スポンサーリンク

土曜日, 11月 30, 2013

淡竹葉

○淡竹葉(たんちくよう)

 イネ科ササクサ(Lophatherum gracile)の全草を淡竹葉という。日本ではイネ科のマダケ(Phynostachys bambusoides)やハチク(P.nigra)の葉を和淡竹葉ということもある。淡竹葉は竹葉としばしば混同され、中国ではハチクの葉は竹葉という。

 ササクサは関東地方から西の日本各地、朝鮮半島根中国やインドに分布し、山地や湿地に生えている草丈40~70cmの雑草である。ササクサの名は葉が笹に似ているが草であることを意味している。

 葉にはトリテルペノイドのアルンドインやシリンドリンが含まれ、解熱作用、利尿作用が認められている。漢方では安神・除煩・利尿・通淋の効能があり、心火の熱を清するといわれている。心火とは炎症などによる発熱、脱水、神経の興奮などの症状で、煩躁、顔面紅潮、口渇、口内炎、鼻血、濃縮尿などがみられる。

 口内炎や口渇、尿路感染症などには生地黄・木通・甘草などと配合する(導赤散)。淡竹葉と竹葉には、いずれも清心除煩、利尿の作用があり、しばしば同様に用いられる。ただし、心熱を清する作用は竹葉のほうが、利尿作用は淡竹葉のほうが強いとされている。民間では糖尿病の予防に淡竹葉を煎じてお茶代わりに利用している。

金曜日, 11月 29, 2013

丹参

○丹参(たんじん)

 中国各地に分布するシソ科の多年草タンジン(Salvia miltiorhiza)の根を用いる。名医別録には赤参とあり、赤参や丹参の名は根が赤いことに由来する。この色は根にフェニンスラキノン系の色素であるタンシノンⅠ(紫褐色)、タンシノンⅡ(赤色)、クリプトタンシノン(橙色)などが含まれていることによる。日本ではあまり用いられないが、中国では単味の錠剤や注射薬なども開発されている。

 漢方では活血・通経・涼血・安神などの効能があり、月経不順、月経困難症、産後の腹痛などの婦人科疾患をはじめ、胸痛や腹痛、乳腺腫脹、癰腫、リウマチ、神経衰弱などに用いる。

 婦人明理論には「ただ一味の丹参散の主治は四物湯と同じである」と記されている。月経不順や産後の腹痛には丹参末として酒で服用する(丹参散)。心筋梗塞や狭心症の治療薬として知られる冠心Ⅱ号方には川芎・降香・紅花・赤芍などとともに配合されている。

 また中国では慢性肝炎や肝脾腫、甲状腺腫などの治療にも用いている。アルコールで浸出した丹参酊は神経衰弱や眩暈症などに用いる。近年では丹参の注射薬を慢性肝炎や心筋梗塞などの治療に応用している。

木曜日, 11月 28, 2013

淡菜

○淡菜(たんさい)

 軟体動物のイガイ目イガイ科の二枚貝、イガイ(Mytilus coruscus)などの貝類の肉を用いる。イガイは北海道南部から九州、朝鮮半島、中国北部沿岸に分布し、水深20mまでの岩礁に群生する。

 イガイはガラスガイ、ニタリガイなどの別名があり、殻長は13cmくらいで表面が黒っぽい二枚貝で、肉は美味しく、中国や日本で食用にされる。中華料理では淡菜または東海美人と呼ばれている。

 漢方では肝腎を補い、精血を益する効能があり、肺結核などの慢性病や体力低下、盗汗などに用いる。一方、ニュージーランド産の緑イ貝、モエギイガイ(Perna canaliculus)には抗炎症作用があり、リウマチ、関節炎、腰痛などの健康食品として市販されている。ちなみに近縁種のムラサキイガイ(M.galloprovincialis)はムール貝とも呼ばれ、フランス料理などで珍重されている。

水曜日, 11月 27, 2013

タラ木

タラ木(たらぼく)

 日本全土、朝鮮半島、中国東北部に分布するウコギ科の落葉低木タラノキ(Aralia elata)の根皮や樹皮を用いる。日本市場ではタラ木、タラ木皮、タラ根皮などという。

 ニホンではタラノキを漢字の楤木にあてるが、タラノキは中国名の遼東楤木に相当し、中国ではタラノキの根皮あるいは樹皮を刺老鴉という。中国産の楤木(A.chinensis)は楤木根、樹皮を楤木白皮という。

 タラノキの幹は2~4mくらいに直立し、樹皮の表面には多数の鋭い刺がある。タラの若芽(タラの芽)は独特の香味のある山菜としてよく知られている。

 タラノキの根皮や樹皮にはサポニンのα・βタラリンやエラトサイド、プロトカテキュ酸などが含まれ、エラトサイドには糖やアルコールの吸収を抑制する作用のあることが報告されている。日本の民間ではタラ根皮の煎じたものを「たら根湯」と称し、糖尿病の妙薬として用いられている。またトゲを煎じて服用すれば高血圧にもよいといわれている。

 中国の楤木皮はリウマチ痛風などによる関節痛に用いられるほか、胃潰瘍や腎臓病、神経痛にも使われている。また腎炎による浮腫や肝硬変による腹水、糖尿病などの民間療法としても用いられている。

 一方、タラノキの樹皮である刺老鴉は安神薬や強壮・強精薬として知られている。ちなみに美白作用のあるエラグ酸の原料に用いられているタラ(Tara)は、ペルー原産のマメ科の植物(Caesalpinia spinosa)のことである。

火曜日, 11月 26, 2013

煙草

○煙草(たばこ)

 南米のボリビア南部のアンデス山地を原産とするナス科の多年草タバコ(Nicotiana tabacum)の葉と茎を用いる。現在では中国、アメリカ、インドなど世界中で広く栽培されている。

 紀元前からすでに中米のインディオの間ではタバコの喫煙が行われ、700年ころにはユカタン半島のマヤ族などにも伝わった。15世紀末、コロンブス一行はサンサルバドル島で原住民の喫煙を知り、1518年にはタバコの種子がスペインへともたらされた。

 タバコ(Tobacco)という語源は原住民が喫煙に用いていたパイプの名に由来し、属名のニコチアーナというのは種子をフランスに伝えたフランス大使のジャン・ニコーの名に由来する。日本へは16世紀末の戦国時代に南蛮船により伝えられ、九州で栽培されるようになり、喫煙の習慣は急速に広まった。

 かつてインディオにとってタバコは宗教的な儀式の道具であり、またタバコの煙によって病人の体に入っている「病気の精霊」を追い出すものと考えられていた。ヨーロッパでも喘息、頭痛、痛風などの万病の霊薬として伝えられたが、次第に嗜好品として広がっていった。

 タバコの葉の成分はアルカロイドのニコチンのほか、ノルニコチン、アナバシンなどが含まれている。ニコチンは交感神経次いで副交感神経を興奮させるが、のちに抑制する。中枢神経に対しても全体を興奮させるが、のちに抑制が生じる。

 急性ニコチン中毒の症状では嘔吐、腹痛、下痢、流涎、冷汗、眩暈、脱力発作、精神錯乱がみられ、さらには失神、痙攣を生じて呼吸麻痺で死亡する。ニコチンは毒性が強いため医療には用いられないが、ニコチンの硫酸塩は殺虫剤として農薬などに利用されている。

 一般にタバコの喫煙は抗ストレス作用があり、一時的に精神活動を活発にする効果があるといわれている。しかし煙の中にはピリジン、タール様物質、フェノール様物質などの化合物が含まれ、タバコ肺癌、喘息、咽喉頭癌、慢性閉塞性肺疾患、虚血性心疾患、バージャー病などの疾患との因果関係が指摘されている。

月曜日, 11月 25, 2013

○獺肝(たっかん)

 ほぼ世界全域に生息するイタチ科の動物カワウソ(Lutra lutra)の肝臓を用いる。かつて日本各地にニホンカワウソが生息していたが、毛皮はラッコに似ていて良質のために乱獲され、1979年に高知県の須崎で目撃されたのを最後に、現在では絶滅したと考えられている。

 体長約70cmくらい、尾の長さは40cmくらいの細長い茶褐色の動物で、脚には水かきがある。川や湖の岸辺に生息し、半水生動物で、夜間活動して魚介類や小鳥、ネズミ、カエルなどを食べている。薬材の肝臓は6片に分かれた黒褐色のもので、ひとつが5cmくらいである。

 漢方では滋陰清熱・止咳・止血の効能があり、虚労や結核、慢性疾患などによる発熱、盗汗、咳嗽、喘息、下血などに用いる。金匱要略では獺肝一味をあぶって粉末にしたものを肺結核に用いている(獺肝散)。

土曜日, 11月 23, 2013

竹蜂

○竹蜂(たけばち)

 中国の華南地方や台湾に分布するミツバチ科のタイワンタケクマバチ(Xylocopa dissimilis)の乾燥した全虫体を用いる。このクマバチは竹に営巣するもので、竹の各室に花粉と蜜を貯えて産卵し、冬には巣内で越冬する。

 このクマバチを秋から冬に採取するが、まずハチの群れが竹の中にいるときに穴を塞ぎ、切り倒したものを火で燃やし、ハチが死ぬのを待って竹を割って取り出す。2~4匹をあぶって乾燥し、粉末にして服用する。

 漢方では清熱解毒・定驚の効能があり、咽頭炎や扁桃炎、歯痛、口内炎、のぼせ、小児のひきつけなどに用いる。

金曜日, 11月 22, 2013

沢蘭

○沢蘭(たくらん)

 日本各地から東アジアにかけて分布するシソ科の多年草シロネ(Lycopus lucidus)の開花期全草を用いる。シロネの根は地筍という。根が白いためにシロネといい、春に肥大した根を掘り出して食用にすることができる。

 シロネは水辺や湿地に生え、葉はキク科のフジバカマ(Eupatorium japonicum)に似ていることから沢蘭といわれるが、香りはない。古くから蘭草としばしば混同され、フジバカマやサワヒヨドリ(E.lindleyanum)を沢蘭にあてている本草書もある。中国でも地方によってはフジバカマなどが沢蘭と呼ばれて用いられている。

 全草には精油、配糖体、タンニン、サポニンなどが含まれ、強心作用や血行促進作用が知られているが、詳細は不明である。漢方では活血・調経・利水消腫の効能があり、瘀血による月経の遅れや生理痛、産後の浮腫などに用いる。

 婦人科の常用薬であり、月経不順や生理痛には香附子・当帰などと配合する(四制香附丸)。また打撲による内出血や捻挫、腰痛などにも効果がある。腫れに沢蘭の生の葉をすりつぶして塗布する民間療法もある。

木曜日, 11月 21, 2013

沢瀉

○沢瀉(たくしゃ)

 中国東北部や朝鮮、日本の北部に分布し、沼沢地や浅い水中に生えるオモダカ科の多年草サジオモダカ(Alisma plantago-aquatica)の塊茎を用いる。北海道や信州で栽培されているが、市場品のほとんどは中国などからの輸入品で、四川省の川沢瀉や福建省の建沢瀉などが有名である。

 沢瀉という名は水中(沢)にあって水を弾く性質(瀉)があることに由来するとか、薬の効能が「水を去ること(瀉)」に由来するといわれている。水面から出た葉が人の顔のように見えることからオモダカの名がある。

 サジオモダカの根茎には多量のデンプンやアミノ酸、レシチンのほか、トリテルペノイドのアリソールA・B・Cなどが含まれ、利尿作用やコレステロール低下作用、血糖降下作用などが報告されている。

 漢方では利水・清熱の効能があり、体内に水分が停滞した浮腫や胃ない停水、尿量の減少、排尿障害、嘔吐、下痢、口渇などの症状に用いる。

水曜日, 11月 20, 2013

沢漆

○沢漆(たくしつ)

 日本各地、アジア、ヨーロッパに分布するトウダイグサ科の越年草トウダイグサ(Euphorbia helioscopia)の全草を用いる。中国では開花期に採り、根を除いて用いる。枝先に杯状の花序が多数密生する様子を、昔の灯台にみたててトウダイグサという。

 茎や根から出る白い乳液に触れると炎症や水泡などの皮膚炎や結膜炎などがおこり、誤って内服すれば咽が腫れて嘔吐や腹痛、下痢となり、さらには眩暈や痙攣の症状もみられる。ただし、死亡するほどは強くない。

 峻下薬の巴豆や甘遂、大戟、蓖麻子はいずれもトウダイグサ科の植物である。日本ではトウダイグサの根茎をと称し、大戟の代用にしたこともある。全草にはケルセチンやトリヒマリンなどのフラボノイドなどが知られているが、有毒成分は明らかではない。

 漢方では利水・化痰・散結の効能があり、浮腫や腹水、瘰癧(頸部リンパ腺腫)などに用いる。効能は大戟とほぼ同じであるが、作用は緩和であり、毒性も大戟より弱い。

 腹水や全身性の浮腫には単独あるいは大棗と併用して用いる。全身の浮腫とともに咳嗽や呼吸困難のみられるときには紫苑・白前などと配合する(沢漆湯)。近年、中国ではリンパ節結核や食道癌などに対する臨床研究がされている。日本の民間では乳汁を疣贅に塗る治療法がある。

火曜日, 11月 19, 2013

槖吾

○槖吾(たくご)

 北日本を除く日本各地や朝鮮、中国などに分布するキク科の常緑多年草ツワブキ(Farfugium japonicum)の茎や根茎、葉を用いる。中国では前走を蓮蓮草と称して薬用にする。ツワブキは艶蕗と書き、葉がフキの葉に似てしかもツヤがあることによる。春先のやわらかい葉柄は食用にもなる。

 葉にはアルカロイドのセンキルキンのほか、ヘキセナールなどが含まれ、ヘキセナールには強い抗菌作用がある。ただしセンキルキンには肝毒性があるとも報告されている。

 日本の民間療法ではフグやカツオなどの魚の中毒のときに煎じた液や生の葉の絞り汁を服用する。また化膿や湿疹などに生の葉を火で炙って軟らかくしたものを患部に貼ったり、痔疾に煎じた液で患部を洗うという療法もある。

 胃腸薬として知られる恵命我神散には莪朮末などと配合されている。中国でも民間薬として感冒や扁桃炎、皮膚病の治療に用いている。

金曜日, 11月 15, 2013

高遠草

○高遠草(たかとうぐさ)

 日本全土、朝鮮半島、中国東北部に分布するキンポウゲ科の多年草アキカラマツ(Thalictrum minus)の全草を用いる。中国ではアキカラマツの根を煙鍋草という。日本では秋の開花期で結実する前に採取する。

 名前は花の形がカラマツの葉に見えることから名付けられたカラマツソウと同属植物で、秋に咲く唐松草という意味である。江戸時代より長野県の高遠藩で利用されていた腹痛の薬草であることから高遠草と呼ばれ、戦時中に苦味健胃薬が不足したことから有名となった。

 苦味成分にアルカロイドのタカトニン、マグノフロリンなどが含まれ、少量では健胃・整腸・解熱の効果があるが、多量に服用するとクラーレ様作用が出現し、神経麻痺、血圧降下などが発現する。

 日本の民間薬として食べ過ぎ、食欲不振、腹痛、下痢など胃腸の症状に用いられる。中国では煙鍋草を歯痛、皮膚炎、湿疹などに内服・外用として用いている。ただしアキカラマツは有毒植物であり、注意が必要であるる

木曜日, 11月 14, 2013

タイム

○タイム

 地中海沿岸地方の原産で日本には明治時代に渡来したシソ科の常緑小高木タチジャコウソウ(Thymus vulgaris)の開花期の全草を用いる。初夏に薄紫色の小さな花を咲かせ、独特の芳香がある。この香りから麝香草の名がある。

 タイムとは「力」を意味し、この香りをかぐと力が湧くといわれる。古くからタイムは勇気のシンボルとされ、ローマ時代にはタイムを浸した水を兵士たちが浴びたといわれる。タイムは独特の香りと苦味のある香辛料としても知られ、クラムチャウダーやソーセージ、魚のソースなどに用いられる。この芳香は石鹸などの香料としても知られている。

 成分にはチモール、カルバクロール、シメンなどからなる精油が含まれ、水蒸気蒸留すればチアミン油(タイム油)が得られる。チモールには抗菌・抗真菌作用、駆虫作用、チモールやカルバクロールなどには去痰作用がある。このチモールは局所殺菌剤や軟膏剤として用いられるほか、うがい薬、洗浄薬、歯みがき剤に添加されたり、家畜の駆虫薬としても利用されている。

 タイムのハーブティーには発汗作用や去痰作用、消化器系の鎮静作用も認められている。このためヨーロッパでは鎮咳薬、感冒薬として感冒、気管支炎、咽頭炎、百日咳などに用いられている。また、うがい薬や口内洗浄薬として咽頭炎や歯肉炎に効果があり、入浴剤として利用すればリウマチの痛みを和らげる。

 タイム油は皮膚および粘膜の刺激剤として用いられる。日本には同属植物のイブキジャコウソウ(T.quinquecostatus)が自生し、百里香とも呼ばれている。

水曜日, 11月 13, 2013

大麻

○大麻(たいま)

 中央アジア原産のクワ科の一年草アサ(Cannabis sativa)の雌株の未熟果穂をつけた枝先や葉を用いる。本来、この植物をアサ(麻)と呼んでいたが、いつの間にか繊維植物の総称として麻というようになり、現在では亜麻や苧麻の繊維のことを麻と表示するようになった。このためアサのことをタイマ(大麻)と称して区別している。

 紀元前20世紀には中東地域で栽培され、紀元前に中国に伝わり、日本にも弥生時代にすでに栽培されていたと考えられている。古くは大麻を苧と称し、戦前までは日本各地で栽培され、現在でも栃木県では「とちぎしろ」と呼ばれる品種が栽培されている。

 アサの茎を収穫し、蒸して皮を剥ぎとり、さらに加工して細くほぐして麻糸とする。この麻糸は織物、ロープ、魚網などに利用される。アサの種子は生薬の麻子仁で、一般には苧実とか麻実とも呼ばれて七味唐辛子や小鳥の飼料、製油原料などにも用いられている。一般に麻の穂や葉などには幻覚物質が含まれるが、その含有量は品種によって異なり、日本の栽培品種にはほとんど含まれない。

 幻覚薬の大麻として用いるのは熱帯品種のインドアサ(C.indica)であり、東南アジアやメキシコなどで栽培されている。ところがこの大麻を温帯で栽培すると樹脂を含まなくなるという。米国では繊維作用として品種改良してアサをヘンプ(hump)と呼び、麻薬性のある品種をカナビス(cannabis)と呼んで区別している。

 インドでは紀元前9世から医薬用として用いられた。その後、回教徒によって各地に伝えられて、アラビアでは幻覚薬として知られ、17世紀にはヨーロッパでも薬として用いられるようになった。しかし東南アジアの民間では鎮静薬とするのみで、麻薬的には使用しない。

 中国の本草書では麻蔶、麻花、麻葉などの名で収載され、神農本草経には「多食すると人を狂い走らせる」とある。2世紀ごろの外科医、華陀は大麻を配合した麻沸散で全身麻酔をかけ、開腹手術などを行ったと伝えられている。ただし、漢方では種子の麻子仁は用いても、大麻はあまり利用していない。麻薬として用いる大麻の乾燥した葉などはマリファナと呼ばれ、琥珀色の樹脂を粉にしたものをハシシュという。一般に内服よりも喫煙のほうが効力は強い。

 葉にはカンナビノイドのテトラヒドロカンナビノール(THC)などが含まれている。このTHCには鎮静・鎮痛・多移民・麻酔作用とともに幻覚などの精神作用がある。大麻を喫煙すると身体的には頻脈、目の充血、口渇作用がみられ、精神的には多幸感、感覚の変化、注意力低下、被暗示性亢進、さらには非現実感、幻覚、妄想なども出現する。一般に精神的依存はあるが、身体的依存はないとされている。つまり弱いながらも習慣性があり、慢性中毒では無気力となる。

 現在、大麻に関する規制は国や州によって異なり、オランダやスイスなどは比較的自由であるが、日本では大麻取締法により栽培や使用が規制されている。

火曜日, 11月 12, 2013

大腹皮

○大腹皮(だいふくひ)

 マレー半島原産でインドネシア、フィリピン、中国南部に植栽されるヤシ科の常緑高木ビンロウ(Areca catechu)の果実の果皮を大腹皮という。種子は檳椰子という。日本には奈良時代にこの果実が薬用や染料の目的で輸入された記録がある。

 一般に果実を半割りにして種子を除いているため、長さ6cm、幅3cm、厚さ1cmぐらいのお碗形をしており、外側はシュロ状の繊維で覆われ、内側は黄褐色でつやがある。本来、この部分は種子を包んでいる繊維性の果肉である。

 漢方では降気・寛中・止瀉・利水消腫の効能があり、消化不良や腹部の膨満感を改善し、脚気や腹水などの浮腫に用いる。

月曜日, 11月 11, 2013

大風子

○大風子(だいふうし)

 東南アジアやインドなどで栽培されているイイギリ科の常緑高木ダイフウシノキ(Hydnocarpus anthelmintica)の種子を用いる。大風というのはハンセン病(癩病)のことである。

 インドには古くからチャウルムグラ(H.wightiana)の種子を食べるとハンセン病が改善するという言い伝えがあり、それが元代に中国に伝えられ、明代には同属植物が大風子と名付けられてハンセン病の治療に盛んに用いられるようになった。ヨーロッパには1854年に英国の医師によってハンセン病に有効であることが紹介され、1920年にはオーストリアの植物学者ロックによってその基原植物が明らかになった。

 チャウルムグラ油(大風子油)はこれまで治療のなかったハンセン病に対して非常に有効で、とくに初期治療に優れていた。今日、サルファ剤が開発されてからはあまり用いられなくなった。

 種子成分のヒドノカルプス酸やチャウルムグラ酸などの脂肪酸にはレプラ菌やムグラ菌に対して抗菌作用が認められている。ただし、副作用も強く、内服では嘔吐や腹心、眩暈、腹痛などの反応が現れ、注射液では局所痛が強く、全身的な症状が出る。

 漢方でもハンセン病に丸薬として用いるほか、軟膏などに配合して外用薬として用いる。外用薬では疥癬や梅毒などの皮膚疾患にも応用される。

土曜日, 11月 09, 2013

大棗

○大棗(たいそう)

 ヨーロッパ南部からアジア西南部が原産とされているクロウメモドキ科の落葉高木ナツメ(Zizphus jujuba var.inermis)の半熟果実を用いる。ナツメの枝には刺はないか、あるいは少ないが、この母種といわれるサネブトナツメ(Z.jujuba)には刺が多い。このサネブトナツメの果実は小さくて酸味が強く、核が大きいので食用にはならないが、種子は生薬の酸棗仁である。

 ナツメは中国では紀元前よりモモやアンズとともに重要な五果のひとつとして栽培され、日本にも奈良時代に渡来した。ナツメの名前の由来は初夏に芽が出ることによるとされ、また茶の湯の道具のナツメは器の形がナツメの実に似ているためといわれる。日本でもよく庭に植えられているが、中国では子供の誕生にこの樹を植えて、嫁ぐときに持参するという風習がある。

 果実は熟すと甘くなり、生のままでも食べられているが、中国では薫製にした烏棗や砂糖に漬けた密棗などの菓子もよく親しまれている。薬用には成熟しきらずに赤くなった頃に採取し、そのままあるいは湯通しして用いる。加工により色が変化するため紅棗や黒棗に区別される。薬用には主として紅棗を用いる。虫やカビがつきやすいので保管には注意が必要である。

 ナツメの成分には糖類、有機酸、トリテルペノイド、サポニンが含まれ、また水浸液に多量のc-AMP、c-GMPが存在することが注目されている。薬理作用としては抗アレルギー、抗潰瘍、抗ストレスのほか、細胞内のc-AMPを増加させる作用などが報告されている。

 漢方では脾胃を補い、精神を安定させ、刺激の強い薬性を緩和する効能があり、食欲不振、下痢、動悸、ヒステリーなどに用いる。中国ではアレルギー性紫斑症や血小板減少症の治療効果に関して研究されている。ただし、過量に用いると便秘や腹部膨満感を生じることもある。

金曜日, 11月 08, 2013

大青葉

○大青葉(たいせいよう)

 クマツヅラ科のマキバクサギ(Clerodendron cyrtophyllum)、タデ科のアイ(Polygonum tinctorium)、アブラナ科のホソバタイセイ(Isatis tinctoria)やタイセイ(I.indigotica)、キツネノマゴ科のリュウキュウアイ(Strobilanthes cusia)などの葉や枝葉を用いる。

 日本ではアイの全草を藍草という。マキバクサギの根は大青根、ホソバタイセイやタイセイ、リュウキュウアイなどの根は板藍根、アイの果実は藍実という。これらから精製された藍色の色素は青黛という。いずれも藍染の原料として知られているが、化学染料の出現とともに栽培がすたれてきている。

 成分には配糖体のインジカンがほぼ共通して含まれ、抗菌・抗ウイルス作用が認められている。漢方では清熱涼血・解毒の効能があり、高熱や発疹などを伴う感染症、例えば麻疹、流感、肝炎、脳炎、急性腸炎、肺炎、丹毒などの疾患に用いる。

 感冒で高熱、頭痛、咽頭痛などのみられるときには羗活・柴胡などと配合する(清瘟解毒丸)。上気道炎や扁桃炎などには板藍根・草河車などと配合する(感冒退熱冲剤)。日本の民間では藍草を発熱、外傷、月経不順、痔などに用いる。

木曜日, 11月 07, 2013

大豆黄巻

○大豆黄巻(だいずおうけん)

 マメ科のダイズ(Glycine max)の種子を発芽させ、1cmくらいのもやしになったものを用いる。ダイズはアメリカをはじめ、ブラジル、中国、アルゼンチンなど世界各地で栽培され、ダイズもやしは中華料理、韓国料理で多く利用されている。

 ダイズの種皮の色には淡黄、茶、緑、黒色などがあり、一般に黄色い黄大豆がダイズとしてよく知られているが、通常、薬用には黒大豆(クロマメ)が用いられ、大豆黄巻もクロマメもやしを用いる。

 大豆黄巻の作り方は、まずダイズの外にしわができるまで水に浸した後、ざるの上に湿った状態のままで置いて発芽させる。次いで殻が落ちないように風通しのよいところで半乾きにした後日干しして乾燥させてできあがる。そのうち清水に浸したものを特に清水黄巻という。種子にはソヤサポニンやゲニスチン、ビタミンCなどが含まれる。

 漢方では解表・解暑・利水消腫の効能があり、夏の感冒や脚気などによる発熱や下痢、胸苦しい、体が重いなどの症状に用いる。とくに夏季の常用薬として知られ、また全身性の浮腫や関節の腫痛にも用いる。

 金匱要略では虚労で体力が低下し、さらに風邪に冒されたときの諸症状に用いる薯蕷丸の中に大豆黄巻が配合されている。古くは朱砂や鉛などの配合された石薬による薬害の解毒に特効があるとされていた。

水曜日, 11月 06, 2013

代赭石

○代赭石(たいしゃせき)

 中国各地に産する赤鉄鉱(Hematite)の一種で、多少粘土を混有したものである。日本では新潟県の佐渡に産する。成分は主に酸化鉄(Fe2O3)からなり、ケイ酸(SiO2)やアルミニウム化合物(Al2O3)なども含み、またマンガン、マグネシウム、カルシウム、さらに微量のチタンや砒素を含むことがある。

 全体が赤褐色色をしており、触ると赤褐色の粉末がつく。表面に金槌で打ったような多数の凹凸があり、釘頭代赭ともいわれる。赭とは赤色のことで、中国の山東省代州から良質のものが出るため代赭石の名がある。イボデといわれ、多数のこぶ上の突起があり、質が硬く、紫赤色の光沢があるものがよいとされている。

 中国では代赭石の粉末を硫酸バリウムの代用として胃腸透視に用いている。ただし微量の砒素を含むため、マウスに長期間服用させると砒素中毒がおきるという報告がある。

 漢方では重鎮安神あるいは平肝熄風薬のひとつであり、胃気上逆や肝陽上亢の治療に用いる。嘔吐やゲップ、シャックリ、喘息症などには旋覆花・半夏などと配合する(旋覆花代赭石湯)。高血圧などによる眩暈や頭暈、耳鳴り、動悸などには竜骨・牡蠣などと配合する(鎮肝熄風湯)。

 また血熱妄行による鼻血や吐血には粉末を単独で服用したり、外傷の出血には粉末を塗布する。また温性の瀉下剤の紫円には巴豆の激しい作用を緩和するために代赭石が配合されている。

土曜日, 11月 02, 2013

太子参

○太子参(たいしじん)

 中国、朝鮮半島、日本に分布しているナデシコ科の多年草ワダソウ(Pseudostellaria heterophylla)の塊根を用いる。主産地は江蘇・山東省である。

 太子参とはもともとウコギ科のオタネニンジンの小さいものを指したが、その代用としてワダソウの塊根が広く用いられるようになった。また特に小児の治療に効果があるため別名を児参ともいう。

 漢方では人参と同じく補気・止渇の効能があり、胃腸が弱く、倦怠感や食欲不振、神経衰弱などの症状がみられるとき、病後で口渇や多汗が続くときなどに用いる。とくに小児の虚弱体質や夏かぜで寝汗が続き熱の下がらないものに用いる。

金曜日, 11月 01, 2013

大蒜

○大蒜(たいさん)

 西アジア原産とされるユリ科の多年草ニンニク(Allium sativum)の鱗茎を用いる。ニンニクは前漢の時代に長騫がインド(西域)から中国に持ち帰ったものといわれ、かつては胡蒜とか葫といわれていた。日本にも古くから朝鮮を経由して伝来し、古事記や日本書紀などにも蒜の文字がみられる。

 独特の強い臭気を有し、香辛料ではガーリックとしてさまざまな料理に用いられている。ちなみに和名のニンニクは仏教語の忍辱と書き、強烈な臭いに耐え忍ぶことを意味するとか、僧侶の隠語などという説がある。

 臭気や辛味のある野菜のことを葷というが、ニラ、ヒル、ラッキョウ、ネギなどとともに五葷(五辛)のひとつとされ、仏教では食べることが禁じられている。その影響もあってか日本料理ではあまり利用されず、戦後になって洋風料理や中華料理などの普及とともに、身近な食品になった。

 古代エジプト時代、ピラミッド造成のときに人夫の体力回復に用いられたといわれ、ギリシャ時代には虫下し、咳止め、浮腫の治療に、また世界各地で疫病除け、悪霊除けにとしても扱われた。

 ニンニクの鱗茎にはイオウ化合物のアリイン、スコルニジンのほか、ビタミンB1、ゲルマニウムやセレンが含まれている特徴がある。アリインは無味無臭であるが、細胞が破壊されると同時に含まれているアリナーゼという酵素によって分解され、刺激性の強い臭気のあるアリシンが生じる。アリシンは強い殺菌防腐作用があり、さらにビタミンB1と容易に結合してアリチアミンという化合物を作る。

 アリチアミンは腸から容易に吸収され、ビタミンB1分解酵素によっても分解されず、ビタミンB1作用を有する安定な化合物である。このアリチアミンはとても苦く、臭気も強い。これをモデルとして化学的に合成したビタミンB1誘導体がアリナミンである。またスコルニジンといわれる無臭のニンニク有効成分結晶性物質も医薬品(オキソレジン)として応用されている。最近では、アリシンを加熱してできるアホエンに強い抗酸化作用や抗血小板凝集作用、記憶力向上作用のあることが注目されている。

 一方、ニンニクには食欲増進、健胃、整腸、緩下剤、体温上昇、疲労回復などの作用が知られている。ただしニンニクを空腹時に食べると、胃液の分泌が亢進して酸度が上昇し、胃を荒らす恐れがあり、さらに一度に多く食べると、赤血球を破壊して貧血を招くこともある。また、腸内細菌のバランスを崩し、ビタミンB6欠乏症を起こすことも指摘されている。

 漢方では健胃・駆虫・消腫の効能があり、食滞や腹痛、下痢、寄生虫症、皮膚化膿症などに用いる。ちなみに中国の本草書などでは大蒜に強壮作用があるという記述はみられない。一般に漢方処方として用いられることは余りなく、専ら民間療法として用いられている。

 民間では冷え性、低血圧、慢性疾患、寄生虫症、腰痛、風邪の予防などにニンニクを食べたり、扁桃炎や円形脱毛症、腫れ物、いんきんたむしなどにすりつぶした汁を塗布する。ニンニクを熱灰の中に埋めて蒸し焼きにするなどの加熱処理をすると食べやすくなる。

 そのほかニンニク酒や醤油漬け、蜂蜜漬けなども利用されている。またニンニクを厚さ2~3mmに薄くスライスし、その上からをすえるというニンニク灸もよく知られている。近年、アメリカ国立癌研究所では、癌や生活習慣病を予防する可能性がある食品のリストの上位にニンニクを位置づけている。