○納豆
蒸し煮した大豆に枯葉菌の一種である納豆菌を加えて粘質発酵させた糸引き納豆と、蒸した大豆に麹を加え、塩水につけて熟成させた塩納豆(豆鼓)の2種類がある。近年、機能性食品として注目されているのは糸引き納豆である。植物性タンパク質の供給源であるだけでなく、骨の健康に役立つ、血栓を溶かす、動脈硬化の進行を抑える、お腹の調子を整える、抗菌力があるといった機能性が明らかになってきた。
納豆の栄養組成を見ると、タンパク質やリノール酸、ビタミンK、パントテン酸、葉酸、ビタミンB2、カリウム、鉄、銅、マグネシウムなどが多く含まれていることがわかる。納豆中のタンパク質は納豆菌によって分解されているため、大豆の状態より消化しやすく、また、ほとんどの栄養成分が大豆(ゆで)の時よりも増えている。そのほか、ナットウキナーゼ、イソフラボン、ポリアミンといった成分も含まれる。
納豆はビタミンKの含有量がトップクラスの食品である。天然のビタミンKは2種類あって、植物の葉緑体で作り出されるビタミンK1と、微生物が合成するビタミンK2だが、納豆は後者のほうである。ビタミンK2には骨のカルシウムの流出を防ぎ、骨を丈夫にする働きがある。ビタミンK2の作用を生かしたトクホ納豆も市販されている。さらに、納豆には骨量の減少を防ぎ、骨粗鬆症の予防に働くイソフラボン、骨の主成分であるカルシウム、骨の正常な代謝に必要なマグネシウムなど、骨の健康に役立つ成分が多い。厚生労働省の調査によると、中高年女性の骨折の割合は東日本が低く、西日本は高い傾向があり、これは納豆の消費量とほぼ比例しているという。
納豆のネバネバ部分に含まれる酵素のナットウキナーゼには、脳卒中や心筋梗塞の原因となる血栓を溶かす作用があることが知られている。ナットウキナーゼの血栓溶解作用は強力で、血栓溶解剤ウロキナーゼと同様な効果があるという。また最近では早田邦康(自治医科大学大宮医療センター)らが、納豆に多く含まれるポリアミン(低分子有機化合物)の動脈硬化抑制作用について報告している。日本は動脈硬化の因子となる喫煙率が先進国で最も高く、コレステロールの摂取量もアメリカを超えているといわれているが、動脈硬化による疾患の発生率は低い。その背景には大豆類を多く摂ることが関係しているのではないかという。
納豆は昔から、”風邪の引き始めにはネギ入り納豆汁がよい”といわれたり、食中毒予防の民間薬に使われたりしたが、これはジコピリン酸やリゾチームといった抗菌成分が含まれているためである。ジコピリン酸は病原性大腸菌O-157への抗菌効果が既に確認されている。納豆1パック(50g)に約10mgのジコピリン酸が含まれている。リゾチームは納豆のネバネバに含まれている溶菌酵素である。さらに、納豆菌は腸内で善玉菌の働きをするので整腸作用もある。また、納豆に含まれる大豆サポニンは強い抗酸化作用を持ち、老化やガン、生活習慣病の予防も期待できる。このように、身近な機能性食品といえる納豆だが、抗血液凝固薬(ワーファリンなど)を服用している場合、ビタミンKが薬の作用を低下させる可能性があるので、納豆の摂取については医師に相談したほうがよい。