○朮(じゅつ)
キク科に属する多年草オケラ(Atractylodes japonica)およびその同属植物の根茎を朮という、オケラは、秋にはアザミに似た白い花が咲き、花の周囲は魚の骨のような総苞で覆われている。
大晦日の夜に京都の八坂神社で行われているオケラ祭りは、オケラを燻べてつけた神灯の火を縄につけて家に持ち帰り、それでつくった雑煮を食べて無病息災を祈念する行事である。また俳句の季語に「蒼朮焼く」とあるように、衣類や書籍がカビないようにオケラを焼きいぶす風習もあった。
現在、生薬の朮には白朮と蒼朮の2種類があり、日本のオケラ(和白朮)や中国産のオオバナオケラ(A.macrocephala)は白朮に、ホソバオケラ(A.lancea)やシナオケラ(A.chinensis)は蒼朮として区別されている。ただし中国ではオケラを蒼朮のひとつとして扱っている。
ただし中国ではオケラを白朮として用いず、地方によってはオケラを蒼朮のひとつとして扱っている。もともと日本にはオケラ(白朮)の一種しか自生していなかったが、江戸時代に中国から渡来したホソバオケラ(蒼朮)が栽培されるようになった。かつて日本ではオケラの根茎の周皮を削ったものを白朮とし、そのまま蒼朮としていたこともあった。中国でも6世紀まで、朮はあまり区別されておらず、処方で蒼朮に区別するようになったのは明代になってからである。
神農本草経に収載されている朮は産地から蒼朮が推定されているが、傷寒論の朮に関しては中国では白朮としているが、吉益東洞は蒼朮にすべきであると主張している。本草綱目では朮とは別に蒼朮をあげ、朮を白朮のこととしている。
成分的な分析による鑑別として日本薬局方ではアトラクチロンを主成分としてアトラクチロジンを含まないものを白朮、アトラクチロジンを多く含んでほとんどアトラクチロンを含まないものを蒼朮と規定している。
漢方ではいずれも病的な水分を改善するという燥湿の効能があるが、とくに白朮は胃腸間の水分、蒼朮は体表部の水分を除くのに優れている。また白朮には健脾、補気、元気をつけるのに対し、蒼朮には去風湿の効能があり、関節の浮腫や湿疹などに効果がある。一般に白朮は蒼朮よりも薬性が緩和である。