○牛膝(ごしつ)
日本の本州以南、中国に分布するヒユ科の多年草ヒナタイノコズチ(Achyranthes fauriei)の根を用いる。ヒナタイノコズチはイノコズチ(A.japonica)の近縁種で、路ばたや野原に普通にみられ、その根はイノコズチより大きい。
かつて日本でも野生のもの(ヤブ牛膝)が採取されたり、茨城県で栽培されていた(作り牛膝)こともあるが、今日では流通していない。中国産の牛膝はイノコズチの同属植物モンパノイノコズチ(A.bidentata)の根であり懐牛膝または淮牛膝という。またイノコズチモドキ属の川牛膝(Cyathula officinalis)の根は川牛膝と呼ばれ、この川牛膝も最近では日本に多く輸入されている。
イノコズチの名はイノシシの膝という説もあり、牛膝と同様に茎のある節の形から名づけられたものである。果実は動物や衣服にくっつくため、ドロボウグサとかヤブジラミなどの方言もある。根の成分には昆虫変態ホルモンのイノコステロンやエクジステロン、サポニンのオレアノール酸配糖体、各種アミノ酸、βシトステロール、スティグマステロールなどが含まれ、子宮収縮作用や腸管抑制作用、降圧作用、止痛作用などが報告されている。
漢方では活血・通経・止痛・強筋骨の効能があり、婦人科疾患や関節痛、打撲、神経痛、足腰の筋肉の萎弱や疼痛などに用いる。ちなみに牛膝には下行する性質があり、月経血の排出促進や利尿、通便し、上半身の充血を軽減する。さらに他の生薬の効能を下半身に導く引経薬ともいわれている。このため月経困難症や排尿障害、歯肉炎の治療薬としても知られている。また堕胎に用いられたこともあり、妊婦や性器出血、下痢などには用いないほうがよいとされている。一般に懐牛膝は滋養・強壮作用が強く、川牛膝は活血・止痛の作用が強いといわれている。
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