○牛黄(ごおう)
ウシ科の動物ウシ又はスイギュウの胆嚢や胆管の中にできた結石を用いる。ウシは新石器時代にはシリア・エジプトなどですでに家畜化されていた。日本でも古代から役用、食用に用いられた記録があるが、仏教の伝来とともに殺生が禁じられ食べられなくなった。
ウシはひづめが2つに分かれた偶蹄類であり、草食動物であるため臼歯が発達し、胃袋は4つある。胆嚢から胆石が見つかることは極めて稀で、日本にはオーストラリアや南米など世界各地から輸入され、特にオーストラリア産は品質が良いといわれる。現在、ウシの胆石を取り出して結石を合成した人口牛黄やウシの胆嚢内で人為的に結石を形成された培養牛黄などが安価な牛黄として開発されている。
大きさは4cm以下の球形あるいは不定形で、表面は黄褐色ないし赤褐色であるが、空気に長時間触れると酸化されて黒褐色に変化する。軽くて脆く、砕けやすい。味ははじめ苦く、次第に甘く感じ、芳しい香りがして、噛んでも歯に粘りつかない。
成分にはビリルビン、ビルベルジンなどのビリルビン系色素が約75%、コール酸やデオキシコール酸からなる胆汁酸、コレステロール、各種アミノ酸などが含まれている。薬理作用として中枢神経鎮痙・鎮静作用、利胆作用、強心作用、血球新生作用、解熱作用などが知られている。
牛黄は神農本草経の上品に収載され、古くから高貴薬として用いられてきた。漢方では清熱瀉火・涼血・解毒・開竅・定驚の効能があり、熱病による意識障害や熱性痙攣、脳卒中、腫れ物、口内炎、歯槽膿漏などに用いる。煎剤として用いずに散剤や丸剤に配合する。
熱病による意識障害や熱性痙攣、煩躁、脳卒中、精神不安などには犀角・麝香・朱砂などと配合する(安宮牛黄丸・牛黄清心円)。扁桃炎など咽頭の腫痛、皮膚化膿症などには麝香・竜脳などと配合する(六神丸)。小児の熱病や疳の虫の薬として知られている樋屋奇応丸や宇津救命丸、動悸・息切れ・きつけの救心などの一般薬にも広く配合されている。