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月曜日, 7月 23, 2012

杏仁

○杏仁(きょうにん)

 中国北部原産で、古くから栽培されているバラ科の落葉高木アンズ(Prunus armeniaca)の種子(仁)で、硬い殻を割って取り出したものを用いる。

 三国時代に呉の名医、薫奉は治療費の代わりに杏の木を植えさせ、数年で立派な杏の林ができたという故事から、杏林という言葉が医者の異称となった。日本には奈良時代に薬用として渡来し、かつては唐桃と呼ばれていた。今日では長野県や山梨県で栽培されている。

 アンズは品種により、種に苦味のある苦杏仁(別名:北杏)と甘味のある甜杏仁(別名:南杏)とがある。外形は区別できないが生薬としては苦杏仁を用い、甜杏仁はおもに菓子などの食用にする。杏仁豆腐の杏仁は甜杏仁で、アンニンとは上海地方の発音である。今日、生薬のアンニンはほとんどが中国からの輸入品である。

 アンニンはアーモンドのような形をし、桃仁とよく似ているが、杏仁の底は偏平である。杏仁には青酸配糖体のアミグダリン、加水分解酵素のエムルシン、バンガミン酸などが含まれる。アミグダリンは杏仁中の酵素エムルシンにより加水分解されて青酸とベンズアルデヒド、ブドウ糖となり、このため多量に服用すると青酸による中毒が現れる。

 杏仁を原料とするキョウニン水は、もともと西洋の鎮咳・去痰薬である苦扁桃水の代用として作られたものである。日本薬局方にはキョウニン、キョウニン水を鎮咳・去痰薬として収載している。現在では化学的にベンズアルデヒデとシアン酸を混合し、これを合成キョウニン水と称している。

 杏仁を圧搾してとったキョウニン油は軟膏基剤や化粧品の基剤としても用いられている。またキョウニンエキスに男性の体臭成分、アンドロステノンの生成を抑制する効果があることが発見され、男性用制汗デオドラントに配合されている。

 漢方では止咳、喘息、喉痺、便秘などに用いる。とくに乾咳や粘稠痰のみられるときに適しており、肺を潤して去痰する。喘息には麻黄と配合することが多く、「麻黄は宣肺し、杏仁は降気する」とか「杏仁は麻黄を助ける」といわれている。また杏仁は肺気を開くことで胸中の痰飲や浮腫を去る作用があるという説もあり、薬微には「胸間の停水を主治し、ゆえに喘咳を治す。しかして旁ら短気、結胸、心痛、形体浮腫を治す」と記されている。そのほか腸を潤して排便を容易にする作用もある。