スポンサーリンク

金曜日, 5月 31, 2013

女貞子

女貞子(じょていし)

 中国原産で、日本でも公園樹としてよく植えられているモクセイ科の常緑小高木トウネズミモチ(Ligustrum lucidum)の果実を用いる。日本の関東南部から沖縄県、朝鮮半島、台湾などに分布するネズミモチ(L.japonicum)の果実も女貞子として用いられる。

 トウネズミモチは樹高10mに達し、ネズミモチよりも大きい。果実が紫黒色でネズミの糞に似ており、木がモチノキに似ているためネズミモチという和名があり、冬でも葉が青い様子を貞女になぞられて女貞と名づけられた。

 ネズミモチやトウネズミモチは公害や病虫害に強く、生け垣や高速道路の分離帯、都市の公園樹として利用されている。またトウネズミモチはイボタノキと同様にイボタロウカイガラムシがつき、中国では虫白蠟を採取するためにも栽培されている。戦争中に果実を焦がしてコーヒー豆の代用にしたという話もある。

 果実にはオレアノール酸、ウルソール酸、マンニトールなどが含まれる。オレアノール酸には強心・利尿作用が知られている。漢方では肝や腎を補い、腰や膝を強める作用があり、滋養薬として足腰の筋力低下、頭暈、白髪、視力低下、かすみ目などに用いる。

 倦怠感や足腰の衰え、目まい、不眠などには人参・地黄などと配合する(滋補片)。焼酎に漬けた女貞子酒も滋養強壮の薬用酒として知られている。葉の女貞葉は消炎・鎮痛の作用があり、民間療法では生の葉を火であぶって柔らかくしたものを腫れ物に貼付したり、浴湯料として皮膚疾患に用いるほか、口内炎や火傷などの外用薬としても用いる。

 近年、リンパ球の増殖を促し、放射線や抗癌剤治療による白血球減少を抑制する効果があると伝えられている。

木曜日, 5月 30, 2013

徐長卿

○徐長卿(じょちょうけい)

 日本各地及び東南アジアの温帯に分布するガガイモ科の多年草スズサイコ(Cynanchum paniculatum)の根及び根の付いた全草を用いる。全草にはペオノール、サイコスチン、根にはペオノール、フラボノイド配糖体、アミノ酸などが含まれ、鎮静、降圧、抗菌作用などが報告されている。

 漢方では去風湿・止痛・利水消種の効能があり、リウマチなどの関節痛、胃痛、歯痛、生理痛、気管支炎、蛇咬傷、浮腫などに内服薬として用いる。また単独で粉末にしたものを乗り物酔いに服用する。そのほか皮膚掻痒症には煎剤で患部を洗うとよい。民間では打撲、捻挫に生のスズサイコの汁を用いている。

火曜日, 5月 28, 2013

徐虫菊

○徐虫菊(じょうちゅうぎく)

 バルカン半島、ダルマチア地方原産のキク科の多年草ジョチュウギク(chrysanthemum cinerariaefolium)の頭状花を用いる。日本には明治初期に渡来し、北海道、岡山、広島、愛媛などで栽培され、戦前には世界第一の生産量をあげ、近年では瀬戸内海地方にわずかに栽培されているに過ぎない。現在、ケニア高地で優良種が生産され、世界一の産地となっている。

 古くから頭花を摘みとり、乾燥したものはノミ取り粉、茎や葉はいぶして蚊やりとして用いられた。殺虫成分はピレトリン(ピレスロイド)で、九分咲きから満開の頭花に最も多く含まれる。

 ピレスロイドは即効性の接触毒であり、昆虫の気門や口から吸収されて運動神経を麻痺させて殺す。ピレスロイドは昆虫のほか、魚類や両生類、爬虫類などにも毒性があるが、温血動物には無害である。またDDTやBHCなどと異なり、容易に分解して失効する。現在でも植物性殺虫剤の原料として蚊取り線香、エアゾール、農業用殺虫剤などに利用されている。

月曜日, 5月 27, 2013

蜀漆

○蜀漆(しょくしつ)

 東南アジアやインド、中国の南部に自生するユキノシタ科の常緑低木ジョウザンアジサイ(Dichroa febrifuga)の若い枝の葉を用いる。根は常山として有名である。

 効能は常山とほぼ同じで抗瘧の効能があり、マラリアに用いる。傷寒論、金匱要略には蜀漆散・牡蠣湯・桂枝救逆湯・牡蠣沢瀉散など蜀漆を配合した4つの処方が収載されている。蜀漆散はマラリアの発作の前に用いる。

 肝硬変などで腹水が溜っているときには牡蠣・沢瀉などと配合した牡蠣沢瀉湯を、火傷のあとの動悸や煩躁、ヒステリーや癲癇などには桂枝加竜骨牡蠣湯に蜀漆を加えた桂枝去芍薬加蜀漆竜骨牡蠣救逆湯を用いる。

 薬徴続篇に「胸腹の動には牡蠣で治し、臍下の動には竜骨で治し、胸腹臍下の動の劇しい場合には蜀漆で治す。これが張仲景の三活法である」とある。ただし、蜀漆は催吐作用は常山よりも強いので、近年はあまり用いられていない。

金曜日, 5月 24, 2013

食塩

○食塩(しょくえん)

 海水あるいは塩井などの塩分を含んだ水を乾燥して得られる塩の結晶を用いる。中国において海水からの製塩は有史以前から、特に沿岸地区で行われていた。古くからの製塩法には太陽熱を利用した天日塩製法や加熱製塩法などがある。

 春秋時代、斉の国では管仲の案により海塩の専売を行い、大規模な製塩業を興して富強になったと伝えられている。日本では万葉集に「藻塩焼く」と謳われているように、古くは海藻に海水を注ぎ、それを焼いて塩をとる方法が行われていた。また中世からは塩田法も発達し、瀬戸内海地域で盛んに行われた。

 主成分は塩化ナトリウムで、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、硫酸ナトリウムなども夾雑する。漢方では寒・鹸で、催吐・清熱・解毒の効能がある。食べたものが停滞しているときや、急性胃炎などで吐き気があっても嘔吐しないときには食塩を熱湯に溶かして服用させ、嘔吐させる(塩湯探吐方)。

水曜日, 5月 22, 2013

商陸

○商陸(しょうりく)

 中国を原産とし日本でも野生化しているヤマゴボウ科の大型多年草ヤマゴボウ(Phytolacca esculenta)の根を用いる。ヨウシュヤマゴボウ(P.americana)のほうがよく見られるが、この根は美商陸という。

 ヤマゴボウの葉は食用にされるが、多量に食べないほうがよい。漬け物で「やまごぼう(山牛蒡)」と称されているものは、キク科のモリアザミなどの根を漬けたもので、ヤマゴボウとはまったく別の植物である。

 根には多量の硝酸カリウムや有毒な配糖体のフィトラッカトキシン(フィトラッカサポニン)が含まれる。硝酸カリウムには利尿作用があり、古くから利尿薬として利用されてきた。しかし、有毒成分のフィトラッカトキシンのため、食べると嘔吐や下痢が出現し、さらには中枢神経麻痺から痙攣、意識障害が生じ、ひどければ呼吸障害や心臓麻痺により死亡することもある。

 漢方では逐遂・消種の効能があり、水腫、腹水、脚気、腫れ物などに用いる。逐水とは瀉下と利尿作用で腹水や胸水、浮腫などを治療することである。

 全身性浮腫を伴う喘息症状には木通・沢瀉などと配合する(疏鑿飲子)。肝硬変などによる腹水に牡蠣・沢瀉などと配合する(牡蠣沢瀉散)。ただし毒性が強いため、慎重に投与する必要がある。

 外用として新鮮な商陸に塩を加えてつきつぶしたものを頑固な腫れ物に用いる。アメリカではヨウシュヤマゴボウの根を扁桃炎や耳下腺炎、乳腺炎、水腫などの治療に用いていたといわれる。

火曜日, 5月 21, 2013

松籮

○松籮(しょうら)

 日本各地や東アジアに分布する樹枝状地衣類であるサルオガセ科のナガサルオガセ(Usnea longissima)やヨコワサルオガセ(U.diffracta)の全体(糸状体)を用いる。この地衣植物は亜高山の針葉樹などに寄生し、枝からレースのように垂れ下がっている。

 ナガサルオガセは主軸の直径1~2mm、長さ50cm~1mくらいで、ヨコワサルオガセは2分岐を繰り返して次第に細くなるもので、長さは10~30cm、基部の太さは1~1.5mmくらいである。

 オガセとは麻をよって糸にしたものを絡ませる道具で、樹の幹から多くの糸が垂れ下がっている様子を表している。霧の多い深山にみられるもので、「雲の花」とか「霧藻」も別名もあり、乾燥したものを袋につめた「霧藻枕」などが土産に売られている。

 成分はバルバチン酸やウスニン酸、ジフラクタ酸などが含まれ、抗菌、抗腫瘍、利尿、肝庇護作用などが認められている。漢方では止咳、化瘀・止血の効能があり、頭痛、咳嗽、喀痰、瘰癧(頸部リンパ腺腫)、性器出血、腫れ物などに用いる。

 近年、松籮の煎剤や抽出したウスニン酸ナトリウムなどによる肺結核や慢性気管支炎などの臨床報告がある。またリンパ節炎、乳腺炎などにも用いられるが、副作用として嘔気や口渇、めまい、肝機能障害のみられることがある。そのほか外用として腫れ物や潰瘍、外傷などに用いる。ちなみにジフラクタ酸に炭酸アンモニアを加えるとリトマス色素になり、リトマス紙にも利用されている。

土曜日, 5月 18, 2013

椒目

○椒目(しょうもく)

 中国の各地に自生し、栽培されているミカン科の落葉低木カホクザンショウ(Zanthoxrlum bungeanum)の種子を椒目という。この果実の果皮を花椒という。

 日本では一般に花椒の代わりに同属のサンショウ(Z,piperitum)の果皮を山椒として用いているが、種子はあまり利用されていない。カホクザンショウの種子は直径3~5mmくらいのほぼ球状で、表面は光沢のある黒色である。においは芳しく、味は辛い。

 椒目の味は苦・辛で性は寒であるのに対し、果皮(花椒)の味は辛、性は熱であり、両者の性味は異なっている。漢方では利水・平喘の効能があり、浮腫や腹水、喘息などに用いる。心不全などによる浮腫や腹水に防已・葶藶子・大黄と配合する(已椒藶黄丸)。

金曜日, 5月 17, 2013

升麻

○升麻(しょうま)

 北海道から九州、中国、朝鮮半島、シベリアにかけて分布するキンポウゲ科の多年草サラシナショウマ(Cimicifuga simplex)の根茎を用いる。そのほかフブキショウマ(C.dahurica)やオオミツバショウマ(C.heracleifolia)の根茎を用いる。

 若葉をゆで、水にさらして食べることができるためサラシナ(晒し菜)の名がある。中国市場ではサラシナショウマの根茎を西升麻、フブキショウマを北升麻、オオミツバショウマのを関升麻というが、日本市場に流通しているのはほとんどが北升麻である。根茎の外皮が黒いため黒升麻とも呼ばれている。赤升麻というのはユキノシタ科の多年草であるトリアシショウマ類の根茎のことで、かつて升麻の代用にされたといわれる。

 升麻の成分としてトリテルペノイドのシミゲノール類やその他配糖体、クロモン誘導体のシミフギン、ケロール、アミオール、フェノールカルボン酸のカフェ酸、ステロイドのシトステロールなどが報告されており、解熱、鎮痛、抗浮腫作用や肛門部炎症を抑制する作用などが認められている。

 漢方では解表・透疹・清熱・升提の効能があり、麻疹などの発疹を促進し、咽頭や口腔内の炎症を清し、内臓などの下垂を改善する。中国医学では升麻に上行、昇散する性質があり、清陽の気を上昇させ、頭痛や体表の邪を解し、下痢や下垂などを改善すると説明している。

 民間療法でも咽頭の腫脹や口内炎、歯肉炎などに煎液で含嗽したり、湿疹やあせもに煎液を塗布したり、浴湯料として利用している。ちなみに北米インデイアンはアメリカショウマ(C.racemosa:ブラックコホッシュ)を月経困難や更年期障害などに用いていた。

木曜日, 5月 16, 2013

菖蒲根

○菖蒲根(しょうぶこん)

 日本で一般に菖蒲といわれているものには、アヤメ科のハナショウブ(Iris ensata)とサトイモ科のショウブとがある。菖蒲園などで有名なのはハナショウブ(花菖蒲)のことがあるが、薬用にする菖蒲はサトイモ科のショウブ属の植物(ショウブ)でまったく別である。

 かつてサトイモ科のショウブは葉のすじが文目模様になっていることからアヤメ(文目)と呼ばれた。ところが葉がよく似ている花の美しい植物をハナアヤメと呼ぶようになり、いつしかアヤメといえばこの方のことを指すようになった。このため本来のアヤメを中国語名でショウブと呼ぶようになったが、今度はアヤメ科の園芸品種を誤ってハナショウブと名付けたため、今日でもショウブといえばハナショウブの方が有名になっている。

 ところでサトイモ科のショウブにも2種類あり、ショウブ(Acorus calamus)とセキショウ(A.gramineus)とに区別されている。日本で菖蒲根といえばショウブの根茎を用いるが、これを中国では水菖蒲という。一方、中国で単に菖蒲といえば、セキショウの根茎のことで、石菖蒲ともいう。

 セキショウは本州以西に分布し、おもに谷用の岩場などに群生し、花は3~5月に咲く、ショウブは北海道から九州まで広く分布し、池沼の水辺に自生して花は5~7月に咲く。いずれの花も黄緑色の肉穂花序であまり目立たない。

 ショウブの根茎はセキショウよりも大きくて収穫しやすいため、日本では一般にショウブのほうを薬として用いてきた。ショウブには強い香りがあり、葉が剣状のため、古くから魔除けとしても利用され、くたショウブが尚武に通じることから尊ばれてきた。端午の節句にショウブを軒に挿して戸口にヨモギを吊るす風習やショウブの葉を風呂に入れる菖蒲湯の慣習がある。

 日本の民間療法で肺炎、発熱、ひきつけ、創傷などの治療に根を煎じたものやおろしたものを利用していた。打ち身には根をおろして患部にすり込んだり、歯痛には薄荷やうどん粉を混ぜてはる治療法もある。また菖蒲湯は神経痛やリウマチに効果があるともいわれている。

 漢方では水菖蒲と石菖蒲に区別されるが、開竅・去痰・化湿・解毒の効能はほぼ同じで、癲癇や熱病による意識障害、健忘症、耳聾、、神経症、胃痛、関節痛、打撲傷などに用いる。ただし石菖蒲のほうが香りが強く、意識障害に対する通竅作用もすぐれているのでよく使用される。また新鮮なもの(鮮菖蒲)の方が意識障害に対する効果が強い。

火曜日, 5月 14, 2013

薔薇花

○薔薇花(しょうびか)

 日本、朝鮮半島に分布するバラ科のつる性に落葉低木ノイバラ(Rosa multiflora)の花を用いる。ノイバラの果実(偽果)は営実であり、葉を薔薇葉、根を薔薇根という。また花を蒸留したものは薔薇露という。

 ノイバラは最もよく見られる野生のバラで、バラの接ぎ木の台木としても栽培される。花は白色で芳香があり、成分にはアストラガリンなどが含まれる。一方、ヨーロッパでは古くから薬用バラ(Apothecary Rose)としてバラの原種であるガリカ種(R.gallica)の花びら(ローズペタル)が消化薬や口内炎の治療、疲労回復や精神安定などのためにハーブティーとして利用されてきた。

 漢方では解暑・健胃の効能があり、暑気払いや健胃薬として用いる。口内炎や咽頭の腫痛などに桔梗・甘草などと配合する(薔薇湯)。なお薔薇露も口内炎の治療に用いる。また薔薇葉は排膿薬として化膿症に用いる。薔薇根は去風湿・活血・解毒の効能があり、下痢、関節炎、鼻血、痔出血、化膿症などに用いる。

 近年、ガリカ種などのバラの花びらエキスにポリフェノールの一種であるオイゲニンが含まれており、抗酸化作用や抗アレルギー作用(ヒスタミン遊離抑制作用)が認められ、花粉症やアトピー性皮膚炎などのアレルギー症状を緩和する効能が期待されている。

月曜日, 5月 13, 2013

小麦

○小麦(しょうばく)

 カスピ海南岸を原産とするイネ科の越年草コムギ(Triticum aestivum)の種子あるいは粉を用いる。コムギは紀元前7000年ごろから栽培が始まり、世界で最も生産が多い穀物である。

 この栽培されるコムギの9割はパンコムギで、日本のコムギも全てこれである。コムギはおもに小麦粉にされるが、小麦粉には主成分のデンプンのほかにグルテンの特性により水を加えてねると粘弾性をもったドウ(パン生地)を作ることができる。

 近年、健康食品素材として小麦胚芽が注目されている。小麦胚芽に含まれる栄養素としてビタミンE、ビタミンB1・B2・B6などのビタミン類、カルシウム、鉄などのミネラル、アミノ酸などのほか、オクタコサノールが含まれている。オクタコサノールは、酸素利用を高めて、エネルギー産生を促進する働きがあるとされ、持久力の向上、運動後の筋肉痛の予防などへの効果が報告されている。

 また、外皮は小麦ふすま(小麦ブラン)と呼ばれ、食物繊維が多いため、かつては専ら飼料に利用されていたが、近年、おなかの調子の整える特定保健用食品の素材として認定されている。

 薬用には種子のまま、あるいは小麦粉として用いる。水で研ぐと浮き上がる未成熟な小麦を特に浮小麦という。漢方では安伸・清虚熱・止汗・止渇の効能があり、ヒステリーや煩熱、糖尿病、下痢、癰腫、自汗、盗汗に用いる。

 自汗や盗汗には浮小麦のほうがよいとされ、浮小麦を焦げるまで炒って粉末にしたものを重湯で服用する。女性のヒステリーや子供の夜泣きには甘草・大棗などと配合する(甘麦大棗湯)。自汗や盗汗には黄耆・牡蠣・麻黄根などと配合する(牡蠣散)。また切り傷の止血や火傷には粉を外用する。

土曜日, 5月 11, 2013

樟脳

○樟脳(しょうのう)

 関東地方以南、四国、九州、台湾、中国南部に分布するクスノキ科の常緑高木クスノキ(Cinnamomum camphora)の根、幹、枝、葉を蒸留精製した顆粒状結晶を樟脳という。

 クスノキは枝や葉をはじめ樹木全体に独特の香りがある。樟脳は特有の芳香を持った極めて消化しやすい白色の結晶でカンフルともいい、水には難溶であるが、エーテルなどの有機溶剤に溶ける。

 樟脳は紀元600年ごろアラビアで貴重な薬として用いられ、アラビア語のカフールがカンフルの語源である。日本には江戸時代に製法が伝わり、薩摩や土佐でつくられ、明治時代には日本の特産品として盛んに輸出された。

 精油成分にはカンファ、カンフェン、カジネン、アセトアルデヒド、ピネン、シネオール、ボルネオール、オイゲノールなどが含まれ、カンファは局所刺激作用、防腐作用のほか、中枢性に血管や呼吸を興奮させ、血圧を上昇して呼吸数を増加させる。また生体内での酸化物であるアロパラオクソカンファは直接的な強心作用がある。

 樟脳は防虫剤や薫香料のほか、セルロイドやフィルム、ボルネオールなどの原料として用いられている。またパイオキソカンファは強心作用のある注射薬(ビタカンファー)として用いられる。

 漢方では開竅・止痛・殺虫の効能があり、意識障害、腹痛、腹部膨満、脚気、歯痛、皮膚病、打撲傷などに用いる。現在ではおもに軟膏やチンキなどの外用薬として神経痛、しもやけ、火傷、打撲傷、皮膚病などに用いる。

 筋肉痛や打ち身、捻挫にはカンフルにハッカ油、チョウジ油などと配合する(タイガーバーム)。チンキ剤を腹部につけると腹部膨満感や腹痛が軽減する。また内服では湿疹や有熱時の意識障害の気付け薬として用いる。ただし服用しすぎると眩暈、頭痛、興奮症状が出現し、さらには痙攣や呼吸衰弱を起こし死に至ることもある。

金曜日, 5月 10, 2013

鍾乳石

○鍾乳石(しょうにゅうせき)

 石灰岩の洞窟に産出し、つらら状に下がった鍾乳石(スタラサイト:Stalactite)を用いる。

 炭酸塩類の鉱物で、石灰岩の炭酸カルシウム(CaCO3)の水溶液が滴り落ちて長い間に晶出したものである。太いものを鍾乳石といい、細く管状のものは滴乳石という。ただし滴父石は鵝管石のひとつとして扱われることもある。鍾乳石は白色で直径5cmくらいの円柱ないし円錐形したもので硬くて重い。滴乳石は直径1cmくらいの管状で厚さは1mm程度である。

 成分は主に炭酸カルシウムで少量のマグネシウムを含む。漢方では止咳・補陽・通乳の効能があり、咳嗽やインポテンツ、乳汁不足などに用いる。

木曜日, 5月 09, 2013

松藤

○松藤(しょうとう)

 日本の各地、朝鮮半島の南の済洲島に分布するモクレン科の落葉つる性低木、マツブサ(Schisandra repanda)の蔓や葉を用いる。日本の固有種のため、中国名はなく、中国の松藤とは関係がない。

 樹皮はアカマツに似て、蔓を折るとマツヤニに似た匂いがする。晩秋に果実がつる性の茎にブドウの房のように垂れ下がるため、マツブサ、松藤といった名前がある。

 蔓や葉には精油成分のボルネオール、βピネン、セスキテルペンなどが含まれている。一般に薬湯料として用いられ、皮膚を刺激して血行を改善する作用があり、湯冷めしにくく、リウマチや神経痛、腰痛などの痛みを和らげるといわれている。黒く熟した実は酒に漬けて果実酒として利用されている。

水曜日, 5月 08, 2013

松節

○松節(しょうせつ)

 中国の中南部の各地に分布しているマツ科の常緑高木タイワンアカマツ(Pinus massoniana)やユショウ(P.tabulaeformis)などのマツの枝や幹の節を用いる。松を基原とする生薬には、幹からとった樹脂の松香、樹皮から抽出したピクノジェノール、葉の松葉、果実の海松子、化石となった琥珀などがある。

 松は赤松、黒松などの五葉松類に区別され、タイワンアカマツなどは二葉松類であり、五葉松に比較すれば材質は硬くて樹脂が多い。松節にはセルロース、リグニン、精油のほか、ピクノジェノールに類似した松ポリフェノールが含まれている。

 漢方では去風湿の効能があり、止痛薬としてリウマチ、こむら返り、膝関節腫張、脚力低下、打撲傷に用いる。煎じて服用するほか、酒に浸したものを内服したり、塗布して用いる。

火曜日, 5月 07, 2013

硝石

○硝石(しょうせき)

 乾燥地帯の地表や洞窟に風化物として少量産する鉱物、硝石(Niter)を生成してできた結晶を用いる。通常、チリ硝石や瀉利塩、灰硝石、石膏などと同じ場所にある。

 窒素を含む物質や動物質に硝化バクテリアという細菌が作用して産することもある。エジプトやチベットなどの乾燥地帯では糞尿に木灰や石灰を混ぜて堆積し、細菌によって硝酸塩を生じさせ、水で抽出して硝石を作ったという。

 硝石はKNO3を組成とするカリウムの硝酸塩鉱物であり、白色の粉末で水に溶け、焼くと爆発する。黒色火薬の原料であり、日本でも加賀藩がカイコの糞と雑草などを堆肥として生産していた。

 漢方では有毒といわれ、消癥、通便・解毒の効能があり、腹部膨満や腫瘤、腹痛、便秘、腫れ物などに用いる。腹部が硬く膨満して便秘するときには大黄などと配合する(承気丸)。頭痛や頭風、耳聾などに硫黄と配合する(如神丹)。ちなみに傷寒論、金匱要略の中の硝石は芒硝と同じ硫酸マグネシウムであったと考えられている。

月曜日, 5月 06, 2013

生漆

○生漆(しょうしつ)

 中国、インドを原産とする漆科の落葉高木ウルシ(Rhus verniciflua)の樹脂を用いる。この樹脂を乾燥させて固めたものを乾漆という。ウルシの幹に深い傷をつけ、しみ出てくる半透明で乳白色の粘調な樹液を採取する。

 中国では殷・周の時代から漆液が利用され、日本にも太古に渡来したと考えられ、縄文時代の遺跡から漆塗りの容器が出土している。漆液は空気にさらされると酸化して硬くなり、化学変化に強く、耐久性があるため塗料や接着剤として利用されてきた。

 ウルシに含まれるウルシオールはしばしばアレルギー反応を引き起こし、漆かぶれの状態になる。ちなみに漆かぶれには沢蟹をつぶしたものをつけるという民間療法がよく知られている。

 日本産のウルシの主成分はウルシオールであるが、ベトナム産のアンナンウルシはラッコール、ビルマ産のビルマウルシはチチコールを主成分とし、日本産の品質が最も優れている。一般に薬用には乾漆を用いるが、生薬を丸薬として用いることもある。

木曜日, 5月 02, 2013

生地黄

○生地黄(なまじおう)

 中国原産のゴマノハグサ科の多年草ジオウ(Rehmannia glutinosa)の根を用いる。生地黄というのは、採集後3ヶ月以内の新鮮な根のことで、採取した後、乾燥した砂の中で保存したものである。

 日本では国産の新鮮な地黄を生地黄と呼び、入手可能な期間は12~1月と限られている。ただし、実際には日本の市場にはほとんど流通していない。中国では生地黄として鮮地黄(鮮生地)と干地黄(干生地)の両者を含むが、ここでは鮮地黄のことを説明し、干地黄は別項に記す。

 地黄にはイリドイド配糖体のカタルポール、レオヌライド、アウクビン、糖類のマンニトール、スタキオースなどのほか、β-シトステロール、カロテノイドなどの成分が含まれている。地黄エキスでは血糖降下作用や強心・利尿作用、肝庇護作用、抗菌作用などが認められている。

 漢方では清熱・涼血・止血・生津の効能があり、熱病による脱水状態で口渇が激しいとき、斑疹がみられるとき、血熱妄行による出血などに用いる。例えば、熱病に伴う斑疹には犀角・牡丹皮を配合する(犀角地黄湯)。血熱妄行による吐血や下血に搾った汁を単独で、あるいは側柏皮・茜草根などと配合する(四生丸)。発熱時の便秘には玄参・麦門冬などと配合する(増液湯)。微熱や盗汗があり、舌が鏡面舌を呈し、口腔内が乾燥している多ときには沙参・麦門冬なとど配合する(一貫煎)。

 金匱要略ではベーチェット病などと想定されている百合病に対して、百合の煎液に生地黄の汁を加えた処方の記載がある(百合地黄湯)。そのほか傷寒論、金匱要略で生地黄が用いられている処方として炙甘草湯、防已地黄湯がある。ちなみにジオウの汁などを原料とした練り薬に瓊玉膏というのがある。これはジオウの搾汁を3日3晩、蒸しながら練り続けて製造され、薬性を熟地黄へと変化させたものであり、古くから不老長寿の薬として知られているものである。

水曜日, 5月 01, 2013

常山

○常山(じょうざん)

 東南アジアやインド、中国の南部に自生するユキノシタ科の常緑低木ジョウザンアジサイ(Dichroa febrifuga)の根を用いる。同じユキノシタかにアジサイがあり、やや似ているためにジョウザンアジサイという名がある。

 この若葉も蜀漆と呼ばれて薬用にされる。薬材の根の質は堅くて重く、鶏骨のようであることから、かつて鶏骨常山といわれていた。中国ではクマツヅラ科のクサギ(Clerodendron trichotomum)の根を海洲常山といい、アカネ科のコンロンカ(Mussaenda parviflora)を白常山、ミカン科のコクサギ(Orixz japonica)を臭常山などといい、常山の代用にしていた。

 成分にはアルカロイドのジクロイン(フェブリフジン、イソフェブリフジン)が含まれ、抗マラリア・抗アメーバ赤痢、解熱作用などが認められている。動物のマラリアにはキニーネよりも作用が強いが、人間のマラリアではキニーネより効力が劣る。

 漢方でも抗瘧の効能があり、マラリア(瘧)の治療薬としてよく知られている。マラリアには知母・椰椰子などと配合する(常山飲)。しかし、キニーネよりもはるかに毒性があり、悪心、嘔吐、下痢、胃腸粘膜の充血などの症状がみられる。逆に、この催吐作用を応用して、生のままか大量に用いて痰や毒物を吐かせることもできる。