○肉桂(にっけい)
中国南部やインドシナ半島に自生し、栽培されているクスノキ科の常緑高木ケイ(Cinnamomum cassia)の樹皮を肉桂といい、若枝は桂枝という。ケイは別名をシナ肉桂とかトンキン肉桂ともいう。学名をシナモム・カシアといい、英語ではカシアと呼ばれている。一般に欧米でシナモンといえば、主にセイロン肉桂のことを指す。
樹皮のうち、おもに樹齢10年以上のケイから採取したものが肉桂として用いられる。その外皮を去ったものを挂心という。現在、日本薬局方では桂枝としてのみ規定しているため、桂枝と肉桂の区別がされていない。
日本に流通している桂皮の多くは広南桂皮と呼ばれるもので、老木の枝や樹齢6~7年の比較的若くて薄い樹皮である。中国では特に樹齢30年以上の樹皮が肉桂として尊ばれている。一方、日本産の肉桂とは、日本の暖地で栽培されているクスノキ科の常緑高木ニッケイ(C.sieboldii)の根皮であり、かつて京都の八つ橋やニッキなどの菓子の原料や香料として用いられていたが、薬用としては用いられていない。
ケイの樹皮には芳香性の精油成分であるケイアルデヒドが含まれ、血行促進、鎮静・鎮痙、解熱、抗菌、利尿作用などが知られている。漢方では補陽・温裏・止痛・温通などの効能があり、体や手足の冷え、衰弱、腹痛、下痢、無月経、のぼせなどに用いる。また肉桂は「血脈を疎通する」とか「百薬を宣導する」といわれるが、これは肉桂の血行促進作用を表したものと考えられる。
肉桂と桂枝はいずれも温める作用があるが、肉桂は大熱で作用が強く、体内(裏)を温め、下って腎陽を補うのに対し、挂枝は温で体表を温めて発表し、おもに上行して経脈を通じるといわれる。このため桂枝は解表薬、肉桂は温裏薬に分類されている。