○甘松(かんしょう)
オミナエシ科の多年草、ナルドスタキスの根及び根茎を用いる。ヒマラヤから中国西南部の高山帯に自生するナルドスタキス(Nardostachys chinensis)は、四川省の松州に産し、甘みがあるため甘松の名がある。一方、ネパールに分布するナルドスタキス(N.jatamansi)は、古くからインドなどで香料として知られているるツタンカーメンの副葬品の香膏の成分にも甘松香(ナルド)が含まれていた。
寛葉甘松の根や根茎にはヤタマンシンを主成分とする精油が含まれ、独特の芳香がある。甘松にはワレリアナ根とよく似た鎮静作用があり、バレラノンには抗不整脈作用がある。
漢方では理気・止痛・健胃の効能があり、胃痛、腹部膨満、頭痛、ヒステリー、脚気などに用いる。一般には芳香性の健胃薬として用いられ、食欲不振や腹痛に単独で煎じて服用する。ストレスなどによる嘔吐や下痢、腹痛には香附子・麦芽などと配合する(大七香丸)。
また脚気などの浮腫に煎液で温湿布する治療法もある。現在でも感冒や頭痛、腹痛、動悸などに適応のある伝統薬の敬震丸にも牛黄・麝香などと配合されている。ただし近年では薬用より、おもに薫香料として用いられている。ちなみに和の甘松香と呼ばれているのは吉草根のことである。