○小麦(しょうばく)
カスピ海南岸を原産とするイネ科の越年草コムギ(Triticum aestivum)の種子あるいは粉を用いる。コムギは紀元前7000年ごろから栽培が始まり、世界で最も生産が多い穀物である。
この栽培されるコムギの9割はパンコムギで、日本のコムギも全てこれである。コムギはおもに小麦粉にされるが、小麦粉には主成分のデンプンのほかにグルテンの特性により水を加えてねると粘弾性をもったドウ(パン生地)を作ることができる。
近年、健康食品素材として小麦胚芽が注目されている。小麦胚芽に含まれる栄養素としてビタミンE、ビタミンB1・B2・B6などのビタミン類、カルシウム、鉄などのミネラル、アミノ酸などのほか、オクタコサノールが含まれている。オクタコサノールは、酸素利用を高めて、エネルギー産生を促進する働きがあるとされ、持久力の向上、運動後の筋肉痛の予防などへの効果が報告されている。
また、外皮は小麦ふすま(小麦ブラン)と呼ばれ、食物繊維が多いため、かつては専ら飼料に利用されていたが、近年、おなかの調子の整える特定保健用食品の素材として認定されている。
薬用には種子のまま、あるいは小麦粉として用いる。水で研ぐと浮き上がる未成熟な小麦を特に浮小麦という。漢方では安伸・清虚熱・止汗・止渇の効能があり、ヒステリーや煩熱、糖尿病、下痢、癰腫、自汗、盗汗に用いる。
自汗や盗汗には浮小麦のほうがよいとされ、浮小麦を焦げるまで炒って粉末にしたものを重湯で服用する。女性のヒステリーや子供の夜泣きには甘草・大棗などと配合する(甘麦大棗湯)。自汗や盗汗には黄耆・牡蠣・麻黄根などと配合する(牡蠣散)。また切り傷の止血や火傷には粉を外用する。