○大風子(だいふうし)
東南アジアやインドなどで栽培されているイイギリ科の常緑高木ダイフウシノキ(Hydnocarpus anthelmintica)の種子を用いる。大風というのはハンセン病(癩病)のことである。
インドには古くからチャウルムグラ(H.wightiana)の種子を食べるとハンセン病が改善するという言い伝えがあり、それが元代に中国に伝えられ、明代には同属植物が大風子と名付けられてハンセン病の治療に盛んに用いられるようになった。ヨーロッパには1854年に英国の医師によってハンセン病に有効であることが紹介され、1920年にはオーストリアの植物学者ロックによってその基原植物が明らかになった。
チャウルムグラ油(大風子油)はこれまで治療のなかったハンセン病に対して非常に有効で、とくに初期治療に優れていた。今日、サルファ剤が開発されてからはあまり用いられなくなった。
種子成分のヒドノカルプス酸やチャウルムグラ酸などの脂肪酸にはレプラ菌やムグラ菌に対して抗菌作用が認められている。ただし、副作用も強く、内服では嘔吐や腹心、眩暈、腹痛などの反応が現れ、注射液では局所痛が強く、全身的な症状が出る。
漢方でもハンセン病に丸薬として用いるほか、軟膏などに配合して外用薬として用いる。外用薬では疥癬や梅毒などの皮膚疾患にも応用される。