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木曜日, 1月 09, 2014

○鉄(てつ)

 紀元前1500年ごろからインドや黒海北岸で木炭を燃料として製鉄が始まったとされている。中国では紀元前6世紀ごろから鉄器の製造が始まった。

 製鉄の原料はおもに赤鉄鉱(Hematite)、褐鉄鉱(Limonite)、磁鉄鉱(Magnetite)であるが、天然の鉄鉱石で薬用になるものには赤鉄鉱の代赭石、褐鉄鉱の禹余粮、磁鉄鉱の磁石などがある。また緑礬や自然銅、蛇岩石なども鉄を含む鉱石である。

 精錬されたは含まれる炭素量の多いものから生鉄、鋼鉄、塾鉄に区別される。薬用にされる鉄としては、生鉄をはじめ、生鉄を赤くなるまで熱した外側が酸化したとき叩き落された鉄屑の鉄落、鋼鉄を精錬するときにできる粉末の鉄粉、鋼針の製造のときにできる屑の鍼砂、空気中に放置してできる赤褐色の錆の鉄錆、水に浸して錆が出た後にできる溶液の鉄漿などがある。

 鉄が人間の健康に役立つことは古代ギリシャ時代から知られていたが、貧血の治療に有効であるとわかったのは17世紀のことである。金属鉄は一般に吸収されないが、一部は胃酸の作用でイオン化されて吸収される。還元鉄は吸収されるが、吐き気や下痢などの胃腸障害が強い。このため増血剤として除放製鉄剤や有機酸鉄が利用されている。また、肉や魚のミオグロビンやヘモグロビンに由来するヘム鉄は、野菜や穀類に含まれる非ヘム鉄よりも数倍も吸収率が高いため、健康食品にはしばしばヘム鉄が用いられている。鉄は吸収されると造血が促進され、中枢神経の機能が改善される。

 漢方ではこれらの鉄に平肝・安神・定驚・消腫・解毒の効能があるとし、癲癇やひきつけ、興奮、発狂、不安、動悸などに用いるほか、丹毒や疔瘡などにも用いる。丹毒や疔瘡などの皮膚化膿症には内服だけでなく、外用薬としても用いる。日本では江戸時代に鉄粉を黄胖といわれる貧血の治療に応用している。

 痔の出血が続き、貧血による浮腫や動悸のみられるときには鉄粉に茵蔯蒿・荊芥・蒲黄などを配合する(茵荊湯)。貧血症による浮腫、動悸、息切れ、眩暈には当帰・茯苓などを配合する(当帰散)。一方、慢性肝炎から肝硬変、肝癌へと移行する過程に、鉄が存在すると悪化が促進されるため、体内から鉄を減らす瀉血などが薦められている。