○蒺藜子(しつりし)
世界各地の温帯から熱帯にかけて広く分布するハマビシ科の一年草ハマビシ(Tribulus terrestris)の果実を用いる。一般に海辺の砂浜に自生し、果実が菱の実に似ているためハマビシ(浜菱)の名がある。
古来、蒺藜と呼ばれる生薬には蒺藜子とは別に潼蒺藜がある。潼蒺藜というのはマメ科のツルゲンゲの種子のことで、今日では沙苑子と呼ばれている。さらにアカザ科のハマアカザ(Atiplex sibirica)の果実のことを軟蒺藜というのに対し、ハマビシの果実は硬くて刺のある五角形をしているため、硬蒺藜とか刺蒺藜と呼ぶこともある。生薬には一般にハマビシの未成熟果実を用いる。
ハマビシの果実にはケンフェロールなどのフラボノイド、種子にはハルミンなどのアルカロイドが含まれ、鎮痙作用、降圧作用、利尿作用が知られている。漢方では平肝・明目・止痒の効能があり、肝陽上亢に伴うめまいや頭暈、眼科疾患、皮膚搔痒感、腹痛などに用いる。またインドの民間では利尿薬として用いている。
一方、ヨーロッパではハマビシ(トリビュラス)の全草が、古くから強壮薬、筋肉増強剤として利用されていた。トリビュラスに含まれているサポニンは脳下垂体から黄体ホルモンの分泌を刺激し、男性ではテストステロンの分泌を促進して精子の量や運動性を高めるとともに、性機能の低下を改善し、女性ではプロゲステロンの分泌を促進し、月経前緊張症や更年期障害などを緩和すると説明されている。テストステロンにはタンパク同化作用があり、最近でもスポーツ選手の筋肉増強に応用されている。