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金曜日, 1月 31, 2014

硇砂






○硇砂(どうしゃ)

火山の溶岩の中や温泉に存在する天然のハロゲン化合物類の鉱物、塩化アンモン石の結晶を用いる。アンモニウムはエジプトのアンモンの神殿の付近で採れた岩塩ということに由来する。古くは腐敗尿から採取したが、現在ではアンモニア水を塩酸で中和したり、アンモニアソーダ法により炭酸ナトリウムを製造する際の副産物として得られる。

硇砂は透明ないし半透明の繊維状、粒状の白色結晶であるが、純水の塩化アンモニウム(NH4Cl)は無色透明の結晶である。硇砂には塩化アンモニア無のほかに少量のFe、SO4、Ca、Mgなどが含まれている。塩化アンモニウムは塩安ともいわれ、肥料としてよく知られている。また医薬品として利尿剤、去痰剤として用いられたこともある。

漢方では性味は鹹・苦・辛・温・有毒で、消積・消癥・軟堅散結の効能があり、腹部の腫瘤、嘔気、痰飲などに内服薬として、腫れ物、腫瘤、疣贅などに外用薬として用いる。嘔気や嘔吐、げっぷ、胸の痞えに平胃散に生姜とともに加える(硇砂丸)。

木曜日, 1月 30, 2014

透骨草

○透骨草(とうこつそう)

 透骨草の基原植物としてさまざまな種類の植物が利用されているが、一般にはトウダイグサ科のダイダイグサ(Speranskia tuberculata)やツリフネソウ科のホウセンカ(Impatiens balsamina)の全草が用いられる。ただしホウセンカには全草を鳳仙、その種子を急性子という生薬名もある。

 そのほか透骨草としてシソ科のメハジキ、マメ科のツルフジなども知られている。また香港ではシソ科のカキドオシ(連銭草)が透骨草として流通している。

 漢方では去風湿・止痛の効能があり、リウマチなどによる筋肉痛や関節痛、筋肉の痙攣、脚気、腫れ物などに用いる。しかし漢方薬というより、むしろ痛み止めの民間薬としてよく知られている。外用薬として用いることも多く、化膿性の皮膚炎などで腫れて痛むところを煎液で洗ったり、外相や蛇咬傷などに生のまま貼付して用いる。また咽に刺さった骨の治療には新鮮な汁を用いる。

水曜日, 1月 29, 2014

冬葵子






○冬葵子(とうきし)

 ヨーロッパ原産で世界各地に分布しているアオイ科の多年草フユアオイ(Malva verticillata)の種子を用いる。しかし、現在では、冬葵子として市場に流通しているものの中にはアオイ科の一年草イチビ(Abutilon avicennae)の種子も含まれている。ちなみにイチビの中国名は茼麻または莔麻といい、種子の本来の生薬名は茼実という。

 イチビはインド原産であり、日本には古い時代に繊維植物として中国から渡来し、栽培されていた。イチビの種子、茼実の効能はフユアオイの種子とは異なっているため、冬葵子の代用となり得るかどうか定かではない。

 漢方では利水・通淋・通便・通乳の効能があり、排尿障害、膀胱炎、浮腫、乳房の腫脹などに用いる。尿量が減少して浮腫のみられるときには茯苓などと配合する(葵子茯苓散)。尿路結石などには車前子・金銭草などと配合する。産後に母乳の出が悪かったり、乳腺が腫れて痛むときにも用いる。便秘には桃仁・郁李仁などと配合する。

 なお、中薬大辞典にはよると茼実は下痢、翼状片、瘰癧(頸部リンパ腺腫)、腫れ物に用いるとある。近年、韓国ではフユアオイの葉に便通を促進する効能があるといわれ、冬葵茶(トンギュンチャチャ)が便秘やダイエットの健康茶として話題になっている。

火曜日, 1月 28, 2014

当帰






○当帰(とうき)

 日本では奈良県や北海道で栽培されているセリ科の多年草トウキ(A.acutiloba)の根を用いる。日本の本州中部より北の山地にはミヤマトウキ(var.iwatensis)が自生しており、日本で栽培されているのはこの栽培種のトウキ(日本当帰・東当帰)である。中国産のものはカラトウキ(A.sinensis)といわれ種類が異なっている。

 日本で栽培されている当帰には昔から吉野地方で栽培されてきた大和当帰(別名:大深当帰)と昭和になって北海道で作られた北海当帰の2種類がある。品質は大和当帰、収量は北海当帰が優れているため、現在では北海当帰が多く出回っているが、交配種も多く栽培されている。

 当帰は甘味のある甘当帰系と辛味のある辛当帰系があり、大深当帰は甘当帰系であるが、北海当帰や中国産・韓国産は辛当帰系といわれている。日本では根の全体、すなわち全当帰を用いるが、中国では根の頭部を当帰頭、主根部を当帰身、支根部を当帰尾あるいは当帰鬚として区別することもある。日本薬局方では中国産のカラトウキは除外しているが、近年、日本のトウキを中国や韓国で栽培加工した生薬も日本で流通している。

 根には精油成分としてリグスチライド、サフロール、ブチリデンフタライド、そのほかクマリン誘導体のベルガプテン、ファルカリノール、脂肪酸などが含まれている。薬理作用として鎮痛・消炎作用や中枢系や循環器に対する効果が報告されている。漢方で重視されている作用は明らかではない。

 漢方では補血・活血・調経・潤腸の効能があり、月経不順、虚弱体質(血虚)、腹痛、腹腔内腫瘤、打撲傷、しびれ、皮膚化膿症、便秘などに用いる。

 トウキは婦人科領域の主薬であり、また「血中の気薬」ともいわれ、中国医学では当帰頭は補血、当帰身は養血、当帰尾は破血、全当帰には活血の効能があるといわれているが、日本では区別することは少ない。また中国では当帰の味を甘・辛としているが、日本産の大深当帰には辛味がほとんどない。

 近年、米国のハーバリストは当帰のことを”Dong Quai”とか、”Chinese angelica”と呼んで、月経不順や月経前症候群、更年期障害などの治療に用いている。一方、西洋では西洋アンゼリカ(A.archangelica)が、婦人病などの治療に用いられている。

月曜日, 1月 27, 2014

唐辛子






○唐辛子(とうがらし)

 南米原産で世界各地で栽培されているナス科の多年草トウガラシ(Capsicum annuum)やシマトウガラシ(C.frutescens)の成熟果実を用いる。唐芥子というが、日本には桃山時代のころにポルトガルから伝来し、中国にはそれより遅く明朝末期に導入されたといわれている。

 明代に著された「本草綱目」にはその名はなく、蕃椒という中国名は南蛮から伝わったことを表したものである。辛味の強い香辛料としてレッドペパー(Red pepper)と呼ばれ、カレー粉や七味唐辛子などに配合されている。とくに朝鮮料理の代表的な香辛料で、コチュと呼ばれている。

 果実には辛味成分のカプサイシンなどが含まれ、皮膚刺激作用や健胃作用が認められている。またカプサイシンは、交感神経を刺激し、発汗作用や熱産生作用があり、脂肪燃焼を促進させることから、ダイエット素材としても注目されている。

 近年、同様の効能を有するカプシエイトを含むトウガラシの品種改良も行われている。また、カロテノイドとして赤色色素成分のカプサンチンのほか、クリプトキサンチン、β-カロテン、ルテインなどが含まれている。中国医学では辛熱の温裏薬と分類され、健胃薬として食欲不振、消化不良に用いている。

 ただし、トウガラシは漢方薬ではなく、オランダ医学の流れをひいた薬草である。家庭薬は外用薬や温湿布として神経痛、筋肉痛や凍瘡などに対して用いられている。また発毛刺激剤としても古くから利用されている。

 民間療法ではトウガラシを腹でも頭でも痛む部位に貼り付ける。そのほか蚊を忌避させる作用があり、常食していると蚊に刺されないといわれる。ただし、皮膚刺激作用によりただれなどの皮膚炎を起こしやすく、また多量の摂取は胃腸の炎症や痔を悪化させる。

土曜日, 1月 25, 2014

冬瓜子






○冬瓜子(とうがし)

 熱帯アジア原産とされるウリ科のつる性の一年草トウガン(Benincasa hispida)の成熟種子を用いる。また果実を冬瓜、果皮は冬瓜皮といい薬用にする。

 トウガンは古くに中国から渡来し、10世紀ころには日本でも栽培が行われていた。今日では一般に8~9月に収穫されるが、古くは霜の下りるころに収穫され、また貯蔵性に優れており、冬の食べ物としてよく利用されていた。このため冬瓜の名がある。果肉の味は淡白で、独特の風味があり、スープや煮物、漬物などに利用される。

 種子にはサポニン、脂肪、タンパクのほか、アデニン、トリゴネリンなどが含まれる。漢方では清熱化痰・排膿の効能があり、肺炎による咳嗽や肺化膿症、虫垂炎などの化膿性疾患に用いる。

 肺癰(肺化膿症)などで咳嗽、喀痰、胸痛などの症状のあるときには芦根・薏苡仁などと配合する(葦茎湯)。腸癰(虫垂炎)などで右下腹部に痛みのあるときには大黄・牡丹皮などと配合する(大黄牡丹皮湯・腸癰湯)。また冬瓜や冬瓜皮には利水・消腫の効能があり、浮腫や排尿障害などに茯苓・沢瀉・猪苓などと配合する。

金曜日, 1月 24, 2014






○銅(どう)

 は古くから中国や日本では(小金)・(白金)と並んで三品といわれ、今でも銅のことをアカガネ(赤金)とも呼んでいる。銅は日本に比較的多く産出する金属で、銅鉄鋼としては黄銅鋼が最も重要である。鉱物学的にいえば天然に単体で産する銅を自然銅というが、生薬の自然銅は黄鉄鉱のひとつである。

 銅(Cu)は動物にとって必須元素であるが、ほとんどの食物に微量ながら含まれているため、一般に銅の欠乏症はみられない。金属銅は無害であるが、水に溶けた銅イオンは有毒である。足尾銅山鉱毒事件は鉱山から流出した銅イオンが稲や小麦の生育に障害を与えた公害問題であった。しかし銅イオンの人に対する毒性は低く、体内の蓄積や重篤な組織障害はみられない。

 一方、銅は造血に関与し、骨折に対して良好な影響がある。ただし、硫酸銅、酢酸銅などは内服すれば迷走神経を刺激して反射性の嘔吐を引き起こす。また銅塩の稀溶液は局所的な収斂作用があり、とくに眼科に応用される。

 銅を含む漢方生薬として硫酸銅の胆礬、炭酸銅や酢酸銅の銅緑、炭酸化合物の扁青、塩化化合物の緑塩などがある。扁青は深銅鉱を砕いたもので、2CuCO3・Cu(OH)2を成分とし、緑塩はCu2(OH)3Clを成分とする緑色の結晶体で、細かく研って点眼薬として角膜混濁や充血、流涙、眼脂などに用いる。

木曜日, 1月 23, 2014

天羅水

○天羅水(てんらすい)

 ウリ科のヘチマ(Luffa cylindrica)の茎中の汁を用いる。ヘチマの果実は糸瓜といい、果実の繊維を糸瓜絡という。盛夏から夏の終わりごろ、ヘチマの茎の地上50cmのところで切り、雨水が入らないように根のほうの切り口を瓶の中に入れておくと一昼夜でヘチマ水がとれる。普通、一株から2L以上のヘチマ水がとれる。このままでは腐敗しやすいため、煮沸してから濾過し、リスリンやアルコール、さらに安息香酸ソーダを混和する。

 ヘチマ水はかつて美人水ともいわれ、江戸時代には幕府の奥女中のために献上されたことが記されている。民間では化粧水に用いるときはヘチマ水にホウ砂を少し加え、よく振って溶かして用いる。入浴後にヘチマ水を顔や手足につけると、肌の潤いが保たれる。またヒビやしもやけ、湿疹などに外用薬として用いる。

 足によく擦り込んでおくと、足の冷えがよくなるともいわれている。このほか咳が出て痰が切れないときは内服せずに、含嗽料として用いる。「痰一斗、ヘチマの水も間に合わず」は正岡子規の辞世の句として知られている。

水曜日, 1月 22, 2014

天雄





○天雄(てんゆう)

 キンポウゲ科の多年草トリカブト類の細い根を天雄という。一般にトリカブト類の根は附子という名でよく知られているが、根は茎に続く塊根(母根)の周囲に数個の新しい塊根(子根)が連成している。

 本来、この母根を烏頭といい、子根を附子という。しかし、子根を有しない細長い根のこともあり、この根は子を産まない天性の雄ということから、とくに天雄と呼ばれている。一説によると早春に茎を伸ばし始めたころの新しい母根のことともいわれている。

 漢方では去風湿・温裏・補陽の効能があり、烏頭や附子とほぼ同様である。強い毒性があるため、一般に強火であぶったり、乾姜などで調整加工して用いる。現在、日本では流通していない金匱要略に収載されている天雄散はインポテンツや滑精、腰や膝が冷えて痛むときに用いられている。

火曜日, 1月 21, 2014

天門冬

○天門冬(てんもんどう)

 日本の関東地方以南、台湾、中国などの暖かい海岸の砂地に自生するユリ科のつる性多年草クサスギカズラ(Asparagus cochinchinensis)の塊根を用いる。スギの葉に似た葉状枝のあることからクサスギカズラといわれ、同属植物にはアスパラガスがある。短い根茎に紡錘形に肥大した塊根が多数付いている。

 根には粘液質やアスパラギン、βシトステロール、サポニンなどが含まれ、抗菌作用やインターフェロン誘起作用が報告されている。漢方では滋陰清熱・化痰の効能があり、咳嗽、吐血、口渇、咽頭の腫痛などに用いる。作用は麦門冬とほぼ同じで、おもに陰虚による咳嗽や微熱、炎症に用い、しばしば二冬と称して両者を併用する。とくに肺陰虚による高齢者などの慢性の咳嗽や粘稠痰の症状に適している。

 慢性気管支炎や気管支拡張症などで痰が粘稠で切れにくく、咳が続くときには黄芩・桔梗などと配合する(清肺湯)。高齢者の肺結核などで慢性的な咳嗽や粘稠痰のあるときには地黄・麦門冬などと配合する(滋陰降火湯)。口腔や歯肉、咽頭に潰瘍や炎症があって腫れて痛むものに枇杷葉・地黄などと配合する(甘露飲)。

 民間では滋養・強壮や咳止めの効果があるとして薬酒に用いている(天門冬酒)。天門冬の蜂蜜漬けも強壮・咳止めに利用されている。近年、中国において天門冬の抗癌作用が研究されており、白血病や乳腺癌などに対する効果が検討されている。

土曜日, 1月 18, 2014

天名精

○天名精(てんめいせい)

 日本の全土、朝鮮半島、中国などに分布するキク科の越年草ヤブタバコ(Carpesium abrotanodes)の根や茎を用いる。根から出た葉の形が卵形でタバコの葉に似ているためヤブタバコという。ちなみにヤブタバコの果実は鶴虱といい、駆虫薬として知られている。

 全草には精油、イヌリンが含まれ、果実にはカルペシアラクトンなどが含まれる。漢方では清熱解毒・去痰の効能があり、扁桃炎や咽頭炎、気管支炎などに用いる。また歯痛のある部位に生の天名精を詰めたり、外傷や腫れ物などを煎じた液で洗う。また全草の粉末をゴマ油で練って作った軟膏を火傷の患部につける。

金曜日, 1月 17, 2014

天麻

○天麻(てんま)

 日本、中国、台湾などに分布するラン科の多年草オニノヤガラ(Gastrodia elata)の根茎を用いる。雑木林の中の陰湿地に生える腐生ランの一種で、塊茎でナラタケの菌糸と共生して栄養分を作るため、オニノヤガラには葉緑素はなく、茎も黄赤色で背丈1mくらいに直立している。枝や葉もなく、赤っぽい棒状の様子を鬼の用いる矢に例えて「鬼の矢柄」と呼んでいるが、同じように神農本草経にも赤箭と記載されている。

 地価には直径が10cmくらいの偏平で楕円形の塊茎ができるが、これを薬用にする。アイヌはこの塊茎を煮て食用にしたともいわれる。一般に冬と春に採集し、春の方が多く採れるが、冬に採取したもの(冬麻)の品質が優れているとされる。

 天麻は高価な生薬のためジャガイモを乾燥させた「洋天麻(貴天麻)」と称する偽品も出回っている。しかし、1980年頃からオニノヤガラの栽培品が輸入されるようになり、価格はかなり下落した。

 天麻の有効成分の詳細は不明であるが、多量の粘液質やバニリルアルコール、バニリンなどが含まれ、バニリルアルコールには胆汁分泌作用や癲癇発作抑制作用が、また天麻のエキスには鎮痛作用が報告されている。漢方では平肝・定驚・止痙・止痛の効能があり、眩暈や意識障害、痙攣、頭痛、ヒステリー、関節痛などに用いる。

木曜日, 1月 16, 2014

天南星

○天南星(てんなんしょう)

 サトイモ科の多年草マムシグサ(Arisaema serratum)やウラシマソウ(A.thunbergii ssp.urashima)などの同属植物の塊茎を用いる。中国産の基原植物には天南星(A.consamguineum)、ヒロハテンナンショウ(A.amurense)、マイヅルテンナンショウ(A.heterophyllum)などが挙げられている。

 これらはいずれもマムシグサに似た花が咲くが、葉の形はそれぞれ異なっている。花序は仏焰苞といわれる独特の筒状にあり、同科のカラスビシャクなどと共通している。マムシグサは日本各地、朝鮮半島、中国に分布し、偽茎の模様がマムシの文様に似ていることからその名がある。

 ウラシマソウも日本各地に分布し、その名は花序の付属体が細長く延びて垂れ下がるのを浦島太郎の釣り糸に見立てたものである。神農本草経には虎掌という名で記載しているが、これは葉の形に由来する。

 生の球茎にはコニインに類似した有毒成分が含まれ、食べると強烈な刺激がある。そのほかの成分としてトリテルペンサポニンや安息香酸なども含まれ、鎮静作用、去痰作用、抗腫瘍作用が報告されている。一般に加工していない天南星を湯液に用いるときには生姜を配合して十分に煎じることが必要である。

 修治したものには、晒した天南星に新鮮な生姜を加えて苞製した製南星、晒した天南星の粉に牛の胆汁を混ぜて製した胆南星(別名:胆星)などがある。漢方では燥湿化痰・止痙の効能があり、眩暈、麻痺、痙攣、ひきつけなどに用いる。

 天南星は半夏と同様に乾湿化痰の代表薬であるが、半夏が胃腸の湿痰を除くのに対し、天南星は経絡の風痰を治療するといわれている。この風痰とは脳卒中や癲癇の病態と考えられている。民間では生の塊茎をすりおろして酢に混ぜ、腫れ物や肩こり、乳房の腫れなどに外用する。

水曜日, 1月 15, 2014

天竺黄

○天竺黄(てんじくおう)

 イネ科マダケ(Phyllostachys bambusoides)や青皮竹(Bambusa texilis)、大竹節(Indosasa crassiflora)などのタケに寄生する竹黄蜂によって穴が開き、竹の節の間に溜まった塊状のものを天竺黄という。しかし、自然に産するものは少ないので、竹を人工的に過熱して出てきた液体、つまり竹瀝を凝固させ、乾燥させてできたものを用いる。軽くサクサクとした白っぽい塊で、砕けやすく断面にはつやがある。なめると舌に粘り、甘くて涼感がある。

 成分には水酸化カリウムやケイ酸などが含まれる。漢方では清熱・化痰・定驚の効能があり、熱病で意識が混濁したり、脳卒中で痰が胸に詰まって苦しいとき、癲癇や小児のひきつけなどに用いる。小児での痰熱驚風の要薬といわれ、とくに小児の熱病にみられる呼吸困難やひきつけ、夜泣きなどに用いる。

 小児のひきつけや発熱時の呼吸困難などに白僵蚕・牛黄などと配合する(小児回春丹)。日本でも脳卒中や小児のひきつけなどに用いる伝統的な練り薬、烏犀圓の中に天竺黄が配合されている。また竹瀝の代用として用いることがある。

火曜日, 1月 14, 2014

天葵子

○天葵子(てんきし)

 中部地方以西、朝鮮半島、中国などに分布するキンポウゲ科の多年草ヒメウズ(Semiaquilegia adoxoides)り全草を天葵といい、塊根を天葵子という。塊根が烏頭に似て小型なためヒメウズといい、その形がネズミの糞に似ているため千年老鼠屎という異名がある。田端のあぜや石垣の隙間などに生える雑草で、4~5月頃に小さな花を下向きにつける。

 根にはアルカロイド、ラクトンなどが含まれ、抗菌作用が知られている。漢方では清熱・解毒・利尿の効能があり、皮膚の化膿や腫れ物、乳腺炎、蛇による咬傷や打撲傷、膀胱炎などに内服あるいは外用として用いる。

 外用としては新鮮な天葵子の根をすりつぶした汁を用いる。近年、中国では注射液による上気道炎の治療や乳癌や肝癌、リンパ肉腫などに対する臨床研究が行われている。

金曜日, 1月 10, 2014

テリアカ

○テリアカ

 古代ローマ帝国で創製されたといわれる万能解毒剤のことをいう。紀元前1世紀に国会の南にあるポントス王国の国王ミトリダテス作ったとされる解毒剤ミトリダトをローマ皇帝ネロの侍医であるダモクラテスが改良し、これに、やはりネロの侍医であるアンドロマコスが毒蛇の肉を加えて完成させたと伝えられている。

 テリアカはアラビア人によって盛んに用いられ、ヨーロッパでも有名で、19世紀の終わりごろまで西洋諸国の薬局方にも収載されていた。テリアカは中国にも伝えられ、唐代に著された本草書「新修本草」(659年)の中に底野迦と記されている。この新修本草を通じて奈良時代に日本にも紹介され、医心方にも底野迦は収載されていた。ただし、実際のテリアカは16世紀の戦国時代にポルトガル人によって伝えられたと推定されている。

 テリアカの中味は毒蛇の肉以外ははっきりせず、60種以上の薬草や土、動物の糞などが混ぜられているといわれ、後世のテリアカには阿片が主薬として配合されていたと推定されている。テリアカの有効性は不明だが、毒蛇や動物による咬傷に用いられた。

 このほうヨーロッパで知られていた解毒剤として牛黄(東洋解毒石)馬糞石(西洋解毒石)があり、中世には一角(ウニコルン)なども解毒剤として用いられた。

木曜日, 1月 09, 2014

○鉄(てつ)

 紀元前1500年ごろからインドや黒海北岸で木炭を燃料として製鉄が始まったとされている。中国では紀元前6世紀ごろから鉄器の製造が始まった。

 製鉄の原料はおもに赤鉄鉱(Hematite)、褐鉄鉱(Limonite)、磁鉄鉱(Magnetite)であるが、天然の鉄鉱石で薬用になるものには赤鉄鉱の代赭石、褐鉄鉱の禹余粮、磁鉄鉱の磁石などがある。また緑礬や自然銅、蛇岩石なども鉄を含む鉱石である。

 精錬されたは含まれる炭素量の多いものから生鉄、鋼鉄、塾鉄に区別される。薬用にされる鉄としては、生鉄をはじめ、生鉄を赤くなるまで熱した外側が酸化したとき叩き落された鉄屑の鉄落、鋼鉄を精錬するときにできる粉末の鉄粉、鋼針の製造のときにできる屑の鍼砂、空気中に放置してできる赤褐色の錆の鉄錆、水に浸して錆が出た後にできる溶液の鉄漿などがある。

 鉄が人間の健康に役立つことは古代ギリシャ時代から知られていたが、貧血の治療に有効であるとわかったのは17世紀のことである。金属鉄は一般に吸収されないが、一部は胃酸の作用でイオン化されて吸収される。還元鉄は吸収されるが、吐き気や下痢などの胃腸障害が強い。このため増血剤として除放製鉄剤や有機酸鉄が利用されている。また、肉や魚のミオグロビンやヘモグロビンに由来するヘム鉄は、野菜や穀類に含まれる非ヘム鉄よりも数倍も吸収率が高いため、健康食品にはしばしばヘム鉄が用いられている。鉄は吸収されると造血が促進され、中枢神経の機能が改善される。

 漢方ではこれらの鉄に平肝・安神・定驚・消腫・解毒の効能があるとし、癲癇やひきつけ、興奮、発狂、不安、動悸などに用いるほか、丹毒や疔瘡などにも用いる。丹毒や疔瘡などの皮膚化膿症には内服だけでなく、外用薬としても用いる。日本では江戸時代に鉄粉を黄胖といわれる貧血の治療に応用している。

 痔の出血が続き、貧血による浮腫や動悸のみられるときには鉄粉に茵蔯蒿・荊芥・蒲黄などを配合する(茵荊湯)。貧血症による浮腫、動悸、息切れ、眩暈には当帰・茯苓などを配合する(当帰散)。一方、慢性肝炎から肝硬変、肝癌へと移行する過程に、鉄が存在すると悪化が促進されるため、体内から鉄を減らす瀉血などが薦められている。

水曜日, 1月 08, 2014

葶藶子

○葶藶子(ていれきし)

 日本では各地に広く分布しているアブラナ科の越年草イヌナズナ(Draba nemorosa)の種子を葶藶子という。中国産は日本にも帰化植物として普通にみられるアブラナ科のマメグンバイナズナ(Lepidium virginicum)やヒメグンバイナズナ(L.apetalum)、クジラグサ(Descurainia sophia)の種子である。

 マメグンバイナズナやヒメグンバイナズナの種子は北葶藶子(苦葶藶子)、クジラグサの種子は南葶藶子(甜葶藶子)ともいわれる。現在、日本で流通しているものは、おねもに甜葶藶子である。葶藶子の成分として強心配糖体のヘルベチコシドなどが知られている。

 漢方では逐水・止咳・消腫の効能があり、喘息や浮腫などに用いる。とくに葶藶子は「気を下し、水を行らす」作用があるといわれ、肺に滞った水分を除き、胸水や肺水腫、多量の痰などの状態を改善する。また通便作用もあるが、他の逐水薬とは異なり、激しい下痢にはならない。ただし胃に対する刺激性があるため、一般に大棗の煎液で服用する。

 心臓喘息や百日咳で咳や痰が多く、呼吸困難や浮腫のみられるときには大棗と配合する(葶藶大棗瀉肺湯)。胸水や腹水があり、呼吸困難、顔面や四肢の浮腫などのみられるときには防已・椒目・大黄と配合する(已椒藶黄丸)。

火曜日, 1月 07, 2014

通草

○通草(つうそう)

 中国南部の各地方に自生するウコギ科の常緑低木カミヤツデ(Terapanax papyriferum)の幹の白い髄を用いる。日本でも温暖地で観賞用に栽培されている。和名のカミヤツデは「紙八手」と書き、ヤツデによく似た茎や掌状の葉を有している。

 茎の幹を30cmほどに切り出し、幹の髄を新鮮なうちに取り出し、特殊な刃物で紙のように薄く四角くのばして日干しにする。これはチャイニーズライスペーパー(通草紙)といわれ、かつて造花の材料にも利用された。薬用にも方通草といって、このような薄片を用いることもある。

 ところで神農本草経にある通草とは木通のことで、傷寒論の当帰四逆湯に配合されている通草も一般には木通が使用されている。カミヤツデの髄にはリグニン、ペントサン、ガラクタンなどが含まれているが、薬理作用に関しては不明である。漢方では利水・通淋・通乳の効能があり、膀胱炎などの排尿異常や浮腫、母乳不足などに用いる。

土曜日, 1月 04, 2014

陳皮

○陳皮(ちんぴ)

 日本ではミカン科のウンシュウミカン(Citrus unshiu)の果皮を用いる。本来は新鮮なものを橘皮、その古くなったものを陳皮といっていたが、日本では区別しない。中国ではオオベニミカン(C.tangerina)やコベニミカン(C.eryhrosa)など多種の果皮が用いられる。やや未成熟なウンシュウミカンの果皮は青皮という。

 ウンシュウミカンは日本原産で、江戸時代に偶然にみつけられたものである。すなわち、この品種は南中国から九州に渡来したミカンの変種で、鹿児島県の長島が原生起源地とされている。ウンシュウとはミカンの栽培で有名な中国の浙江省温州のことであるが、この品種と温州とは直接の関係はない。

 江戸時代には紀州ミカンが全盛であったが、明治以降、九州から日本各地にウンシュウミカンの栽培が広まった。現在、愛媛・和歌山・静岡・佐賀・熊本の各県などでおもに生産されている。以前、陳皮は日本で自給可能であったが、工場で皮を向く工程が自動化されるようになって、国内で生産されなくなった。

 陳皮の陳は陳旧の意味であり、古いほうが良品とされる六陳(枳実・呉・呉茱萸・半夏・陳皮・麻黄・狼毒)のひとつである。果皮にはリモネンやテルピネンを成分とする精油、フラボノイド配糖体のヘスペリジン、ナリンギンなどが含まれ、健胃・蠕動促進作用、中枢抑制・鎮静作用、抗炎症作用などが知られている。近年、ウンシュウミカンの果皮や果肉に含まれるカロテノイドの一種、βクリプトキサンチンに抗腫瘍作用のあることが注目されている。

 漢方では理気・健脾・化痰の効能があり、消化不良による腹満感や嘔気、痰が多くて胸が苦しいときなどに用いる。ちなみに日本の七味唐辛子や中国料理の五香粉などにも配合されている。