○桂枝(けいし)
中国南部やインドシナ半島に自生し、栽培されているクスノキ科の常緑高木ケイ(Cinnamomum cassia)の若枝を桂枝という。ケイは学名をシナモム・カシアといい、カシア(シナ肉桂)とも呼ばれている。
一般にケイのことをシナモンと総称するが、欧米でシナモンといえばおもにセイロンケイヒ(C.zeylanicum)のことである。いずれも香料として用いられるが、辛味はカシアがシナモンよりも強く、甘味はシナモンのほうが強い。このため香辛料としてはシナモン、漢方生薬としてカシアが利用される。
日本や局方では桂枝としてのみ規定しているため、日本漢方ではあまり桂枝と肉桂の区別を厳密にしないが、日本薬局方解説書では直径1cm以下の皮を帯びた細枝を桂枝として記載している。中国ではその年に芽吹いた若い嫩枝を桂枝といい、樹齢10年以上の樹皮を肉桂と称している。張仲景の傷寒論や金匱要略の処方では全て桂枝とあり、この桂枝が細い若枝のことかどうかは疑問視されている。
桂枝には芳香性の精油成分であるケイアルデヒドが含まれ、血行促進、鎮静・鎮痙、解熱、抗菌、利尿などの作用が報告されている。ただし、ケイアルデヒドは時に皮膚アレルギーを起こすことがある。
桂枝は漢方では発汗・止痛・温通・利水などの効能があり、感冒、筋肉痛、関節痛、血行障害、月経異常などに用いる。また薬徴には「主に衝逆を治す」とあり、のぼせを鎮めるために用いられる。とくに張仲景の処方の多くに桂枝が配合され、幅広く応用されている。
中国医学では桂枝と肉桂を対比して、体表を温める桂枝は解表薬、体内を温める肉桂は温裏薬に分類している。このため中国では一般に八味地黄丸の桂枝を肉桂に代えて用いる(附桂八味丸)。