○煙草(たばこ)
南米のボリビア南部のアンデス山地を原産とするナス科の多年草タバコ(Nicotiana tabacum)の葉と茎を用いる。現在では中国、アメリカ、インドなど世界中で広く栽培されている。
紀元前からすでに中米のインディオの間ではタバコの喫煙が行われ、700年ころにはユカタン半島のマヤ族などにも伝わった。15世紀末、コロンブス一行はサンサルバドル島で原住民の喫煙を知り、1518年にはタバコの種子がスペインへともたらされた。
タバコ(Tobacco)という語源は原住民が喫煙に用いていたパイプの名に由来し、属名のニコチアーナというのは種子をフランスに伝えたフランス大使のジャン・ニコーの名に由来する。日本へは16世紀末の戦国時代に南蛮船により伝えられ、九州で栽培されるようになり、喫煙の習慣は急速に広まった。
かつてインディオにとってタバコは宗教的な儀式の道具であり、またタバコの煙によって病人の体に入っている「病気の精霊」を追い出すものと考えられていた。ヨーロッパでも喘息、頭痛、痛風などの万病の霊薬として伝えられたが、次第に嗜好品として広がっていった。
タバコの葉の成分はアルカロイドのニコチンのほか、ノルニコチン、アナバシンなどが含まれている。ニコチンは交感神経次いで副交感神経を興奮させるが、のちに抑制する。中枢神経に対しても全体を興奮させるが、のちに抑制が生じる。
急性ニコチン中毒の症状では嘔吐、腹痛、下痢、流涎、冷汗、眩暈、脱力発作、精神錯乱がみられ、さらには失神、痙攣を生じて呼吸麻痺で死亡する。ニコチンは毒性が強いため医療には用いられないが、ニコチンの硫酸塩は殺虫剤として農薬などに利用されている。
一般にタバコの喫煙は抗ストレス作用があり、一時的に精神活動を活発にする効果があるといわれている。しかし煙の中にはピリジン、タール様物質、フェノール様物質などの化合物が含まれ、タバコ肺癌、喘息、咽喉頭癌、慢性閉塞性肺疾患、虚血性心疾患、バージャー病などの疾患との因果関係が指摘されている。
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