○伊保多蠟(いぼたろう)
カタカイガラムシ科の昆虫イボタロウカイガラムシ(Ericerus pela)の幼虫がモクセイ科の樹木の枝や幹に分泌した蠟状の物質を精製したものを用いる。この昆虫の寄生する樹木として日本ではモクセイ科のイボタノキ(Ligustrum obtusifolium)やトネリコ(Fraxinus japonica)が知られているが、中国ではトウネズミモチ(L.lucidum)やシナトリネコ(F.chinensis)が有名である。
イボタノキは日本各地の山林中に見られる落葉低木である。伊保多蠟は富山県や福島県で多く産する。イボタロウカイガラムシの成虫のオスは翅開張は4mmくらいの小さな虫である。メスは受精すると著しく膨大して球形となり、イボタノキに産卵する。孵化した幼虫のオスは枝にじっとしたまま樹液を吸って体から白色の蠟物質を分泌し、体外を包み、この蠟が相互につながって枝が白く覆われる。夏の早朝にこの枝を切り、沸騰した湯の中に入れて蠟を溶かし、水面に浮いたものを冷やして固めたものが伊保多蠟(虫白蠟)である。このロウは戸のすべりや家具のつや出しに、中国ではロウソクの原料に用いられる。
成分には脂肪酸のセロチン酸、イボタセロチン酸、セリルアルコールなどが含まれる。民間では疣(いぼ)の根元を絹糸で縛り、その上からロウをつけて治療するため、イボタノキ(イボ取リノ木)の名前がある。漢方では止血・生肌・止痛の効能があり、おもに膏薬として外科の治療に用いる。