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日曜日, 5月 31, 2015

水揚梅

○水揚梅

 日本の各地や中国に自生しているバラ科の多年草ダイコンソウ(Geum japonicum)の全草を用いる。下葉(根生薬)の形が大根の葉に似ているためダイコンソウという。中国で水揚梅という植物には、このほかアカネ科の植物Adina rubellaがあるが、形や効能は全く別である。

 ダイコンソウの成分にはフェノール配糖体のゲインや苦味質のゲウムビターなどが含まれるが、薬理作用は明らかでない。漢方では補気・活血・解毒の効能があり、眩暈やふらつき、四肢倦怠感、インポテンツ、腹痛、月経不順、腫れ物、打撲傷などに用いる。とくに老人の眩暈の治療薬として有名で、頭暈薬の別名がある。

 日本の民間では腎性浮腫や夜尿症、糖尿病などに用いる。また生の葉の汁や煎液を腫れ物や打撲傷に外用薬として用いる。ヨーロッパに分布するセイヨウダイコンソウ(G.urbanum)の根にもゲインが含まれ、西洋では胃腸薬や鎮痛薬として利用している。

水曜日, 5月 27, 2015

水蛭

○水蛭(すいてつ)

 日本、中国、朝鮮半島の池や沼に生息するヒルド科のチスイビル(Hirudo mipponia)をはじめ、ウマビル(Whitmania pigra)、チャイロビル(W.acranulata)などをそのまま乾燥したものを用いる。

 チスイビルは体長3~5cm、ウマビルは6~13cm、チャイロビルはウマビルよりもやや小さく、いずれも細長い扁平形で前後端に吸盤がある。一般に補足したあと石灰や酒に漬けて殺し、日干しあるいは炙って乾燥する。

 ヒルはヨーロッパでは古くから瀉血療法の道具として利用され、20世の初め頃までフランス、ドイツ、オランダ、イタリアなどで盛んに用いられていた。これは生きているヒルを皮膚に吸い付かせて患部の血液を吸収させる単純な方法であり、脳卒中や緑内障、肺結核などの治療に応用されていた。

 ヒルの唾液にはヒルジンといわれる抗凝固物質が含まれ、フィブリノーゲンに対するトロンビンの作用を阻止する。ただ乾燥体ではヒルジンは破壊されている。また水蛭にはヒスタミン様物質やヘパリンなども含まれる。

 漢方では活血化瘀・通経・消癥の効能があり、瘀血による月経障害、子宮筋腫、打撲傷などに用いる。蓄血証で下腹部が硬く膨張し、月経不順や神経症状の見られるときに大黄・虻虫などと配合する(抵当湯)。肝硬変や結核性腹膜炎、子宮筋腫などがあり、るい痩や食欲不振、皮膚の甲錯などのみられるときに大黄・虻虫・シャ虫などと配合する(大黄シャ虫丸)。

火曜日, 5月 26, 2015

水仙根

○水仙根(すいせんこん)

 地中海沿岸に分布し、ギリシャ、中国を経て、日本に渡来したヒガンバナ科の多年草スイセン(Narcissus tazetta)の鱗茎を用いる。また花は水仙花という。ニホンズイセンはフサザキスイセンの変種といわれ、現在では伊豆や淡路島、越前海岸などの海岸部に大群落をなして野生化している。

 根はヒガンバナ(石蒜)と同様に有毒であるリコリンやプソイドリコリンなどのアルカロイドを含み、誤って食べると嘔吐や腹痛をおこし、ひどければ痙攣や昏睡に陥り、死に至る。催吐薬として用いたこともあるが、内服しないほうがよい。

 薬用には生の鱗茎を金属以外のおろし器ですりおろし、その汁を腫れ物や筋肉痛に外用する。とくに乳腺炎の腫れ物に効果がある。水仙花には芳香性の精油としてオイゲノール、リナロールなどが含まれ、活血薬として生理痛や月経不順に用いる。

月曜日, 5月 25, 2015

水菖蒲

○水菖蒲(すいしょうぶ)

 日本をはじめ中国、東アジア、インドに分布し、池や沼などの水辺や水中に自生するサトイモ科の多年草ショウブ(Acorus calamus)の根茎を用いる。日本では菖蒲根という。

 同じサトイモ科でよく似た植物にセキショウがあり、生薬名を石菖蒲というが、中国で菖蒲といえばセキショウのことである。ショウブには芳香があり、古くから魔除けや邪気払いなどに利用され、端午の節句に葉を菖蒲湯とする風習がある。

 精油成分にはアサロンやオイゲノールなどが含まれ、鎮痛、鎮静、珍痙、健胃、去痰作用などが認められている。漢方では芳香開竅薬のひとつで開竅・去痰・化湿・解毒の効能があり、高熱時の意識障害や湿疹、癲癇あるいは健忘症や精神病などに用いられるほか、腹痛や下痢、関節痛、打撲傷、腫れ物、気管支炎にも用いる。

 煎じた液や粉末にして服用するほか、腫れ物に煎液を塗布したり、歯痛にも粉末をすりこんだりする。日本の民間療法でも胃炎、発熱、ひきつけ、創傷、リウマチなどの治療に根を煎じたものややろしたものが利用されている。また打ち身には根をおろして患部にすり込む。

 しかし煎剤の服用でしばしば悪心や嘔吐を催すため、最近はあまり用いられていない。この服作用は新しいほど起こりやすいので、1年以上たったものや、粉末を用いるほうがよい。ヨーロッパではショウブの根茎はカラムスと呼ばれ、食欲不振や消化不良の治療に、北米では呼吸器症状の治療に用いられている。またアロマオイルではスイートフラッグ(sweetflag)とも呼ばれている。

日曜日, 5月 24, 2015

水銀

○水銀(すいぎん)

 常温で液体金属の水銀(Hg)を用いる。おもに天然の赤い辰砂鉱(HgS)を煉製するが、一部は天然水銀からとるものもある。古くから知られた金属のひとつであり、汞とは水銀のことを表す。水銀化合物の朱砂、霊砂、軽粉なども漢方では薬用にする。

 水銀には消毒、利尿、瀉下の作用があり、塩化第二水銀の昇汞は殺菌消毒薬として、有機水銀のマーキュロクロム(赤チン)は傷の消毒薬として知られている。かつて甘汞(塩化第一水銀)は緩下、利尿薬として、水銀注射は駆梅剤として、水銀軟膏は梅毒、毛虱、の塗布駆虫剤として、そのほか農薬としても使われていた。しかし、水銀の毒性により、今日ではほとんど姿を消している。

 一般に無機水銀はわずかして腸管から吸収されないが、有機水銀はほとんど吸収される。無機水銀を摂取すると腹痛や下痢、嘔吐、疲労感、腎障害などの急性中毒や水銀蒸気による気管支炎、肺炎などが現れる。また慢性の水銀中毒では口内炎、貧血や白血球減少、肝障害、腎障害、消化不良、さらには知覚喪失、精神異常などの神経症状を生じる。有機水銀中毒として水俣病がよく知られている。

 かつて中国の神仙家は朱色の辰砂から白く輝く水銀に、さらに白色の塩化水銀や黒色の酸化水銀に変化することに象徴的な意味を起き、不老不死の薬を求める錬丹術にしばしば水銀を用いた。このため錬丹術の流行した唐代には皇帝6人が丹を飲んで死んだといわれている。

 近年、内服薬に水銀を用いることはないが、かつて脚気衝心や脳卒中で危篤の時には黒錫と配合した黒錫丹や養生丹が用いられたり、浮腫や梅毒に水銀を配合したものを薫じて鼻から入れる方法もあった。また油脂とよく混ざるので外用薬として用いられ、疥癬や真菌症など皮膚疾患の治療に応用され、とくに梅毒による悪瘡にしばしば用いられた(神水膏)。

土曜日, 5月 23, 2015

水牛角

○水牛角(すいぎゅうかく)

 中国南部、東南アジアなどで飼育されているウシ科のスイギュウ(Bubalus bubalis)の角を用いる。黒褐色の湾曲した中空の角で、基部は方形~三角形になっている。

 成分は犀角とほぼ同じであり、水牛角にも強心作用、血液凝固時間短縮作用、鎮静作用などがある。漢方では清熱涼血・解毒の効能があり、発熱時の頭痛、意識障害、熱性痙攣、出血症状、紫斑などに用いる。サイの捕獲がワシントン条約により禁止されているため、犀角の代用として使用されることが多い。

水曜日, 5月 20, 2015

蕤核

○蕤核(ずいかく)

 中国の内モンゴル自治区、山西・甘粛・河南省などに分布するバラ科の落葉低木、プリンセピア・ウニフローラ(Prinsepia uniflora)の成熟した果実の種子(核果)を用いる。

 7~8月頃に直径1~1.5cmくらいの球形の果実がなり、黒く熟す。熟した果実を摘みとり、果肉を除いて核果を取り出して乾燥する。使用するときには割って内果皮を除いて心臓形の種仁を用いる。

 種仁は脂肪油を多く含む。漢方では明目の効能があり、目の炎症や鼻血、不眠に用いる。眼病の要薬といわれ、結膜炎などで目が赤く腫れたり、涙や眼脂の出るときに用いる。内服にも用いるが、おもに点眼薬として外用する。外用には油分を除いて練って膏として点眼薬にしたり、煎液を眼洗浄に用いる。

火曜日, 5月 19, 2015

○酢(す)

 米、麦、高梁などの穀物や酒などを醸造して得られる酢酸を含む酸性の液体、酢のことである。醸造酢の作り方は、穀物などのデンプンや糖分原料を糖化し、アルコール発酵させた後、酢酸菌によって酢酸発酵させて作るものである。

 酢は酸拝した酒が起源と考えられ、かつて中国では苦酒と呼ばれ、日本でも「からさけ」といわれていた。紀元前5000年頃にバビロニアで樹液や果汁から酒やビネガーをつくったという記載があり、中国では周の時代に酢を司る役人がいたということが周札に書かれている。

 日本には応神天皇の時代、約5世紀のころには中国から酢の製法が伝えられていたといわれてる。米酢などの成分として酢酸(3~5%)、フマル酸、蟻酸、乳酸、コハク酸、クエン酸などの有機酸のほか、グリシン、アラニン、バリン、ロイシンなどのアミノ酸、糖類などを含み、複雑な酸味や香気がある。酢はその酸によって細菌類のタンパク質を変成させる性質があるため、殺菌作用や防腐作用があり、酢洗い、酢漬け、酢じめなどの料理方法に応用されたり、夏の食品保存にも利用される。

 また酸味はストレスを和らげ、酸味の刺激により、胃液の分泌を高め、食欲を増進させる。胃酸分泌の低下しているときには、胃酸の代わりにペプシンなどの消化酵素を活性化させ、タンパク質の消化を促進すると同時に、食物中の雑菌を殺す。

 酸味の感じ方は感情の変化を受けやすく、ストレスや情緒不安定の時には酸味の感覚が鈍るといわれる。また妊娠している人も酸味に対する味覚が鈍るため、酸味の強いものを好むようになる。またーー高血圧ーや動脈硬化の予防、水虫などの白癬菌に対する治療効果なども知られている。

 漢方では肝胃に入り、活血・止血・解毒の効能があり、産後のめまい、黄疸、盗汗、鼻血や吐下血、腫れ物などに用いる。咽に炎症があり、声が出にくいときには半夏と醋を卵殻の中に入れて沸騰させたものを冷やして服用する(半夏苦酒湯)。また金匱要略の中に黄汗の治療に黄耆・芍薬・桂枝を苦酒と水を混和した液で煎じる方法がある(黄耆芍薬桂枝苦酒湯)。腫れ物には大黄の粉末を酢で調えて塗布する。ちなみに薬用には古いほどよいといわれている。

 近年、鹿児島県のー福山町ーなどで伝統的に作られてきた黒酢が注目されている。ーー黒酢ーは玄米を原料として陶製の壺(アマン壺)の中で1年以上にわたって糖化・発酵させて熟成したもので、一般の米酢に比較するとアミノ酸の含有量が著しく多いという特徴がある。また、中国の鎮江でもち米を長期に熟成させて作られる香酢(香醋)。沖縄県で泡盛の製造過程でできるもろみを原料にしたもろみ酢なども健康食品として登場している。