○黒焼き
日本の伝統的な修治法のひとつで、空気を絶った状態で生薬を加熱し、黒色の粉末にしたものをいう。黒焼きは室町時代に中国から伝えられた加工法であるが、江戸時代に独自に発展し、漢方だけでなく民間療法として多く用いられた。
一般に生薬を素焼きの土器に入れて粘土で密閉し、窯の中に入れて蒸し焼きにする。単に炭化させるのではなく、薫製化したものであり、焼いて性を存すというように有効成分を残している。植物や昆虫は3~4時間、動物は4~5時間くらい加熱し、温度は400℃ぐらいが適当といわれている。
普通は灰黒色で光沢があり、窒素やリンなどの有機化合物が含まれる。しばしば「~霜」と呼んでいるが、「~霜」は必ずしも黒焼きを意味するものではない。日本の民間薬としてよく知られているものにモグラの黒焼き(土竜霜)、シカの角の黒焼き(鹿角霜)、マムシの黒焼き、フナの黒焼き、ナスの蔕の黒焼き、髪の毛の黒焼き(血余霜)、サルの頭の黒焼き(猿頭霜)にどがある。
伯耆の国(現在の島根県)の民間薬として有名な伯州散は津蟹、反鼻、鹿角の黒焼きを配合したもので、化膿性疾患の排膿促進や肉芽形成の効能がある。一方、中国では空気を遮断せずに黒焼きにすることを妙炭といい、しばしは収斂止血の効能を増強する目的で行われる。例えば荊芥(荊芥炭)、山梔子(山梔炭)、乾姜(炮姜)、蒲黄、大薊、小薊、地楡、血余炭、陳棕炭などがある。