○粳米(こうべい)
インド北部から中国の雲南省を原産とし、アジアおよび世界各地で食用として広く栽培されているイネ科のイネ(Oryza sativa)の穀粒(種仁)、すなわちうるち米を玄米にした状態で用いる。生薬名では、もち米の穀粒を粳米、両者とも全草を稲草、もみがらのつけたまま発酵させたものを穀芽という。
イネの栽培の歴史は古く、日本でも縄文時代の晩期には北九州で稲作が行われていた。米は粘性によってうるち米(粳米)、ともち米(米)に区別され、もち米はうるち米よりも粘性が強い。これは米のデンプンを構成するアミロースとアミロペクチンの割合が違うためで、うるち米はアミロースを約20%含むが、もち米はほとんどがアミロペクチンで、アミロースを含まない。
外観からも成熟した米粒ではうるち米が半透明なのに対し、もち米は乳白色に濁っている。生薬として用いるのはうるち米の精白していない玄米で、古いものが適している。ただし、長い間貯蔵した粳米はとくに陳蔵米という。
穀粒の75%以上はデンプンであるが、オリゼニン、ジアスターゼなどのタンパク質、ビタミンB1なども含む。漢方では補気・健康脾臓・止渇の効能があり、 口渇や下痢に用いる。
傷寒論、金匱要略では百虎湯・麦門冬湯・竹葉石膏・附子粳米湯・桃花湯など7つの処方に配合され、滋養強壮のほかにも石膏や附子などの胃に対する影響を緩和する目的がある。たとえば附子と配合して冷えに対する腸鳴、腹痛に用いる(附子粳米湯)。乾姜・赤石脂と配合して下痢、血便に用いる(桃花湯)。石膏・知母と配合して発熱に伴う口渇に用いる(白虎湯)、麦門冬などと配合して乾燥性咳嗽に用いる(麦門冬湯)。また桂枝湯や大建中湯を服用した後に薬効を強めるため、粥をすするよう支持されている。陳蔵米にも同様の効能があり、下痢や口渇に用いる。