○あへん(阿片)
西アジア原産のケシ科の越年草ケシ(Papaver somniferum)の未熟果の乳液を凝固したものを用いる。果皮を刃物で浅く傷つけると直ちに白色の乳液が分泌する。この乳液は大気中で次第に微紅色から褐色に変化して粘稠化するが、翌朝に竹の刀でそぎとり、乾燥させたものが阿片である。阿片の名はアラビア語のアフィウーンに由来する。英語名のオピウム(opium)は乳汁という意味である。また漢方では成熟したケシの果殻を罌粟殻という。なお、50種以上あるケシの仲間のうちアヘンを生産できるのはこのケシとパパベル・セティゲルム(P.setigerum)の2種類のみである。
アヘンには成分としてモルヒネ、コデイン、パパベリン、ノスカピンなど20種以上のアルカロイドが含まれ、モルヒネやコデインには中枢神経に作用して鎮痛、催眠、鎮咳などの効果がみられる。アヘンを過量に用いると大脳の機能が麻痺して陶酔感や幻覚が出現し、さらに量が多いと小脳・延髄の機能が冒され、呼吸中枢が麻痺して死に至る。九精中毒症状として昏睡・瞳孔縮小・呼吸抑制の特徴がある。アヘンは習慣性が非常に強いため慢性中毒の状態となり、耐性を生じるので次第に量が増える。慢性中毒では服用後に多幸的な陶酔状態が出現し、不安や苦痛を感じなくなり、効果が切れると強い禁断症状が出現する。
現在、アヘンは麻酔性鎮痛薬のモルヒネ塩酸塩や鎮咳薬のコデインリン酸塩の原料となるが、麻薬及び向精神薬取締法によって使用は制限されている。また麻薬のヘロインとはモルヒネをアセチル化したジアセチルモルヒネのことで、鎮痛作用は弱いが多幸作用や習慣性は強くなっている。漢方でも止痛・止咳・止瀉の効能があるが、止痛・止咳より、むしろ止瀉薬として用いられていた。津軽藩の秘薬として知られる一粒金丹にもアヘンが配合されていたが、明治10年に阿片配合の売薬は禁止された。