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月曜日, 4月 30, 2012

海竜

○海竜

 中国の南海の沿岸に生息するヨウジウオ科の魚トゲヨウジ(Syngnathoides biaculeatus)などを用いる。ヨウジウオは日本でも北海道以南に分布し、内湾の海藻の繁茂したところに生息している。ヨウジウオはタツノオトシゴ(海馬)と同じ科に属するが、タツノオトシゴより細長く、直線的な魚である。日本名のヨウジウオとは楊枝魚と書く。ヨウジウオ類には体調が40~50cmくらいもある種類から、20cm以下の種類もある。雄の尾部腹面に育児嚢があり、雌の産み落とした多数の卵を中に入れ、孵化するまで保護している。

 性味や効能はほぼ海馬と同様で、補腎・壮陽の効能がある。強壮薬として慢性病やインポテンツ、分娩促進などに用いる。効力は海馬よりやや劣るとされているが、倍ぐらいはあるという本草書もある。また焼いた海竜は夜尿症に効果がある。

土曜日, 4月 28, 2012

艾葉

艾葉(がいよう)

 日本各地に自生キク科の多年草ヨモギ(Aremisia princeps)またはオオヨモギ(A.montana)の葉を用いる。ただし一般の市場品としては全草も出回っている。ヨモギ属の種類は多く、中国の基原植物にはヨモギと近縁の艾(A.argyi)や野艾(A.vulgaris)が用いられている。沖縄ではフーチバーという名でニシヨモギ(A.indica)が野菜として利用されている。ヨモギはモチグサとも呼ばれ、春先の若芽を草餅や草だんごに用いている。

 ヨモギの葉の裏の繊毛はモグサの原料であり、ヨモギは「よく燃える木」、モグサは「燃える草」という説もある。モグサを日本では熟艾と書くが、中国では艾絨という。ヨモギの乾燥した葉を細かくつき砕いた後、篩にかけて滓を除き、綿のようになって残った柔毛を晒したものがモグサである。日本産のモグサは主としてオオヨモギからとっており、滋賀県伊吹山の名産である。

 葉の成分にはシネオール、αツヨーン、カフェータンニン、ビタミンA・B・C・Dなどが含まれる。漢方では温裏・止血・止痛の効能があり、腹部の冷痛、下痢、鼻血、吐血、下血、性器出血、帯下、胎動不安、腫れ物、疥癬などに用いる。とくに婦人科領域の止血薬や安胎薬としてよく知られている。

 民間では全草を煎じた液を腹痛や貧血、痔の出血に、根を清酒に漬けたヨモギ酒を喘息に、生の葉の汁を切り傷の血止めや湿疹、虫刺されの外用薬に、全草を浴湯料として風呂に入れて冷え性や腰痛、痔の治療薬にとさまざまに用いられている。

 近年、ヨモギで作ったローションに止痒作用があるとして透析患者やアトピー性皮膚炎などに用いられている。ちなみに欧米では近縁種のオウシュウヨモギ(A.vulgaris)がマグワートと呼ばれ、生理不順や分娩促進などに効果のあるハーブとして用いられている。

火曜日, 4月 24, 2012

海浮石

○海浮石(かいふせき)

 海浮石には好物と動物の2種類あり、火山の噴火によってできた軽石(浮石)と腔腸動物であるサンゴの仲間、多孔珊瑚石といわれる脊突苔虫や瘤苔虫の骨格(石花)を用いることがある。中国北部ではおもに珊瑚の石花を用い、日本や中国南部では鉱物の浮石を用いている。

 浮石はガラス質からなり、二酸化ケイ素SiO2を主成分としてアルミニウムやカリウムを含んでいる。石花の主成分は炭酸カルシウムである。漢方ではいずれも性味は寒・鹸で去痰・軟堅・通淋の効能があり、咳嗽や癭瘤(甲状腺腫)、瘰癧(頸部リンパ腺腫)、泌尿器疾患に用いる。山脇東洋は大黄・赤石脂・硝石などと配合した浮石丸を鼓腸(腹部膨満)の治療に用いた。

月曜日, 4月 23, 2012

海風藤

○海風藤(かいふうとう)

 関東地方以西、琉球諸島、台湾、朝鮮半島に分布するコショウ科の常緑つる性植物フウトウカズラ(Piper kadsura)のつる性の茎を用いる。風藤という中国の生薬名が日本の植物名になっている。よく似たコショウ科の植物にナントウゴショウ(P.wallichii)があり、そのつる性の茎葉の生薬名を石南藤あるいは南藤という。一説にはフウトウカズラは海風藤ではなく石南藤として用いられているともいわれる。

 フウトウカズラの果実はコショウに似ているが、辛味はなく香辛料にはならない。茎や葉にはフトキシド、フトアミドなどが含まれる。近年、中国南部産の海風藤から得られたネオリグナンのカズレノンはきわめて強いPAF物質(血小板活性化因子の拮抗物質)であることが報告されている。

 漢方では去風湿・通経絡・理気の効能があり、リウマチなどによる関節痛に筋肉痛、脳卒中後遺症による麻痺、打撲傷、慢性の咳嗽、喘息などに用いる。沖縄では神経痛、打撲傷ヘビの咬傷、腰痛などに用いている。

土曜日, 4月 21, 2012

薤白

○薤白(がいはく)

 中国が原産で、古くから日本に渡来したユリ科のラッキョウ(Allium valeri)の鱗形、つまり食用とする部分を乾燥したものです。ラッキョウは辣薤という漢名に由来するといわれ、英語でもRakkyoという。また日本の市場ではエシャロットとして出回っているものは、通常はラッキョウを若採りしたものの商品名である。中国ではチョウセンノビル(A.macrostremon)の鱗形も用いる。

 ラッキョウに含まれるフラボノイドには強力な抗酸化作用、食物繊維のフルクタンには血糖上昇の抑制作用、硫化アリルには血流改善効果などが報じられている。漢方では通陽・理気・止痛の効能があり、胸痛、腹痛、心窩部痞塞感、悪心、下痢などに用いられています。

 中国医学では「胸の陽を通じ、胸痺を開き、胃腸の気滞を下す」といわれている。胸痺とは狭心症や心臓喘息、肋間神経痛、気管支炎などによる胸痛症状のことである。そのほか感染性腸炎などによる腹痛、下痢に用いる。

 日本の民間療法でも食欲のないときに生のラッキョウに味噌をつけてたべるとか、腹痛に煎じて服用する方法がある。ただし服用量が多いと胃粘膜を刺激しすぎるので注意を要する。また切り傷や虫刺されに生のラッキョウをすりつぶしたものを外用する。

金曜日, 4月 20, 2012

海馬

○海馬(かいば)

 中国南部の沿岸に生息するヨウジウオ科のウミウマ属の魚、いわゆるタツノオトシゴを海馬という。別名水馬・竜落子などともいう。この仲間のヨウジウオも海竜として薬用に用いる。

 タツノオトシゴにはいくつかの種類があり、生薬の海馬も区別される。市販されているものではオオウミウマ(Hippocampus kelloggii)やサンゴタツ(H.japonicus)を海馬といい、最も一般的である。そのほか体調が7cm以下の幼少なものを海蛆あるいは小海馬、背中に刺突起のあるイバラタツ(H.histrix)を刺海馬という。

 海馬には男性ホルモン作用があり、マウスの発情期を延長する作用があると報告されている。漢方では補陽・強壮・活血の効能があり、インポテンツや遣尿、夜間頻尿、老人性咳嗽、難産、腹部腫塊などに用いる。疲労回復や精力減退、インポテンツ、老化防止などに用いる強壮薬にしばしば配合されている(海馬補腎丸)。また腹痛や難産のときに海馬の粉末を服用したり、皮膚化膿症の治療に海馬をスープとして服用すると効果がある。

木曜日, 4月 19, 2012

艾納香

○艾納香(がいのうこう)

 中国南部から東南アジアに欠けて分布するキク科のタカサゴギク(Blumea balsamifera)の葉および若枝を用いる。タカサゴギクの茎はやや木質化しており、葉を揉み砕くと竜脳の匂いがする。葉にはl-ボルネオールを主成分とする精油を含み、葉を蒸し器で加熱した昇華させ、得られた結晶を加工したものが艾片である。この精油から竜脳を製造することもできる。

 漢方では去風湿・温裏・活血の効能があり、関節痛や下痢、腹痛、生理痛などに用いる。また打撲傷や腫れ物に葉の汁や煎液を外用する。日本では薬用として余り用いないが、艾片は薫香料として知られている。フィリピンではサンボンと呼ばれ、利尿薬として心不全や浮腫に用いられるほか、尿路結石、高血圧、リウマチ、風邪、胃腸病などにも用いられている。

水曜日, 4月 18, 2012

海人草

○海人草(かいにんそう)

 熱帯から亜熱帯海域の近海に広く分布する紅藻類のフジマツモ科マクリ(Digenea simplex)の全藻を用いる。日本では紀伊半島から九州にかけての暖海域、特に南西諸島に多く自生する。高さは10~25cmくらいで次々の分岐したヒモ状の藻体は暗紫赤色で毛状に被われ、軟骨のように硬い。おもに珊瑚の上に生える海人草はしばしば鷓鴣菜と混同されているが、鷓鴣菜はコノハノリ科のセイヨウアヤギヌ(Caloglossa leprieurii)という海藻である。

 海人草は日本では一般に「まくり」と呼ぶが、このマクリには胎毒の治療薬の意味もある。かつて日本では生後間もない乳児にマクリを吸わせて胎毒を下す習慣があった。これは海人草に大黄・甘草を加えて煎じたものが一般的だったが、その後、甘草・黄連・紅花・大黄からなる甘連湯などもマクリとして有名になった。これには疳の虫を下すとか湿疹体質を予防するといった意味や、新生児黄疸の予防効果があったと考えられる。

 海人草にはアミノ酸のカイニン酸及びαアロカイニン酸が含まれ、回虫の中枢神経を興奮させて痙攣死させる作用がある。海人草は日本で古くより駆虫薬として知られていた。漢方で駆虫薬として知られる鷓鴣菜と効能はほぼ同じとされている。

 海人草は現在でも回虫や蟯虫などの寄生虫の駆除に用いられているが、特有の臭いがあり、味も不快である。カイニン酸の駆虫作用はサントニンよりも強く、サントニンと配合すると駆虫効果が強力になる。このためカイニン酸とサントニンとを配合した駆虫薬が家庭薬として市販されている(カイニン酸サントニン散)。

火曜日, 4月 17, 2012

海桐皮

海桐皮(かいとうひ)

 インド原産で沖縄県や中国南部、東南アジア、太平洋諸島などで広く植栽されているマメ科の落葉高木デイゴ(Erythrina variengata)の樹皮を用いる。デイゴという名は中国名の梯枯に由来する。幹や枝に太いトゲがあるため刺桐の名がある。

 デイゴは沖縄県の県花であり、赤い花が美しいので庭木や街路樹に用いられ、神戸市のフラワーロードにも多く見られる。また材質が軽いため琴や下駄、琉球漆器などの木地にも利用される。インドやマレーシアでは若芽を食用にする。薬用には春に樹皮を剥ぎ、トゲを除いて乾燥したものを用いる。

 樹皮にはアルカロイドのエリスラリンやアミノ酸、有機酸などが含まれる。水浸液には抗真菌・抗菌作用のあることが知られている。漢方では去風湿・止痛・止痒の効能があり、関節の腫痛、下痢、歯痛、疥癬などに用いる。特に関節リウマチなどによる腰や膝の疼痛やしびれ、下肢の炎症に用いる。

 慢性化した脚や腰の痛みには独活や牛膝などと酒に漬けた海桐皮酒が用いられる。また痛みのある患部を煎液で洗ったり、樹皮を粉末にしたものを貼付する。そのほか歯痛には煎液ですすいだり、疥癬や皮膚真菌症などに粉末を塗布する。なえトベラ科の常緑低木トベラ(Pittosporum tpbira)の中国植物名も海桐または海桐花という。

月曜日, 4月 16, 2012

海蜇

○海蜇(かいてつ)

 クラゲのひとつ。ビゼンクラゲ科のビゼンクラゲ(Rhopilema escukenta)を用いる。ビゼンクラゲ(備前水母)は、かつて瀬戸内海の児嶋湾に多く産したため、備前の名があるが、現在ではほとんど姿が見られない。

 ビゼンクラゲは古くから食用にされたクラゲであり、これを食塩と明礬で水分を除いた塩蔵品が市販されている。中国では傘の部分を海蜇皮、口腕部を海蜇頭という。これを水で戻したあと、細く切って酢の物にしたものが中華料理の前菜としてよく知られている。日本でも江戸時代に岡山藩から幕府へ毎年献上されていた。

 クラゲは生のままでは98%以上が水分であり、栄養価に乏しいがコリンを含むという報告もある。漢方では去痰・消積の効能があり、喘息や痰の出る咳、胃のつかえ、便秘、下肢の浮腫などに用いる。

土曜日, 4月 14, 2012

海藻

○海藻

 温帯から熱帯にかけて海に広く分布している海藻ヒバマタ科に属するホンダワラ(Sargassum fulvellum)などを用いる。漢方で海藻といえば、この褐藻のホンダワラ類を指し、全藻を用いる。ホンダワラ類は海藻の中で最も進化したものといわれ、日本沿岸には約60種の生育が知られている。中国の植物名では羊栖菜や海篙子、馬尾藻などが挙げられている。

 ホンダワラ類の全藻にはアルギニンやマンニトール、ヨウ素、種々のミネラルが含まれ、抗凝固作用、脂質降下作用、降圧作用などが認められている。山間の地方ではヨウ素が不足するため甲状腺が腫大することがあるが、海藻が有効であることが中国では古くから知られていた。

 ヨウ素は脊椎動物にとって重要な元素で、甲状腺ホルモンの成分として代謝の調節を行っている。明治初期にフランス人宣教師が海藻灰からヨードを採る方法を教えたことが始まりで、ヨードの国産化が始まり、明治期の製薬技術における国際的な発展のきっかけとなった。

 漢方では軟堅散結・利水消腫の効能があり、癭瘤(頸部リンパ節腫)、腹部腫塊、腹水、脚気、睾丸腫痛などに用いる。特に頸部腫瘤の常用薬として有名である。単純性甲状腺腫などの甲状腺疾患には昆布・海苔などと配合する(海藻玉壺湯)。肝硬変などによる腹水に牡蠣・沢瀉などと配合する(牡蠣沢瀉湯)。

 近年、健康食品として海藻が注目されており、ミネラル成分だけでなく、多糖類(アルギン酸、フコイダン)、オリゴ糖、ペプチドなどの効果が研究されている。アルギン酸は水溶性食物繊維として便通改善やコレステロール低下に関する成分、若布や海苔のペプチドは降圧効果に関与する成分として特定保健用食品に認定されている。

 フコイダンは抗アレルギー、免疫賦活、抗潰瘍・抗ピロリ菌、血液凝固抑制、血中コレステロール低下、血糖上昇抑制、抗ウイルス・抗菌、肝機能改善といった作用や抗腫瘍効果などが検討されている。

金曜日, 4月 13, 2012

芥子

○芥子(がいし)

 アブラナ科の越年草カラシナ(Brassica juncea)の種子を芥子という。原産地の定説はないが、中央アジアからはじまり、地中海や中国で交雑されたと考えられている。カラシ(マスタード)の基減植物はいずれもアブラナ科であるが、種子の色からカラシナ、シロガラシ(B.alba)、クロガラシ(B.nigra)に区別され、香辛料ではカラシナを「和がらし」、シロガラシやクロガラシを「洋がらし」に用いる。カラシナはアブラナ(B.campestris)とクロガラシが自然交雑した雑種と考えられ、種子の色は黄褐色であるブラウン・マスタードとも呼ばれている。

 漢方生薬にはシロガラシの種子も白芥子と称して用いる。薬用として一般に日本では芥子、中国医学では白芥子が用いられる。芥子及び黒芥子の主な辛味成分はシニグリンであるが、白芥子の辛味成分はシナルビンであり、芥子と白芥子は区別する必要がある。

 辛味配糖体のシニグリンは粉にして水で練り合わせると、酵素のミロシンの作用により加水分解されて強い辛味と刺激性をもつアリルイソチオシアネートを生じる。揮発性があるため鼻にも刺激がある。皮膚につけると熱感があり、発赤し、ひどければ水疱を生じる。アリルイソチオシアネートはアリル芥子油ともいい、醤油などの防カビ剤としても用いられる。一般に芥子の粉は脱脂して用いる。

 漢方では芥子の性味は辛熱で、おもに辛辣性健胃薬や去痰薬として用いる。日本では芥子と水を混ぜて練ったものを芥子泥といい、刺激性の鎮痛薬、去痰薬として用いる。たとえばリウマチや神経痛には局所に塗り、肺炎や気管支炎には胸や背部に貼付する。

木曜日, 4月 12, 2012

海松子

○海松子(かいしょうし)

 本州や四国の深山、朝鮮半島、中国東北部に自生するマツ科の常緑高木チョウセンゴヨウ(Pinus koraiensis)の種子を用いる。ゴヨウマツと同じ五葉の松で葉が5本ずつ束生する。日本では日本アルプスや上高地付近、四国の山地に自生し、樹皮は赤褐色で、樹高は30mにも達する。種子は大きく、朝鮮半島で食用として利用され、日本にも輸入されている。日本で市販されている松の実のほとんどはチョウセンゴヨウの種子、すなわち海松子である。

 マツの実は古くから強壮・不老長寿の効力があり、仙人の霊薬といわれていた。マツ類は実のほかにもマツの葉や節、樹脂なども松葉、松節、松香と呼ばれ薬用にされている。

 種子には脂肪酸とタンパク質が豊富で、脂肪はパルミチン酸やミリスチン酸などの脂肪酸、タンパク質にはアルギニン、ヒスチジン、チロシン、グルタミン酸などのアミノ酸が含まれる。漢方では潤肺・潤腸の効能があり、慢性の咳嗽や老人性の便秘などを改善する。民間でも滋養・強壮の健康食として生のままで食べる。

水曜日, 4月 11, 2012

海蛤殻

○海蛤殻(かいごうかく)

 マルスダレイガイ科の二枚貝オキシジミ(Cyclina sinensis)などの貝殻を用いる。同科のハマグリ(Meretrix meretrix)の貝殻は本来、文蛤というが、海蛤殻としても使用されている。オキシジミは全体の形が円形に近く、殻長と高さが5cmくらいで、殻の色は黄褐色か紅褐色である。中国沿岸の泥砂質の海底に生息し、江蘇、浙江、福建省などに産する。

 主成分は炭酸カルシウムであるが、コンキオリンなども含む。漢方では去痰・利尿・軟堅の効能があり、熱痰の咳嗽、浮腫、膀胱炎、癭瘤(甲状腺腫)、瘰癧(頸部リンパ腺腫)、痔などに用いる。気管支炎などによる咳嗽、喀痰、胸痛にはカロニン・黄芩・青黛などと配合し、甲状腺腫には海藻・昆布などと配合し、膀胱炎には滑石・木通などと配合する。また強火で焼いた煅蛤殻は抑酸止痛薬として胃痛に用いたり、収斂生肌薬として火傷や湿疹に外用する。

火曜日, 4月 10, 2012

海狗腎

○海狗腎(かいくじん)

 アシカ科のオットセイ(Callorhinus ursinus)もしくはアザラシ科のゴマフアザラシ(Phoca vitulina)の雄の陰茎と睾丸を乾燥したものを用いる。オットセイやゴマフアザラシは、北太平洋北部、ベーリング海、オホークツ海に分布し、冬季には日本海や銚子沖まで来遊する。かつていずれも乱獲のため絶滅が危惧されたが、各国の保護政策により頭数はかなり回復している。

 膃肭臍とは本来、膃肭獣(おっとじゅう)の臍(ペニス)という意味であり、日本では生薬の名がオットセイという動物名になっているるこれらの動物は一夫多妻であり1頭の雄が数十頭の雌を占有し、ハーレムを作ることでよく知られている。近年、オットセイの骨格筋の分解産物であるカロペプタイドに抹消血管を拡張する効果があることが報告されている。薬材は30cm前後、直径1~2cmの棒状をした茶褐色のペニスに2個の睾丸がついている。

 漢方では温腎・補陽の効能があり、全身疲労、精力減退、インポテンツ、足腰の萎弱などに用いる。日本にも海狗腎の配合された滋養・強壮薬が中国から輸入されている(至宝三鞭丸海馬補腎丸)。日本の津軽藩の秘薬といわれた一粒金丹には、アイヌ人が狩猟したオットセイのペニス(膃肭臍)が配合されていた。

金曜日, 4月 06, 2012

海金沙

海金沙(かいきんしゃ)

 関東以西、朝鮮半島、中国、インドシナ半島に分布するフサシダ科(カニクサ科)のつる状シダ植物カニクサ(Lygodium japonicum)の胞子を用いる。カニクサの名は子供が蟹を釣るのに用いたことに由来する。全草の生薬名は海金沙草あるいは金沙藤などと呼ばれる。立秋前後に、胞子嚢のついた葉を陰干しし、紙の上で叩いて胞子だけを集める。胞子は黄褐色の粉末状で、水面に浮くが、熱すると沈む。胞子には脂肪油やリゴジン、葉にはフラボノイドが含まれる。

 漢方では清熱・解毒・利尿・通淋・消石の効能があり、尿路感染や尿路結石、浮腫、上気道炎や咽頭炎、耳下腺炎などに用いる。排尿障害や血尿には琥珀・滑石と配合する(琥珀散)。全身性の浮腫や腹水に茯苓・蒼朮・木通などと配合する(行湿補気養血湯)。海金沙草も同様に用いる。

木曜日, 4月 05, 2012

塊角

○塊角(かいかく)

 マメ科に属する落葉高木エンジュ(Sophora japonica)の成熟した果実を用いる。エンジュは中国では尊貴の樹といわれるが、日本でも「延寿」に通じるめでたい木とされている。公害に強いため街路樹として好んで植栽されている。

 果実はサヤエンドウのような形をしており、乾燥させた生薬は連珠状になっている。果皮は石鹸の代用にもされていた。エンジュの花および花蕾は塊花といい、エンジュに寄生するキクラゲ(Auricularia auricula)を塊耳という。塊角にはゲニステイン、ソフォリコシド、ルチンなどが含まれ、また塊角に赤血球を破壊する毒性があると報告されている。

 漢方では清熱・止血の効能があり、下血、痔、性器出血、陰部湿疹等に用いる。塊角の止血作用は塊花とほぼ同じで、主に痔や血便などに用いる。痔の治療には地楡などと配合した塊角丸(別名:腸風塊角丸)がよく知られている。ただし止血作用は塊花よりも弱く、清熱作用は塊角のほうが強いとされている。ちなみに塊耳も痔や下血、性器出血などに用いられる。

水曜日, 4月 04, 2012

塊花

○塊花(かいか)

 中国で日本でも庭木、街路樹などに植栽されているマメ科の落葉高木エンジュ(Sophora japonica)の花および花蕾を用いる。日本ではおもに花蕾を塊花として用いるが、中国では花は塊花、蕾は塊米あるいは塊花米と呼んで区別して用いている。またエンジュの果実は塊角という。古くはエニスと呼ばれ、エンジュに転訛したとされる。エンジュは重要な蜜源植物であり、また若葉は茹でると食べられ、茶の代用にされたこともある。

 塊花の成分にはフラボノイドのルチン、ケルセチン、ケンフェロール、サポニンのカイカサポニンⅠ~Ⅲなどが含まれる。ルチンは開花した花よりも蕾に多く含まれ、毛細血管強化作用があり、かつて脳出血の予防や高血圧に効果があることが注目された。このためルチンの製造原料として塊花が多量に輸入されたこともある。またルチンやケルセチンには抗炎症、抗潰瘍、鎮痙作用なども報告されている。花蕾の色素であるゲニステインは黄色染料として用いられた。

 漢方では清熱涼血・止血の効能があり、鼻血や痔、血便、血尿、性器出血などに用いる。とくに炎症性(熱証)の出血に適している。痔の出血や下血などには側柏皮・地楡などと配合する(清肺湯)。日本で市販されている痔の治療薬にも配合されている。一般に炒った塊花炭を用いる。民間療法では炒った塊花の粉末を歯肉炎の出血部位に塗布する方法がある。

火曜日, 4月 03, 2012

瓦韋

○瓦韋(がい)

 日本各地、朝鮮半島、中国などに分布する常緑シダ植物ウラボシ科のノキシノブ(Lepisorus thunbergianus)の全草を用いる。屋根の軒先などによく見かけ、土や水がなくても耐え忍んでいるためノキシノブ(軒忍)の名があるが、やや日陰の樹皮や岩の上などにもよく繁殖する。一方、深山の樹上に着生するミヤマノキシノブ(L.ussuriensis)の全草は八つ目蘭と呼ばれているが、四国産の八つ目蘭には昆虫変態ホルモンのエクディストロンが含まれるが、薬理作用は明らかではない。

 漢方では利尿・止血の効能があり、淋病や下痢、血痰などに用いる。日本でも民間薬としてよく知られ、乾燥させたものを茶剤として服用し、浮腫や泌尿器疾患、婦人科疾患、神経痛などに応用しているるまた全草の刻んだものをゴマ油に浸し腫れ物に、黒焼きにした粉末をゴマ油で練って火傷の外用にする。

月曜日, 4月 02, 2012

遠志

○遠志(おんじ)

 朝鮮半島、中国北部、シベリアに分布するヒメハギ科の多年草イトヒメハギ(Polygala tenuifolia)の根を用いる。李時珍は「志を強くする」作用があることが遠志の名の由来であるとしている。和名は糸姫萩と書き、日本に自生するとヒメハギに似て葉が細いことによる。ちなみに北アメリカには同属植物の薬草セネガ(P.senega)があり、セネガを中国では美遠志という。

 イトヒメハギの根にはトリテルペンサポニンのオンジサポニンA~G、キサントン誘導体、トリメトキシケイヒ酸などが含まれ、去痰作用や抗浮腫作用、利尿作用などが知られている。セネガと類似成分が含まれるが、セネガは鎮咳・去痰薬として利用されている。

 漢方では安神・去痰・消腫の効能があり、動悸、健忘、不眠、咳嗽、多痰、乳腺炎、腫れ物などに用いる。とくに精神を安定(安神)さらたり、健忘症を改善(益智)する効能で知られている。このほか、遠志は外用薬として皮膚化膿症の初期に用いる。