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水曜日, 1月 30, 2013

山薬

山薬(さんやく)

 本州以南、台湾、中国大陸に分布するヤマノイモ科のつる性多年草ヤマノイモ(Dioscorea japonica)または中国中南部原産のナガイモ(D.opposita)の根茎を用いる。

 一般に野生のものはヤマノイモまたは自然生といい、中国から渡来した栽培品種補をナガイモという。サトイモに対して自然に山に生えているのでヤマノイモ、栽培されていないので自然生という。

 ナガイモは中世に日本に伝わり、しばしば野生化している。肥大した根茎はまっすぐ棒状に地中直下に伸び、その芋の部分は担根体に相当し、茎の根の中間的な性質を持っている。また葉腋にできるムカゴは零余子という。現在、八百屋で市販されているトロロイモは一般にナガイモであり、またイチョウイモやツクネイモなど芋の形が異なる栽培品種も出回っている。

 ナガイモは古くは薯蕷といっていたが、唐の代宗の諱である預をさけて薯薬と呼ばれ、宋の英宗の諱である曙を改めて山薬といわれるようになった。また中国の河南省で産するものは集荷地の懐慶府にちなんで懐山薬または淮山薬と称されている。

 成分には多量のデンプンと粘液質のマンナンのほか、糖類やアミノ酸、コリン、アラントイン、グルコサミンが含まれる。漢方では脾胃や肺、腎を補う効能があり、下痢や咳嗽、糖尿病の治療、さらに滋養薬として胃腸虚弱や体力低下の改善に用いる。民間でもヤマノイモを焼酎に漬けた山薬酒が滋養薬として知られている。また零余子も滋養強壮薬として用いる。

火曜日, 1月 29, 2013

山扁豆

○山扁豆(さんへんず)

 沖縄県や世界の熱帯から亜熱帯にかけて分布するマメ科の一年草リュウキュウカワラケツメイ(Cassia mimosoides)の全草を山扁豆という。日本では日本各地に分布するマメ科のカワラケツメイ(C.nomame)の果実をつけた全草を山扁豆と称している。

 リュウキュウカワラケツメイはカワラケツメイとよく似た植物であるがね果実はカワラケツメイよりも細長い。山扁豆には清熱・解毒・利湿の効能があり、黄疸や下痢、浮腫、疳積などに用いる。外用として腫れ物やかぶれ、咬傷などに用いる。

 一方、カワラケツメイの全草を中国では水皂角という。この全草にはクリソファノール、エモジンなどのアントラキノン類やルテオリン、ビテキシンなどのフラボノール類が含まれ、利尿・緩下の作用がある。

 近年、カワラケツメイに含まれているポリフェノール(カシアノール)に脂肪分解酵素、膵リパーゼを阻害する作用が見出され、ダイエット効果が注目されている。日本の民間ではカワラケツメイの全草を刻んで煎じたものを弘法茶、浜茶、豆茶といい、便秘や浮腫、消化不良などに効果のある健康茶として利用している。また目ヤニや充血、疲れ目などに煎液を洗眼薬として用いる。中国では水皂角に明目・利水の効能があるとして、夜盲症、片頭痛、浮腫などに用いると記載されている。

月曜日, 1月 28, 2013

山菜

○山菜(さんな)

 インド、マレー半島原産で中国の南部に産するショウガ科の多年草バンウコン(Kaempferia galanga)の根茎を用いる。日本には江戸時代に渡来して、観賞用に栽培されている。日本のバンウコンは蕃欝金と書き、南蛮から渡来したウコン(欝金)という意味である。同じショウガ科の日本のサンナ(Hedychium spicatum)という植物があるが、これは別の植物である。

 バンウコンは東南アジアで広く栽培され、地下茎はカレー粉の原料などの香辛料、食用色素などに用いられている。また線香の薫香料としても利用されている。地下茎は塊状で芳香があり、辛味がある。

 根茎にはボルネオール、ケイアルデヒド、カンファン、ケンフェロールなどが含まれ、抗真菌作用や消炎作用が知られている。漢方では温裏・消食・止痛の効能があり、冷えによる腹痛や消化不良、歯痛の治療に用いる。

土曜日, 1月 26, 2013

山茶花

○山茶花(さんちゃか)

 本州、四国、九州、沖縄県、朝鮮半島や中国に分布するツバキ科の常緑高木ツバキ(Camellia japonica)などの花を用いる。一般に蕾がふくらんで花が咲こうとする直前に採取する。

 山茶花と書くと日本ではサザンかと読むが、中国語ではツバキのことであり、サザンカの漢名は茶梅と書く。また椿と書けば、中国語ではセンダン科のチャンチンのことを指す。

 ツバキの種子には35~45%の脂肪油やサポニンが含まれ、わが国特有の椿油として毛髪油、刀剣油、食用油、軟膏や軟膏基材に利用されている。花にはロイコシアニジンやタンニンのカメリインA、Bなどが含まれている。漢方では止血の効能があり、鼻血、下血、性器出血などに用いる。

金曜日, 1月 25, 2013

酸棗仁

○酸棗仁(さんそうにん)

 中国原産と推定されるクロウメモドキ科の落葉小高木、サネブトナツメ(Zizphus jujuba)の成熟種子を用いる。ナツメ(var.inermis)よりもすっぱいので酸棗といい、種子が大きいのでサネブトナツメという。

 サネブトナツメはナツメの母種で枝にトゲが多く、葉や果実はナツメよりも小さい。ナツメは果肉を大棗として用いるが、サネブトナツメは種子を酸棗仁として用いる。

 種子の成分にはベツリンやベツリン酸、サポニンのジュジュボシドA・Bなどが知られ、煎液には鎮静・催眠作用や鎮痛、抗痙攣作用、抗ストレス作用などが報告されている。漢方では肝を養い、心を寧んじ、精神を安定させ、汗を収斂する効能があり、古くから鎮静・安眠薬として用いている。

 酸棗仁の安眠作用は継続的な服用により次第に効果が発揮され、麻酔作用や中毒作用はない。一説によると炒して用いると不眠を治すが、生で用いると多眠を治すといわれており、吉益東洞は酸棗仁を不眠症とは逆の嗜眠症に用いて治療したという話もある。また発汗過多を抑制する作用もある。

木曜日, 1月 24, 2013

山豆根

○山豆根(さんずこん)

 中国南部に分布するマメ科の低木広豆根(Sophora subprostrata)の根を用いる。日本ではかつてマメ科のミヤマトベラ(Euchresta japonica)の根を山豆根として用いていたが、これは誤りである。また中国北部の地方ではツヅラフジ科のコウモノカズラ(Menispermum dauricum)の根を山豆根あるいは北豆根と呼んでいる。

 広豆根の成分にはマトリン、アナギリンなどのアルカロイド、ソフォラジンなどのフラボノイド、そのほかシトステロール、ルペオールなどが含まれている。ソフォラジンを基本として開発されたのが胃粘膜保護作用のあるソフォルコン(ソロン)である。

 漢方では清熱解毒・利咽の効能があり、咽頭の腫痛、歯肉の腫痛、黄疸、痔疾、腫れ物などに用いる。咽頭や歯肉が晴れて痛むときに単独であるいは射干・牛蒡子などと配合して用いる。梅毒などによる咽頭の腫痛には桔梗・土茯苓などと配合する(喉癬湯)。また口内炎や痔などの外用薬としても用いられる。近年、中国では抗癌薬として研究されており、肺癌・喉頭癌の初期治療に用いられている。

水曜日, 1月 23, 2013

山椒

○山椒(さんしょう)

 日本の北海道から九州、朝鮮半島の南部に分布するミカン科の常緑低木サンショウ(Zanthoxylum piperitum)およびアサクラザンショウ(Z.piperitum f.inerme)の果皮を用いる。種子は淑目という。中国では同属植物の果皮を花椒として用いるが、これを日本ではサンショウに代えて用いる。しかし、近年では中国産の花椒が、日本薬局方で規定されている山椒の代わりに利用されることもある。

 アサクラザンショウは兵庫県の朝倉で偶然発見されたサンショウの品種で、ほとんど刺がなく果実が大きいため日本各地で栽培されている。サンショウの木材は硬く、すりこぎに賞揚されている。サンショウは日本固有の香辛料で、春先の新芽や若い葉は「木の芽」、花は「花ざんしょう」、青い果実は「実ざんしょう」、熟した赤い果実は粉にして「粉ざんしょう」とさまざまに用いられている。

 果実は完熟すれば辛味が少なくなる。しかし未熟なときは辛味が強いが、乾燥しても種子が出ない。このため品質には採取時期が重要である。薬用には果柄や種子がよく除かれているものを用いる。また辛味成分は保存期間が長くなると減少するので注意を要する。

 果実には精油成分のリモネンやシトロネラール、辛味成分のサンショールやサンショウアミド、痙攣毒のキサントキシンなどが含まれる。キサントキシンは魚類に強い痙攣を起こすが、他の動物に対する毒性は弱い。辛味成分には殺虫作用や局所刺激作用のほか、健胃、整腸、利尿作用が認められている。山椒は一般薬にも芳香辛味性健胃薬や苦味チンキの原料として利用されている。

 漢方では温裏・止痛・駆虫の効能があり、冷えによる腹痛や下痢、回虫症などに用いる。また湿疹や掻痒症、ひび、あかぎれに煎液を外用する。漢方処方で蜀椒とあるのは中国では花椒を用いるが、日本では山椒に代えて用いている。山椒のほうが花椒よりも良質とされているが、現在では薬用や食用としてカホクザンショウ(花椒)やイヌザンショウ(Z.shinifolium)の果実が輸入されている。ちなみに打ち身や捻挫の外用薬として知られる楊柏散にはイヌザンショウの葉のついた枝を乾燥して粉末にしたものが配合されている。

火曜日, 1月 22, 2013

山茱萸

山茱萸(さんしゅゆ)

 中国や朝鮮半島に分布している落葉小木ミズキ科のサンシュユ(Cornus officinails)の果肉を用いる。この核には毒があるので、取り除いた果肉を用いる。

 日本には江戸時代に朝鮮から伝えられ、観賞用として庭園などに植えられている。早春に黄色い花が咲くためハルコガネバナという和名もあり、秋には真っ赤なグミに似た果実がなり、生食できる。

 成分にはイリドイド配糖体のモロニサイド、スウェロシド、ロガニン、ウルソール酸、タンニンなどが含まれ、山茱萸のエキスでは抗糖尿病作用や免疫賦活作用などが知られている。

 漢方では肝腎を補い、固精・止汗の効能があり、性機能低下などの強壮薬として、また足腰の痛みや眩暈、夜尿などの治療に用いる。民間では酒に漬けた山茱萸酒が滋養強壮の薬酒として知られている。なおミカン科の呉茱萸とは植物的には関係がない。

月曜日, 1月 21, 2013

蚕沙

○蚕沙(さんしゃ)

 カイコガ科のカイコ(Bombyx mori)の幼虫の糞の乾燥したものを用いる。ときに秋蚕(晩蚕)の糞が重用されたため晩蚕沙という名もある。

 2~3mmぐらいの青黒い顆粒状のもので、質は硬いが容易に溶け、砕くと青臭さがある。カイコの糞は薬用だけでなく、家畜の飼料や活性炭や樹脂、塗料、鉛筆の芯などにも応用され、かつては人口の砥石の原料としても利用された。

 糞の製粉にはヒスチジンやロイシン、リジンなどのアミノ酸、ビタミンA・B、尿酸、リン酸などが含まれている。漢方では去風湿・活血・止痛の効能があり、四肢の関節痛や麻痺、腹痛や下痢、皮膚掻痒症などに用いる。関節リウマチで関節が痛み、湿熱証の強いときには防已・薏苡仁などと配合する(宣痺湯)。また結膜炎などの炎症に外用薬として用いる。

土曜日, 1月 19, 2013

三七

○三七

 雲南省から広西省にかけての限られた地域に産するウコギ科の多年草サンシチニンジン(Panax notoginseng)の根を用いる。呼称にはいくつかあり、三七人参、あるいは田三七、田七などと呼ばれている。また非常に高貴な生薬なので金不換という名もある。

 田というは産地が広西省田陽、田東のためであり、三七というのは地上葉が3つの葉柄にそれぞれ7枚の葉がつくことによる。人参や竹節人参と同じウコギ課のよく類似した植物である。三七は本草綱目に初めて収載された比較的歴史の浅い生薬であるが、民間では古くから金瘡の要薬として用いられ、止血の神様ともいわれている。

 漢方では止血・化瘀・消腫・止痛の効能があり、外傷による出血や内出血、消化性潰瘍の出血や疼痛、性器出血などに用いる。用法としては煎じたり、粉末にした服用したり、患部に塗布する。近年では冠不全や急性・慢性肝炎の治療薬として注目されている。

 三七の配合された製薬としては、外傷による出血、疼痛に用いる雲南白薬、急性・慢性肝炎の治療薬として知られる片仔癀がある。ベトナム戦争時にはアメリカ兵の間でも雲南白薬が評判となり、世界中に知られるようになった。

金曜日, 1月 18, 2013

山梔子

山梔子(さんしし)

 日本、台湾、中国に分布するアカネ科の常緑低木コリンクチナシ(Gardenia jasminoides)の果実を用いる。果実が秋を過ぎても口を開けないことから口無しと呼ばれ、実の形が巵という底の丸い酒杯に似ているため梔子の名がある。

 中国ではコリンクチナシの果実を梔子といい、クチナシ(G.jasminoides var.frandiflora)やコクチナシ(G.jasminoides var.radicans)などの大型で長めの果実をとくに水梔子という。水梔子は、一般に染料に用いて薬としては劣るものとされている。日本ではクチナシは飛鳥時代から黄色染料として知られ、無毒のためにきんとんや沢庵漬けなど食品を染めるのにも用いられている。

 果実にはイリドイド配糖体のゲニポシド、ガルデノシド、カロテノイド色素のクロシン、クロセチン、そのほかシトステロール、ノナコサン、ノン似トールなどが含まれている。近年、クロセチンは目の毛様体に作用して、眼精疲労を改善し、老眼に効果があると期待されている。

 山梔子の煎液には利胆、鎮静、降圧作用、抗真菌作用があり、またゲニポシドには利胆作用や鎮痛作用がある。漢方では清熱燥湿・清熱解毒・除煩・退黄の作用があり、感染症や炎症、煩躁や黄疸、出血などに用いる。また外用薬として打撲や捻挫に生山梔子の粉末を、痔の炎症に山梔炭を用いる。

木曜日, 1月 17, 2013

山慈姑

○山慈姑(さんじこ)

 日本の全国各地に広く分布するラン科の多年草サイハイラン(Cremastra appendiculata)などの鱗茎を用いる。茎の一方法に花をつけるためサイハイ(采配)の名がある。

 この鱗茎は焼いたり、茹でて食用にされることもある。またユリ科のアマナ(Tulipa edulis)の鱗茎も山慈姑というが、光慈姑として区別して扱われることもある。日本では江戸時代にオランダ医学から伝えられたラン科の植物(Orchis morio)などの根、サレップ根の代用にサイハイランの鱗茎を用いたこともある。サレップ根は粘滑薬といわれ、ひびやあかぎれ、胃炎の治療薬である。

 山慈姑にはマンナンなどの粘液やデンプンが含まれる。漢方では清熱解毒・消腫の効能があり、腫れ物や蛇や虫の咬傷に用いる。また頸部リンパ結核や耳下腺炎などにも効果がある。瘟疫による嘔吐や下痢、咽喉腫痛、痰鳴、小児のひきつけなどの治療に用いられる紫金錠に麝香・朱砂などと配合されている。近年、中国では食道癌や乳癌、リンパ肉腫なとべの臨床効果が研究されている。

水曜日, 1月 16, 2013

山蒜

○山蒜(さんさん)

 日本各地、朝鮮半島、中国に分布するユリ科の多年草ノビル(Allium grayi)の全草を用いる。ノビルとは野のヒル(蒜)という意味で、ヒルとはネギやニンニクなど口の中に入れると辛味があるものの総称である。

 日本で春の山菜として古くから食用にされ、酢味噌和えや雑炊などに用いる。日本の民間流法では強壮・強精の効果があるとされ、鱗茎の部分を焼酎に漬けて薬用酒にしたり、黒焼きにして扁桃炎や咽頭痛、咳嗽などに用いる。生の葉の汁は傷口や毒虫に刺されたときに外用し、打ち身や火傷には鱗茎をすりおろして貼る。

火曜日, 1月 15, 2013

山査子

山査子(さんざし)

 中国原産のバラ科の落葉低木サンザシ(Crataegus cuneata)、あるいは高木のミサンザシ(C.pinnatifida)の成熟果実を乾燥したものを用いる。日本には江戸時代に伝わり、多く植栽されている。

 ミサンザシは大型の果実で、核を除いたものは山査肉という。サンザシの果実は中国では紅果と呼ばれ、甘酸っぱいため干菓子の山査片や羊羹の山査羹、ジュースなどに用いられている。料理では魚を煮るときに山査子を入れると骨も柔らかくなるとか、肉料理の後で食べると消化を促進するともいわれている。

 果実の成分にはクラテゴール酸やケルセチン、クロロゲン酸、タンニン、サポニン、ビタミンC、タンパク質などが含まれ、抗菌、血管拡張、強心、降圧作用などが報告されている。またクラテゴール酸には胃液分泌を促進し、消化を助ける作用が知られている。

 漢方では消食の効能があり、おもに消化不良や下痢の治療に用いる。とくに油っこいものや肉類などの消化不良に適している。また産後の腹痛など瘀血による疼痛や血便などにも用いる。

 弱火で淡黄色に炒めた物を炒山査、強火で焦がしたものを焦山査、黒く炭にしたものは山査炭という。いずれも消化不良に用いるが、瘀血には生山査を、止血や下痢には山査炭を用いる。焦山査に焦神麴と焦麦芽を合わせたものを焦三仙といい、消化不良の基本薬となっている。さらに焦檳椰を加えたものは焦四仙という。なおヨーロッパでは同属植物のホーソーン(セイヨウサンザシ:C.oxyacantha)の葉を強心薬、果実は降圧・強心薬として用いている。

月曜日, 1月 14, 2013

山葵根

○山葵根(さんきこん)

 北海道から九州に分布するアブラナ科の多年草ワサビ(Wasabia japonica)の根茎を用いる。山間の谷川に群生し、古くから長野や静岡県をはじめ日本各地の渓流で栽培されている。

 ワサビの学名をワサビ・ヤポニカというように、日本特産の植物であり、葉が葵に似ているため山葵(さんさ)と称している。ワサビは日本料理に不可欠な香辛料で、独特の風味を有している。刺身、寿司、茶漬け、そば、わさび漬けなどと広く用いられている。

 市販のワサビ粉はおもに欧州原産のワサビダイコン(Armoracia rustucana)の根の粉末を葉緑素で着色したものである。英語ではワサビダイコンをホースラディッシュ(horseradish)というのに対して、ワサビはジャパニーズホースラディッシュという。

 ワサビの辛味成分は配糖体のシニグリンであるが、酵素のミロシナーゼによって加水分解されて刺激性のあるアリルイソチオシアナートを生じて辛味を呈する。ワサビには食欲増進、防腐・殺菌作用があり、芳香性健胃薬とされる。民間では搾り汁を魚肉や鶏肉の中毒の予防に用いたり、すりおろしたものを布に薄く延ばして患部に貼り、リウマチや神経痛の治療に用いる。

土曜日, 1月 12, 2013

鎖陽

鎖陽(さよう)

 中国の新疆ウイグル自治区、甘粛省、内モンゴル自治区の砂地に分布し、ほかの植物根に寄生するキノモノウム科の多年草サヨウ(Cynomorium songaricum)の肉質茎を用いる。

 高さ20cm~1mくらいの暗紫赤色の円柱形で先は膨隆して丸みをおびており、男根に似ている。外見的にはウツボ科のホンオニク(生薬名:肉蓯蓉)ともよく似ており、肉蓯蓉の代用として用いられることも多い。

 全体にアントシアニンやトリテルペノイド系サポニン、タンニンなどが含まれる。漢方では肝腎を滋養し、筋骨を強め、腸を潤す効能があり、老人の四肢の筋肉萎縮や運動麻痺、陰萎や遺精、便秘などに用いる。高齢者などで足腰が弱り、歩行困難なときには熟地黄・虎骨などと配合する(虎潜丸)。市販薬では滋養・強壮薬にも配合されている(ナンパオ)。

金曜日, 1月 11, 2013

サポニン

○サポニン

 サポニンは植物の配糖体のひとつで、溶けると泡をたてやすい溶液を作るような物質の総称である。サポニンとは石鹸という意味のラテン語、サーポニスに由来する。実際、世界各地でサポニンを含む植物を石鹸代わりに利用してきた。

 一般にサポニンには界面活性作用、溶血作用、血球凝集作用、鎮咳・去痰作用、抗菌・抗真菌作用があり、また個々の生薬のサポニンには抗炎症、抗アレルギー、抗潰瘍、降圧、鎮静などの作用が知られている。サポニンは配糖体であり、酸あるいは酵素で加水分解するとサポゲニン(非糖部)と糖を生じる。

 サポニンは構造からトリテルペノイドサポニンとステロイドサポニンに大別され、トリテルペノイドサポニンを含むサポニン生薬として甘草、桔梗、柴胡、牛膝、木通、遠志、セネガ、貝母、人参、竹節人参、甘茶蔓、大棗などがある。また、ステロイドサポニンを含む生薬には麦門冬、知母などがある。サポニンは、しばしば経口毒性があり、蕁麻疹を起こすことも多く、とくに毒性の強いものはサポトキシンと呼ばれる。

木曜日, 1月 10, 2013

サフラン

○サフラン

 ヨーロッパ南部、小アジア原産と考えられているアヤメ科の多年草サフラン(Crocus sativus)の雄しべの花柱を用いる。キク科のベニバナの花を紅花というのに対し、番紅花と呼ばれている。

 日本に生薬として伝えられたのは江戸時代の半ばであり、球根が伝えられたのは江戸時代の末期のことである。今日、大分県竹田市において室内で花を咲かせる栽培方法で国内生産量の8割以上を生産している。クロッカスの一種で、淡紫色の花弁の中に黄色い葯をもつ3本の雌しべと、鮮やかな橙赤色で先が3つに分かれた花柱をもつ雌しべがみられる。

 乾燥した花柱は色素や芳香成分を含み、菓子や料理の香料や着色料、また染料としても用いられる。花柱を1オンス(約30g)集めるには4300の花が必要とされ、非常に高価なものである。

 花柱の成分には苦味成分のピクロクロシンや紅色色素クロシン、精油成分のサフラナールなどが含まれ、動物実験で子宮収縮作用が認められている。ヨーロッパでは健胃薬や鎮静・鎮痛・通経薬として知られ、痛風などにも用いられた。

 中国では活血・通経・清心の効能があり、血を調えて気分を爽やかにし、うつ症状や胸苦しさをなくす。月経異常、産後の腹痛、麻疹の初期などにも用いる。日本の民間では生理痛、生理不順に用い、婦人薬の盬竃蠻紅華湯などにも配合されている。また風邪や気分の落ち着かないときには、花柱10本程度に熱湯を注いで飲む。ただし妊婦の使用は避けたほうがよい。

水曜日, 1月 09, 2013

○酒

 米、麦、黍、高梁などを原料にして酵母発酵によって作られたアルコール飲料を用いる。は古くから百薬の長といわれ、また「醫」の字の下が酒を意味する「酉」とあるように酒は医薬のひとつとして応用されてきた。

 酒は製造方法により醸造酒蒸留酒、混成腫の3種に区別される。醸造酒はアルコール発酵させて作ったもので、ブドウなどの糖分を直接発酵させる果実酒、穀類などのデンプンを糖化してから発酵させるビールや日本酒などがある。蒸留酒は発酵法による酒や絞り粕を蒸留してアルコール分を多くしたもので、焼酎やウイスキーなどがある。混成酒はこれらの醸造酒や蒸留酒に香料や生薬などを加えたもので薬用酒やリキュールなどをいう。

 中国では穀類を原料とする蒸留酒(高梁酒、芽台酒など)を白酒、穀類を原料とする醸造酒(紹興酒、沈缸酒など)を黄酒という。中国でいつごろから酒造が行われていたか明らかではないが、竜山文化時代(紀元前2000年)の遺跡から陶製の酒杯や酒壺が出土している。ただし蒸留酒は11~12世紀になって始められたと推定されている。このため金匱要略の栝楼薤白白酒湯にある白酒はにごり酒あるいは上等の酒のことと考えられている。

 また傷寒論の半夏苦酒湯にある苦酒とは酢のことである。李時珍の本草綱目には「少量飲めば血を和し、気を行し、神を壮んにし、寒を禦ぎ、愁いを消し、興をやるが、痛飲すれば神を傷り、血を耗し、胃を損じ、精を亡い、痰を生じ、火を動じる」とある。酒には血脈を通じ、寒気を除き、薬力を行らす効能があり、酒を水と混合して他の生薬を煎じたり、丸薬や散薬などで酒を飲み下す方法が用いられる。

 傷寒論、金匱要略の中にある炙甘草湯当帰四逆加呉茱萸生姜湯、芎帰膠艾湯は水と酒を合わせて煎じる。また、薯蕷丸、腎気丸、丸痛丸、赤丸、大黄しゃ虫丸、天雄散、候氏黒散、土瓜根散、当帰芍薬散、当帰散、白朮散などは酒で服用するとある。

 生薬を酒に漬けて作る薬酒では黄帝内経の鶏矢醴の記載が最も古いとされ、金匱要略でも紅藍花酒が収載されている。また本草綱目には69種類の薬酒が挙げられている。このほか生薬の修治法として酒炙というのがある。これは一般に黄酒を用い、薬物を炒りながら酒をかけたり、薬物を酒に浸してから炒るという加工法であり、大黄・当帰・白芍・黄連・黄芩などの修治にしばしば行われる。

火曜日, 1月 08, 2013

蚱もう

○蚱もう(さくもう)

 中国全土や朝鮮半島、日本など稲作の行われているアジア全域に広く分布するバッタ科のイナゴ(Oxya chinensis)の乾燥した全虫を用いる。成虫を秋に捕獲するが、翅の生えていない若虫を特に蝗南という。

 イナゴは水稲などの害虫であるが、食用昆虫としてよく知られている。アジア諸国や中東で食用にされ、日本では古くから佃煮や唐揚げなどにして食べている。

 成分にはタンパク質のほかノルハルマネやイソロイシンが含まれ、ノルハルマネには小腸平滑筋抑制作用が、イナゴの黒焼きには鎮痙作用がある。官報では止咳・止痙の効能があり、咳嗽やひきつけに用いる。たとえば小児のひきつけに強火で焼いたものを粉末にして服用したり、百日咳のときに煎じて服用する。またしもやけのときには焼いて粉末にしたものを香油に混ぜて外用する。

 日本では小児の疳の虫の治療や栄養剤としても用いられた。古代アラビア人はマラリアや肺結核に、ヨーロッパではハンセン病(癩病)、結石、結膜炎などの治療に用いたといわれる。

月曜日, 1月 07, 2013

蒴藋

○蒴藋(さくちょう)

 本州、九州、四国、沖縄、中国などに分布するスイカズラ科の多年草ソクズ(Sambucus chinensis)の全草を用いる。日本では蒴藋の蒴は「さく」あるいは「そく」、藋は「ちょう」「とく(どく)」「てき」「たく(だく)」「かく」などさまざまに呼ばれている。ソクズはクサニワトコとも呼ばれているが、一般には栽培されない。

 全草にウルソール酸、硝酸カリウム、βシトステロール、αアミリンパルミテートなどが含まれ、ウルソール酸や硝酸カリウムには利尿作用がある。また中国では骨折の癒合促進作用、腫張軽減作用が報告されている。

 漢方では虚風湿・活血の効能があり、骨折、打撲、捻挫、関節炎、脚気、浮腫、瘰癧、腫れ物などに用いる。金匱要略には切り傷などの外傷の治療薬として王不留行・桑白皮などと配合した王不留行散が収載されている。

土曜日, 1月 05, 2013

沙苑子

沙苑子(さえんし)

 中国の遼寧・吉林・河北・陜西省、内モンゴルなどに自生するマメ科の多年草ツルゲンゲ(Astragalus complanatus)の成熟種子を用いる。ただし、中国の各地方で基原植物が若干異なることもある。

 沙苑子は別名を潼蒺藜とか沙苑蒺藜という。ところが別にハマビシ科のハマビシ(Tribulus terrestris)の種子も蒺藜子という。このため本草書では蒺藜の項目の中に沙苑子と蒺藜子が同時に記述され、しばしば混同された。現在、蒺藜子といえばハマビシの種子のことである。

 沙苑子の成分や薬理作用が明らかでない。漢方では肝腎を補い、明目・固精の効能があり、滋養強壮薬として足腰の倦怠感、インポテンツ、遣精、頻尿などに用いる。腎虚による遣精や滑精には芡実・蓮鬚などと配合する(金鎖固精丸)。また白内障初期などの視力障害に効果がある。

金曜日, 1月 04, 2013

細辛

○細辛(さいしん)

 日本の本州、九州、朝鮮半島、中国に分布するウマノスズクサ科の多年草ウスバサイシン(Asarum sieboldii)の根及び根茎を用いる。中国産はこのほかケイリンサイシン(A.heterotropoides var.mandsuricum)などいくつかの種類を使用している。

 日本では根と根茎と規定しているが、中国では近年まで全草を用いていた。これらと近縁植物であるカンアオイ(A.nipponicum(杜衝))やフタバアオイ(A.caulescens)の根は土細辛と呼ばれて細辛の代用にされたこともあるが、香気や辛味は細辛より非常に劣る。細辛という名は根が細く、口に含むと口の中がしびれるような辛さがあるためである。

 根には芳香成分としてメチルオイゲノール、サフロール、アサリニンなどが含まれ、辛味成分としてはペリトリン、ヒゲナミンなどが含まれている。細辛の精油には局所麻酔作用や解熱・鎮痛作用、降圧作用などが知られている。またヒゲナミンには附子や呉茱萸、良姜などの温熱薬にしばしば含まれるアルカロイドとして注目されている。なおウスバサイシンの地上部には腎障害を起こす恐れのあるアリストロキア酸が含まれているため、根及び根茎のみを用いる。

 漢方では解表・去痰・止咳・温裏・止痛の作用があり、感冒や喘息、頭痛、鼻炎、歯痛、神経痛などに用いる。欧米の民間でもヨーロッパサイシン(A.europaeum)やカナダサイシン(A.canadensis)を吐剤、利尿剤、頭痛薬として用いている。