○メシマコブ子実体
池川らによるキノコの抗腫瘍活性比較研究でメシマコブ(子実体)は非常に高い数値を示した。しかし、野生のメシマコブは極めて入手困難であったために、その成果を広く世に問うことができず、メシマコブ子実体は幻のキノコとして長く埋もれてしまうことになるわけである。その間、韓国ではメシマコブ菌糸体の培養技術が確立したが、成分的にみて、培養菌糸体と子実体とは異なっている。天然メシマコブと同系の、すなわち子実体の人工栽培はどうしても必要であり、それを得ることが急務であることは周知の事実であった。しかし、子実体人工栽培の難しさに多くの研究者、企業の挑戦は跳ね返され、メシマコブ子実体の人工栽培は実現不可能の様相すら見せていた。
「栽培ができないのなら天然物を探せばいい」という逆転の発想で、天然メシマコブ探しを始めたのはツムラグループの日本生薬だった。絶滅かといわれている日本と違って、漢方の故郷である中国なら天然メシマコブがあると、中国全土に探索の手を伸ばした。そしてメシマコブとして流通している10数種に及ぶキノコ(いわゆる桑黄)を集め、ツムラの漢方生薬研究所で同定を行った結果、真正メシマコブの同定に成功し、業界で大きな話題となったのはまだ記憶に新しい。
人工栽培の成功は20001年の春、長野県松本市からもたらされた。当地で長年、各種の薬効キノコの人工栽培に取り組んできた企業サイシンが、約10年間の試行錯誤の末、メシマコブ子実体の人工栽培に成功、S-ME菌と命名され、周年栽培が可能となったのである。同年の秋からは生産体制も整い、メシマコブ子実体のきざみが出荷されるようになった。この人工栽培の成功によって、メシマコブの新時代が到来するものと期待されている。