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木曜日, 10月 31, 2013

大戟

○大戟(たいげき)

 中国、朝鮮半島、日本各地に分布するトウダイグサ科の多年草タカトウダイ(Euphorbia pekunensis)の根を用いる。そのほか中国南西部に分布するアカネ科の多年草コウガタイゲキ(Knoxia valerianodes)の根も大戟として扱われている。一般に大戟の正常条は京大戟とされているが、実際には紅芽大戟が広く使用されており、日本に輸入されているのも紅芽大戟のみである。

 タカトウダイには有毒成分であるオイフォルビンなどの成分が含まれ、茎中の乳液に触れると皮膚炎や結膜炎が生じ、誤飲すれば咽喉腫脹、嘔吐、下痢、血中に入れば眩暈、痙攣などをひきおこす。

 漢方では逐水・消腫・軟堅の効能があり、浮腫や腹水、胸水、皮膚化膿症、瘰癧(頸部リンパ腺腫)などにもちいる。とくに峻下逐水薬として知られ、瀉下作用と利尿作用を有している。腎炎の浮腫、肋膜炎の胸水、肝硬変の腹水などに甘遂・芫花などと配合する(控涎丹・舟車丸)。

 また瘟疫による嘔吐や下痢、咽喉痛などに山慈姑などと配合する(紫金錠)。ただし作用が激しく、有毒であるため慎重に投与し、民間療法としては用いないほうがよい。

水曜日, 10月 30, 2013

大薊

○大薊(だいけい)

 中国の各地、日本の各地に自生しているキク科の多年草ノアザミ(Cirsium japonicum)の全草あるいは根を用いる。一方、小薊というのはキク科のアレチアザミ(Breea segetum)の根または全草である。

 日本の市場では、日本で採取されたノアザミをアザミ根と称して販売している。中国の市場では、大薊としてアレチアザミやその他の植物も混じっており、また地域によって根を用いるか、全草を用いるかも異なっている。

 大薊には清熱涼血・止血作用の効能があり、鼻血、喀血、血便、血尿、不正性器出血などに用いる。とくに熱証の出血に効果があり、単味で濃く煎じた液や生の絞った汁を服用する。

 小薊、荷葉、側柏葉などとともに強火で炒め炭化させ、粉末として十灰散は各種出血に用いる代表的な止血薬である。また絞った汁は外傷性出血のほか、火傷や化膿などの外用薬としても用いる。日本の民間では利尿や健胃薬として煎じて服用したり、葉の汁を腫れ物や乳腺炎、湿疹などに外用する。

月曜日, 10月 28, 2013

大黄

○大黄(だいおう)

 中国などに分布するタデ科の多年草ダイオウ類の根茎を用いる。ダイオウはおもに中国西北部の海抜2000~3000mの高山に自生し、ギシギシとよく似た植物であるが草丈は2mにも及ぶ。

 中国、朝鮮産のダイオウの基原植物にはショウヨウダイオウ(Rhcum palmatum)、ヤクヨウダイオウ(R.offcinale)、タングートダイオウ(R.tanguticum)、チョウセンダイオウ(R.coreanum)などがある。日本産のダイオウには、シベリア原産で江戸時代に渡来したカラダイオウ(R.undulatum)というのがあり、奈良県で古くから栽培されていた。このカラダイオウの根茎は、とくに和大黄という。現在では、武田薬品が信州八ヶ岳山麓で50年の年月をかけて開発した大黄の品種を信州大黄と呼んで、さかんに北海道で栽培が行われている。

 大黄は古くから世界中で用いられた下剤であり、中国の神農本草経、インドのチャラカ本草、欧州のギリシャ本草にも記載されている。大黄はその薬効が激しいため将軍という別名もあり、とくに有名な四川省のものを川軍という。また生のものを生軍というのに対し、酒と混ぜて加熱し後に乾燥したものを酒軍という。

 大黄の断面には多数の放射状に走る旋紋があり、これを錦紋大黄といい、旋紋のみられないものを品質の劣る土大黄として区別する。ちなみに和大黄はこの土大黄色ひとつである。一般に錦紋系の重質品である西寧大黄が良品とされているが日本では江戸時代からおもに雅黄といわれる軽質品が輸入されている。

 大黄の下剤成分としてセンノシド類が知られており、センノシドは腸内細菌によってレイン・アンスロンという活性成分に変換されて大腸で効果を発現する。またアントラキノン類の抗菌・抗炎症作用、リンドレインの抗炎症作用、ラタンニンの血清BUN低下作用なども明らかにされている。

 漢方では通便・清熱・瀉火・活血化瘀の効能があり、熱性疾患、興奮症状、瘀血、腹部腫瘤、無月経などに用いる。大黄の瀉下成分は熱に不安定であるため30分以上煎じるとその効果は激減するため、下剤として用いるときには一般に後から煎じる。一方、清熱・活血薬として用いるときには長時間煎じる方が効果は強くなり、、瀉下作用は緩和される。

 また酒軍にして用いれば瀉下作用は弱まり、抗炎症作用や駆瘀血作用が強くなる。ただし大黄には子宮収縮作用があり、また母乳に移行するため、妊娠中や授乳中の服用は控えるべきとされている。

金曜日, 10月 25, 2013

大茴香

○大茴香(だいういきょう)

 中国南部、台湾、ベトナム北部に分布するシミキ科(モクレン科)の常緑小高木ダイウイキョウ(Illicium verum)の成熟果実を用いる。単に茴香といえばセリ科のウイキョウ(Foeniculum vulgare)の果実、小茴香(フェンネル)のことである。

 ダイウイキョウの果実は星型に8つに割れており、別名八角あるいは八角茴香という。一般に未熟な果実を乾燥させ、そのままあるいは粉末にして香辛料にする。茴香やアニスに似た風味と苦味があるため、大茴香とかスターアニスともいわれる。日本などに自生するシキミとよく似た植物であり、ダイウイキョウはトウシキミとも呼ばれる。

 シキミはアニサチンやシキミニンなどの痙攣毒を含み有毒である。かつてスターアニスと称してシキミの実がドイツに輸入され、中毒事件を起こしたことがある。ダイウイキョウは中華料理には欠かせないスパイスで、東坡肉などの肉や内臓の煮込みによく入れられる。

 果実にはアネトールを主成分とする精油を含み、そのほかピネン、リモネン、フェランドンなどが含まれる。アネトールには芳香があり、健胃・消化、駆風作用が知られている。漢方で温裏・理気・止痛の効能があり、冷えによる嘔吐や腹痛、食欲不振などに用いる。ちなみに市販のウイキョウ油はほとんどが大茴香であり、歯磨きなどの賦香料、アネトール原料として利用されている。

 近年、抗インフルエンザウイルス剤・タミフルの原料としてトウシキミの成熟果実から抽出されたシキミ酸が利用されていることで大茴香が品不足となり、話題となった。

月曜日, 10月 21, 2013

鼠李子

○鼠李子(そりし)

 日本では北海道、本州、九州、四国に分布するクロウメモドキ科の落葉低木クロウメモドキ(Rhamnus japonica)の果実を用いる。中国産はチョウセンクロツバラ(R.davurica)の果実である。ウメモドキに似て、果実が黒くなるためクロウメモドキの名がある。

 クロウメモドキの果実にはケンフェロール、エモジン、クリソファノールなどが含まれ、いずれも大腸刺激性の瀉下作用がある。漢方では通便・清熱・消癥の効能があり、水腫や腹部脹満感、腹部腫塊、齲歯の痛みなどに用いる。

 日本の民間療法ではもっぱら鼠李子を緩下剤として用いている。鼠李子の新鮮なものを服用すると嘔吐を催すので、採取後1年以上経ったものを使用する。クロウメモドキの同属植物として北米産のカスカラサグラダ(R.purshiana)、ヨーロッパ産のラムヌス・フラングラ(R.frangula)、中央アジア産のラムヌス・カタルチカ(R.cathartica)などがあり、いずれも緩下作用のある薬用植物として有名である。

金曜日, 10月 18, 2013

蘇葉

○蘇葉(そよう)

 中国原産のシソ科の一年草シソ(Perilla frutescens var.acuta)やチリメンジソ(P.frutescens var.crispa)の葉を用いる。シソの種子は紫蘇子、茎は紫蘇梗という。日本にも古くに伝わり、野生化しているものもある。

 紫蘇には特有のペリラアルデヒドのにおいがあり、香りが強いものほど良品である。シソはアントシアニン系の赤い色素、シアニンの有無によって赤ジソ系と青ジソ系に分けられ、青ジソは大葉ともいわれて刺身のつまや薬味として、赤ジソの葉は梅干しの着色などに利用されている。

 薬用には赤ジソを用い、とくにシソの変種で葉の緑がギサギザでシワの多いチリメンジソが用いられる。シソの紫色の葉に含まれるアントシアニン色素は梅のクエン酸などで酸化されると赤紅色に変化するが、梅干しが赤色なのはこのためである。ちなみに梅とシソを漬けた梅干しは日本独特の保存食である。

 葉の成分にはアントシアン色素や精油のペリラアルデヒド、ピネン、リモネン、ペリラケトンなどが含まれ、抗菌・解熱作用や鎮静作用が知られている。また、シソの葉エキスにはロスマリン酸などが含まれ、免疫を活性化させるTNFを抑制し、ヒスタミンの遊離を抑制する作用があり、花粉症などのアレルギー症状に対する効果が認められている。

 漢方では解表・理気・解魚毒・安胎の効能があり、感冒や咳嗽、喘息、腹満、流早産、魚毒による症状などに用いる。蘇葉の発汗作用は麻黄や桂皮に比べると弱いが、理気作用、つまり胸の痞えや悪心、嘔吐などを改善する作用もあり、胃腸型の感冒にしばしば応用される。蘇葉の理気作用は食欲不振のほか妊娠悪阻にも効果がある。

 また魚介類による中毒や蕁麻疹にも効果があり、このため刺身のつまに青ジソが添えられているといわれている。また陰嚢湿疹に蘇葉の煎じた液を外用すると効果がある。

木曜日, 10月 17, 2013

蘇木

○蘇木(そぼく)

 インドからマレー半島原産で中国南部や台湾でも栽培されるマメ科の常緑小高木スオウ(Caesalpinia sappan)の心材を乾燥したものを用いる。スオウというのは中国名の蘇方の転じたもので、蘇芳と蘇方木とも書かれる。

 心材には黄色結晶であるブラジリンを含み、これは空気中で酸化されて紅色のブラジレインとなる。古くから赤色染料(蘇方染め)として有名である。なお同じマメ科の植物にハナズオウがあるが、この花の色が蘇方染めの色に似ていることから名付けられた。ちなみに南米に産する同属の植物をポルトガル人が誤って蘇方木(Pau Brasil)と詠んだが、これがブラジルの国名の由来といわれている。

 木部にはブラジリンのほか、フェランドレンやオシメンなどを主成分とする精油が含まれる。また煎液に心臓の収縮力を増強、中枢神経抑制、抗菌などの作用のあることが知られている。漢方では活血・通経・止血の効能があり、外傷や腹痛、無月経、産後の瘀血など婦人科疾患に用いる。

 打撲傷などの瘀血による諸症状に紅花・当帰・大黄などと配合する(通導散)。産後の悪露や骨盤内の炎症に川芎・桃仁などと配合する(活血散瘀湯)。また東南アジアでは収斂性の止瀉薬として、インドネシアでは痔や梅毒の治療に用いている。

水曜日, 10月 16, 2013

鼠婦

○鼠婦(そふ)

 ダンゴムシ科の動物オカダンゴムシ(Armadillidum vulare)の乾燥した全虫を用いる。オカダンゴムシはユーラシア大陸を原産とするが、現在では世界中に広く分布している。

 体長1~1.5cmくらい、黒灰色の長楕円形で、背中が七節に分かれて、身を守るために体を丸くする。この丸くなった様子が団子に似ていることからダンゴムシの名がある。朽ち木や石の下など湿ったところに普通にみられる。

 漢方では消癥・利水・解毒・止痛みの効能があり、マラリアによる肝脾腫、婦人の腹部腫瘤、排尿障害、歯痛などに用いる。マラリアによる肝脾腫には別甲・柴胡などと配合する(別甲煎丸)。

火曜日, 10月 15, 2013

蘇鉄実

○蘇鉄実(そてつじつ)

 九州南部や沖縄県、中国南部に分布するソテツ科の常緑低木ソテツ(Cycas revoluta)の種子を用いる。日本の民間では一般に蘇鉄実、蘇鉄子というが、中国では鉄樹果という。ソテツはヤシ科の植物に似ているが雌雄異株の裸子植物であり、1895年に池野成一郎がソテツの精子を発見したことでも有名である。

 ソテツ(蘇鉄)という名は元気がなくなれば鉄釘を幹に打ちつけたり、鉄屑を養分として与えると蘇生することに由来する。中国でも蘇鉄というが、鳳尾蕉、鉄樹などとも呼ばれている。

 種子は朱色の3~4cmの偏平な卵形である。果実や幹の髄にはデンプンが含まれ、種子の外皮や内皮を除いた胚乳を粉末にして蘇鉄もちを作って食用とする。蘇鉄は救荒植物として古くから利用されていたが、ホルムアルデヒドなどの有毒物質を含むため十分に水洗いしないと中毒を起こす。牛が種子を食べて麻痺症状を起こすことがある。

 種子にはアデニン、ヒスチジン、ホルムアルデヒド、配糖体のサイカシンが含まれ、アデニンには鎮咳作用、ホルムアルデヒドには殺菌作用がある。またサイカシンなどの有毒アゾキシ配糖体は体内で加水分解されて発癌性のあるメチルアゾキシメタノールを遊離する。これはグァム島の住民の筋萎縮性側索硬化症の原因物質ともされている。

 日本の民間療法では種子を煎じて鎮咳・通経・健胃薬として用いたり、煎液で切り傷を洗う方法がある。しかし発癌性が強いので服用しないほうがよい。

土曜日, 10月 12, 2013

蘇合香

○蘇合香(そごうこう)

 東南アジアに分布するマンサク科の落葉小高木レヴァントスティラックス(Liquidambar orientalis)の樹脂を用いる。トルコ産を主産地とするが、中国でも広西省で栽培されている。かつて蘇合香はトルコ近辺に産するエゴノキ科の植物、スティラクス(Styrax offcinal)から得られる樹脂のことであったが、16世紀以降、安価なためこのマンサク科の植物の樹脂に代わってしまった。

 樹脂は粘稠で芳香がある。樹幹を深く傷つけると木部の外側にバルサムが溜る。この樹皮に染み込んだ部分を剥がして圧搾し、さらに水と煮沸して圧搾すると黄白色ないし褐色の粘稠な液体が得られる。これをアルコールに溶かし、濾過してアルコールを蒸発して精製する。この水飴のような半流動性の濃い液体を蘇合香という。蘇合香は水に入れると沈み、芳香があり、苦味を帯びた辛さがある。薬用以外にも化粧用香料として用いられる。

 成分にはケイヒ酸やケイヒ酸エステルなどが含まれ、弱い抗菌作用や刺激性の去痰作用が認められている。漢方では開竅・止痛の効能があり、麝香などと同じく中枢性の興奮薬として知られている。脳卒中や失神、狭心症の発作には犀角・麝香などと配合する(蘇合香丸)。狭心症の痛みには竜脳・乳香などと配合する(冠心蘇合丸)。

金曜日, 10月 11, 2013

素馨花

○素馨花(そけいか)

 インドからイランにかけて野生するモクセイ科のつる性常緑低木ソケイ(Jasminum officinale)の花や花蕾を用いる。硬い蕾は特に素馨針という。

 中国南部や台湾でも栽培され、日本にも19世紀の初めごろに伝えられた。白く小さな花が夜間に開き、芳香を放つ。素馨とい名は中国の美女の名前に由来する。ソケイ属は学名をジャスミンといい、花に芳香のあるものが多く、香料源として栽培されているものが多い。ジャスミン茶といえば同属植物のマツリカ(J.sambac)の花の入ったお茶をいうが、ソケイもジャスミンの一種であり、花から得られるジャスミン油は化粧品や香料として用いられている。

 ジャスミン油にはリナロールやベンジルアセテート、芳香の主成分であるジャスモンが含まれている。漢方では疏肝・理気・止痛の効能があり、理気薬のひとつとしておもに肝気欝結による胸脇部の痛みや腹痛に用いる。例えば消化不良や潰瘍、肝炎などによる上腹部や側腹部の痛みに使用する。お茶として愛飲すれば婦人の更年期障害にも効果がある。

木曜日, 10月 10, 2013

側柏葉

側柏葉(そくはくよう)

 中国または朝鮮半島を原産とするヒノキ科の常緑小高木コノテガシワ(Thuja orientalis)の若枝を含む葉を用いる。種子は柏子仁という。ヒノキに似た葉を有するが、葉は表裏の区別がなく全てが垂直に並び、手掌を立てたように見えるためコノテガシワ(児手柏)という名がある。日本には江戸時代に伝えられ、庭園樹として広く栽培されている。

 葉にはαピネン、セスキテルペン、アルコールなどの精油、エストリド型蠟成分のユニペリン酸やサビニン酸、タンニン、フラボノール類が含まれる。漢方では涼血・止血の効能があり、吐血、鼻血、血便、血尿、不正性器出血、内出血などあるゆる出血症状に用いる。実験では止血作用は新鮮な生の側柏葉(鮮柏葉)が最も強く、炭化させた柏葉炭はそれよりも劣る。

 熱性疾患に伴う鼻血や喀血などには鮮柏葉に鮮荷葉・鮮地黄などと配合する(四生丸)。吐血や歯肉出血、喀血などには大薊・小薊などと一緒に黒焼きにして用いる(十灰散)。また寒証の出血には艾葉や乾姜などと配合して用いる(柏葉湯)。また火傷の治療に側柏葉を粉にして泥状にしたものを外用する。円形脱毛症の治療には新鮮な側柏葉をアルコールにつけた液を患部に塗る。

 近年、中国では側柏葉の鎮咳・去痰作用が注目され、慢性気管支炎や肺結核に側柏葉エキスの錠剤や注射液を用いた治療が報告されている。また高血圧の治療に煎じて茶の代わりに服用する。

水曜日, 10月 09, 2013

続断

○続断(ぞくだん)

 マツムシソウ科のナベナ(Dipsacus japonicus)やトウナベナ(D.asper)の根を用いる。中国ではおもに四川省などで採れるトウナベナ(川続断)の根が用いられるため川断とも呼ばれている。

 ナベナは本州、九州、四国や朝鮮半島、中国東北部に分布するがトウナベナは日本には自生していない。日本産の続断といわれるものはナベナではなく、キク科のノアザミ(Cirsium japonicum)やノハラアザミ(C.tanakae)であり、和続断と呼ばれる。このような混同は中国でも古くからあるが、これは続断という名が骨折や打撲、出血などの外傷の治療に効果があるという意味であり、同様の薬効をもつものが広く続断と呼び慣わされているためである。

 ナベナの根にはアルカロイドが含まれるが、詳細は不明である。漢方では補肝腎・続筋骨・活血の効能があり、筋骨を強める強壮作用がある。とくに腰や下肢の筋力低下や疼痛、打撲、捻挫などの腫張や疼痛に効果がある。これらの作用は杜仲や牛膝と似ており、しばしば併用される。

 足腰の弱りや精力の低下、冷え性、頻尿などに用いる大菟絲子丸や参鹿補片に配合されている。また崩漏(不正性器出血)や胎動不安や乳汁不足にも用いる。月経を延期させるときには蒲黄・枳実などと配合する(延経期方)。外傷には粉末にしたものを患部につける方法もある。

火曜日, 10月 08, 2013

続隋子

○続隋子(ぞくずいし)

 ヨーロッパ南部原産のトウダイグサ科の一年草、ホルトソウ(Euphorbia lathyris)の成熟種子を用いる。別名を千金子ともいい、種子の殻を除き、砕いて油がなくなるまで圧搾したものを千金霜という。

 日本には16世紀(天文年間)に渡来し、薬用および観賞用に栽培されている。ホルトソウという名はポルトガルの油(オリーブ油)に由来するといわれ、かつては種子の油を工業用にも用いていた。属名のユールフォルビア(トウダイグサ属)はローマ時代かの医師エウフォルブスにちなみ、古くから薬用にされていたことを示している。

 茎を切って出る乳液にはユホール、チルカロール、ユホルボールなどのテルペン類が含まれ、石油関連の植物として注目されている。種子には脂肪油の成分としてオイフォルビアステロイドが含まれ、これにはヒマシ油の3倍の強さに匹敵する瀉下作用がある。漢方では瀉下・逐水・破瘀の効能があり、大戟や甘遂と同じ逐水薬として肝硬変による腹水や浮腫、食中毒などに用いる。

 瘟疫による嘔吐や下痢、痙攣、悪瘡などに用いる紫金錠には山慈姑・麝香などと配合する。また駆瘀血薬として無月経やヘビ咬傷などにも用いる。ただし毒性があり、服用し過ぎれば嘔吐、ふらつき、煩躁、発汗などの中毒症状が出現する。

月曜日, 10月 07, 2013

桑葉

○桑葉(そうよう)

 クワ科の落葉高木クワの葉を桑葉という。中国では主にトウグワ(Morus alba)を用い、日本では自生するヤマグワ(M.bombycis)を用いる。クワの根の皮は桑白皮、果実は桑椹子、幼枝は桑枝と称し薬用にする。葉は養蚕のためだけでなく、桑茶としても知られている。ただし日本のクワ茶は一般に桑枝が利用されている。桑葉は習慣的に晩秋の霜に当たったものが良質といわれ、霜桑葉とか冬桑葉などと呼ばれている。

 葉にはフラボノイドのルチンやケルセチン、モラチセン、イノコステロンなどが含まれ、抗菌作用などが知られている。漢方では解熱・明目・止咳の効能があり、感冒などによる発熱、頭痛、結膜炎、口渇、咳嗽、脳卒中、蕁麻疹などに用いる。

 軽い発熱や頭痛、咳嗽、目の充血などを伴う菊花・連翹などと配合する(桑菊飲)。咳嗽や喉の乾燥の強い場合には杏仁・沙参などと配合する(桑杏湯)。慢性気管支炎や肺結核などで乾燥性の咳嗽が続くときに麦門冬・阿膠などと配合する(清燥救肺湯)。視力の低下や眩暈、皮膚の乾燥などに胡麻と配合する(桑麻丸)。また目の充血や痛みには菊花・決明子などと配合する。

 近年、健康食品として桑の葉茶が注目されている。クワの葉にはブドウ糖と構造のよく似た1-デオキシノジリマイシン(DNJ)という成分が含まれ、このDNJは糖質の分解酵素、αグルコシダーゼの働きを阻害して糖の吸収を抑える作用があり、糖尿病肥満の改善効果が認められている。

土曜日, 10月 05, 2013

桑螵蛸

桑螵蛸(そうひょうしょう)

 カマキリ科の昆虫オオカマキリ(Paratendera sinensis)、コカマキリ(Statilia maculata)などの卵蛸(巣)を用いる。カマキリの成虫を生薬では蟷螂というが、一般にはあまり用いない。桑の枝についているものが珍重されるため桑螵蛸と呼ばれている。

 カマキリの巣を晩秋から春に採取し、せいろで30~40分蒸して卵を殺した後に乾燥する。日干し乾燥したものは硬く、火であぶったものは軟らかい。一般に幼虫の出たものは用いない。

 成分は不詳であるが、卵蛸に付着しているタンパク質膜にはクエン酸カルシウムの結晶が含まれている。漢方では補陽・固精・縮尿の効能があり、頻尿、夜尿、尿失禁、インポテンツ、遺精、夢精などに用いる。

 腎虚による頻尿、遺尿、遺精、健忘症、不眠などに遠志・人参などと配合する(桑螵蛸散)。強壮剤の至宝三鞭丸などにも配合されている。ちなみに海螵蛸とはコウイカの甲骨である烏賊骨の別名である。

金曜日, 10月 04, 2013

象皮

○象皮(ぞうひ)

 哺乳類、ゾウ科のインドゾウ(Elephas maximus)の外皮を用いる。ゾウはアフリカゾウ(E.Africanus)とインドゾウに大別されるが、アフリカゾウの耳がインドゾウよりも大きいことで区別される。

 インドゾウはインド、マレー半島、スマトラ、ボルネオなどに生息し、群生して草や樹皮、タケノコなどを食べる。牙は上顎にある門歯が長く成長したもので、メスの牙はごく小さいが、オスの牙は2m以上にも及ぶ。インドゾウの性質は温和で知能が高く、インドやタイでは神聖な動物としてあがめられてきた。

 象皮の薬材は暑さ0.5~2cmの方形状で、皮の厚いものを良品とする。漢方では止血・歛瘡の効能があり、外傷性の出血や皮膚潰瘍に用いる。使用法は剥いだ皮を乾燥したものを煮つめて膏にしたり、黒焼きを粉末にして、慢性の皮膚潰瘍や傷口が閉じていないときに外用する。

木曜日, 10月 03, 2013

桑白皮

桑白皮(そうはくひ)

 クワ科の落葉高木クワの根のコルク層を除去した根皮を桑白皮という。またクワの葉を桑葉、幼枝を桑枝、果実を桑椹子という。

 日本では北海道から九州、朝鮮半島、中国に分布するヤマグワ(Morus bombycis)を用いる。中国産はトウグワ(M.alba)あるいはマグワといわれるクワで、東アジア原産で日本にも古い時代に渡来している。クワの葉は蚕の飼料として重要であり、養蚕用に多くの品種が栽培されている。

 根皮にはα・βアミリンやプレニルフラボノイドのモルシンなどが含まれ、降圧、利尿、降血糖作用作用などが報告されている。漢方では止咳・利水消腫の効能があり、炎症性の咳嗽や呼吸困難、血痰、浮腫、脚気、排尿減少などに用いる。

火曜日, 10月 01, 2013

葱白

○葱白(そうはく)

 中央アジア原産とされるユリ科の多年草ネギ(Allium fistulosum)の根の付近の白い部分を薬用に用いる。中国で栽培されてきた最も古い野菜のひとつといわれている。日本にも弥生時代に伝来したと推定されている。

 ネギの古名は「き」であったため「ひともじ」とも呼ばれていたが、根をつけて「ねぎ」と称されるようになった。関東から北ではおもに葉鞘部を長く白く仕上げる根深ネギが、関西では軟白を重視しないので葉身部が発達し緑色の濃い葉ネギ(九条ネギ)が栽培されている。仏教ではネギをニンニク、ノビル、ラッキョウ、ニラとともに五葷(五辛)と称し、修行の妨げになるとして禁じている。

 ネギの特異臭は硫化アリルであり、そのほかビタミンA・B・Cなども含まれている。漢方では解表・通陽・解毒の効能があり、感冒の初期や頭痛、下痢、腹痛、腫れ物に用いる。

 一般に豆豉と配合して頭痛や悪寒などに用いる(葱豉湯)。冷えによる腹痛や下痢には乾姜・附子などと配合する(白通湯)。民間療法でも風邪の初期に新鮮なネギの白い部分を細かく刻み、生味噌と合わせて煮立て、熱いうちに服用する「ネギ味噌」療法が有名である。ネギに味噌をつけて常食すると気分が安定する。また不眠症や咳、咽の痛みなどにネギ湿布をしたり、痔やしもやけの治療に煎じた液で洗うといった民間療法もある。