗽や喘息、口渇、下痢、多汗、疲労、遣精などの治療に用いる。なお民間では滋養強壮に焼酎に漬けた五味子酒が用いられている。

火曜日, 12月 18, 2012

胡麻

○胡麻

 アフリカ大陸が原産と推定され、世界各地で栽培されているゴマ科の一年草ゴマ(Sesamum indicum)の成熟種子、つまり食用にされるゴマの乾燥したものを用いる。紀元前1世紀に張騫によって西域(胡)から中国に伝えられたといわれ、現在では中国が世界一の産国である。

 一般に中国では胡麻といわず、芝麻あるいは脂麻という。日本でも奈良時代には栽培され、食用や薬用、灯火用にも使用された。ゴマは種子の色によって黒ゴマ、白ゴマ、黄ゴマなどがあるが、薬用には黒ゴマが用いられる。

 種子は脂肪とタンパク質が豊富で、含油率は40~55%もあり、炒って砕いた後に蒸して圧搾すれば風味のよいゴマ油が得られる。種子には脂肪酸としてオレイン酸やリノール酸が多く含まれるほか、カルシウム、鉄分、γ-トコフェロールやセサミン、セサモリン、セサモール、セサミノールなどのリグナン化合物などが含まれている。

 ゴマリグナンの大半を占めるセサミンには抗酸化作用、アルコール分解促進作用、血中コレステロール低下作用などが認められている。ゴマ油が植物油に比較して酸化変敗しにくいのは、強力な抗酸化作用があるセサミノール、セサモールなどによることが知られている。またゴマペプチドには降圧作用があり、特定保健用食品の成分として認められている。ただ、生ゴマの種皮は硬くて消化されないため、砕いて用いる。

 漢方では補陰・潤腸・補肝腎の効能があり、虚弱体質や高齢者、病後、腸燥便秘などに用いる。老人性皮膚掻痒症などには当帰・地黄などと配合する(消風散)。高齢者のめまい、視力の低下には何首烏・杜仲などと配合する(首烏延寿丹)。また胡麻油は紫雲膏中黄膏などの軟膏基剤として用いられている。

月曜日, 12月 17, 2012

牛蒡子

○牛蒡子(ごぼうし)

 ヨーロッパからシベリア、中国東北部にかけて分布するキク科の越年草ゴボウ(Arctium lappa)の種子を用いる。

 日本にゴボウの野生種はないが、千数百年前に中国から渡来し、日本で改良されて作物化した。ゴボウの根は日本独特の野菜で、日本人以外はほとんど利用しない。ヨーロッパでは新葉をサラダに用いる。

 種子には脂肪油のほか、リグナン系誘導体のアルクチゲニンやアルクチインが含まれ、最近ではアルクチゲニンの抗腫瘍作用が注目されている。欧米ではゴボウの根をバードック(Burdock)と呼び、血液の浄化や発汗、解毒、利尿の作用があるとして感冒、関節炎、リウマチ、皮膚疾患、浮腫などに利用し、根から抽出されたオイル(Bur oil)はフケや頭皮の痒みの治療に用いられている。

 漢方では疏散風熱・去痰・止咳。解毒の効能があり、涼性の解表・解毒薬として風熱型の感染症や扁桃炎、麻疹の初期、咳嗽、皮膚化膿症などに用いる。ただし牛蒡子には寒で滑利の性質があり、下痢気味のものには用いないほうがよい。日本の民間では生の根の汁が痰が咽に絡んだときや胃の痛みに用いたり、生の葉の汁を関節腫痛や腫れ物に用いる。

土曜日, 12月 15, 2012

牛皮消根

○牛皮消根(ごひしょうこん)

 日本の各地、南千島などに分布するガガイモ科のつる性多年草イケマ(Cynanchum caudatum)の根を用いる。北海道や新潟の山野林中に産し、イケマとはアイヌ語の「大きな根」という意味で、アイヌの霊草として知られている。

 有毒植物であるが、アイヌは若苗や根を水にさらし、煮て食用にしていたほか、薬用として食中毒や腹痛、感冒、切り傷などの治療に用いていた。ところが生馬という漢字を用いたため馬の治療薬という誤解が生じたこともある。

 イケマの根には強心配糖体やシナンコゲニンなどをアグリコンとする配糖体が多く含まれ、強心利尿作用がある。茎を切ると白い乳液が出るが、この茎を食べるとよだれが出て嘔吐し、さらに痙攣を引き起こす毒性がある。この有毒物質はシナンコトキシンという。近年、これに含まれるプレグナン配糖体の免疫増強作用や抗腫瘍作用が発表されている。

 浅田宗伯によれば牛皮消には和血・止痛の効能があり、打撲、出血に用いるほか、帯下の奇方としても用いていた。華岡青洲は八珍湯に牛皮消・川骨を加えた調栄湯を金創などの出血に用いた。また会津地方ではカラス退治にイケマの根を団子に入れて用いたと伝えられている。一般に利尿薬として用いられるが、毒性が強いため現在はほとんど使われない。

金曜日, 12月 14, 2012

琥珀

○琥珀(こはく)

 古代マツ科やスギ科植物の樹脂が長い期間、地中に埋没して凝結し、化石となったものを琥珀という。産地としてバルト海の沿岸地方が最も有名で、中国の撫順やドミニカ共和国、日本では岩手県の久慈地方がよく知られている。江戸時代には琥珀のことを薫陸香と読んでいたこともある。

 粘土層や砂層、炭層、堆積岩の中に産する黄褐色~赤褐色の塊状で、透明及び不透明、断面は貝殻状で光沢があり、中には昆虫などが混入していることもある。燃やすと容易に溶け、芳香を放ち、また有機媒体などにも溶ける。一般に装飾品の原石として有名である。

 成分にはアビエチン酸やコハク酸などが含まれ、コハク酸の名はコハクの乾留によって初めて得られたことに由来する。漢方では定驚・安神・利水・通淋・活血の効能があり、不眠症や神経症、痙攣、排尿障害、無月経、腹部腫瘤などに用いる。

 産後の浮腫には商陸・猪苓などと配合する(琥珀湯)。腹水や下肢の浮腫が著明で、尿が出ないときには五苓散に滑石などと加える(茯苓琥珀散)。精神が不安定で不眠や動悸がみられるときに遠志・羚羊角などと配合する(琥珀多寐丸)。

木曜日, 12月 13, 2012

五倍子

五倍子(ごばいこ)

 ウルシ科のヌルデの葉に寄生しているアブラムシ科のヌルデシロアブラムシ(ヌルデノミミフシ)などが樹木に作った虫癭(虫こぶ)を用いる。

 このアブラムシは幼虫で越冬し、翌年の春に羽化してヌルデの木に産卵する。そこで雌雄の無翅雌虫を産み、これらが交尾した後さらに無翅雌虫を産み、この雌虫がヌルデの若葉に寄生する。その汁液を吸う刺激のため葉の組織が次第に増殖し、虫癭を形成する。その中で雌虫は単性生殖を行って仔を産み、それが秋に有翅雌虫となって飛散する。

 秋に虫の入ったまま採取し、熱湯で数分煮たのち乾燥する。日本では虫癭を一般に木附子、また加熱して乾燥したものを白附子、熱湯を通したものを黒附子ともいう。

 成分には多量のタンニンが含まれ、タンパク質と結合して凝固し、止血、止瀉、抗菌作用が認められる。工業的にはなめしや黒色染料、インク製造原料などに用いられる。かつて日本には五倍子の粉末を鉄汁で黒く発色させたもので歯を染める御歯黒の風習があった。

 漢方では収斂・固渋薬として止瀉・止咳・止汗・止血の効能があり、慢性の下痢や咳嗽、脱肛、盗汗、鼻出血や痔出血に用いる。かつて五倍子の粉末に茶を加えて麹で発酵させた百薬煎が止瀉薬として用いられた。

水曜日, 12月 12, 2012

胡桃仁

胡桃仁(ことうにん)

 西アジア原産のクルミ科の落葉高木ペルシャグルミ(Juglansregia)の種仁を用いる。種仁とはクルミの種子の子葉、つまり固い殻の中の可食部である。この未成熟果実の外果皮は胡桃青皮といい、また殻の中の薄い隔壁を分心木といって薬用にする。現在、ペルシャグルミはアメリカやヨーロッパをはじめ、日本の長野県山形県など世界各地で広く栽培されている。この胡桃は漢の時代に張騫が西域から持ち帰ったといわれ、胡桃の名がある。

 日本には18世に朝鮮半島を経て、また明治初年にはアメリカから伝えられた。これとは別に日本全域からサハリンかけて同属植物のオニグルミ(J.mandshurica)やヒメグルミ(J.subcordiformis)が自生しており、これらの種仁も胡桃仁として用いる。

 胡桃仁は脂肪油を40~50%含み、その主成分はリノール酸のグリセリドである。またタンパク質や炭水化物、カルシウム、鉄、カロテンなども含み、栄養価に富む。漢方では止咳・潤腸・補陽の効能があり、高齢者や虚弱体質者の滋養薬として、また老人の喘息や咳嗽、腰痛、下肢倦怠、便秘などに用いる。

 高齢者など肺腎両虚の喘息や咳嗽には人参・生姜と配合する(人参胡桃湯)。腸燥便秘には単独あるいは麻子仁・当帰などと配合する。腎陽虚による足腰の衰えには杜仲・補骨脂などと配合する。腎結石による腰痛にも用いる。

 一般に滋養薬として用いるときには皮を除くが、喘息には薄皮をつけたまま用いる。なお分心木は収斂薬として遣精・帯下・頻尿などに、胡桃青皮は腹痛や下痢などに用いる。民間療法では未熟な果肉をすりおろして、水虫や湿疹に外用する。アメリカでは古くから先住民がクログルミ(ブラックウォルナット:J.nigra)の樹皮を殺菌・駆虫薬として、また整腸剤や皮膚病の治療薬として利用している。

火曜日, 12月 11, 2012

梧桐子

○梧桐子(ごとうし)

 日本の紀伊半島、伊豆半島、四国、九州、台湾、中国、インドシナに分布するアオギリ科の落葉低木アオギリ(Firmiana simplex)の種子を用いる。青桐は街路樹や公園樹としても利用される。

 種子は船状に開いた果皮の周辺に付着した直径が6~8mmぐらいの球形のもので、炒って食べることもできる。ちなみに梧桐子大といって古くから丸薬の大きさの基準とされていた。

 種子にはカフェインや不乾性油などが含まれている。漢方では健胃・消食の効能があり、消化不良や腹痛、小児の口内炎などに用いる。小児の口内炎には梧桐子は焼いて粉にしたものを貼付する。胃痛や下痢には炒ったものを煎じて服用する。

 また樹皮にはガラクタンやアラバンなどの粘液質が含まれ、コルク皮を取り去ったもの(梧桐子)を打撲傷やリウマチの関節痛、痔、丹毒などに用いる。しかし近年は日本でも中国でも余り用いられない。

月曜日, 12月 10, 2012

骨砕補

骨砕補(こつさいほ)

 中国の南部や台湾などに自生しているシダ植物ウラボシ科のハカマウラボシ(Drynaria fortunei)などの根茎を用いる。そのほかの基原植物にはウラボシ科の中華槲蕨(D.baronii)、石蓮姜槲蕨(D.propinqua)、光亮密網(Pseudodrynaria coronans)のほか、シノブ科のシノブ(Davallia mariesii)や大葉骨砕補(D.orientalis)の根茎などが用いられる。

 ハカマウラボシの根は淡褐色ないし暗褐色で、黄褐色の毛のように柔らかい鱗片に覆われている。一般に根茎の鱗片を除去したものを骨砕補といい、毛状の鱗片をつけたままのものを猴姜とか、申姜という。骨砕補という名は骨折の治療に効果のあることに由来し、毛状の形から猴姜・申姜・毛姜などとも呼ばれている。

 成分にはナリンギンやナリンゲニンなどが含まれる。漢方では補腎・活血・強筋骨の効能があり、骨折や打撲、捻挫、腎虚の歯痛や耳なり、下痢、腰痛などに用いる。リウマチなどによる関節痛や運動障害に威霊仙・地竜などと配合する(舒筋活絡丸)。骨折・捻挫などの外傷には自然銅・シャ虫などと配合する(接骨Ⅱ号方)。また外傷の患部に骨砕補の粉末をワセリンに混ぜて塗布する。歯痛や歯肉炎には牛車腎気丸と一緒に服用したり、黒く炒めて粉にしたものを歯肉に擦り込む。

土曜日, 12月 08, 2012

胡荽子

○胡荽子(こずいし)

 地中海東部沿岸を原産とするセリ科の一~二年生コエンドロ(Coriandrum sativum)の果実を用いる。全草は生薬として芫荽と呼ばれる。現在、インドやロシア、モロッコ、東欧諸国、アメリカなどで栽培されている。

 胡荽子は香辛料のコリアンダーとしても知られ、独特の芳香がある。コリアンダーという名は、ギリシャ語で南京虫という意味のコリスに由来し、事実、若い果実にはカメムシのような臭いがある。ヨーロッパや南米、インドなどで果実が香辛料としてよく利用され、ピクルスやカレー粉、ソーセージなどに用いられている。

 古代ギリシャ・ローマ時代から医薬のひとつとしてよく使われ、消化不良や腹痛、めまい、腎臓病、胆石の治療のほか、中世には媚薬としても有名であった。中国には漢代に張騫が西域から持ち帰ったといわれ、種子を食べると不老不死が得られるという伝説がある。日本には9世紀頃に伝えられ、コニシと呼ばれたこともあるが、臭いが日本人に好まれなかったため普及しなかった。和名のコエンドロはポルトガル語のコエントロに由来している。

 果実に含まる精油の主要成分はd-リナロールで、そのほかリモネンやピネンなども含まれている。漢方では透疹・健胃の効能があり、発疹しにくい麻疹や天然痘、食欲不振、痔核などに用いる。歯痛には煎じた液を口に含んだり、痔疾患に乳香などと混ぜたものを焼いて患部を燻す方法がある。

金曜日, 12月 07, 2012

虎杖根

○虎杖根(こじょうこん)

 日本各地、朝鮮半島、台湾、中国などに自生するタデ科の多年草イタドリ(polygonum cuspidatim)の根と根茎を用いる。地方によってはスカンポやスイバとも呼ばれているが、一般にスイバといえば別のタデ科の植物のことをいう。

 春先に出る若芽には酸味があり、生のままや塩漬けにして食用にする。ただし、シュウ酸を多く含むため多食すると下痢や尿路結石の原因となることがある。戦時中には乾燥したイタドリの葉をタバコの代用にしたこともある。イタドリという名は「痛み取り」に由来するといわれ、中国では若い茎の紅紫斑を虎の模様に例えて虎杖という。

 成分にはアントラキノン誘導体のポリゴニンなどが含まれ、加水分解するとエモジンを生じる。また、赤ワインに含まれていたことで知られるポリフェノールの一種、レスベラトロールも多く含まれており、レスベラトロールの原料として利用されている。

 漢方では清熱解毒・止痛・退黄・活血の効能があり、関節痛や黄疸、生理不順、火傷などに用いる。リウマチなどによる関節の痛みや手足のしびれに桑枝・臭梧桐などと配合する(桑枝虎杖湯)。中国の報告では抗菌作用、特に緑膿菌に対する抗菌作用があり、火傷に虎杖の粉末を茶や食用油で練って患部に塗布する治療が行われている。

 また急性肝炎や新生児黄疸、気管支炎、骨髄炎などの治療効果も報告されている。民間では生の若芽を切り傷の薬として、また根を煎じて便秘や蕁麻疹などに用いる。

木曜日, 12月 06, 2012

呉茱萸

○呉茱萸(ごしゅゆ)

 中国の長江流域、広東省、海南省、広西チワン族自治区、陝西省などに分布するミカン科の落葉低木ゴシュユ(Evodia rutaecarpa)の成熟する少し前の未成熟果実を用いる。そのほかホンゴシュユ(E.officinalis)の果実なども利用される。

 呉茱萸は中国原産であり、呉というのは江蘇省一帯のことである。日本にも江戸時代に薬木として渡来し栽培されているが、雌株だけだったため種子のない果実しかできなかった。なお日本ではグミに茱萸の漢名を当てているが、これは誤用であり、中国で茱萸といえば呉茱萸あるいは山茱萸のことである。ちなみに中国ではゴシュユの種子から油を搾ったり、葉を黄色染料に用いている。

 薬用にされる未成熟果実は直径5mmくらいの小さな偏球形で基部に果柄がついている。独特の強い臭いがあり、味は辛くて苦い。呉茱萸の成分にはアルカロイドのエボジアミン、ルテカルピン、シネフリン、鎖状テルペンのエボデン、苦味成分のリモニン、芳香成分のオシメン、サイクリックGMPなどが含まれ、駆虫、抗菌、鎮痛、健胃作用などが知られている。近年、エボジアミンにカプサイシンと同様のバニロイド受容体を介した脂質代謝促進作用が認められ、肥満防止に効果があるとして注目されている。

 新鮮な果実は服用すると嘔吐を起こすこともあり、1年以上経過したものを用いる。また多量に服用すると咽に激しい乾燥感が生じる。漢方では呉茱萸は大熱の性質があり、厥陰肝経の主薬とされ、温裏・疏肝・止痛の効能がある。とくに虚寒による腹痛や脇痛の常用薬であり、嘔吐や頭痛などにも用いる。この効用は乾姜とよく似ているが、乾姜が上焦を温めるのに対し、呉茱萸は下焦を温めるといわれ、とくに下腹部痛や生理痛、下痢などに効果がある。民間では浴湯料として知られ、腰痛や冷え性などに用いられている。

火曜日, 12月 04, 2012

胡椒

○胡椒(こしょう)

 南インド原産のコショウ科の常緑つる性植物コショウ(Piper nigrum)の果実を用いる。コショウはすでに紀元前4~5世のヨーロッパで有名なスパイスの一つで、防腐効果や食欲増進の効果が知られていた。中世ヨーロッパでは金と同じくらいの価値があり、このためヨーロッパ列強諸国は東方へ進出し、大航海時代をもたらすこととなった。

 中国へはインド産のものが中央アジア経由で伝わり、西域(胡)の山椒に似た辛いものということで胡椒と呼ばれた。日本にも古くから伝えられ、奈良時代の文献には薬種として記載されている。現在、インド、スリランカ、東南アジア、ブラジルなどで栽培されている。

 コショウには黒コショウと白コショウの2種類があるが、未成熟の青い果実を数日間天日乾燥した黒くなったものが黒コショウであり、赤く成熟した果実を流水に漬けた後、果皮を取り去って乾燥したものが白コショウである。香味成分は果皮に多いため、芳香性と辛味は黒コショウのほうが強い。サプリメントやアロマでは辛味成分が多く含まれているブラックペッパー(黒コショウ)が用いられる。

 辛味成分はアルカロイドのピペリンやシャビシンであり、香気成分は精油の中のフェランドレンやピネン、リモネンなどである。ピペリンには、抗菌・防腐・殺虫作用、消化促進作用などがあり、血管を拡張し、血流を促進し、エネルギー代謝を高め、消費カロリーを増やす効果がある。また、黒コショウエキス(バイオペリン)にはビタミンやミネラルなど各種栄養素の吸収率を高める効果のあることが注目されている。

 漢方では温裏・止嘔・止瀉・解魚毒の効能があり、冷えによる腹痛や嘔吐、下痢、食中毒などに用いる。冷えによるシャックリには半夏・乾姜などと配合する(治吃逆一方)。胃寒による嘔吐や腹痛、下痢には硫黄などと配合する(澄涼丸)。小児の遣尿には補骨脂などと配合する(尿牀丸)。

月曜日, 12月 03, 2012

コケモモ葉

○コケモモ葉(こけももよう)

 本州、四国、九州では高山、北海道や北半球の寒帯・針葉樹林帯では低地に分布するツツジ科の常緑小低木コケモモ(Vaccinium vitis-idaea)の葉を用いる。中国では越橘葉という。

 コケモモの果実は未熟なときは赤くて酸味が強いが、熟すと赤紅色に変わって甘酸っぱくなるため、ジャムや果実酒の原料となる。古代ギリシャ時代から果実が赤痢に効果のあることが知られ、口内炎や腸内異常発酵にも用いられる。また漿果の色素であるアントシアニンは網膜の血管障害や夜間の視力低下に効果があるといわれている。

 葉には配糖体のアルブチン、メチルアルブチン、フラボノイドのイソクエルシトリン、ハイドロキノンなどが含まれ、利尿、防腐作用がある。コケモモ葉が日本で薬用植物と知られるようになったのは昭和初期で、本来はウワウルシ(クマコケモモ)の代用品として取り上げられ、膀胱炎や腎盂炎などの尿路感染症に用いられたが、味が悪いため最近ではあまり用いられない。

 ヨーロッパでは葉に熱湯を加えた浸出液を糖尿病の治療に用いている。また果実を漬けたコケモモ酒を疲労回復に用いる。日本では高山植物を保護する立場から、一般に高山帯での採取が禁止されている。

土曜日, 12月 01, 2012

虎耳草

○虎耳草(こじそう)

 本州以南、中国などに分布しているユキノシタ科の常緑多年草ユキノシタ(Saxifraaga stolonifera)の葉または全草を用いる。湿った所や岩場に生え、観賞用として庭先などにもよく栽培されている。一説に冬に雪の下にあっても葉が枯れないことからユキノシタといわれ、肉厚の毛深い葉の形から虎耳草の名がある。葉はテンプラにしたり、茹でて食べることもある。

 成分には硝酸カリウム、塩化カリウム、クェルシトリン、アルブチン、ベルゲニンなどを含み、抗菌作用や利尿作用が知られている。漢方ではあまり使用しないが、民間療法として日本でも中国でもよく知られている。

 清熱・解毒・涼血の効能があり、湿疹や皮膚化膿症、中耳炎、気管支炎、痔患などに用いる。湿疹や蕁麻疹、咳嗽、膿痰には煎じて服用する。ミミダレグサという方言もあるように、葉から搾った汁を化膿性中耳炎に点耳する。痤瘡や腫れ物に生葉の汁をつけたり、煎液で湿布する。葉を火であぶって貼り付けてもよい。

 子供のひきつけには生葉の搾り汁を口に含ませる。また痔の痛むときに乾燥させた虎耳草をくすべて患部に当てるという方法もある。近年、ユキノシタ全草のエキスに紫外線がもたらすDNA障害の修復を促進する効果が報告され、アンチエイジングや美白作用を目的とした化粧品に配合されている。