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火曜日, 10月 30, 2012

紅娘子

○紅娘子(こうじょうし)

 中国南部、インド、マレーシアなどに分布するセミ科のハグロゼミ(Huechys sanguinea)の乾燥した全虫を用いる。紅娘子は神農本草経に収載されている樗鶏としばしば混同されているが、現在では樗鶏は全く別の昆虫で、ハゴロモ科のシタベニハゴロモ(Lycorma delicatula)と考えられている。

 ハグロゼミは体長1.5~2cmくらい、黒と赤の二色からなるチッチゼミに類する小型のセミである。このセミは皮膚を刺激する毒液を分泌するため、採取の時には手袋やマスクをつけて行う。成分としてはカンタリジンを含むという報告もあるが、不詳である。肢や翅を除いた後、米や小麦などと一緒に黄色くなるまで炒り、取り出してから粉末にして用いる。

 漢方では攻毒・活血化瘀の効能があり、内服で無月経や瘀血、狂犬病、腰痛などに用いる。またに外用したり、発疱薬として皮膚病に用いる。

月曜日, 10月 29, 2012

香薷

香薷(こうじゅ)

 日本をはじめアジアの温帯に広く分布するシソ科の一年草ナギナタコウジュ(Elsholtzia ciliata)の開花期の全草を用いる。

 中国では中国、朝鮮半島、ウスリー地方に分布する同属植物の海州香(E.splendens)を用いる。日本産や韓国産はおもにナギナタコウジュであるが、中国でもさまざまなシソ科の植物が香薷として流通している。江西省に多く産する良質の香薷はとくに江香薷といわれる。

 全草には精油成分としてエルショルチジオール、チモール、カルバクロールなどが含まれ、葉や茎を揉むと強い芳香がある。漢方では解暑・化湿・利水消腫の効能があり、夏の発熱や頭痛、悪寒、腹痛、嘔吐、下痢、浮腫などに用いる。

   香薷は夏の解肌薬として有名で、古くから「夏に香薷を用いるは、冬に麻黄を用いるがごとし」といわれている。夏の寝冷えや冷たいもののをとりすぎて起こる悪寒、発熱、頭痛、下痢などに厚朴や白扁豆と配合して用いる(香薷飲)。浮腫や尿量減少などには単独あるいは白朮と配合して用いる(薷朮丸)。

 通常、解表に用いるときは煎じる時間を短くし、発汗が多いときには用いない。利水に用いるとは長く煎じるか、丸薬として服用する。また熱服すると嘔吐しやすいので冷服するほうがいい。この他、香薷の煎液は口臭を除く含嗽薬としても用いられる。

水曜日, 10月 24, 2012

唅士蟆

○唅士蟆(ごうしま)

 中国の寒い地方に生息するアカガエル科の中国林蛙(Rana chensinensis)、黒竜江林蛙(R.amurensis)の内臓を除いたものを乾燥して用いる。雌の輪卵管を乾燥したものを唅蟆油という。ちなみに唅蟆油は古代中国の八大珍味の一つとされている。

 中国林蛙や黒竜江林蛙は体長5cmくらいのトノサマガエルによく似たカエルである。唅士蟆というのは満州語であり、黒竜江林蛙は黒竜江省の松花江一体の山林に生息している、比較的寒さに強いため雪唅とも呼ばれ、食用にも用いられる。

 中国林蛙にはステロールの一種であるラノールが含まれる。漢方では止咳・滋養の効能があり、虚労咳嗽に用いる。唅士蟆の薬材は長さ2cmほど折り重なった塊で、黄白色で脂肪のような光沢がある。大部分はタンパク質で、脂肪は4%前後にすぎず、水で戻すと10~15倍に膨張する。これを民間では強壮・強精薬として病後や産後、結核、神経衰弱などに用いている。

 日本でも江戸時代から戦前まで、アカガエルの生や乾燥したもの、丸薬(赤蛙丸)にしたものを小児の疳の虫の妙薬として街中で売り歩いていた姿がみられたという。

火曜日, 10月 23, 2012

光慈姑

○光慈姑(こうじこ)

 本州の福島県以南、四国、九州、朝鮮半島、中国大陸に分布するユリ科の多年草アマナ(Amana edulis)の鱗茎を用いる。チューリップと近縁の野生種であり、鱗茎は古くから食用にされ、食べると甘いためアマナ(甘菜)の名がある。

 生薬名を山慈姑ともいうが、ラン科のサイハイランの鱗茎を基原とする山慈姑に対してとくに光慈姑という。鱗茎にはカタクリに類似した良質のデンプンが含まれる。

 中国では軟堅散結の効能があるとして、咽頭腫痛や瘰癧(頸部リンパ腺腫)、腫れ物などに用いる。日本の民間では煎じて焼酎に漬けたアマナ酒を滋養・強壮に用いている。また葉を腫れ物に外用する。

月曜日, 10月 22, 2012

紅景天

紅景天(こうけいてん)

 中国のチベット自治区、四川、青梅、甘肅、雲南省やロシアのシベリアの海抜2000~5000mの高地に分布するベンケイソウ科の多年生植物、紅景天(Rhodiola sacra)などの全草を用いる。

 ロディオラ属はヨーロッパには200種以上、中国には40種以上の多くの種類がある高山植物であり、中国では聖地紅景天(R.sacra)のほかにも、高山紅景天(R.sachalinensis)、大花紅景天(R.crenulata)玫瑰紅景天(R.rosea)なども薬草として利用されている。とくに玫瑰紅景天は、ロディオラ・ロゼアとして、ロシアや北米ではよく知られている。8世紀頃のチベット医学経典「四部医典」や「晶珠本草」の中には、紅景天の効能として滋養強壮、養肺清熱、止血解毒、滋補元気などの記述がある。

 紅景天には、配糖体のクマリン類、必須アミノ酸類、ビタミン類などの栄養成分が含まれ、抗酸化、血糖値上昇抑制、免疫力向上、抗ウイルス、強心作用などが報告され、老化防止や疲労回復、糖尿病、ウイルス感染症、肝臓病、癌などに対する効果が期待されている。

 そのほか、赤血球の酸素の取り込みを高め、高山病に効果があることでよく知られている。高山病の予防薬といわれている高原安や、紅雪冬夏などに配合されている。

木曜日, 10月 18, 2012

高貴薬

○高貴薬(こうきやく)

 高貴薬とは非常に高価であり、容易に手に入りにくい薬物のことである。今日、ワシントン条約で規制されている野生動物からの生薬も多く、今後は代用品の開発を検討することも必要であろう。またこれらの生薬には贋偽品がしばしば出回り、鑑定も容易ではない。

 効能に関して、科学的な根拠の乏しいものもあり、希少価値に対する過大評価もあるように考えられる。中国四大貴薬材と呼ばれている高貴薬は犀角・牛黄・羚羊角・麝香である。高貴薬として以下のようなものがある。

一角:ウニコルンの歯牙

海馬:タツノオトシゴ

牛黄:ウシの胆石

麝香:ジャコウジカの分泌腺

冬虫夏草:昆虫の幼虫に寄生した菌核

鹿茸:鹿の幼角

海狗腎:オットセイの陰茎と睾丸

海竜:ヨウジウオ

犀角:サイの角

蟾酥:シナヒキガエルの分泌物

熊胆:クマの胆嚢

羚羊角:サイガカモシカの頭角

水曜日, 10月 17, 2012

合歓皮

合歓皮(ごうかんひ)

 日本各地、中国、東南アジアなどに広く分布するマメ科の落葉高木ネムノキ(Albizzia julibrissin)の樹皮を用いる。花や花蕾は合歓花、合歓米という。

 かつて日本ではニシキギ科のマユミの樹皮が代用されたこともある。暗くなると眠るように葉と葉を重ねて閉じることから、日本ではネムノキ、中国では合歓樹あるいは夜合樹と呼ばれている。樹皮にはサポニンやタンニンが含まれ、サポニンのアルビトシンには子宮収縮作用の報告がある。  漢方では疏肝・安神・止痛の効能があり、不安感やうつ状態、不眠、腫れ物、打撲傷などに用いる。不眠や心煩、動悸、めまいなどに夜交藤仙鶴草などと配合する(養血安神片)。打撲や骨折などによる腫張や疼痛に当帰・紅花などと配合する。また膿性痰の出る慢性気管支炎などに単独あるいは白蘞や十薬などと配合する。

 日本の民間療法では、腫れ物や打撲傷、関節痛に合歓皮の煎液で患部を洗ったり、浴湯料として使用する。また合歓皮の黒焼きと黄柏末とを酢で練り合わせて患部に冷湿布する方法もある。また江戸時代から伝わる「久保田の速康散」というトゲ抜きの内服薬は合歓皮とニシキギの枝を黒焼きにしたものである。なお合歓花にも安神作用があり、食欲不振や不眠症の治療に用いる(安神丸)。

火曜日, 10月 16, 2012

蛤蚧

蛤蚧(ごうかい)

 中国南部の広西省やベトナム、タイなどに生息する爬虫類のヤモリ科オオヤモリ(Gekko gecko)を用いる。体長は20cm余りもある大きなヤモリで、山間の岩場や樹木の穴、壁の上などに生息し、夜行性でおもに昆虫などを捕食している。オオヤモリを蛤蚧というが、雄を蛤、雌を蚧という謂れがある。

 薬材としてはオオヤモリの内臓を除き、四肢を開いた後あぶって乾燥し、二匹を対にして竹に固定したものが市場に出ている。尾の部分の薬効が優れているとされ、尾の欠けたものは劣品とされる。通常、用いるときには頭と足や鱗片を除く、あるいは尾だけを用いる。

 漢方では補気・補陽・止咳の効能があり、虚労や喘息、肺結核、インポテンツ、頻尿、糖尿病などに用いる。滋養・強壮薬として参茸丸至宝三鞭丸に蛤蚧が配合されている。また、とくに血痰のみられる肺結核の常用薬として知られ、人参・杏仁・貝母などと配合する(人参蛤蚧散)。薬酒として有名な蛤蚧酒は、新鮮な蛤蚧の内臓を除き、雄雌あわせて丸ごと蒸留酒に浸してつくったものである。

月曜日, 10月 15, 2012

紅花

紅花(こうか)

 エジプト原産のキク科の二年草ベニバナ(Carthamus tinctorius)の管状花の乾燥したものを用いる。薬用としては開花初期の黄色の多いときの花を、そのまま風乾したものを用いる。

 古くから南ヨーロッパ、中近東、インド、中国などで栽培され、日本には奈良時代に渡来した。古名のクレノアイの語源は呉(高麗)の国から伝わった藍ということを表し、韓呉藍(からくれない)とも呼ばれていた。古くから口紅や染料などに用いられていたために臙脂花、紅藍花などともいわれ、また黄から赤に変化した後に摘み取るので末摘花とも呼ばれた。江戸時代には最上地方で多く栽培され最上紅として有名であった。現在も山形県の尾花沢周辺で広く栽培されている。

 ベニバナには紅色色素のカルタミンと黄色色素のサフロールイエローが一緒に含まれている。赤くなった花弁を集めて水に漬けると、水溶性であるサフロールイエローが流れ出るが、この色素を除いた花弁をよく揉み、しばらく発酵させて臼で搗いて餅紅を作る。この餅紅に含まれるカルタミンをアルカリ性の灰汁で溶かし出し、酸性の梅酢で中和すると色素の結晶が得られる。現在でも食品の着色料や口紅などの原料に使用されている。またベニバナの種子からとる油はサフラワー油(ベニバナ油)と呼ばれ、塗料、石鹸をはじめサラダ油やマーガリンの原料として用いられる。

 ベニバナの成分には色素のカルタミン、サフロールイエローのほか、フラボノイドのカルタミジン、ネオカルタミンなどが含まれ、煎液には血圧降下作用や免疫賦活作用、抗炎症作用などが知られている。

 漢方では活血・通経・虚瘀・止痛の効能があり、月経異常や腹部のしこり、打撲傷、脳血管障害、瘀血による痛みなどに用いる。かつて日本漢方では大黄・甘草・黄連と配合した甘連湯を「まくり」と称して胎毒の治療に用いていた。なお蕃紅花というのはサフランのことである。

金曜日, 10月 12, 2012

香櫞

○香櫞(こうえん)

 インド原産のミカン科の常緑低木シトロン、すなわちマルブッシュカン(Citrus medica)の成熟果実を用いる。シトロンは直径が10cm以上の大果で、熟すと橙黄色になり、よい香りがする。

 中国ではシトロンを枸櫞というが、日本ではレモンの果皮を枸櫞皮という。またブッシュカン(仏手柑)はシトロンの変種のひとつである。市場の薬材はこの果実を厚さ2~3mm輪切りにして乾燥したものである。

 シトロンの果実にはヘスペリジンクエン酸、リンゴ酸、d-リモネンなどが含まれている。漢方では疎肝・理気・化痰の効能があり、胃痛、腹満感、咳嗽、食欲不振、嘔吐などに用いる。

 仏手柑と比較すると香りや効力はやや劣るが、化痰の作用は強い。おもにストレス(肝欝)による腹満感や胸の痞寒感、脇腹の痛み、食欲不振、嘔吐などに陳皮・香附子などと配合して用いる。また痰が絡んですっきりしない咳嗽には半夏・茯苓・生姜などと配合する。

木曜日, 10月 11, 2012

膠飴

○膠飴(こうい)

 粳米または糯米を蒸したのち、麦芽のアミラーゼを用いてデンプンを分解し、糖化させて製した飴である。膠飴には軟らかいものと固形のものとがあり、軟らかいものは黄褐色、半透明の濃厚な水飴状であり、固形のものはこの水飴を攪拌し、空気と混和して凝固させたものである。味は甘く、特異な麦芽臭があり、一般に水飴状のものが良品とされている。

 成分にはマルトース(麦芽糖)やデキストリンなどが含まれる。麦芽糖はマルツエキスとして乳児の便秘薬に利用されている。漢方では健脾・止痛・止咳の効能があり、過労による胃腸障害、腹痛、咳嗽、吐血、口渇、咽痛、便秘などに用いる。

 とくに胃腸虚弱者によくみられる腹痛を緩和する。たとえば小建中湯、大建中湯、黄耆建中湯、当帰建中湯などの建中湯の処方に配合され、いずれも虚弱な体質を改善し、冷えなどによる腹痛を緩和する効果がある。また止咳薬として乾咳の症状に単独あるいは杏仁・百部などと併用する。

 ただし膠飴は非常に甘いため腹部膨満感をきたしやすく、多量に服用すると嘔吐することがあるので注意を要する。なお膠飴は他の生薬を煎じて滓を漉した後に溶かして服用する。

水曜日, 10月 10, 2012

玄明粉

○玄明粉(げんめいふん)

 芒硝を風化、乾燥させて得られる白色の粉末をいう。芒硝の主成分は含水硫酸ナトリウム(Na2SO4・10H2O)であるが、空気中で風化されると結晶水を失い無水硫酸ナトリウム(Na2So4)に変化する。これは玄明粉あるいは風化硝という。

 効能などはほとんど芒硝と同じである。華岡青洲は口内炎や咽頭の痛みに、竜脳・硼砂などと配合した氷硼散を口中剤として用いた。

火曜日, 10月 09, 2012

拳柏

○拳柏(けんぱく)

 日本各地および台湾、朝鮮半島、中国、インドなどに分布し、岩壁などに生えている常緑シダ植物イワヒバ科のイワヒバ(Selaginella tamariscina)の全草を用いる。岩場に生えて、針葉樹のヒバの葉に似ていることからイワヒバの名がある。

 イワヒバの茎は乾燥すると内側に巻き込み、湿度が上がるとともに戻る特徴がある。全草にはビスフラボンやオリゴサッカライドのトレハロースなどが含まれる。

 漢方では生では活血・去痰の効能があり、無月経や腹部腫瘤、打撲傷などに用いる。炒って巻柏炭とすれば止血の効能があり、吐血や下血、血尿、脱肛などに用いる。ちなみに中国では類縁植物のオニクラマゴケ(S.doederleinii)の全草を大葉菜(別名:石上柏)といい、絨毛上皮癌や咽頭癌などに対する抗癌作用の研究が行われている。

月曜日, 10月 08, 2012

現之証拠

○現之証拠(げんのしょうこ)

 日本各地、台湾、朝鮮半島、中国などに分布するフウロソウ科の多年草ゲンノショウコ(Geranium thunbergii)の全草を用いる。日本の代表的な民間薬であるが、中国では知られていない。

 江戸時代初期から民間で用いられ、ゲンノショウコという名は下痢にはっきりとした効果があることを意味し、イシャイラズやイシャナカセといった別名もある。かつて中国の牛扁がゲンノショウコとされたこともあるが、牛扁はキンポウゲ科の別の植物である。ちなみに津田玄仙の牛扁丸はゲンノショウコの黒焼きを原料にしたものである。

 中国の救荒本草にあるフウロソウ科のキクバフウロ(Erodium stephanianum)がゲンノショウコに似ていることから混同され、これが民間薬として利用されるきっかけになったと考えられている。中国には類似植物としてミツバフウロ(G.wilfordii)として薬草があるが、止瀉の効能はあまり知られていない。日本のゲンノショウコを中国ではネパール老鸛草と称している。

 葉には多量のタンニンが含まれ、その約2/3はゲラニインである。健胃・整腸・止瀉作用があり、あらゆる下痢に応用されるが、とくに赤痢など裏急後重を伴う下痢に効果がある。下痢止めを目的とするときは、タンニン類がよく抽出されるように半量になるまで煎じる。短く煎じると緩や下剤になり、便秘にも応用される。胃・十二指腸潰瘍などには決明子と配合する。医療用の整腸薬としてベルベリンと配合されている(フェロベリンA)。そのほか民間では強壮、保健のお茶として飲まれたり、煎じた液が腫れ物や霜やけに外用されている。

土曜日, 10月 06, 2012

ゲンチアナ根

○ゲンチアナ根

 ヨーロッパ原産でスペインからトルコまでの亜高山帯に分布しているリンドウ科の多年草ゲンチアナ(Gentoana lutea)の根および根茎を用いる。

 植物学上、リンドウと同じ仲間であるが、ゲンチアナは高さ2mにも達する大型植物で、根も大きい。日本の北海道でも栽培されているが、おもにピレネー山脈やアルプスに産するゲンチアナがスペインやドイツから輸入されている。薬用にはゲンチアナの根や根茎を多少発酵させて乾燥したものを用いる。

 根には苦味配糖体のゲンチオピクロシドやスウェルチアマリン、アマロゲンチンなどが含まれ、胃液の分泌亢進や消化促進の作用などがある。ヨーロッパで古くから用いられている代表的な苦味健胃薬で、慢性胃炎や食欲不振などに用いられている。

 かつて日本ではリンドウ(生薬名:竜胆)やセンブリ、延命草などで代用されたこともある。現在も家庭薬の苦味健胃薬として(キャベジンコーワ)、またゲンチアナ・重曹散など医療用にも広く利用されている。

金曜日, 10月 05, 2012

芫荽

○芫荽(げんすい)

 地中海東部沿岸が原産とされるセリ科の一~二年草コエンドロ(Coriandrum sativum)の全草を用いる。現在では香料植物として東欧や東アジアなど世界各地で栽培されている。

 和名のコエンドロはポルトガル語に由来し、中国では張騫が西域から持ち帰ったため胡荽とも呼ばれている。果実は香辛料のコリアンダー(生薬名:胡荽子)として知られている。

 一方、未熟な果実や青葉にはカメムシに似た独特の臭いがある。この臭いは普通の日本人には不快な悪臭と感じられるが、葉をとった葉茎を中国では香菜(シャンツァイ)、タイではパクチーと呼ばれ、東南アジアや中南米の国々では肉や魚料理のつけあわせとして好まれている。最近では、日本でも中華料理や東南アジア料理などで全草が用いられるようになった。

 全草にはビタミンCやノニルアルデヒドなどが含まれ、不快臭の主成分はモノテルペン類のセルミン、デカナールといわれている。この臭いの成分は乾燥に弱く、生葉にしか含まれない。漢方では発汗・透疹・消食の効能があり、麻疹や消化不良などに用いる。とくに発疹の出にくい麻疹や風疹などに用い、発疹の出現を促進することによって内攻を予防し、全身症状の改善を行う。

 また発疹や丹毒に、芫荽を沸騰した湯に入れて1~2回沸騰させ、その湯気や熱湯でぬらしたタオルを皮膚に軽くあてる方法もある。近年、中国パセリ(芫荽)に体内の鉛が蓄積するのを抑制し、鉛中毒を緩和する作用があることが発表されて話題となっている。

 なお芫荽は子宮の筋肉を収縮させ、出産や堕胎を促進する民間薬として言い伝えられている。このため妊娠中は摂るべきではない。

木曜日, 10月 04, 2012

芫青

○芫青(げんせい)

 中国の各地に分布するツチハンミョウ科のアオハンミョウの一種である緑芫青(Lytta caraganae)の乾燥した全虫を用いる。

 緑芫青は体長1~2cmくらいの細長い昆虫で、体は緑色あるいは藍緑色で光沢がある。かつて日本薬局方に収載されていたカンタリス(L.vesicatoria)と同属の昆虫であり、中国ではカンタリスのことを洋芫青という。

 日本ではマメハンミョウ(Epicauta gorhami)をカンタリスの代用品として用いていたが、中国ではマメハンミョウの生薬名を葛上亭長という。その他、ヨコジマハンミョウ(生薬名:斑蝥)、ヒメツチハンミョウ(生薬名:地胆)などのツチハンミョウ科の昆虫もカンタリジンを含み、薬用にされる。このカンタリジンは、これらの昆虫が外的からの自己防衛のために分泌する刺激性の強い化学物質で、皮膚に付着すると水泡が生じるくらいの炎症を引き起こす。

 カンタリスは約2cmの金緑色の昆虫で、古代ヨーロッパで薬用昆虫として知られ、水腫や卒中、黄疸の治療、また毒薬として用いられたという。

 カンタリジンの薬理作用として発疱作用や抗腫瘍作用が知られている。外用では皮膚病や腫瘍の治療、発毛剤として用いる。内服すると利尿作用があり、また尿道を刺激するため催淫剤としても知られている。瘰癧(頸部リンパ腺腫や狂犬病、堕胎などに用いられた。日本では蘭学の影響で江戸時代以降に芫青を配合した発疱剤が腐食・排膿薬として皮膚化膿症の治療に用いられた。

水曜日, 10月 03, 2012

玄参

○玄参(げんじん)

 中国の江蘇・安徽・浙江省などに分布するゴマノハグサ科の多年草ゲンジン(Scrophularia ningpoensis)の根を用いる。日本や中国北方地区では近縁植物のゴマノハグサ(S.buergeriana)の根を用いることもある。ゴマノハグサとは葉の形がゴマの葉に似ていることに由来し、玄参とは黒い人参という意味である。

 ゲンジンの根にはハルパガイド、スタキオースなどが含まれ、降圧作用や解熱・抗菌作用などが報告されている。漢方では滋陰・清熱・除煩・解毒の効能があり、熱病による口渇や煩躁、発斑、結核などによる発熱、瘰癧(頸部リンパ腺腫)、咽頭腫痛、不眠症、自汗、盗汗、鼻血、吐血、便秘、腫れ物などに用いる。

 漢方理論では滋陰・降火の代表的な薬物であり、熱病(実熱)にみられる脱水症状や陰虚による熱症状(虚熱)のいずれにも用いることができる。また陰虚による咽頭や口舌部の疼痛に玄参は重要である。咽頭痛には煎液でうがいする方法もある。また生の根をつき砕いたものを腫れ物などに外用する。

火曜日, 10月 02, 2012

拳参

○拳参(けんじん)

 日本各地をはじめ広く北半球に分布するタデ科の多年草イブキトラノオ(Polygonum bistorta)などの根茎を用いる。イブキトラノオの名は滋賀県の伊吹山に多く産し、花穂がトラの尾に似ていることによる。

 中国ではこの生薬名を慣例的に草河車とか蚤休などと呼ぶこともある。ただし蚤休は本来、ユリ科の植物である重桜や七葉一枝花を基原とする生薬の異名であるので注意を要する。

 根茎にはタンニンが多く含まれ、止血作用や抗菌作用が報告されている。漢方では清熱解毒・止痙・止血・消種の効能があり、熱病による痙攣や細菌性下痢、気管支炎、肝炎、痔出血、性器出血などに用いる。また口腔内の炎症にこの煎液でうがいをしたり、痔や腫れ物に外用する。欧米では収斂薬として下痢や痔などに用いるほか、ヨーロッパ北部では昔から葉を煮て食用にしている。

月曜日, 10月 01, 2012

芡実

芡実(けんじつ)

 日本各地、台湾、中国、インドなどに分布するスイレン科の一年草オニバス(Euryale ferox)の成熟した種子の仁を用いる。池や城の堀などで直径1m以上にもなる大きな葉を広げ、葉や葉柄に刺が密生してフキに似ているためミズブキとも呼ばれる。

 種子は球形で黒いが、種皮を除いた薬材は直径6mmくらいで赤褐色をしている。種子にはデンプンを多く含むため、芡実米とか鶏頭米などと呼ばれ食用にされる。粉にしたものは芡粉といって片栗粉と同様にあんかけ料理に用いる。

 成分にはデンプン、タンパク質、カルシウム、鉄分、ビタミンB1・B2などが含まれる。漢方では健脾・止瀉・補腎・固精の効能があり、遣清、頻尿、夜尿、尿失禁、帯下、下痢などに用いる。

 ハスの果実である蓮肉と同じく滋養・強壮作用にすぐれ、虚弱者や高齢者などの腎虚状態に用いる。腎虚による遣精や夜尿、頻尿には竜骨・牡蠣・蓮肉などを配合する(金鎖固精丸)。また遣精や帯下には金桜子と配合する(水陸二仙丹)。小児の胃腸虚弱による下痢には人参・茯苓・白朮などと配合する。婦人の帯下には黄柏・車前子などと配合する。ただし芡実の効果の発現は緩慢であり、1ヶ月以上服用する必要がある。