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金曜日, 11月 01, 2013

大蒜

○大蒜(たいさん)

 西アジア原産とされるユリ科の多年草ニンニク(Allium sativum)の鱗茎を用いる。ニンニクは前漢の時代に長騫がインド(西域)から中国に持ち帰ったものといわれ、かつては胡蒜とか葫といわれていた。日本にも古くから朝鮮を経由して伝来し、古事記や日本書紀などにも蒜の文字がみられる。

 独特の強い臭気を有し、香辛料ではガーリックとしてさまざまな料理に用いられている。ちなみに和名のニンニクは仏教語の忍辱と書き、強烈な臭いに耐え忍ぶことを意味するとか、僧侶の隠語などという説がある。

 臭気や辛味のある野菜のことを葷というが、ニラ、ヒル、ラッキョウ、ネギなどとともに五葷(五辛)のひとつとされ、仏教では食べることが禁じられている。その影響もあってか日本料理ではあまり利用されず、戦後になって洋風料理や中華料理などの普及とともに、身近な食品になった。

 古代エジプト時代、ピラミッド造成のときに人夫の体力回復に用いられたといわれ、ギリシャ時代には虫下し、咳止め、浮腫の治療に、また世界各地で疫病除け、悪霊除けにとしても扱われた。

 ニンニクの鱗茎にはイオウ化合物のアリイン、スコルニジンのほか、ビタミンB1、ゲルマニウムやセレンが含まれている特徴がある。アリインは無味無臭であるが、細胞が破壊されると同時に含まれているアリナーゼという酵素によって分解され、刺激性の強い臭気のあるアリシンが生じる。アリシンは強い殺菌防腐作用があり、さらにビタミンB1と容易に結合してアリチアミンという化合物を作る。

 アリチアミンは腸から容易に吸収され、ビタミンB1分解酵素によっても分解されず、ビタミンB1作用を有する安定な化合物である。このアリチアミンはとても苦く、臭気も強い。これをモデルとして化学的に合成したビタミンB1誘導体がアリナミンである。またスコルニジンといわれる無臭のニンニク有効成分結晶性物質も医薬品(オキソレジン)として応用されている。最近では、アリシンを加熱してできるアホエンに強い抗酸化作用や抗血小板凝集作用、記憶力向上作用のあることが注目されている。

 一方、ニンニクには食欲増進、健胃、整腸、緩下剤、体温上昇、疲労回復などの作用が知られている。ただしニンニクを空腹時に食べると、胃液の分泌が亢進して酸度が上昇し、胃を荒らす恐れがあり、さらに一度に多く食べると、赤血球を破壊して貧血を招くこともある。また、腸内細菌のバランスを崩し、ビタミンB6欠乏症を起こすことも指摘されている。

 漢方では健胃・駆虫・消腫の効能があり、食滞や腹痛、下痢、寄生虫症、皮膚化膿症などに用いる。ちなみに中国の本草書などでは大蒜に強壮作用があるという記述はみられない。一般に漢方処方として用いられることは余りなく、専ら民間療法として用いられている。

 民間では冷え性、低血圧、慢性疾患、寄生虫症、腰痛、風邪の予防などにニンニクを食べたり、扁桃炎や円形脱毛症、腫れ物、いんきんたむしなどにすりつぶした汁を塗布する。ニンニクを熱灰の中に埋めて蒸し焼きにするなどの加熱処理をすると食べやすくなる。

 そのほかニンニク酒や醤油漬け、蜂蜜漬けなども利用されている。またニンニクを厚さ2~3mmに薄くスライスし、その上からをすえるというニンニク灸もよく知られている。近年、アメリカ国立癌研究所では、癌や生活習慣病を予防する可能性がある食品のリストの上位にニンニクを位置づけている。