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金曜日, 9月 28, 2012

牽牛子

○牽牛子(けんごし)

 熱帯アジア原産とされるヒルガオ科のつる性一年草アサガオ(Pharbitis nil)の種子を用いる。熱帯アメリカ原産のマルバアサガオ(P.purpurea)の種子も用いられる。

 朝早く咲いて午前中にしぼむため朝顔という名があり、中国名の牽牛子とはひこ星のことである。日本では古くはキキョウやムクゲのことを朝顔と呼んでいたが、奈良時代にアサガオが薬用植物として渡来し、次第にこれを朝顔と呼ぶようになった。近世になって庶民の間にアサガオが普及し、文化・文政時代には栽培ブームが起こり、品種改良が盛んに行われた。

 牽牛子は種皮の色によって区別され、白いものを白丑、黒いものを黒丑という。両者の効能は変わらないが、古くは白種子を尊んだ。今日では黒種子のほうがよく用いられている。種子には樹脂配糖体類のファルビチンや脂肪油などが含まれ、熟していない種子にはジベレリンが含まれる。この主成分のファルビチンには強い瀉下作用があり、過量に服用すると水様便になる。このほか利尿作用や駆虫作用もある。

 漢方では逐水・下気・駆虫の効能があり、浮腫や腹水、喘息、痰飲、食滞、便秘などに用いる。とくに下半身の浮腫や尿閉証の治療に用いる。急性の浮腫や関節膨張には大黄と配合する(牛黄散)。腎性の浮腫には甘逐・芫花と配合する(舟車丸)。痰飲があり、咳嗽や呼吸困難のみられるときに葶藶子・杏仁などと配合する。食積があって膨満、腹痛があり、便秘のみられるときには檳榔子・木香などと配合する(木香檳榔丸)。ただし妊婦や虚弱体質者には用いない。

木曜日, 9月 27, 2012

芫花

○芫花(げんか)

 中国、台湾原産のジンチョウゲ科の落葉低木フジモドキ(Daphene genkwa)の花蕾を用いる。サツマフジとも呼ばれ、日本には江戸時代初期に渡来し、庭や公園など植栽され、九州では野生化している。春に淡青紫色の小さな花を咲かせる。

 花にはゲカニンやアピゲニン、刺激性の脂状物質が含まれ、利尿作用があり、また毒性がある。芫花は神農本草経の下品に収載され、古くから逐水薬として知られていた。ただし毒性が強いため、数年間貯蔵したものや酢酸で加工した醋芫花がよいといわれている。

 漢方では瀉下と利尿作用を兼有する逐水の効能があり、浮腫や腹水、胸水、喘息などに用いる。効能は甘逐・大戟とほぼ同じであるが、逐水作用は甘遂より弱い。とくに上半身の胸水や喘息、咳嗽に適している。

 肋膜炎などによる胸水や肝不全の腹水などに甘逐・大戟などと配合する(十棗湯)。浮腫や腹水などがあり、大小便が出ないときには牽牛子・甘遂・大戟などと配合する(舟車丸)。

 近年、中国では日本住血吸虫による腹水や急性肝炎にも応用している。また精神病に対しての報告もある。ただし瀉下作用が強く有毒であるため、比較的体力のある場合に短期間のみ使用する。

火曜日, 9月 25, 2012

血余炭

○血余炭(けつよたん)

 ヒトの頭髪の毛を黒焼きにして炭にしたものを用いる。集めた髪の毛を鍋の中に入れて密封し、とろ火で焼いて、冷めるのを待って取り出す。色は真っ黒色で光沢があり、非常に軽くて脆い。

 成分には高タンパク質、配分中にはカルシウム、ナトリウム、カリウム、亜鉛、銅、鉄、マンガン、ヒ素などの金属が微量含まれれている。血余とは髪の毛のことで、本草綱目に髪は血のあまりであるから血の疾病を治すとある。

 漢方では収斂・止血の効能があり、吐血、鼻血、歯茎の出血、下血、血尿、不正性器出血などに用いる。一般に粉末にして内服するが、患部にすり込む用法もある。その他、血余炭には利水作用もあり、金匱要略には黄疸に対して豚脂と配合した猪膏髪煎、また排尿障害に対して滑石・白魚を配合した滑石白魚散が記されている。

月曜日, 9月 24, 2012

決明子

○決明子(けつめいし)

 熱帯地方に分布するマメ科の低木性植物コエビスグサ(Cassia tora)およびエビスグサ(C.ovtusifolia)の種子を決明子という。

 日本でおもに栽培されている決明子は北米原産のエビスグサである。しかし中国でいう決明子は熱帯アジア原産のコエビスグサの種子で、日本では沖縄県でしか栽培できない。エビスグサは外国の草という意味であり、決明とは目を明らかにするということである。アワビを石決明というのに対して草決明とも呼ばれている。

 決明子の飲料は中国では決明子茶として、日本ではハブ茶としてよく親しまれている。ハブチャは本来、ハブソウ(生薬名:望江南)のお茶という名前であるが、今日では決明子が用いられている。

 種子の成分はアントラキノン誘導体のエモジンやアロエエモジン、クリソファノールなどが含まれ、降圧作用、利尿作用、コレステロール低下作用、緩下作用などが報告されている。漢方では明目・利水・通便の効能があり、目の充血や痛み、視力障害、夜盲症、高血圧、肝炎、肝硬変、腹水、便秘などに用いる。

 とくに眼科疾患の常用薬であり、たとえば角膜炎、結膜炎などによる目の充血や疼痛、羞明に菊花・蔓荊子などと配合する(洗肝明目湯)。二重に見えたり、目がかすむときには石斛・人参などと配合する(石斛夜光丸)。また高血圧に伴う眩暈や頭痛には竜胆・黄芩・夏枯草などと配合する。

 さらに習慣性便秘には単独あるいは麻子仁・郁李仁などと配合する。ハブ茶は便秘症や高血圧症、高脂血症などに効果があるが、下痢がちの人や低血圧の人は飲まないほうがよい。

土曜日, 9月 22, 2012

血竭

血竭(けっけつ)

 スマトラやボルネオ、マレー半島などに産するヤシ科の常緑つる性本木キリンケツヤシ(Daemonorops draco)、または同属植物の果実表面の鱗片間および樹幹から分泌する紅色の樹脂を用いる。別名を麒麟血といい、英語でもdragon's bloodというが、これらは乾燥した樹脂が赤く、未知の動物の血塊と考えられたことによる。

 薬材は赤褐色あるいは茶褐色をした定形の塊で、断面はガラス状の光沢がある。表面が鉄のように黒く、粉末が血のように赤く、燃やすと鼻をつくものが良質といわれている。生薬以外に家具用ニスの原料、紅色の着色料や染料などとしても利用されている。

 おもな成分はエステルとドラコレジノタンノールの混合物である。漢方では止血・活血の効能があり、捻挫、打撲傷、出血、瘀血による痛み、潰瘍などに用いる。一般に散薬、丸薬にして用いる。打撲傷によるうっ血などで痛むときに内服すれば瘀血を除き痛みが止まる。外用すれば傷口を収斂し、化膿を防止し、肉芽を促進する(生肌散)。日本ではあまり薬用に利用されていない。

 ちなみに西洋で一般にdragon's blood tree(竜血樹)と呼ばれているのは、Dracaena dracoやD.cinnabariなどのリュウゼツラン科の植物であり、それらから採取される赤い樹脂も古代ローマ時代から鎮痛や止血のための薬品として利用されていた。

木曜日, 9月 20, 2012

月桂樹

○月桂樹(げっけいじゅ)

 地中海を原産とするクスノキ科の常緑高木ゲッケイジュ(Laurus nobilis)の葉や果実を用いる。葉を月桂葉、果実を月桂実ともいう。

 月桂樹は1905年頃にフランスから日本へ渡来した新しい輸入植物であり、日露戦争の戦勝記念樹としても有名である。月桂樹は英語名でローレルとか、ベイトゥリー(Bay Tree)と呼ばれ、香辛料としてもローレルとかローリエ、ベイリーフなどと呼ばれている。

 ギリシャ神話の中で月桂樹はダフネの化身と伝えられ、また古代ギリシャでは葉の冠、月桂冠を勝利の象徴としてオリンピックの勝者の頭に飾った。ローマ時代には万能薬とされ、病人が出ると戸口にこの枝を下げたと伝えられている。また葉はヒステリーに、果実は堕胎薬として用いられたという。

 葉には芳香と苦味があり、単独であるいは他のハーブとともブーケ・ガルニとして魚や肉の煮込み料理に用いられる。葉には精油が1~3%含まれ、主成分はシネオール、オイゲノール、ゲラニオールなどである。芳香性の苦味健胃薬や駆風薬、去痰薬、利尿薬として知られている。また民間では実や葉の煎液などを、神経痛やリウマチの治療薬として用いている。また浴湯料やポプリ、不眠症のハーブピローなどにも利用している。

水曜日, 9月 19, 2012

月季花

○月季花(げっきか)

 中国原産で中国の西部に分布しているバラ科の常緑低木コウシンバラ(Rosa chinensis)の花蕾や開きかけた花を用いる。紅紫色や淡紅色の花が四季を通して咲くためコウシン(庚申)バラの名がある。

 花にはローズ油と同じ成分が含まれ、よい香りがある。漢方では活血・調経・消腫の効能があり、月経不順や生理痛、打撲傷、腫れ物、瘰癧(頸部リンパ腺腫などに用いる。月経不順や胸腹が張って痛むときには丹参、益母草・当帰などと配合する。腫れ物や打撲には新鮮は花や葉をすりつぶしたものを塗布する。

火曜日, 9月 18, 2012

軽粉

○軽粉(けいふん)

 粗製塩化第一水銀の結晶を軽粉という。化学名を甘汞(Hg2Cl2またはHgCl)という。軽粉をさらに生成すると粉霜になる。

 水銀と胆礬(硫酸銅)や白礬(硫酸アルミニウム・カリウム)、さらに食塩(塩化ナトリウム)を混合して過熱すると、蒸発した蒸気から昇華して上蓋に白い粉が付着する。これが軽粉である。

 古代から化粧用の白粉としても使われた。日本でも伊勢白粉という軽粉がよく知られていた。これ軽粉は江戸時代には駆梅の聖薬としても盛んに利用されていた。軽粉の毒性は低いとされているが、日光により有毒の塩化第二水銀(昇汞)や金属水銀に変化し、色も黒くなる。

 甘汞はかつて西洋医学でも水銀利尿剤、あるいは緩下剤、防腐剤として用いられていた。漢方では駆梅・逐水・消腫の効能があり、内服および外用薬として用いる。

 内服では排便、排尿を促進する全身性の浮腫や腹水、便秘、梅毒などの症状に用いる。全身の浮腫で便秘を伴うときには大黄・牽牛子・甘逐・大戟などと配合する(舟車丸)。梅毒による筋肉痛、関節痛には牛膝・土茯苓と配合する(七宝丹)。梅毒が進行して関節の屈伸ができないときには黄連解毒湯と配合する(甘汞丸)。

月曜日, 9月 17, 2012

桂皮

○桂皮(けいひ)

 中国南部やインドシナ半島に自生し、栽培されているクスノキ科の常緑高木ケイ(Cinnamomum cassia)の樹皮を桂皮という。

 桂皮は薬料、香料として古くから世界各地で用いられ、神農本草経をはじめエジプトのエーベルス・パピルス、インドのチャラカ本草、ギリシャのマテリア・メディカなどにも記載がみられる。古代エジプトでは没薬などの香薬とともにミイラを作るときに用いられていた。

 現在、日本にはおもに中国から1600トンあまりの桂皮が輸入されているが、薬用とされるのは約15%程度で、大部分は香辛料としてソースなどの原料に用いられている。

 日本では漢方生薬として桂皮と呼ばずに、桂枝と肉桂とを区別として用いている。日本薬局方では桂皮としてのみ規定し、老木の枝や樹齢6~7年の比較的若く、樹皮の薄いものが用いられている。中国ではおもに樹齢10年以上のケイの樹皮を肉桂、柔らかい 枝を桂枝として称しているため、日本でいう桂皮は桂枝ではなく、どちらかというと肉桂に準じるものである。日本市場には桂枝も流通しているので、桂枝を用いる場合には桂枝と指定すればよい。

 日本市場の桂枝はおもに広南桂皮やベトナム桂皮(安南桂皮)であり、市場での桂皮は幹皮の最外層が削り落とされ、管状あるいは半管状になっている。桂枝は製油を1~3.5%含み、その成分のほとんどは芳香性のケイアルデヒドである。そのほかジテルペノイド類や各種タンニンが含まれている。

 ケイアルデヒドには解熱、鎮静・鎮痙、抹消血管拡張、抗菌作用などが認められ、また水製エキスには抗アレルギー、利尿、抗血栓作用などが報告されている。中国医学では体表を温める桂枝は解表薬、体内を温める肉桂は温裏薬に分類され、区別されている。

 日本漢方では桂皮を桂枝と肉桂のいずれの場合にも応用し、両者の効能を合わせたものとして認識しているため、効能に関しては各項目に譲る。また注意事項として、桂枝を含む医療用の漢方製剤には薬物アレルギー(薬疹)に注意するよう指示されている。

金曜日, 9月 14, 2012

鶏内金

○鶏内金(けいないきん)

 キジ科ニワトリの胃である砂囊の内膜を用いる。砂囊を取り出してまだ温かいうちに内膜を剥ぎ取って水洗いし、乾燥する。

 養鶏は朝鮮を経て弥生時代に日本に伝わり、紀元前300年よりも以前に飼われていたと推定されている。最初は闘鶏や観賞用として雄鶏が珍重され、祭礼などに用いられていた。ちなみに日本で鶏卵や鶏肉が一般に食べられるようになったのは明治以降である。

 薬としては鶏肉や鶏肝などさまざまな部分が用いられ、砂囊にはホルモンのベントリクリン、ケラチン、ビタミンB1・B2、ナイアシン、ビタミンCなどが含まれ、内服により胃液の分泌量や酸度の増加が認められている。

 漢方では消食積・止瀉・縮尿・化結石の効能があり、消化不良や腹部膨満感、悪心、嘔吐、下痢、夜尿、遣尿、胆石、尿路結石などに用いる。消化不良には単独あるいは山査子・神麹・麦芽などと配合する。胆石症には茵蔯蒿・金銭草などと配合する(胆道一号方)。

木曜日, 9月 13, 2012

景天三七

○景天三七(けいてんさんしち)

 日本全土、東アジアからシベリアにかけて分布するベンケイソウ科の多年草ホソバノキリンソウ(Sedum aizoom)の全草を用いる。根は景天三七根という。

 全草にはアルカロイドやフラボノイドなどが含まれ、凝血時間や出血時間の短縮する作用がある。漢方では止血・化瘀の効能があり、吐血や鼻血、下血、血尿、性器出血、打撲傷などに用いる。また動悸や煩躁、不眠にも用いる。外傷性の出血や火傷には生の全草から搾った汁を塗布する。

水曜日, 9月 12, 2012

景天

○景天(けいてん)

 中国原産で、日本にも古くに渡来して本州や九州などにも野生化しているベンケイソウ科の多年草ベンケイソウ(Sedum erythrostictum)の全草を用いる。根を抜いても容易に枯れない強さがあり、不死身といわれた弁慶にたとえてベンケイソウという。日光地方では戸口に吊り下げて魔よけにし、イキグサ(生草)とも呼ばれている。

 葉は肉質であり、糖質のセドヘプツロース、フルクトース、ショ糖などが含まれる。漢方では清熱解毒・止血の効能があり、腫れ物や丹毒、吐血、下血、創傷などに用いる。

 日本の民間では肉厚の葉をあぶって表面の薄皮を除き、肉面を腫れ物に貼り、膿を吸い出す。チドメグサともいわれ、傷口に葉を揉んでつけたり、薄皮を剥いで貼る。ハチ刺されにも葉の絞り汁を塗る。日本で観賞用に栽培されているオオベンケイソウ(S.spectabile)は大正時代に日本に渡来したものであるが、同様に用いられる。

火曜日, 9月 11, 2012

鶏屎白

○鶏屎白(けいしはく)

 キジ科ニワトリの糞の白い部分を用いる。糞の白い部分を日干しした後、白酒を加えながらとろ火であぶって乾燥し、それをすって粉末にする。一般に雄鶏の分がよいとされている。

 鶏屎白は黄帝内経素門にも鶏矢として記載されているくらいに古くから用いられていた薬物である。漢方では利水消種・解毒・止痙の効能があり、腹水、浮腫、黄疸、尿路結石、関節炎、筋肉の痙攣、痛風などに用いる。

 金匱要略ではこむら返りや四肢の硬直に鶏屎白を粉末にして単独で服用する(鶏屎白散)。またスズメの糞も白丁香と呼ばれ、腹部の腫瘤、虫歯、目の混濁(目翳)などの治療に用いられる。日本では江戸時代からウグイスの糞が美顔料として親しまれている。

月曜日, 9月 10, 2012

鶏子白

○鶏子白(けいしはく)

 キジ科ニワトリの卵の白身を用いる。卵殻膜は鳳凰衣という。鶏卵の約65%は白身であり、白身は粘性の違う外水様卵白、濃厚卵白、内水様卵白からできている。そのタンパク質はオボアルブミン(75%)、オボムコイド、オホムチン、コンアルブミン、リゾチームなどでほとんど全てのアミノ酸が含まれている。

 卵白は糖質や脂肪が少ない高タンパク低カロリー食品で、生よりも加熱凝固させたほ方が消化吸収がよい。リゾチームは鶏卵から発見された溶菌作用のある酵素の一つで、生物界に広く分布しているが卵白中に多く含まれるため、現在全てのリゾチームの生産は卵白から行われている。

 リゾチームはソーセージカマボコなどの保存料や清酒の変敗の予防などに用いられるほか、医薬品にも利用される。リゾチーム塩化物には抗菌作用のほか、痰や膿の分解、出血抑制、組織修復、消炎などの作用があり、消炎酵素剤として風邪薬や皮膚疾患、歯槽膿漏などの外用薬に配合されている。

 漢方では清熱解毒・潤肺・利咽の効能があり、咽頭の炎症や嗄声、咳嗽、結膜炎、下痢、火傷、腫れ物などに用いる。口内炎に炎症があり、声が出ないときには半夏・苦酒などと配合する(半夏苦酒湯)。

 火傷や皮膚炎、子宮頸部のびらんなどには新鮮な卵白で外用する。日本の民間療法で鶏卵はひょう疽の治療に有名で、生卵の一端に指の入るだけの穴を開け、その中にひょう疽になった指を40~50分入れると痛みが緩和する。生卵に砂糖や蜂蜜を加えてかき混ぜたところに、やや熱くお燗した日本酒を少しずつ入れとろりとさせた卵酒も、よく知られた風邪の民間療法である。なお鳳凰衣には補陰・止咳の効能があり、慢性的な咳嗽、咽痛、嗄声、口内炎などに用いる。

土曜日, 9月 08, 2012

鶏子黄

○鶏子黄(けいしおう)

 キジ科ニワトリの卵の黄身を用いる。白身を鶏子白、卵殻を鶏子殻、卵殻膜を鳳凰衣といい薬用にする。卵黄は約15%のタンパク質と約30%の脂肪分を含み、糖質は0.2%と少ない。卵黄タンパク質の大部分はリポビテリン、リポビテレニンなどのリポタンパク質であり、リポタンパク質と結合している脂質の大部分はレシチンを主とするリン脂質である。

 卵黄のタンパク質のアミノ酸組成はイソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニンなどの必須アミノ酸をはじめ、ほとんど全てのアミノ酸が含まれている。また脂溶性ビタミンA・D・Eのほか、ビタミンB1・B2、ナイアシン、パントテン酸、葉酸、鉄、リン、カルシウムなども含まれる。

 黄色の色素はカロテノイド系のカロチンとキサントフィルである。レシチンは痔や湿疹、あせも、あかぎれなどの外用薬、また静脈用脂肪乳化剤として用いられるほか、肝硬変の予防やアルツハイマー病の治療にも効果があると報告されている。化粧品としても乳液、口紅、クリーム、ポマード、シェービングクリームなどに配合されている。また卵黄にはコレステロールが含まれているが、レシチンには血中コレステロールを減らす作用もある。

 漢方では補陰・補血・止痙の効能があり、煩悶、不眠、熱病による痙攣や意識障害、吐血、下痢、下血、火傷、湿疹などに用いる。胸部に熱がこもって苦しく、眠れないときには黄連・黄芩などと配合する(黄連阿膠湯)。熱病による痙攣や脱水症状には阿膠・牡蠣などと配合する(大定風珠)。また金匱要略には腫れ物に排膿散を用いるときに枳実・桔梗・芍薬の散剤を鶏子黄で飲み下すとある。

 また、卵黄をフライパンに入れて弱火で長時間炒ると黒く粘り気のある油が得られる。この卵黄油は古くから日本の民間療法として心臓病、白髪、腰痛などに用いられている。

金曜日, 9月 07, 2012

桂枝

○桂枝(けいし)

 中国南部やインドシナ半島に自生し、栽培されているクスノキ科の常緑高木ケイ(Cinnamomum cassia)の若枝を桂枝という。ケイは学名をシナモム・カシアといい、カシア(シナ肉桂)とも呼ばれている。

 一般にケイのことをシナモンと総称するが、欧米でシナモンといえばおもにセイロンケイヒ(C.zeylanicum)のことである。いずれも香料として用いられるが、辛味はカシアがシナモンよりも強く、甘味はシナモンのほうが強い。このため香辛料としてはシナモン、漢方生薬としてカシアが利用される。

 日本や局方では桂枝としてのみ規定しているため、日本漢方ではあまり桂枝と肉桂の区別を厳密にしないが、日本薬局方解説書では直径1cm以下の皮を帯びた細枝を桂枝として記載している。中国ではその年に芽吹いた若い嫩枝を桂枝といい、樹齢10年以上の樹皮を肉桂と称している。張仲景の傷寒論や金匱要略の処方では全て桂枝とあり、この桂枝が細い若枝のことかどうかは疑問視されている。

 桂枝には芳香性の精油成分であるケイアルデヒドが含まれ、血行促進、鎮静・鎮痙、解熱、抗菌、利尿などの作用が報告されている。ただし、ケイアルデヒドは時に皮膚アレルギーを起こすことがある。

 桂枝は漢方では発汗・止痛・温通・利水などの効能があり、感冒、筋肉痛、関節痛、血行障害、月経異常などに用いる。また薬徴には「主に衝逆を治す」とあり、のぼせを鎮めるために用いられる。とくに張仲景の処方の多くに桂枝が配合され、幅広く応用されている。

 中国医学では桂枝と肉桂を対比して、体表を温める桂枝は解表薬、体内を温める肉桂は温裏薬に分類している。このため中国では一般に八味地黄丸の桂枝を肉桂に代えて用いる(附桂八味丸)。

木曜日, 9月 06, 2012

鶏骨草

○鶏骨草(けいこつそう)

 東南アジアからマレーシアにかけて分布しているマメ科のつる性木本シロトウアズキ(Abrus fruticulosus)の根つきの全草を用いる。鶏骨草は中国の広東・広西省で用いられていた民間薬である。

 成分にはアブリン、コリン、ステロイド、フラボノイドが含まれ、抗炎症作用や赤血球溶解抑制作用が報告されている。漢方では清熱解毒・退黄・活血の効能があり、黄疸、肝炎、胃痛、化膿性乳腺炎、瘰癧(頸部リンパ腺腫)、打撲傷などに用いる。

 民間では生の搾り汁を乳腺化膿症や蛇咬傷などの外用薬として、また煎じて黄疸や打撲傷、関節痛の内服薬として用いている。近年、中国では急性肝炎の特効薬(鶏骨草丸)として注目されているが、慢性肝炎に対してはあまり効果がないという報告もある。黄疸の治療には鶏骨草に紅棗を配合して服用する。

水曜日, 9月 05, 2012

鶏血藤

○鶏血藤(けいけっとう)

 中国の南部、台湾に分布し、沖縄県で観賞用として栽培されるマメ科のつる性植物ムラサキナツフジ(Millettia reticulata)などのつる茎を用いる。

 この鶏血藤と呼ばれる生薬は広東・広西・甘粛省ではムラサキナツフジ、広東・広西・雲南省では蜜花豆(Spatholobus suberectus)、広東・広西・雲南省では白花油麻藤(Mucuna birdwoodiana)、江西、四川省では香花岩豆藤(Millettia dielsiana)などの植物が用いられている。特にムラサキナツフジの茎は昆明鶏血藤と呼ばれ、香花岩豆藤は豊城鶏血藤と呼ばれている。

 このように鶏血藤の基原植物はさまざまであるが、切ると赤い汁が出ることからその名がある。それぞれの成分は不詳であるが、動物実験では昆明鶏血藤に子宮収縮作用、豊城鶏血藤に消炎作用や鎮静・催眠作用、蜜花豆に心臓抑制作用などが報告されている。

 漢方では補血・行血・舒筋活絡の効能があり、月経異常や生理痛、麻痺、関節痛、打撲痛などに用いる。月経不順や無月経には四物湯・八珍湯などと、生理痛には川芎・延胡索・香附子などと、リウマチなどによる関節や筋肉の痛み、痺れには羌活・独活などと、脳卒中による麻痺には桃仁・紅花などと配合する。

 近年、中国では再生不良性貧血や放射線治療による白血球減少などにも応用されている。鶏血藤を煎じつめて濃縮し固めたものを鶏血藤膠という。効能はほぼ同じであるが、鶏血藤よりも滋養作用や止痛作用が優れている。これを製剤化したものが鶏血藤浸膏片という名で販売されている。ただし、有名な雲南省凰慶の鶏血藤膏はマツブサ科の南五味子などを主薬とした複合剤である。

月曜日, 9月 03, 2012

鶏冠花

○鶏冠花(けいかんか)

 熱帯アジア、インドを原産とするヒユ科の一年草ケイトウ(Celosia cristata)の花序を用いる。ただし一般に流通しているのはノゲイトウ(C.argentea)の花穂である。本来、ノゲイトウの花は青葙花、種子は青葙子というが、混同されることが多い。一方、ケイトウの種子である鶏冠子もしばしば青葙子として扱われている。

 花の色が赤く雄鶏のとさかに似ていることから鶏頭とか鶏冠という名がある。ただし花の色には紅色、桃色、黄色などがあり、薬用には白鶏冠花が最もよいとされている。花の成分にはアルカロイドやトリテルペノイドが含まれるといわれるが、詳細は不明である。

 漢方では収渋薬として止血・止瀉・止帯などの効能があり、痔、下血、吐血、血痰、血尿、血性帯下などさまざまな出血に対して用いる。下血には・地楡・塊花、痔には防風炭・黄芩炭、性器出血には血余炭・棕櫚炭・烏賊骨などと配合する。

 赤白痢や難治性の下痢には椿根皮・石榴皮などと配合する。また帯下には烏賊骨・芡実などと配合する。凍瘡には煎液で患部を洗う方法もある。

土曜日, 9月 01, 2012

鶏肝

○鶏肝(けいかん)

 キジ科のニワトリの肝臓を用いる。紀元前3200年頃にマレー半島でニワトリの野生種を飼育して家畜化したのが養鶏の始まりで、前1400年頃に中国に伝わり、日本には弥生時代に青銅器文化とともに朝鮮から伝えられたといわれている。

 ニワトリはさまざまな部位が薬用にされ、肉は鶏肉、砂囊の内壁は鶏内金、糞便の白い部分は鶏屎白と呼ばれている。肝臓にはタンパク質、脂肪、炭水化物、カルシウム、リン、鉄、ビタミンA・B1・B2、ニコチン酸、ビタミンCなどが含まれている。

 漢方では肝臓を補う効能があり、視力の低下や栄養障害、妊娠中の出血などに用いる。鶏肝をゆでた後に乾燥し、山薬の粉末を加えて細末にしたものを丸薬として虚弱体質や夜盲症の治療に用いる(鶏肝丸)。また中国の民間療法では百日咳の治療に鶏肝など家禽の肝が用いられている(百日咳片)。日本でも百日咳やマイコプラズマ肺炎による咳嗽に効果があったことが報告されている。