○延命草茶
延命草はシソ科ヤマハッカ属の植物で、北海道から九州に至る山地の日当たりの良い乾いた場所に群生し、1~1.5mの高さに育って秋には薄紫色の小花に穂状につける。和名はヒキオコシであるが、これは一度倒れた人でも、この草の汁を飲ませると引き起こすことができることにちなんでの命名だといわれる。同類の植物で同じように用いられるものにクロバナヒキオコシがあるが、特に両者を区別することなく、一般には延命草の名で呼ばれることが多い。この馴染み深い延命草の名前も、かつて弘法大師が瀕死の病人をこの草で助けたところからきているという。その名からもわかるように、古くから胃弱、食欲不振、腹痛、胃腸カタル、胃痙攣、胆石、日射病などに効用がある民間薬として広く利用されてきたが、中国でも同属の冬凌草という植物が同様の目的で利用されている。
延命草はその茎と葉に薬効成分が含まれているので、開花前に茎と葉を刈り取り、青さを残すように天日乾燥させる。乾燥中に葉が落ちやすいが、特に葉には有効成分が多いので注意しなくてはならない。こうした干し上げたものは保存し、必要なときに煎じて服用したり、粉末状にして飲むことが行われてきた。全草にわたり極めて苦味が強いため、お茶代わりに毎日飲むよりは、特定の症状の改善を目的として飲まれるのが通例で、10~15gを煎じた煎じ汁か、粉末の場合は1回に0.5g程度が適量とされる。
薬効植物の苦味は研究者の注目するところであるが、延命草の苦味成分はテルペン系のエンメイン、プレクトランチン、オリドニンなどで、いずれも薬理試験で抗菌作用と抗腫瘍作用が認められているが、新井正(千葉大学)がエンメインに制ガン作用があることを認めた動物実験を発表し、高い関心を持って迎えられたことは記憶に新しい。また富士薫(京都大学化学研究所)はクロバナヒキオコシの苦味成分を分離して腹水ガンのネズミを用いて制ガン作用を確認、その成分がトリコラブダールであることを発表している。中国では、中国科学院昆明植物研究所で同属の冬凌草を用いた研究がなされ、そこでも制ガン作用を認めているが、京都大学の実験結果はそれよりもさらに高い効果を示したということである。
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