○萆薢(ひかい)
日本の各地や中国大陸に分布するヤマノイモ科のつる性の多年草オニドコロ(Dioscorea tokoro)やタチドコロ(D.gracillima)などの根茎を用いる。そのほか中国では粉背署蕷、叉心署蕷、繊細署蕷などの根茎も用いている。
オニドコロやタチドコロは日本各地の山野や道端に自生し、全体にヤマノイモに似ている。オニドコロはトコロとも呼ばれ、根は肥大せずに横走し、ヒゲ根が多く、長寿の象徴として正月の飾りに用いられることもある。また根には苦味はあるがデンプンを含み、飢饉のときの食用にもされた。ただし、そのまま食べると嘔吐や胃腸炎を起こすため、灰汁で煮て水に晒して調理することが必要である。
根茎にはステロイドサポニンのジオスシン、ジオスコリン、グラシリン、ジオスコレアサポトキシンAなどが含まれる。この根を砕いて川に流し、魚をしびれさせて漁をする魚毒としても利用される。
漢方では去風湿・利水の効能があり、リウマチなどによる関節痛や足腰の疼痛、排尿障害や混濁尿、湿疹などに用いる。古くから萆薢は「治湿に最も長じ、治風これに次ぎ、治寒はそれに次ぐ」といわれている。膀胱炎や淋疾、膣炎、前立腺炎には烏薬・益智仁などと配合する(萆薢分清飲)。湿疹や丹毒には黄柏・牡丹皮などと配合する(萆薢滲湿湯)。リウマチや神経痛には防風・牛漆などと配合する(萆薢酒)。