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金曜日, 11月 30, 2012

虎骨

○虎骨(ここつ)

 大型哺乳度物であるネコ科のトラ(Panthera tigris)の骨を用いる。トラはアジアに広く分布しているが、中国東北地方にはシベリア虎とか満州虎と呼ばれている東北虎、華南地方には華南虎が生息している。

 トラは体長約2m、全身は橙黄色で黒の横縞があり、狂猛な性質でほかの獣類を捕食する。シベリア虎はやや大型で毛が長いのに対し、華南虎は小型で縞模様の幅が広い特徴がある。虎骨として全身の骨を薬用にするが、とくに脛の骨を虎脛骨として重んじる。なかでもシベリア虎の中年の雄が最良とされている。虎骨を長時間にわたって煎じつめたものを虎骨膠という。

 主成分はリン酸カルシウムであるが、虎骨膠には抗炎症作用や鎮痛作用が報告されている。漢方では強筋骨・止痛・定驚の効能があり、四肢の関節痛や下肢の萎弱、麻痺、痙攣、ひきつけなどに用いる。リウマチや神経痛による関節や筋肉の痛みやしびれには木瓜・当帰などと配合する(舒筋丸)。老化により腰や膝がだるく、四肢のしびれや歩行障害のみられるときには熟地黄・牛膝などと配合する(虎潜丸)。また虎骨を蒸留酒に浸した虎骨酒や木瓜などと配合した木瓜虎骨酒も足腰の痛みや神経痛の治療薬としてよく知られている。

 かつて日本にも虎骨が配合されている舒筋丸活絡丸海馬補腎丸、健歩丸、虎骨酒などが輸入されていた。現在トラの生息数が減少しており、ワシントン条約でも虎骨の含まれる漢方薬は制限されている。そのため近年ではイヌ(狗)の狗骨などで代用されている。

木曜日, 11月 29, 2012

五穀虫

○五穀虫(ごこくちゅう)

 クロバエ科のオビキンバエ(Chrysomyia megacephala)などの幼虫を乾燥したものを用いる。オビキンバエは中国をはじめ東洋では普通にみられるハエで、腐肉や人糞、獣糞に集まって産卵する。本草綱目では蛆とある。かつて日本ではハナアブの幼虫である尾長蛆を五穀虫と称していた。

 オビキンバエの成虫の体長は1cmくらいであるが、幼虫は1.5cmくらいでサバサシといって釣りの餌に用いられる。かつてアメリカで南北戦争のときに膿の除去にクロバエの蛆を用いた治療を行ったといわれるが、最近でも、欧米を中心に難治性潰瘍に蛆(マゴット)を用いた腐肉の除去、デブリードメントが再び注目されている。日本でも岡山大学などで、クロバエ科のヒロズキンバエ(Phaenicia sericata)を用いた糖尿病性潰瘍によるマゴット療法が行われている。

 幼虫の成分にはタンパク分解酵素のエレプシンやトリプシンが含まれている。幼虫を水中で洗って内容物を排出したあと日干しし、弱火で黄色くなるまで炒めたものを生薬とする。漢方では清熱・消疳の効能があり、小児の疳積の治療や解熱・解毒薬として用いる。

水曜日, 11月 28, 2012

蜈蚣

○蜈蚣(ごこう)

 中国や日本の全土に分布する節足動物、オオムカデ科のトビズムカデ(Scolopendra subspinipes mutilans)などのムカデを乾燥した全虫を用いる。主産地は浙江・湖北・湖南省などであり、江蘇省のものは脚が赤く良品であるため、蘇浙江省という。

 ムカデの体長は10~15cmくらいで20数節の環節があり、各環節から一対の歩脚があり、百足の異名をもつ。頭部の脚は歩行に関係せず、顎に変化して口器の役目をしており、この顎脚に毒腺を有する。冬から春にかけて採取し、市場には一頭ずつ竹串に刺して乾燥させたものが出ている。一般に体が長く、頭が赤く、背中が黒緑で、腹が黄色いもので、折れにくいものが良品とされている。

 ムカデの毒には蜂毒に類似したヒスタミン様物質と溶血性タンパク質の2種類の有毒成分が含まれ、咬まれるとしびれるような痛みがあり、発赤して数日間も腫れがひかない。蜈蚣には抗結核菌・抗真菌作用や新陳代謝を促進する働き、筋肉痙攣に拮抗する作用などが報告されている。

 漢方では平肝・止痙・解毒消腫の効能があり、脳卒中の後遺症、痙攣、破傷風、顔面神経麻痺、結核、瘡瘍などの皮膚病、火傷などに用いる。鎮痙作用は全蝎よりも強く、全蝎が熱性の痙攣に適しているのに対して蜈蚣は風寒の痙攣に適している。

 熱性痙攣やひきつけ、破傷風、激しい頭痛や関節痛には全蝎と配合する(止痙散)。また皮膚の潰瘍や疔、癰などの化膿、中耳炎、痔などに外用薬として使用する。日本の民間ではゴマ油や椿油にムカデを漬けたムカデ油が傷薬や火傷の治療薬として知られている。

火曜日, 11月 27, 2012

黒大豆

黒大豆

 中国原産で世界各地で栽培されているマメ科の一年草ダイズ(Glycine max)の栽培品種であるクロマメの種子を用いる。普通、ダイズといえば黄大豆のことであるが、薬用には黒大豆が珍重されている。またクロマメの黒い種皮は黒大豆皮あるいは黒豆衣、モヤシのように発芽させたものは大豆黄巻、納豆にして乾燥させたものは豆豉と呼ばれ薬用にされる。

 ダイズは中国では約5000年前から栽培され、日本でも紀元前2000年ごろより食用にされていたと推定されている。現在、世界一の主産地はアメリカであるが、黒船で来日したペリーが日本からアメリカに持ち帰ったのがはじまりといわれている。

 日本でマメといえば大豆のことを指すように、日本の食生活に欠かせないものである。大豆を原料とした豆腐納豆、きな粉、湯葉、味噌、醤油などの伝統食品のほか、ダイズ油としても利用価値が高い。しかし、現在、国内生産量は5%程度で、そのほとんどはアメリカから輸入している。

 ダイズの種子にはタンパク質、脂質、糖質、食物繊維、ビタミン、カルシウム、ファイトケミカルなどが豊富に含まれ、健康食品などの素材として利用されている。大豆タンパク質やリン脂質結合大豆ペプチドは血中コレステロール低下作用が認められ、特定保健用食品素材として利用されている。また大豆オリゴ糖は腸内細菌叢を改善し、便通を整える作用があり、大豆イソフラボンは女性ホルモン様作用のある植物エストロゲンのひとつで、更年期障害や骨粗鬆症などへの効果が期待されている。また、黒大豆の種皮には抗酸化作用のあるポリフェノールの一種、アントシアニンやプロアントシアニジンが含まれている。

 漢方では活血・利水・去風・解毒の効能があり、浮腫や脚気、筋肉の引きつり、化膿などに用いる。また烏頭や巴豆の中毒の解毒薬としても用いる。水銀療法の副作用による口内炎、歯肉炎、嚥下困難の治療に桔梗・紅花などと配合する(黒豆湯)。癰腫、湿疹、火傷などの皮膚疾患には濃く煮た大豆汁や大豆を削って粉末にしたものを外用する。なお、黒大豆皮には滋養(補血)作用があり、盗汗や眩暈、頭痛などに用いる。

月曜日, 11月 26, 2012

穀精草

○穀精草(こくせいそう)

 本州以西、台湾、中国などに分布するホシクサ科の一年草オオホシクサ(Eriocaulon buergerianum)の花序をつけた花茎を用いる。湿地や水田に自生し、穀物を刈り取った後に生えることから穀精草といわれ、茎の先に小さな白い花が咲くため日本ではホシクサ、中国では戴星草とも呼ばれる。

 成分は不明であるが、抗菌・抗真菌作用が報告されている。漢方では解表・止痛・明目・退翳の効能があり、頭痛、歯痛、鼻出血や眼科疾患に用いる。穀精草の性質は軽いため、上焦に行き、頭部の風熱を疏散し、頭痛や眼科疾患に効果がある。結膜炎や角膜の混濁、夜間の視力減退に鴨の肝臓と一緒に煮て服用する。

金曜日, 11月 23, 2012

穀芽

○穀芽(こくが)

 イネ科のイネ(Oryza sativa)のもみをつけたままの種子を発芽させたものを穀芽という。イネの茎と葉は稲草、うるち米は粳米、もち米は糯米、もち米の根と根茎は糯稲根鬚と呼ばれ、役用にされている。これに対して発芽したオオムギを麦芽という。

 発芽期の種子には消化酵素のジアスターゼが含まれている。漢方では開胃・消食の効能があり、消化不良で胃がもたれたときや食欲が低下したとき、また胃腸が弱い体質の改善に用いる。単独では効力が弱いため麦芽と一緒に使用したり、人参・白朮などと配合して用いる。穀芽の消化作用は麦芽とほぼ同じであるが、嘔気や嘔吐があるときには穀芽、吸収の悪いときには麦芽がよいといわれる。

 近年、玄米を1~2日、32℃で水分を含ませ、1mmほど芽を出させた発芽玄米が商品化されている。発芽玄米にはアミノ酸の一種であるγ-アミノ酪酸(ギャバ、GABA)が白米の10倍含まれていることが注目されている。ギャバは、中枢神経系における抑制系の神経伝達物質として知られ、脳の血流を改善し、血圧や精神を安定する作用なとがあることで知られている。

木曜日, 11月 22, 2012

コカ葉

○コカ葉(こかよう)

 南米ペルーやボリビアのアンデス地方を原産とするコカノキ科の常緑低木コカノキ(Erythroxylum coca)の葉を用いる。現在、南米以外でもインドネシアのジャワ島で栽培されている。

 アンデスのインディオたちは紀元前からコカ(Coca)の葉を咀嚼していたといわれるが、インカ帝国ではコカの葉は特権階級のものとして統制を受けていた。その後、再び一般のインディオの間にもコカの葉を咀嚼する習慣が広まった。コカの成分は水に溶けにくいので生石灰や灰をつけて噛むことが多い。

 コカの葉を噛むと飢えを忘れ、疲労が回復し、忍耐力が増し、活力が甦るような気分になる。コカ・コーラの名は本来このコカの葉とアフリカ原産で興奮・食欲増進作用のあるコーラ子を混合した飲料であった。

 コカ葉の主成分はアルカロイドのコカインである。1860年、ドイツのヴェーラーらによってコカインが結晶化され、1884年には局所麻酔薬として臨床に用いられた。今日ではプロカインやノボカインなどの合成麻酔薬が開発されたため臨床ではほとんど使用されていない。

 コカインの中枢興奮作用は即効性で、一時的に元気になり、多幸的になるが、短時間で効果が消滅し、疲労感や不快感が出現する。このためコカインには精神的依存がみられ、依存症になると多動、不眠、興奮状態が続き、幻覚や妄想などもみられるようになる。副作用としては嘔吐、発汗、知覚異常、呼吸困難なども出現する。

 日本ではコカインは麻薬および向精神薬取締法の中で麻薬として指定されているが、効果からいえば覚せい剤のひとつであるるコカインは毒性が強いため、常用者はごく微量を鼻粘膜から吸引する方法を用いている。

水曜日, 11月 21, 2012

五加皮

○五加皮(ごかひ)

 中国の華中、華南、西南に産するウコギ科の落葉低木ウコギ(Acanthopanax gracilistylus)の根皮を用いる。ウコギとは五加皮の中国音によるものである。ウコギは日本各地の山野でも野生化しており、山村では垣根などに植栽されている。中国での五加皮の基原植物として、そのほかマンシュウウコギ(A.sessiliflorus)、エゾウコギ(A.senticosus)などもある。

 日本ではエゾウコギの根皮をとくに刺五加と呼んでいる。一方、カガイモ科のクロバナカズラ(Periploca sepium)の根皮である香加皮を五加皮ともいう。たとえば五加皮酒の中には香加皮の配合されているものもある。このため香加皮を北加皮と呼び、ウコギ科の五加皮を南五加皮という。現在、日本の市場品は一般に香加皮である。

 ウコギの有効成分は明らかでなく、マンシュウウコギではセサミン、サビニン、アカンシドA・Dなどのリグナン類が含まれている。リウマチなどによる関節痛や筋肉痛、腰や膝の筋力低下、インポテンツ、浮腫、脚気などに用いる。とくに下半身の治療薬として知られている。

 漢方では去風湿・強筋骨・補肝腎の効能があり、リウマチなどによる関節痛や神経痛、腰や膝の倦怠感などによる関節痛や神経痛には木瓜・羗活 ・独活などと配合する(木瓜酒)。浮腫や乏尿には茯苓皮・大腹皮などと配合する(五皮飲)。滋養・強壮作用のある不老長寿薬として有名な五加皮酒には五加皮のほかに当帰・陳皮・木香などが配合されている。

 一方、香加皮(南五加皮)にも同様に去風湿・強筋骨の効能がある。香加皮は強心配糖体のペリプロシンが含まれ、五加飲には香加皮が適しているとされる。ただし、使用量が多くなると中毒を起こすことがあるので注意が必要である。

火曜日, 11月 20, 2012

胡黄連

○胡黄連(こおうれん)

 インドやチベットなどヒマラヤ地方の高山地帯に分布するゴマノハグサ科の多年草コオレン(Picrorrhiza kurrooa)の根茎を用いる。そのほか同属植物の西蔵胡黄連(P.scophulariaeflora)なども利用される。薬用としては地上部が枯れた後に根を採取する。

 胡とは中近東などの西方を表し、胡黄連は西域から伝えられた黄連という意味である。キンポウゲ科の黄連とは植物学的には全く関係ないが、根茎の性味や効能が似ているため黄連の代用とされている。ちなみに胡黄連は日本の正倉院にも黒黄連として保存されている薬物である。入手しにくいため、鎌倉時代以降、日本では胡黄連の代用としてセンブリ(当薬)などか開発された。朝鮮産の胡黄連はメギ科のタツタソウ(Jeffersonia dubia)であり、鮮黄連ともいわれている。

 コオレンの根茎には苦味成分のクトキンやトキオール、クトキステロールなどが含まれ、抗菌、抗真菌、利胆作用などが報告されている。漢方では清熱燥湿・清虚熱の効能があり、細菌性の下痢や疳積、結核などによる発熱に用いたり、また黄連の代用にする。とくに小児の疳積の治療薬として有名である。

 寄生虫症や栄養失調による発熱などの疳積症状には人参・茯苓・山査子などと配合する(抑肝扶脾散)。脾腫などの腹部腫瘤には三稜・莪朮などと配合する(浄府散)。肺結核や慢性肝炎などで発熱や顔面紅潮、手足の煩熱などのみられるときに青蒿・地骨皮・別甲などと配合する(清骨散)。ちなみにコオレンはヒマラヤ地方では万能薬として、またインド医学でも小児の疳症の治療薬として知られている。

土曜日, 11月 17, 2012

牛黄

牛黄(ごおう)

 ウシ科の動物ウシ又はスイギュウの胆嚢や胆管の中にできた結石を用いる。ウシは新石器時代にはシリア・エジプトなどですでに家畜化されていた。日本でも古代から役用、食用に用いられた記録があるが、仏教の伝来とともに殺生が禁じられ食べられなくなった。

 ウシはひづめが2つに分かれた偶蹄類であり、草食動物であるため臼歯が発達し、胃袋は4つある。胆嚢から胆石が見つかることは極めて稀で、日本にはオーストラリアや南米など世界各地から輸入され、特にオーストラリア産は品質が良いといわれる。現在、ウシの胆石を取り出して結石を合成した人口牛黄やウシの胆嚢内で人為的に結石を形成された培養牛黄などが安価な牛黄として開発されている。

 大きさは4cm以下の球形あるいは不定形で、表面は黄褐色ないし赤褐色であるが、空気に長時間触れると酸化されて黒褐色に変化する。軽くて脆く、砕けやすい。味ははじめ苦く、次第に甘く感じ、芳しい香りがして、噛んでも歯に粘りつかない。

 成分にはビリルビン、ビルベルジンなどのビリルビン系色素が約75%、コール酸やデオキシコール酸からなる胆汁酸、コレステロール、各種アミノ酸などが含まれている。薬理作用として中枢神経鎮痙・鎮静作用、利胆作用、強心作用、血球新生作用、解熱作用などが知られている。

 牛黄は神農本草経の上品に収載され、古くから高貴薬として用いられてきた。漢方では清熱瀉火・涼血・解毒・開竅・定驚の効能があり、熱病による意識障害や熱性痙攣、脳卒中、腫れ物、口内炎、歯槽膿漏などに用いる。煎剤として用いずに散剤や丸剤に配合する。

 熱病による意識障害や熱性痙攣、煩躁、脳卒中、精神不安などには犀角・麝香・朱砂などと配合する(安宮牛黄丸・牛黄清心円)。扁桃炎など咽頭の腫痛、皮膚化膿症などには麝香・竜脳などと配合する(六神丸)。小児の熱病や疳の虫の薬として知られている樋屋奇応丸宇津救命丸、動悸・息切れ・きつけの救心などの一般薬にも広く配合されている。

金曜日, 11月 16, 2012

香料

○香料

 一般に芳香があり生活に役立つ物質を香料という。時代や習慣などにより、その定義は明らかではない。香料のことを英語でパフュームというが、この語源は「薫ずる」という意味で、古くは宗教儀式の際に樹木を火で焚いたのが香料の起源と考えられている。

 香料は火で焚くと芳香を発する焚香料、料理に用いられる香辛料、体につける化粧料などに区別されるが、その多くは生薬としても利用されている。焚香料では西方のアラビアにおける乳香(オリバナム)・没薬(ミルラ)、東方のインドや中国における沈香・白檀などが有名である。いずれも樹木や樹脂を利用したもので、これら芳香を有する樹木を香木と呼ぶこともある。薬用としても利用される香木には、このほか竜脳、蘇合香、安息香などがある。

 近年、欧米においてアロマセラピー(香気療法)が注目されており、植物の葉や花から揮発性の精油を抽出し、吸入したり、浴湯料として利用したり、またマッサージ・オイルに加えて皮膚から浸透させたりする。一般に芳香には不安や抑鬱などの神経症状を改善し、前進の機能を調整する効果があるといわれている。このようなハーブとしてはカミツレ、カムラス(菖蒲)、クローブ(丁字)、白檀、ベルガモット、乳香、ラベンダー、レモンバーム、ローズ、ローレル(月桂樹)などが用いられている。そのほか動物性の香料としてはムスク(麝香)、シベット(霊猫香)、アンバー・グリース(竜涎香)などがある。

木曜日, 11月 15, 2012

藁本

○藁本(こうほん)

 中国中南部に分布するセリ科の多年草コウホン(Ligusticum sinense)や中国北部に分布する同属植物のムレイセンキュウ(L.jeholense)などの根および根茎を用いる。

 日本ではセリ科のヤブニンジン(Osmorhiza aristata)や中国原産のセリ科のカサモチ(Northosmyrnium japonicum)を和藁本と称して藁本の代用にあてている。

 平安時代の本草和名にはカサモチが藁本として栽培されていたとあるが、江戸時代には藁本のひとつとしてヤブニンジンも市場に出回るようになり、現在流通している和藁本は全てヤブニンジンの根である。また韓国産の藁本の基原はニオイウイキョウ(L.tenuissimum)である。

 コウホンの根茎には精油成分として、ブチリデンフタライド、クニジライド、メチルオイゲノールなどが含まれ、抗炎症、鎮痙、通経作用などが報告されている。漢方では解表・去風湿・止痛の効能があり、風寒による頭痛や寒湿による腹痛、鼻炎や蓄膿症などに用いる。

 藁本は太陽経の風薬といわれ、頭痛、特に頭頂部の頭痛には不可欠の要薬とされている。感冒を伴う頭痛および頭痛全般に川芎・白芷と配合する(駆風蝕痛湯)。頭痛や全身の筋肉痛、急性の関節痛などに羗活・独活などと配合する(羗活勝湿湯)。蓄膿症や慢性鼻炎などで鼻に悪臭があるときには山梔子・黄柏などと配合する(加味八脈散)。

水曜日, 11月 14, 2012

厚朴

○厚朴(こうぼく)

 中国の南部を原産とし中国の各地に分布しているモクレン科の落葉高木カラホウ(Magnolia officinalis)や凹葉厚朴(M.offcinalos var.biloba)の幹や枝の樹皮を用いる。日本ではホウノキ(M.obovata)が利用されている。

 中国産では根に近い部位が良品とされている。生薬では両者を区別して日本産を和厚朴、中国産を唐厚朴という。唐厚朴では四川省の川朴、浙江省の温州厚朴(温朴)などが有名である。これまで日本薬局方では日本産の厚朴(和厚朴)のみを規定していたが、1996年の改正により中国産の厚朴も認められるようになった。

 樹皮にはアルカロイドのマグノクラリン、マグノフロリン、リグナン類のマグノロール、ホオノキオール、精油成分のオイデスモールなどが含まれ、厚朴エキスには鎮痛、抗痙攣、筋弛緩、クラーレ様作用などが報告されている。

 漢方では燥湿・消痰・徐満・下気の効能があり、腹部膨満感や消化不良、嘔吐、悪心、下痢、喘息、咳嗽など消化器疾患だけでなく呼吸器疾患にも応用する。一般には消化不良には蒼朮と、腹痛には木香と、腹満感には枳実と、冷えには乾姜と、便秘には大黄と、痰には半夏と、咳嗽や喘息には麻黄・杏仁と配合する。

 最近、厚朴に含まれるマグノリグナンにメラニン生成に関与する酵素の成熟阻害作用が発見され、外用により美白の効果が認められることが報告されている。

月曜日, 11月 12, 2012

粳米

○粳米(こうべい)

 インド北部から中国の雲南省を原産とし、アジアおよび世界各地で食用として広く栽培されているイネ科のイネ(Oryza sativa)の穀粒(種仁)、すなわちうるち米を玄米にした状態で用いる。生薬名では、もち米の穀粒を粳米、両者とも全草を稲草、もみがらのつけたまま発酵させたものを穀芽という。

 イネの栽培の歴史は古く、日本でも縄文時代の晩期には北九州で稲作が行われていた。米は粘性によってうるち米(粳米)、ともち米(米)に区別され、もち米はうるち米よりも粘性が強い。これは米のデンプンを構成するアミロースとアミロペクチンの割合が違うためで、うるち米はアミロースを約20%含むが、もち米はほとんどがアミロペクチンで、アミロースを含まない。

 外観からも成熟した米粒ではうるち米が半透明なのに対し、もち米は乳白色に濁っている。生薬として用いるのはうるち米の精白していない玄米で、古いものが適している。ただし、長い間貯蔵した粳米はとくに陳蔵米という。

 穀粒の75%以上はデンプンであるが、オリゼニン、ジアスターゼなどのタンパク質、ビタミンB1なども含む。漢方では補気・健康脾臓・止渇の効能があり、 口渇や下痢に用いる。

 傷寒論、金匱要略では百虎湯・麦門冬湯・竹葉石膏・附子粳米湯・桃花湯など7つの処方に配合され、滋養強壮のほかにも石膏や附子などの胃に対する影響を緩和する目的がある。たとえば附子と配合して冷えに対する腸鳴、腹痛に用いる(附子粳米湯)。乾姜・赤石脂と配合して下痢、血便に用いる(桃花湯)。石膏・知母と配合して発熱に伴う口渇に用いる(白虎湯)、麦門冬などと配合して乾燥性咳嗽に用いる(麦門冬湯)。また桂枝湯や大建中湯を服用した後に薬効を強めるため、粥をすするよう支持されている。陳蔵米にも同様の効能があり、下痢や口渇に用いる。

土曜日, 11月 10, 2012

香附子

○香附子(こうぶし)

 全世界の温帯に分布し、日本でも関東以西に自生するカヤツリグサ科の多年草ハマスゲ(Cyperus rotundus)の根茎を用いる。おもに砂浜や川原の砂地に生えるが、畑や公園の雑草として嫌われている。

 中国の植物名は莎草といい、生薬では地上部の全草を莎草という。ときに香附子の別名として莎草ということもある。ハマスゲの塊茎には芳香があり、附子を小さくしたような形のため香附子という。ひげ根を火で焼き取ったものは光附子という。

 根茎には精油成分としてシペロール、シペロン、シペレン、コブソンなどが含まれ、香附子エキスには鎮痛作用や子宮弛緩作用、抗菌作用が知られている。漢方では理気・疏肝・調経・止痛の効能があり、胃の痞塞感や脇腹部の張満感、腹痛、頭痛、月経痛、月経不順に用いる。

 香附子は「気病の総司・女科の主帥」ともいわれ、気を調えて欝を除き、気が行れば血は流れ、肝欝を解して三焦の気滞を除くとされている。とくに肝欝による脇痛、気滞による上腹部痛、生理痛などに用いる。

金曜日, 11月 09, 2012

猴棗

○猴棗(こうそう)

 インド、マレーシア、中国南部に生息するサル科のアカゲザル(Macaca mulatta)の内臓結石を用いる。アカゲザルはベンガルザルとも呼ばれ、ニホンザルに似るが尾が長く、灰茶色の体毛で覆われている。森林に群居し、野草や木の実、昆虫などを食べている。

 性質は温和で人にもよく馴れ、ヒンドゥー教では聖なるサルとされている。また生物医学の分野ではアカゲザルを用いた研究が広く実施されている。アカゲザルの四肢骨や全身骨を獼猴骨といい、薬用にされる。

 猴棗は老いたサルの胃や胆道系にできた結石であり、ナツメの実に似ている楕円形のためその名がある。鶏卵大から大豆大まであり、表面は青銅色ないし緑黒色で光沢がある。硬いが砕けやすく、断面は灰黄色で層になっている。おもにインドやマレー半島、南洋諸島などで産するが、非常に高価なもので入手しにくい。

 漢方では消痰、鎮驚・清熱・解毒の効能があり、痰の絡む咳や小児の熱性痙攣。ひきつけ、瘰癧(頸部リンパ腺腫)などに用いる。小児急性気管支炎や熱性痙攣などに沈香・天竺黄などと配合する(猴棗散)。一般に煎剤としては用いず、散剤、丸剤として用いる。ちなみに日本ではサルの頭の黒焼きを猿頭霜と称し、脳病や頭痛、夜尿症に効果があると言い伝えられている。

木曜日, 11月 08, 2012

葒草

○葒草(こうそう)

 アジア大陸の温暖な地域を原産とするタデ科の一年草オオケタデ(Polygonum orientale)の全草を用いる。生薬では花序を葒草花といい、果実を水葒草子という。

 オオケタデは日本にも古くから伝来し、観賞用に花壇や庭に植えられたが、今日では野生化している。大型のタデが全体で粗い毛で覆われているためにオオケタデという名があり、淡紅色の小さな花を穂のようにつけることから中国では葒草と呼ばれている。

 またポルトガルのマムシの毒消しに用いる薬用植物と混合されたため、ポルトガル語由来のハブテコブラという異名もある。

 全草にはフラボノイドのオエンチン、エイエントシド、そのほかβシトステロールなどが含まれ、血管収縮や血圧上昇などが認められている。漢方ではリウマチや脚気、蛇咬傷の治療に煎じて用いる。

 民間では生の葉の汁を腫物や虫刺されに外用する。水葒草子には消癥・健脾の効能があり、腹部の腫塊、瘰癧(頸部リンパ腺腫)、胃痛、消化不良、糖尿病、慢性肝炎、肝硬変などに用いる。また葒草花は腹痛や下痢などに用いられる。

水曜日, 11月 07, 2012

紅豆蔲

○紅豆蔲(こうずく)

 中国南部や台湾、熱帯アジアに分布するショウガ科の多年草ナンキョウソウ(Aloinia galanga)の果実を用いる。根茎は大良姜と呼ばれ、香辛料としても用いられている。

 開宝本草に紅豆蔲は高良姜の子とあるのは誤りである。広西省の一部では良姜の基原植物としてナンキョウソウを用いている。果実は赤褐色の長さ1.5cm、直径1cmくらいの楕円球形であり、味は辛い。果実の成分は明らかではないが、根茎にはフラボノイドのガランジンなどが含まれる。

 漢方では温裏・化湿・消食の効能があり、胃腸の痞えなどに用いる。李東垣は胃腸薬として紅豆蔲をしばしば用いている。近年、ナンキョウソウ葉エキスに皮膚のヒアルロン酸の生成に促進する作用があることが注目され、化粧品に配合されている。

月曜日, 11月 05, 2012

香辛料

○香辛料

 香辛料は植物の種子や果実、葉、根、樹皮などを乾燥し、その芳香や風味、絡み、色合いを飲食物に付加する目的のものである。香辛料の基本的な作用として矯臭作用、賦香作用、辛味作用、着色作用があり、同時に防腐作用もある。すなわち肉や魚などの臭みを消し、風味を増し、料理の味や色に独特の特徴づけをし、食物の保存性を高め、食欲を増進させるものである。

 一方、香辛料は一般に芳香性の精油成分、辛辣味や苦味などの刺激性成分を含むため、古くから世界各地で薬としても利用されている。漢方生薬としても知られるスパイスには以下のようなものがある。

ジンジャー:生姜

ガーリック:大蒜

ローレル:月桂樹

クローブ:丁子

カルダモン:小豆蔲

シナモン:肉桂

コリアンダー:胡荽子

デイル:蒔蘿子

フェンネル:茴香

スターアニス:大茴香

ナツメグ:肉豆蔲

セサミシード:胡麻

ボウフウ:防風

ユズ:

ネギ:葱白

シソ:蘇葉

ペッパー:胡椒

マスタード:白芥子

サンショウ:山椒

プシカムペッパー:唐芥子

ワサビ:山葵

カラシナ:芥子

ハッカ:薄荷

ターメリック:鬱金

フェヌグリーク:胡芦巴

サフラン:番紅花

土曜日, 11月 03, 2012

降真香

○降真香(こうしんこう)

 現在、降真香の基原植物にはマメ科のダルベルギア・オドリフェラ(Dallbergia odorifera)の根の心材をあてる場合と、ミカン科のオオバゲッケイ(Acronychia oedunculata)の心材や根をあてる場合とがある。

 降真檀は中国の広東省の海南島、広西省に分布し、栽培される。10~15mにも達する高木である。薬材は紅褐色ないし紫褐色でつやがあり、硬くてよい匂いがし、焼くと強い芳香がする。かつて降真香としてインド産のインド黄檀(D.sisoo)や海南黄檀(D.hainanensis)なども用いていたが、これらは表面が淡黄色から黄褐色である。

 降真香の根にはビサボレン、ファルネセン、ネロリドールなど、インド黄檀にはダルベルギンなどが含まれ、ダルベルギンには抗凝固作用や冠動脈血流増加作用が知られている。理気・止血・止痛の効能があり、出血や打撲傷、腫れ物、関節痛、心痛、胃痛などに用いる。狭心症には紅花・丹参・川芎などと配合する(冠心Ⅱ号方)。

 一方、オオバゲッケイは中国南部、東南アジアからマレーシアにかけて分布するミカン科の常緑高木で、ジャワでは若芽を食用にしたり、根を魚毒として使用している。この心材は沙塘木ともいう。この成分にはシトステロールやアクロニシンなどが含まれ、アクロニシンには抗癌作用が報告されている。

 漢方では理気・活血・健脾の効能があり、足腰の痛みや心痛、胃痛、打撲傷などに用いる。打撲や捻挫などには乳香・没薬などと配合して服用する。外傷には止痛・止血を目的として粉末を外用する。現在、マメ科の降真香は中国政府により輸出が禁止されている。

金曜日, 11月 02, 2012

紅参

○紅参(こうじん)

 ウコギ科多年草オタネニンジン(Panax ginseng)の根を蒸した後に乾燥したものを用いる。せいろで2~4時間蒸した後に熱風乾燥すれば、赤褐色で半透明の人参となるため、これを紅参という。

 日本で生産される人参はほとんどが紅参に加工され、おもに輸出に用いられる。韓国では専売品になって、やはり香港、東南アジアに輸出され、華僑などに愛用されている。

 太い人参は皮をつけたままだと乾燥が十分できず、中から腐ることもある。このため皮を剥いで速やかに乾燥させたものが白参である。ただし周皮の付近が特にサポニン含量が高いため、白参のサポニン量は少なくなっている。紅参にするのも本来は保存性を高めるためであり、清の時代に中国から高麗に伝えられた修治法といわれている。

 紅参は蒸す過程で若干のサポニンの損失がみられるが、加工の際に新しいサポニンが生成されることも報告されている。また蒸すことで有効成分が抽出しやすくなっている。とくに紅参は滋陰の効能に優れ、脱水症状や病後の衰弱に適しているといわれる。

 一般に煎じ薬としては東日本では湯通し、西日本では白参が用いられることが多く、エキス材の原料にはおもに生干し人参が用いられ、単独で服用するときには粉末にした紅参末が利用されている。