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土曜日, 6月 30, 2012

枳殻

○枳殻(きこく)

 日本ではミカン科のダイダイ(Citrus aurantium)やナツミカン(C.natsudaidai)などの未成熟の果実を枳実といい、それよりもう少し大きくなった成熟間近の果実を枳殻という。中国産の枳殻や枳実はおもにミカン科のカラタチ(Poncirus trifoliata)、ダイダイなどの果実も用いられている。成熟果実の果皮も薬用にされダイダイは橙皮、ナツミカンは夏皮などと呼ばれている。

 カラタチは中国中部を原産とし、古くから日本に渡来したもので、唐から来たタチバナという意味である。枳殻と枳実の区別ははっきりしておらず、大きいものを枳殻、小さいものを枳実といったり、あるいは丸ままのものを枳実、二つに割ったものを枳殻といったりもする。中国の成書では幼果を枳実といい、成熟直前の果実を枳殻と述べている。一般に苦味の強いものを枳実、苦味の薄いものを枳殻として扱っている。

 かつて日本漢方の古方は枳実、後世方は枳殻を好んで用いていたが、今日ではほとんど枳実が用いられている。枳実と枳殻の効能はほぼ同じであるが、枳実がおもに水分(痰飲)や食積などの滞りを下降させるのに対し、枳殻は胸の痞えや腹満感など気の滞りを除く作用があるといわれている。また枳殻は枳実よりも作用が弱く、虚弱体質などにも応用できる。

金曜日, 6月 29, 2012

枳ぐ子

枳ぐ子(きぐし)

 日本全土、朝鮮半島、中国に分布するクロウメモドキ科の落葉高木ケンポナシ(Hovenia dulcis)の成熟した果実あるいは種子を用いる。一般に果柄を伴った果実を用いる。

 秋になるといくつかの小さな果実が曲がった多肉質の果柄をつけたまま落下するが、これを噛むと甘くて熟した梨の味がする。枝分かれして凹凸した果柄と果実の様子はニワトリの足に似ている。かつてハンセン病(癩病)を続にテンボと呼んだことからテンボのような梨ということでケンポナシと名づけられている。

 成分にはトリテルペノイドのホベン酸、ブドウ糖、硝酸カリ、リンゴ酸カルシウムなどが含まれる。漢方では解酒毒・止嘔・通便の効能があり、二日酔い、口渇、嘔吐などの症状に用いる。おもに二日酔いの薬としてよく知られるが、あまり漢方処方には利用しない。ちなみにケンポナシの幹から採った樹液を枳ぐ子汁といい、これを煎じてワキガの治療に用いる。

木曜日, 6月 28, 2012

菊花

菊花(きくか)

 中国を原産とするキク科植物のキク(Chrysanthemum morifolium)の頭状花を用いる。日本漢方では、単に菊花といえば野菊花のことをいう。中国では2000年以上前からキクを薬用として栽培していた記録がある。

 日本にも古くから観賞用として多くの品種が栽培されているが、薬用には食用ギク(料理ギク)を用いる。山形県では「もってのほか」、青森県八戸市では阿房宮といった品種が栽培されている。中国各地で菊は花をお茶として飲む風習(菊普茶)や、菊を原料とするお酒、菊花を用いた料理などがある。また古くから薬枕の一つとして枕の中に菊花をつめる習慣もある。

 中国産では山地を冠した名称も多く、安徽省亳県などに産する亳菊花は最佳品とされている。このほか、安徽省の貢菊花や滁菊花、浙江省の抗菊花などが有名である。日本ではおもに抗菊花が輸入されている。しかし、日本の市場では、単に菊花といえば野菊花であるため、本来の菊花を求める場合には抗菊花と指定する。

 菊花の成分にはクレサンテミン、アミノ酸、β-カロテン、ビタミンB1などが含まれているが、薬理作用は明らかではない。漢方では解表・平肝・明目・清熱解毒の効能があり、頭痛、めまい、目の充血、視力の低下、化膿症の炎症などに用いる。

 一般に亳菊花は視力の改善(明目)の作用が強く、抗菊花は頭痛や目の充血など炎症(風熱)に対する作用が強いといわれている。ちなみに野菊花はシマカンギクの花であり、中国医学では清熱解毒薬のひとつとして、肺炎や皮膚化膿症、高血圧などの治療に用いられる。

水曜日, 6月 27, 2012

桔梗

○桔梗(ききょう)

 日本、抽選半島、中国などにかけて分布するキキョウ科の多年草キキョウ(Platycodon grandiflorum)の根を用いる。日本各地に自生しているが、生薬のほとんどは中国などから輸入している。

 万葉時代にはアサガオと呼ばれ、秋の七草にあるアサガオはキキョウのこととされている。桔梗の名は根が結(桔)実して硬(梗)いことに由来する。桔梗を韓国語ではトラジといい、根を塩漬けなどにして食べる習慣がある。一般にキキョウの寿命は1~3年といわれているが、まれに長年生き延びているキキョウが発見されることがあり、韓国では大変体によいものとして珍重してきた。近年、このドラジの栽培に成功し、とくに21年以上育成したキキョウの根を長生ドラジとして商品化している。根には有毒のサポニンが含まれるが、ゆでて水にさらせば食べられるので日本でも重要な救荒植物であった。

 根にはキキョウサポニンのプラチコジン、ポリガラシンなどが含まれ、鎮痛、鎮咳、去痰、抗炎症、解熱作用などが知られている。漢方では宣肺・止咳・去痰・排濃の効能があり、咳嗽、咽頭腫痛、下痢、腹痛などに用いる。とくに呼吸器疾患の要薬として知られている。

 また桔梗は「船楫の剤」とも呼ばれ、他の薬剤の効果を上部の病変部に運ぶ働きがあるという説もある。このため肺など上焦の疾患に桔梗が適している。龍角散浅田飴など多くの鎮咳・去痰の家庭薬にも配合され、同様の効能のあるセネガと配合したセネガ・キキョウ水もよく知られている。ただ、多量、あるいは長期に桔梗を服用するとサポニンのため胃が荒れ、吐き気を催すことがある。

火曜日, 6月 26, 2012

旱蓮草

旱蓮草(かんれんそう)

 本州以南、世界各地の温暖な地域に分布するキク科の一年草タカサブロウ(Eclipta prosrata)の地上部全草を用いる。中国産では地方によってはオトギリソウ科のトモエソウ(Hypericum ascyron)やキク科のハマグルマ(Wedelia chinensis)などの植物も旱蓮草と称している。

 かつや皮膚や目のただれをタタラビといい、その治療に用いることからタタラビソウといわれ、いつしかタカサブロウという名になったといわれる。中国名の墨旱蓮と鱧腸という中国名は茎を折ると断面が黒くなることに由来する。これは茎に含まれるウエデロラクトンという成分が酵素によって酸化されるための現象で、この搾り汁は黒色染料や毛染めに使われたこともある。

 漢方では清熱涼血・止血の効能があり、吐血、喀血、血尿、下血、性器出血、若白毛、淋病、帯下、陰部湿疹などに用いる。さまざまな出血に用いられるが、とくに血尿には効果があり、生の旱蓮草とオオバコ車前草)を混ぜた汁を服用する。また切り傷にも生の汁で湿布すると効果がある。  眩暈や腰痛、白髪、不眠などに女貞子と配合する(二至丸)。日本の民間療法では結膜炎に洗眼薬として、インドではアメリカタカサブロウ(ブリンガラジ:E.alba)を育毛剤として用いている。

土曜日, 6月 23, 2012

漢防已

○漢防已(かんぼうい)

 従来、防已は漢防已と木防已とに区別されてきたが、いずれの基原植物に関しても日本と中国では異なっている。ただし今日の臨床では木防已はほとんど用いられず、漢防已のみを防已として用いている。

 漢防已として日本ではツヅラフジ科のオオツヅラフジ(Sinomenium acutum)のつる性の茎を用いるのに対し、中国ではツヅラフジ科のシマハスノハカズラ(Stephania tetrandra)などの根を用いている。しかも日本の漢防已であるオオツヅラフジの茎は中国でも青風藤と称して別に扱われている。現在、日本に中国産の漢防已は輸入されていない。

 オオツヅラフジの成分には鎮痛・消炎作用のあるアルカロイドのシノメニンが含まれ、かつて鎮痛薬として利用されていた。一方、シマハスノハカズラの成分ではテトランドリンというアルカロイドが注目されている。またシマハスノハカズラの近縁植物で日本の南西諸島や中国南部に産するタマサキツヅラフジ(S.cephalantha)の塊根は白薬子と呼ばれている。このタマサキツヅラフジに含まれるアルカロイドのセファランチンは、免疫増強剤や育毛剤などに用いられている。

金曜日, 6月 22, 2012

款冬花

○款冬花(かんとうか)

 地中海の沿岸からインド、中国に分布しているキク科の多年草フキタンポポ(Tussilago farfara)の花蕾を用いる。日本には自生しておらず、明治中期に薬用として伝えられた。かつて日本ではフキを款冬と称していたが、フキの中国名は蜂斗菜である。フキタンポポの名は葉がフキに、花がタンポポに似ているところによる。花期は2~3月ごろであるが、採取は晩秋から初冬にかけてまだ地中にある花蕾を掘り出して行う。

 花蕾にはファラジオール、ルチンなどが含まれ、鎮咳・去痰作用などが報告されている。漢方では止咳、潤肺の効能があり、咳嗽、喘息、咽頭の閉塞感に用いる。鎮咳の常用薬で、寒熱・虚実を問わず一切の咳嗽に用いることができる。紫苑と併用することが多く、両者の効能は似ている。相違点としては款冬花は鎮咳、紫苑は去痰に優れ、款冬花は寒咳、紫苑は燥咳によいといわれている。

 欧米ではコルツフット(Coltsfoot)と呼ばれ、古くから葉や花の煎じ液やチンキなどが咳の治療薬として知られている。さらに喘息や咳に対してコルツフットの葉をタバコのように喫煙するというギリシャ時代からの伝統的な治療法も行われている。

 フキタンポポには肝毒性のあるピロリジンアルカロイドが含まれるため注意が必要であるが、30分以上煎じることにより熱分解されることが知られている。

木曜日, 6月 21, 2012

寒天

○寒天

 紅藻類テングサ科の海藻を煮て溶かして固めたものをところてんといい、さらに凍結乾燥したものを寒天という。一般にテングサといえばGelidium amansii、ヒラクサ(G.subcostatum)をいうが、そのほかオバクサ(Pterocladia)、オゴノリ(Gracilaria verrucosa)なども原料に利用されている。

 1658年の冬、参勤の途上の京都で島津侯が食べ残したところてんを戸外に捨てたものが凍結して鬆の入った干物になっていたことから、宿屋の主人が創製したのが寒天の由来といわれる。ちなみにところてん(心太)は、中国から渡来したものといわれているが、千数百年以上も前から日本で好まれてきた食べ物である。

 寒天は現在、長野県、岐阜県、大阪府などで製造されている。伝統的な天然寒天は、冬期に屋外で自然凍結、自然乾燥させて製造する。テングサ類の体細胞間壁には10~20%の寒天質が含まれ、その煮出した汁はゾル状であるが、40℃以下に冷えると凝固してゲルになる特性がある。

 寒天の主成分はアガロース、アガロペクチンなどの多糖類で、消化吸収しにくく、低カロリー食としても知られる。粉末のまま服用すると保水力が強く膨張するため慢性便秘の改善にも利用できる。また軟膏の基剤やオブラート原料にも利用されている。

 現在、寒天由来の食物繊維は整腸作用があることから特定保健用食品に認定されている。また、アガロースから生成されるアガロオリゴ糖に癌細胞のアポトーシス誘導や血管新生抑制作用といった抗癌作用、NO過剰生成抑制によるリウマチ予防作用などのあることも報告されている。

水曜日, 6月 20, 2012

甘草

甘草(かんぞう)

 ウラル地方、シベリア、モンゴル、中国北部に分布するマメ科の多年草ウラルカンゾウ(東北甘草・Glycyrrhiza uralensis)、スペインカンゾウ(西北甘草・G.glabra)、新疆甘草(G.inflata)などの根及び匍匐茎を用いる。日本薬局方においては、G.uralensisまたはG.glabraを基原植物としている。

 日本市場においては東北甘草が良品とされているが、中国では西北甘草が一般的に用いられている。甘味が強いために甘草という名があり、甘味料として醤油、漬物、菓子、タバコなどに用いられている。英語ではリコリス(Licorice)といい、リコリス菓子やルートビアなどの原料として利用されている。

 甘草は漢方薬との中で最も多く配合され、ほかの薬物の効能を高めたり、毒性を緩和することから国老という別名もある。カンゾウは洋の東西問わず古くから薬として用いられている。西洋ではヒポクラテスの全集やテオフラストスの植物誌などにカンゾウについての記述がみられ、中国最古の本草書である神農本草経の中にも上薬として甘草が収載されている。

 カンゾウは甘味味成分としてグリチルリチンを5~10%含み、グリチルリチンは砂糖の約150倍の甘さがある。グリチルリチンの薬理作用にはステロイド様作用、抗炎症作用、抗潰瘍作用、鎮咳作用などがあり、とくに肝機能改善薬として広く用いられている。また近年、エイズ治療薬としても注目されている。新薬にも強力ネオミノファーゲンCやグリチロンなどいくつかのグリチルリチン製剤がある。

 漢方では補気・清熱解毒・止痛などの効能があり、胃腸の虚弱、虚労、腹痛、下痢、動悸、咽頭腫痛、消化性潰瘍、腫れ物、薬毒などに用いる。一般に甘草を生で用いれば清熱解毒の作用が強く、炒めて炙甘草にすると補気作用が強くなる。また百薬の毒を解すといわれるように他の生薬の刺激性や毒性を緩和する目的でも配合される。この場合も本来は炙甘草を用いるべきであるが、日本ではしばしば生甘草が用いられている。甘草の多量投与による副作用として浮腫、高血圧、低カリウム血症などの偽アルドステロン症、ミオパチーなどが知られており、特に高齢者や女性、また利尿剤併用時に注意すべきである。

月曜日, 6月 18, 2012

甘遂

○甘遂(かんすい)

 中国の陜西・河南・山西・甘粛省などに分布するトウダイグサ科の多年草カンスイ(Euphorbia kansui)の根を用いる。茎葉に傷をつけると白色の乳液が出る。この汁には毒性があり、かぶれることがあるので注意が必要である。

 属名のユーホルビアという名はローマ時代の医師エゥフォルブスにちなむといわれ、古くから薬として用いられていた。漢方生薬としてもカンスイと同属植物のトウダイグサ(沢漆)、ホルトソウ(続隋子)、タカトウダイ(大戟)などがある。カンスイの根には有毒成分のカンスイニンA・Bやトリテルペノイドのα・βユーホルボール、チカロールなどが含まれている。薬理作用としては瀉下作用や利尿作用、強心作用などが知られている。

 漢方では通便・逐水の効能があり、大・小便の不通、浮腫、胸水、腹水などに用いる。激しい瀉下作用と利尿作用があるため、峻下遂水薬のひとつに分類され、臨床的には滲出性肋膜炎による胸水、肝硬変による腹水、腎炎による浮腫などに応用する。たとえば肋膜炎による胸水(結胸証)には大黄・玄明粉などと配合する(大陥胸湯)。ただし毒性が強く、激しい瀉下作用があるため、一般に妊婦をはじめとする体力の低下しているものには使用しない。

土曜日, 6月 16, 2012

甘松

甘松(かんしょう)

 オミナエシ科の多年草、ナルドスタキスの根及び根茎を用いる。ヒマラヤから中国西南部の高山帯に自生するナルドスタキス(Nardostachys chinensis)は、四川省の松州に産し、甘みがあるため甘松の名がある。一方、ネパールに分布するナルドスタキス(N.jatamansi)は、古くからインドなどで香料として知られているるツタンカーメンの副葬品の香膏の成分にも甘松香(ナルド)が含まれていた。

 寛葉甘松の根や根茎にはヤタマンシンを主成分とする精油が含まれ、独特の芳香がある。甘松にはワレリアナ根とよく似た鎮静作用があり、バレラノンには抗不整脈作用がある。

 漢方では理気・止痛・健胃の効能があり、胃痛、腹部膨満、頭痛、ヒステリー、脚気などに用いる。一般には芳香性の健胃薬として用いられ、食欲不振や腹痛に単独で煎じて服用する。ストレスなどによる嘔吐や下痢、腹痛には香附子・麦芽などと配合する(大七香丸)。

 また脚気などの浮腫に煎液で温湿布する治療法もある。現在でも感冒や頭痛、腹痛、動悸などに適応のある伝統薬の敬震丸にも牛黄・麝香などと配合されている。ただし近年では薬用より、おもに薫香料として用いられている。ちなみに和の甘松香と呼ばれているのは吉草根のことである。

金曜日, 6月 15, 2012

乾生姜

○乾生姜(かんしょうきょう)

 熱帯アジア原産のショウガ科のショウガ(Zingiber officinale)の根茎の周皮を除き、そのままあるいは石灰をまぶして乾燥したものを日本では生姜あるいは乾生姜という。これは日本薬局方のショウキョウに相当する。

 ショウガは加工方法(修治)により生姜と乾姜に区別されるが、中国と日本ではその内容が異なっていて複雑である。本来、生姜というのは生のショウガを指し、中国でいう生姜もこのヒネショウガのことである。日本では生のショウガを鮮姜という。

 現在、日本では通常、薬用として生のショウガは用いず、一般に生姜といっているのは乾燥したショウガのことである。このため、これを乾生姜ともいう。一方、中国ではショウガを日干しなどして乾燥したものを干姜という。つまり中国の干姜は日本の生姜、つまり乾生姜に相当する。

 ところで日本で用いている乾姜はショウガの皮を剥ぎ、蒸した後に乾燥したものであるが、中国ではこのようなものは用いていない。ちなみに中国でいう煨姜とは生のショウガを紙で包み、水に漬けたものを熱灰の中で蒸し焼きにしたもので、炮姜とは乾燥させたショウガを外皮がキツネ色になるまで強火で炒ったものである。

 乾生姜の呼称は、すでに江戸時代からあり、当時の乾生姜とはショウガを片に切って乾かしたものと考えられている。今日、日本で用いられている乾生姜という生薬名は便宜的な名であり、日本薬局方でいうショウキョウ、中医学でいう干姜のことである。漢方処方の生姜の代わりに乾生姜を用いる場合は、一般に1/3~1/4量に換算して用いられている。

木曜日, 6月 14, 2012

貫衆

○貫衆(かんじゅう)

 貫衆はオシダ科やゼンマイ科のシダ植物の婚礼を用いる。中国産の基原植物はおもにオシダ科のオシダ(Dryopteris crassirhizoma)7ミヤマシケシダ(Althyrium pycnosorum)、クサソテツ(Matteuccia struthiopteris)であるが、ゼンマイ(Osmunda japonica)なども用いられている。このため生薬に産地の名をつけて東北貫衆(オシダ)や華北貫衆(ミヤマシケシダ)、広東貫衆(ヒリュウシダ)などと称されている。オシダやミヤマシケシダなどは日本で綿馬あるいは綿馬根と呼んでいる。

 オシダにはフロログロシノール誘導体のフィルクロンが含まれ、分解されて駆虫作用のあるアスピジンやアルバスピジンとなる。この有効成分はオシダ属のほとんどの植物に共通している。

 漢方では清熱解毒・止血・駆虫の効能があり、皮膚化膿症、耳下腺炎、鼻血、吐血、下血、性器出血、寄生虫症に用いる。近年、中国ではインフルエンザや麻疹などの予防薬として応用されている。駆虫薬として条虫や十二指腸虫の駆除に用いるほか、牛の肝蛭病やほかの寄生虫症に有効である。日本で綿馬の名で呼ばれるのはオランダ医学から駆虫薬として紹介されたためで、成分が変化しやすいため通常エーテルエキス(綿馬エキス)として用いる。

水曜日, 6月 13, 2012

乾漆

○乾漆(かんしつ)

 ヒマラヤから中国にかけての温暖な地域に分布し、日本に奈良時代以前に渡来したウルシ科の落葉高木ウルシ(Rhus verniciflya)の樹脂を加工したものである。

 生の樹脂を生漆という。樹脂を乾燥すると表面は茶褐色でざらざらした塊状になるが、これが乾漆である。これはウルシ液の中のウルシオールがラッカーゼという酵素の作用で空気中で酸化され、高分子化してできたものである。このようにウルシ液が空気中で酸化され、黒変して硬くなり、耐久性がでることから食器や工芸品、ピアノなどの塗料や接着剤として利用される。

 漆塗りの技術も中国から伝えられたが、温度や湿度などが日本の風土に合ったために独自に発展してきた。ちなみに英語では漆器をジャパンといい、ウルシをジャパニーズ・ラッカーという。ただし日本では薬用の乾漆は生産されていない。ウルシはかぶれやすいことで知られているが、これはウルシオールの刺激によるものであり、この症状は個人差が強い。

 樹脂の成分にはウルシオール、ハイドロウルシオールのほか、マンニトールやゴム質が含まれる。漢方では活血化瘀・消癥・駆虫の効能があり、無月経、腹部腫瘤、寄生虫症などに用いる。貧血に伴う黄胖病には平胃散鍼砂などと配合する(鍼砂平胃丸)。婦人の腹部腫瘤や月経障害などには大黄・シャ虫などど配合する(大黄シャ虫丸)。ただしウルシが合わない人には用いない。ちなみにウルシかぶれには沢蟹が特効薬と伝えられている。

火曜日, 6月 12, 2012

乾地黄

○乾地黄(かんじおう)

 中国原産のゴマノハグサ科の多年草ジオウ(Rehmannia glutinosa)の根を用いる。ジオウの根を採取した後に日干し、あるいは体温で加熱して乾燥したものが乾地黄であり、日本で地黄というば乾地黄のことをいう。これは中国での生地黄(乾生地)に相当する。

 地黄にはイリドイド配糖体のカタルポール、レオヌライド、アウクビン、糖類のマンニトール、ブドウ糖、果糖などの成分が含まれている。地黄エキスでは血糖降下作用や強心・利尿作用、肝庇護作用、抗菌作用などが認められている。

 漢方では清熱・止血・補陰・補血の効能があり、陰虚の熱証や口渇、下血、不正性器出血、血尿などにも用いる。乾地黄は生地黄と熟地黄の中間的な生薬であり、清熱・生津作用は生地黄が、補陰・補血作用は熟地黄の方が強い。

月曜日, 6月 11, 2012

乾姜

○乾姜(かんきょう)

 熱帯アジア原産のショウガ科の多年草ショウガ(Zingiber officinale)の根茎を乾燥したものを用いる。ただし日本では生のショウガを乾燥しただけのものは生姜(別名:乾生姜)という。日本市場でいう乾姜とはヒネショウガの皮を剥ぎ、蒸した後に乾燥したものであり、全体が飴色の角質となっている。かつては生のショウガを湯通しして乾燥した三河生姜も流通していた。ちなみに日本の乾姜に相当するものを中国では用いていない。ここでは中国の干姜として説明する。

 生姜と乾姜を比較して成分にどのような変化がみられるかは明らかではないが、ジンゲオールが減少して、ショウガオールが増加するという報告がある。漢方的に説明すれば生姜は辛温で発散の作用が強く、感冒や嘔吐の常用薬であるのに対し、乾姜は熱性が強く、体内の冷えによる症状(裏寒証)の治療に用いる。

 乾姜の主な効能に温裏・補陽(回陽)・化痰などがある。これらの効能は熱性の強い附子と共通するが、古来より、「附子は走りて守らず、乾姜はよく走りてよく守る」といわれている。つまり乾姜の作用は、附子よりも持続すると説明されている。一方、附子と乾姜を配合すれば相乗的な効果があるため、「乾姜は附子がければ熱せず」ともいわれている。

 なお中国では乾姜を外皮がキツネ色になるまで強火で炒ったものを炮姜という。炮姜は辛烈の性質が緩和されているが、止瀉・温経・止血の効能があり、寒証の下痢や不正性器出血、下血などに用いられる。

土曜日, 6月 09, 2012

川ぢしゃ

○川ぢしゃ

 本州以内をはじめとして東アジアに広く分布するゴマノハグサ科の越年草カワヂシャ(Veronica undulata)の全草を用いる。中国では同属のオオカワヂシャの全草を水苦蕒という。川岸や溝などに生え、若葉は食べられる。チシャというのはレタスのことである。また刺身のつまに若芽のついた茎が用いられる。

 成分には利尿作用のあるオークビン、抗菌作用のあるオークビゲニンなどが知られている。日本の民間薬として利尿・清熱の効能があり、風邪や咽頭痛、浮腫などに用いる。ただし、市場品の川ぢしゃはトチカガミ科のミズオオバコ(Ottelia alismoides)の全草といわれ、中国での生薬名は竜舌草という。

金曜日, 6月 08, 2012

栝楼仁

○栝楼仁(かろにん)

 中国産はウリ科のトウカラスウリ、日本産はキカラスウリの種子を用いる。キカラスウリは日本各地に自生しており国内で自給も可能いわれているが、近年はほとんどが輸入品である。トウカラスウリの根は栝楼根という。日本では果実のうち種子だけを用いるが、中国では果実全体を栝楼あるいは全栝楼、果皮を栝楼皮、種子を栝楼子と称し、区別して用いる。

 傷寒論・金匱要略の処方中に栝楼実とあるのは、本来は果実のことであるが、日本では一般に栝楼仁が用いられている。種子にはリノール酸やリノレン酸、トリコサン酸などの脂肪酸が含まれている。

 漢方では潤肺・化痰・通便・排膿の効能があり、咳嗽、粘祹痰、便秘、腫れ物、乳汁不足などに用いる。また栝楼皮も同様に化痰・寛胸・理気の効能があり、咳嗽、粘祹痰、咽頭痛、胸痛などに用いる。張仲景は「胸痺」といわれる狭心症などの胸痛症状にも用いているが、これは胸中の欝熱を除き、痰濁を降ろすといった寛胸の効能があると説明している。民間では尿や母乳の出をよくするために煎じて服用されている。

水曜日, 6月 06, 2012

栝楼根

○栝楼根(かろこん)

 中国から朝鮮半島、インドシナに分布するウリ科のつる性多年草、トウカラスウリ(Trichosanthes kirilowill)、及び日本の北海道から沖縄県に分布するキカラスウリ(T.kirilowill var.japonica)の根を用いる。すなわち日本産はキカラスウリ、中国産はトウカラスウリであるが、現在の日本市場ではほとんど輸入品のトウカラスウリの根である。

 中国ではトウカラスウリを天瓜といっていたのが天花に変わり、一般に天花粉と呼ばれている。またトウカラスウリの果実は栝楼、果皮は栝楼皮、種子は栝楼仁という。

 トウカラスウリの根には多量のデンプンのほか、トリコサン酸などの脂肪酸、アルギニンなどのアミノ酸、シトルリン、スティグマステロールなどが含まれており、抗腫瘍作用やインターフェロン誘起作用が知られ、また中国では抗腫瘍作用などが報告されている。

 漢方では潤肺・止瀉・排膿の効能があり、発熱による脱水傾向、乾燥性咳嗽、口渇、煩躁、化膿性疾患などに用いる。また中国では栝楼根から抽出した注射液を胞状奇胎や人工中絶に応用している。根のデンプンは天花粉といい、かつて乳児のベビーパウダーはデンプンに亜鉛華などを加えたものがほとんどである。

火曜日, 6月 05, 2012

瓦楞子

○瓦楞子(がりょうし)

 アカガイ科の貝の貝殻を用いる。肉も蚶と称して薬用に用いる。大きさは殻長4~8cmとさまざまであるが、いずれも心臓形をしており、殻頂から放射状に凹凸がある。色は白の地に褐色の殻皮で覆われている。

 主成分は炭酸カルシウムであるが、有機質や微量元素なども含まれる。漢方では軟堅散結・消癥の効能があり、癭瘤(頸部リンパ節腫)や婦人の腹部腫瘤などに用いる。癭瘤(甲状腺腫)や瘰癧(頸部リンパ腺腫)には海藻、昆布などと配合し、腹部腫瘤には三稜・莪朮・別甲などと配合する。また強火で焼いた煅瓦楞は制酸止痛の作用があり、胃潰瘍や胃炎、胃酸過多症に使用する。肉の蚶は、味甘・性温で補血・健胃の効能があり、消化不良や体力低下に用いる。

日曜日, 6月 03, 2012

荷葉

○荷葉(かよう)

 マレー半島あるいはインドが原産といわれ、熱帯アジア、インド、中国、オーストにリアに分布する多年生の水草、スイレン科のハス(Nelumbo nucifera)の葉を用いる。ハスはさまざまな部分が薬用にされ、根の節は藕節、花托は蓮房、雄しべは蓮鬚、果実は蓮実、種子は蓮肉という。

 葉にはアルカロイドのヌシフェリン、ノルヌシフェリン、ロエメリン、アノナイン、フラボノイドのネルンボシドなどが含まれている。漢方では解暑・止血・止瀉の効能があり、熱射病や日射病、夏季の下痢、暑気あたり、種々の出血などに用いる。暑気あたりや熱病後で身熱が続き、頭がスッキリしないときは金銀花・西瓜翠皮などと配合する(清絡飲)。喀血や吐血、鼻血などには新鮮な生地黄、側柏葉などと配合する(四生丸)。葉柄や花柄の荷梗は暑気あたりで胸の苦しいときに用いる。

 近年、荷葉エキスに消化吸収阻害や脂肪分解、熱産生促進といった作用が報告されており、ダイエット素材として検討されている。

金曜日, 6月 01, 2012

ガラナ

○ガラナ

 アマゾン川流域を原産とするムクロジ科のつる性植物ガラナ(Paullinia cupana)の種子を用いる。ブラジルでは果実を採取したあと積み上げて発酵させ、種子を取り出す。種子は径約1cmの褐色の球形で、表面に光沢がある。この種子を砕いて粉にし、キャッサバ(タピオカデンプン)とともに水で練って直径3cm、長さ15cmくらいの棒状にする。これを薫煙乾燥すると黒褐色の硬いガラナエキス(通称:ガラナ)ができる。

 ガラナエキスにはカフェイン、タンニン、サポニン、油脂などが含まれ、カフエインの含量はコーヒーの約3倍である。水性エキスはガラナ茶と呼ばれる。現地ではガラナエキスをチョウザメの舌などで削り、熱湯に溶かして服用する。興奮嗜好性飲料として強壮・催淫の効果があるとして有名である。

 ブラジルなどの熱帯アメリカでは清涼飲料として広く飲まれている。日本には大正時代に製品が伝えられたが、1950年代になってガラナ飲料の普及が始まり、現在でも北海道地区では清涼飲料に利用されている。また、ガラナエキスは強精・強壮剤としていわれる家庭薬やドリンク剤にしばしば配合されている。ただし、子供、妊娠中、授乳中の女性、高血圧や心臓病などを有する場合には注意が必要である。