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水曜日, 4月 23, 2014

白果

○白果(びゃっか)

 中国原産で、平安時代以降に渡来して日本全土に植栽されているイチョウ科の落葉高木イチョウ(Ginkgo biloba)の種子(胚乳)を用いる。中国ではイチョウのことを成長が遅く孫の代にならないと実がならないことから公孫樹、種子が白くて銀のようであるとして銀杏、葉の形が鴨の水かきに似ているために鴨脚の中国音、ヤーチョオに由来する。

 ギンナンの名も銀杏の中国北部の発音であるギンアンに由来する。イチョウは雌雄異株の裸子植物で、秋に雌株だけに実(植物学的には種子)がなる。実の多肉質な外種皮は熟すと独特の異臭がある。

 果肉にはアナカルデイア酸、ギンコール酸、ピロボールが含まれ、皮膚に付着するとかぶれを生じる。その中に硬い殻のギンナンがある。薬用には成熟した果実を土に埋めたり、水に漬けたりして外種子を腐敗させた後、洗浄し、日干しする。ギンナンはタンパク質やデンプンに富み、食用とされるが、多食すると中毒を起こし、小児では死亡することもある。

 ギンナンには4’-メトキシピリドキシンという物質が含まれているが、これはビタミンB6と構造が似ているため、ビタミンB6の働きを競合的に阻害し、その結果、脳内の神経伝達物質、γ-アミノ酪酸(GABA)の生成を抑制して痙攣、嘔吐、眩暈、呼吸困難といった中毒症状を表すと考えられている。

 漢方では収渋薬のひとつで止咳・平喘・化痰・縮尿の効能があり、咳嗽、喘息、帯下、頻尿、遺尿などに用いる。たとえば肺熱の咳嗽や呼吸困難、とくに痰の多い喘息に麻黄・杏仁・桑白皮などと配合する(定喘湯)。

 日本には夜尿症の治療に年齢の数だけギンナンの焼いたものを食べさせるという療法がある。またイチョウの葉をしおりに使うとシミがわかないとか、落葉を根元に敷いて肥料にすると駆虫効果があるとして利用されている。近年、イチョウの葉に血流改善作用が認められ、認知症などへの効果が注目されている。

火曜日, 4月 22, 2014

佩蘭

○佩蘭(はいらん)

 日本の関東地方以西、朝鮮半島、中国に分布するキク科の多年草フジバカマ(Eupatorium fortunei)の茎葉を用いる。中国原産であるが、古くから日本に帰化している植物で、秋の七草の一つである。

 かつて中国で蘭といえばフジバカマのことを指し、蘭草とか香水蘭と呼ばれ、香草のひとつとして風呂に入れたり、香料として身につけていた。現在、中国市場では佩蘭としていつくかの基原植物が混じっており、とくにシソ科のシロネ(Lycopus lucidus)の全草である沢蘭と混同されることが多い。逆に沢蘭としてフジバカマを用いている地区もある。

 生のフジバカマには香りはないが、乾燥させると成分のクマリン配糖体が分解されてオルトクマリン酸となり、桜餅のような香りがする。また水性エキスには血糖降下作用や利尿作用がある。漢方では芳香化湿・健胃・解暑の効能があり、とくに夏の胃腸風邪(暑湿)の常用薬である。

 中国医学では佩蘭は芳香化湿薬のひとつであり、脾胃を覚醒させ、胃腸に溜まった湿濁の気を除く作用があると説明している。また佩蘭は湿濁によって生じる「脾癉の要薬」といわれ、口が甘い、口が粘る、口臭がある、みぞおちが張る、食欲不振、消化不良、吐き気、嘔吐、軟便、倦怠感などの症状に用いる。民間薬として糖尿病や浮腫に用いられている。そのほか皮膚の痒みに対して浴湯料として用いる。

月曜日, 4月 21, 2014

貝母

○貝母(ばいも)

 中国原産で日本でも切り花や鉢植えに栽培されているユリ科の多年草アミガサユリ(Fritillaria verticillata)の鱗茎を用いる。貝母という名は2つの厚い鱗片が、母貝が小貝を抱いたように合わさっていることに由来する。日本の古名のハハクリ(母栗)の語源も形が栗のようで、子を抱く母の姿に似ていることによる。また花の内側に紫色の網目模様があるためアミガサユリ(編笠百合)の名がある。

 日本産の貝母は奈良県で栽培され、大和貝母と呼ばれている。中国では貝母は川貝母と浙貝母に区別され、浙貝母は日本産と同じアミガサユリの鱗茎であるが、川貝母はその他の同属植物、巻葉貝母、烏花貝母、稜砂貝母などの鱗茎である。ただし日本の輸入されているほとんどは浙貝母である。

 浙貝省象山県を原産とするため浙貝母といい、また象貝母ともいわれる。川貝歯は四川省を主産地とする。いずれの貝母も化痰・止咳の効能があり、咳嗽、喀痰、咽頭痛などに用いる。川貝母のほうが薬性は穏やかで、潤す性質があるため、慢性化した気管支炎や痰の少ないときに用いる。浙貝母は清熱作用にすぐれ、急性の気管支炎やなどで炎症が激しく粘稠痰の出るときに適している。なお土貝母というのはウリ科の植物の塊茎で薬材の形は似ているが貝母とは全く別の生薬である。

金曜日, 4月 18, 2014

梅肉膏

○梅肉膏(ばいにくこう)

 梅肉膏はバラ科のウメ(Prunus meme)の未成熟果実を加工したもので、日本独自の民間薬である。ウメは梅干しや梅酒として日本人に親しまれているが、これらは薬用としても利用される。

 梅干しは食中毒の予防や食欲増進に、梅酒は夏の暑気あたりや夏まけに効果がある。また民間療法に梅干しを熱灰に埋めて黒焼きにした梅の黒焼きがある。風邪の熱や咳には黒焼きを熱湯に入れて飲んだり、歯が痛むときには患部に黒焼きをすり込んで治療する。頭痛に梅干しの果肉をこめかみに貼ることもよく行われていた。

 江戸時代から伝わる民間薬、梅肉膏は昭和初期に筑田多吉の著した「家庭における実際看護の秘訣」(通称:赤本)によって日本中に広く知られるようになった。最近では梅肉エキスとして有名である。

 梅肉膏は、生の青梅をすりおろし、布巾でしぼった汁を天日で濃縮、あるいは過熱してゆっくりと煮つめたものである。弱火で煮つめると泡が立つが、混ぜているとドロッとなり、黒っぽい水飴のような酸味が強いものできる。これが梅肉膏である。

 梅肉膏は下痢や食中毒の改善効果やピロリ菌に対する抗菌作用などが認められ、また感冒や咳嗽、咽頭炎などにも用いられる。外傷や皮膚真菌症などに外用する方法もある。

 近年、梅を加熱する過程で、クエン酸と糖質(HMF)がエステル結合した化合物、ムメフラールが生成されることが明らかとなった。このムメフラールには血小板凝集能抑制効果や赤血球変形能改善効果が認められ、血流状態を改善することが注目されている。

水曜日, 4月 16, 2014

貝歯

○貝歯(ばいし)

 貝歯には白貝歯と紫貝歯とがあり、一般には紫貝歯がよく知られている。いずれもタカラガイ科の貝であるが、白貝はタカラガイ科のキイロダカラ(Monetaria moneta)やハナビラダカラ(M.amulus)などの貝殻、紫貝歯はハナマルユキ(Erosaria caputserpentis)やヤクシマダカラ(Mauritia arabica)などの貝殻を用いる。

 一般に白貝歯は小型種で全体が黄白色、紫貝歯は大型種で黄褐色や紫色の斑紋がみられる。いずれも南方の海洋に分布し、海南島や台湾、福建省などに産する。

 成分はほとんど炭酸カルシウムで、少量の有機酸、マグネシウム、鉄、ケイ酸塩、硫酸塩、塩化物を含む。漢方では紫貝歯の味は鹸、性は平で、清熱・平肝・明目・安神の効能があり、眩暈、頭痛、結膜炎、不安、不眠などに用いる。白貝歯の味は鹸、性は涼で、清熱・利尿の効能があり、浮腫や膀胱炎などに用いる。

火曜日, 4月 15, 2014

敗醤

○敗醤(はいしょう)

 日本各地や朝鮮半島、中国名とに分布するオミナエシ科の多年草オトコエシ(Patrinia villosa)やオミナエシ(P.scabiosaefolia)を正条品としている。根のついた全草を敗醤あるいは敗醤草、根だけを敗醤根という。

 神農本草経の中品に収載されている敗醤もオトコエシのこととされている。しかし、現在の中国市場に出ている基原植物はおもにアブラナ科のグンバイナズナ(Thlaspi arvense)やキク科のアキノノゲシ(Lactuca indica)などの全草といわれ、はなはだ混乱している。日本産の敗醤根はオミナエシの根である。

 敗醤の名は乾燥させた根茎が醤油の腐った臭いのすることに由来する。オトコエシ(男郎花)やオミナエシ(女郎花)の名の由来は定かではないが、オトコエシの方が茎が太くて毛で覆われ男性的である。またオミナエシの花は黄色く、オトコエシの花は白い。

 オトコエシの果枝にはシニグリン、根には苦味配糖体のロガニンが含まれ、オミナエシの根にはオレアノール酸などが含まれている。漢方では清熱解毒・排膿の効能があり、虫垂炎、下痢、帯下、腫れ物などに用いる。おもに虫垂炎に用いるため「腸癰の要薬」ともいわれる。

 急性虫垂炎や虫垂炎周囲には薏苡仁・附子などと配合する(薏苡附子敗醤散)。また皮膚の化膿などには金銀花・連翹などと配合して煎服したり、生のものを患部に添付する。

金曜日, 4月 11, 2014

梅寄生

○梅寄生(ばいきせい)

 日本各地および北半球に広く分布し、おもにブナ、カシなど広葉樹の生木や枯木に寄生するマンネンタケ科の担子菌類コフキサルノコシカケ(Ganoderma applanata)などの子実体を用いる。樹幹から直接に傘だけの子実体をつけ、表面に薄くココアの粉のように胞子が付いているため、「粉吹き猿の腰掛け」という名がある。

 梅寄生は梅の幹に寄生するサルノコシカケという意味で珍重されているが、現在では寄生樹に関係なく梅寄生という名で市販されている。以前はサルノコシカケ科に含まれていたが、現在はマンネンタケ科に分類されている。コフキサルノコシカケは茶色のコルク質で非常に硬く、食用には適さない。

 1975年頃、サルノコシカケ科のカラワタケからPSKという制癌剤が開発され、、梅寄生も注目されるようになった。コフキサルノコシカケの子実体にはエルゴステロール、ジヒドロエルゴステロール、ユビキノンなどが含まれ、煎液やそれに含まれる多糖類混合物に抗腫瘍活性が認められている。

 サルノコシカケは日本の民間薬であり、かつては解熱薬、心臓病や半身不随の治療薬として用いられていたが、近年では専ら抗癌作用が期待されている。一般に1日量約20gを煎じて服用する。かつて日本の生薬市場ではコフキサルノコシカケのうち、断面が赤いものを梅寄生、白いものを桑寄生と呼んで区別していたこともある。

木曜日, 4月 10, 2014

野菊花

○野菊花(のぎくか)

 近畿以西、朝鮮半島、中国、台湾に分布しているキク科の多年草シマカンギク(Chrysanthemum indicum)や北野菊の頭状花を用いる。中国では全草も野菊または苦薏と称して薬用にする。

 山地や丘陵地の道端などでみられるキクで、直径1cmくらいの黄色い頭花が咲く。栽培のキクはシマカンギクとチョウセンノギクを交配したものと考えられ、栽培品種のキクの花は菊花という。菊花を甘菊花というのに対し、野菊花は苦いため苦薏とも呼ばれている。

 アブラギク(油菊)という名は、このキクの花や葉からゴマ油で抽出した精油成分を「菊油」として利用していたことに由来する。菊油には殺菌力があり、切り傷ややけどの外用薬として用いたほか、島津藩では蒸留したものを「秘薬薩摩の菊油」と称して下痢や腹痛の薬に使っていた。現在、日本の市場では菊花として、この野菊花が流通している。

 シマカンギクの花にはクリサンテミン、αツヨシ、dl-カンフルなどが含まれ、降圧作用、抗菌作用が認められている。中国医学では清熱解毒・降圧の効能があり、感冒、肺炎、胃腸炎、皮膚化膿症、高血圧などに用いる。乳腺炎や皮膚化膿症には金銀花・蒲公英などと配合する(五味消毒飲)。近年、高血圧の予防に野菊花茶が茶剤としてよく利用されている。本来、菊花と効能は異なっているが、日本漢方では慣例として菊花と同様に用いている。

水曜日, 4月 09, 2014

忍冬

○忍冬(にんどう)

 日本、朝鮮半島、中国に分布するスイカズラ科のつる性常緑低木スイカズラ(Lonicera japonica)の茎および葉を用いる。中国では忍冬藤あいるは金銀藤という。現在、中国ではおもに花蕾の金銀花を用いて茎や葉はあまり用いないが、日本では民間薬としても、漢方薬としても全草がよく用いられている。

 葉にはタンニンやフラボノイドのロニセリンが含まれている。漢方では清熱解毒・止痛の効能があり、熱病、咽頭痛、下痢、腫れ物、筋肉や関節の痛みに用いる。金銀花とほぼ同じ効能があるが、解毒のほかに関節などの止痛作用もある。また内服だけでなく、外用薬としても皮膚の湿疹や化膿症、痔、関節炎などに用いる。

 日本の民間では葉を利用した忍冬茶(すいかずら茶)が毒消しの妙薬として知られ、腫れ物や痔、淋疾などに用いられている。今日でも家庭薬にしばしば配合されている。また煎液は扁桃炎などのうがい薬としても応用されている。そのほか浴湯料として風呂に入れ、腰痛や冷え性、痔、あせもなどに用いられる。

火曜日, 4月 08, 2014

人参

○人参(にんじん)

 朝鮮半島、中国東北部を原産とするウコギ科の多年草オタネニンジン(Panax ginseng)の根を用いる。神農本草経に収載されている上薬の一つで、根が人の形に似ていることから人参といわれ、古くから不老長寿、万病薬として珍重されていた。現在、野生の人参は極めて稀である。ときに中国東北部の吉林省や朝鮮で発見され、野人参といわれて非常に高価である。

 日本には天平時代に渤海国からの貢献品として初めて伝えられた。日本では高麗人参とか、朝鮮人参などと呼ばれ、江戸時代には非常に高価な薬であり、偽者や粗悪品が出回った。徳川幕府は事態の改善をはかるため、国内での栽培を推奨した。1728年、田村藍水らの努力により日光の御薬園で栽培に成功し、その人参の種子が各藩に分与されたことからオタネニンジン(御種人参)の名がついた。現在でも長野県の丸子、福島県の会津若松、島根県の大根島などで栽培されている。

 学名はパナックス・ジンセンといい、パナックスとは全てを治療する万能薬という意味であり、ジンセンは中国の発音による。栽培品では播種後4~6年の根を用いる。オタネニンジンと類似した植物として日本ではトチバニンジン(P.japonicus、生薬名:竹節人参)、北アメリカではアメリカニンジン(P.quinquefolium、生薬名:西洋参)、中国南部ではサンシチニンジン(P.notoginseng、生薬名:三七)が知られている。近年、中国で人参の代用品として用いられている党参はキキョウ科の植物の根である。ちなみに野菜のニンジンはセリ科の植物で、中国では人参といわずに紅蘿葡という。

 人参は部位や修治により様々な名称がある。掘り出して水洗いしたままの生の人参を水参といい、薬用酒の原料として用いる。細根を除いて皮を剥かずにそのまま乾燥したものを生干人参、細根を除いて85℃の湯に10分間つけて乾燥したものを御種人参、湯通しした後に周皮を剥いで乾燥したものを白参という。

 一方、切り落とされた細根を乾燥したものを鬚人参あるいは毛人参という。また、せいろで2~4時間蒸した後に熱風乾燥し、赤褐色になったものを紅参という。さらに湯通しや紅参を作るときに使った熱湯を煮つめたエキスを参精という。一般に、播種後4~5年目に間引きしたものは白参や湯通し人参などに加工され、6年間育成したものは紅参に加工される。

 成分には人参サポニンとしてジンセノシドRo、Ra~Rhなどが報告されており、そのほかパナキシノール、βエレメン、ゲルマニウムなどが含まれる。ジンセノシドなどによる薬理作用としてタンパク質、DNA、脂質などの合成促進作用、抗疲労・抗ストレス作用、強壮作用、降圧作用、血糖降下作用、認知症改善効果など数多くの研究結果が報告されている。

 漢方では代表的な補気薬であり、元気を補い、脾胃を健やかにし、神経を安定させ、津液を生じる効能がある。ただし、湯本求真の指摘するように「人参は万能の神薬に非ず」であり、一般に高血圧や実熱証の時には使用すべきではない。

金曜日, 4月 04, 2014

乳香

○乳香(にゅうこう)

 紅海沿岸、アラビア半島からトルコにかけて分布しているカンラン科の低木ニュウコウジュ(Boswellia carterii)の膠状の樹脂を用いる。インドでは同属植物のボスウェリア・セラータ(B.serrata)の樹脂がインド乳香(サライグッグル)として用いられている。幹の皮に傷をつけ、数日後に傷口からしみ出して固まった樹脂を採取する。芳香のある乳白色の樹脂が浸出するため乳香の名がある。主産地はソマリアやエチオピア、アラビア半島南部である。

 没薬とともに古代オリエント、エジプト、ギリシャ・ローマ時代の代表的な香料であり、宗教儀式に葷香料という用いられた。古代からインドでは独自の植物樹脂に乳香を混ぜて用いており、これが5~6世紀の中国に伝わって葷陸香と称されていた。このため乳香の別名を薫陸香ともいうが、薫陸香はインドに産するウルシ科の植物を基原とする説がある。

 また地中海沿岸に分布するウルシ科のマスチックスノキ(Pistacia lentiscus)という植物の樹脂も乳香として伝えられたこともあるが、これは現在では洋乳香(マスティック:Mastic)と称されている。

 乳香の成分としてボスウェリン酸やオリバノセレンなどが知られている。ローマ時代のプリニウスは乳香をドクニンジンの解毒薬とし、アラビア医学では解熱・解毒薬として用いていた。近年、ボスウェリン酸の特異な抗炎症作用が注目されており、リウマチや関節炎などの鎮痛薬として用いられ、また潰瘍性大腸炎などに対する効果も検討されている。

 漢方では活血・止痛・筋肉痛、皮膚化膿症などに用いる。とくに乳香と没薬は瘀血による疼痛に効果があるといわれ、しばしば没薬と併用して外科や整形外科領域の鎮痛薬として用いられる。また没薬とともに粉末にしたものを傷や腫れ物に外用する。

木曜日, 4月 03, 2014

肉桂

○肉桂(にっけい)

 中国南部やインドシナ半島に自生し、栽培されているクスノキ科の常緑高木ケイ(Cinnamomum cassia)の樹皮を肉桂といい、若枝は桂枝という。ケイは別名をシナ肉桂とかトンキン肉桂ともいう。学名をシナモム・カシアといい、英語ではカシアと呼ばれている。一般に欧米でシナモンといえば、主にセイロン肉桂のことを指す。

 樹皮のうち、おもに樹齢10年以上のケイから採取したものが肉桂として用いられる。その外皮を去ったものを挂心という。現在、日本薬局方では桂枝としてのみ規定しているため、桂枝と肉桂の区別がされていない。

 日本に流通している桂皮の多くは広南桂皮と呼ばれるもので、老木の枝や樹齢6~7年の比較的若くて薄い樹皮である。中国では特に樹齢30年以上の樹皮が肉桂として尊ばれている。一方、日本産の肉桂とは、日本の暖地で栽培されているクスノキ科の常緑高木ニッケイ(C.sieboldii)の根皮であり、かつて京都の八つ橋やニッキなどの菓子の原料や香料として用いられていたが、薬用としては用いられていない。

 ケイの樹皮には芳香性の精油成分であるケイアルデヒドが含まれ、血行促進、鎮静・鎮痙、解熱、抗菌、利尿作用などが知られている。漢方では補陽・温裏・止痛・温通などの効能があり、体や手足の冷え、衰弱、腹痛、下痢、無月経、のぼせなどに用いる。また肉桂は「血脈を疎通する」とか「百薬を宣導する」といわれるが、これは肉桂の血行促進作用を表したものと考えられる。

 肉桂と桂枝はいずれも温める作用があるが、肉桂は大熱で作用が強く、体内(裏)を温め、下って腎陽を補うのに対し、挂枝は温で体表を温めて発表し、おもに上行して経脈を通じるといわれる。このため桂枝は解表薬、肉桂は温裏薬に分類されている。

水曜日, 4月 02, 2014

日日草

○日日草(にちにちそう)

 マダガスカル島原産で、熱帯地方に栽培されているキョウチクトウ科の多年草ニチニチソウ(Catharanthus roseus)の全草を用いる。日本には江戸時代に渡来し、観賞用に栽培されているが、一日ごとに花が咲き変わるのでその名がある。

 ヨーロッパでは古くから民間療法で糖尿病に用いられてきたが、研究の中で毒性が強いことが問題となり、顆粒球を減少させ骨髄を抑制する作用のあることが明らかになった。その後、抗腫瘍薬の開発が進められ、1958年、葉から抽出されたアルカロイドに抗白血病作用があることが発見された。

 含有アルカロイドとして細胞分裂を阻害し、抗腫瘍活性を有するビンブラスチンとビンクリスチンがあり、ビンブラスチンはホジキン病、悪性リンパ腫、絨毛性腫瘍、ビンクリスチン(オンコビン)は小児の急性白血病、悪性リンパ腫、小児腫瘍に応用されている。副作用には胃腸障害、脱毛、白血球減少などがみられる。

 民間では葉をすり潰して水を加えたものを胃潰瘍、消化不良、便秘などのときに用いるが、毒性があるためあまり使用しないほうがよい。

火曜日, 4月 01, 2014

肉豆蔲

○肉豆蔲(にくずく)

 モルッカ諸島原産の常緑高木であるニクズク科の常緑高木ニクズク(Myristica fragrans)の種子を用いる。現在ではマレーシアやインドネシア、東アフリカ、西インド諸島などの熱帯地方でも栽培されている。

 桃に似た5~9cmの果実の中に3cmくらいの仮種皮に被われた一つの種子があるが、この仮種皮および堅い種皮を除いたものが肉豆蔲、つまり香辛料のナツメグである。この仮種皮は香辛料のメース(Mace)であり、橙色の網目状のため中国では玉果花あるいは肉豆蔲衣と呼ばれている。両者には同じような芳香があるが、メースの香りのほうが強い。ナツメグはハンバーグなどの挽肉料理、メースは焼き菓子などに利用されるスパイスである。

 ニクズクは古代インドで頭痛薬や胃腸薬として有名であり、インド伝承医学アーユルヴェーダではとくにメースを盛んに使用した。さらに10世紀にはアラビアで、16世紀にはヨーロッパでも万能薬として用いられた。中国では宗代の「開宝本草」に初めて収載され、豆蔲に似ていることから名付けられた。豆蔲というのはショウガ科の白豆蔲のことである。

 種子にはミリスチシン、カンフェン、ピネン、オイゲノール、サフロールなどが含まれ、独特の芳香がある。種子やニクズク油には幻覚や知覚障害を引き起こす有毒作用があり、この成分はミリスチシンといわれている。

 漢方では温裏・収渋・理気の効能があり、消化不良、腹痛、下痢、嘔吐などに用いる。とくに胃腸の虚寒や気滞のために腹部が膨満して痛み、嘔吐や食欲不振、下痢などが続くときに用いる。たとえば早朝になると下痢する症状には補骨脂・五味子などと配合する(四神丸)。家庭薬の太田胃酸やパンシロンなどの胃腸薬にも配合されている。

 一般に急性の下痢や炎症性の下痢には用いない。多量に服用すると痙攣や幻覚を生じ、肝臓障害ひきおこすことがあり、また過去には堕胎薬として用いられたこともある。