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水曜日, 9月 03, 2014

白薇

○白薇(びゃくび)

 日本の全土、中国、朝鮮半島などに自生するガガイモ科の多年草フナバラソウ(Cynachum atratum)の根を用いる。そのほか中国東北部に自生する蔓生白薇(C.versicolor)の根も用いる。

 フナバラソウは黒紫色の花が咲き、裂けた果実の形が舟に似ていることから船腹草の名がある。茎を切ると白い乳汁が出る。蔓生白薇の花は最初黄緑色だが次第に黒紫色に変化する。白薇の名は根が微細で白いことに由来するといわれ、古来より同じガガイモ科の白前と混合されることがしばしばあった。

 根にはキナンコールや強心配糖体、精油が含まれている。漢方では清虚熱け除煩・利尿の効能があり、結核や術後などの発熱、煩躁、膀胱炎などに用いる。発熱では実熱にも虚熱にも用いられ、とくに産後の発熱によく用いられる。

 陰虚体質の感冒症状には玉竹・豆豉などと配合する(加減葳蕤湯)。産後や授乳期の発熱で、煩熱や嘔気があり、薬を受け付けないときに竹皮・石膏などと配合する(竹皮大丸)産後の衰弱によりふらつきや卒倒、発熱、発汗などのみられるときには当帰・人参・甘草などと配合する(白薇湯)。出産前後の尿失禁や排尿障害に白薇と白芍を粉末にしたものを酒で服用する。

金曜日, 8月 29, 2014

白檀

○白檀(びゃくだん)

 インドネシアやマレー半島を原産とするビャクダン科の常緑小高木ビャクダン(Santalum album)の心材を用いる。中国では一般に白檀香という。ビャクダンは半寄生植物で幼樹は他の植物の根に寄生するが、葉には葉緑素をもち、生長すると10mぐらいの樹木となる。白檀には独特の香りがあり、燃やすとさらに濃厚になる。「栴檀は双葉より香し」の栴檀とは白檀のことである。

 古くから香料としてインドで栽培され、仏教やヒンズー教とともに世界各地に広がり、中国語の栴檀という名はサンスクリット語のチャンダナに由来する。白檀の心材は赤くて芳香があるが、辺材は白色で香りが少ない。このため線香などの香料や薬用には心材を用いる。材は硬く、緻密であるため、小細工物や仏像、美術品、数珠などに利用される。

 心材には精油が2~6%含まれ、、主成分はα・βサンタロールである。漢方では理気・止め痛の効能があり、胸が苦しい、胃が痞える、食欲がない、冷えて胸や原が痛むときに用いる。心材を蒸留して抽出したビャクダン油(サンダルウッド)は、アロマテラピーのエッセンシャルオイルとして、ストレスを緩和させる効果、抗炎症、殺菌・消毒作用、肌を柔らかくする効果などがあり、咽頭の炎症や尿路感染症、ニキビ・吹き出物に効果があるとされている。

 そのほか、石鹸や化粧品の賦香料として利用されている。現在、インドでは白檀は国家管理とされ、インドネシアでは輸出禁止、伐採禁止などの規制が行われている。

水曜日, 8月 27, 2014

白前

○白前(びゃくぜん)

 中国南部に分布するガガイモ科の植物、柳葉白前(Cynachum stauntonii)や花葉白前(C.glaucescens)の根と根茎を用いる。古くから同じガガイモ科のふらフナバラソウ(C.atratum)の根と混合されることも多かった。

 成分にサポニンが含まれるといわれるが、詳細は不明である。漢方では降気・止咳・去痰の効能があり、「肺家の要薬」ともいわれる。とくに降気効果に特徴があり、気が下りると痰が消え、咳が止まると説明されている。

 前胡と同様の効能があり、両者を併せて「二前」とも称されるが、前胡は風熱表証の咳嗽に、白前は寒熱に拘らず痰が多く、喘鳴や呼吸困難のみられるときに適している。たとえば気管支炎などの咳嗽には桔梗・紫苑などと配合する(止嗽散)。

月曜日, 8月 25, 2014

白豆蔲

○白豆蔲(びゃくずく)

 インド南西部を原産とする熱帯地方で栽培されているショウガ科の多年草カルダモン(Amommum cardamomum)の果実を用いる。カルダモンの薬材にはいくつかの種類があり、その基原についてもいくつかの説がある。

 一般に市場で白豆蔲と呼ばれているものは、直径1.5cmくらいの円球形のもので、円形カルダモンとも呼ばれている。そのほかインド東部、東南アジア、中国で栽培されているAmommum類の果実も白豆蔲の名で用いられている。一方、直径0.5~1cm、長さ1~2cmの長卵型をしたカルダモンは小豆蔲とも呼ばれ、ショウガ科のElettaria cardamomumを基原としている。これも市場では白豆蔲として流通している。

 カルダモンは古来インドで薬用とされていたものが、香辛料としてヨーロッパに伝えられ、アラブでは古くから最もポピュラーなスパイスとして知られている。香辛料のカルダモンとしては小豆蔲の方が利用され、カレー粉やウスターソース、肉製品に用いられる。またカルダモンの香りは、コーヒーにもあい、カルダモンコーヒー、デミタスコーヒーなどに利用されている。

 市場では香気を保つために果皮をつけたままで扱われているが、用いるときには果皮を取り去る。また果皮は白豆蔲殻として用いる。種子には樟脳に似た芳香があり、味は辛くややほろ苦い。インドでは食後に口中を爽やかにするために種子を噛むことがある。

 白豆蔲にはボルネオール、カンファー、シネオール、リモネン、小豆蔲にはシネオール、テルピニルアセテート、テルピネオールなどの精油成分が含まれている。これらの精油には芳香性の健胃作用がある。

 漢方では芳香化湿・健胃・理気の効能があり、消化不良や食欲不振、悪心などに用いる。消化不良や腹満感には蒼朮、縮砂、陳皮などと配合する(香砂養胃湯)。インドやサウジアラビアなどでは媚薬としても知られている。

火曜日, 8月 19, 2014

白朮

○白朮(びゃくじゅつ)

 日本の本州、四国、九州、朝鮮半島、中国の東北部に分布しているキク科の多年草オケラ(Atractylodes japonica)の根茎を用いる。中国ではオオバナオケラ(A.macrocephala)の根茎を白朮として用いている。このため日本産のオケラの根茎を和白朮といい、中国産は唐白朮という。

 中国ではオケラ(A.japonica)は関蒼朮と呼ばれ、蒼朮のひとつとして扱われている。かつて日本では国産で自給できていたが、現在では韓国や朝鮮から和白朮が輸入されている。中国から唐白朮も輸入されてるいるが、日本薬局方の精油含量の規格に適合するものが少ない。

 中国産の白朮の中では浙江省の於潜に産する白朮の品質が最良とされ、とくに於朮と称されている。日本漢方では、白朮と蒼朮をあまり区別せずに用いていたが、現在では日本薬局方ではアトラクチロンを主成分としてアトラクチロジンを含まないものを白朮、アトラクチロジンを多く含んでアトラクチロンを余り含まないものを蒼朮として区別している。

 白朮にはアトラクチロン、アトラクチレノリッドⅠ、Ⅱ、Ⅲなどが含まれ、アトラクチロンは嗅覚を刺激して胃液の分泌を促進する。そのほか利尿・血糖降下・抗潰瘍・抗炎症作用などが認められている。漢方では補脾・益気・燥湿・利水の効能があり、胃腸薬や滋養薬の多くに配合されているほか、浮腫や関節痛、下痢などにも用いられる。

火曜日, 8月 12, 2014

白芍

○白芍(びゃくしゃく)

 中国北部原産のボタン科の多年草シャクヤク(Paeonia lactiflora)の根の外皮を除いたものを白芍といい、外皮をつけたままのものを赤芍という。日本漢方では赤芍を用いないため、芍薬といえばこの白芍のことをいう。

 白芍はおもに4年以上栽培したものを用い、洗浄した後にあら皮を削り取り、そのまま乾燥したものを生干芍薬という。そのままではなく沸騰した湯の中で少し煮てから柔らかくした後、日干し乾燥したものを真芍という。一般に日本では生干芍薬が「芍薬」として、中国では真尺が「白芍」として流通している。中国では安徽・四川・浙江省が白芍の品質が最もよいといわれる。シャクヤクは日本でも長野・奈良県、北海道などで栽培されている。

 成分にはモノテルペン配糖体のペオニフロリン、ペオノールなどが含まれ、ペオニフロリンには鎮痛、鎮痙、抗炎症、抗潰瘍、血管拡張、平滑筋弛緩などのさまざまな作用が認められている。漢方では補血・止痛の効能があり、血虚の治療や腹痛、筋肉痛などの治療に用いる。とくにストレス(肝気欝結)のために生じた腹痛に効果があり、これを柔肝止痛、あるいは柔肝緩急という。

 また斂陰作用といって発汗しすぎるのを抑制する作用もある。たとえば桂枝湯では桂枝の発汗作用を抑え、風邪の症状があってもすでに自汗のみられるときに適している。盗汗には牡蠣・五味子などと配合する。

月曜日, 8月 11, 2014

白芷

○白芷(びゃくし)

 本州の近畿・中国地方、九州、朝鮮半島、中国東北部などに分布するセリ科の多年草ヨロイグサ(Angelica dafurica)などの根を用いる。中国東北部ではこのヨロイグサの根を独活として用いるところもある。

 中国ではヨロイグサとは別に杭白芷(A.formosana)の根もよく用いられ、四川・山東省では川白芷、浙江・江蘇省では杭白芷の名で流通している。かつて日本産を和白芷、中国産を唐白芷として区別していたが、今日、日本での生産はほとんどない。薬用には地上部が黄変して枯れかけたときに根を掘り出すが、ヨロイグサの根には特異な臭いがある。

 根にはフロクマリン誘導体のビャクアンゲリシン、ビャクアンゲリコールなどが含まれる。フロクマリン誘導体はセリ科の類縁植物に多く含まれ、羌活や独活にも含まれている。一般にフロクマリン類は魚毒であるが、高等動物に対しては血管拡張や鎮痙しか認められない。ただし中枢神経を興奮させるアンゲリコトキシンも含まれており、華岡青洲が用いた全身麻酔薬の通仙散にも配合されている。

 漢方では解表・止痛・止帯・排膿などの効能があり、頭痛、歯痛、前額部痛、鼻炎、腹痛、下痢、帯下、湿疹、腫れ物などに用いる。とくに頭痛のときの代表的な生薬で、「太陽には羌活、陽明には白芷、小陽には柴胡、太陰には蒼朮、厥陰には呉茱萸、少陰には細辛」といわれている。また白芷の気は芳香で「丸竅(耳目などの穴)を通じる」といわれている。

木曜日, 8月 07, 2014

百合

○百合(びゃくごう)

 日本の各地や朝鮮半島、中国などに分布するユリ科の種々の植物の鱗茎を用いる。日本ではヤマユリ(Lilium auratum)やオニユリ(L.lancifolium)、ササユリ(L.japonicum)の鱗茎、中国では百合(L.brownii)、細葉百合(L.pumilum)、テッポウユリ(L.longiflorum)などの鱗茎が用いられる。苦味の少ないオニユリ、ヤマユリなどの鱗茎は「ゆりね」として食用にもされる。

 鱗茎の成分としてデンプンや脂肪、タンパク質のほか、アルカロイドが少量含まれていることしかわかっていない。漢方では潤肺・止咳・安神の効能があり、乾燥性の咳嗽や熱病後の虚煩に用いる。

 肺結核などで微熱が続き、乾燥性の咳嗽が長引いたり、喀血のみられるときには生地黄・熟地黄・麦門冬などと配合する(百合固金湯)。咳や喘息が続き、咽が乾いて声が出ず、痰に血が混じるときには款冬花と配合する(百花膏)。慢性的な咽頭の炎症で鼻汁や鼻づまりなど、鼻炎症状のみられるときには辛夷・山梔子などと配合する(辛夷清肺湯)。

 熱病が回復した後も微熱が続き、動悸や煩躁感、不眠、多夢、精神不安のみられるときには知母・地黄などと配合する(百合知母湯)。大病後のこのような状態を金匱要略の中では「百合病」と呼んでいる。

 ヨーロッパではユリの根を古くから婦人病に用いており、食べるとお産が軽くなるといわれている。また日本の民間ではユリの花粉をゴマ油で練ったものを切り傷やあかぎれの外用薬にしている。

火曜日, 8月 05, 2014

白芨

○白芨(びゃくきゅう)

 関東以西の西日本、朝鮮、中国、台湾などに分布するラン科の多年草シラン(Bletilla striata)の球形を用いる。日本には奈良時代に渡来したとされる。

 紫蘭の名のとおり紅紫色の花が咲き、観賞にも栽培されているが、白い花のシロバナシランというのもある。花は蘭茶として飲まれることもある。地下にはカタツムリのような偏圧球形の数個連なっている。この球形を蒸したり、湯通しした後で乾燥する。

 成分には多糖類で粘液質のブレティラグルコマンナンやデンプンが含まれ、止血、抗潰瘍、抗菌作用などが報告されている。この粘液は陶磁器の絵つけや七宝などの工業用の糊としても用いられている。

 白芨は収斂止血の要薬とされ、古くから肺癆などで喀血するときに用いられている。最近の中国では肺結核や硅肺の治癒を促進する補肺作用もあると考えられている。肺結核や気管支拡張症などには白芨を粉末にして単独で用いることが多い。煎じると効力が落ちるという説もある。

 肺結核には枇杷葉・節藕・阿膠などと配合する(白芨枇杷丸)。胃潰瘍の出血には烏賊骨と配合する(烏白散)。また腫れ物や外傷には粉末を単独、あるいは石膏などと併せて外用する。裂肛や皮膚皸裂には粉末を胡麻油などと混ぜて用いる。

月曜日, 8月 04, 2014

白花蛇舌草

○白花蛇舌草(びゃくかじゃぜっそう)

 本州から沖縄県、朝鮮半島、中国、熱帯アジアに分布するアカネ科の一年草フタバムグラ(Oldenlandia diffusa)の全草を用いる。田畑に生える雑草で、二枚の葉が対になっているためフタバムグラの名がある。中国の広東省などで研究されている薬草で、マレーシアの民間療法に影響されたものである。

 成分にはヘントリアコンタン、ウルソール酸、オレアノール酸、クマリンなどが含まれ、抗菌・消炎作用がみられる。漢方では清熱解毒・通淋の効能があり、肝炎、扁桃炎、肺炎、虫垂炎、急性腎炎、膀胱炎、毒蛇の咬傷などに用いる。

 民間療法では生で用いることも多い。最近では細胞性免疫を強化し、癌の進展を抑える抗腫瘍作用が注目され、とくに胃癌や大腸癌、肝癌などへの効果が研究されている。一般に半枝蓮と併用されることも多いが、単独の注射液や複合内服液(天心液)も製品化されている。

木曜日, 7月 31, 2014

白芥子

○白芥子(びゃくがいし)

 中央アジア原産とされ、ヨーロッパや中国で栽培されているアブラナ科の一年草~越年草、シロガラシ(Brassica alba)の種子を用いる。種子の色が淡黄白色のため白芥子というが、単に芥子といえばカラシナ(B.juncea)の種子のことをいう。

 香辛料としてシロガラシの種子は「洋がらし」すなわちマスタード、カラシナの種子は「和がらし」の原料に用いられる。一般に漢方では白芥子を用い、日本の民間療法では芥子が用いられる。

 白芥子の辛味成分はシナルビンであり、芥子の辛味成分はシニグリンである。シナルビンは共存する酵素のミロシンの作用により加水分解され、イソチアン酸パラヒドロオキシルベンジルを生じる。ただし揮発性がないため鼻に対する刺激はない。芥子と同じく皮膚刺激性があり、また抗菌作用もみられる。

 漢方では温裏・理気・去痰・止痛の効能があり、咳嗽、喀痰、嘔吐、腹痛、中風による言語障害や麻痺、脚気、歯痛、腫れ物などに用いる。白芥子は温化寒痰の常用薬で、痰の多いときに適している。

水曜日, 7月 30, 2014

蓖麻子

○蓖麻子(ひまし)

 北部アメリカを原産とするトウダイグサ科の木質の草本トウゴマ(Ricinus communis)の種子を用いる。ヒマやカラエとも呼ばれ、日本では冬に枯れるので一年草とされるが、熱帯では多年にわたり生長を続けて草丈が6mを越えることがある。

 種子の大きさは長さ15mm、直径8mmくらいの扁平楕円形で、種皮には光沢があり、暗褐色の斑紋が見られる。古代エジプトの最古の医学書にも薬物として収載されているもので、日本には中国から9世紀ころに渡来した。このため唐胡麻という名がある。種子を圧搾して得られる脂肪油をヒマシ油という。

 現在ではブラジルやインドなど世界各地で栽培され、その油は印刷用インクなどの工業用や化粧品原料などに利用されている。かつては航空エンジンの潤滑油としても利用されたことがある。

 種子には30~50%の脂肪油が含まれ、成分としてリシノール酸やステアリン酸などのグリセリドのほか、毒性タンパクのリシン、有毒アルカロイドのリシニンなどが含まれている。リシンやリシニンには催吐、降圧、呼吸中枢麻痺などの毒性があり、小児では5~6個、成人では20個より多く食べると死亡するといわれる。

 リシノール酸のグリセリドが腸管の中で分解されてリシノール酸ナトリウムを生じ、これが小腸粘膜を刺激して腸管の蠕動を亢進させる。それと同時に油やグリセリンの粘滑作用も加わり、2~4時間で排便がみられる。このため食中毒のとき、あるいは検査や手術の前処置として健やかな便の排出を目的として利用される。

 漢方ではあまり用いられず、民間療法では生のまま削ったり、炒ったものを瀉下剤として単独で服用する。しかし、一般にはおもに殻を除いて泥状につぶしたものを外用薬として用いる。たとえば腫れ物の初期や火傷、犬の噛傷の患部に塗布する。

 また独特の治療法として顔面神経麻痺には患部および手掌、子宮下垂や脱肛には百会、難産の時には湧泉といった経穴に塗布する方法がある。

火曜日, 7月 29, 2014

蓽茇

○蓽茇(ひはつ)

 東南アジアに分布するコショウ科のつる性常緑木本植物ヒハツ(piper longum)の未熟な果穂を用いる。ヒハツは長い房になったまま用いるのでナガコショウとも呼ばれている。

 現在、カレー粉などの香辛料として現地の人しか用いていないが、ギリシャ・ローマ時代にはコショウよりもナガコショウ(ヒハツ)のほうが一般的であった。実際、英語のpepperとヒハツは、サンスクリット語のPippeliに由来する。

 果穂にはアルカロイドのピペリン、チャビシン、ピペルロングミンなどが含まれ、抗菌作用や血管拡張作用が報告されている。漢方では散寒・止痛の効能があり、冷えによる嘔吐、腹痛、下痢に用いる。そのほか、頭痛や歯痛、鼻水や鼻づまりにも用いる。虫歯の歯痛には蓽茇と胡椒の粉を蝋で固めたものを穴に詰めるとか、片頭痛には蓽茇の粉末を温水で鼻に通すといった方法がある。

 近年、ヒハツが血流を促進し、新陳代謝を高め、体温を上昇させて、脂肪の燃焼を促進させることから、ダイエット素材として利用されている。ちなみに沖縄県(八重山列島)でピハーツ、フィファチ、沖縄コショウと呼ばれているのは、ヒハツモドキ(P.retrofractum)のことで、インドナガコショウに対して、ジャワナガコショウ(Java long pepper)という別名もある。

月曜日, 7月 28, 2014

蓽澄茄

○蓽澄茄(ひっちょうか)

 ジャワ原産で東南アジア、インドなどに分布するコショウ科のつる性常緑木本植物ヒッチョウカ(Piper cubeba)の果実を用いる。これをクベバ実ともいう。そのほか中国南部、台湾、インドネシアなどの東南アジアに分布するクスノキ科の落葉低木リツェアクベバ(Litsea cebeba)の果実を用いることもある。

 このリツェアクベバは、タイワンヤマクロモジ(別名リトセア:L.citrate)やアオモジ(L.citriodora)としばしば混同されている。いずれも果実からシトラールを含む精油が得られる。本来、ヒッチョウカの果実が中国に伝わり、中国に産するリツェアクベバの果実と色や形状、気味などが類似しているためヒッチョウカの代用にされたと考えられている。しかし、成分に関しては全く異なっている。

 ヒッチヨウカの果実には精油の成分としてサビネン、カレン、シネオールなどのほか、リグナンのクベビン、クベビノライドなどが含まれ、日本住血吸虫の早期治療やアメーバ赤痢に効果がある。かつてヨーロッパなどでは健胃・利尿作用があるとされ、専ら淋病の治療薬として用いられた。リツェアクベバの果実には精油成分としてシトラール、メチルヘプテノン、リモネンなどが含まれ、喘息およびアレルギー性ショックに対して効果がある。

 漢方では温裏・止痛・理気の効能があり、冷えによる嘔吐、吃逆、ゲップ、腹部膨満感、腹痛や小便不利に用いる。インドネシアでは下痢や感冒、喘息などに用いている。アロマセラピーでは、リツェアクベバの果実はメイチャン(May Chang)とも呼ばれ、エッセンシャルオイルとして知られている。

水曜日, 7月 23, 2014

砒石

○砒石(ひせき)

 ヒ素を含む生薬には雄黄、雌黄、砒石、砒霜、石譽などがある。砒素の「砒」とは天然に産する無水亜ヒ酸(三酸化ヒ素)の砒華鉱石、つまり砒石のことである。

 しかし、現在では硫化物の鶏冠石やヒ化鉱物の石譽(硫砒鉄鉱:FeAsS)などを加工したものが砒石として用いられている。また砒石を昇華させて精製したものは砒霜という。無水亜ヒ酸(As2O3)は単に亜ヒ酸とも呼ばれ、これは細胞を変成、壊死させる細胞毒で、内服すれば胃腸に出血性炎症を生じ、肝障害や腎障害、皮膚にヒ素疹などをひきおこす。

 致死量は約0.1gであり、急性中毒ではコレラ様の胃腸症状、筋肉痙攣をおこし、昏睡となり、死亡する。慢性中毒では食欲不振、皮膚の色素沈着や白斑、抹消神経障害や頭痛などがみられる。また発癌性物質として取り扱われている。

 かつてヒ素化合物のサルバルサンが水銀に代わる駆梅薬としてよく知られていた。ヒ素をごく微量だけ飲むと体力がつき、女性は肌が美しくなるという説もあり、アジア丸などが強壮薬として用いられたこともあった。

 漢方では性味は辛酸・熱・大毒で、去痰・抗瘧・殺虫・去腐の効能がある。おもに痔や瘰癧(頸部リンパ腺腫)、歯槽膿漏、皮膚潰瘍などの外用薬として利用された。内服ではごく微量を慢性気管支炎やマラリアに用いる。

金曜日, 7月 18, 2014

榧子

○榧子(ひし)

 中国の揚子江以南に分布する常緑高木シナガヤ(Torreya grandis)の種子を用いる。日本では同属植物のカヤ(T.nucifera)を榧と書いているが、本当の榧は日本には自生していない。ただし日本や韓国ではカヤの種子を榧子の代用にしていたこともある。

 カヤは東北地方から屋久島、済州島に分布し、その柾木材は碁盤、将棋盤の最高級品として知られる。カヤの実の油は食用や頭髪油、灯火油としてり利用されていた。シナガヤの種子は脂肪酸を多く含有し、パルミチン酸をはじめステアリン酸、リノール酸、オレイン酸などのグリセリド、ステロールが含まれる。抽出エキスにはの条虫の駆除作用が知られている。日本産のカヤの種子にはアルカロイドが含まれ、子宮収縮作用が報告されている。

 漢方では殺虫・潤肺の効能があり、穏やかではあるが広範囲の駆虫薬として用いる。鉤虫や蟯虫、条虫、フィラリアなどへの効果が報じられている。煎剤や丸剤としても用いるが、単独で炒ったものをよく噛んで食べる方法もある。日本ではカヤの実を炒って粉末にしたものを寄生虫や小児の夜尿症の治療に用いる。また民間では堕胎薬としても用いられた。

木曜日, 7月 17, 2014

萆薢

○萆薢(ひかい)

 日本の各地や中国大陸に分布するヤマノイモ科のつる性の多年草オニドコロ(Dioscorea tokoro)やタチドコロ(D.gracillima)などの根茎を用いる。そのほか中国では粉背署蕷、叉心署蕷、繊細署蕷などの根茎も用いている。

 オニドコロやタチドコロは日本各地の山野や道端に自生し、全体にヤマノイモに似ている。オニドコロはトコロとも呼ばれ、根は肥大せずに横走し、ヒゲ根が多く、長寿の象徴として正月の飾りに用いられることもある。また根には苦味はあるがデンプンを含み、飢饉のときの食用にもされた。ただし、そのまま食べると嘔吐や胃腸炎を起こすため、灰汁で煮て水に晒して調理することが必要である。

 根茎にはステロイドサポニンのジオスシン、ジオスコリン、グラシリン、ジオスコレアサポトキシンAなどが含まれる。この根を砕いて川に流し、魚をしびれさせて漁をする魚毒としても利用される。

 漢方では去風湿・利水の効能があり、リウマチなどによる関節痛や足腰の疼痛、排尿障害や混濁尿、湿疹などに用いる。古くから萆薢は「治湿に最も長じ、治風これに次ぎ、治寒はそれに次ぐ」といわれている。膀胱炎や淋疾、膣炎、前立腺炎には烏薬・益智仁などと配合する(萆薢分清飲)。湿疹や丹毒には黄柏・牡丹皮などと配合する(萆薢滲湿湯)。リウマチや神経痛には防風・牛漆などと配合する(萆薢酒)。

水曜日, 7月 16, 2014

繁縷

○繁縷(はんろう)

 世界各地に広く分布するナデシコ科の越年草コハコベ(Stellaria media)の全草を用いる。一般にコハコベとミドリハコベ(S.neglecta)を合わせてハコベと称し、いずれも薬用にできる。春の七草の一つで若い茎や葉は食用とされる。またヒヨコグサの別名もあって小鳥の餌としてもよく知られているが、英語ではChickweedと呼ばれている。

 成分は不詳であるが、青汁には葉緑素やカルシウム、酵素などが含まれる。日本の民間では動悸や息切れの妙薬として、また催乳薬、胃腸薬として用いられている。昭和初期には虫垂炎の妙薬として騒がれたこともある。中国でも民間薬として知られ、活血・催乳・解毒の効能があるとして、産後の腹痛や母乳不足、嘔吐や下痢、腸癰などに用いる。

 茎や葉をカラカラに干したものや炒ったものをすりつぶし、できた緑色の粉と塩を混ぜたものが「はこべ塩」である。今日でも歯茎の出血や歯槽膿漏の予防に用いられる。欧米でもハコベはパップ剤や軟膏として皮膚の化膿症や潰瘍の治療に利用されている。

火曜日, 7月 15, 2014

板藍根

○板藍根(ばんらんこん)

 アブラナ科に属するホソバタイセイ(Isatis tinctoria)やタイセイ(I.indigotica)、キツネノマゴ科のリュウキュウアイ(Storobilanthes flaccidifolius)の根茎および根を用いる。これらの葉や枝葉は大青葉、精製された藍色の色素は青黛として生薬に用いられる。ホソバタイセイはヨーロッパや南西アジアが、タイセイは中国が原産とされている。

 これらの植物はインジゴを含み、古くから世界各地で藍色の染料として用いられた。植物に含まれるインジカンは、発酵させることにより加水分解されてインドキシルとなり、さらに空気による酸化を受けインジゴとなる。薬理学的には抗菌作用、抗ウイルス作用が認められている。

 漢方では清熱涼血・解毒の効能があり、高熱や発疹、咽頭痛を伴うような感染性熱性疾患、脳炎、髄膜炎、丹毒、肺炎、耳下腺炎などに用いる。顔面の丹毒や腫れ物、中耳炎、耳下腺炎などで熱のみられるときには黄芩、黄連などと配合する(普済消毒飲)。

 近年、中国では日本脳炎、インフルエンザ、ウイルス性肝炎などに対する臨床研究が行われ、板藍根の注射液なども開発されている。また、中国では一般家庭でも板藍根うがい薬や風邪薬としてよく知られており、最近ではSARS(重症急性呼吸器症候群)にも有効だとしてブームとなった。

金曜日, 7月 11, 2014

斑蝥

○斑蝥(はんみょう)

 中国各地に分布するツチハンミヨウ科の昆虫、南方大斑蝥(Mylabris phalerata)やヨコジマハンミョウ(M.cihorii)の乾燥した全虫を用いる。

 南方大斑蝥は体長1.5~2cmくらいの細長い昆虫で、背には黄色と黒の縞模様があり、大豆やナスなどの葉や花を食べる害虫としても知られている。ヨコジマハンミョウの外形は南方大斑蝥とよく似ているが、体長は1~1.5cmくらいと小さい。日本でミチオシエともいわれるハンミョウ(ハンミョウ科)とは別の科の昆虫であり、ツチハンミョウ科のマメハンミョウ(Epicauta gorhami)に近い昆虫である。

 かつて日本ではミチオシエを和斑蝥と称し、斑蝥の代用として用いられたこともある。しかし和斑蝥には、斑蝥などツチハンミョウ科の昆虫に含まれているカンタリジンが含まれていない。カンタリジンはツチハンミョウ科の昆虫が外敵から身を守るために分泌する刺激性の物質で、皮膚に付着すると炎症を起こし、水疱ができる。

 カンタリジンの薬理作用として発疱作用や抗腫瘍作用が知られ、内服すると利尿作用があり、また尿道を刺激するため催淫剤としても用いられた。漢方では攻毒・逐瘀の効能があり、瘰癧(頸部リンパ腺腫)や狂犬病、堕胎などに用いた。

 近年、中国では外用薬としてリウマチや神経痛、顔面神経麻痺、脱毛症に、内服薬として肝臓癌の治療に試みられている。しかし、刺激発疱剤としては毒性が強すぎ、用いる機会も少ないため日本薬局方から削除された。なおツチハンミョウ科の昆虫生薬として芫青、葛上亭長(マメハンミョウ)、地胆(ヒメツチハンミョウ)などがある。

木曜日, 7月 10, 2014

半辺蓮

○半辺蓮(はんぺんれん)

 日本の各地、朝鮮半島、中国、東南アジアなどに分布するキキョウ科の多年草ミゾカクシ(Lobelia chinensis)の全草を用いる。中国では花が下方だけに広がるために半辺蓮と呼ばれ、日本では田んぼの畦道などで溝が隠れるほど繁殖するのでミゾカクシ、あるいはアゼムシロと呼ばれている。

 日本にも普通に分布するが、一般にミゾカクシ属は有毒植物として知られ、薬用としてはほとんど利用されていなかった。中国で住血吸虫病による肝硬変の腹水に有効であることが報告されて以来、非常に注目されている。

 成分にはアルカロイドのロベリン、ロベラニン、ロベラニジンなどが含まれ、利尿作用や呼吸興奮作用、循環系に対する作用を有する。漢方では利水・消腫・解毒の効能があり、下痢や浮腫、腹水、皮膚化膿症、毒蛇咬傷などに用いる。とくに住血吸虫による腹水と毒蛇咬傷の治療は有名である。

 毒蛇に咬まれた時には生汁あるいは煎液を内服すると同時に生汁を患部に貼付する。同属の薬用植物としては北米に分布するロベリア草(L.inflata)がある。

水曜日, 7月 09, 2014

反鼻

○反鼻(はんび)

 クサリヘビ科マムシ属のマムシ(Agkistrodon halys)の内臓を除去した全体を用いる。マムシは体長50cm前後で、全体は褐色で黒褐色の円形の斑紋が少しずれて並び、頭は小さく三角形である。日本全土に生息する唯一の毒蛇で、水辺に近い草むらに生息し、夜行性でネズミやカエルなどを捕食する。卵を体内で孵化する卵胎生である。

 中国、韓国にも分布しているが、反鼻と称されるものの中にはハブ、アオハブ、ヒメハブなども含まれている。日本では滋賀県や九州南部が産地として有名であるが、現在ではほとんどが韓国産のマムシである。

 薬材ではマムシを皮を剥いで棒状にしたものを反鼻あるいは五八霜といい、皮付きのまま蒸して円盤状にしたものをマムシの蒸し焼きと呼んでいる。五八霜の名は、五十八本で1斤(600g)になることに由来する。マムシの蛇毒は血液毒成分と神経毒成分が含まれ、血液循環障害や出血、壊死、浮腫などが出現する。

 漢方では性味は甘温、有毒で、解毒・攻毒・強壮の効能があり、ハンセン病や腫れ物、皮膚のしびれ、腹痛、痔疾などに用いる。健忘症やうつ病などによる放心状態には茯苓・香附子などと配合する(反鼻交感丹)。夜尿症には丁子と配合する(香竜散)。

 日本では古くからマムシの黒焼きも有名で、おもに伯州散などの解毒剤に配合されて用いられている。マムシは明治以後には滋養強壮剤として用いられることが多く、今日でも栄養剤やドリンク剤などにハンビチンキの名前で配合されている。また民間療法ではマムシの生き血や生胆、生きたまま漬けたマムシ酒などが疲労回復や冷え性などの治療に用いられている。

月曜日, 7月 07, 2014

胖大海

胖大海(はんたいかい)

 インドから東南アジアにかけての熱帯に分布するアオギリ科の落葉高木ハンタイカイ(Sterculia scaphigera)の種子を用いる。ベトナム、タイ、インドネシア、マレーシアなどで産するが、ベトナム産の品質が最もよいとされている。

 乾燥した種子は長さ2~3cm、直径1~1.5cmの楕円形で表面には細かい不規則なしわがある。水に浸けると大きく膨らんで海綿状となるので胖大海の名がある。このような種子として同属植物のハクジュ(S.lychnophora)の種子は莫大海と呼ばれ、水に入れると寒天質のゼリーをつくるため、中国では薬膳料理などに利用され、日本でも刺身のつまとして利用されている。

 種子の外層には多量の粘液質のバッソリン、果皮にはガラクトース、アラビノース、ペントースなどの糖類が含まれる。食べると腸の内容物を増大させるので緩下作用があり、また降圧、利尿、鎮痛作用などが知られている。漢方では利咽・潤肺・通便の効能があり、扁桃炎などによる咽の痛みや嗄声、乾燥性の咳嗽、歯痛、便秘などに用いる。煎じるほか、お茶に浸して服用する。インドネシアでは喘息の治療に利用している。

木曜日, 7月 03, 2014

蕃石榴

○蕃石榴(ばんせきりゅう)

 熱帯アメリカ原産で、熱帯および亜熱帯の世界各地で栽培されているフトモモ科の常緑小高木バンジロウ(Psidium guajava)の果実や葉を用いる。生薬では未成熟の果実を番石榴乾といい、葉を番石榴葉という。

 バンジロウは紀元前から古代いんかインカ族によって栽培されていたといわれ、16世紀にスペイン人によってフィリピンに伝えられた。17世紀ごろには台湾や沖縄県にも伝えられ、現在、琉球諸島で野生化している。果実がザクロに似ていることから中国では番石榴といい、その漢字を日本でバンザクロ、バンジロウと呼んでいる。

 日本では、グァバとしても知られているが、グァバとはスペイン語の果実という意味に由来する。また、学名をシジュウム・グァバというが、近年、南米産の葉をシジュウムとも呼んでいる。グァバの果実はビタミンに富み、そのまま食用にしたり、ジュースやジャムに利用される。台湾では葉をパーラ茶と呼んで飲用する習慣がある。

 果実にはビタミンC、カロテン、シトステロール、ケルセチンなどが含まれ、葉には多量のタンニンなどのポリフェノール(グァバ葉ポリフェノール)が含まれている。中国やインド、東南アジアでは果実や葉を収斂性の止瀉薬として下痢に用いている。台湾では古くから糖尿病の治療や肥満防止の効果が知られている。

 グァバはポリフェノールにはαアミラーゼ、αグルコシダーゼなどの糖質分解酵素の働きを阻害し、糖分の吸収を抑制して、血糖上昇を抑える効果が確かめられており、血糖が高い人のための特定保健用食品の機能性成分として認められている(蕃爽麗茶)。また、グァバの一種と考えられているシジュウムの葉には、ヒスタミンやロイコトリエンの遊離抑制効果が報告されており、花粉症やアトピーなどのアレルギー症状に効果があるといわれている。

水曜日, 7月 02, 2014

半枝蓮

○半枝蓮(はんしれん)

 中国の各地、台湾などに分布し、湿地に生えるシソ科の植物スクテラリア・バルバータ(Scutellaria barbata)の全草を用いる。コガネバナ(生薬名:黄芩)やタツナミソウと近縁植物である。中国の江蘇省地域の民間薬で、古い本草書には収載されていない。

 成分にはアルカロイド、フラボノイド配糖体などが含まれるが、詳細は明らかではない。水製エキスにて白血病細胞に対する軽度の抑制作用が認められている。民間薬として止血・止痛・清熱・解毒の効能があり、外傷や鼻血、吐血、下血、肝炎、咽頭腫痛、皮膚化膿症、肺化膿症などに用いる。

 乾燥したものを煎じて用いたり、新鮮な絞った汁を服用する。また皮膚病や打撲傷、毒蛇咬傷などに新鮮な汁を外用する。近年、中国で白花蛇舌草と併用し、胃癌、大腸癌、肝癌などの消化器系癌や肺癌、子宮癌、乳癌に対してある程度の効果があることが報じられている。

金曜日, 6月 27, 2014

半夏

○半夏(はんげ)

 日本各地、朝鮮半島、中国などに分布するサトイモ科の多年草カラスビャクシ(Pinellia ternata)の球茎を用いる。半夏の名は夏の半ばに花が咲く(そのころに採取する)ことに由来し、カラスビャクシの名は仏炎の形をビャクシに例えたものである。農家の主婦の小遣い稼ぎになることからヘソクリという俗名もある。もっとも塊茎から葉柄をとった中央の窪みがヘソのようであるという説もある。

 採取した球茎を水洗いしてから塩水に入れ、上皮を除去した後、塩抜きして乾燥する。生で用いると弱い毒性や刺激性があるため、中国では一般に修治した製半夏を用いる。通常、10日間ほど冷水に浸し、その後、明礬で煮て処理したものを清半夏、明礬や甘草、石灰で処理したものを法半夏、明礬と生姜で煮て処理したものを姜半夏という。生の半夏を用いるときには生姜と配合して煎じる。

 半夏を口に含むとえぐみが強く、チクチクと口腔粘膜を刺激するが、これはシュウ酸カルシウムの針晶あるいはジグリコシリックベンズアルデヒドが原因ではないかといわれている。

 半夏の成分にはホモゲンチジン酸、ジヒドロキシベンズアルデヒド、エフェドリン、コリンなどが含まれ、鎮吐、鎮咳、唾液分泌亢進、腸管内輸送促進などの薬理作用が報告されている。漢方では理気・止嘔・去痰の効能があり、悪心、嘔吐、消化不良、咳嗽、喀痰、不眠などに用いる。

 半夏の性質は温で燥湿の作用もあるため胃内停水などの痰飲や嘔吐の常用薬である。なお半夏の毒性による口腔内のしびれ感や灼熱感、嗄声などには生姜を用いるとよい。

木曜日, 6月 26, 2014

蕃杏

○蕃杏(ばんきょう)

 日本の海岸をはじめ、太平洋沿岸の各地の砂地に分布するツルナ科の多年草ツルナ(Tetragonia tetragonoides)の全草を用いる。ツルナの果実は海流に乗って分散するため、東南アジアやオーストラリア、南米などにも広く分布している。

 茎や葉は肉質であり、新芽や葉はホウレンソウのように食用にでき、英語ではニュージーランドスピナッチともいう。日本にもツルナ(蔓菜)はハマナ(浜菜)、ハマヂシャ(浜千舎)などと呼ばれて食用にされることもあるが、アクが強くてざらつく感じが残るためあまり利用されない。

 成分には鉄やカルシウム、ビタミンA・Bなどのほか、酵母菌属に対して抗菌作用のあるテトラゴニンなどが含まれている。一般に「浜ぢしゃ」の名で日本の民間薬として知られ、胃炎などの胃の痛みに効果がある。昭和10年代の初期に胃癌や食道癌に効果があるとしてブームになったが、とくに根拠はなさそうである。

火曜日, 6月 24, 2014

馬蘭子

○馬蘭子(ばりんし)

 中国の北部から東北部、朝鮮半島に分布するアヤメ科の多年草ネジアヤメ(Iris pallasii)の種子を用いる。神農本草経には蠡実、名医別録には茘実とある。根は馬蘭根、花は馬蘭花、葉は馬蘭葉といい、これらも薬用とする。花が小型のアヤメのように美しいため日本でも観賞用に植栽され、葉がねじれているためネジアヤメ(捩菖蒲)と呼ばれている。

 種子にはパラソームA・B・Cなどが含まれ、避妊作用や抗癌作用などが報告されている。漢方では清熱燥湿・止血の効能があり、黄疸型の肝炎や下痢、性器出血、鼻血、咽頭腫痛などに用いる。蛇の咬傷やキノコ中毒にも効果があるといわれている。

 馬蘭根、馬蘭花、馬蘭葉にはいずれも清熱・解毒の効能があり、おもに咽頭の炎症に用いられる。中国では古くから抗癌薬として使用されており、1996年には製剤化されている。

水曜日, 4月 23, 2014

白果

○白果(びゃっか)

 中国原産で、平安時代以降に渡来して日本全土に植栽されているイチョウ科の落葉高木イチョウ(Ginkgo biloba)の種子(胚乳)を用いる。中国ではイチョウのことを成長が遅く孫の代にならないと実がならないことから公孫樹、種子が白くて銀のようであるとして銀杏、葉の形が鴨の水かきに似ているために鴨脚の中国音、ヤーチョオに由来する。

 ギンナンの名も銀杏の中国北部の発音であるギンアンに由来する。イチョウは雌雄異株の裸子植物で、秋に雌株だけに実(植物学的には種子)がなる。実の多肉質な外種皮は熟すと独特の異臭がある。

 果肉にはアナカルデイア酸、ギンコール酸、ピロボールが含まれ、皮膚に付着するとかぶれを生じる。その中に硬い殻のギンナンがある。薬用には成熟した果実を土に埋めたり、水に漬けたりして外種子を腐敗させた後、洗浄し、日干しする。ギンナンはタンパク質やデンプンに富み、食用とされるが、多食すると中毒を起こし、小児では死亡することもある。

 ギンナンには4’-メトキシピリドキシンという物質が含まれているが、これはビタミンB6と構造が似ているため、ビタミンB6の働きを競合的に阻害し、その結果、脳内の神経伝達物質、γ-アミノ酪酸(GABA)の生成を抑制して痙攣、嘔吐、眩暈、呼吸困難といった中毒症状を表すと考えられている。

 漢方では収渋薬のひとつで止咳・平喘・化痰・縮尿の効能があり、咳嗽、喘息、帯下、頻尿、遺尿などに用いる。たとえば肺熱の咳嗽や呼吸困難、とくに痰の多い喘息に麻黄・杏仁・桑白皮などと配合する(定喘湯)。

 日本には夜尿症の治療に年齢の数だけギンナンの焼いたものを食べさせるという療法がある。またイチョウの葉をしおりに使うとシミがわかないとか、落葉を根元に敷いて肥料にすると駆虫効果があるとして利用されている。近年、イチョウの葉に血流改善作用が認められ、認知症などへの効果が注目されている。

火曜日, 4月 22, 2014

佩蘭

○佩蘭(はいらん)

 日本の関東地方以西、朝鮮半島、中国に分布するキク科の多年草フジバカマ(Eupatorium fortunei)の茎葉を用いる。中国原産であるが、古くから日本に帰化している植物で、秋の七草の一つである。

 かつて中国で蘭といえばフジバカマのことを指し、蘭草とか香水蘭と呼ばれ、香草のひとつとして風呂に入れたり、香料として身につけていた。現在、中国市場では佩蘭としていつくかの基原植物が混じっており、とくにシソ科のシロネ(Lycopus lucidus)の全草である沢蘭と混同されることが多い。逆に沢蘭としてフジバカマを用いている地区もある。

 生のフジバカマには香りはないが、乾燥させると成分のクマリン配糖体が分解されてオルトクマリン酸となり、桜餅のような香りがする。また水性エキスには血糖降下作用や利尿作用がある。漢方では芳香化湿・健胃・解暑の効能があり、とくに夏の胃腸風邪(暑湿)の常用薬である。

 中国医学では佩蘭は芳香化湿薬のひとつであり、脾胃を覚醒させ、胃腸に溜まった湿濁の気を除く作用があると説明している。また佩蘭は湿濁によって生じる「脾癉の要薬」といわれ、口が甘い、口が粘る、口臭がある、みぞおちが張る、食欲不振、消化不良、吐き気、嘔吐、軟便、倦怠感などの症状に用いる。民間薬として糖尿病や浮腫に用いられている。そのほか皮膚の痒みに対して浴湯料として用いる。

月曜日, 4月 21, 2014

貝母

○貝母(ばいも)

 中国原産で日本でも切り花や鉢植えに栽培されているユリ科の多年草アミガサユリ(Fritillaria verticillata)の鱗茎を用いる。貝母という名は2つの厚い鱗片が、母貝が小貝を抱いたように合わさっていることに由来する。日本の古名のハハクリ(母栗)の語源も形が栗のようで、子を抱く母の姿に似ていることによる。また花の内側に紫色の網目模様があるためアミガサユリ(編笠百合)の名がある。

 日本産の貝母は奈良県で栽培され、大和貝母と呼ばれている。中国では貝母は川貝母と浙貝母に区別され、浙貝母は日本産と同じアミガサユリの鱗茎であるが、川貝母はその他の同属植物、巻葉貝母、烏花貝母、稜砂貝母などの鱗茎である。ただし日本の輸入されているほとんどは浙貝母である。

 浙貝省象山県を原産とするため浙貝母といい、また象貝母ともいわれる。川貝歯は四川省を主産地とする。いずれの貝母も化痰・止咳の効能があり、咳嗽、喀痰、咽頭痛などに用いる。川貝母のほうが薬性は穏やかで、潤す性質があるため、慢性化した気管支炎や痰の少ないときに用いる。浙貝母は清熱作用にすぐれ、急性の気管支炎やなどで炎症が激しく粘稠痰の出るときに適している。なお土貝母というのはウリ科の植物の塊茎で薬材の形は似ているが貝母とは全く別の生薬である。

金曜日, 4月 18, 2014

梅肉膏

○梅肉膏(ばいにくこう)

 梅肉膏はバラ科のウメ(Prunus meme)の未成熟果実を加工したもので、日本独自の民間薬である。ウメは梅干しや梅酒として日本人に親しまれているが、これらは薬用としても利用される。

 梅干しは食中毒の予防や食欲増進に、梅酒は夏の暑気あたりや夏まけに効果がある。また民間療法に梅干しを熱灰に埋めて黒焼きにした梅の黒焼きがある。風邪の熱や咳には黒焼きを熱湯に入れて飲んだり、歯が痛むときには患部に黒焼きをすり込んで治療する。頭痛に梅干しの果肉をこめかみに貼ることもよく行われていた。

 江戸時代から伝わる民間薬、梅肉膏は昭和初期に筑田多吉の著した「家庭における実際看護の秘訣」(通称:赤本)によって日本中に広く知られるようになった。最近では梅肉エキスとして有名である。

 梅肉膏は、生の青梅をすりおろし、布巾でしぼった汁を天日で濃縮、あるいは過熱してゆっくりと煮つめたものである。弱火で煮つめると泡が立つが、混ぜているとドロッとなり、黒っぽい水飴のような酸味が強いものできる。これが梅肉膏である。

 梅肉膏は下痢や食中毒の改善効果やピロリ菌に対する抗菌作用などが認められ、また感冒や咳嗽、咽頭炎などにも用いられる。外傷や皮膚真菌症などに外用する方法もある。

 近年、梅を加熱する過程で、クエン酸と糖質(HMF)がエステル結合した化合物、ムメフラールが生成されることが明らかとなった。このムメフラールには血小板凝集能抑制効果や赤血球変形能改善効果が認められ、血流状態を改善することが注目されている。

水曜日, 4月 16, 2014

貝歯

○貝歯(ばいし)

 貝歯には白貝歯と紫貝歯とがあり、一般には紫貝歯がよく知られている。いずれもタカラガイ科の貝であるが、白貝はタカラガイ科のキイロダカラ(Monetaria moneta)やハナビラダカラ(M.amulus)などの貝殻、紫貝歯はハナマルユキ(Erosaria caputserpentis)やヤクシマダカラ(Mauritia arabica)などの貝殻を用いる。

 一般に白貝歯は小型種で全体が黄白色、紫貝歯は大型種で黄褐色や紫色の斑紋がみられる。いずれも南方の海洋に分布し、海南島や台湾、福建省などに産する。

 成分はほとんど炭酸カルシウムで、少量の有機酸、マグネシウム、鉄、ケイ酸塩、硫酸塩、塩化物を含む。漢方では紫貝歯の味は鹸、性は平で、清熱・平肝・明目・安神の効能があり、眩暈、頭痛、結膜炎、不安、不眠などに用いる。白貝歯の味は鹸、性は涼で、清熱・利尿の効能があり、浮腫や膀胱炎などに用いる。

火曜日, 4月 15, 2014

敗醤

○敗醤(はいしょう)

 日本各地や朝鮮半島、中国名とに分布するオミナエシ科の多年草オトコエシ(Patrinia villosa)やオミナエシ(P.scabiosaefolia)を正条品としている。根のついた全草を敗醤あるいは敗醤草、根だけを敗醤根という。

 神農本草経の中品に収載されている敗醤もオトコエシのこととされている。しかし、現在の中国市場に出ている基原植物はおもにアブラナ科のグンバイナズナ(Thlaspi arvense)やキク科のアキノノゲシ(Lactuca indica)などの全草といわれ、はなはだ混乱している。日本産の敗醤根はオミナエシの根である。

 敗醤の名は乾燥させた根茎が醤油の腐った臭いのすることに由来する。オトコエシ(男郎花)やオミナエシ(女郎花)の名の由来は定かではないが、オトコエシの方が茎が太くて毛で覆われ男性的である。またオミナエシの花は黄色く、オトコエシの花は白い。

 オトコエシの果枝にはシニグリン、根には苦味配糖体のロガニンが含まれ、オミナエシの根にはオレアノール酸などが含まれている。漢方では清熱解毒・排膿の効能があり、虫垂炎、下痢、帯下、腫れ物などに用いる。おもに虫垂炎に用いるため「腸癰の要薬」ともいわれる。

 急性虫垂炎や虫垂炎周囲には薏苡仁・附子などと配合する(薏苡附子敗醤散)。また皮膚の化膿などには金銀花・連翹などと配合して煎服したり、生のものを患部に添付する。

金曜日, 4月 11, 2014

梅寄生

○梅寄生(ばいきせい)

 日本各地および北半球に広く分布し、おもにブナ、カシなど広葉樹の生木や枯木に寄生するマンネンタケ科の担子菌類コフキサルノコシカケ(Ganoderma applanata)などの子実体を用いる。樹幹から直接に傘だけの子実体をつけ、表面に薄くココアの粉のように胞子が付いているため、「粉吹き猿の腰掛け」という名がある。

 梅寄生は梅の幹に寄生するサルノコシカケという意味で珍重されているが、現在では寄生樹に関係なく梅寄生という名で市販されている。以前はサルノコシカケ科に含まれていたが、現在はマンネンタケ科に分類されている。コフキサルノコシカケは茶色のコルク質で非常に硬く、食用には適さない。

 1975年頃、サルノコシカケ科のカラワタケからPSKという制癌剤が開発され、、梅寄生も注目されるようになった。コフキサルノコシカケの子実体にはエルゴステロール、ジヒドロエルゴステロール、ユビキノンなどが含まれ、煎液やそれに含まれる多糖類混合物に抗腫瘍活性が認められている。

 サルノコシカケは日本の民間薬であり、かつては解熱薬、心臓病や半身不随の治療薬として用いられていたが、近年では専ら抗癌作用が期待されている。一般に1日量約20gを煎じて服用する。かつて日本の生薬市場ではコフキサルノコシカケのうち、断面が赤いものを梅寄生、白いものを桑寄生と呼んで区別していたこともある。

木曜日, 4月 10, 2014

野菊花

○野菊花(のぎくか)

 近畿以西、朝鮮半島、中国、台湾に分布しているキク科の多年草シマカンギク(Chrysanthemum indicum)や北野菊の頭状花を用いる。中国では全草も野菊または苦薏と称して薬用にする。

 山地や丘陵地の道端などでみられるキクで、直径1cmくらいの黄色い頭花が咲く。栽培のキクはシマカンギクとチョウセンノギクを交配したものと考えられ、栽培品種のキクの花は菊花という。菊花を甘菊花というのに対し、野菊花は苦いため苦薏とも呼ばれている。

 アブラギク(油菊)という名は、このキクの花や葉からゴマ油で抽出した精油成分を「菊油」として利用していたことに由来する。菊油には殺菌力があり、切り傷ややけどの外用薬として用いたほか、島津藩では蒸留したものを「秘薬薩摩の菊油」と称して下痢や腹痛の薬に使っていた。現在、日本の市場では菊花として、この野菊花が流通している。

 シマカンギクの花にはクリサンテミン、αツヨシ、dl-カンフルなどが含まれ、降圧作用、抗菌作用が認められている。中国医学では清熱解毒・降圧の効能があり、感冒、肺炎、胃腸炎、皮膚化膿症、高血圧などに用いる。乳腺炎や皮膚化膿症には金銀花・蒲公英などと配合する(五味消毒飲)。近年、高血圧の予防に野菊花茶が茶剤としてよく利用されている。本来、菊花と効能は異なっているが、日本漢方では慣例として菊花と同様に用いている。

水曜日, 4月 09, 2014

忍冬

○忍冬(にんどう)

 日本、朝鮮半島、中国に分布するスイカズラ科のつる性常緑低木スイカズラ(Lonicera japonica)の茎および葉を用いる。中国では忍冬藤あいるは金銀藤という。現在、中国ではおもに花蕾の金銀花を用いて茎や葉はあまり用いないが、日本では民間薬としても、漢方薬としても全草がよく用いられている。

 葉にはタンニンやフラボノイドのロニセリンが含まれている。漢方では清熱解毒・止痛の効能があり、熱病、咽頭痛、下痢、腫れ物、筋肉や関節の痛みに用いる。金銀花とほぼ同じ効能があるが、解毒のほかに関節などの止痛作用もある。また内服だけでなく、外用薬としても皮膚の湿疹や化膿症、痔、関節炎などに用いる。

 日本の民間では葉を利用した忍冬茶(すいかずら茶)が毒消しの妙薬として知られ、腫れ物や痔、淋疾などに用いられている。今日でも家庭薬にしばしば配合されている。また煎液は扁桃炎などのうがい薬としても応用されている。そのほか浴湯料として風呂に入れ、腰痛や冷え性、痔、あせもなどに用いられる。

火曜日, 4月 08, 2014

人参

○人参(にんじん)

 朝鮮半島、中国東北部を原産とするウコギ科の多年草オタネニンジン(Panax ginseng)の根を用いる。神農本草経に収載されている上薬の一つで、根が人の形に似ていることから人参といわれ、古くから不老長寿、万病薬として珍重されていた。現在、野生の人参は極めて稀である。ときに中国東北部の吉林省や朝鮮で発見され、野人参といわれて非常に高価である。

 日本には天平時代に渤海国からの貢献品として初めて伝えられた。日本では高麗人参とか、朝鮮人参などと呼ばれ、江戸時代には非常に高価な薬であり、偽者や粗悪品が出回った。徳川幕府は事態の改善をはかるため、国内での栽培を推奨した。1728年、田村藍水らの努力により日光の御薬園で栽培に成功し、その人参の種子が各藩に分与されたことからオタネニンジン(御種人参)の名がついた。現在でも長野県の丸子、福島県の会津若松、島根県の大根島などで栽培されている。

 学名はパナックス・ジンセンといい、パナックスとは全てを治療する万能薬という意味であり、ジンセンは中国の発音による。栽培品では播種後4~6年の根を用いる。オタネニンジンと類似した植物として日本ではトチバニンジン(P.japonicus、生薬名:竹節人参)、北アメリカではアメリカニンジン(P.quinquefolium、生薬名:西洋参)、中国南部ではサンシチニンジン(P.notoginseng、生薬名:三七)が知られている。近年、中国で人参の代用品として用いられている党参はキキョウ科の植物の根である。ちなみに野菜のニンジンはセリ科の植物で、中国では人参といわずに紅蘿葡という。

 人参は部位や修治により様々な名称がある。掘り出して水洗いしたままの生の人参を水参といい、薬用酒の原料として用いる。細根を除いて皮を剥かずにそのまま乾燥したものを生干人参、細根を除いて85℃の湯に10分間つけて乾燥したものを御種人参、湯通しした後に周皮を剥いで乾燥したものを白参という。

 一方、切り落とされた細根を乾燥したものを鬚人参あるいは毛人参という。また、せいろで2~4時間蒸した後に熱風乾燥し、赤褐色になったものを紅参という。さらに湯通しや紅参を作るときに使った熱湯を煮つめたエキスを参精という。一般に、播種後4~5年目に間引きしたものは白参や湯通し人参などに加工され、6年間育成したものは紅参に加工される。

 成分には人参サポニンとしてジンセノシドRo、Ra~Rhなどが報告されており、そのほかパナキシノール、βエレメン、ゲルマニウムなどが含まれる。ジンセノシドなどによる薬理作用としてタンパク質、DNA、脂質などの合成促進作用、抗疲労・抗ストレス作用、強壮作用、降圧作用、血糖降下作用、認知症改善効果など数多くの研究結果が報告されている。

 漢方では代表的な補気薬であり、元気を補い、脾胃を健やかにし、神経を安定させ、津液を生じる効能がある。ただし、湯本求真の指摘するように「人参は万能の神薬に非ず」であり、一般に高血圧や実熱証の時には使用すべきではない。

金曜日, 4月 04, 2014

乳香

○乳香(にゅうこう)

 紅海沿岸、アラビア半島からトルコにかけて分布しているカンラン科の低木ニュウコウジュ(Boswellia carterii)の膠状の樹脂を用いる。インドでは同属植物のボスウェリア・セラータ(B.serrata)の樹脂がインド乳香(サライグッグル)として用いられている。幹の皮に傷をつけ、数日後に傷口からしみ出して固まった樹脂を採取する。芳香のある乳白色の樹脂が浸出するため乳香の名がある。主産地はソマリアやエチオピア、アラビア半島南部である。

 没薬とともに古代オリエント、エジプト、ギリシャ・ローマ時代の代表的な香料であり、宗教儀式に葷香料という用いられた。古代からインドでは独自の植物樹脂に乳香を混ぜて用いており、これが5~6世紀の中国に伝わって葷陸香と称されていた。このため乳香の別名を薫陸香ともいうが、薫陸香はインドに産するウルシ科の植物を基原とする説がある。

 また地中海沿岸に分布するウルシ科のマスチックスノキ(Pistacia lentiscus)という植物の樹脂も乳香として伝えられたこともあるが、これは現在では洋乳香(マスティック:Mastic)と称されている。

 乳香の成分としてボスウェリン酸やオリバノセレンなどが知られている。ローマ時代のプリニウスは乳香をドクニンジンの解毒薬とし、アラビア医学では解熱・解毒薬として用いていた。近年、ボスウェリン酸の特異な抗炎症作用が注目されており、リウマチや関節炎などの鎮痛薬として用いられ、また潰瘍性大腸炎などに対する効果も検討されている。

 漢方では活血・止痛・筋肉痛、皮膚化膿症などに用いる。とくに乳香と没薬は瘀血による疼痛に効果があるといわれ、しばしば没薬と併用して外科や整形外科領域の鎮痛薬として用いられる。また没薬とともに粉末にしたものを傷や腫れ物に外用する。

木曜日, 4月 03, 2014

肉桂

○肉桂(にっけい)

 中国南部やインドシナ半島に自生し、栽培されているクスノキ科の常緑高木ケイ(Cinnamomum cassia)の樹皮を肉桂といい、若枝は桂枝という。ケイは別名をシナ肉桂とかトンキン肉桂ともいう。学名をシナモム・カシアといい、英語ではカシアと呼ばれている。一般に欧米でシナモンといえば、主にセイロン肉桂のことを指す。

 樹皮のうち、おもに樹齢10年以上のケイから採取したものが肉桂として用いられる。その外皮を去ったものを挂心という。現在、日本薬局方では桂枝としてのみ規定しているため、桂枝と肉桂の区別がされていない。

 日本に流通している桂皮の多くは広南桂皮と呼ばれるもので、老木の枝や樹齢6~7年の比較的若くて薄い樹皮である。中国では特に樹齢30年以上の樹皮が肉桂として尊ばれている。一方、日本産の肉桂とは、日本の暖地で栽培されているクスノキ科の常緑高木ニッケイ(C.sieboldii)の根皮であり、かつて京都の八つ橋やニッキなどの菓子の原料や香料として用いられていたが、薬用としては用いられていない。

 ケイの樹皮には芳香性の精油成分であるケイアルデヒドが含まれ、血行促進、鎮静・鎮痙、解熱、抗菌、利尿作用などが知られている。漢方では補陽・温裏・止痛・温通などの効能があり、体や手足の冷え、衰弱、腹痛、下痢、無月経、のぼせなどに用いる。また肉桂は「血脈を疎通する」とか「百薬を宣導する」といわれるが、これは肉桂の血行促進作用を表したものと考えられる。

 肉桂と桂枝はいずれも温める作用があるが、肉桂は大熱で作用が強く、体内(裏)を温め、下って腎陽を補うのに対し、挂枝は温で体表を温めて発表し、おもに上行して経脈を通じるといわれる。このため桂枝は解表薬、肉桂は温裏薬に分類されている。

水曜日, 4月 02, 2014

日日草

○日日草(にちにちそう)

 マダガスカル島原産で、熱帯地方に栽培されているキョウチクトウ科の多年草ニチニチソウ(Catharanthus roseus)の全草を用いる。日本には江戸時代に渡来し、観賞用に栽培されているが、一日ごとに花が咲き変わるのでその名がある。

 ヨーロッパでは古くから民間療法で糖尿病に用いられてきたが、研究の中で毒性が強いことが問題となり、顆粒球を減少させ骨髄を抑制する作用のあることが明らかになった。その後、抗腫瘍薬の開発が進められ、1958年、葉から抽出されたアルカロイドに抗白血病作用があることが発見された。

 含有アルカロイドとして細胞分裂を阻害し、抗腫瘍活性を有するビンブラスチンとビンクリスチンがあり、ビンブラスチンはホジキン病、悪性リンパ腫、絨毛性腫瘍、ビンクリスチン(オンコビン)は小児の急性白血病、悪性リンパ腫、小児腫瘍に応用されている。副作用には胃腸障害、脱毛、白血球減少などがみられる。

 民間では葉をすり潰して水を加えたものを胃潰瘍、消化不良、便秘などのときに用いるが、毒性があるためあまり使用しないほうがよい。

火曜日, 4月 01, 2014

肉豆蔲

○肉豆蔲(にくずく)

 モルッカ諸島原産の常緑高木であるニクズク科の常緑高木ニクズク(Myristica fragrans)の種子を用いる。現在ではマレーシアやインドネシア、東アフリカ、西インド諸島などの熱帯地方でも栽培されている。

 桃に似た5~9cmの果実の中に3cmくらいの仮種皮に被われた一つの種子があるが、この仮種皮および堅い種皮を除いたものが肉豆蔲、つまり香辛料のナツメグである。この仮種皮は香辛料のメース(Mace)であり、橙色の網目状のため中国では玉果花あるいは肉豆蔲衣と呼ばれている。両者には同じような芳香があるが、メースの香りのほうが強い。ナツメグはハンバーグなどの挽肉料理、メースは焼き菓子などに利用されるスパイスである。

 ニクズクは古代インドで頭痛薬や胃腸薬として有名であり、インド伝承医学アーユルヴェーダではとくにメースを盛んに使用した。さらに10世紀にはアラビアで、16世紀にはヨーロッパでも万能薬として用いられた。中国では宗代の「開宝本草」に初めて収載され、豆蔲に似ていることから名付けられた。豆蔲というのはショウガ科の白豆蔲のことである。

 種子にはミリスチシン、カンフェン、ピネン、オイゲノール、サフロールなどが含まれ、独特の芳香がある。種子やニクズク油には幻覚や知覚障害を引き起こす有毒作用があり、この成分はミリスチシンといわれている。

 漢方では温裏・収渋・理気の効能があり、消化不良、腹痛、下痢、嘔吐などに用いる。とくに胃腸の虚寒や気滞のために腹部が膨満して痛み、嘔吐や食欲不振、下痢などが続くときに用いる。たとえば早朝になると下痢する症状には補骨脂・五味子などと配合する(四神丸)。家庭薬の太田胃酸やパンシロンなどの胃腸薬にも配合されている。

 一般に急性の下痢や炎症性の下痢には用いない。多量に服用すると痙攣や幻覚を生じ、肝臓障害ひきおこすことがあり、また過去には堕胎薬として用いられたこともある。

月曜日, 3月 31, 2014

肉蓯蓉

肉蓯蓉(にくじゅよう)

 中央アジアからモンゴル、中国、シベリアの砂漠地帯に分布するハマウツボ科の一年草ホンオニク(Cistanche salsa)や同属植物の肉質茎を用いる。日本では本州の中部以北、北海道に分布するオニク(キムラタケ:Boschniakia rossica)を和肉蓯蓉と称して代用にしている。

 オニクという名は「御肉」と書き、肉蓯蓉を尊重した名前といわれる。これらは他の植物の根に寄生する植物で、たとえばオニクはミヤマハンノキの根に寄生する。いずれも宿根性寄生草のため葉は退化して鱗状となって茎についている。

 肉蓯蓉は別名を大芸といい、春に採取したものは砂に半分埋めて乾燥させ、これを淡大芸(甜大芸)といい、秋に採取したものは水分が多いため塩湖に数年つけてから乾燥させ、これを塩大芸(鹸大芸)という。日本には淡大芸が輸入されている。

 オニクの成分としてボシュニアキン、ボシュニアラクトンなどのモノテルペン化合物、フェニルプロパノイド配糖体のアルカロイドが含まれ、ネコに対してマタタビと同様の生理作用がある。漢方では補肝腎・補陽・潤腸の効能があり、インポテンツや遺精、不妊症、足腰の萎弱に用いられる。

 性質は温であっても乾燥させず、滋陰するが膩ではなく、おもに腎陽を補い、精血を充実させるといった補陽薬のひとつである。滋養する作用が緩慢なために「蓯蓉(従容)」という名があるといわれている。たとえば強壮薬の至宝三鞭丸ナンパオ、薬用養命酒などに配合されている。また潤腸の作用もあり、高齢者などの便秘にも用いる。

 近年、肉蓯蓉と同属植物でタクラマカン砂漠に生育するタマリクス(Tamarix ramossima)の根部に寄生する管花肉蓯蓉(C.tubulosa)が管花地精、カンカなどと呼ばれ健康食品として市販されている。管花肉蓯蓉には老化予防、痴呆改善、免疫強化、強壮などの効能が謳われている。

金曜日, 3月 28, 2014

苦木

○苦木(にがき)

 日本の各地、東アジアにかけて広く分布するニガキ科の落葉小高木ニガキ(Picrasma quassioides)の樹皮を除いた材を用いる。どの部分も噛むと苦いためニガキという。ニガキ(苦木)というのは和名であるが、中国でも正式な植物名を苦木と定め、生薬として樹皮を苦樹皮あるいは山熊胆という。ちなみにニガキ科の植物にカッシア木、スリナム・カッシア(Quassia amara)やジャマイカ・カッシア(P.excelsa)というのがある。

 カッシア木は古くから苦味健胃薬、寄生虫の駆除、シラミなどの殺虫薬として用いられた。イギリスではスリナム苦木は消化不良の胃腸薬としてよく知られ、またジャマイカ苦木で作ったコップで水を飲むと胃腸が丈夫になるといわれていた。本来、苦木はアッシア木の代用品として日本薬局方に収載されるようになった。

 ニガキの樹皮にはジテルペノイドのクワッシン、ニガキラクトン、ニガキヘミアセタールなどが含まれ、苦味成分のクワッシンには唾液や胆汁の分泌促進や利尿作用がある。漢方では用いないが、太田胃酸などの家庭薬の苦味健胃成分として消化不良、吐き気、下痢などに応用されている。

 ニガキの葉を煎じた液は家畜の駆虫薬や農作物の殺虫薬として、また枝の削ったものを便槽に入れてウジの駆除などに用いられる。

木曜日, 3月 27, 2014

南蛮毛

○南蛮毛(なんばんもう)

 熱帯アメリカ原産のイネ科の一年草トウモロコシ(Zea mays)の雌花の長い花柱、つまりトウモロコシの毛を用いる。日本市場では南蛮毛とかナンバの毛と呼ばれているが、中国では一般に玉米鬚といい、英語ではコーンシルクという。

 トウモロコシはコロンブスがヨーロッパに伝え、日本には安土・桃山時代にポルトガルの宣教師から伝えられたため、古くは南蛮黍と呼ばれていた。トウモロコシはコムギ、コメと並ぶ三大穀物の一つで、食用や飼料として世界各地で栽培され、日本でも北海道などで多く作られている。

 果実からはコーン油やデンプン(コーンスターチ)が得られ、医薬品関係ではコーン油は軟膏の基剤や注射溶剤として、コーンスターチは賦形剤として利用されている。生薬はトウモロコシの雌花の花柱をむしり取り、乾燥する。

 成分にはシトステロール、スチグマステロール、イソクエルシトリン、硝酸カリウムなどが含まれ、利尿、血圧効果、胆汁分泌促進作用などが報告されている。なおトウモロコシの未熟果実に含まれるゼアチンには細胞分裂を促進する作用がある。

 コーンシルクは欧米で古くから利尿薬として、またフランスでは胆汁分泌を促進する薬として知られていた。日本でも民間薬として単味で腎炎や妊娠時の浮腫に用いられ、利尿薬として知られる西瓜糖や千香煎にも配合されている。漢方では余り用いられないが、近年、中国でも利尿・利胆薬として脚気や腎炎、浮腫、肝炎、腎結石、胆石、高血圧、糖尿病などに応用されている。

水曜日, 3月 26, 2014

南天実

○南天実(なんてんじつ)

 中国やインド、日本の南部に分布しているメギ科の常緑低木ナンテン(Nandina domestica)の果実を用いる。中国では南天竹子と呼ばれている。秋から冬にかけて果実が赤く熟し、よく低木などに植栽されている。果実は赤い色が一般的であるが、ときに白色のシロナンテンがあり、市場品でも赤南天と白南天とに区別されている。

 古くから薬用にはシロナンテンの果実のほうが賞用されるが、とくに根拠はない。日本ではナンテンは「難転」に通じるとして好まれている。古くから日本の風習として赤飯などの上にナンテンの葉があしらわれている。葉の成分にはナンジニンが含まれ、熱と水分でシアン化水素が発生し、それに赤飯の腐敗を予防する作用があるという説明がなされている。

 果実にはアルカロイドのドメスチンやイソコリジンなどが含まれ、ドメスチンには知覚神経や抹消運動神経を麻痺させ、心臓の運動を抑制する作用がある。漢方では止咳の効能があり、咳嗽や喘息に用いる。しかし漢方処方としてはあまり用いられず、日本や中国の民間療法で百日咳や気管支喘息などに用いられている。近年、ナンテンの葉から研究されて開発されたトラニラストは抗アレルギー薬(リザベン)として利用されている。

火曜日, 3月 25, 2014

南瓜子

○南瓜子(なんかし)

 南メキシコから中米にかけてを原産とするウリ科のつる性一年草カボチャ(Cucurbita moschata)の種子を用いる。日本には16世紀、豊後の国に漂着したポルトガル船で伝えられたといわれ、カボチャの名は「カンボジアに生じたる」という誤解に由来する。

 カボチャには関東ではトウナス、関西ではナンキン、九州ではボウブラといった方言がある。トウナス(唐茄子)、ナンキン(南京)の名は中国経由で渡来したことを表し、ボウブラはアボーブラというカボチャのポルトガル語に由来する。

 江戸時代から冬至にカボチャを食べると中風や風邪を患わないという風習が広まっているが、これは長期間保存のきくカボチャで冬期のビタミン源を補うという生活の知恵である。中国ではカボチャの種子をスイカやヒマワリの種などと同じく瓜子儿と称し、歯で殻を割り、中の実をお茶受けとして食べる。

 カボチャの種子にはリノール酸やパルミチン酸などの脂肪酸やビタミンC・B1、ククルビチンが含まれ、ククルビチンには条虫を麻痺させる作用がある。漢方でも駆虫薬として知られる。

 回虫駆除には単独でも用いるが、条虫駆除には檳椰子と配合して駆虫効果を高める。南瓜子の皮を除いて粉末にしたものを、麻の起床空腹時に服用し、2時間後に檳椰子の煎液を服用し、さらに30分後に下剤を服用する。ブタやウシの寄生虫駆除に応用されている。

 そのほか産後の浮腫や母乳の不足にも用いる。近年、同属植物のペポカボチャの種子が頻尿や尿失禁などの排尿障害に効果があるとして注目されている。

月曜日, 3月 24, 2014

○鉛(なまり)

 は重くて柔らかい金属で展性・延性に富み、ローマ時代には水道管や浴場、食器や壺として使用されていた。おもな原鉱石は方鉛鉱(PbS)であり、そのほか白鉛鉱(PbCO3)や硫酸鉛鉱(PbSO4)などもある。

 生薬に用いる鉛には金属の黒鉛のほか、鉛の化合物として一酸化鉛(PbO)の密陀僧、四三酸化鉛(Pb3O4)の鉛丹(別名:光明丹)、酢酸鉛の鉛霜(別名:鉛糖)、塩基性炭酸鉛(2PbCO3・Pb(OH)2)の鉛粉(別名:鉛白)などがある。

 鉛中毒は急性の場合は急性胃腸炎の症状を呈するが、ほとんどが慢性であり、腹痛や口内炎、脱力感が現れ、皮膚が蒼白になり、歯茎が鉛緑といわれる灰白色に変化する。また鉛毒性痛風や鉛毒性脳炎なども知られている。

 漢方では性味は甘・寒、有毒で、鎮逆・堕痰・殺虫・解毒の効能がある。腎不納気による喘息や胸に痰が詰まった状態、気の上衝、腹が冷えて痛むときなどに用いられる黒錫丹が有名である。しかし、毒性があるので近年は用いられない。

土曜日, 3月 22, 2014

夏皮

○夏皮(なつかわ)

 ミカン科の常緑低木ナツミカン(Citrus natsudaidai)の成熟した果実の果皮を用いる。未熟果実はダイダイなどとともに枳実、枳殻としても用いられる。ナツミカンは18世の初め、山口県長門市青梅島の海岸に漂着した果実の種子を蒔いたものが原木とされている。ナツカン(夏柑)、ナツダイダイ(夏橙)ともいう。

 酸味が強いため、江戸時代には食酢として用いられていたが、夏に食べると美味しいことから栽培されるようになった。昭和初期にナツミカンの突然変異種で酸味の少ないアマナツが大分県の果樹園で発見され、現在では生産されているほとんどがアマナツである。

 夏皮には特異な芳香と苦味があり、d-リモネンを主成分とする精油、フラバノン配糖体のナリンギン、クマリン誘導体などが含まれている。夏皮は橙皮などの代用や芳香性健胃薬の家庭薬、芳香料として浴剤などに用いられる。

 新鮮な果皮はオレンジ油やミカン油の原料となる。またナツミカン、ダイダイなど柑橘類の果皮の油分を除いた後に末としたものは柑皮末といい、賦形剤として用いられる。

木曜日, 3月 20, 2014

豚脂

○豚脂(とんし)

 イノシシ科動物のブタ(Sus scrofa domestica)の脂肪を用いる。ブタは古くから家畜として飼育されていた動物で、薬用にもあらゆる臓器が利用されている。ブタの脂肪はラードともいわれ、食用や石鹸の原料のほか軟膏基剤としても重要である。

 組成は飼料や品種、採油する部位により著しく異なるが、一般に成分はオレイン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、リノール酸、βパルミトディオレインのグリセリドなどが含まれる。豚脂は常温で無色半透明の半固体であり、融点は36~42℃と人間の体温とほぼ同じである。

 軟膏基剤として利用される利点は四季を通じて半固体で、皮膚に対する刺激が少なく、皮膚への浸透性も優れている。一方、欠点としては臭いやベトつきがある。薬用には一般に腹部の脂肪が用いられ、臭いの少ないものが良品である。

 漢方では補虚・潤燥・解毒の効能があり、皮膚の亀裂や便秘、咳嗽などに用いる。火傷や霜焼け、ひび、痔患などに胡麻油・紫根・当帰などと配合する(紫雲膏)。金匱要略の中に、黄疸で尿利の悪いときの内服薬として猪膏に血余炭と配合した猪膏髪煎が収載されている。

水曜日, 3月 19, 2014

登呂根

○登呂根(とろこん)

 日本各地、朝鮮半島、中国などに分布するナス科の多年草ホウズキ(Physalis alkekengi)の根を用いる。中国では根を酸漿根といい、全草を酸漿、がくを挂金灯という。日本では果実を登呂実という。

 花の後ろにがくが肥大し、果実を包みこみ、鮮やかな赤に変化する。中には赤い液果があり、中の種子を取り出してや手遊びに用いられる。がくの様子から燈籠草ともいわれ、日本の登呂根の名はそれに由来する。液果には酸味があるため、中国では酸漿と呼ばれている。

 全草には苦味成分のフィサリンやフラボノイドルテオリン、根にはチグロイルオキシトロバンが含まれている。薬理的に煎液に抗菌作用、子宮興奮作用などがあり、また果実には解熱・強心作用がみられる。

 漢方では清熱・利水の効能があり、マラリアや黄疸、浮腫に用いる。全草には活血・化痰・止痛の効能があり、咳嗽、吐血、打撲傷、腫れ物などに用いる。原南陽も咳止めの妙薬として果実の黒焼きを用いた。また生の果実は虫下し、根や全草は発熱や咳嗽、淋病、婦人病、、母乳不足などに用いる。

 かつてホウズキの青い果実を鎮静剤に、赤い果実は腹痛など胃腸病全般に用いた。いずれの部分も子宮を収縮させるため、妊娠中には用いないほうがよい。古くは堕胎薬としても知られていたが、堕胎には根を煎じて服用するだけでなく、根を子宮に入れる方法もあった。

月曜日, 3月 17, 2014

土木香

○土木香(どもっこう)

 ヨーロッパ、北アジア原産で北米などでも野生化しているキク科の大型多年草オオグルマ(Inula helenium)の根を用いる。日本には江戸時代に薬用として渡来し、大和や信濃などで栽培されていたと伝えられている。

 木香とはインド原産のキク科のモッコウ(Saussurea lappa)の根をいうが、木香の代用にされることから土木香の名がある。木香よりも弱いが、土木香にも芳香がある。欧米ではリキュールやベルベットの香料、菓子原料として、またドイツではスープなどにも入れられる。

 根にはアラントラクトンを主成分とする精油やイヌリンが含まれ、アラントラクトンは家畜の駆虫作用や抗菌作用などがある。本来、ヨーロッパの薬草(エレキャンペーン)であり、発汗、利尿、去痰薬として知られている。かつては結核の特効薬といわれ、今でも喘息や気管支炎などの呼吸器系の治療に用いられている。また疥癬やヘルペスなどの皮膚病の外用薬としても用いられる。

 漢方では木香と同様に健胃・理気・止痛の効能があり、脇腹部の脹満や疼痛、嘔吐、下痢、マラリアなどに用いる。江戸時代には腹痛や胃腸炎の製薬として知られた木香丸には香附子・黄柏・胡黄連とともに土木香が配合されていた。現在でも家庭薬の賦香料として用いられている。

木曜日, 3月 06, 2014

土茯苓

○土茯苓(どぶくりょう)

 中国からインドにかけて分布するユリ科のつる性落葉低木ケナシサルトリイバラ(Smilax glabra)の根茎を用いる。生薬名を中国では土茯苓というが、日本では一般に山帰来と呼んでいる。

 ところで日本にはケナシサルトリイバラは自生していないが、よく似た同属植物のサルトリイバラ(S.china)が自生し、サルトリイバラには刺があるがケナシサルトリイバラには刺はない。このサルトリイバラの根茎を、日本ではとくに和山帰来と呼んでいるが、中国では菝葜と称して別に扱っている。

 ケナシサルトリイバラの根茎にはサポニン、タンニン、樹脂などが含まれているが、薬理作用は明らかでない。漢方では清熱・解毒・去湿の効能があり、梅毒や慢性の皮膚疾患、化膿性疾患、頸部結核に用いる。とくに古くから梅毒の治療薬および水銀剤の解毒薬として知られている。今日でも家庭薬の便秘薬や皮膚疾患治療剤にサンキライの名でしばしば配合されている(複方毒掃丸)。

 香港のデザートとして有名な亀苓膏(亀ゼリー)にも配合されている。また近年、中国ではレプトスピラ病や麻疹の予防や治療に用いられている。中央アメリカに産する同属植物のサルサパリラ(S.officinalis)の根は、かつて梅毒、感染などの皮膚病、リウマチなどの血液浄化薬、強壮薬として利用されていた。このサルサパリラはカリブ海地方の清涼飲料水(ルートビアー)の香味料としても有名である。

水曜日, 3月 05, 2014

独活

○独活(どっかつ)

 日本では本州、四国、九州、中国などに分布するセリ科の多年草シシウド(Angelica pubescens)およびその近縁植物の根や根茎を用いる。日本産の独活(和独活)はウコギ科のウド(Aralis cordata)の根茎(宿根)のことをいい、側根は羗活(和羗活)という。

 中国産の独活のひとつに四川や雲南省に産する九眼独活が含まれるが、これは日本産と同じウドの根茎と根である。現在、日本の市場では中国産の唐独活と日本産の和独活が流通しており、単に独活といえば和独活のことをいい、中国産の独活はとくに唐独活と呼ばれている。

 シシウドの根にはクマリン誘導体のほか、アンゲロール、アンゲリコン、オストールやアンゲリシンなどが含まれている。このうちオストールには鎮痛・抗炎症作用が認められている。漢方では去風湿・止痛・通経絡の効能があり、筋肉や関節の痛み、手足の痙攣、腰痛、熱病、頭痛、歯痛などに用いる。

 漢方理論によると風湿の邪による痛みやしびれに用い、しばしば羗活と配合する。独活と羗活との違いは、風湿の邪のうちで風を主とするときは独活、水湿を兼ねるときには羗活がよいといわれる。また羗活は芳香の気が強く上部を治療し、独活は味厚で足腰を治療するという説がある。

 ちなみに滋賀県の伊吹山の名産、伊吹百草はシシウドの地上部を刻んだものとヨモギが配合されており、浴湯料として神経痛、リウマチ、冷え性などに応用されている。

火曜日, 3月 04, 2014

土通草

○土通草(どつうそう)

 日本の北海道から九州にかけて分布するラン科の大型の多年草ツチアケビ(Galeola septentrionalis)の果実を用いる。ツチアケビはナラタケと共生する腐生ランで、葉がなく、全体が黄褐色をしている。草丈は50~100cmで、秋に赤いバナナのような肉質の果実をつける。

 この果実がアケビに似て、土から生えることからツチアケビと呼ばれ、アケビの漢名である通草(現在は木通)をつけて生薬名を土通草と称している。つまり土通草というのは和製漢名であり、日本独自の薬草で中国では用いられていない。

 日本では古くから強壮・強精・利尿の効能があるとされ、果実を煎じて服用する。甘草とともに煎じて淋病に用いる。また黒焼きにして頭髪油と混ぜて頭部のできものに塗布する。

月曜日, 3月 03, 2014

杜仲






○杜仲(とちゅう)

 中国原産であるトチュウ科の常緑高木トチュウ(Eucommia ulmoides)の樹皮を用いる。日本産の和杜仲はニシシギ科のマサキ(Euonymus japonicus)であり、成分や薬効が異なり代用にはならない。最近では長野県の伊那谷や広島県の因島などでトチュウの栽培が行われている。

 トチュウの葉や樹皮には2~7%のグッタペルカが含有され、このため杜仲の樹皮を剥ぐと、綿状の繊維の木綿がある。薬材を選ぶ際には折ると白糸を引くものが良品とされている。グッタペルカというのは東南アジアで栽培されているアカテツ科のグッタペルカノキ(Palaquium gutta)の木の幹から得られる乳液中のゴム質の成分と同じものである。

 グッタペルカは絶縁材料や歯科用セメントなどに用いられているが、トチュウでは含有量が少なく経済性がない。グッタペルカと薬効の関係は不明であるが、杜仲のエキスには降圧・利尿・中枢抑制作用などが知られている。

 漢方では肝腎を補い、腰や膝の筋骨を強め、流産を防止する効能があり、足腰の萎弱や酸痛、排尿困難、陰部湿疹、帯下、不正子宮出血、高血圧などに用いる。高齢などで足腰の衰えや性機能障害のみられるときには地黄・山薬などと配合する(右帰丸)。リウマチや脚気などで下肢が麻痺して痛むときには防風・羗活などと配合する(大防風湯)。

 中国では杜仲をコウリャン酒に漬けた杜仲酒が強精剤として有名であるが、日本でも薬用養命酒の中に配合されている。近年、日本では、杜仲の葉を用いた杜仲茶が健康茶として市販されている。

 杜仲茶に含まれるイリドイド配糖体のゲニポシド酸は、副交感神経に作用して血管を弛緩させ、血圧を低下させる作用があり、特定保健用食品として認められている。その他、杜仲葉には尿や便の排出を促進し、体内脂肪を低下させる働きも報告され、生活習慣病に対する予防・改善効果が期待されている。

土曜日, 3月 01, 2014

杜松実

○杜松実(としょうじつ)

 日本の関東地方以西、朝鮮半島、中国に分布しているヒノキ科の常緑低木、ネズ(Juniperus rigida)の球果を用いる。ネズサシともいうが、葉の先が針のように尖っていて、この葉のついた小枝をネズミ穴に差し込んでおくとネズミが通らなくなるためその名がある。

 ヨーロッパでは同属植物のヨウシュネズ(J.cimmunis)の球果が古くから薬(ジュニパー)として用いられていた。17世紀、オランダの医師が熱性疾患の治療を目的として蒸留酒にその果実を加えた薬酒を用いたが、これが蒸留酒のジンの起源とされている。

 果実の精油成分には利尿・発汗作用のあるジテルペン酸などが含まれている。欧米では古くからジュニパーベリー(Juniper berry)のハーブティーを発汗・利尿薬として膀胱炎や尿道炎、浮腫、風邪、痛風、疝痛などに用いている。

 ジュニパーベリーの製油はアロマテラピーなどにも利用され、蒸気吸入やアロマバス、オイルマッサージなどで、ストレスの緩和、排尿障害や痛風や神経痛などの改善に用いられている。ただし、過量に使用すると胃腸粘膜を刺激したり、タンパク尿や血尿が出ることがあるので注意が必要である。中国でも近年になって利尿・去風湿薬として浮腫や痛風に用いている。またリウマチに果実の汁を塗布する。

金曜日, 2月 28, 2014

菟絲子

○菟絲子(としし)

 日本の各地、朝鮮半島、中国に分布するヒルガオ科のつる性一年草ネナシカズラ(Cuscuta japonica)の種子を用いる。そのほかハマネナシカズラ(C.chinensis)およびマメダオシ(C.australis)の種子も用いる。日本では中国産のハマネナシカズラを小粒菟絲子と呼んで区別している。

 ネナシカズラは寄生植物で他の植物にからみつき、吸盤で養分を吸収しながら成長する。宿主植物が決まると根に続くころが枯れて根がなくなるためネナシカズラの名がある。

 種子の成分にはカロテンやタラキサンチン、ルテインなどが含まれる。漢方では補陽・固精・明目・止瀉・強壮の効能があり、足腰の酸痛、遺精、消渇(糖尿病)、視力低下、排尿障害などに用いる。おもに滋養強壮剤として腎陰虚や腎陽虚になどに用いる。

 疲労、腰痛、耳鳴、胃腸障害には熟地黄・山薬・枸杞子などと配合する(左帰飲・右帰飲)。インポテンツや遺精、頻尿、下肢倦怠感などには鹿茸・附子などと配合する(大菟絲子丸)。視力低下や白内障には石斛・菊花などと配合する(石斛夜光丸)。日本でも滋養強壮の薬用酒として菟絲子酒が知られている。

木曜日, 2月 27, 2014

吐根

○吐根(とこん)

 ブラジル南部を原産とし密林に自生するアカネ科の木本状の多年草トコン(Cephaelis ipecacuanha)の根を用いる。3年以上の株の値を乾燥させ、一定期間貯蔵したものを用いる。マレー半島やスリランカでも栽培されている。

 成分のトコンアルカロイドにはエメチンやセファエリンなどが含まれる。エメチンにはアメーバに対する強い毒性や知覚神経を刺激による催吐作用、去痰作用もみられ、またセファエリンにはエメチンより強い催吐作用がある。もともとブラジルの原住民は下剤として用いていたが、ヨーロッパに伝えられてアメーバ赤痢の特効薬として知られるようになった。

 少量では食欲増進、去痰剤としても使用される。今日でも代表的な催吐剤である。日本では余り普及していないが、欧米では胃洗浄の代わりに吐根シロップを用いることのほうが多い。日本では浅田飴など市販薬の鎮咳・去痰薬にしばしば配合されている。

月曜日, 2月 24, 2014

杜衝

○杜衝(とこう)

 中国の江蘇、省を産地とするウマノスズクサ科の多年草トコウ(Asarum forbesii)の根または全草を用いる。日本では近縁植物のカンアオイ(A.nipponicum)の根を杜衝あるいは土細辛という。トコウの根は近縁植物のウスバサイシン(生薬名:細辛)の根と似ているため土細辛という名があるが、根の香りは細辛よりも弱い。

 トコウの根には精油中に芳香性のメチルオイゲノール、サフロール、エレミシンや鎮咳作用のあるピペコール酸などが含まれている。漢方では散寒・止痛・平喘の効能があり、感冒時の頭痛や咳嗽、歯痛、胃痛、肋間神経痛などに用いる。細辛の代用品として用いられることもあるが、香気・薬効ともに細辛には及ばない。

金曜日, 2月 21, 2014

土荊芥

○土荊芥(どけいがい)

 メキシコおよび西インド原産のアカザ科の一年草アリタソウ(Chenopodium ambrosioides)の花穂のついた全草を用いる。日本には天正年間に南蛮人によって伝えられ、ルウダソウの別名もある。アリタソウの名は佐賀県有田で栽培されていたという説やスペイン語のルーダに由来するという説がある。近年では毛の多いケアタリソウやアメリカアリタソウなどが北米大陸から帰化して日本各地に自生している。

 アリタソウの全草に独特の強い臭いがあり、この草を家の入り口にかけておけば災いを免れるといった言い伝えもある。全草には精油のヘノポジ油が含まれ、その主成分はアスカリドールである。

 アスカリドールは加熱すると爆発する性質があり、寄生虫に対する強い駈虫作用がある。またアメーバ赤痢や白癬菌症に対しても効果がある。しかし、過量に服用し、吸収されると悪心、嘔吐を起こし、ひどければ腸管麻痺や耳鳴り、難聴、視覚障害、痙攣や意識障害などの副作用があるため、必ずヒマシ油などの下剤と併用する。

 漢方では性味は辛・温・有毒であり、駆虫・殺虫の効能がある。中国では駆虫薬として用いるほか、関節リウマチや脱肛にも用いられる。また頭虱や湿疹、毒蛇咬傷、出血などに外用する。メキシコや中南米ではエパソーテ(Epazote)と呼ばれ、独特の匂い科のある香辛料として利用され、薬用としては腹部膨満や無月経、マラリア、喘息などに効果のあるハーブとして知られている。

木曜日, 2月 20, 2014

土槿皮

○土槿皮(どきんぴ)

 中国の浙江・安徽省などの高地に分布するマツ科の落葉高木イヌカラマツ(Pseudolarix amabills)の樹皮および根皮を用いる。カラマツに似た樹高40mに達する高木で、秋に鮮やかな黄色に染まるため金銭松とか金松の名がある。華東地方で用いられていた民間薬であるため本草書にはなく、近年になって注目されてきた生薬である。

 樹皮や根皮にはフェノール性物質やタンニンなどが含まれ、抗真菌作用や止血作用が知られている。中国では専ら水虫やたむしの外用薬として有名である。土槿皮という名はアオイ科のムクゲ(Hibiscus syriacus)の樹皮である木槿皮の効能と似ていることに由来する。

 土槿皮のチンキ剤には強い抗真菌作用が認められるが、水浸液には抗真菌作用はみられない。皮膚真菌症、湿疹、神経性皮膚炎にはアルコールに浸したエキス、またはすり潰して粉末にしたものを患部に塗布する。日本でも複方土槿皮チンキという名で水虫の治療薬として販売されている。

水曜日, 2月 19, 2014

土瓜根

○土瓜根(どかこん)

 日本、台湾、中国の各地に分布しているウリ科のつる性多年草カラスウリ(Trichosanthes cucumeroides)の根を用いる。

 カラスウリは神農本草経では土瓜と呼ばれ、金匱要略に土瓜根という名で記載されているが、現在では一般に王瓜根と呼ばれている。種子も王瓜子と呼ばれ薬用にされる。同属植物のキカラスウリ(栝楼)の根は栝楼根としてよく知られているが、土瓜根はしばしば栝楼根の代用としても利用されてきた。

 カラスウリの根には多量のデンプンやアルギニン、コリンが含まれる。漢方では清熱・止渇・利尿・活血の効能があり、熱による口渇や尿量減少、扁桃炎、月経異常、打撲傷などに用いる。

 月経困難症や月経の回数が多いときには桂枝・芍薬・シャ虫と配合する(土瓜根散)。日本の民間では催乳薬としても知られ、母乳の出をよくするために用いる。また根のデンプンを天花粉あるいは「汗しらず」と称して夏の汗疹に用いられている。ただし天花粉というのは、本来、栝楼根のことをいう。

月曜日, 2月 17, 2014

銅緑

○銅緑(どうりょく)

 銅を湿った空気中に放置すると表面に緑色の銹ができる。この成分は塩基性炭酸銅(CuCO3・Cu(OH)2)である。また銅に酢酸の蒸気をかけるとやはり緑色の塩基性酢酸胴の銹ができる。これらの銹を銅緑という。

 日本では一般に緑青と呼んでいる。また天然の塩基性炭酸銅を主成分とする緑色の鉱物に孔雀石(マラカイト:Malachite)があり、これを砕いて生薬としたものは緑青という。これらは古くから猛毒があると信じられていたが、国立衛生試験場の研究で、それほど毒性の強い物質ではないことが明らかにされた。

 漢方では退翳・去腐・瘡の効能があり、角膜混濁や結膜炎、瘡、痔、歯槽膿漏などに用いる。ただれ目の挿入薬として鉛粉・艾と配合する(金竜散)。

土曜日, 2月 15, 2014

藤梨根

○藤梨根(とうりこん)

 日本各地、朝鮮半島、中国東北部に分布するマタタビ科の落葉つる性藤本サルナシ(Actinidia arguta)、シナサルナシ(A.chinensis)の根および根皮を用いる。シナサルナシはキウイの原種であり、中国ではキウイのことを獼猴桃という。サルナシは小さいながらもキウイと同様の果実がなり猿が好んで食べることからその名がある。

 中国の民間薬として清熱・利尿・活血・消腫の効能があり、肝炎や浮腫、関節痛などに用いられている。また、中国では古来より、胃癌、直腸癌、乳癌等に対する効果が知られており、現在でも検討されている。

金曜日, 2月 14, 2014

桃葉

○桃葉(とうよう)

 中国を原産とするバラ科の落葉小高木モモ(Prunus persica)あるいはノモモ(P.persica var.davidiana)の葉を用いる。モモの種子は桃仁、花および蕾は白桃花と称して薬用にされる。モモは多くの果実をつけることから木に兆と書き、日本でもももも(百々)という名がある。

 モモの葉にはタンニンやニトリル配糖体が含まれ、鎮咳作用やボウフラ殺虫作用が知られている。漢方では去風湿・清熱・殺虫の効能があり、頭痛や関節痛、湿疹などに用いる。

 近年、中国では桃葉によるマラリアや膣トリコモナス、蕁麻疹などの治療が報告されている。日本ではモモの葉は浴湯料してよく知られ、刻んだ葉を風呂に入れて夏場のあせもや湿疹、かぶれ、荒れ性などに応用する。

 かつてツツガムシ病の特効薬として、焼き石の上に桃の葉を並べ、その上に座って足についたツツガムシを殺したり、桃の枝で作った針でほじり出したと伝えられている、また、ふけ症には葉の煎液で洗ったり、脱肛に濃く煎じた液で坐浴する方法もある。

水曜日, 2月 12, 2014

動物胆






○動物胆(どうぶつたん)

 さまざまな動物の胆嚢および胆汁を薬用に用いる。魚類では鯉魚胆やヤツメウナギの胆、爬虫類ではヘビの蛇胆、鳥類ではニワトリの鶏胆、哺乳類ではクマの熊胆、ブタの猪胆、ウシの牛胆などが薬用にされている。

 近年、熊胆の入手が困難なため、その代用として牛の胆汁を濃縮した牛胆が用いられている。また牛黄はウシの胆嚢や胆管にできた胆石である。胆嚢は肝臓で作られた胆汁を蓄え、濃縮する臓器であり、食事によって胆嚢の収縮が起こり、胆汁が腸に排泄される。

 一般に動物の胆汁には胆汁色素、胆汁酸塩、脂肪酸、コレステロール、レシチンなどが含まれている。胆汁酸塩は胆汁酸がナトリウムやカリウムと結合したもので、胆汁酸はコール酸、デオキシコール酸、ウルソデオキシコール酸、ケノデオキシコール酸、リトコール酸などがグリシンと結合したグリリコール酸か、タウリンと結合したタウロコール酸として存在する。動物によってこのグリリコール酸とタウロコール酸の比が異なっているるちなみに牛黄の主成分はデオキシコール酸、熊胆はウルソデオキシコール酸である。

 胆汁酸は水に不溶性の脂肪や脂溶性ビタミンなどを乳化させ、酵素作用を活性化させる作用があり、動物の胆嚢および胆汁には抗菌作用、利胆作用、鎮咳作用、鎮痙・止痛作用などのあることが知られている。

 漢方では性味は苦寒であり、清熱・解毒・平肝・鎮驚・明目・通便などの効能があるとされている。日本の大衆薬である救心などには動物胆、敬震丹には牛胆・鯉胆が配合されている。また中国の片仔癀には蛇胆が含まれている。

火曜日, 2月 11, 2014

橙皮

○橙皮(とうひ)

 ヒマラヤ原産のミカン科の常緑低木ダイダイ(Citrus aurantium)やアマダイダイ(C.sinensis)の成熟した果実の果皮を用いる。ダイダイの未成熟果実は枳実・枳殻として用いる。

 ダイダイは奈良時代に日本に伝来し、古くはカムスとも呼ばれていた。ダイダイという名は果実は枝についたまま数年(代々)も落ちないことにより、カムス(蚊無須)と名は干した皮を焚いて蚊よけにしたことによる。ちなみに果肉をしぼった汁をポン酢というのは、オランダ語のポンスから出ている。

 アロマオイルでは、ダイダイはビターオレンジとして有名で、花から得られた精油はネロリ(Neroli:橙皮油)、果皮からの精油はビターオレンジ、木の葉と小枝から抽出した精油はプチグレン(Petitgrain)と呼ばれている。

 果皮には主としてd-リモネンからなる精油やナリンギン、ヘスペリジンなどが含まれる。橙皮は西洋医学的に芳香性苦味健胃剤として苦味チンキや橙皮シロップの原料にも使われている。漢方では理気・健胃・去痰の効能があり、陳皮の代用として消化不良、二日酔いなどにも用いる。

 民間療法ではダイダイを酒に漬けた液で手や顔の荒れを治したり、果皮を干したものを煎じて車酔い、風邪、咳のときに服用する。また疝気や婦人の腹痛などに用いられた。

月曜日, 2月 10, 2014

桃仁

○桃仁(とうにん)

 中国北西部を原産とするバラ科の落葉小高木モモ(Prunus persica)あるいはノモモ(P.persica var.davidiana)の核の中にある種子を用いる。花は白桃花、葉は桃葉と称して薬用にする。日本には古くから伝えられ、弥生時代の遺跡からモモの種子が発見されている。すでに平安時代から栽培されていたが、専ら花の観賞用だったといわれている。

 果樹としての記録は江戸時代からであるが、当時の桃は小さく果肉が硬かったと考えられ、今日のような栽培品種は明治以後に導入されたものである。ただ薬用の桃仁としては、果物用の白桃や水蜜桃では種子が小さいため適さない。

 桃仁の成分として脂肪油40~50%、青酸配糖体のアミグダリン、酵素のエムルシンなどが含まれ、薬理作用として抗炎症作用、鎮痛作用、血小板凝集抑制作用、綿溶系活性作用などが知られている。月経障害、腹部腫瘤、下腹部痛、神経痛、打撲傷、内臓の化膿症、便秘などに用いる。

 漢方では活血・排膿・潤腸の効能があり、白桃花は利尿・緩下剤として浮腫や脚気、便秘の治療に、桃葉は浴湯料として皮膚病などに用いられる。

金曜日, 2月 07, 2014

冬虫夏草






○冬虫夏草(とうちゅうかそう)

 中国の四川・貴州・雲南省、チベット自治区などに産する蛾の幼虫に生えたキノコの一種を用いる。バッカクキン科のフユムシナツクサタケ(Cordyceps sinensis)と呼ばれる菌類で、とくにコウモリガ科の昆虫の幼虫に寄生する。

 幼虫(栄養体)の体内に入った菌は菌糸をのばして生長し、やがて体内を完全に占領し、さらに細い柄(子実体)を出してキノコが発生する。幼虫の長さは3~8cm、子実体は4~10cmの棍棒状で頭部がやや膨らんでいる。市販されている薬材は全長が10cm前後、黄褐色である。

 冬には虫の姿をし、夏に変じて草になると信じられていたため冬虫夏草の名があり、古来、ウドンゲとともに吉祥の印として知られていた。夏至の頃に雪が残っている山に入って、雪の表面から露出している子実体を見つけて掘り出す。かつて冬虫夏草という名はこの中国産のみの名称であったが、現在では一般に昆虫寄生菌に対する総称となっている。日本でも同様の昆虫寄生菌が発見されることもあり、またセミの幼虫に寄生したセミタケを特に金蝉花という。

 近年、中国では冬虫夏草の代替品として北虫草が人工栽培されている。北虫草はイコガの幼虫に冬虫夏草菌の一種C.militarisを寄生させたもので、冬虫夏草と比べ、亜鉛、セレン、ビタミンの量が多いことが認められている。

 冬虫夏草の成分には各種アミノ酸、ビタミンB12、ミネラルのほか、コルディセピン(虫草酸)、ジオクシアデノシン(虫草素)、ポリサッカライド(虫草多糖)、マンニトール(甘醇露)、エルゴステロールパーオキサイドなどが含まれ、抗菌作用、気管支拡張作用、血糖降下作用、降圧作用、免疫賦活作用、抗腫瘍作用などが報告されている。

 漢方では肺腎を補い、去痰・止咳の効能があり、肺結核などによる慢性の咳嗽、喀血、自汗、盗汗、インポテンツ、病後の体力低下などに用いる。虚弱体質の改善に人参、鹿茸などと配合する(双科参茸丸)。

 冬虫夏草は古くから不老不死、滋養強壮の妙薬といわれ、薬酒(冬虫夏草酒)や薬膳料理などにも珍重されている。1993年の世界陸上選手大会で活躍した中国の女子陸上チームが「冬虫夏草入りドリンク」を愛飲していたと大きく報じられ、ブームとなったためそれ以後価格が大きく上昇した。

木曜日, 2月 06, 2014

稲草






○稲草(とうそう)

 イネ科のイネ(Oryza sativa)の茎葉を用いる。コメはその粘性によって粳と糯に区別されるが、いずれの茎葉も稲草として用いる。一般にはもち米(糯米)を収穫した後の地上部を用いる。種子はうるち米を粳米、もち米を糯米といい、もち米の根と根茎を糯稲根鬚といい、二番芽を餅苗という。

 稲草には理気・消食の効能があり、消化不良、食滞、下痢、腹痛、糖尿病に用いる。糯稲根鬚には止渇・止汗・清虚熱の効能があり、病後の衰弱や盗汗、口渇、微熱などに用いる。糯米には補気・健脾の効能があり、多尿、発汗、下痢などに用いる。

水曜日, 2月 05, 2014

刀豆

○刀豆(とうず)

 熱帯アジア原産のマメ科のつる性多年草ナタマメ(Canavalia gladiata)の種子を用いる。ミャンマーや中国雲南省に自生し、インドや東南アジア、中国南部では栽培されて食用とされる。ナタマメや刀豆の名はさやの形が刀や鉈に似ていることによる。

 ナタマメはタンパク毒を有するが、水煮のあと数時間水にさらせば食用二できる。日本にも江戸時代に渡来し、現在ではおもに若い豆果を福神漬けとして用いている。

 一般にナタマメ属の完熟種子にはサポニンや青酸配糖体、有毒性アミノ酸のカナバニンやコンカナバリンAなどの有毒成分が含まれている。ナタマメ属の毒性は品種により異なり、タチナタマメ(C.ensiformis)やタカナタマメ(C.microcarpa)などには強い毒性がある。

 日本で栽培されているナタマメには、アカナタマメとシロナタマメの品種がある。アカナタマメにはある程度の毒性があるが、水煮の後、数時間水にさらせば食用にできる。一方、シロナタマメには毒性はほとんどないといわれている。

 カナバニンはアルギニンとよく似た化学構造をしており、タンパク質を生合成するときにアルギニンと識別できないため、生命に重大な支障をきたすといわれている。一方、カナバニンの排膿作用、抗炎症作用、血行促進作用なども報告されている。

 コンカナバリンAは、世界で始めて精製、結晶化された植物性の赤血球凝集素であり、抗腫瘍作用が知られている。漢方では温裏・止嘔・補陽の効能があり、しゃっくりや嘔吐、下痢、腰痛などに用いる。日本の民間では膿とりの妙薬といわれ、蓄膿症や歯槽膿漏痔漏などに用いられる。近年、豆を焙煎したナタマメ茶が慢性的な炎症体質者の健康茶として利用されている。

火曜日, 2月 04, 2014

灯心草

○灯心草(とうしんそう)

 日本全土、朝鮮、中国に分布し、水田の畦や湿地に自生するイグサ科の多年草イグサ(Juncus effusus)の茎および髄(灯心)を用いる。日本でもトウシンソウともいうが、古くからあるいはイグサと呼ばれ、その茎は畳表や花むしろの材料として利用されてきた。

 とくに江戸時代以後に瀬戸内海地方(備後・備中)で盛んに栽培されていた。イグサの髄は白くて弾力性があり、それをとってロウソクや灯明の芯に用いた。このため灯心草と呼ばれ、江戸時代には生活の必需品であった。薬材としてもこの髄を乾燥したものが市場に出ている。

 全草にはキシラン、アラバンなどの多糖類やフラボノイドのルテオリンなどが含まれているが、薬理作用は明らかでない。漢方では利水・通淋・除煩の効能があり、膀胱炎などによる排尿障害、浮腫、不眠、心煩、小児夜泣きなどに用いる。

 全身性に浮腫があり、呼吸困難のみられるときには茯苓・沢瀉などと配合する(導水茯苓湯)。肝硬変などによる腹水には蒼朮・白朮などと配合する(分消湯)。気分がすぐれないときには桂枝・蘇葉などと配合する(分心気飲)。「和方一万方」には黒焼きにして末にしたものを乳首に塗り、小児の夜泣きのときに飲ませる方法が記されている。民間療法ではイグサを噛み砕いて傷の止血に用いる。

月曜日, 2月 03, 2014

党参

○党参(とうじん)

 中国の山西・陝西・四川省などに産するキキョウ科のつる性多年草ヒカゲツルニンジン(Codonopsis pilosula)および同属植物の根を用いる。潞洲上党産の人参という意味である上党人参という名から党参と呼ばれていたが、清代になってウコギ科の人参とは別のものとして区別されるようになった。

 四川・河北省に産する同じキキョウ科のトウジン(C.tangshen)も川党と称され、党参のひとつとして用いられている。またセリ科のミントウジンの根を明党参というが、これは止咳・去痰薬であり党参の代用とはならない。

 成分にはサポニンやイヌリンが含まれるが、詳細は不明である。漢方では補中・益気・生津の効能があり、疲労倦怠、食欲不振、口渇、下痢、脱肛、咳嗽、呼吸困難などに用いる。一般、中国では人参が高価であるため、党参を人参の代用品として幅広く用いている。

 党参は補益作用は人参よりも弱く、人参の量の2~3倍を必要とするがね胃腸機能を高める作用は強く、また性質が穏やかで血圧に影響することも少ない。また貧血改善作用もあるといわれている。補気には黄耆と配合し、補血には当帰と配合し、健脾には白朮と配合し、補陰には麦門冬と配合する。

金曜日, 1月 31, 2014

硇砂






○硇砂(どうしゃ)

火山の溶岩の中や温泉に存在する天然のハロゲン化合物類の鉱物、塩化アンモン石の結晶を用いる。アンモニウムはエジプトのアンモンの神殿の付近で採れた岩塩ということに由来する。古くは腐敗尿から採取したが、現在ではアンモニア水を塩酸で中和したり、アンモニアソーダ法により炭酸ナトリウムを製造する際の副産物として得られる。

硇砂は透明ないし半透明の繊維状、粒状の白色結晶であるが、純水の塩化アンモニウム(NH4Cl)は無色透明の結晶である。硇砂には塩化アンモニア無のほかに少量のFe、SO4、Ca、Mgなどが含まれている。塩化アンモニウムは塩安ともいわれ、肥料としてよく知られている。また医薬品として利尿剤、去痰剤として用いられたこともある。

漢方では性味は鹹・苦・辛・温・有毒で、消積・消癥・軟堅散結の効能があり、腹部の腫瘤、嘔気、痰飲などに内服薬として、腫れ物、腫瘤、疣贅などに外用薬として用いる。嘔気や嘔吐、げっぷ、胸の痞えに平胃散に生姜とともに加える(硇砂丸)。

木曜日, 1月 30, 2014

透骨草

○透骨草(とうこつそう)

 透骨草の基原植物としてさまざまな種類の植物が利用されているが、一般にはトウダイグサ科のダイダイグサ(Speranskia tuberculata)やツリフネソウ科のホウセンカ(Impatiens balsamina)の全草が用いられる。ただしホウセンカには全草を鳳仙、その種子を急性子という生薬名もある。

 そのほか透骨草としてシソ科のメハジキ、マメ科のツルフジなども知られている。また香港ではシソ科のカキドオシ(連銭草)が透骨草として流通している。

 漢方では去風湿・止痛の効能があり、リウマチなどによる筋肉痛や関節痛、筋肉の痙攣、脚気、腫れ物などに用いる。しかし漢方薬というより、むしろ痛み止めの民間薬としてよく知られている。外用薬として用いることも多く、化膿性の皮膚炎などで腫れて痛むところを煎液で洗ったり、外相や蛇咬傷などに生のまま貼付して用いる。また咽に刺さった骨の治療には新鮮な汁を用いる。

水曜日, 1月 29, 2014

冬葵子






○冬葵子(とうきし)

 ヨーロッパ原産で世界各地に分布しているアオイ科の多年草フユアオイ(Malva verticillata)の種子を用いる。しかし、現在では、冬葵子として市場に流通しているものの中にはアオイ科の一年草イチビ(Abutilon avicennae)の種子も含まれている。ちなみにイチビの中国名は茼麻または莔麻といい、種子の本来の生薬名は茼実という。

 イチビはインド原産であり、日本には古い時代に繊維植物として中国から渡来し、栽培されていた。イチビの種子、茼実の効能はフユアオイの種子とは異なっているため、冬葵子の代用となり得るかどうか定かではない。

 漢方では利水・通淋・通便・通乳の効能があり、排尿障害、膀胱炎、浮腫、乳房の腫脹などに用いる。尿量が減少して浮腫のみられるときには茯苓などと配合する(葵子茯苓散)。尿路結石などには車前子・金銭草などと配合する。産後に母乳の出が悪かったり、乳腺が腫れて痛むときにも用いる。便秘には桃仁・郁李仁などと配合する。

 なお、中薬大辞典にはよると茼実は下痢、翼状片、瘰癧(頸部リンパ腺腫)、腫れ物に用いるとある。近年、韓国ではフユアオイの葉に便通を促進する効能があるといわれ、冬葵茶(トンギュンチャチャ)が便秘やダイエットの健康茶として話題になっている。

火曜日, 1月 28, 2014

当帰






○当帰(とうき)

 日本では奈良県や北海道で栽培されているセリ科の多年草トウキ(A.acutiloba)の根を用いる。日本の本州中部より北の山地にはミヤマトウキ(var.iwatensis)が自生しており、日本で栽培されているのはこの栽培種のトウキ(日本当帰・東当帰)である。中国産のものはカラトウキ(A.sinensis)といわれ種類が異なっている。

 日本で栽培されている当帰には昔から吉野地方で栽培されてきた大和当帰(別名:大深当帰)と昭和になって北海道で作られた北海当帰の2種類がある。品質は大和当帰、収量は北海当帰が優れているため、現在では北海当帰が多く出回っているが、交配種も多く栽培されている。

 当帰は甘味のある甘当帰系と辛味のある辛当帰系があり、大深当帰は甘当帰系であるが、北海当帰や中国産・韓国産は辛当帰系といわれている。日本では根の全体、すなわち全当帰を用いるが、中国では根の頭部を当帰頭、主根部を当帰身、支根部を当帰尾あるいは当帰鬚として区別することもある。日本薬局方では中国産のカラトウキは除外しているが、近年、日本のトウキを中国や韓国で栽培加工した生薬も日本で流通している。

 根には精油成分としてリグスチライド、サフロール、ブチリデンフタライド、そのほかクマリン誘導体のベルガプテン、ファルカリノール、脂肪酸などが含まれている。薬理作用として鎮痛・消炎作用や中枢系や循環器に対する効果が報告されている。漢方で重視されている作用は明らかではない。

 漢方では補血・活血・調経・潤腸の効能があり、月経不順、虚弱体質(血虚)、腹痛、腹腔内腫瘤、打撲傷、しびれ、皮膚化膿症、便秘などに用いる。

 トウキは婦人科領域の主薬であり、また「血中の気薬」ともいわれ、中国医学では当帰頭は補血、当帰身は養血、当帰尾は破血、全当帰には活血の効能があるといわれているが、日本では区別することは少ない。また中国では当帰の味を甘・辛としているが、日本産の大深当帰には辛味がほとんどない。

 近年、米国のハーバリストは当帰のことを”Dong Quai”とか、”Chinese angelica”と呼んで、月経不順や月経前症候群、更年期障害などの治療に用いている。一方、西洋では西洋アンゼリカ(A.archangelica)が、婦人病などの治療に用いられている。

月曜日, 1月 27, 2014

唐辛子






○唐辛子(とうがらし)

 南米原産で世界各地で栽培されているナス科の多年草トウガラシ(Capsicum annuum)やシマトウガラシ(C.frutescens)の成熟果実を用いる。唐芥子というが、日本には桃山時代のころにポルトガルから伝来し、中国にはそれより遅く明朝末期に導入されたといわれている。

 明代に著された「本草綱目」にはその名はなく、蕃椒という中国名は南蛮から伝わったことを表したものである。辛味の強い香辛料としてレッドペパー(Red pepper)と呼ばれ、カレー粉や七味唐辛子などに配合されている。とくに朝鮮料理の代表的な香辛料で、コチュと呼ばれている。

 果実には辛味成分のカプサイシンなどが含まれ、皮膚刺激作用や健胃作用が認められている。またカプサイシンは、交感神経を刺激し、発汗作用や熱産生作用があり、脂肪燃焼を促進させることから、ダイエット素材としても注目されている。

 近年、同様の効能を有するカプシエイトを含むトウガラシの品種改良も行われている。また、カロテノイドとして赤色色素成分のカプサンチンのほか、クリプトキサンチン、β-カロテン、ルテインなどが含まれている。中国医学では辛熱の温裏薬と分類され、健胃薬として食欲不振、消化不良に用いている。

 ただし、トウガラシは漢方薬ではなく、オランダ医学の流れをひいた薬草である。家庭薬は外用薬や温湿布として神経痛、筋肉痛や凍瘡などに対して用いられている。また発毛刺激剤としても古くから利用されている。

 民間療法ではトウガラシを腹でも頭でも痛む部位に貼り付ける。そのほか蚊を忌避させる作用があり、常食していると蚊に刺されないといわれる。ただし、皮膚刺激作用によりただれなどの皮膚炎を起こしやすく、また多量の摂取は胃腸の炎症や痔を悪化させる。

土曜日, 1月 25, 2014

冬瓜子






○冬瓜子(とうがし)

 熱帯アジア原産とされるウリ科のつる性の一年草トウガン(Benincasa hispida)の成熟種子を用いる。また果実を冬瓜、果皮は冬瓜皮といい薬用にする。

 トウガンは古くに中国から渡来し、10世紀ころには日本でも栽培が行われていた。今日では一般に8~9月に収穫されるが、古くは霜の下りるころに収穫され、また貯蔵性に優れており、冬の食べ物としてよく利用されていた。このため冬瓜の名がある。果肉の味は淡白で、独特の風味があり、スープや煮物、漬物などに利用される。

 種子にはサポニン、脂肪、タンパクのほか、アデニン、トリゴネリンなどが含まれる。漢方では清熱化痰・排膿の効能があり、肺炎による咳嗽や肺化膿症、虫垂炎などの化膿性疾患に用いる。

 肺癰(肺化膿症)などで咳嗽、喀痰、胸痛などの症状のあるときには芦根・薏苡仁などと配合する(葦茎湯)。腸癰(虫垂炎)などで右下腹部に痛みのあるときには大黄・牡丹皮などと配合する(大黄牡丹皮湯・腸癰湯)。また冬瓜や冬瓜皮には利水・消腫の効能があり、浮腫や排尿障害などに茯苓・沢瀉・猪苓などと配合する。

金曜日, 1月 24, 2014






○銅(どう)

 は古くから中国や日本では(小金)・(白金)と並んで三品といわれ、今でも銅のことをアカガネ(赤金)とも呼んでいる。銅は日本に比較的多く産出する金属で、銅鉄鋼としては黄銅鋼が最も重要である。鉱物学的にいえば天然に単体で産する銅を自然銅というが、生薬の自然銅は黄鉄鉱のひとつである。

 銅(Cu)は動物にとって必須元素であるが、ほとんどの食物に微量ながら含まれているため、一般に銅の欠乏症はみられない。金属銅は無害であるが、水に溶けた銅イオンは有毒である。足尾銅山鉱毒事件は鉱山から流出した銅イオンが稲や小麦の生育に障害を与えた公害問題であった。しかし銅イオンの人に対する毒性は低く、体内の蓄積や重篤な組織障害はみられない。

 一方、銅は造血に関与し、骨折に対して良好な影響がある。ただし、硫酸銅、酢酸銅などは内服すれば迷走神経を刺激して反射性の嘔吐を引き起こす。また銅塩の稀溶液は局所的な収斂作用があり、とくに眼科に応用される。

 銅を含む漢方生薬として硫酸銅の胆礬、炭酸銅や酢酸銅の銅緑、炭酸化合物の扁青、塩化化合物の緑塩などがある。扁青は深銅鉱を砕いたもので、2CuCO3・Cu(OH)2を成分とし、緑塩はCu2(OH)3Clを成分とする緑色の結晶体で、細かく研って点眼薬として角膜混濁や充血、流涙、眼脂などに用いる。

木曜日, 1月 23, 2014

天羅水

○天羅水(てんらすい)

 ウリ科のヘチマ(Luffa cylindrica)の茎中の汁を用いる。ヘチマの果実は糸瓜といい、果実の繊維を糸瓜絡という。盛夏から夏の終わりごろ、ヘチマの茎の地上50cmのところで切り、雨水が入らないように根のほうの切り口を瓶の中に入れておくと一昼夜でヘチマ水がとれる。普通、一株から2L以上のヘチマ水がとれる。このままでは腐敗しやすいため、煮沸してから濾過し、リスリンやアルコール、さらに安息香酸ソーダを混和する。

 ヘチマ水はかつて美人水ともいわれ、江戸時代には幕府の奥女中のために献上されたことが記されている。民間では化粧水に用いるときはヘチマ水にホウ砂を少し加え、よく振って溶かして用いる。入浴後にヘチマ水を顔や手足につけると、肌の潤いが保たれる。またヒビやしもやけ、湿疹などに外用薬として用いる。

 足によく擦り込んでおくと、足の冷えがよくなるともいわれている。このほか咳が出て痰が切れないときは内服せずに、含嗽料として用いる。「痰一斗、ヘチマの水も間に合わず」は正岡子規の辞世の句として知られている。

水曜日, 1月 22, 2014

天雄





○天雄(てんゆう)

 キンポウゲ科の多年草トリカブト類の細い根を天雄という。一般にトリカブト類の根は附子という名でよく知られているが、根は茎に続く塊根(母根)の周囲に数個の新しい塊根(子根)が連成している。

 本来、この母根を烏頭といい、子根を附子という。しかし、子根を有しない細長い根のこともあり、この根は子を産まない天性の雄ということから、とくに天雄と呼ばれている。一説によると早春に茎を伸ばし始めたころの新しい母根のことともいわれている。

 漢方では去風湿・温裏・補陽の効能があり、烏頭や附子とほぼ同様である。強い毒性があるため、一般に強火であぶったり、乾姜などで調整加工して用いる。現在、日本では流通していない金匱要略に収載されている天雄散はインポテンツや滑精、腰や膝が冷えて痛むときに用いられている。

火曜日, 1月 21, 2014

天門冬

○天門冬(てんもんどう)

 日本の関東地方以南、台湾、中国などの暖かい海岸の砂地に自生するユリ科のつる性多年草クサスギカズラ(Asparagus cochinchinensis)の塊根を用いる。スギの葉に似た葉状枝のあることからクサスギカズラといわれ、同属植物にはアスパラガスがある。短い根茎に紡錘形に肥大した塊根が多数付いている。

 根には粘液質やアスパラギン、βシトステロール、サポニンなどが含まれ、抗菌作用やインターフェロン誘起作用が報告されている。漢方では滋陰清熱・化痰の効能があり、咳嗽、吐血、口渇、咽頭の腫痛などに用いる。作用は麦門冬とほぼ同じで、おもに陰虚による咳嗽や微熱、炎症に用い、しばしば二冬と称して両者を併用する。とくに肺陰虚による高齢者などの慢性の咳嗽や粘稠痰の症状に適している。

 慢性気管支炎や気管支拡張症などで痰が粘稠で切れにくく、咳が続くときには黄芩・桔梗などと配合する(清肺湯)。高齢者の肺結核などで慢性的な咳嗽や粘稠痰のあるときには地黄・麦門冬などと配合する(滋陰降火湯)。口腔や歯肉、咽頭に潰瘍や炎症があって腫れて痛むものに枇杷葉・地黄などと配合する(甘露飲)。

 民間では滋養・強壮や咳止めの効果があるとして薬酒に用いている(天門冬酒)。天門冬の蜂蜜漬けも強壮・咳止めに利用されている。近年、中国において天門冬の抗癌作用が研究されており、白血病や乳腺癌などに対する効果が検討されている。

土曜日, 1月 18, 2014

天名精

○天名精(てんめいせい)

 日本の全土、朝鮮半島、中国などに分布するキク科の越年草ヤブタバコ(Carpesium abrotanodes)の根や茎を用いる。根から出た葉の形が卵形でタバコの葉に似ているためヤブタバコという。ちなみにヤブタバコの果実は鶴虱といい、駆虫薬として知られている。

 全草には精油、イヌリンが含まれ、果実にはカルペシアラクトンなどが含まれる。漢方では清熱解毒・去痰の効能があり、扁桃炎や咽頭炎、気管支炎などに用いる。また歯痛のある部位に生の天名精を詰めたり、外傷や腫れ物などを煎じた液で洗う。また全草の粉末をゴマ油で練って作った軟膏を火傷の患部につける。

金曜日, 1月 17, 2014

天麻

○天麻(てんま)

 日本、中国、台湾などに分布するラン科の多年草オニノヤガラ(Gastrodia elata)の根茎を用いる。雑木林の中の陰湿地に生える腐生ランの一種で、塊茎でナラタケの菌糸と共生して栄養分を作るため、オニノヤガラには葉緑素はなく、茎も黄赤色で背丈1mくらいに直立している。枝や葉もなく、赤っぽい棒状の様子を鬼の用いる矢に例えて「鬼の矢柄」と呼んでいるが、同じように神農本草経にも赤箭と記載されている。

 地価には直径が10cmくらいの偏平で楕円形の塊茎ができるが、これを薬用にする。アイヌはこの塊茎を煮て食用にしたともいわれる。一般に冬と春に採集し、春の方が多く採れるが、冬に採取したもの(冬麻)の品質が優れているとされる。

 天麻は高価な生薬のためジャガイモを乾燥させた「洋天麻(貴天麻)」と称する偽品も出回っている。しかし、1980年頃からオニノヤガラの栽培品が輸入されるようになり、価格はかなり下落した。

 天麻の有効成分の詳細は不明であるが、多量の粘液質やバニリルアルコール、バニリンなどが含まれ、バニリルアルコールには胆汁分泌作用や癲癇発作抑制作用が、また天麻のエキスには鎮痛作用が報告されている。漢方では平肝・定驚・止痙・止痛の効能があり、眩暈や意識障害、痙攣、頭痛、ヒステリー、関節痛などに用いる。

木曜日, 1月 16, 2014

天南星

○天南星(てんなんしょう)

 サトイモ科の多年草マムシグサ(Arisaema serratum)やウラシマソウ(A.thunbergii ssp.urashima)などの同属植物の塊茎を用いる。中国産の基原植物には天南星(A.consamguineum)、ヒロハテンナンショウ(A.amurense)、マイヅルテンナンショウ(A.heterophyllum)などが挙げられている。

 これらはいずれもマムシグサに似た花が咲くが、葉の形はそれぞれ異なっている。花序は仏焰苞といわれる独特の筒状にあり、同科のカラスビシャクなどと共通している。マムシグサは日本各地、朝鮮半島、中国に分布し、偽茎の模様がマムシの文様に似ていることからその名がある。

 ウラシマソウも日本各地に分布し、その名は花序の付属体が細長く延びて垂れ下がるのを浦島太郎の釣り糸に見立てたものである。神農本草経には虎掌という名で記載しているが、これは葉の形に由来する。

 生の球茎にはコニインに類似した有毒成分が含まれ、食べると強烈な刺激がある。そのほかの成分としてトリテルペンサポニンや安息香酸なども含まれ、鎮静作用、去痰作用、抗腫瘍作用が報告されている。一般に加工していない天南星を湯液に用いるときには生姜を配合して十分に煎じることが必要である。

 修治したものには、晒した天南星に新鮮な生姜を加えて苞製した製南星、晒した天南星の粉に牛の胆汁を混ぜて製した胆南星(別名:胆星)などがある。漢方では燥湿化痰・止痙の効能があり、眩暈、麻痺、痙攣、ひきつけなどに用いる。

 天南星は半夏と同様に乾湿化痰の代表薬であるが、半夏が胃腸の湿痰を除くのに対し、天南星は経絡の風痰を治療するといわれている。この風痰とは脳卒中や癲癇の病態と考えられている。民間では生の塊茎をすりおろして酢に混ぜ、腫れ物や肩こり、乳房の腫れなどに外用する。

水曜日, 1月 15, 2014

天竺黄

○天竺黄(てんじくおう)

 イネ科マダケ(Phyllostachys bambusoides)や青皮竹(Bambusa texilis)、大竹節(Indosasa crassiflora)などのタケに寄生する竹黄蜂によって穴が開き、竹の節の間に溜まった塊状のものを天竺黄という。しかし、自然に産するものは少ないので、竹を人工的に過熱して出てきた液体、つまり竹瀝を凝固させ、乾燥させてできたものを用いる。軽くサクサクとした白っぽい塊で、砕けやすく断面にはつやがある。なめると舌に粘り、甘くて涼感がある。

 成分には水酸化カリウムやケイ酸などが含まれる。漢方では清熱・化痰・定驚の効能があり、熱病で意識が混濁したり、脳卒中で痰が胸に詰まって苦しいとき、癲癇や小児のひきつけなどに用いる。小児での痰熱驚風の要薬といわれ、とくに小児の熱病にみられる呼吸困難やひきつけ、夜泣きなどに用いる。

 小児のひきつけや発熱時の呼吸困難などに白僵蚕・牛黄などと配合する(小児回春丹)。日本でも脳卒中や小児のひきつけなどに用いる伝統的な練り薬、烏犀圓の中に天竺黄が配合されている。また竹瀝の代用として用いることがある。

火曜日, 1月 14, 2014

天葵子

○天葵子(てんきし)

 中部地方以西、朝鮮半島、中国などに分布するキンポウゲ科の多年草ヒメウズ(Semiaquilegia adoxoides)り全草を天葵といい、塊根を天葵子という。塊根が烏頭に似て小型なためヒメウズといい、その形がネズミの糞に似ているため千年老鼠屎という異名がある。田端のあぜや石垣の隙間などに生える雑草で、4~5月頃に小さな花を下向きにつける。

 根にはアルカロイド、ラクトンなどが含まれ、抗菌作用が知られている。漢方では清熱・解毒・利尿の効能があり、皮膚の化膿や腫れ物、乳腺炎、蛇による咬傷や打撲傷、膀胱炎などに内服あるいは外用として用いる。

 外用としては新鮮な天葵子の根をすりつぶした汁を用いる。近年、中国では注射液による上気道炎の治療や乳癌や肝癌、リンパ肉腫などに対する臨床研究が行われている。

金曜日, 1月 10, 2014

テリアカ

○テリアカ

 古代ローマ帝国で創製されたといわれる万能解毒剤のことをいう。紀元前1世紀に国会の南にあるポントス王国の国王ミトリダテス作ったとされる解毒剤ミトリダトをローマ皇帝ネロの侍医であるダモクラテスが改良し、これに、やはりネロの侍医であるアンドロマコスが毒蛇の肉を加えて完成させたと伝えられている。

 テリアカはアラビア人によって盛んに用いられ、ヨーロッパでも有名で、19世紀の終わりごろまで西洋諸国の薬局方にも収載されていた。テリアカは中国にも伝えられ、唐代に著された本草書「新修本草」(659年)の中に底野迦と記されている。この新修本草を通じて奈良時代に日本にも紹介され、医心方にも底野迦は収載されていた。ただし、実際のテリアカは16世紀の戦国時代にポルトガル人によって伝えられたと推定されている。

 テリアカの中味は毒蛇の肉以外ははっきりせず、60種以上の薬草や土、動物の糞などが混ぜられているといわれ、後世のテリアカには阿片が主薬として配合されていたと推定されている。テリアカの有効性は不明だが、毒蛇や動物による咬傷に用いられた。

 このほうヨーロッパで知られていた解毒剤として牛黄(東洋解毒石)馬糞石(西洋解毒石)があり、中世には一角(ウニコルン)なども解毒剤として用いられた。

木曜日, 1月 09, 2014

○鉄(てつ)

 紀元前1500年ごろからインドや黒海北岸で木炭を燃料として製鉄が始まったとされている。中国では紀元前6世紀ごろから鉄器の製造が始まった。

 製鉄の原料はおもに赤鉄鉱(Hematite)、褐鉄鉱(Limonite)、磁鉄鉱(Magnetite)であるが、天然の鉄鉱石で薬用になるものには赤鉄鉱の代赭石、褐鉄鉱の禹余粮、磁鉄鉱の磁石などがある。また緑礬や自然銅、蛇岩石なども鉄を含む鉱石である。

 精錬されたは含まれる炭素量の多いものから生鉄、鋼鉄、塾鉄に区別される。薬用にされる鉄としては、生鉄をはじめ、生鉄を赤くなるまで熱した外側が酸化したとき叩き落された鉄屑の鉄落、鋼鉄を精錬するときにできる粉末の鉄粉、鋼針の製造のときにできる屑の鍼砂、空気中に放置してできる赤褐色の錆の鉄錆、水に浸して錆が出た後にできる溶液の鉄漿などがある。

 鉄が人間の健康に役立つことは古代ギリシャ時代から知られていたが、貧血の治療に有効であるとわかったのは17世紀のことである。金属鉄は一般に吸収されないが、一部は胃酸の作用でイオン化されて吸収される。還元鉄は吸収されるが、吐き気や下痢などの胃腸障害が強い。このため増血剤として除放製鉄剤や有機酸鉄が利用されている。また、肉や魚のミオグロビンやヘモグロビンに由来するヘム鉄は、野菜や穀類に含まれる非ヘム鉄よりも数倍も吸収率が高いため、健康食品にはしばしばヘム鉄が用いられている。鉄は吸収されると造血が促進され、中枢神経の機能が改善される。

 漢方ではこれらの鉄に平肝・安神・定驚・消腫・解毒の効能があるとし、癲癇やひきつけ、興奮、発狂、不安、動悸などに用いるほか、丹毒や疔瘡などにも用いる。丹毒や疔瘡などの皮膚化膿症には内服だけでなく、外用薬としても用いる。日本では江戸時代に鉄粉を黄胖といわれる貧血の治療に応用している。

 痔の出血が続き、貧血による浮腫や動悸のみられるときには鉄粉に茵蔯蒿・荊芥・蒲黄などを配合する(茵荊湯)。貧血症による浮腫、動悸、息切れ、眩暈には当帰・茯苓などを配合する(当帰散)。一方、慢性肝炎から肝硬変、肝癌へと移行する過程に、鉄が存在すると悪化が促進されるため、体内から鉄を減らす瀉血などが薦められている。

水曜日, 1月 08, 2014

葶藶子

○葶藶子(ていれきし)

 日本では各地に広く分布しているアブラナ科の越年草イヌナズナ(Draba nemorosa)の種子を葶藶子という。中国産は日本にも帰化植物として普通にみられるアブラナ科のマメグンバイナズナ(Lepidium virginicum)やヒメグンバイナズナ(L.apetalum)、クジラグサ(Descurainia sophia)の種子である。

 マメグンバイナズナやヒメグンバイナズナの種子は北葶藶子(苦葶藶子)、クジラグサの種子は南葶藶子(甜葶藶子)ともいわれる。現在、日本で流通しているものは、おねもに甜葶藶子である。葶藶子の成分として強心配糖体のヘルベチコシドなどが知られている。

 漢方では逐水・止咳・消腫の効能があり、喘息や浮腫などに用いる。とくに葶藶子は「気を下し、水を行らす」作用があるといわれ、肺に滞った水分を除き、胸水や肺水腫、多量の痰などの状態を改善する。また通便作用もあるが、他の逐水薬とは異なり、激しい下痢にはならない。ただし胃に対する刺激性があるため、一般に大棗の煎液で服用する。

 心臓喘息や百日咳で咳や痰が多く、呼吸困難や浮腫のみられるときには大棗と配合する(葶藶大棗瀉肺湯)。胸水や腹水があり、呼吸困難、顔面や四肢の浮腫などのみられるときには防已・椒目・大黄と配合する(已椒藶黄丸)。

火曜日, 1月 07, 2014

通草

○通草(つうそう)

 中国南部の各地方に自生するウコギ科の常緑低木カミヤツデ(Terapanax papyriferum)の幹の白い髄を用いる。日本でも温暖地で観賞用に栽培されている。和名のカミヤツデは「紙八手」と書き、ヤツデによく似た茎や掌状の葉を有している。

 茎の幹を30cmほどに切り出し、幹の髄を新鮮なうちに取り出し、特殊な刃物で紙のように薄く四角くのばして日干しにする。これはチャイニーズライスペーパー(通草紙)といわれ、かつて造花の材料にも利用された。薬用にも方通草といって、このような薄片を用いることもある。

 ところで神農本草経にある通草とは木通のことで、傷寒論の当帰四逆湯に配合されている通草も一般には木通が使用されている。カミヤツデの髄にはリグニン、ペントサン、ガラクタンなどが含まれているが、薬理作用に関しては不明である。漢方では利水・通淋・通乳の効能があり、膀胱炎などの排尿異常や浮腫、母乳不足などに用いる。

土曜日, 1月 04, 2014

陳皮

○陳皮(ちんぴ)

 日本ではミカン科のウンシュウミカン(Citrus unshiu)の果皮を用いる。本来は新鮮なものを橘皮、その古くなったものを陳皮といっていたが、日本では区別しない。中国ではオオベニミカン(C.tangerina)やコベニミカン(C.eryhrosa)など多種の果皮が用いられる。やや未成熟なウンシュウミカンの果皮は青皮という。

 ウンシュウミカンは日本原産で、江戸時代に偶然にみつけられたものである。すなわち、この品種は南中国から九州に渡来したミカンの変種で、鹿児島県の長島が原生起源地とされている。ウンシュウとはミカンの栽培で有名な中国の浙江省温州のことであるが、この品種と温州とは直接の関係はない。

 江戸時代には紀州ミカンが全盛であったが、明治以降、九州から日本各地にウンシュウミカンの栽培が広まった。現在、愛媛・和歌山・静岡・佐賀・熊本の各県などでおもに生産されている。以前、陳皮は日本で自給可能であったが、工場で皮を向く工程が自動化されるようになって、国内で生産されなくなった。

 陳皮の陳は陳旧の意味であり、古いほうが良品とされる六陳(枳実・呉・呉茱萸・半夏・陳皮・麻黄・狼毒)のひとつである。果皮にはリモネンやテルピネンを成分とする精油、フラボノイド配糖体のヘスペリジン、ナリンギンなどが含まれ、健胃・蠕動促進作用、中枢抑制・鎮静作用、抗炎症作用などが知られている。近年、ウンシュウミカンの果皮や果肉に含まれるカロテノイドの一種、βクリプトキサンチンに抗腫瘍作用のあることが注目されている。

 漢方では理気・健脾・化痰の効能があり、消化不良による腹満感や嘔気、痰が多くて胸が苦しいときなどに用いる。ちなみに日本の七味唐辛子や中国料理の五香粉などにも配合されている。