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火曜日, 6月 11, 2013

沈香

○沈香(じんこう)

 台湾や中国南部、東南アジアに分布するジンチョウゲ科の常緑高木ジンコウ(Aquilaria agallocha)の樹脂を含んだ木材を用いる。古来より、有名な香木として知られ、良質のものは比重が大きく水に沈むために沈香あるいは沈水木という名がある。

 ジンコウは生木に芳香性の樹脂が含まれているではなく、切株の損傷部や枯死した後に自然と集まってくる樹脂である。また木材が倒れて土中に長い期間埋まり、腐敗した後に樹脂を含んだ部分だけが残ることがあり、これを珍重する。最近では、幹に人工的に傷をつけて樹脂を分泌させたり、木材を10年以上土中に埋めて腐らせて沈降を採取する方法が用いられている。

 黒色の最良品を伽羅木とか奇楠木というが、漢方では伽南香とも称されている。日本には推古天皇の時代に沈水という香木が淡路島に漂着したことが記録されており、また正倉院には黄熟香と全桟香といわれる2種類の沈香が収蔵されている。この黄熟香は蘭奢待と呼ばれ、最高級の沈香といわれている。

 沈香を燃やすと独特の甘い芳香を放つため、燻香料として材を粉末にしたものが練り香や線香の中に入れられている。仏教をはじめとする宗教儀式や香道には不可欠のものである。

 芳香の精油成分はベンジルアセトン、P-メトキシベンジルアセトン、高級テルペンアンコールなどがあり、そのほかにヒドロケイヒ酸やアガロスピロールなどが含まれる。精油には鎮静作用が、煎液には抗菌作用が報告されている。

 漢方では降気・止痛・止嘔・平喘の効能があり、体内を温めて痛みや吐き気を止め、腎気を補い、喘息を治す作用がある。たとえば下腹部痛や嘔吐、しゃっくり、便秘、気管支喘息、インポテンツなどに用いる。

 胸が苦しく、煩悶して食欲不振や喘息などの見られるときには人参・烏薬などと配合する(四磨飲)。気が滞って大便が秘結するときに大腹皮・蘇葉などと配合する(三脘中湯)。四肢の冷えるときには紫蘇子・乾姜などと配合する(喘理中湯)。小児の疳の虫に用いる樋屋奇応丸や急病の際に用いる気付け薬の万病感応丸などの家庭薬にも配合されている。

 近年、人口の葉(沈香葉)に含まれるゲンクワニン配糖体が、アセチルコリンの分泌を促し、腸の蠕動運動を促進して排便を促すことが報告されて注目されている。ただし、沈香の取引はワシントン条約などで制約されているため、一般には入手困難である。