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月曜日, 12月 30, 2013

猪苓

○猪苓(ちょれい)

 日本の北海道や東北地方、朝鮮半島、中国各地などに分布する担子菌類サルノコシカケ科のチョレイマイタケ(Polyporus umbellatus)の乾燥した菌核を用いる。

 チョレイマイタケは山林中のブナ、ミズナラ、カエデ、クヌギなどの腐食した根に寄生するキノコで、地上部は食用になる。薬用にする菌核は落葉の堆積した浅い地中に生じ、表面が黒褐色をした凹凸のある不成形の塊状で、この塊がブタ(猪)の糞に似ていることから猪苓の名がある。

 薬材は5~15cmくらいの黒褐色をした塊であり、新鮮なものは内部は白色であるが、時間が経つと褐色を帯びる。現在、日本の流通品のほとんどは中国産であり、中国では陜西省や雲南省に多く産し、とくに陜西産の品質がよいといわれる。

 猪苓にはエルゴステロール、αヒドロキシテトラコザン酸、多糖類のグルカンなどが含まれ、利尿、抗菌、抗腫瘍作用などが認められている。漢方では利水消腫・通淋の効能があり、排尿減少、浮腫、脚気、下痢などに用いる。

 猪苓の利尿作用は茯苓よりも強いとされ、また清熱の性質も若干あるため熱象(炎症)を伴う浮腫にも応用できる。癌治療の臨床研究として、猪苓は癌患者の細胞性免疫機能を向上させ、抗癌剤と併用すれば、その副作用を軽減することが報告されている。

金曜日, 12月 27, 2013

苧麻根

○苧麻根(ちょまこん)

 中国からマレーシアを原産とするイラクサ科の多年草ナンバンカラムシ(Boehmeria nivea)の根を用いる。また茎皮を苧麻皮、葉を苧麻葉、花を苧麻花という。

 古くから日本でも栽培され、野生化した帰化植物で、カラムシという名は韓国から渡来したことを表している。カラムシはチョマ(苧麻)ともいい、現在でも繊維用作物として各地で栽培され、茎の強い繊維を漁網や船舶用のロープなどの原料としている。弥生時代の遺跡からカラムシの布がみつかり、日本における最初の織物と考えられている。

 根にはエモジン型アントラキノンが含まれ、止血作用が知られている。漢方では清熱・通淋・止血・安胎・解毒の効能があり、膀胱炎など(五淋)の治療や妊娠時の性器出血や胎動不安、小児の丹毒などに用いる。化膿性の皮膚疾患にはつき汁や煎液で患部を洗う方法もある。

 苧麻皮や苧麻葉は肛門の腫れや痛み、泌尿器疾患、乳腺炎に、苧麻花は麻疹の治療に用いる。

木曜日, 12月 26, 2013

猪胆

○猪胆(ちょたん)

 イノシシ科の動物ブタ(Sus scrofa domestica)の胆嚢を猪胆といい、胆汁を猪胆汁という。ブタは主要な家畜であり、中国では紀元前2800年頃から飼育されていたという。

 ブタはイノシシを飼い慣らした家畜であり、品種はかなり多い。性質は温和で、人に慣れ、雑食性で適応力が強い。ブタはあらゆる部分が薬用にされ、皮膚(猪膚)、脂肪(猪脂)、肝臓(猪肝)、胃(猪肚)、大腸(死猪腸)などがある。

 胆汁の成分は胆汁酸、胆汁色素などが含まれ、鎮咳、消炎、抗菌作用などが知られている。漢方では清熱・止咳・解毒の効能があり、熱性疾患、黄疸、下痢、便秘、百日咳、腫れ物などに用いる。

 下痢が続いて脈がかすかなときには白通湯に猪胆汁を加える(白通加猪胆汁湯)。なお猪肚は頻尿治療薬の猪肚丸、猪腸は痔出血に用いる臓連丸に配合されている。

火曜日, 12月 24, 2013

楮実

○楮実(ちょじつ)

 日本の中部地方以南および中国、台湾に分布するクワ科の落葉高木カジノキ(Broussonetia papyrifera)の成熟果実を用いる。コウゾ(B.kazinoki)とともに和紙の製紙原料として栽培されている。

 果実にはサポニン、ビタミンB、脂肪酸のリノール酸などが含まれている。漢方では強壮・利尿の効能があり、インポテンツや腰や膝の萎弱、浮腫などの症状に用いる。

金曜日, 12月 20, 2013

釣藤鉤

○釣藤鉤(ちょうとうこう)

 中国南部、日本では関東以西の産地に自生するつる性木本、アカネ科のカギカズラ(Uncaria rhynchophylla)の鉤の付いた茎を用いる。中国にはトウカギカズラ(U.sinensis)など多種の同属植物があり、それらも使用している。

 中国ではかつては釣藤と記していたが、現在では鉤(鈎)藤と書く。鉤とはかぎのことで、つるの側枝がかぎ状に曲がり、絡みつくようになっているので鉤藤といカギカズラの名がある。古くは民間療法法として樹皮を用いていたが、経験的に鉤刺を用いるようになり、漢方薬に配合されるようになった。

 茎にはアルカロイドのリンコフィリンやヒルスチン、コリナンテインなどが含まれ、鎮静・降圧・血管拡張などの作用が認められている。漢方では平肝・止痙の効能があり、高血圧の随伴症状や精神的な興奮症状、不眠、心悸亢進などに用いる。なお長時間煎じると効力が弱くなるため、後入れ(後下)する。

 近年、釣藤鉤にアルツハイマー病の原因といわれるβアミロイドに対して凝集作用が認められ、認知症に対する臨床効果が研究されている。

木曜日, 12月 19, 2013

丁字

○丁字(ちょうじ)

 インドネシアやマレーシア、東アフリカなどで栽培されているフトモモ科のチョウジ(Syzygium aromaticum)の蕾を用いる。果実は母丁香といい、また古代中国では果実の形が鶏の舌に似ているとして鶏舌香とも呼ばれていた。チョウジという名前の由来は蕾の形が釘に似ているためであり、英語のクローブも仏語のクルー(釘)に由来する。

 チョウジはインドネシアのモルッカ諸島原産で、18世紀までモルッカの特産であったが、現在では東アジア(ザンジバル)の生産が90%を占めている。チョウジは香料として紀元前よりインドやヨーロッパにまで知られ、今日、スパイスとして肉料理やケーキ、プディングなどによく用いられている。かつて日本女性の使っていた「びんつけ油」の匂いも丁字であり、現在では石鹸や整髪料に広く使われている。インドネシアでは丁字入りのタバコも有名である(クレテック)。

 丁字を水蒸気蒸留して得られた精油を丁字油といい、成分としてオイゲノールやチャビコール、フムレン、カリオフェレンなどが含まれている。オイゲノールには殺菌・防腐のほか、鎮静・鎮痙作用なども認められている。またオイゲノールは口腔内殺菌や虫歯の鎮痛にも用いられている(今治水)。オイゲノールをアルカリと熱を加えて異性化させた後に酸化すると香料のバニリンが得られる。

 漢方では温裏・健胃・止嘔・補陽の効能があり、おもに芳香性健胃薬として用いる。たとえば胃腸が冷えたために生じる嘔吐、下痢、腹痛、消化不良に茯苓・半夏などと配合する(丁香茯苓湯)るまた吃逆(しゃっくり)には柿蒂などと配合する(丁香柿蒂湯)。

 中国では古くから口臭を消すために口に含む習慣があり、口中清涼剤の仁丹にも配合されている。また多くの家庭薬の薬香料としてチョウジ末やチョウジ油、オイゲノール、バニリンの名で配合されている。母丁香には芳香はないが、同じく温裏の効能があり、嘔吐、腹痛、ヘルニア、口臭などに用いる。

月曜日, 12月 16, 2013

地楡

地楡(ちゆ)

 日本各地およびアジアからヨーロッパにかけて分布するバラ科の多年草ワレモコウ(Sanguisorba officinalis)の根および根茎を用いる。ワレモコウは秋の野草の一つで生け花にも用いられ、また春先には若い葉をおひたしにして食べる。

 ワレモコウは「吾木香」とか「吾亦紅」と書くが、語源は明らかではない。吾木香とはジャコウソウやオケラなど芳香のある植物に付けられた名前とされているが、ワレモコウには特によい匂いはないため吾亦紅という字を当てることもある。赤い花穂は染料にも用いられている。

 成分として根にタンニンが約17%、サポニンが3~4%含まれ、サポニン成分としてサンギソルビン、チユグルコサイドなどが知られている。薬理学的に出血時間の短縮や血管収縮などの止血作用が認められているほか、抗菌作用、抗火傷作用なども知られている。

 漢方では清熱涼血・止血の効能があり、吐血、鼻血、下血、湿疹、腫れ物、外傷、火傷などに用いる。止血には地楡の外が黒くなるまで炒った地楡炭が適している。とくに慢性の血便や下痢に伴う血便、痔出血、不正性器出血など下半身の出血に適するとされている。

 たとえば痔の出血や下血には槐花・阿膠などと配合したり(清肺湯)、槐角・黄芩などと配合する(浸膏槐角丸)。また火傷や切り傷の創面に細末を油でねって軟膏にしたものや、チンキにしたものを外用する。また煎じた液も湿疹、打ち身、捻挫などに外用する。民間療法では下痢のときに煎じて服用したり、扁桃炎や口内炎ではうがいに用いる。

 近年、根から抽出したエキス、ワレモコウエキスに収斂、チロナーゼ活性阻害、抗菌・抗炎症作用などがあるとして、スキンケア製品の素材として利用されている。

金曜日, 12月 13, 2013

茶葉

○茶葉(ちゃよう)

 中国原産のツバキ科の常緑小高木チャ(Camellia sinensis)の葉の乾燥したものを用いる。茶の変種としてインドのアッサム地方原産のアッサム茶もある。

 中国では紀元前10世紀の周の時代に薬用とされ、紀元前3世紀ごろに嗜好品とされ始め、8世紀の唐の時代に栽培や製茶が普及した。日本には天平時代に最澄が種子を持ち帰ったとされている。さらに鎌倉時代には栄西が「喫茶養生記」を著し、喫茶の風習が広まった。ヨーロッパには16世紀に中国や日本から紹介され、喫茶が流行した。

 一般に普及している茶はその加工法で大別すると乾燥茶の緑茶、発酵茶の紅茶、半発酵茶の烏龍茶に区別される。茶の葉を摘んでそのまま放置すると葉の中の酸化酵素により黒く変化する。このため緑茶は採取した新鮮な若葉をせいろの中で高温加熱して酸化酵素の作用を止め、さらに加熱しながら揉んで乾燥させて製品化する。日本の煎茶や玉露、番茶は緑茶の種類である。

 茶葉にはポリフェノール(カテキン類)、アルカロイドのカフェイン、アミノ酸の一種のテアニン、ビタミンCやビタミンB群などが含まれ、茶の苦味はカフェイン、渋味はカテキン類、旨味はテアニンに起因する。茶ポリフェノールは、その性質からタンニンと呼ばれていた成分であるが、その茶ポリフェノールの約70%はフラボノールのカテキン類である。この茶カテキンには、エピカテキン、エピガロカテキン、エピカテキンガレート、エピガロカテキンガレートがあり、とくにエピガロカテキンガレートが一番多く含まれ、しかも生理活性が最も強いといわれている。

 茶ポリフェノールには、抗う蝕、消臭、コレステロール吸収阻害、抗菌・抗ウイルス、抗腫瘍、脂肪燃焼、腸内細菌改善、抗酸化作用などが知られている(サンフェノン)。さらに高濃度の茶カテキンを摂取することにより、脂質代謝が活発になり、脂質の燃焼が促進され、体脂肪が減少することが明らかとなり、特定保健用食品として認められている(ヘルシア緑茶)。また、カフェインには中枢神経興奮、強心利尿、胃酸分泌刺激、熱酸性量の増加、体脂肪の分解などの作用が認められている。一方、テアニンには、脳神経をリラックスさせ、イライラや過食を抑え、睡眠の質を向上させる働きがあるといわれている。

 漢方では清頭目・利尿・止瀉の効能があり、頭痛、多眠、下痢などに用いる。感冒などによる頭痛には白芷・川芎などと配合する(川芎茶調散)。細菌性下痢に濃く煎じた渋茶を服用する。民間では煎液を火傷やオムツかぶれの湿布薬として、また口内炎や咽頭炎、感冒予防などの含嗽薬としても利用している。ただし、不眠症の人の服用には注意が必要である。

 近年、摘んだ茶葉を数時間、窒素ガスの中に保存してから通常の方法でお茶を製造するとγ-アミノ酪酸(ギャバ:GABA)の含有量が通常のお茶の20~30倍に増加することが発見され、このお茶を服用することで血圧降下や精神安定などの効果があると期待されている。

木曜日, 12月 12, 2013

知母

○知母(ちも)

 中国東北部から北西部にかけて分布し、日本にも江戸時代に渡来し、栽培されているユリ科のハナスゲ(Anemarrhena asphodeloides)の根茎を用いる。葉がスゲに似て花がそれより美しいためその名がある。中国河北省が主産地として有名で、品質の良いことから西陵知母ともいわれている。

 知母にはステロイドサポニンのチモサポニンやキサントン配糖体のマンギフェリンなどが含まれ、抗菌・解熱・血糖降下作用などが認められている。漢方では清熱瀉火・滋陰清熱の効能があり、発熱による脱水や煩躁、肺病の咳嗽、便秘、排尿障害などに用いる。

 とくに実熱と虚熱の区別なく、高熱や微熱のいずれにも応用できる特徴がある。また滋潤作用があるため、熱病による口渇や煩熱など脱水症状のほか、陰虚による口渇やのぼせ、手足のほてり、興奮症状にも効果がある。このため知母は「上にて肺熱を清し、下にて腎を滋潤する」といわれている。

 近年、ハナスゲの根の成分サルササポゲニンに由来するポルフィリンに脂肪細胞の分化を促進し、増殖させ、脂質を蓄積させる作用が発見され塗るだけでバストアップ効果があると注目されている。

水曜日, 12月 11, 2013

蜘蛛

○蜘蛛(ちしゅ)

 コガネグモ科のオニグモ(Aranea ventricosa)の全虫を用いる。オニグモはダイミョウグモともいわれ、日本各地に分布する。全体が黄褐色で腹部は丸くて大きく、体長はオスが約2cm、メスが約3cmである。夕方になると大きな円い網を張り、朝にたたむ習性がある。このクモを捕獲した後、沸騰した湯につけて殺し、取り出して乾燥する。

 漢方では解毒・消腫の効能があり、陰囊ヘルニアや顔面神経麻痺、ひきつけ、腫れ物、毒虫の咬刺傷などに用いる。金匱要略では陰狐疝気(陰囊ヘルニア)のときに蜘蛛をあぶったものを桂枝と配合して用いている(蜘蛛散)。

火曜日, 12月 10, 2013

竹瀝

○竹瀝(ちくれき)

 イネ科ハチク(Phyllostachys nigra)の茎を火であぶって流れ出た液汁を竹瀝という。新鮮な竹棹を縦に割って火であぶると両端から液が流れ出る。竹瀝はこれを集めたもので、青黄色ないし黄褐色の透明な液体で焦げた臭いがある。

 漢方では清熱化瘀・定驚・通竅の効能があり、痰家の聖薬といわれ、脳卒中や癲癇、ひきつけ、熱病、肺炎などで咽に痰の音がして胸が苦しいときに用いる。単独で服用させたり、生姜汁などと混ぜて服用する。また丸剤や膏剤として用いることが多い。

 熱病で粘調稠のあるときや意識状態が混濁しているときに生姜汁・青礞石などと配合する(竹瀝達痰丸)。竹瀝は入手が困難なため、天竺黄で代用することもある。しかし竹瀝は天竺黄よりも痰を除く作用が強い。

月曜日, 12月 09, 2013

竹葉

○竹葉(ちくよう)

 イネ科ハチク(Phyllostachys nigra)の葉のことを竹葉という。イネ科のササクサ(Lophatherum gracile)り全草を淡竹葉といいう。しかし竹葉と淡竹葉とはしばしば混同され、日本ではハチクの葉を和淡竹葉ということもある。

 ハチクは中国原産であるが西日本にも野生化しており、モウソウチクやマダケとともに日本三大竹のひとつで、呉竹とも呼ばれる。上下の太さが一様で、硬くて細割れしやすいので茶筌や菓子の容器などにも利用される。ハチクの内皮は竹筎、あぶって流れ出た液を竹瀝、巻いて開かない幼葉を竹巻心という。

 葉の成分にはトリテルペンのグリチノール、グルチノンなどのほかペントーザン、リグニンなどが含まれ、解熱・利尿作用が知られている。漢方では淡竹葉の効能とほぼ同じで、清熱・除煩・利水の効能がある。一般に心熱を清する作用は竹葉のほうが強いといわれる。このため煩熱、口渇の症状には竹葉を用いるのがよい。

 熱性疾患後の余熱の治療に石膏などと配合する(竹葉石膏湯)。糖尿病などによる口渇の症状には麦門冬・人参などと配合する(麦門冬飲子)。

土曜日, 12月 07, 2013

竹節人参

○竹節人参(ちくせつにんじん)

 北海道から九州までの山地に自生するウコギ科の多年草トチバニンジン(Panax japonicus)の根茎を用いる。竹節人参は竹参、土参ともいう。葉がトチノキの葉に似ているところからトチバニンジンといわれ、根は竹の根に似て節くれだっているため竹節人参という。また幼年期の根は小さな直根のため直根人参と称されている。

 江戸時代の初期に中国から亡命して帰化した何欽吉が日向(宮崎県)にてこれを発見し、人参の代用として用いたのが始まりと伝えられている。古方派の吉益東洞が竹節人参を好んで用い、心下痞硬には人参よりも効果があると述べている。

 成分にはサポニンやステロールなどが知られており、オレアノール酸のサポニンであるチクセツサポニンには去痰作用が認められている。そのほかエキスには、抗炎症、抗潰瘍、抗腫瘍、血糖降下、中枢抑制、育毛などの作用が報告されている。

 漢方では去痰・解熱・健胃の効能があり、咳嗽や心下部の痞えを伴う場合の処方で人参の代用として用いる。ただし人参のような滋養・強壮効果はあまり期待できない。ちなみに毛乳頭細胞を活性化し、発毛促進効果があるとして、育毛剤に配合されている(カロヤン)。

木曜日, 12月 05, 2013

竹筎

○竹筎(ちくじょ)

 イネ科のハチク(Phyllostachys nigra)の茎の中間層を用いる。まず第一層の緑色の外皮を薄く削り取り、つぎに中間層を削って帯状にする。黄緑色ないし淡黄白色で、ざらざらしており、よい香りがする。

 成分にはトリテルペノイドのアルンドイン、シリンドリンなどが含まれ、抗炎症作用などが知られている。漢方では清熱・化痰・除煩・止嘔の効能があり、肺熱を清して痰を除き、胃熱を清して嘔吐を止める。また熱痰による煩躁、不眠、動悸などの症状や鼻血、不正性器出血、妊娠悪阻、胎動不安などにも用いる。

 気管支炎などで咳嗽とともに黄色の粘稠痰がみられるときには桑白皮・貝母などと配合する(清肺湯)。大病の後に痰が欝結して眠れずに煩躁するときには半夏・麦門冬などと配合する(竹筎温胆湯)。産後に胸が煩躁して嘔吐やからえずきのみられるときには石膏・白薇などと配合する(竹皮大丸)。気の上逆によるしゃっくりには橘皮・生姜などと配合する(橘皮竹筎湯)。

 一般に痰熱を治療するときには生を用い、嘔吐を治療するときには生姜汁で炒して用いる。

水曜日, 12月 04, 2013

竹巻心

○竹巻心(ちくけんしん)

 イネ科ハチク(Phyllostachys nigra)のまだ開いていない幼葉を用いる。マダケ(P.bambusoides)などの幼葉も用いられる。通常は明け方に摘み取った新鮮なものを用いる。

 ハチクは葉を竹葉、内皮を竹筎といい、薬用にする。竹巻心の効能は竹葉とほぼ同じであるが、清心除煩の効能は竹葉よりも強いといわれている。熱入心包の証で高熱とともに意識の混濁や譫語などのみられるときには犀角・連翹などと配合する(清営湯)。

火曜日, 12月 03, 2013

胆礬

○胆礬(たんぱん)

 銅の鉱石中に含まれる藍色の結晶、天然の硫酸銅を胆礬という。また硫酸と銅を反応させて人工的に硫酸銅をつくることもできる。不規則な塊状の結晶体で藍色であり、ガラス様の光沢がある。

 成分は硫酸第二銅の5水塩(CuSO4・5H2O)であり、加熱すると結晶水を失い白色粉末の無水塩になる。工業用には木材の防腐剤、染料や顔料に使用されるほか、農薬のボルドー液の原料でもある。皮膚や結膜に刺激性があり、飲むと反射的に嘔吐を催す。

 漢方では有毒で、催嘔・去腐・解毒の効能があり、おもに口内炎や歯槽膿漏、痔、結膜炎、腫れ物などに外用薬として用いる。歯槽膿漏には麝香・竜骨などと粉末にして塗布する(麝香雄礬散)。疔、瘡などの化膿性皮膚疾患の排膿薬として用いる(青膏)。また、脳卒中や癲癇などで咽に痰が詰まる喉痺状態に催嘔剤として内服させる。

月曜日, 12月 02, 2013

タンニン

○タンニン

 18世紀末、動物の皮をなめす作用のある植物の水溶性の成分にタンニンという名がつけられた。また、その味から渋ともいわれている。

 「鞣す」とは動物の皮の腐敗を防ぎ、通気性、柔軟性、耐久性を持たせることをいい、紀元前から植物の根や樹皮を利用して行われていた。その成分はポリフェノールに属しており、このため近年では鞣皮性の有無にかかわらず植物起源の水溶性ポリフェノールをタンニンと称するようになった。

 タンニンはタンパク質と結合して難溶性の沈殿物を作るほか、金属や塩基性物質とも強い親和性がみられる。タンニンは酸によって加水分解を受け、糖を生じる加水分解型タンニンと、それ以外の縮合型タンニンとに区別される。さらに縮合型タンニンはプロアントシアニジンと呼ばれる酸でアントシアニジン系色素を作るものと、酸で分解されるが糖を生じない中間型のタンニンに分けられる。

 薬用植物には加水分解型タンニンが多く五倍子、没食子、現之証拠、赤芽柏、石榴皮、訶子などに含まれる。一方、渋柿や茶葉、大黄、虎耳草などは、中間型のタンニンを含む。一般にタンニンを含む生薬には収斂作用があり、健胃薬、止瀉薬、止血薬として応用されている。

土曜日, 11月 30, 2013

淡竹葉

○淡竹葉(たんちくよう)

 イネ科ササクサ(Lophatherum gracile)の全草を淡竹葉という。日本ではイネ科のマダケ(Phynostachys bambusoides)やハチク(P.nigra)の葉を和淡竹葉ということもある。淡竹葉は竹葉としばしば混同され、中国ではハチクの葉は竹葉という。

 ササクサは関東地方から西の日本各地、朝鮮半島根中国やインドに分布し、山地や湿地に生えている草丈40~70cmの雑草である。ササクサの名は葉が笹に似ているが草であることを意味している。

 葉にはトリテルペノイドのアルンドインやシリンドリンが含まれ、解熱作用、利尿作用が認められている。漢方では安神・除煩・利尿・通淋の効能があり、心火の熱を清するといわれている。心火とは炎症などによる発熱、脱水、神経の興奮などの症状で、煩躁、顔面紅潮、口渇、口内炎、鼻血、濃縮尿などがみられる。

 口内炎や口渇、尿路感染症などには生地黄・木通・甘草などと配合する(導赤散)。淡竹葉と竹葉には、いずれも清心除煩、利尿の作用があり、しばしば同様に用いられる。ただし、心熱を清する作用は竹葉のほうが、利尿作用は淡竹葉のほうが強いとされている。民間では糖尿病の予防に淡竹葉を煎じてお茶代わりに利用している。

金曜日, 11月 29, 2013

丹参

○丹参(たんじん)

 中国各地に分布するシソ科の多年草タンジン(Salvia miltiorhiza)の根を用いる。名医別録には赤参とあり、赤参や丹参の名は根が赤いことに由来する。この色は根にフェニンスラキノン系の色素であるタンシノンⅠ(紫褐色)、タンシノンⅡ(赤色)、クリプトタンシノン(橙色)などが含まれていることによる。日本ではあまり用いられないが、中国では単味の錠剤や注射薬なども開発されている。

 漢方では活血・通経・涼血・安神などの効能があり、月経不順、月経困難症、産後の腹痛などの婦人科疾患をはじめ、胸痛や腹痛、乳腺腫脹、癰腫、リウマチ、神経衰弱などに用いる。

 婦人明理論には「ただ一味の丹参散の主治は四物湯と同じである」と記されている。月経不順や産後の腹痛には丹参末として酒で服用する(丹参散)。心筋梗塞や狭心症の治療薬として知られる冠心Ⅱ号方には川芎・降香・紅花・赤芍などとともに配合されている。

 また中国では慢性肝炎や肝脾腫、甲状腺腫などの治療にも用いている。アルコールで浸出した丹参酊は神経衰弱や眩暈症などに用いる。近年では丹参の注射薬を慢性肝炎や心筋梗塞などの治療に応用している。

木曜日, 11月 28, 2013

淡菜

○淡菜(たんさい)

 軟体動物のイガイ目イガイ科の二枚貝、イガイ(Mytilus coruscus)などの貝類の肉を用いる。イガイは北海道南部から九州、朝鮮半島、中国北部沿岸に分布し、水深20mまでの岩礁に群生する。

 イガイはガラスガイ、ニタリガイなどの別名があり、殻長は13cmくらいで表面が黒っぽい二枚貝で、肉は美味しく、中国や日本で食用にされる。中華料理では淡菜または東海美人と呼ばれている。

 漢方では肝腎を補い、精血を益する効能があり、肺結核などの慢性病や体力低下、盗汗などに用いる。一方、ニュージーランド産の緑イ貝、モエギイガイ(Perna canaliculus)には抗炎症作用があり、リウマチ、関節炎、腰痛などの健康食品として市販されている。ちなみに近縁種のムラサキイガイ(M.galloprovincialis)はムール貝とも呼ばれ、フランス料理などで珍重されている。

水曜日, 11月 27, 2013

タラ木

タラ木(たらぼく)

 日本全土、朝鮮半島、中国東北部に分布するウコギ科の落葉低木タラノキ(Aralia elata)の根皮や樹皮を用いる。日本市場ではタラ木、タラ木皮、タラ根皮などという。

 ニホンではタラノキを漢字の楤木にあてるが、タラノキは中国名の遼東楤木に相当し、中国ではタラノキの根皮あるいは樹皮を刺老鴉という。中国産の楤木(A.chinensis)は楤木根、樹皮を楤木白皮という。

 タラノキの幹は2~4mくらいに直立し、樹皮の表面には多数の鋭い刺がある。タラの若芽(タラの芽)は独特の香味のある山菜としてよく知られている。

 タラノキの根皮や樹皮にはサポニンのα・βタラリンやエラトサイド、プロトカテキュ酸などが含まれ、エラトサイドには糖やアルコールの吸収を抑制する作用のあることが報告されている。日本の民間ではタラ根皮の煎じたものを「たら根湯」と称し、糖尿病の妙薬として用いられている。またトゲを煎じて服用すれば高血圧にもよいといわれている。

 中国の楤木皮はリウマチ痛風などによる関節痛に用いられるほか、胃潰瘍や腎臓病、神経痛にも使われている。また腎炎による浮腫や肝硬変による腹水、糖尿病などの民間療法としても用いられている。

 一方、タラノキの樹皮である刺老鴉は安神薬や強壮・強精薬として知られている。ちなみに美白作用のあるエラグ酸の原料に用いられているタラ(Tara)は、ペルー原産のマメ科の植物(Caesalpinia spinosa)のことである。

火曜日, 11月 26, 2013

煙草

○煙草(たばこ)

 南米のボリビア南部のアンデス山地を原産とするナス科の多年草タバコ(Nicotiana tabacum)の葉と茎を用いる。現在では中国、アメリカ、インドなど世界中で広く栽培されている。

 紀元前からすでに中米のインディオの間ではタバコの喫煙が行われ、700年ころにはユカタン半島のマヤ族などにも伝わった。15世紀末、コロンブス一行はサンサルバドル島で原住民の喫煙を知り、1518年にはタバコの種子がスペインへともたらされた。

 タバコ(Tobacco)という語源は原住民が喫煙に用いていたパイプの名に由来し、属名のニコチアーナというのは種子をフランスに伝えたフランス大使のジャン・ニコーの名に由来する。日本へは16世紀末の戦国時代に南蛮船により伝えられ、九州で栽培されるようになり、喫煙の習慣は急速に広まった。

 かつてインディオにとってタバコは宗教的な儀式の道具であり、またタバコの煙によって病人の体に入っている「病気の精霊」を追い出すものと考えられていた。ヨーロッパでも喘息、頭痛、痛風などの万病の霊薬として伝えられたが、次第に嗜好品として広がっていった。

 タバコの葉の成分はアルカロイドのニコチンのほか、ノルニコチン、アナバシンなどが含まれている。ニコチンは交感神経次いで副交感神経を興奮させるが、のちに抑制する。中枢神経に対しても全体を興奮させるが、のちに抑制が生じる。

 急性ニコチン中毒の症状では嘔吐、腹痛、下痢、流涎、冷汗、眩暈、脱力発作、精神錯乱がみられ、さらには失神、痙攣を生じて呼吸麻痺で死亡する。ニコチンは毒性が強いため医療には用いられないが、ニコチンの硫酸塩は殺虫剤として農薬などに利用されている。

 一般にタバコの喫煙は抗ストレス作用があり、一時的に精神活動を活発にする効果があるといわれている。しかし煙の中にはピリジン、タール様物質、フェノール様物質などの化合物が含まれ、タバコ肺癌、喘息、咽喉頭癌、慢性閉塞性肺疾患、虚血性心疾患、バージャー病などの疾患との因果関係が指摘されている。

月曜日, 11月 25, 2013

○獺肝(たっかん)

 ほぼ世界全域に生息するイタチ科の動物カワウソ(Lutra lutra)の肝臓を用いる。かつて日本各地にニホンカワウソが生息していたが、毛皮はラッコに似ていて良質のために乱獲され、1979年に高知県の須崎で目撃されたのを最後に、現在では絶滅したと考えられている。

 体長約70cmくらい、尾の長さは40cmくらいの細長い茶褐色の動物で、脚には水かきがある。川や湖の岸辺に生息し、半水生動物で、夜間活動して魚介類や小鳥、ネズミ、カエルなどを食べている。薬材の肝臓は6片に分かれた黒褐色のもので、ひとつが5cmくらいである。

 漢方では滋陰清熱・止咳・止血の効能があり、虚労や結核、慢性疾患などによる発熱、盗汗、咳嗽、喘息、下血などに用いる。金匱要略では獺肝一味をあぶって粉末にしたものを肺結核に用いている(獺肝散)。

土曜日, 11月 23, 2013

竹蜂

○竹蜂(たけばち)

 中国の華南地方や台湾に分布するミツバチ科のタイワンタケクマバチ(Xylocopa dissimilis)の乾燥した全虫体を用いる。このクマバチは竹に営巣するもので、竹の各室に花粉と蜜を貯えて産卵し、冬には巣内で越冬する。

 このクマバチを秋から冬に採取するが、まずハチの群れが竹の中にいるときに穴を塞ぎ、切り倒したものを火で燃やし、ハチが死ぬのを待って竹を割って取り出す。2~4匹をあぶって乾燥し、粉末にして服用する。

 漢方では清熱解毒・定驚の効能があり、咽頭炎や扁桃炎、歯痛、口内炎、のぼせ、小児のひきつけなどに用いる。

金曜日, 11月 22, 2013

沢蘭

○沢蘭(たくらん)

 日本各地から東アジアにかけて分布するシソ科の多年草シロネ(Lycopus lucidus)の開花期全草を用いる。シロネの根は地筍という。根が白いためにシロネといい、春に肥大した根を掘り出して食用にすることができる。

 シロネは水辺や湿地に生え、葉はキク科のフジバカマ(Eupatorium japonicum)に似ていることから沢蘭といわれるが、香りはない。古くから蘭草としばしば混同され、フジバカマやサワヒヨドリ(E.lindleyanum)を沢蘭にあてている本草書もある。中国でも地方によってはフジバカマなどが沢蘭と呼ばれて用いられている。

 全草には精油、配糖体、タンニン、サポニンなどが含まれ、強心作用や血行促進作用が知られているが、詳細は不明である。漢方では活血・調経・利水消腫の効能があり、瘀血による月経の遅れや生理痛、産後の浮腫などに用いる。

 婦人科の常用薬であり、月経不順や生理痛には香附子・当帰などと配合する(四制香附丸)。また打撲による内出血や捻挫、腰痛などにも効果がある。腫れに沢蘭の生の葉をすりつぶして塗布する民間療法もある。

木曜日, 11月 21, 2013

沢瀉

○沢瀉(たくしゃ)

 中国東北部や朝鮮、日本の北部に分布し、沼沢地や浅い水中に生えるオモダカ科の多年草サジオモダカ(Alisma plantago-aquatica)の塊茎を用いる。北海道や信州で栽培されているが、市場品のほとんどは中国などからの輸入品で、四川省の川沢瀉や福建省の建沢瀉などが有名である。

 沢瀉という名は水中(沢)にあって水を弾く性質(瀉)があることに由来するとか、薬の効能が「水を去ること(瀉)」に由来するといわれている。水面から出た葉が人の顔のように見えることからオモダカの名がある。

 サジオモダカの根茎には多量のデンプンやアミノ酸、レシチンのほか、トリテルペノイドのアリソールA・B・Cなどが含まれ、利尿作用やコレステロール低下作用、血糖降下作用などが報告されている。

 漢方では利水・清熱の効能があり、体内に水分が停滞した浮腫や胃ない停水、尿量の減少、排尿障害、嘔吐、下痢、口渇などの症状に用いる。

水曜日, 11月 20, 2013

沢漆

○沢漆(たくしつ)

 日本各地、アジア、ヨーロッパに分布するトウダイグサ科の越年草トウダイグサ(Euphorbia helioscopia)の全草を用いる。中国では開花期に採り、根を除いて用いる。枝先に杯状の花序が多数密生する様子を、昔の灯台にみたててトウダイグサという。

 茎や根から出る白い乳液に触れると炎症や水泡などの皮膚炎や結膜炎などがおこり、誤って内服すれば咽が腫れて嘔吐や腹痛、下痢となり、さらには眩暈や痙攣の症状もみられる。ただし、死亡するほどは強くない。

 峻下薬の巴豆や甘遂、大戟、蓖麻子はいずれもトウダイグサ科の植物である。日本ではトウダイグサの根茎をと称し、大戟の代用にしたこともある。全草にはケルセチンやトリヒマリンなどのフラボノイドなどが知られているが、有毒成分は明らかではない。

 漢方では利水・化痰・散結の効能があり、浮腫や腹水、瘰癧(頸部リンパ腺腫)などに用いる。効能は大戟とほぼ同じであるが、作用は緩和であり、毒性も大戟より弱い。

 腹水や全身性の浮腫には単独あるいは大棗と併用して用いる。全身の浮腫とともに咳嗽や呼吸困難のみられるときには紫苑・白前などと配合する(沢漆湯)。近年、中国ではリンパ節結核や食道癌などに対する臨床研究がされている。日本の民間では乳汁を疣贅に塗る治療法がある。

火曜日, 11月 19, 2013

槖吾

○槖吾(たくご)

 北日本を除く日本各地や朝鮮、中国などに分布するキク科の常緑多年草ツワブキ(Farfugium japonicum)の茎や根茎、葉を用いる。中国では前走を蓮蓮草と称して薬用にする。ツワブキは艶蕗と書き、葉がフキの葉に似てしかもツヤがあることによる。春先のやわらかい葉柄は食用にもなる。

 葉にはアルカロイドのセンキルキンのほか、ヘキセナールなどが含まれ、ヘキセナールには強い抗菌作用がある。ただしセンキルキンには肝毒性があるとも報告されている。

 日本の民間療法ではフグやカツオなどの魚の中毒のときに煎じた液や生の葉の絞り汁を服用する。また化膿や湿疹などに生の葉を火で炙って軟らかくしたものを患部に貼ったり、痔疾に煎じた液で患部を洗うという療法もある。

 胃腸薬として知られる恵命我神散には莪朮末などと配合されている。中国でも民間薬として感冒や扁桃炎、皮膚病の治療に用いている。

金曜日, 11月 15, 2013

高遠草

○高遠草(たかとうぐさ)

 日本全土、朝鮮半島、中国東北部に分布するキンポウゲ科の多年草アキカラマツ(Thalictrum minus)の全草を用いる。中国ではアキカラマツの根を煙鍋草という。日本では秋の開花期で結実する前に採取する。

 名前は花の形がカラマツの葉に見えることから名付けられたカラマツソウと同属植物で、秋に咲く唐松草という意味である。江戸時代より長野県の高遠藩で利用されていた腹痛の薬草であることから高遠草と呼ばれ、戦時中に苦味健胃薬が不足したことから有名となった。

 苦味成分にアルカロイドのタカトニン、マグノフロリンなどが含まれ、少量では健胃・整腸・解熱の効果があるが、多量に服用するとクラーレ様作用が出現し、神経麻痺、血圧降下などが発現する。

 日本の民間薬として食べ過ぎ、食欲不振、腹痛、下痢など胃腸の症状に用いられる。中国では煙鍋草を歯痛、皮膚炎、湿疹などに内服・外用として用いている。ただしアキカラマツは有毒植物であり、注意が必要であるる

木曜日, 11月 14, 2013

タイム

○タイム

 地中海沿岸地方の原産で日本には明治時代に渡来したシソ科の常緑小高木タチジャコウソウ(Thymus vulgaris)の開花期の全草を用いる。初夏に薄紫色の小さな花を咲かせ、独特の芳香がある。この香りから麝香草の名がある。

 タイムとは「力」を意味し、この香りをかぐと力が湧くといわれる。古くからタイムは勇気のシンボルとされ、ローマ時代にはタイムを浸した水を兵士たちが浴びたといわれる。タイムは独特の香りと苦味のある香辛料としても知られ、クラムチャウダーやソーセージ、魚のソースなどに用いられる。この芳香は石鹸などの香料としても知られている。

 成分にはチモール、カルバクロール、シメンなどからなる精油が含まれ、水蒸気蒸留すればチアミン油(タイム油)が得られる。チモールには抗菌・抗真菌作用、駆虫作用、チモールやカルバクロールなどには去痰作用がある。このチモールは局所殺菌剤や軟膏剤として用いられるほか、うがい薬、洗浄薬、歯みがき剤に添加されたり、家畜の駆虫薬としても利用されている。

 タイムのハーブティーには発汗作用や去痰作用、消化器系の鎮静作用も認められている。このためヨーロッパでは鎮咳薬、感冒薬として感冒、気管支炎、咽頭炎、百日咳などに用いられている。また、うがい薬や口内洗浄薬として咽頭炎や歯肉炎に効果があり、入浴剤として利用すればリウマチの痛みを和らげる。

 タイム油は皮膚および粘膜の刺激剤として用いられる。日本には同属植物のイブキジャコウソウ(T.quinquecostatus)が自生し、百里香とも呼ばれている。

水曜日, 11月 13, 2013

大麻

○大麻(たいま)

 中央アジア原産のクワ科の一年草アサ(Cannabis sativa)の雌株の未熟果穂をつけた枝先や葉を用いる。本来、この植物をアサ(麻)と呼んでいたが、いつの間にか繊維植物の総称として麻というようになり、現在では亜麻や苧麻の繊維のことを麻と表示するようになった。このためアサのことをタイマ(大麻)と称して区別している。

 紀元前20世紀には中東地域で栽培され、紀元前に中国に伝わり、日本にも弥生時代にすでに栽培されていたと考えられている。古くは大麻を苧と称し、戦前までは日本各地で栽培され、現在でも栃木県では「とちぎしろ」と呼ばれる品種が栽培されている。

 アサの茎を収穫し、蒸して皮を剥ぎとり、さらに加工して細くほぐして麻糸とする。この麻糸は織物、ロープ、魚網などに利用される。アサの種子は生薬の麻子仁で、一般には苧実とか麻実とも呼ばれて七味唐辛子や小鳥の飼料、製油原料などにも用いられている。一般に麻の穂や葉などには幻覚物質が含まれるが、その含有量は品種によって異なり、日本の栽培品種にはほとんど含まれない。

 幻覚薬の大麻として用いるのは熱帯品種のインドアサ(C.indica)であり、東南アジアやメキシコなどで栽培されている。ところがこの大麻を温帯で栽培すると樹脂を含まなくなるという。米国では繊維作用として品種改良してアサをヘンプ(hump)と呼び、麻薬性のある品種をカナビス(cannabis)と呼んで区別している。

 インドでは紀元前9世から医薬用として用いられた。その後、回教徒によって各地に伝えられて、アラビアでは幻覚薬として知られ、17世紀にはヨーロッパでも薬として用いられるようになった。しかし東南アジアの民間では鎮静薬とするのみで、麻薬的には使用しない。

 中国の本草書では麻蔶、麻花、麻葉などの名で収載され、神農本草経には「多食すると人を狂い走らせる」とある。2世紀ごろの外科医、華陀は大麻を配合した麻沸散で全身麻酔をかけ、開腹手術などを行ったと伝えられている。ただし、漢方では種子の麻子仁は用いても、大麻はあまり利用していない。麻薬として用いる大麻の乾燥した葉などはマリファナと呼ばれ、琥珀色の樹脂を粉にしたものをハシシュという。一般に内服よりも喫煙のほうが効力は強い。

 葉にはカンナビノイドのテトラヒドロカンナビノール(THC)などが含まれている。このTHCには鎮静・鎮痛・多移民・麻酔作用とともに幻覚などの精神作用がある。大麻を喫煙すると身体的には頻脈、目の充血、口渇作用がみられ、精神的には多幸感、感覚の変化、注意力低下、被暗示性亢進、さらには非現実感、幻覚、妄想なども出現する。一般に精神的依存はあるが、身体的依存はないとされている。つまり弱いながらも習慣性があり、慢性中毒では無気力となる。

 現在、大麻に関する規制は国や州によって異なり、オランダやスイスなどは比較的自由であるが、日本では大麻取締法により栽培や使用が規制されている。

火曜日, 11月 12, 2013

大腹皮

○大腹皮(だいふくひ)

 マレー半島原産でインドネシア、フィリピン、中国南部に植栽されるヤシ科の常緑高木ビンロウ(Areca catechu)の果実の果皮を大腹皮という。種子は檳椰子という。日本には奈良時代にこの果実が薬用や染料の目的で輸入された記録がある。

 一般に果実を半割りにして種子を除いているため、長さ6cm、幅3cm、厚さ1cmぐらいのお碗形をしており、外側はシュロ状の繊維で覆われ、内側は黄褐色でつやがある。本来、この部分は種子を包んでいる繊維性の果肉である。

 漢方では降気・寛中・止瀉・利水消腫の効能があり、消化不良や腹部の膨満感を改善し、脚気や腹水などの浮腫に用いる。

月曜日, 11月 11, 2013

大風子

○大風子(だいふうし)

 東南アジアやインドなどで栽培されているイイギリ科の常緑高木ダイフウシノキ(Hydnocarpus anthelmintica)の種子を用いる。大風というのはハンセン病(癩病)のことである。

 インドには古くからチャウルムグラ(H.wightiana)の種子を食べるとハンセン病が改善するという言い伝えがあり、それが元代に中国に伝えられ、明代には同属植物が大風子と名付けられてハンセン病の治療に盛んに用いられるようになった。ヨーロッパには1854年に英国の医師によってハンセン病に有効であることが紹介され、1920年にはオーストリアの植物学者ロックによってその基原植物が明らかになった。

 チャウルムグラ油(大風子油)はこれまで治療のなかったハンセン病に対して非常に有効で、とくに初期治療に優れていた。今日、サルファ剤が開発されてからはあまり用いられなくなった。

 種子成分のヒドノカルプス酸やチャウルムグラ酸などの脂肪酸にはレプラ菌やムグラ菌に対して抗菌作用が認められている。ただし、副作用も強く、内服では嘔吐や腹心、眩暈、腹痛などの反応が現れ、注射液では局所痛が強く、全身的な症状が出る。

 漢方でもハンセン病に丸薬として用いるほか、軟膏などに配合して外用薬として用いる。外用薬では疥癬や梅毒などの皮膚疾患にも応用される。

土曜日, 11月 09, 2013

大棗

○大棗(たいそう)

 ヨーロッパ南部からアジア西南部が原産とされているクロウメモドキ科の落葉高木ナツメ(Zizphus jujuba var.inermis)の半熟果実を用いる。ナツメの枝には刺はないか、あるいは少ないが、この母種といわれるサネブトナツメ(Z.jujuba)には刺が多い。このサネブトナツメの果実は小さくて酸味が強く、核が大きいので食用にはならないが、種子は生薬の酸棗仁である。

 ナツメは中国では紀元前よりモモやアンズとともに重要な五果のひとつとして栽培され、日本にも奈良時代に渡来した。ナツメの名前の由来は初夏に芽が出ることによるとされ、また茶の湯の道具のナツメは器の形がナツメの実に似ているためといわれる。日本でもよく庭に植えられているが、中国では子供の誕生にこの樹を植えて、嫁ぐときに持参するという風習がある。

 果実は熟すと甘くなり、生のままでも食べられているが、中国では薫製にした烏棗や砂糖に漬けた密棗などの菓子もよく親しまれている。薬用には成熟しきらずに赤くなった頃に採取し、そのままあるいは湯通しして用いる。加工により色が変化するため紅棗や黒棗に区別される。薬用には主として紅棗を用いる。虫やカビがつきやすいので保管には注意が必要である。

 ナツメの成分には糖類、有機酸、トリテルペノイド、サポニンが含まれ、また水浸液に多量のc-AMP、c-GMPが存在することが注目されている。薬理作用としては抗アレルギー、抗潰瘍、抗ストレスのほか、細胞内のc-AMPを増加させる作用などが報告されている。

 漢方では脾胃を補い、精神を安定させ、刺激の強い薬性を緩和する効能があり、食欲不振、下痢、動悸、ヒステリーなどに用いる。中国ではアレルギー性紫斑症や血小板減少症の治療効果に関して研究されている。ただし、過量に用いると便秘や腹部膨満感を生じることもある。

金曜日, 11月 08, 2013

大青葉

○大青葉(たいせいよう)

 クマツヅラ科のマキバクサギ(Clerodendron cyrtophyllum)、タデ科のアイ(Polygonum tinctorium)、アブラナ科のホソバタイセイ(Isatis tinctoria)やタイセイ(I.indigotica)、キツネノマゴ科のリュウキュウアイ(Strobilanthes cusia)などの葉や枝葉を用いる。

 日本ではアイの全草を藍草という。マキバクサギの根は大青根、ホソバタイセイやタイセイ、リュウキュウアイなどの根は板藍根、アイの果実は藍実という。これらから精製された藍色の色素は青黛という。いずれも藍染の原料として知られているが、化学染料の出現とともに栽培がすたれてきている。

 成分には配糖体のインジカンがほぼ共通して含まれ、抗菌・抗ウイルス作用が認められている。漢方では清熱涼血・解毒の効能があり、高熱や発疹などを伴う感染症、例えば麻疹、流感、肝炎、脳炎、急性腸炎、肺炎、丹毒などの疾患に用いる。

 感冒で高熱、頭痛、咽頭痛などのみられるときには羗活・柴胡などと配合する(清瘟解毒丸)。上気道炎や扁桃炎などには板藍根・草河車などと配合する(感冒退熱冲剤)。日本の民間では藍草を発熱、外傷、月経不順、痔などに用いる。

木曜日, 11月 07, 2013

大豆黄巻

○大豆黄巻(だいずおうけん)

 マメ科のダイズ(Glycine max)の種子を発芽させ、1cmくらいのもやしになったものを用いる。ダイズはアメリカをはじめ、ブラジル、中国、アルゼンチンなど世界各地で栽培され、ダイズもやしは中華料理、韓国料理で多く利用されている。

 ダイズの種皮の色には淡黄、茶、緑、黒色などがあり、一般に黄色い黄大豆がダイズとしてよく知られているが、通常、薬用には黒大豆(クロマメ)が用いられ、大豆黄巻もクロマメもやしを用いる。

 大豆黄巻の作り方は、まずダイズの外にしわができるまで水に浸した後、ざるの上に湿った状態のままで置いて発芽させる。次いで殻が落ちないように風通しのよいところで半乾きにした後日干しして乾燥させてできあがる。そのうち清水に浸したものを特に清水黄巻という。種子にはソヤサポニンやゲニスチン、ビタミンCなどが含まれる。

 漢方では解表・解暑・利水消腫の効能があり、夏の感冒や脚気などによる発熱や下痢、胸苦しい、体が重いなどの症状に用いる。とくに夏季の常用薬として知られ、また全身性の浮腫や関節の腫痛にも用いる。

 金匱要略では虚労で体力が低下し、さらに風邪に冒されたときの諸症状に用いる薯蕷丸の中に大豆黄巻が配合されている。古くは朱砂や鉛などの配合された石薬による薬害の解毒に特効があるとされていた。

水曜日, 11月 06, 2013

代赭石

○代赭石(たいしゃせき)

 中国各地に産する赤鉄鉱(Hematite)の一種で、多少粘土を混有したものである。日本では新潟県の佐渡に産する。成分は主に酸化鉄(Fe2O3)からなり、ケイ酸(SiO2)やアルミニウム化合物(Al2O3)なども含み、またマンガン、マグネシウム、カルシウム、さらに微量のチタンや砒素を含むことがある。

 全体が赤褐色色をしており、触ると赤褐色の粉末がつく。表面に金槌で打ったような多数の凹凸があり、釘頭代赭ともいわれる。赭とは赤色のことで、中国の山東省代州から良質のものが出るため代赭石の名がある。イボデといわれ、多数のこぶ上の突起があり、質が硬く、紫赤色の光沢があるものがよいとされている。

 中国では代赭石の粉末を硫酸バリウムの代用として胃腸透視に用いている。ただし微量の砒素を含むため、マウスに長期間服用させると砒素中毒がおきるという報告がある。

 漢方では重鎮安神あるいは平肝熄風薬のひとつであり、胃気上逆や肝陽上亢の治療に用いる。嘔吐やゲップ、シャックリ、喘息症などには旋覆花・半夏などと配合する(旋覆花代赭石湯)。高血圧などによる眩暈や頭暈、耳鳴り、動悸などには竜骨・牡蠣などと配合する(鎮肝熄風湯)。

 また血熱妄行による鼻血や吐血には粉末を単独で服用したり、外傷の出血には粉末を塗布する。また温性の瀉下剤の紫円には巴豆の激しい作用を緩和するために代赭石が配合されている。

土曜日, 11月 02, 2013

太子参

○太子参(たいしじん)

 中国、朝鮮半島、日本に分布しているナデシコ科の多年草ワダソウ(Pseudostellaria heterophylla)の塊根を用いる。主産地は江蘇・山東省である。

 太子参とはもともとウコギ科のオタネニンジンの小さいものを指したが、その代用としてワダソウの塊根が広く用いられるようになった。また特に小児の治療に効果があるため別名を児参ともいう。

 漢方では人参と同じく補気・止渇の効能があり、胃腸が弱く、倦怠感や食欲不振、神経衰弱などの症状がみられるとき、病後で口渇や多汗が続くときなどに用いる。とくに小児の虚弱体質や夏かぜで寝汗が続き熱の下がらないものに用いる。

金曜日, 11月 01, 2013

大蒜

○大蒜(たいさん)

 西アジア原産とされるユリ科の多年草ニンニク(Allium sativum)の鱗茎を用いる。ニンニクは前漢の時代に長騫がインド(西域)から中国に持ち帰ったものといわれ、かつては胡蒜とか葫といわれていた。日本にも古くから朝鮮を経由して伝来し、古事記や日本書紀などにも蒜の文字がみられる。

 独特の強い臭気を有し、香辛料ではガーリックとしてさまざまな料理に用いられている。ちなみに和名のニンニクは仏教語の忍辱と書き、強烈な臭いに耐え忍ぶことを意味するとか、僧侶の隠語などという説がある。

 臭気や辛味のある野菜のことを葷というが、ニラ、ヒル、ラッキョウ、ネギなどとともに五葷(五辛)のひとつとされ、仏教では食べることが禁じられている。その影響もあってか日本料理ではあまり利用されず、戦後になって洋風料理や中華料理などの普及とともに、身近な食品になった。

 古代エジプト時代、ピラミッド造成のときに人夫の体力回復に用いられたといわれ、ギリシャ時代には虫下し、咳止め、浮腫の治療に、また世界各地で疫病除け、悪霊除けにとしても扱われた。

 ニンニクの鱗茎にはイオウ化合物のアリイン、スコルニジンのほか、ビタミンB1、ゲルマニウムやセレンが含まれている特徴がある。アリインは無味無臭であるが、細胞が破壊されると同時に含まれているアリナーゼという酵素によって分解され、刺激性の強い臭気のあるアリシンが生じる。アリシンは強い殺菌防腐作用があり、さらにビタミンB1と容易に結合してアリチアミンという化合物を作る。

 アリチアミンは腸から容易に吸収され、ビタミンB1分解酵素によっても分解されず、ビタミンB1作用を有する安定な化合物である。このアリチアミンはとても苦く、臭気も強い。これをモデルとして化学的に合成したビタミンB1誘導体がアリナミンである。またスコルニジンといわれる無臭のニンニク有効成分結晶性物質も医薬品(オキソレジン)として応用されている。最近では、アリシンを加熱してできるアホエンに強い抗酸化作用や抗血小板凝集作用、記憶力向上作用のあることが注目されている。

 一方、ニンニクには食欲増進、健胃、整腸、緩下剤、体温上昇、疲労回復などの作用が知られている。ただしニンニクを空腹時に食べると、胃液の分泌が亢進して酸度が上昇し、胃を荒らす恐れがあり、さらに一度に多く食べると、赤血球を破壊して貧血を招くこともある。また、腸内細菌のバランスを崩し、ビタミンB6欠乏症を起こすことも指摘されている。

 漢方では健胃・駆虫・消腫の効能があり、食滞や腹痛、下痢、寄生虫症、皮膚化膿症などに用いる。ちなみに中国の本草書などでは大蒜に強壮作用があるという記述はみられない。一般に漢方処方として用いられることは余りなく、専ら民間療法として用いられている。

 民間では冷え性、低血圧、慢性疾患、寄生虫症、腰痛、風邪の予防などにニンニクを食べたり、扁桃炎や円形脱毛症、腫れ物、いんきんたむしなどにすりつぶした汁を塗布する。ニンニクを熱灰の中に埋めて蒸し焼きにするなどの加熱処理をすると食べやすくなる。

 そのほかニンニク酒や醤油漬け、蜂蜜漬けなども利用されている。またニンニクを厚さ2~3mmに薄くスライスし、その上からをすえるというニンニク灸もよく知られている。近年、アメリカ国立癌研究所では、癌や生活習慣病を予防する可能性がある食品のリストの上位にニンニクを位置づけている。

木曜日, 10月 31, 2013

大戟

○大戟(たいげき)

 中国、朝鮮半島、日本各地に分布するトウダイグサ科の多年草タカトウダイ(Euphorbia pekunensis)の根を用いる。そのほか中国南西部に分布するアカネ科の多年草コウガタイゲキ(Knoxia valerianodes)の根も大戟として扱われている。一般に大戟の正常条は京大戟とされているが、実際には紅芽大戟が広く使用されており、日本に輸入されているのも紅芽大戟のみである。

 タカトウダイには有毒成分であるオイフォルビンなどの成分が含まれ、茎中の乳液に触れると皮膚炎や結膜炎が生じ、誤飲すれば咽喉腫脹、嘔吐、下痢、血中に入れば眩暈、痙攣などをひきおこす。

 漢方では逐水・消腫・軟堅の効能があり、浮腫や腹水、胸水、皮膚化膿症、瘰癧(頸部リンパ腺腫)などにもちいる。とくに峻下逐水薬として知られ、瀉下作用と利尿作用を有している。腎炎の浮腫、肋膜炎の胸水、肝硬変の腹水などに甘遂・芫花などと配合する(控涎丹・舟車丸)。

 また瘟疫による嘔吐や下痢、咽喉痛などに山慈姑などと配合する(紫金錠)。ただし作用が激しく、有毒であるため慎重に投与し、民間療法としては用いないほうがよい。

水曜日, 10月 30, 2013

大薊

○大薊(だいけい)

 中国の各地、日本の各地に自生しているキク科の多年草ノアザミ(Cirsium japonicum)の全草あるいは根を用いる。一方、小薊というのはキク科のアレチアザミ(Breea segetum)の根または全草である。

 日本の市場では、日本で採取されたノアザミをアザミ根と称して販売している。中国の市場では、大薊としてアレチアザミやその他の植物も混じっており、また地域によって根を用いるか、全草を用いるかも異なっている。

 大薊には清熱涼血・止血作用の効能があり、鼻血、喀血、血便、血尿、不正性器出血などに用いる。とくに熱証の出血に効果があり、単味で濃く煎じた液や生の絞った汁を服用する。

 小薊、荷葉、側柏葉などとともに強火で炒め炭化させ、粉末として十灰散は各種出血に用いる代表的な止血薬である。また絞った汁は外傷性出血のほか、火傷や化膿などの外用薬としても用いる。日本の民間では利尿や健胃薬として煎じて服用したり、葉の汁を腫れ物や乳腺炎、湿疹などに外用する。

月曜日, 10月 28, 2013

大黄

○大黄(だいおう)

 中国などに分布するタデ科の多年草ダイオウ類の根茎を用いる。ダイオウはおもに中国西北部の海抜2000~3000mの高山に自生し、ギシギシとよく似た植物であるが草丈は2mにも及ぶ。

 中国、朝鮮産のダイオウの基原植物にはショウヨウダイオウ(Rhcum palmatum)、ヤクヨウダイオウ(R.offcinale)、タングートダイオウ(R.tanguticum)、チョウセンダイオウ(R.coreanum)などがある。日本産のダイオウには、シベリア原産で江戸時代に渡来したカラダイオウ(R.undulatum)というのがあり、奈良県で古くから栽培されていた。このカラダイオウの根茎は、とくに和大黄という。現在では、武田薬品が信州八ヶ岳山麓で50年の年月をかけて開発した大黄の品種を信州大黄と呼んで、さかんに北海道で栽培が行われている。

 大黄は古くから世界中で用いられた下剤であり、中国の神農本草経、インドのチャラカ本草、欧州のギリシャ本草にも記載されている。大黄はその薬効が激しいため将軍という別名もあり、とくに有名な四川省のものを川軍という。また生のものを生軍というのに対し、酒と混ぜて加熱し後に乾燥したものを酒軍という。

 大黄の断面には多数の放射状に走る旋紋があり、これを錦紋大黄といい、旋紋のみられないものを品質の劣る土大黄として区別する。ちなみに和大黄はこの土大黄色ひとつである。一般に錦紋系の重質品である西寧大黄が良品とされているが日本では江戸時代からおもに雅黄といわれる軽質品が輸入されている。

 大黄の下剤成分としてセンノシド類が知られており、センノシドは腸内細菌によってレイン・アンスロンという活性成分に変換されて大腸で効果を発現する。またアントラキノン類の抗菌・抗炎症作用、リンドレインの抗炎症作用、ラタンニンの血清BUN低下作用なども明らかにされている。

 漢方では通便・清熱・瀉火・活血化瘀の効能があり、熱性疾患、興奮症状、瘀血、腹部腫瘤、無月経などに用いる。大黄の瀉下成分は熱に不安定であるため30分以上煎じるとその効果は激減するため、下剤として用いるときには一般に後から煎じる。一方、清熱・活血薬として用いるときには長時間煎じる方が効果は強くなり、、瀉下作用は緩和される。

 また酒軍にして用いれば瀉下作用は弱まり、抗炎症作用や駆瘀血作用が強くなる。ただし大黄には子宮収縮作用があり、また母乳に移行するため、妊娠中や授乳中の服用は控えるべきとされている。

金曜日, 10月 25, 2013

大茴香

○大茴香(だいういきょう)

 中国南部、台湾、ベトナム北部に分布するシミキ科(モクレン科)の常緑小高木ダイウイキョウ(Illicium verum)の成熟果実を用いる。単に茴香といえばセリ科のウイキョウ(Foeniculum vulgare)の果実、小茴香(フェンネル)のことである。

 ダイウイキョウの果実は星型に8つに割れており、別名八角あるいは八角茴香という。一般に未熟な果実を乾燥させ、そのままあるいは粉末にして香辛料にする。茴香やアニスに似た風味と苦味があるため、大茴香とかスターアニスともいわれる。日本などに自生するシキミとよく似た植物であり、ダイウイキョウはトウシキミとも呼ばれる。

 シキミはアニサチンやシキミニンなどの痙攣毒を含み有毒である。かつてスターアニスと称してシキミの実がドイツに輸入され、中毒事件を起こしたことがある。ダイウイキョウは中華料理には欠かせないスパイスで、東坡肉などの肉や内臓の煮込みによく入れられる。

 果実にはアネトールを主成分とする精油を含み、そのほかピネン、リモネン、フェランドンなどが含まれる。アネトールには芳香があり、健胃・消化、駆風作用が知られている。漢方で温裏・理気・止痛の効能があり、冷えによる嘔吐や腹痛、食欲不振などに用いる。ちなみに市販のウイキョウ油はほとんどが大茴香であり、歯磨きなどの賦香料、アネトール原料として利用されている。

 近年、抗インフルエンザウイルス剤・タミフルの原料としてトウシキミの成熟果実から抽出されたシキミ酸が利用されていることで大茴香が品不足となり、話題となった。

月曜日, 10月 21, 2013

鼠李子

○鼠李子(そりし)

 日本では北海道、本州、九州、四国に分布するクロウメモドキ科の落葉低木クロウメモドキ(Rhamnus japonica)の果実を用いる。中国産はチョウセンクロツバラ(R.davurica)の果実である。ウメモドキに似て、果実が黒くなるためクロウメモドキの名がある。

 クロウメモドキの果実にはケンフェロール、エモジン、クリソファノールなどが含まれ、いずれも大腸刺激性の瀉下作用がある。漢方では通便・清熱・消癥の効能があり、水腫や腹部脹満感、腹部腫塊、齲歯の痛みなどに用いる。

 日本の民間療法ではもっぱら鼠李子を緩下剤として用いている。鼠李子の新鮮なものを服用すると嘔吐を催すので、採取後1年以上経ったものを使用する。クロウメモドキの同属植物として北米産のカスカラサグラダ(R.purshiana)、ヨーロッパ産のラムヌス・フラングラ(R.frangula)、中央アジア産のラムヌス・カタルチカ(R.cathartica)などがあり、いずれも緩下作用のある薬用植物として有名である。

金曜日, 10月 18, 2013

蘇葉

○蘇葉(そよう)

 中国原産のシソ科の一年草シソ(Perilla frutescens var.acuta)やチリメンジソ(P.frutescens var.crispa)の葉を用いる。シソの種子は紫蘇子、茎は紫蘇梗という。日本にも古くに伝わり、野生化しているものもある。

 紫蘇には特有のペリラアルデヒドのにおいがあり、香りが強いものほど良品である。シソはアントシアニン系の赤い色素、シアニンの有無によって赤ジソ系と青ジソ系に分けられ、青ジソは大葉ともいわれて刺身のつまや薬味として、赤ジソの葉は梅干しの着色などに利用されている。

 薬用には赤ジソを用い、とくにシソの変種で葉の緑がギサギザでシワの多いチリメンジソが用いられる。シソの紫色の葉に含まれるアントシアニン色素は梅のクエン酸などで酸化されると赤紅色に変化するが、梅干しが赤色なのはこのためである。ちなみに梅とシソを漬けた梅干しは日本独特の保存食である。

 葉の成分にはアントシアン色素や精油のペリラアルデヒド、ピネン、リモネン、ペリラケトンなどが含まれ、抗菌・解熱作用や鎮静作用が知られている。また、シソの葉エキスにはロスマリン酸などが含まれ、免疫を活性化させるTNFを抑制し、ヒスタミンの遊離を抑制する作用があり、花粉症などのアレルギー症状に対する効果が認められている。

 漢方では解表・理気・解魚毒・安胎の効能があり、感冒や咳嗽、喘息、腹満、流早産、魚毒による症状などに用いる。蘇葉の発汗作用は麻黄や桂皮に比べると弱いが、理気作用、つまり胸の痞えや悪心、嘔吐などを改善する作用もあり、胃腸型の感冒にしばしば応用される。蘇葉の理気作用は食欲不振のほか妊娠悪阻にも効果がある。

 また魚介類による中毒や蕁麻疹にも効果があり、このため刺身のつまに青ジソが添えられているといわれている。また陰嚢湿疹に蘇葉の煎じた液を外用すると効果がある。

木曜日, 10月 17, 2013

蘇木

○蘇木(そぼく)

 インドからマレー半島原産で中国南部や台湾でも栽培されるマメ科の常緑小高木スオウ(Caesalpinia sappan)の心材を乾燥したものを用いる。スオウというのは中国名の蘇方の転じたもので、蘇芳と蘇方木とも書かれる。

 心材には黄色結晶であるブラジリンを含み、これは空気中で酸化されて紅色のブラジレインとなる。古くから赤色染料(蘇方染め)として有名である。なお同じマメ科の植物にハナズオウがあるが、この花の色が蘇方染めの色に似ていることから名付けられた。ちなみに南米に産する同属の植物をポルトガル人が誤って蘇方木(Pau Brasil)と詠んだが、これがブラジルの国名の由来といわれている。

 木部にはブラジリンのほか、フェランドレンやオシメンなどを主成分とする精油が含まれる。また煎液に心臓の収縮力を増強、中枢神経抑制、抗菌などの作用のあることが知られている。漢方では活血・通経・止血の効能があり、外傷や腹痛、無月経、産後の瘀血など婦人科疾患に用いる。

 打撲傷などの瘀血による諸症状に紅花・当帰・大黄などと配合する(通導散)。産後の悪露や骨盤内の炎症に川芎・桃仁などと配合する(活血散瘀湯)。また東南アジアでは収斂性の止瀉薬として、インドネシアでは痔や梅毒の治療に用いている。

水曜日, 10月 16, 2013

鼠婦

○鼠婦(そふ)

 ダンゴムシ科の動物オカダンゴムシ(Armadillidum vulare)の乾燥した全虫を用いる。オカダンゴムシはユーラシア大陸を原産とするが、現在では世界中に広く分布している。

 体長1~1.5cmくらい、黒灰色の長楕円形で、背中が七節に分かれて、身を守るために体を丸くする。この丸くなった様子が団子に似ていることからダンゴムシの名がある。朽ち木や石の下など湿ったところに普通にみられる。

 漢方では消癥・利水・解毒・止痛みの効能があり、マラリアによる肝脾腫、婦人の腹部腫瘤、排尿障害、歯痛などに用いる。マラリアによる肝脾腫には別甲・柴胡などと配合する(別甲煎丸)。

火曜日, 10月 15, 2013

蘇鉄実

○蘇鉄実(そてつじつ)

 九州南部や沖縄県、中国南部に分布するソテツ科の常緑低木ソテツ(Cycas revoluta)の種子を用いる。日本の民間では一般に蘇鉄実、蘇鉄子というが、中国では鉄樹果という。ソテツはヤシ科の植物に似ているが雌雄異株の裸子植物であり、1895年に池野成一郎がソテツの精子を発見したことでも有名である。

 ソテツ(蘇鉄)という名は元気がなくなれば鉄釘を幹に打ちつけたり、鉄屑を養分として与えると蘇生することに由来する。中国でも蘇鉄というが、鳳尾蕉、鉄樹などとも呼ばれている。

 種子は朱色の3~4cmの偏平な卵形である。果実や幹の髄にはデンプンが含まれ、種子の外皮や内皮を除いた胚乳を粉末にして蘇鉄もちを作って食用とする。蘇鉄は救荒植物として古くから利用されていたが、ホルムアルデヒドなどの有毒物質を含むため十分に水洗いしないと中毒を起こす。牛が種子を食べて麻痺症状を起こすことがある。

 種子にはアデニン、ヒスチジン、ホルムアルデヒド、配糖体のサイカシンが含まれ、アデニンには鎮咳作用、ホルムアルデヒドには殺菌作用がある。またサイカシンなどの有毒アゾキシ配糖体は体内で加水分解されて発癌性のあるメチルアゾキシメタノールを遊離する。これはグァム島の住民の筋萎縮性側索硬化症の原因物質ともされている。

 日本の民間療法では種子を煎じて鎮咳・通経・健胃薬として用いたり、煎液で切り傷を洗う方法がある。しかし発癌性が強いので服用しないほうがよい。

土曜日, 10月 12, 2013

蘇合香

○蘇合香(そごうこう)

 東南アジアに分布するマンサク科の落葉小高木レヴァントスティラックス(Liquidambar orientalis)の樹脂を用いる。トルコ産を主産地とするが、中国でも広西省で栽培されている。かつて蘇合香はトルコ近辺に産するエゴノキ科の植物、スティラクス(Styrax offcinal)から得られる樹脂のことであったが、16世紀以降、安価なためこのマンサク科の植物の樹脂に代わってしまった。

 樹脂は粘稠で芳香がある。樹幹を深く傷つけると木部の外側にバルサムが溜る。この樹皮に染み込んだ部分を剥がして圧搾し、さらに水と煮沸して圧搾すると黄白色ないし褐色の粘稠な液体が得られる。これをアルコールに溶かし、濾過してアルコールを蒸発して精製する。この水飴のような半流動性の濃い液体を蘇合香という。蘇合香は水に入れると沈み、芳香があり、苦味を帯びた辛さがある。薬用以外にも化粧用香料として用いられる。

 成分にはケイヒ酸やケイヒ酸エステルなどが含まれ、弱い抗菌作用や刺激性の去痰作用が認められている。漢方では開竅・止痛の効能があり、麝香などと同じく中枢性の興奮薬として知られている。脳卒中や失神、狭心症の発作には犀角・麝香などと配合する(蘇合香丸)。狭心症の痛みには竜脳・乳香などと配合する(冠心蘇合丸)。

金曜日, 10月 11, 2013

素馨花

○素馨花(そけいか)

 インドからイランにかけて野生するモクセイ科のつる性常緑低木ソケイ(Jasminum officinale)の花や花蕾を用いる。硬い蕾は特に素馨針という。

 中国南部や台湾でも栽培され、日本にも19世紀の初めごろに伝えられた。白く小さな花が夜間に開き、芳香を放つ。素馨とい名は中国の美女の名前に由来する。ソケイ属は学名をジャスミンといい、花に芳香のあるものが多く、香料源として栽培されているものが多い。ジャスミン茶といえば同属植物のマツリカ(J.sambac)の花の入ったお茶をいうが、ソケイもジャスミンの一種であり、花から得られるジャスミン油は化粧品や香料として用いられている。

 ジャスミン油にはリナロールやベンジルアセテート、芳香の主成分であるジャスモンが含まれている。漢方では疏肝・理気・止痛の効能があり、理気薬のひとつとしておもに肝気欝結による胸脇部の痛みや腹痛に用いる。例えば消化不良や潰瘍、肝炎などによる上腹部や側腹部の痛みに使用する。お茶として愛飲すれば婦人の更年期障害にも効果がある。

木曜日, 10月 10, 2013

側柏葉

側柏葉(そくはくよう)

 中国または朝鮮半島を原産とするヒノキ科の常緑小高木コノテガシワ(Thuja orientalis)の若枝を含む葉を用いる。種子は柏子仁という。ヒノキに似た葉を有するが、葉は表裏の区別がなく全てが垂直に並び、手掌を立てたように見えるためコノテガシワ(児手柏)という名がある。日本には江戸時代に伝えられ、庭園樹として広く栽培されている。

 葉にはαピネン、セスキテルペン、アルコールなどの精油、エストリド型蠟成分のユニペリン酸やサビニン酸、タンニン、フラボノール類が含まれる。漢方では涼血・止血の効能があり、吐血、鼻血、血便、血尿、不正性器出血、内出血などあるゆる出血症状に用いる。実験では止血作用は新鮮な生の側柏葉(鮮柏葉)が最も強く、炭化させた柏葉炭はそれよりも劣る。

 熱性疾患に伴う鼻血や喀血などには鮮柏葉に鮮荷葉・鮮地黄などと配合する(四生丸)。吐血や歯肉出血、喀血などには大薊・小薊などと一緒に黒焼きにして用いる(十灰散)。また寒証の出血には艾葉や乾姜などと配合して用いる(柏葉湯)。また火傷の治療に側柏葉を粉にして泥状にしたものを外用する。円形脱毛症の治療には新鮮な側柏葉をアルコールにつけた液を患部に塗る。

 近年、中国では側柏葉の鎮咳・去痰作用が注目され、慢性気管支炎や肺結核に側柏葉エキスの錠剤や注射液を用いた治療が報告されている。また高血圧の治療に煎じて茶の代わりに服用する。

水曜日, 10月 09, 2013

続断

○続断(ぞくだん)

 マツムシソウ科のナベナ(Dipsacus japonicus)やトウナベナ(D.asper)の根を用いる。中国ではおもに四川省などで採れるトウナベナ(川続断)の根が用いられるため川断とも呼ばれている。

 ナベナは本州、九州、四国や朝鮮半島、中国東北部に分布するがトウナベナは日本には自生していない。日本産の続断といわれるものはナベナではなく、キク科のノアザミ(Cirsium japonicum)やノハラアザミ(C.tanakae)であり、和続断と呼ばれる。このような混同は中国でも古くからあるが、これは続断という名が骨折や打撲、出血などの外傷の治療に効果があるという意味であり、同様の薬効をもつものが広く続断と呼び慣わされているためである。

 ナベナの根にはアルカロイドが含まれるが、詳細は不明である。漢方では補肝腎・続筋骨・活血の効能があり、筋骨を強める強壮作用がある。とくに腰や下肢の筋力低下や疼痛、打撲、捻挫などの腫張や疼痛に効果がある。これらの作用は杜仲や牛膝と似ており、しばしば併用される。

 足腰の弱りや精力の低下、冷え性、頻尿などに用いる大菟絲子丸や参鹿補片に配合されている。また崩漏(不正性器出血)や胎動不安や乳汁不足にも用いる。月経を延期させるときには蒲黄・枳実などと配合する(延経期方)。外傷には粉末にしたものを患部につける方法もある。

火曜日, 10月 08, 2013

続隋子

○続隋子(ぞくずいし)

 ヨーロッパ南部原産のトウダイグサ科の一年草、ホルトソウ(Euphorbia lathyris)の成熟種子を用いる。別名を千金子ともいい、種子の殻を除き、砕いて油がなくなるまで圧搾したものを千金霜という。

 日本には16世紀(天文年間)に渡来し、薬用および観賞用に栽培されている。ホルトソウという名はポルトガルの油(オリーブ油)に由来するといわれ、かつては種子の油を工業用にも用いていた。属名のユールフォルビア(トウダイグサ属)はローマ時代かの医師エウフォルブスにちなみ、古くから薬用にされていたことを示している。

 茎を切って出る乳液にはユホール、チルカロール、ユホルボールなどのテルペン類が含まれ、石油関連の植物として注目されている。種子には脂肪油の成分としてオイフォルビアステロイドが含まれ、これにはヒマシ油の3倍の強さに匹敵する瀉下作用がある。漢方では瀉下・逐水・破瘀の効能があり、大戟や甘遂と同じ逐水薬として肝硬変による腹水や浮腫、食中毒などに用いる。

 瘟疫による嘔吐や下痢、痙攣、悪瘡などに用いる紫金錠には山慈姑・麝香などと配合する。また駆瘀血薬として無月経やヘビ咬傷などにも用いる。ただし毒性があり、服用し過ぎれば嘔吐、ふらつき、煩躁、発汗などの中毒症状が出現する。

月曜日, 10月 07, 2013

桑葉

○桑葉(そうよう)

 クワ科の落葉高木クワの葉を桑葉という。中国では主にトウグワ(Morus alba)を用い、日本では自生するヤマグワ(M.bombycis)を用いる。クワの根の皮は桑白皮、果実は桑椹子、幼枝は桑枝と称し薬用にする。葉は養蚕のためだけでなく、桑茶としても知られている。ただし日本のクワ茶は一般に桑枝が利用されている。桑葉は習慣的に晩秋の霜に当たったものが良質といわれ、霜桑葉とか冬桑葉などと呼ばれている。

 葉にはフラボノイドのルチンやケルセチン、モラチセン、イノコステロンなどが含まれ、抗菌作用などが知られている。漢方では解熱・明目・止咳の効能があり、感冒などによる発熱、頭痛、結膜炎、口渇、咳嗽、脳卒中、蕁麻疹などに用いる。

 軽い発熱や頭痛、咳嗽、目の充血などを伴う菊花・連翹などと配合する(桑菊飲)。咳嗽や喉の乾燥の強い場合には杏仁・沙参などと配合する(桑杏湯)。慢性気管支炎や肺結核などで乾燥性の咳嗽が続くときに麦門冬・阿膠などと配合する(清燥救肺湯)。視力の低下や眩暈、皮膚の乾燥などに胡麻と配合する(桑麻丸)。また目の充血や痛みには菊花・決明子などと配合する。

 近年、健康食品として桑の葉茶が注目されている。クワの葉にはブドウ糖と構造のよく似た1-デオキシノジリマイシン(DNJ)という成分が含まれ、このDNJは糖質の分解酵素、αグルコシダーゼの働きを阻害して糖の吸収を抑える作用があり、糖尿病肥満の改善効果が認められている。

土曜日, 10月 05, 2013

桑螵蛸

桑螵蛸(そうひょうしょう)

 カマキリ科の昆虫オオカマキリ(Paratendera sinensis)、コカマキリ(Statilia maculata)などの卵蛸(巣)を用いる。カマキリの成虫を生薬では蟷螂というが、一般にはあまり用いない。桑の枝についているものが珍重されるため桑螵蛸と呼ばれている。

 カマキリの巣を晩秋から春に採取し、せいろで30~40分蒸して卵を殺した後に乾燥する。日干し乾燥したものは硬く、火であぶったものは軟らかい。一般に幼虫の出たものは用いない。

 成分は不詳であるが、卵蛸に付着しているタンパク質膜にはクエン酸カルシウムの結晶が含まれている。漢方では補陽・固精・縮尿の効能があり、頻尿、夜尿、尿失禁、インポテンツ、遺精、夢精などに用いる。

 腎虚による頻尿、遺尿、遺精、健忘症、不眠などに遠志・人参などと配合する(桑螵蛸散)。強壮剤の至宝三鞭丸などにも配合されている。ちなみに海螵蛸とはコウイカの甲骨である烏賊骨の別名である。

金曜日, 10月 04, 2013

象皮

○象皮(ぞうひ)

 哺乳類、ゾウ科のインドゾウ(Elephas maximus)の外皮を用いる。ゾウはアフリカゾウ(E.Africanus)とインドゾウに大別されるが、アフリカゾウの耳がインドゾウよりも大きいことで区別される。

 インドゾウはインド、マレー半島、スマトラ、ボルネオなどに生息し、群生して草や樹皮、タケノコなどを食べる。牙は上顎にある門歯が長く成長したもので、メスの牙はごく小さいが、オスの牙は2m以上にも及ぶ。インドゾウの性質は温和で知能が高く、インドやタイでは神聖な動物としてあがめられてきた。

 象皮の薬材は暑さ0.5~2cmの方形状で、皮の厚いものを良品とする。漢方では止血・歛瘡の効能があり、外傷性の出血や皮膚潰瘍に用いる。使用法は剥いだ皮を乾燥したものを煮つめて膏にしたり、黒焼きを粉末にして、慢性の皮膚潰瘍や傷口が閉じていないときに外用する。

木曜日, 10月 03, 2013

桑白皮

桑白皮(そうはくひ)

 クワ科の落葉高木クワの根のコルク層を除去した根皮を桑白皮という。またクワの葉を桑葉、幼枝を桑枝、果実を桑椹子という。

 日本では北海道から九州、朝鮮半島、中国に分布するヤマグワ(Morus bombycis)を用いる。中国産はトウグワ(M.alba)あるいはマグワといわれるクワで、東アジア原産で日本にも古い時代に渡来している。クワの葉は蚕の飼料として重要であり、養蚕用に多くの品種が栽培されている。

 根皮にはα・βアミリンやプレニルフラボノイドのモルシンなどが含まれ、降圧、利尿、降血糖作用作用などが報告されている。漢方では止咳・利水消腫の効能があり、炎症性の咳嗽や呼吸困難、血痰、浮腫、脚気、排尿減少などに用いる。

火曜日, 10月 01, 2013

葱白

○葱白(そうはく)

 中央アジア原産とされるユリ科の多年草ネギ(Allium fistulosum)の根の付近の白い部分を薬用に用いる。中国で栽培されてきた最も古い野菜のひとつといわれている。日本にも弥生時代に伝来したと推定されている。

 ネギの古名は「き」であったため「ひともじ」とも呼ばれていたが、根をつけて「ねぎ」と称されるようになった。関東から北ではおもに葉鞘部を長く白く仕上げる根深ネギが、関西では軟白を重視しないので葉身部が発達し緑色の濃い葉ネギ(九条ネギ)が栽培されている。仏教ではネギをニンニク、ノビル、ラッキョウ、ニラとともに五葷(五辛)と称し、修行の妨げになるとして禁じている。

 ネギの特異臭は硫化アリルであり、そのほかビタミンA・B・Cなども含まれている。漢方では解表・通陽・解毒の効能があり、感冒の初期や頭痛、下痢、腹痛、腫れ物に用いる。

 一般に豆豉と配合して頭痛や悪寒などに用いる(葱豉湯)。冷えによる腹痛や下痢には乾姜・附子などと配合する(白通湯)。民間療法でも風邪の初期に新鮮なネギの白い部分を細かく刻み、生味噌と合わせて煮立て、熱いうちに服用する「ネギ味噌」療法が有名である。ネギに味噌をつけて常食すると気分が安定する。また不眠症や咳、咽の痛みなどにネギ湿布をしたり、痔やしもやけの治療に煎じた液で洗うといった民間療法もある。

木曜日, 9月 26, 2013

草豆蔲

○草豆蔲(そうずく)

 台湾、海南島など中国南東部に分布するショウガ科の多年草アルピニア・カツマダイ(Alpinia katsumadai)の成熟した種子塊(果実)を用いる。従来、「名医別録」などに記載されている豆蔲は草豆蔲のこととされているが、形態から検討すれば別の植物という説もある。現在、豆蔲とか蔲仁と称されているものは白豆蔲のことである。

 草豆蔲の果実は直径約2cmの球形をした団塊上で三部に分かれ中に3mm前後の多数の種子がびっしりついている。種子には精油成分のαフムレンやカンフェン、フラボノイドのアルピネチンやカルダモミンが含まれ、芳香性の健胃作用が認められている。

 簡保では健脾・止嘔の効能があり、腹痛、嘔吐、下痢、食欲不振、唾液過多などの症状に用いる。急性胃炎などで胸や心窩部が痛んで嘔吐するときには枳実・縮砂などと配合する(枳縮二陳湯)。腹が冷えて脹満したり、痛むときには厚朴・乾姜などと配合する(厚朴温中湯)。

火曜日, 9月 24, 2013

桑椹子

○桑椹子(そうじんし)

 クワ科の落葉高木クワの花穂についたままの果実を用いる。中国ではおもにトウグワ(Morus alba)を用い、日本ではヤマグワ(M.bombycis)を用いる。クワの葉は桑葉、根の皮は桑白皮、幼枝は桑枝という。

 果実は多汁で甘酸っぱく、欧米ではアカミグワ(M.rubra)やクロミグワ(M.nigra)などが食用に栽培され、マルベリー(Mulberry)と呼ばれている。また欧米では果実をジャムのほか、ブドウ酒と同様に発酵させた桑実酒がつくられている。日本でも生のまま焼酎に漬けたクワの実酒がよく知られている。薬用には紫紅色に熟したときに採取される。

 果実には有機酸や糖類、ビタミンB1・B2・C、カロテンが含まれる。漢方では肝腎、特に血分を補う補養薬の効能があり、口渇や便秘、体力の低下、眩暈などに用いる。

 高齢者にみられる眩暈や視力低下、口渇、盗汗などには何首烏・女貞子などと配合する(首烏延寿丹)。老人の便秘や眩暈になどには単独で煮つめて膏剤とする(桑椹子膏)。焼酎につけた桑椹酒には五臓を補い、耳や目の機能を強めるといわれている。

月曜日, 9月 23, 2013

蒼朮

○蒼朮(そうじゅつ)

 中国大陸に分布するキク科の多年草ホソバオケラ(Atractylodes lancea)やシナオケラ(A.chinensis)などの根茎を用いる。中国から輸入されている唐蒼朮のうちホソバオケラの根茎をとくに古立蒼朮あるいは茅朮という。

 日本ではオケラ(A.japonica)を和白朮と称しているが、中国の地方によってはオケラも蒼朮のひとつとされている。もともと日本にはオケラ一種しかなかったが、江戸時代に中国から渡来してホソバオケラを栽培して佐渡蒼朮と称している。古立蒼朮は密閉貯蔵すると白い毛状の結晶が析出し、良品とされている。

 朮には蒼朮と白朮があるが、その区別に関して日本薬局方にはアトラクチロジンを多く含んで、アトラクロチンを主成分としてアトラクチロジンを含まないものを白朮と規定している。ただしシナオケラ(商品名:西北蒼朮)にはアトラクチロンが少量含まれている。そのほか蒼朮の成分にはヒネソールやβオイデスモールも含まれ、これらの結晶の断面から白い綿のように析出している。

 漢方では白朮には主に胃腸の湿を除いて健胃・滋養する作用があるのに対し、蒼朮には体内の湿(内湿)だけでなく、体表の湿(外湿)を除いて関節の腫脹や疼痛を改善する作用がある。

土曜日, 9月 21, 2013

蒼耳子

○蒼耳子(そうじし)

 日本各地に自生するキク科の一年草オナモミ(Xanthium strumarium)の果実を用いる。オナモミはユーラシア大陸に広く分布し、日本にも古くから帰化して普通に見られる植物である。近年では北米原産の帰化植物であるオオオナモミ(X.occidemtale)が多くなっている。

 トゲのある果実は衣服によくひっ付くが、オナモミの「ナモミ」とは引っかかるという意味の「ナゴム」に由来する。また蒼耳とは婦人の耳飾りに似ていることによる。果実を包む総苞には多数のかぎ状の刺があり、動物に付着して分散される特徴がある。

 果実の成分としてキサントール、キサンツミンが知られ、キサンツミンには中枢神経の抑制作用があり、有毒である。果実のほかに葉や茎にも神経毒が含まれ、中毒症状として眩暈、頭痛、嘔吐、下痢、蕁麻疹、さらには意識障害や痙攣、肝機能障害などが出現する。

 漢方では鼻孔(窮)を通じ、風湿を去る効能があり、感冒による頭痛、鼻炎、歯痛、四肢のしびれや痛み、皮膚病などに用いる。急性・慢性鼻炎や蓄膿症、アレルギー性鼻炎などには辛夷などと配合する。炎症性の鼻づまりには菊花・金銀花と配合する(鼻淵丸)。鼻がつまって頭痛がするときには辛夷・白芷などと配合する。

金曜日, 9月 20, 2013

桑枝

○桑枝(そうし)

 日本産は北海道から九州、朝鮮半島、中国に分布するクワ科の落葉高木ヤマグワ(Morus bomnycis)の幼枝を用いる。中国産は中国、朝鮮半島を原産とするトウグワ(M.alba)を用いる。クワはおもに養蚕用に栽培され、毎年刈り込まれているため低木になっているが、自然状態では樹高は10mに達する。

 生薬ではクワの葉を桑葉、根の皮を桑白皮、果実を桑椹子という。桑枝は晩秋から初夏に採取し、葉を取り除いた直径0.5~1cmくらいの枝を用いる。

 漢方では去風湿の効能があり、関節の痛みや四肢のひきつり、搔痒感、浮腫などに用いる。関節リウマチや関節炎などで腫れて痛むときには羗活・独活などと配合する(程氏蠲痺湯)。上海の民間療法では関節痛に虎杖湯や臭梧桐根などと配合して用いる(桑枝虎杖湯)。

 桑枝のみを濃く煎じた液に砂糖を加えて膏剤にした桑枝膏は四肢の関節痛や麻痺に用いられている。ちなみに日本では桑枝をクワ茶として飲用している。

木曜日, 9月 19, 2013

皂莢

○皂莢(そうきょう)

 日本産のものはマメ科のサイカチ(Gleditsia japonica)、中国産(G.sinensis)のものはトウサイカチの果実を用いる。日本の本州、四国、九州に分布するサイカチの豆果は長さ25cmくらいでねじれている。

 トウサイカチの豆果の長さは同じくらいであるが、まっすくで肉厚である。熟すと濃く褐色になり、中には扁平楕円形な種子が多数入っている。中国では小形の果実を特に猪牙皂というが、これはトウサイカチの木が衰えたときなどにできたものといわれている。

 果皮にはサポニンが多く含まれ、石鹸の代用として利用されていた。莢や種子にはサポニンのグレジシアサポニンやグレジニン、スチグマステロールなどが含まれ、去痰作用や抗菌作用が報告されている。ただしサポニンには溶血作用や胃腸粘膜の刺激作用があり、過量に服用すると嘔吐、下痢が出現し、さらには中枢神経にも影響する。

 漢方では開竅・去痰・止瀉の効能があり、脳卒中や顔面神経麻痺、発作性の頭痛、咳嗽、喀痰、下血、下痢などに用いる。猪牙皂は開竅の作用が強いとされている。

 脳卒中や失神などで急に意識不明となったときには細辛と共に粉末にしたものを鼻に吹き込んで覚醒させる(通関散)。明礬と共に粉末にしたものを口に流し込んで嘔吐させる方法もある(稀涎散)。痰が多く、胸に痰が痞え苦しく、横にもなれないときに細辛・麻黄などと配合する(冷哮丸)。なお皂莢子には潤腸・解毒・消種の効能があり、便秘や皮膚疾患などに用いる。

水曜日, 9月 18, 2013

蚤休

○蚤休(そうきゅう)

 中国各地に分布しているユリ科の多年草、金線重(Paris polyphylla)や七葉一枝草(P.polyphylla var.chinensis)、そのほか数種類の同属植物の根茎を用いる。ただし、蚤休草河車と称されている基原植物は混乱しており、しばしばタデ科のイブキトラノオ(Polygonum bistorta)の根が流通している。このイブキトラノオの根は、本来、拳参という。

 蚤休の成分にはパリフィリン、パリジン、バリスチニンなどが含まれ、鎮咳・去痰作用や抗菌作用などが知られている。毒性もあり、過量に服用すれば悪心、嘔吐、頭痛がみられ、ひどければ痙攣が現れる。近年、成分のステロイド様サポニン、ポリフィリンDに癌細胞に対してアポトーシスを誘導する抗癌作用が認められ、肝癌や乳癌など様々な悪性腫瘍に対する研究が行われている。

 漢方では清熱・解毒・止咳・鎮驚・消種の効能があり、小児の熱性痙攣、肺炎、気管支炎、喘息、マラリア、脳炎、扁桃炎、腫れ物や蛇咬傷などに用いる。たとえば毒蛇に咬まれた時には内服と併せて創口の周囲に湿布する。また腫れ物や乳腺炎、耳下腺炎、神経性皮膚炎などの患部にも湿布する。

月曜日, 9月 16, 2013

桑寄生

○桑寄生(そうきせい)

 さまざまな樹木に規制するヤドリギ科の常緑小低木ヤドリギ(Viscum album var.coloratum)やオオバヤドリギ(Taxillus yadoriki)、桑寄生(Scurrula parasitica)などの茎葉を用いる。日本では、近年までサルノコシカケ科の菌体も桑寄生と呼ばれ、断面の赤黒いものを梅寄生、白いものを桑寄生と称して誤用されていた。

 ヤドリギ科の植物は半寄生性の植物で、樹木に寄生するが葉緑体も有している。たとえばヤドリギはニレ科、ブナ科、バラ科、クワ科などの植物に寄生する。本来、桑寄生とはクワの老大木に寄生するものを指している。日本のヤドリギ科の植物にはヤドリギやアカミヤドリギのほか、マツ科に寄生するマツグミ(Taxillus kaempferi)などがある。ヤドリギは鳥が果実を食べて種子を運ぶ鳥散布型で、鳥の消化管を通過しても種子に粘着性が残っており、その種が他の樹木に付着する仕組みになっている。

 宿木の茎葉にはオレアノール酸、アビクラリン、イノシトール、ケルセチン、ルペオールなどが含まれている。漢方では補肝腎・去風湿・強筋骨・安胎の効能があり、肝腎を補って筋骨を強め、風湿を除いて腰や関節の痛みを和らげ、胎動不安や妊娠時の出血を治す。

 腰痛には独活・防風などと配合する(独活寄生湯)。近年、桑寄生は高血圧や狭心症の治療にも応用されている。また日本の民間療法ではマツグミをマツの緑と称し、糖尿病や高血圧などに用いている。ヨーロッパでは古くからセイヨウヤドリギ(V.album)を躁鬱病や癲癇、高血圧などに用いている。

金曜日, 9月 13, 2013

皂角刺

皂角刺(そうかくし)

 日本においてはマメ科のサイカチ(Gleditsia japonica)、中国ではトウサイカチ(G.sinensis)の刺を用いる。サイカチは日本の中部以南、四国、九州に分布し、川原など水辺に生える落葉高木で、カワラフジノキともいわれ、サイカチの名は種子の皂角子に由来する。

 サイカチの幹や枝には太くて鋭い刺があるが、刺は枝が変化したものである。かつては日本でも採取していた。サイカチの果実は皂筴、種子は皂角子といい薬用にする。

 樹皮や刺にはアルカロイドのトリアカンチンやタンニンが含まれているる。トリアカンチンにはパパベリン様作用があり、高血圧や喘息、潰瘍などに有効といわれている。

 漢方では消腫・解毒・排膿の効能があり、腫れ物やでき物、ハンセン病(癩病)、乳腺炎などに用いる。皮膚化膿症の初期には金銀花や生甘草を配合して消退させ、腫張しているときには黄耆・当帰などを配合して自壊を促進して治す(皂裏消毒飲)。

木曜日, 9月 12, 2013

草果

○草果(そうか)

 中国の雲南・広西・貴州省に分布するショウガ科の多年草アモムム・ツァオコ(Amomum tsao-ko)の果実を用いる。果実は褐色の長さ2~3cm、直径1~2cmの楕円形で、中が三室になり、各室には10個前後の多年体の小さな種子が固まって入っている。果実には特徴的なにおいと辛味があり、中国ではアヒルや鶏の煮込み料理などの香辛料として用いている。

 果実には精油のピネン、ボルネオール、カンフェンなどが含まれる。漢方では芳香化湿・消食・健胃・抗瘧の効能があり、消化不良による腹部膨満感や悪心、嘔吐、胸の痞え、下痢、マラリアなどに用いる。草果は温性の芳香健胃薬であり、とくに肉食の消化不良に効果がある。

 胃腸型感冒などで発熱と下痢のみられるときには藿香・蒼朮などと配合する(人参養胃湯)。マラリアなどで高熱が続くときには柴胡・黄芩などと配合する(九味清脾湯)。またマラリアの治療に常山の補助薬として用いられ、常山の副作用である嘔気を抑制する。

水曜日, 9月 11, 2013

草烏頭

○草烏頭(そううず)

 キンポウゲ科の多年草トリカブト類の母根を烏頭といい、とくにカラトリカブト(Aconitum carmichaeli)やエゾトリカブト(A.kusnezoffii)などさまざまな野生種のトリカブト類の根を総称して草烏頭という。つまり四川省などで産する栽培品種の川烏頭と区別された呼称である。

 日本では佐渡島などに産する野生種のトリカブトを草烏頭と称して扱っている。また韓国産の草烏頭はミツバトリカブトである。川烏頭と草烏頭は明代以前には烏頭と総称されており、本草綱目ではじめて区別されたといわれる。またトリカブト類が栽培されるようになったのは、宋代以降と考えられている。

 一方、中国で一般に附子といえば減毒処理されたものをいうが、これに対して烏頭はほとんど減毒処理を受けていない。このため附子より烏頭のほうが毒性が強い。しかも川烏頭と草烏頭とを比較すれば、草烏頭のほうが毒性が強い。そのほか性味や効能は川烏頭とほぼ同じである。

 1804年、華岡青洲が乳癌の手術に用いた全身麻酔薬、通仙散の中には曼荼羅華・天南星などとともに草烏頭が配合されていた。

火曜日, 9月 10, 2013

川楝子

○川楝子(せんれんし)

 中国の四川・河北・湖南・河南省などに分布するセンダン科の落葉高木トウセンダン(Melia toosendon)の果実を川楝子という。センダンは日本だけでなく世界各地で公園樹や街路樹として利用されているが、変種が多くて分類が困難である。

 一般に中国ではセンダンを楝樹といいい、タイワンセンダンを苦楝、トウセンダンはその主産地の四川省の名を冠して特に川楝という。しかし市場では習慣的にトウセンダン(川楝)の樹皮は苦楝皮として、一方、タイワンセンダン(苦楝)の果実は川楝子として扱われている。日本ではおもにタイワンセンダンの果実が流通している。タイワンセンダンの果実はやや小型で、毒性が強いといわれている。

 トウセンダンの果実にはトウセンダニン(メルソシン)、タンニン、リンゴ酸などが含まれ、トウセンダニンには回虫に対する殺虫効果がある。漢方では理気・止痛・駆虫の効能があり、さまざまな腹痛、例えばストレスや情緒と関係した腹痛や脇通で、張ったような重苦しい間欠的な痛みや、陰囊などの下腹部痛(仙痛)、寄生虫による腹痛に用いる。

 腰や股間に響くときには当帰・附子・茴香などと配合する(当帰四逆湯)。回虫による腹痛には烏梅・花椒などと配合する(椒梅湯)。このほか川楝子をあぶって粉にしたものを急性乳腺炎のときに服用したり、シラクモ(頭部白癬)などに外用する。

月曜日, 9月 09, 2013

仙芧

○仙芧(せんぽう)

 本州の中国地方以南、東アジア、オーストラリアなどに広く分布するキンバイザサ科の多年草キンバイザサ(Curculigo orchioides)の根茎を用いる。葉は笹に似て、花が黄色くて金梅を思わせるため金梅笹という名がある。

 一方、仙芧といのは葉がカヤ(茅)に似て、長く服用すれば体が軽くなるということより名づけられたという。バラモンの僧が唐の皇帝玄宗に仙茅を献上したことから娑羅門参という名もある。

 漢方では腎陽を温め、筋骨を壮んにする効能があり、腰痛、下肢萎弱、インポテンツ、尿失禁、耳鳴りなどに用いる。更年期障害や眩暈、高血圧、自律神経失調症に威霊仙・巴戟天などと配合する(二仙湯)。日本では一般薬のナンパオなどに配合されている。ただし毒性があり、過量に服用するのはよくないとされている。

土曜日, 9月 07, 2013

センブリ

○センブリ

 日本の各地や朝鮮半島などにも分布するリンドウ科の1~2年草センブリ(Swertia japonica)の全草を用いる。一般には開花期に採取する。

 センブリは日本以外にも分布するが、日本独自の民間薬である。中薬大辞典では同属植物の当薬(S.diluta)を淡味当薬の生薬名で収載しているが、中国ではほとんど用いられていない。ちなみにカシミールからブータンにかけて分布する同属植物のチレッタ草(S.chirata)をインドやチベットでは古くから健胃薬、解熱薬として用いている。日本では室町時代末期から薬草として知られ、千回振り出しても苦味があることからセンブリといわれる。

 苦味成分としてスウェルチアマリン、スエロサイド、ゲンチオピクロサイトなどの配糖体が含まれ、スウェルチアマリンには胆汁、膵液、唾液などの分泌を促進する作用がある。古くは殺虫剤として肌着の染料にして蚤や虱の虫よけや、屏風やを張る糊に混ぜて虫よけに用いられた。その後、苦味の強い胡黄連の代用として利用されていたらしい。ただし代用品になるかどうかの定説はない。

 蘭方のゲンチアナと同じ苦味健胃薬として使われ始めたのは江戸時代末で、西洋医学の影響があったとも考えられる。明治25年には竜胆の代用品として日本薬局方にも収載され、苦味健胃薬として今日でも家庭薬に配合され、胃痛、消化不良、食欲不振の治療に応用されている。

 近年ではセンブリのエタノール抽出エキス(スエルチオール)が育毛剤として注目されている(薬用紫電改)。民間療法ではセンブリの煎液を頭虱を除去するための洗髪料や結膜炎の洗浄液としても利用している。

金曜日, 9月 06, 2013

旋覆花

○旋覆花(せんぷくか)

 日本の各地、朝鮮半島、中国に分布するキク科の多年草オグルマ(Inula japonica)および同属植物の頭花の部分だけを用いる。またオグルマの全草は金沸草として薬用にする。

 オグルマは野原や田畑などの湿ったところに生え、夏から秋にかけて黄色い花が咲く。花は中央の管状花の周りを整然と一列の舌状花が取り囲み、これを小さな車に見立ててオグルマという名がある。旋覆花という名も、周囲の舌状花が花序を覆うことを意味する。

 花の成分にはブリタニン、イヌリシン、クロロゲン酸などが含まれるが、詳細は不明である。漢方では去痰・止咳・止の効能があり、胸の痞塞感や咳嗽、喀痰、オクビ、嘔吐、しゃっくりなどに用いる。

 このように旋覆花には痰を除き、気を降ろす作用があり、嘔気や咆逆などの消化器症状、咳嗽、喀痰などの呼吸器症状に応用される。ただし、そのまま使用するとかえって嘔気や嘔吐を催すこともあるので蜜炙して用いたほうがよい。

 胸が痞えてオクビがでたり、嘔気や嘔吐のある場合には代赭石などと配合する(旋覆花代赭石湯)。粘稠な痰が胸に凝結して食べ物が下がらないときに附子・細辛などと配合する(旋覆花湯)。

木曜日, 9月 05, 2013

川貝母

○川貝母(せんばいも)

 中国では貝母を浙貝母と川貝母に区別する。浙貝母は、ユリ科のアミガサユリ(Fririllaria veticillata)の鱗茎であるが、川貝母にはアミガサユリと同属植物の巻葉貝母(F.cirrhosa、烏花貝母F.cirrosa var.ecirrhora、稜砂貝母F.delavayi)の鱗茎を用いる。

 川貝母の基原植物は一般に四川省をはじめ、雲南省、チベット自治区の高山地帯に分布している。これらの鱗茎(川貝母)はアミガサユリの鱗茎(浙貝母)よりも小さい。

 川貝母にはペイミン、ペイミニン、フリチミンといったアルカロイドが含まれ、鎮咳、去痰、排膿作用が知られている。漢方では止咳・化瘀・潤躁・散結の効能があり、咳嗽、喀痰、喀血、胸の塞がり、瘰癧(頸部リンパ腺腫)、扁桃炎、乳腺炎などに用いる。

 適応は浙貝母とほぼ同じであるが、浙貝母が急性の咳嗽に適しているのに対し、やや慢性化した呼吸器感染症に用いる。一般に川貝母は虚証に、浙貝母は実証に用いる。また川貝母には潤肺作用があるので、痰が少ないとか痰に血が混じっているような肺陰虚の症状に適している。さらに去痰すると同時に痰の分泌を抑制する作用もあり、痰の多いときにも使用できる。気分が落ち込み、胸が塞がり、食欲がないときにも川貝母が適する。ただし、日本では一般に貝母といえば、浙貝母のことをいう。

水曜日, 9月 04, 2013

センナ

○センナ

 アフリカを原産とする常緑低木、マメ科のセンナ(Cassia acutifolia)やホソバセンナ(C.angustifolia)の小葉を用いる。中国では異国の瀉下薬という意味で番瀉葉と呼ばれている。

 センナはアレキサンドリアセンナとも呼ばれ、ナイル川流域で栽培されるもので、アレキサンドリアとはエジプトの集散地の名前である。ホソバセンナはチンネベリセンナとも呼ばれ、アフリカ東岸やアラビア、インドなどに産するもので、チンネベリはインド南部の栽培地の名前である。現在、中国の海南島や雲南省でもアレキサンドリアセンナが栽培されている。現在、日本に輸入されているのはおもにチンネベリセンナである。

 センナは最古の医学書である「エーベルス・パピルス」にアロエなどとともに収載されている下剤であり、古くからアラビア医学で使用されていた生薬である。今日でも欧米諸国で繁用され、日本には明治以降に西洋医学の薬物として導入されたものである。

 成分にはアントラキノンのレイン、アロエエモジン、ジアンスロン配糖体のセンノサイドA~Dなどが含まれる。センノサイド類は経口では強い瀉下作用があるが、静脈内投与では効果がみられない。センノサイドA・Bは腸内細菌によりレインアンスロンが生じ、これにより瀉下作用が発現する。

 センナは少量で苦味健胃薬となり、消化を促進する。適量を用いれば緩下作用を起こす。センナの成分を製剤化したものがプルゼニドである。漢方処方に配合されることは余りないが、家庭用の下剤には単独で、あるいは配合されて用いられている。センナには子宮収縮作用もあり、妊婦には用いない。ちなみにセンナ、大黄、アロエなどの生薬などのアントラキノン系下剤を連用すると大腸に色素沈着(大腸メラノーシス)が発現する。

火曜日, 9月 03, 2013

蝉退

○蝉退(せんたい)

 中国ではセミ科のクマゼミによく似た黒蚱(Cryptotympana atrata)の羽化後の抜け殻、日本ではアブラゼミやクマゼミの抜け殻を用いる。ただし市場品の種類は多く、黄金色で透明なものを金蝉衣、灰褐色で光沢のないものを土蝉衣という。

 成分は明らかではないが、抗痙攣鎮静作用、神経節遮断作用が報告されている。漢方では散風熱・透疹・止痒・退翳・解痙の効能があり、熱性疾患、咽頭腫脹、嗄声、発疹、掻痒症、目の翳障、ひきつけ、腫れ物などに用いる。とくに小児科領域で用いることが多い。

 麻疹の透疹を促進するために葛根・牛蒡子・薄荷などと併用する。炎症性の目の充血や角膜混濁などには菊花などと配合する。湿疹や皮膚掻痒症には荊芥・防風などと配合する(消風散)。破傷風の痙攣には天麻・全蝎・白僵蚕などと配合する(五虎追風散)。夜泣きや小児のひきつけには釣藤・薄荷などと併用する。化膿症や中耳炎には粉末にして塗布する治療方法もある。近年、中国では破傷風、慢性秦麻疹、化膿性中耳炎などに対する臨床研究が報告されている。

月曜日, 9月 02, 2013

茜草根

○茜草根(せんそうこん)

 日本をはじめ中国・東南アジアからヒマラヤにかけた広く分布するアカネ科の多年草アカネ(Rubia cordifolia)の根および根茎を用いる。

 根が赤いことからアカネという名があるが、アカネは古くから茜染めの染料として有名である。茜染めはあらかじめ灰汁につけて乾かした布を、根を煎じた液で数十回も浸して染めるもので、灰汁の濃さで赤から黄色になる。色素成分のアリザリンが合成されるようになってから染料としての栽培はすたれてしまった。現在、工芸染料としては専らセイヨウアカネ(R.tinctorum)が用いられ、日本のアカネは用いられていない。

 アカネの根にはオキシアントラキノン誘導体のプルプリン、ムンジスチンなどが含まれ、止血、抗菌、去痰作用などが認められている。漢方では止血・活血の効能があり、子宮出血や鼻出血、吐血、あるいは無月経や産後の悪露に用いる。生で用いると活血作用が強く、炭にしたものは止血作用が強い。

 喀血や吐血、鼻血、歯肉出血などには大薊・小薊などとともに炭にして用いる。(十灰散)。ヨーロッパでは古くから赤色染料の原料として栽培されているセイヨウアカネも黄疸、浮腫、無月経、尿路結石などの治療に用いられていた。2004年、厚生労働省はセイヨウアカネから抽出されたアカネ色素の発癌性が報告されたため、食品添加物としての使用を禁止した。

土曜日, 8月 31, 2013

蟾酥

○蟾酥(せんそ)

 ヒキガエル科のシナヒキガエル、ヘリグロヒキガエルなどの耳後腺および皮膚腺から分泌される乳液を加工、乾燥したものを用いる。これらのカエルをそのまま乾燥させたものは蟾蜍という。

 ヒキガエルの分泌物は日本でも古くから「ガマの油」として有名であったが、毒性のあるガマ毒である。一般にガマ毒はそれほど強烈なものではないが、目に入ると激しく痛む。

 捕獲したヒキガエルをよく洗い、耳後腺や皮膚腺を刺激して乳液を分泌させ、それを磁器で採取して銅製のふるいで濾過し、円形の型に流し込んで乾燥させる。日本に輸入されている蟾酥は団蟾酥または東酥と呼ばれるものが中心である。これは直径8cm、厚さ1.5cmくらい、濃褐色の偏平な円盤状のもので、おもに河北・三東省で生産されている。

 1匹のカエルから約2mgの蟾酥が得られるといわれている。ガマ毒は最初にブフォトキシンが発見されたが、これはブフォタリンなどの結合物で、そのほかシノブファギン、シノブフォタリンなど現在までに数十種類の強心ステロイドが報告されている。そのほかステロール類、ブフォテニン、ブフォテニジン、セロトニン、トリプタミンなどが含まれ、ブフォテニンには幻覚作用がある。

 薬理学的に蟾酥には強心作用、局所知覚麻痺作用、胆汁や膵液、胃液の分泌促進作用、抗炎症作用などが報告されている。蟾酥の強心作用はジギタリスに似ているが、作用が早く、蓄積性がない。局所麻酔剤として蟾酥チンキがある。

 漢方では開竅・解毒・消種・止痛・強心の効能があり、意識障害、瘡癰などの皮膚化膿症、咽頭の腫痛、小児の疳積、歯痛、心臓衰弱に用いる。癰などの皮膚の化膿、乳腺炎、骨髄炎などには軽粉などの配合された蟾酥丸がよく知られている。

金曜日, 8月 30, 2013

穿心蓮

○穿心蓮(せんしんれん)

 マレーシアからインドにかけて分布しているキツネゴマ科の一年草センシンレン(Andrographis paniculata)の地上部全草を用いる。中国では長江以南の温暖な地域で栽培されている。漢方医学では穿心蓮と呼び、インドのアーユルヴェーダではカンジャンと読んでいる。最近、日本ではアンフィスとも呼ばれている。

 成分には苦味質のアンドログラフォライドが含まれ、抗菌・抗ウイルス、抗炎症作用のほか、胆汁の流れを促進し、肝臓を保護する作用が認められている。漢方では清熱解毒の効能があり、咽頭炎、気管支炎、細菌性腸炎、膀胱炎、皮膚化膿症、湿疹に用いる。黄連の代用に用いることもある。

 生の汁や煎液は腫れ物や、咬傷、中耳炎などの外用薬としても利用されている。近年、中国では錠剤や注射薬としても開発され、さまざまな感染症に応用されている。インドでは新鮮な葉から汁をとり、カルダモンやシナモンと混ぜて錠剤にしたものが細菌性赤痢などの下痢症状の治療に用いられている。

 インドネシアでは利尿・解熱薬のほか、堕胎薬としても用いている。スウェーデンでは20年以上前からエキス剤が風邪薬(KoldKare)として一般的に利用されている。近年、日本でもエキス剤が発売され、胆石の予防や二日酔いなどに有効といわれている。欧米では、癌やエイズに対しても効果が期待され、ブームになっている。

木曜日, 8月 29, 2013

蟾蜍

○蟾蜍(せんじょ)

 ヒキガエル科のシナヒキガエル(Bufo bufo gargarizans)。ヘリグロヒキガエル(B.melanostictus)などの全体のまま乾燥したものを用いる。これらの耳後腺および皮膚腺からの分泌物が蟾酥であり、皮、舌、肝、胆なども薬用にされる。

 シナヒキガエルは中国全土に分布し、泥の中や岩石の下に生息する体長10cm以上のカエルで、皮膚には多数のイボが密に分布している。ヘリグロヒキガエルは中国南部に分布し、体長は10cm以下で全身がざらざらした黄褐色のカエルである。これらヒキガエルの耳の後ろには耳腺があり、有毒な乳液が分泌される。

 漢方では解毒・消腫・消癥の効能があり、疔疳などの腫れ物や腹部腫瘤、浮腫、小児の疳症などに用いる。小児の脾疳には黒焼きにした蟾蜍に人参・甘草を配合する(蟾蜍散)。ちなみに日本ではヒキガエルのことをガマ(蝦蟇)ともいうが、中国での蝦蟇はアカガエル科のヌマガエルのことである。

水曜日, 8月 28, 2013

穿山甲

○穿山甲(せんざんこう)

 有鱗目の動物、ミミセンザンコウ(Manis pentadactyla)の鱗甲片を用いる。東南アジアや中国南部の丘陵地帯や樹木のある湿地帯に生息している。体長は50cm~1mぐらいの動物で、頭から尾の先まで瓦のように硬い角質の鱗片に覆われている。

 洞窟に住み、夜行性で木にも登り、泳ぐこともでき、敵に襲われると丸く体を縮める習性がある。食物はシロアリ、クロアリなどの昆虫である。捕獲した後、甲羅だけをとり、熱湯に入れると鱗片は自然と剥がれ落ち、それを乾燥して薬用とする。

 通常、幅4~5cm、長さ3~5cmぐらいの薄い扇形ないし菱形で、外面は濃く褐色で縦に多数の線紋があり、内面は色が薄く光沢があり、強靭で弾性がある。

 漢方では排膿・通乳・通経・通経絡の効能があり、瘡癰などの腫れ物、乳汁不足、無月経、リウマチなどの関節痛などに用い。皮膚化膿症で、まだ潰瘍化していないときに用いる排膿を促進する透膿の効果がある(透膿散)。しかし口が開いた瘡癰には用いない。あるいは王不留行・木通などと配合する(下乳涌泉散)。現在、ワシントン条約により入手できなくなっている。

火曜日, 8月 27, 2013

川骨

○川骨(せんこつ)

 北海道、本州、四国、九州、朝鮮半島に分布するスイレン科の多年草コウホネ(別名:カワホネ Nuphar japonicum)の根茎を用いる。川骨という生薬名は日本名の「カワホネ」を読み代えただけで、中国名ではない。中国では生薬としてコウホネを用いていないが、近縁種のネムロコウホネ(N.pimilum)を萍蓬草といい、根茎や種子を薬用にしている。

 コウホネは水性植物で、掘り出した根茎は乾燥すると骨のようにみえるためその名がある。コウホネの根茎にはアルカロイドのヌファリジンやデオキシヌフアリジンなどが含まれ、中枢麻痺や血管収縮などの作用がある。

 日本漢方では利水・活血・強壮の効能があり、浮腫や婦人病、打撲傷などに用いる。打撲による内出血や腫張、疼痛に川芎 ・桂枝などと配合する(治打撲一方)。産前・産後の血の道症に当帰・地黄・人参などと配合する(実母散)。民間では生の根茎をすって小麦粉とあわせて練ったものを乳腺炎に外用する。

月曜日, 8月 26, 2013

川穀

○川穀(せんこく)

 熱帯アジアが原産で日本各地に自生するイネ科の多年草ジュズダマ(Coix lacryma-jobi)の果実を川穀という。根は川穀根という。中薬大辞典では薏苡仁の基原植物としてジュズダマの種子をあげ、とくにハトムギ(C.lachryma-jobi var.yuen)と区別していない。一説に「中国名の川殻はハトムギのことで、薏苡はジュズダマである」という見解もある。

 ハトムギはジュズダマの栽培変種とされ、両者は極めてよく似ている。ジュズダマの表面は硬いホウロウ質で灰黒色をしていて、指で押しても砕けないが、ハトムギは茶褐色で縦じまがあり、指で強く押すと砕ける。ちなみにジュズダマは数珠を作る玉、ハトムギは鳩の食べる麦という意味である。

 川殻の成分も薏苡仁とほぼ同じであり、一般に薏苡仁の代用とされるが、日本ではほとんど用いられない。根にはコイクソール、スチグマステロール、β・γシトストロールな度が含まれる。漢方では川殻根に清熱・利湿・健脾・殺虫の効能があり、黄疸や排尿困難、関節炎や下痢、回虫症などに用いる。民間療法では根を鎮咳剤として、あるいは神経痛、リウマチ、肩こりなどに用いる。

土曜日, 8月 24, 2013

前胡

○前胡(ぜんこ)

 本州の関東以西、四国、九州、朝鮮半島、中国に分布するセリ科の多年草ノダケ(Angelica decursiva)などの根を用いる。日本にみられるノダケは紫色の花をつけるが、中国では白い花をつける白花前胡(A.praeruptorum)もあり、薬用にはおもに白花前胡を用いている。現在、日本産の前胡は市場性がない。

 ノダケの根にはフロクマリンのノダケニンやデクルシン、精油成分のエストラゴール、リモネンなどが含まれ、抗炎症、坑浮腫作用などが知られている。漢方では解表・止咳・去痰の効能があり、熱性病(風熱)による頭痛や気管支炎に用いる。

 頭痛や発熱、咳嗽、鼻炎などの感冒症状には蘇葉・葛根などと配合する(参蘇飲)。化膿症の初期で悪寒、発熱、頭痛のみられるときには荊芥・防風などと配合する(荊芥敗毒湯)。また気管支炎などで粘稠な痰が多く、呼吸が苦しいときには紫蘇子・半夏・陳皮などと配合する(蘇子降気湯)。前胡と杏仁はいずれも去痰薬として用いるが、前胡は炎症性の粘稠痰(熱痰)、杏仁は希薄な痰(寒痰)に適している。

金曜日, 8月 23, 2013

川芎

○川芎(せんきゅう)

 中国を原産とするセリ科の多年草センキュウ(Cnidium officinale)の根茎を用いる。本来は神農本草経にある芎藭と称したが、四川省産のものが有名であったため川芎の名が一般的になった。

 江戸時代に薬用として日本にも渡来し、現在ではおもに北海道で栽培されている。ところが日本産は雑種性2倍体で結実しないため、株分けで繁殖させている。また結実しないため分類学上の位置づけが困難で、中国産と日本産との基原植物の異同に関して諸説がある。現在、中国産川芎の基原植物はLigusticum chuanxiongといわれている。日本薬局方では日本産の川芎のみを収録しており、輸入品は適合しない。現在、日本から持ち込んだ株が中国でも栽培されている。

 日本産川芎の成分にはクニデライド、リグスチライド、ブチルフタライドなどが含まれ、鎮痙、鎮痛、鎮静、降圧、血管拡張作用などが認められている。漢方では活血・理気・止痛の効能があり、頭痛や腹痛、筋肉痛、生理痛などに用いる。

 当帰とともに婦人科・産科の要薬として有名で、活血作用と行気作用とがあり、血中の気薬といわれている。また李東垣は頭痛には必ず川芎を用いると述べているが、川芎は頭痛だけでなく、瘀血による痛みや関節痛、四肢の麻痺や痺れにも用いられる。

木曜日, 8月 22, 2013

全蝎

全蝎(ぜんかつ)

 クモ類のキョクトウサソリ科のキョクトウサソリ(Buthus martensii)の全体を用いる。捕獲した後、水に漬けて泥を吐かせ、沸騰した湯の中で食塩とともに煮沸する。とくに後腹部だけを蠍尾または蠍梢という。

 サソリの多くは熱帯ないし亜熱帯に分布するが、キョクトウサソリは中国の北部・中部、朝鮮半島の一部に分布する。中国では飼育されており、おもに河南。山東・湖北・安徽省に産する。体調は約6cm、体色は黄緑色で、後腹部の末端節に毒袋があり、先端は鋭い毒針が上屈している。

 人命にかかわるサソリの猛毒種はアフリカやメキシコにしかおらず、キョクトウサソリの毒は比較的軽い。サソリの毒はカツトキシン(ブトトキシン)といわれ、ヘビ毒によく似た神経毒のあるタンパク質であり、筋肉の痙攣や流涎、呼吸麻痺などが生じる。

 全蝎にはそのほか、レシチン、コレステロール、ベタイン、タウリン、脂肪酸などが含まれる。薬理学的には抗痙攣作用、降圧作用などが報告されている。市場品には塩漬けにしたものが多く、止痙・熄風・止痛・通経絡の効能があり、癲癇や痙攣、小児のひきつけ、脳卒中、半身不随、顔面麻痺、関節痛などに用いる。

 癲癇や中風、破傷風などによる痙攣には蜈蚣・白僵蚕などと配合する(止痙散)半身不随や顔面麻痺には白僵蚕・白附子などと配合する(牽正散)。

水曜日, 8月 21, 2013

仙鶴草

仙鶴草(せんかくそう)

 日本全土およびアジアに分布しているバラ科の多年草キンミズヒキ(Agrimonia pilosa)の全草を用いる。細長い穂に黄色い花が咲く様子が「水引」に似ているためキンミズヒキの名がある。なおミズヒキ(Polygonum filiforme)はタデ科であり、花のつきかたは似ているが赤い花をつける。キンミズヒキは春先に柔らかい若葉と若芽を摘み、おひたしや和え物にして食べることができる。

 キンミズヒキの根にはアグリモノリドやタンニンのアグリモニインなどが含まれ、止血、抗菌、抗炎症作用がある。漢方でも止血・健胃・強壮の効能があり、鼻出血、吐血、血便、血尿、性器出血など全身の出血や下痢、倦怠感、精力減退に応用する。

 民間では下痢止めや口内炎、歯肉炎などに用いる。湿疹やかぶれには煎液を冷やして患部を冷湿布する。中国では実験的に癌の抑制効果が認められ、癌治療の臨床研究も報告されている。ヨーロッパでは近縁種のアグリモニー(Agrimony)を止血薬として消化性潰瘍などに用いるほか、胆石や肝硬変痛風などにも利用している。

火曜日, 8月 20, 2013

川烏頭

○川烏頭(せんうず)

 キンポウゲ科の多年草トリカブト類の母根をいい、とくに四川省などの栽培品種であるカラトリカブト(Aconitum carmichaeli)の母根のことを川烏頭という。川烏頭とは四川省で産する烏頭という意味で、専ら栽培品種のものをいい、野生種の草烏頭(そううず)と区別して扱われている。

 現在、日本ではトリカブト類の塊根はすべて附子として扱われているが、本来は母根と烏頭、子根を附子と呼ぶ。ただし中国では減毒処理したものを附子、ほとんど減毒処理をしていないものを烏頭として区別することが多い。とくに日本では中国産からトリカブトの子根でも減毒処理をせずにそのまま乾燥したものを川烏頭と称している。

 ところで金匱要略に収載されている烏頭湯の中に川烏という生薬名がみられるが、宋代以前にトリカブトが栽培されていたという証拠はなく、野生種のものと考えられている。川烏頭と草烏頭の効能はほぼ同じであるが、草烏頭のほうが総アルカロイド量が多くて鎮痛作用や毒性が強いとされている。

月曜日, 8月 19, 2013

セネガ

○セネガ

 北アメリカの山林に自生しているヒメハギ科の多年草セネガ(Polygala senega)およびヒロハセネガ(P.var.latifolia)の根を用いる。日本では明治以降に北海道でヒロハセネガが栽培され、日本産セネガの名でヨーロッパにも輸出されている。

 セネガは古くからアメリカインデイアンのセネガ属が毒蛇に咬まれたときに治療に用いた民間薬で、そのためセネガとかスネイク・ルートという名がある。北米産セネガには北部セネガと南部セネガ根の2種類があるが、北部セネガはセネガ、南部セネガはヒロハセネガといわれている。

 セネガの根にはトリテルペンサポニンであるセネギンⅠ~Ⅳやサリチル酸メチルが含まれ、セネガサポニンは気道の粘膜を刺激して分泌を促進する。なおセネギンⅢ・Ⅳは遠志の成分であるオンジサポニンB・Aと同一である。

 セネガはセネガシロップやセネガ・キキョウ水などの製剤にして感冒・気管支炎、喘息などの鎮咳・去痰薬として用いられている。咽頭の炎症による痛みや嗄声には甘草・桔梗などと配合する(龍角散)。

金曜日, 8月 16, 2013

接骨木

接骨木(せっこつぼく)

 日本の各地に自生するスイカズラ科の落葉低木ニワトコ(Sambucus sieboldiana)の茎を接骨木という。中国産の接骨木は同属植物のトウニワトコ(S.williamsii)の茎枝を用いている。ニワトコ属は古くから世界各地で薬用とされ、ヨーロッパではセイヨウニワトコ(S.nigra)は薬用ハーブ(エルダー:Elder)として有名である。

 接骨木のいわれはニワトコの枝を黒焼きにして、うどん粉と酢を加えて練ったものを骨折した患部に塗布し、副木を当てておくという治療をしていたことによる。

 ニワトコの成分には硝酸カリウムやトリテルペノイドのアミリンなどが含まれ、利尿、鎮痛作用が認められている。セイヨウニワトコの花や葉には青酸配糖体サンブニグリンが知られているが、日本のニワトコには含まれていない。

 漢方では去風湿・活血・止痛の効能があり、関節や筋肉の疼痛、打撲傷、骨折、浮腫などに内服する。民間では、ニワトコの枝や葉を煮だしたものを風呂に入れて神経痛やリウマチ、外傷の治療に用いたり、接骨木の粉末と黄柏末を合わせてねったものを打撲した患部に塗布する。また小鳥の病気にニワトコの煎じた汁が効果があるといわれている。

木曜日, 8月 15, 2013

石斛

○石斛(せっこく)

 日本の本州、四国、九州、朝鮮半島南部、中国などに分布するラン科の多年草セッコク(Dendrobium moniliforme)およびその同属植物の茎を用いる。セッコクには「スクナヒコグスリ(少名彦薬)」とか「イワグスリ(岩薬)」などという和名があり、日本でも古くから薬用にされたと考えられている。中国ではコウキセッコク(D.nobile)、ホンセッコク(D.officinale)などが用いられている。

 セッコク属は熱帯アジアの高山帯に多くの種類がみられ、樹上や岩石などに着生している。生薬では鉄皮石斛がもっとも良品とされ、高貴薬として扱われている。

 石斛には粘液質やデンドロビン、ノビロビンなどが含まれ、デンドロビンには解熱、鎮痛作用が、煎液には胃液分泌や胃腸蠕動の促進作用が認められている。官報では清熱・滋陰・生津・強壮の効能があり、発熱時の口渇や糖尿病、陰虚による発熱、食欲減退、インポテンツなどに用いる。

 石斛は生(鮮石斛)で用いたほうが清熱・生津の効力は強く、熱性疾患による口渇には鮮石斛、一般的な陰虚による口渇には乾石斛を用いる。また慢性胃炎で嘔吐や乾嘔があり、舌苔が剥落している胃陰虚や糖尿病にみられる食欲亢進や口渇などの胃熱にも用いる。

 口腔内がただれて痛むときには地黄・枇杷葉などと配合する(甘露飲)。視力低下や夜盲症などには菊花・決明子などと配合する(石斛夜光丸)。なおセッコク属の茎を加工してバネや螺旋形に曲げたものは耳環石斛とか楓斗と呼ばれ、滋養・強壮薬として茶の代わりに飲まれている。

水曜日, 8月 14, 2013

石膏

○石膏(せっこう)

 天然の硫酸塩類鉱物セッコウの鉱石を用いる。日本でもわずかに産するが、専ら湖北・湖南・山東省を主産地とする中国から輸入している。石膏は白ないし灰白色の光沢のある結晶塊で、主として含水硫酸カルシウム(CaSO4・2H2O)からなる。

 石膏の鉱石には軟石膏と硬石膏とがあり、軟石膏には繊維石膏と雪花石膏とがある。薬用には主に繊維石膏が用いられ、雪花石膏は彫刻材として用いられる。

 硬石膏は無水硫酸カルシウムの結晶であるが、正倉院薬物にある石膏は硬石膏であり、古代にはこの硬石膏を石膏として使用していたと考えられる。かつて理石、長石、方解石と呼ばれた生薬に関して、今日では理石は繊維石膏、長石や方解石は硬石膏のこととされている。

 石膏は110~120℃くらいで数時間焼くと結晶水が半減して白い粉末になるが、これを焼石膏という。この加熱には湿式と乾式とがあり、焼石膏はそれぞれα半水石膏とβ半水石膏に区別される。いずれも水を加えると固まる性質があり、β半水石膏は整形外科で固定に用いるギプスに、α半水石膏は歯科の印象彩得に利用される。さらに200℃で加熱しすぎると結晶水が全部なくなり、無水石膏(生薬名:椴石膏)となる。この粉末を押し固めたものがチョークである。

 天然の石膏には硫酸カルシウムのほか、SiO2、MgO、Al2O3、Fe2O3などが含まれている。薬理実験では解熱、止渇、利尿作用などが報告されているが、石膏は離溶性であり、大量に用いなければ解熱作用は発現しないといわれている。詳細は不明であるが、胃酸によってイオン化されたCa2++や微量に含まれる夾雑物の作用が推測されている。

 漢方では清熱・止渇・除煩の効能があり、熱性疾患に見られる高熱や煩躁、口渇、咽痛、譫妄、炎症性の浮腫、搔痒感、歯痛などにも用いる。日本漢方では陽明病気の裏熱証、中国医学では肺胃における気分の実熱証の要薬である。石膏の1日の常用量は10~20gであるが、症状に応じて100g以上用いることもある。なお椴石膏は火傷や湿疹の分泌を抑え、皮膚潰瘍を収斂する作用がある。

火曜日, 8月 13, 2013

石決明

石決明(せきけつめい)

 ミミガイ科のアワビ類、九孔鮑(Haliotis diversicolor)や番大鮑(H.gigantea discus)などの貝殻を用いる。日本ではアワビ(H.gigantea)トコブシ(Sulculus aquatilis)の貝殻などを用いる。石決明や千里光の名は目疾患の治療薬であったことを意味する。

 これらの貝は夏に捕獲した後、肉を除き、殻をよく洗って乾燥する。薬剤には生で用いる生石決明、るつぼの中で灰色~灰白色になるまで焼いた煅石決明がある。

 成分は主として炭酸カルシウム(CaCO3)であり、有機酸、鉄、マグネシウムケイ酸塩、硫酸塩、リン酸塩、ヨウ素なども含まれるが、焼くと酸化カルシウムを生じ、有機酸は破壊される。漢方では平肝・鎮静・明目の効能があり、陰虚陽亢による眩暈や頭痛、肝火上炎による目の充血や痛み、角膜混濁に用いる。日本の経験方では下肢の筋力低下に対し、四物湯に亀板とともに加味する(亀板湯)。ちなみに決明子とはエビスグサの種子のことである。

月曜日, 8月 12, 2013

石灰

○石灰(せっかい)

 方解石を主とする石灰岩(ライムストーン:Limestone)を過熱し焼成した生石灰および消石灰を用いる。石灰岩は炭酸カルシウム(CaCO3)を主成分とし、焼くと二酸化炭素が発生して酸化カルシウム(CaO)の生石灰ができる。

 生石灰は白色の不規則な塊状あるいは粉末で、酸に溶けやすく、水にもわずかに溶ける。生石灰に水を加えると激しく反応して熱を発生して水酸化カルシウム(Ca(OH)2)の消石灰(熟石灰)となる。また放置するだけで空気中の水分を吸収して次第に消石灰になる。

 消石灰も白色の粉末である。さらに生石灰や消石灰を長い間空気に晒しておくと、二酸化炭素を吸収して炭酸カルシウムに変化する。有毒であるため、漢方では内服に使用せず、外用のみに用いる。

 消石灰には解毒・止血・収斂の作用があり、生石灰には悪肉を除く腐食作用があり、火傷や出血、下肢潰瘍、疣贅、痣、悪瘡などに用いる。

土曜日, 8月 10, 2013

セージ

○セージ

 ヨーロッパ南部を原産とするシソ科の多年草ヤクヨウサルビア(Salvia pfficinalis)の葉を用いる。ヨーロッパでは古くからハーブとして、観賞用として家庭でもよく栽培されている。また香辛料としてよく知られ、葉には強い香りと爽やかな苦さがある。肉の臭みを消すので、特に豚肉料理によく合い、ソーセージの中にセージの名がみられる。

 セージの語源はサルビアであり、ラテン語のサルバーレ(救う)に由来する。セージは園芸栽培されているサルビア(S.splendens)と同属植物であり、実際よく似ている。またセージは中国のタンジン(S.miltiorrhiza)とも同属植物である。

 葉にはαおよびΒツヨン、シネオール、ボルネオール、リナロール、ピネン、チモールなどの精油成分が含まれる。欧米ではハーブ・ティーとして知られ、咽頭炎のうがい薬や胃腸薬として、あるいは生理通や無月経の治療に用いる。そのほか発汗を抑え、更年期障害のほてりを改善する効果や母乳の分泌過多を抑える作用なども報告されている。またセージの芳香は歯の病気予防に効果があるとされ、歯磨き粉ができるまではセージの葉で歯をこする習慣があった。

 近年、セージのアルコール抽出物が記憶力を高め、アルツハイマー病に効果があると報告されて注目されている。ちなみに濃縮サルビアと称される幻覚薬が日本にも出回って問題となった。これはメキシコ奥地に生息するメキシコサルビアのことで、その有効成分はサルビノリンAであり、2006年に脱法ドラッグとして規制されるようになった。

金曜日, 8月 09, 2013

石榴皮

○石榴皮(せきりゅうひ)

 小アジア地方を原産とするザクロ科の落葉高木ザクロ(Punica granatum)の果皮または根皮を用いる。ザクロは漢代に張塞が安石国から中国に種を持ち帰ったもので安石榴と呼ばれた。日本には平安時代以前に渡来している。

 石榴には種子が多いため、古代ヨーロッパでは豊穣のシンボルとして、中国では子孫繁栄の象徴として考えられていた。平安朝のころザクロの種子や果汁は有機酸を多く含むため、銅鏡を磨くのに用いられた。日本で一般に石榴皮といえば根皮のことであるが、中国では果皮すわなち石榴果皮のことである。ただし、近年では日本の市場に石榴根皮はみられなくなった。

 樹皮にはアルカロイドのペレチエリンやイソペレチエリン、タンニンが含まれ、イソペレチエリンには条虫を麻痺させる作用がある。イギリスやドイツでは条虫駆除に用いられていた。樹皮には毒性があり、普通量でもめまいや震えなど副作用がみられるため、最近は使用されない。果皮にはガラナチンなどのタンニンが多く含まれる。いずれも駆虫・止瀉の効能があり、とくに細菌性、アメーバ性腸炎の下痢や条虫などの寄生虫症に用いる。

 駆虫作用は根のほうが強いが、下痢症状には専ら果皮が用いられる。虫下しには苦楝皮と配合する(石榴根湯)。また果皮には止血・止痒作用もあり、性器出血や帯下、脱肛にも用いる。民間療法では口内炎や扁桃炎、歯痛などに果皮の煎液でうがいをする。

 近年、ザクロに女性ホルモン様作用があることで話題になった。事実、ザクロの種子にはヒトのエストロゲンと同じ構造を有するエストロンとエストラジオールが含まれていることが報告されている。しかし、2000年4月、ザクロ果汁に女性ホルモン物質は検出されなかったことが国民生活センターによって発表され、ザクロブームは下火になった。なお番石榴とはグァバのことである。

水曜日, 8月 07, 2013

菥蓂

○菥蓂(せきめい)

 ヨーロッパ原産とされ、日本をはじめ世界各地に分布するアブラナ科の越年草グンバイナズナ(Thlaspi arvense)の全草を用いる。種子は菥蓂子という。神農本草経の上品に収載されているが、現在ではあまり用いられていない。

 中国の市場ではグンバイナズナの果実のついた全草が敗醤として扱われていることもある。ちなみに敗醤はオミナエシ科のオトコエシやオミナエシを正条品としている。グンバイナズナはナズナより少し大きく、その名は果実の形が軍配の形に似ていることに由来する。

 全草や種子にはシニグリンが含まれ、シニグリンは酵素によって加水分解されると刺激性の強いアリルイソチオシアネートとなり、強い殺菌作用を有する。また尿酸の排泄を促進する効果もある。

 菥蓂は腎炎や子宮内膜炎、痛風などに有効である。また種子の菥蓂子は目の痛みや流涙症に用いる。菥蓂を細かな粉末にして点眼するという方法もある。

月曜日, 8月 05, 2013

浙貝母

○浙貝母(せきばいも)

 中国原産で日本でも切り花や鉢植えに栽培されているユリ科の多年草アミガサユリ(Fritillaria verticillata)の鱗茎を用いる。日本ではこれを単に貝母というが、中国では川貝母と区別して浙貝母という。

 中国の浙江省象山県が原産とされているため浙貝母あるいは象貝母と呼ばれる。18世紀の初めに日本に渡来し、今日でも奈良や兵庫で栽培され、奈良県産のものは大和貝母と称されている。これまで日本の国内需要を上回る生産高があり、輸出もされていたが、近年では円高のため輸出できなくなった。

 アミガサユリの鱗茎にはペイミン、ペイミニン、ペイミジン、ペイミノシド、フリチリンなどのアルカロイド類やジテルペン類などが含まれている。ペイミンはペイミノシドには顕著な鎮咳作用や降圧作用が認められている。また貝母のメタノール画分には冠血管拡張作用や強心作用、抗セロトニン、抗コリン作用がある。ただし多量に用いる毒性が現れるので注意が必要である。

 漢方では清熱・化瘀・散結・解毒の効能があり、咳嗽、肺癰、腫れ物などに用いる。止咳・化痰薬として呼吸器疾患にみられる咳嗽や喀痰、とくに黄色い粘稠痰のときに用いる。また頸部リンパ腺結核やリンパ腺炎、乳腺炎などの化膿症にも用いる。

金曜日, 8月 02, 2013

石南葉

○石南葉(せきなんよう)

 日本の東北地方よりも南の地方に自生しているツツジ科の常緑低木シャクナゲの葉を用いる。日本では通常、アズマシャクナゲ(Rhododemdron degronianum)、ホンシャクナゲ(R.var.hondoense)、ツクシシャクナゲ(R.subsp.heptamerum)をシャクナゲと呼んでいる。

 ツツジとは近縁植物であるが、一般にツツジは落葉樹であるのに対し、シャクナゲは常緑樹である。ところで日本では石楠あるいは石南花と書いて「しゃくなげ」と読むが、これは中国語の石楠、つまりバラ科のオオカナメモチ(Photinia serrulata)の誤用である。日本の民間ではシャクナゲの葉を石南葉というが、中国では石楠葉といえばオオカナメモチの葉のことである。

 シャクナゲの葉にはジテルペン化合物のグラヤノトキシンⅠやロドデンドリンなどが含まれる。グラヤノトキシンⅠは痙攣性の有毒物質で、中毒量では嘔吐、痙攣、麻痺を生じ、昏睡から死に至ることもある。

 日本漢方では強壮・鎮痛の効能をいうが、これは中国の石楠葉の誤解という説もある。日本の民間では利尿薬として浮腫やリウマチ、痛風の治療に茶として用いている。オオカナメモチの葉(石楠葉)にき去風湿・止痛・強筋骨の効能があり、リウマチ、頭痛、下肢の痙攣や足の萎弱に用いる。

木曜日, 8月 01, 2013

石菖蒲

○石菖蒲(せきしょうぶ)

 日本の各地や中国、ヒマラヤなどに分布し、おもに山間の渓流沿いに生えるサトイモ科の多年草セキショウ(Acorus gramibeus)の根茎を用いる。同じサトイモ科でよく似た植物にショウブ(A.calamus)があり、生薬名を水菖蒲という。

 日本で菖蒲湯や菖蒲根として利用されているのは、おもにショウブである。ちなみに中国で菖蒲といえばセキショウ(石菖蒲)のことであるが、岩場に生えていることから石菖蒲と呼ばれることが多い。

 古来より「一寸九節のものがよい」といわれるように、根に多くの節のあるものが好まれ九節菖蒲という別名もある。ただし、今日の市場で九節菖蒲というのはキンポウゲ科のキクザキイチリンソウ(Anemone altaica)の根茎のことであり、全く別の生薬である。

 セキショウの前走には精油が含まれ、芳香がある。精油成分にはアサロンやカリオフィレン、フムレン、セキショーンなどが含まれ、鎮静、健胃作用などが認められている。漢方では芳香性開竅薬に分類され、開竅・鎮静・健胃・解毒の効能があり、高熱時の意識障害や小児のひきつけ、癲癇、精神不安、健忘、耳鳴、耳聾などに用いるほか、腹痛や下痢、食欲不振、腫れ物、打撲傷などにも用いる。

 脳卒中などによる言語障害や顔面麻痺などには全蝎・附子などと配合する(神仙解語湯)。精神的なうつや興奮、眩暈には半夏・遠志などと配合する(清心温胆湯)。耳鳴りや耳聾、眩暈などには山梔子・羚羊角などと配合する(耳聾丸)。

水曜日, 7月 31, 2013

赤小豆

○赤小豆(せきしょうず)

 中国南部原産のマメ科の一年草アズキ(Phaseplus angularis)やツルアズキ(P.calcaratus)の成熟した種子を用いる。ツルアズキはアズキに似ているがつるがあり、インドや東アジアで栽培されている。

 アズキは古くから食用としてアジアを中心に栽培されているが、日本での栽培量が最も多い。アズキは世界中で日本人だけに好まれる特異な存在で、アズキを米とともに炊いて赤飯や小豆粥にしたり、餡にして和菓子の原料として広く利用している。

 アズキの成分にはフラボン配糖体のロビニンや結晶性サポニンなどが含まれている。漢方では清熱燥湿・利水消腫の効能があり、腎炎や脚気、栄養障害にみられる浮腫、下痢、下血、黄疸、癰腫に用いる。

 脚気や肝硬変の腹水、腎炎による浮腫には赤小豆と鯉魚を一緒に煮込んで服用する(赤小豆鯉魚湯)。黄疸や浮腫、蕁麻疹などに麻黄・連軺などと配合する(麻黄連軺赤小豆湯)。民間療法でも水だけで煮たあずき粥を脚気の浮腫や母乳の出が悪いとき、便秘や二日酔いに用いている。

火曜日, 7月 30, 2013

石松子

○石松子(せきしょうし)

 日本、北半球の温帯・暖帯に広く分布する常緑シダ植物ヒカゲノカズラ科のヒカゲノカズラ(Lycopodium clavatum)の胞子を用いる。全草は石松あるいは伸筋草という生薬名で呼ばれる。

 ヒカゲノカズラは産地の林緑などの日当たりのよいところに自生し、太い針金状の茎が長く地上を這う。この茎葉は花束や花輪などの装飾用に用いられている。胞子は微細なさらさらとした淡黄色の粉末で、吸湿性がない。このため線香花火に混ぜたり、レンズ磨きや塗料に混ぜ、のびをよくするのに利用されていた。

 胞子には脂肪を約50%含み、この主成分はリコポジウムオレイン酸である。全草にはアルカロイドのリコポジンやトリテルペノイドのαオノセノンなどが含まれている。薬用としては吸湿性が全くないため、丸薬の衣や、汗疹や湿疹などの散布薬として用いられていた。

 伸筋草には去風湿・ 舒筋活絡 ・活血などの効能があり、リウマチなどの関節痛、麻痺やしびれ、打撲傷、水腫などに用いる。西洋の民間療法では全草を利尿薬として膀胱炎や尿路結石の治療に用いている。近縁植物であるトウゲシバ(L.serratum//Huperzia serrata)の全草は千層塔と呼ばれ、アルツハイマー病に効果があると期待されている。

月曜日, 7月 29, 2013

赤芍

○赤芍(せきしゃく)

 中国北部を原産とするボタン科の多年草シャクヤク(Paeonia lactiflora)の根の外皮のついたままのものを用いる。外皮を除いたものを白芍という。また赤芍には野生種のベニバナヤマシャクヤク(P.obovata)やセンセキシャク(P.veitchii)などの根も用いられている。これに対し白芍といえば栽培品種のみが用いられている。赤芍は日本薬局方による芍薬の規格に適合したないため、中国産では白芍のみを芍薬として用いている。

 芍薬の根にはペオニフロリンが含まれ、鎮痙、鎮痛、鎮静、抗炎、抗潰瘍、降圧作用など報告されている。中国医学では白芍に補血・止痛の効能があるのに対し、赤芍には清熱涼血・活血の効能があると区別し、温熱病、無月経、腹部腫瘤、腹痛、出血、腫れ物などに用いる。ちなみに同じボタン科のボタン(P.suffruticosa)の根である牡丹根には清熱涼血・去瘀の効能があるが、日本漢方的にいえば、赤芍はちょうど芍薬(白芍)と牡丹皮との中間的な生薬と考えられる。このため瘀血による疼痛や内出血などには白芍よりも赤芍を用いたほうが効果的である。

土曜日, 7月 27, 2013

石蒜

○石蒜(せきそう)

 日本の本州以南、中国の温帯に分布するヒガンバナ科の多年草ヒガンバナ(Lycoris radiata)の鱗茎を用いる。9月下旬、秋の彼岸のころに鮮やかな赤い花をつけるので彼岸花と呼ばれる。赤い花を意味するマンジュシャゲ(曼珠沙華)の別名もあるが、本来、サンスクリット語のマンジューシャカは別の植物の名前である。

 有毒植物ではあるが、鱗茎をすりつぶして水にさらし、毒抜きをすると食べられるため救荒食物として利用されてきた。日本には縄文時代に食用として中国から渡来したと考えられている。また鱗茎をすりつぶして海苔状にしたものは防虫の目的で衣類や襖の下張りなどに用いられた。

 ヒガンバナにはリコリン、ホモリコリン、ガランタミンなどのアルカロイドが含まれ、誤って食べると強い苦味があり、嘔吐、下痢、流涎、神経麻痺などが起こる。これらのアルカロイドには鎮痛、降圧、催吐、去痰作用がある。リコリンはアメーバ赤痢や喀痰の治療薬、ガランタミンは小児麻痺後遺症、アルツハイマー病の治療薬としても知られている。

 石蒜には去痰・利尿・解毒・催吐る効能があるが、日本でも中国でも専ら民間療法として用いられている。一般に催吐の目的で内服させる以外は外用し、鱗茎をすりおろしたもので肩こりや乳腺炎、乳房痛などの湿布薬とする。また腎炎などによる浮腫に石蒜を単独あるいは唐胡麻(蓖麻子)と混ぜたものをすりおろして足裏の涌泉穴に塗布する方法がよく知られている。

 ちなみに欧米ではヒガンバナ科のスノードロップ(Galanthus woronowill)やスノーフレーク(Leucojum aestivum)から抽出されたガランタミンがアルツハイマー病の治療薬として用いられている。

金曜日, 7月 26, 2013

石韋

石韋(せきい)

 日本の関東以南及び朝鮮半島や台湾、中国南部、インドシナに分布するウラボシ科の常緑シダ植物ヒトツバ(Pyrrosia lingua)などの同属植物の葉を用いる。ヒトツバは暖地の乾燥した岩や葉に群生し、普通にみられる常緑のシダである。根は石韋根という。

 ヒトツバの全草には配糖体、フラボノイド、サポニンなどが含まれるが、詳細は明らかではない。漢方では清熱・利水・通淋・止血の効能があり、淋病、血尿、腎炎、子宮出血、下痢、気管支炎、癰疽などに用いる。とくに通淋薬として有名であり、熱淋、石淋、血淋などの膀胱炎や血尿に滑石・瞿麦などと配合する(石葦散)。また気管支炎や喘息などの治療に効果がある。

 日本ではほとんど利用されていないが、中国では今日でも尿路結石や腎炎などによく用いている。石韋根の粉末は止血薬として傷に散布する。

木曜日, 7月 25, 2013

西洋トチノキ

○西洋トチノキ

 バルカン半島のトチノキ科の落葉高木セイヨウトチノキ(Aesculus hippocastanum)の種子を用いる。欧米では街路樹として広く植栽され、パリのマロニエとして知られているのはこのセイヨウトチノキのことである。ちなみに英語名はホース・チェスナット(栗)、その翻訳名のウマグリ(馬栗)という和名もある。仏語名のマロニエもマロン(栗)に由来し、かつてマロングラッセもマロニエの実が使われていたといわれる。

 種子にはトリテルペン系サポニンのエスシンのほか、クマリン、エスクリンなどが含まれ、静脈壁を強化し、静脈の透過性を下げる作用のほか、血流促進、凝固抑制、抗炎症、抗潰瘍作用などが知られている。

 外傷や炎症による腫張を緩和し、静脈の血流を改善視することが認められており、ドイツなどでは静脈瘤や下肢血流障害(足のだるさ、こむら返り)、痔核の治療、手術後の浮腫の回復などに用いられ、日本でも軟部腫張の治療薬として用いられ、市販の痔治療薬や湿布薬、化粧品などに配合されている。ちなみに生の種子にはエスクリンが含まれるため、過量に用いると死に至ることがあり、一般にはエスクリンを除去した種子エキスのみを利用する。副作用として消化器症状や痒みの出ることがある。

 日本のトチノキ(A.turbinata)も民間薬として知られ、種子の栃の実を乾燥粉末にして胃痛や打ち身、痔などに用いている。また樹皮を煎じて痔や子宮出血、蕁麻疹、下痢等に用い、葉を煎じて咳の治療に用いている。

水曜日, 7月 24, 2013

西洋参

西洋参(せいようじん)

 北アメリカ原産で、カナダやアメリカの肥沃な森林に自生しているウコギ科のアメリカニンジン(Panax quinquefolis)の根を用いる。

 17世紀末に薬用人参の効能がヨーロッパに紹介され、18世の初めにその論文を目にしたカナダの宣教師がよく似た植物として見出し、薬用として広まったのがアメリカ人参である。この人参は星条旗を意味する花旗を冠して花旗参とも呼ばれている。アメリカで栽培されたものが広東経由で東南アジアに輸出されるため広東人参という名もある。現在では中国でも栽培されている。

 根にはサポニンのパナキロンやジンセノサイドなどが含まれ、人参と同様な中枢神経に対する刺激や血圧降下、疲労回復などの作用が認められている。官報でも補気・滋陰清熱・止渇の効能があり、人参の代用として用いられる。

 人参に比べれば補気の力は弱いが、滋陰清熱の作用はかえって優れている。このため熱証の患者の滋養・強壮に適しており、高熱のために脱水となり、体力が弱ったとなどには西洋参を用いる。

 暑気あたりや夏かぜには石斛・麦門冬などと配合する(王氏清暑益気湯)。また最近の中国では白虎加人参湯の人参の代わりにしばしば西洋参が用いられているる

火曜日, 7月 23, 2013

青木香

○青木香(せいもっこう)

 関東以西、四国、九州及び中国に分布するウマノスズクサ科のつる性多年草ウマノスズクサ(Aristolochia debilis)などの根を用いる。

 日当たりのよい山野に自生するつる性の植物で、つるからぶらさがった果実の形が馬の首にかける鈴に似ていることからウマノスズクサとか馬兜鈴という名が付けられている。ウマノスズクサの葉をつけた茎は天仙藤、果実を馬兜鈴という。キク科の植物の根にも青木香という生薬があるが、全く別のものである。

 ウマノスズクサの根にはアリストロキア酸やアリストロン、マグノフロリンなどが含まれ、降圧、鎮静、気管支拡張作用が報告されている。漢方では止痛・理気・解毒・消腫の効能があり、胸腹部の張痛みや下痢、腫れ物、湿疹などに用いる。

 夏季の下痢や腹痛、暑気あたりには青木香の粉末を服用する。腫れ物や咬傷、湿疹には粉末をゴマ油などで練って塗布する。近年、中国では青木香に降圧作用があることから高血圧の治療にも使用されている。ただし、アリストロキア酸は腎障害を引き起こすことが指摘されており、使用には注意が必要である。

月曜日, 7月 22, 2013

青風藤

○青風藤(せいふうとう)

 ツヅラフジ科のオオツヅラフジ(Sinomenium actum)や華防己(Diploclisia chinensis)、アワブキ科のアオカズラ(Sabia japonica)などのつる性の茎をいう。

 オオツヅラフジは単にツヅラフジともいい、日本の関東以西、四国、九州、台湾、中国などに分布するつる性落葉低木で、その茎を日本では防己あるいは漢防己と称している。つまり日本産の防己を中国では青風藤として扱っている。

 中国産の防己の基原とされるツヅラフジ科のシマハスノハカズラ(Stephania tetrandra)はオオツヅラフジによく似ているため、日本では江戸時代の前から防己と称してオオツヅラフジで代用していたと考えられる。一方、中国では青風藤はあまりよく知られていない生薬であるが、民間では脚気などによる浮腫やリウマチなどの関節痛の治療薬として用いている。成分や効能に関しては防己の項に記す。

土曜日, 7月 20, 2013

青皮

○青皮(せいひ)

 日本ではミカン科の常緑高木ウンシュウミカン(Citrus unshiu)のまだ青い、黄熟する前の果皮を青皮という。成熟果実の果皮は陳皮といい、未熟な果実は枳実としても用いられる。中国ではオオベニミカン(C.tangerina)やコベニミカン(C.erythrosa)などの未成熟果実の皮を青皮として用いている。今日、日本の市場品は全て中国産である。

 青皮には疏肝・理気・消積化滞の効能があり、胸や腋の張ったような痛み、肩や乳房の痛み、消化不良による下腹部痛などに用いる。青皮の性質は陳皮よりも激しく、陳皮の理気作用よりも強い疏肝・破気の効能があるといわれている。

 脇腹の痛みには柴胡・川芎などと配合する(柴胡芎帰湯・疏肝湯)。ストレスによる肩こりには香附子・莪朮などと配合する(治肩背拘急方)

水曜日, 7月 17, 2013

青黛

○青黛(せいたい)

 キツネゴマ科のリュウキュウアイ(Strobilanthes cusia)、マメ科のタイワンコマツナギ(Indigofera tinctoria)、アブラナ科の植物のホソバタイセイ(Isatis tinctoria)などの葉や茎に含まれる色素を用いる。

 リュウキュウアイはインドからインドシナ半島、中国南部、台湾、小笠原諸島や沖縄などで藍の原料として栽培されている。リュウキュウアイやホソバタイセイの葉は大青葉、根は板藍根という。これらの葉や茎を数日間水に浸して発酵させ、石灰を加えてかき混ぜ、浸出液が紫色になったら液面の泡を掬いとり、これを日干ししてできた藍色の粉末を青黛という。つまり葉や茎に含まれるインジカンが発酵やアルカリを加えることにより加水分解されてインドキシルとなり、次に空気による酸化をうけて藍色のインジゴに変わる。

 青黛にはおもにこのインジゴが含まれている。一般にはインジゴは藍染めの染料として用いられている。薬理的には種々の細菌に対する静菌作用が知られている。漢方では清熱涼血・解毒の効能があり、大青葉や板藍根と同様に清熱薬として幅広く用いられ、丹毒などの発疹や発斑を伴う熱病、仕様煮のひきつけ、吐血や喀血、鼻血などの出血、湿疹、腫れ物、蛇噛傷などに応用する。

 小児の栄養不良で、発熱や腹水のみられるときには柴胡・莪朮などと配合する(消疳退熱飲)。高血圧や熱性疾患などで大便が秘結して眩暈やひきつけ、精神変調などがみられ、脇腹の痛むときには当帰・竜胆・芦薈などと配合する(当帰竜薈丸)。

 中国では肝炎や脳炎、耳下線炎、心筋炎などに対する臨床研究が行われている。口内炎や咽頭炎、耳漏、湿疹などには外用薬として用いる。鼻血には青黛の粉を直接出血部に当てて止血する。潰瘍性大腸炎に対する効果が検討されている。

火曜日, 7月 16, 2013

青葙子

○青葙子(せいそうし)

 熱帯の荒地に広く分布するヒユ科の一年草ノゲイトウ(Celosia argentea)の種子を青葙子という。ただし習慣的なケイトウ(C.cristata)の種子(生薬名:鶏冠子)も青葙子として市場に出ている。また神農本草経には青葙子を草決明と記している。ノゲイトウは日本でも本州西部、四国、九州南部などに帰化し、切花用にも栽培されている。

 青葙子にはセロシアオールを主成分とする脂肪油が含まれ、降圧作用や瞳孔散大作用が知られている。漢方では降圧・明目・止痒の効能があり、高血圧、眼科疾患、鼻血、皮膚掻痒症などに用いる。決明子と同様におもに眼疾患に用いられ、眼の充血や疼痛などを伴う急性結膜炎や慢性ブドウ膜炎、視力障害、飛蚊症などに用いる。また頭痛や頭暈などを伴う高血圧症や皮膚掻痒症には単独で煎じて服用する。鼻血には青葙子の汁を点鼻する。

土曜日, 7月 13, 2013

蠐螬

○蠐螬(せいそう)

 コフキコガネ科のチョウセンクロコガネ(Holotrichia diomhalia)などの昆虫の幼虫を乾燥して用いる。この幼虫は体長1.5~2cmくらいでカブトムシの幼虫によく似ている。

 中国では黒龍江省から長江以南に至る広い地域に分布している。しかし生薬の蠐螬にはさまざまな昆虫の幼虫が含まれ、コフキコガネ科、スジコガネ科、ハナムグリ科、カブトムシ科の幼虫も報告されている。台湾ではコフキコガネの幼虫が用いられている。

 これらは日本ではジムシ(地虫)、ネキリムシ(根切虫、スクモムシ)などと呼ばれているものに相当する。成分は不明だが、家兎の子宮を興奮させ、腸管を抑制し、血管を収縮させる作用がみられ、有毒とされている。

 漢方では活血化瘀・通乳の効能があり、打撲や骨折、瘀血による痛み、関節痛、乳汁不足などに用いる。金匱要略に収載されている駆瘀血剤の大黄シャ虫丸の中にも配合されている。

金曜日, 7月 12, 2013

薺菜

○薺菜(せいさい)

 日本の各地をはじめ北半球に広く分布しているアブラナ科の越年草ナズナ(Capsella bursa-pastoris)の全草を用いる。ナズナは春の七草の一つで、1月7日の朝に七草粥に入れる風習が残っている。

 ナズナの語源は「撫菜」で、「めでる菜」の意味といわれ、果実が三味線のバチに似ていることからペンペングサという呼び名もある。かつては七草粥以外にも和え物やおひたしにして食べていた。

 成分にはフラボノイドのジオスミンやコリン、アセチルコリン、ブルシン酸などが含まれ、子宮収縮、降圧、利尿、止血作用が認められている。戦前には、止血剤として用いていたこともある。

 漢方では利水・止血・明目の効能があり、浮腫、淋病、下血、産後の出血、目の充血、翼状片に用いる。日本でも中国でもおもに民間療法として用いられ、近年では緩下、利尿、血圧効果の目的で単独で煎じて服用する。目の炎症には煎じた液で洗浄する。欧米ではシェパーズパース(Shephard's Purse)と呼ばれ、止瀉、利尿、止血薬として用いられている。

木曜日, 7月 11, 2013

青蒿

○青蒿(せいこう)

 本州、九州、四国、朝鮮半島、中国に分布するキクカの二年草カワラニンジン(Artemisia apiacea)の全草を用いる。このほかアジア、ヨーロッパに広く分布するクソニンジン(A.annua)の全草を用いることもある。ただしクソニンジンの全草はとくに黄花蒿とも呼ばれている。

 葉の形がニンジンに似ていて、よく川原にみられるのでカワラニンジンというながある。一方、クソニンジンのなはその悪臭にちなむ。カワラニンジンは中国から薬用植物、すなわち神麹の原料の一つとして日本に渡来し、その後に野生化したといわれている。

 カワラニンジンの成分にはαピネン、カンフェンのほか、クマリン類のスコポレチン、ダフネチン、ヘルニアリンなど、クソニンジンの成分にはアルテミジアケトン、ヘキサナール、シネオールなどが含まれ、抗真菌、解熱作用などが知られている。

 漢方では清熱・解暑・退虚熱の効能があり、日射病や熱射病、結核やマラリアなどの慢性消耗性疾患の発熱、潮熱、盗汗などの症状に用いる。肺結核などで熱が続き、痩せて全身倦怠感のあるときには知母・別甲などと配合する(青蒿別甲湯)。また鼻出血には新鮮な青蒿の汁に水を加えて服用する。

 近年、クソニンジンを原料とした抗マラリア薬、アーテスネート(アーテミシニン)が中国の製薬会社によって開発され、世界的に広く普及している。

水曜日, 7月 10, 2013

西河柳

○西河柳(せいかりゅう)

 中国北部及びモンゴルを原産とするギョリュウ科の落葉小高木ギョリュウ(Tamarix chinensis)の葉のついた細い幼枝を用いる。日本には江戸時代に渡来し、切花や庭園樹として植栽されている。

 水湿地を好み、枝は細く垂れ下がって全体の形はヤナギに似ている。5月と8月頃の年2回に淡桃色の小さな花が咲くといわれ、三春柳の名もある。楊貴妃が非常に愛したため御柳と呼ばれ、神聖な木という意味で檉柳ともいう。

 成分は明らかでないが、止咳・抗菌・解熱作用が報告されている。漢方では発表・透疹の効能があり、専ら麻疹の治療に用いる。日本にも麻疹の薬として導入された。麻疹で発疹が遅く、高熱、煩躁、口渇、咽頭痛のみられるときには淡竹葉・葛根・蝉退などと配合する(竹葉柳蒡湯)

火曜日, 7月 09, 2013

西瓜

○西瓜(すいか)

 熱帯アフリカ原産のウリ科のつる性一年草スイカ(Citrullus vulgaris)の果実を用いる。中国へは中央アジアを経て11世紀に、日本には寛永年間に渡来したといわれている。スイカの果肉部分を西瓜といい、その汁を服用する。また厚皮の最外層の部分を乾燥したものを西瓜皮あるいは西瓜翠衣という。

 果肉の90%は水分で、果汁には約8%の糖質のほかアミノ酸のアルギニンやシトルリン、色素成分のリコピンやカロテンなどが含まれる。シトルリンは西瓜の果汁から発見されたアミノ酸の一種で、強力な抗酸化作用があり、利尿作用や血管拡張作用などにも関与していると考えられており、欧米では疲労回復、血流改善、動脈硬化予防、精力増強のサプリメントとして利用されている。

 漢方では解暑・止渇・利水消腫の効能があり、暑気あたり、口渇、排尿減少、浮腫に用いる。一般に果汁にして100~300mlを1日に数回飲む。。成熟した果実の果汁を土鍋に入れてとろ火で煮つめ水飴状にしたものを西瓜糖と称し、腎炎や浮腫に用いる。これにキササゲ、南蛮毛を配合した薬用西瓜糖が腎炎や脚気の利尿薬として市販されている。ただ寒の性質があるため、体内の冷えたものには用いない。

 西瓜皮も西瓜と同様の効能があり、暑気あたりや夏風邪による浮腫に用いる。暑気あたりや夏風邪には西洋参・石斛など配合する(王氏清暑益気湯)。また皮を焼いて灰にしたものを口内炎や歯痛に塗布する。このほかも成熟の果実のヘタの部分を切って壺を作り、中に天然の芒硝を入れてヘタで蓋をして密封し吊るしておくと皮の外側に白色顆粒状の結晶が透析してくるが、これを西瓜霜といい、咽頭炎や口内炎、咽頭の嗄れや腫痛に用いる。

 ちなみに地中海で栽培されているスイカの同属植物コロシントウリ(C.colocynthis)の果実は苦くて食用にならないが、コロシンチンという苦味配糖体を含み、ヨーロッパでは緩下薬として利用されている。

月曜日, 7月 08, 2013

鈴蘭

○鈴蘭(すずらん)

 北海道や本州の長野県・群馬県・朝鮮半島、中国、シベリアなどに分布するユリ科の多年草スズラン(Convallaria majalis var.keiskei)の根及び全草を用いる。

 高山や山地の湿地帯に群生し、キミカゲソウ(君影草)という別名もある。現在、園芸的に栽培されているものはおもにヨーロッパ産のドイツスズラン(C.majalis)である。花には芳香があり、ドイツスズランは香水の原料にもされる。

 全草、とくに根茎や根には強心配糖体のコンバラトキシン、コンバラトキソール、コンバロサイドなどが含まれ、ジギタリスと類似の強心、利尿作用がある。コンバラトキシンの強心作用はジギタリスの10~15倍の強さがあり、中毒症状として流涎、悪心、嘔吐、頭痛などを起こし、多量に摂取すると呼吸停止、心不全に陥る。またコンバロサイドには血液凝固作用がある。

 ヨーロッパや日本でも強心利尿薬として利用されていたが、毒性が強いため用いないほうがいい。

土曜日, 7月 06, 2013

豆豉

○豆豉(ずし)

 マメ科ダイズのの種子(Glycine max)を蒸して麹菌を用いて発酵させたものを乾燥して用いる。中国では淡豆豉あるいは香豉、淡豉などという。漢方生薬では一般に「豆豉」と称しているが、最近、健康食品として「豆鼓」という名称でも扱われている。

 豉は「くき」ともいい、大豆を発酵させたものを指し、日本の浜納豆や大徳寺納豆などに似たものである。蒸して発酵させるときに桑葉や青蒿を用いたり、蘇葉や麻黄を用いるなどいくつかの異なる加工方法がある。

 豆豉には鹸豉と淡豉との区別があり、塩を加えたものを鹸豉といい、を加えていないものを淡豉という。かつて鹸豉は醤油や味噌よりも古い調味料として利用されていた。薬用には塩を加えない淡豉を用いる。淡豆豉では豆の表面は黒く、縦横にしわがあり、質はもろくて砕けやすい。かび臭いにおいがあり、甘い味がする。

 成分には脂肪やタンパク質、酵素などが含まれている。近年、豆豉から抽出した成分(トウチエキス)が、αグルコシダーゼを阻害して、糖の吸収を遅らせ、血糖値の上昇を抑えることが明らかとなり、特定保健用食品として認められている。

 漢方では解表・除煩の効能があり、熱性疾患や熱病後の不眠、煩躁などに用いる。軽い風寒型の感冒などで発熱、悪寒、頭痛のみられるときには葱白などと配合する(葱豉湯)。熱感や咽痛がある風熱型の感冒には薄荷・金銀花などと配合する(銀翹散)。この際、麻黄や蘇葉とともに加工した豆豉は風寒型の感冒、桑葉や青蒿を用いた豆豉は風熱型の感冒に適しているといわれている。また熱病の後で胸中が煩悶したり、不眠が続くときには山梔子と配合する(梔子豉湯)。

金曜日, 7月 05, 2013

津蟹

○津蟹(ずがに)

 日本から台湾にかけて生息するイワガニ科のモズクガニ(Eriocheir japonicus)を用いる。中国の近縁種のシナモクズガ

ニ(E.sinensis)を蟹として薬用にする。

 モズクガニは河口の泥地や磯辺に生息する蟹で、甲羅は5cmくらいの四角形で体色は暗緑色をしており、鋏脚は大きく房状の毛が生えている。肉が多くて食用にもされる。薬用には薬性を残す程度に黒焼きにしたものを用いる。

 漢方では清熱・消腫・生肌の効能があり、筋肉や骨の損傷、疥癬、火傷、漆かぶれなどに用いる。日本では排膿・強壮の目的で反鼻・鹿角の黒焼きとともに配合し(伯州散)。皮膚化膿症や痔などに内服・外用し、火傷や漆かぶれなどには生のカニをつぶして塗布する。日本の民間でも漆かぶれに淡水産のサワガニをつぶして外用すると効果があるといわれているる。

木曜日, 7月 04, 2013

水蓼

○水蓼(すいりょう)

 日本をはじめ北半球に広く分布するタデ科の一年草ヤナギタデ(Polygonum hydropiper)の全草を用いる。果実は蓼実という。河川や湿地など水辺に生え、中国名は水蓼という。

 ヤナギタデはホンタデ、マタデとも呼ばれ、一般にタデといえばこのヤナギタデのことである。蓼食う虫も好き好きの名のように、葉は非常に辛くて口の中がタダレルということから、タデの名がある。

 奈良・平安時代よりタデは香辛料のひとつとして用いられている。この栽培品種にアオタデ(青蓼)とベニタデ(紅蓼)があり、アオタデの葉をすりつぶして酢と合わせたものを「たで酢」、深紅色のベニタデの芽を「芽たで」といい、さしみのつまとして用いている。

 辛味成分はタデオナールやポリゴディアールで、葉茎にはケルセチン、ピネンなどが含まれており、血液凝固促進作用や降圧作用が報告されている。漢方では去風湿、止瀉・消腫の効能があり、脚気、リウマチ、下痢、打撲傷などに用いる。

 日本の民間療法として暑気あたりで倒れたときに飲ませる方法が知られている。また虫さされや腫れ物、打撲傷に生の葉の汁や煎じた液で外用する。蓼実には明目、温中、利水の効能があり、胃腸炎の腹痛や顔面浮腫などに用いる。

水曜日, 7月 03, 2013

水揚梅

○水揚梅(すいようばい)

 日本の各地や中国に自生しているバラ科の多年草ダイコンソウ(Geum japonicum)の全草を用いる。下葉(根生薬)の形が大根の葉に似ているためダイコンソウという。中国で水揚梅という植物には、このほかアカネ科の植物Adina rubellaがあるが、形や効能は全く別である。

 ダイコンソウの成分にはフェノール配糖体のゲインや苦味質のゲウムビターなどが含まれるが、薬理作用は明らかでない。漢方では補気・活血・解毒の効能があり、眩暈やふらつき、四肢倦怠感、インポテンツ、腹痛、月経不順、腫れ物、打撲傷などに用いる。とくに老人の眩暈の治療薬として有名で、頭暈薬の別名がある。

 日本の民間では腎性浮腫や夜尿症、糖尿病などに用いる。また生の葉の汁や煎液を腫れ物や打撲傷に外用薬として用いる。ヨーロッパに分布するセイヨウダイコンソウ(G.urbanum)の根にもゲインが含まれ、西洋では胃腸薬や鎮痛薬として利用している。

火曜日, 7月 02, 2013

水蛭

水蛭(すいてつ)

 日本、中国、朝鮮半島の池や沼に生息するヒルド科のチスイビル(Hirudo mipponia)をはじめ、ウマビル(Whitmania pigra)、チャイロビル(W.acranulata)などをそのまま乾燥したものを用いる。

 チスイビルは体長3~5cm、ウマビルは6~13cm、チャイロビルはウマビルよりもやや小さく、いずれも細長い扁平形で前後端に吸盤がある。一般に補足したあと石灰や酒に漬けて殺し、日干しあるいは炙って乾燥する。

 ヒルはヨーロッパでは古くから瀉血療法の道具として利用され、20世の初め頃までフランス、ドイツ、オランダ、イタリアなどで盛んに用いられていた。これは生きているヒルを皮膚に吸い付かせて患部の血液を吸収させる単純な方法であり、脳卒中や緑内障、肺結核などの治療に応用されていた。

 ヒルの唾液にはヒルジンといわれる抗凝固物質が含まれ、フィブリノーゲンに対するトロンビンの作用を阻止する。ただ乾燥体ではヒルジンは破壊されている。また水蛭にはヒスタミン様物質やヘパリンなども含まれる。

 漢方では活血化瘀・通経・消癥の効能があり、瘀血による月経障害、子宮筋腫、打撲傷などに用いる。蓄血証で下腹部が硬く膨張し、月経不順や神経症状の見られるときに大黄・虻虫などと配合する(抵当湯)。肝硬変や結核性腹膜炎、子宮筋腫などがあり、るい痩や食欲不振、皮膚の甲錯などのみられるときに大黄・虻虫・シャ虫などと配合する(大黄シャ虫丸)。

月曜日, 7月 01, 2013

水仙根

○水仙根(すいせんこん)

 地中海沿岸に分布し、ギリシャ、中国を経て、日本に渡来したヒガンバナ科の多年草スイセン(Narcissus tazetta)の鱗茎を用いる。また花は水仙花という。ニホンズイセンはフサザキスイセンの変種といわれ、現在では伊豆や淡路島、越前海岸などの海岸部に大群落をなして野生化している。

 根はヒガンバナ(石蒜)と同様に有毒であるリコリンやプソイドリコリンなどのアルカロイドを含み、誤って食べると嘔吐や腹痛をおこし、ひどければ痙攣や昏睡に陥り、死に至る。催吐薬として用いたこともあるが、内服しないほうがよい。

 薬用には生の鱗茎を金属以外のおろし器ですりおろし、その汁を腫れ物や筋肉痛に外用する。とくに乳腺炎の腫れ物に効果がある。水仙花には芳香性の精油としてオイゲノール、リナロールなどが含まれ、活血薬として生理痛や月経不順に用いる。

土曜日, 6月 29, 2013

水菖蒲

○水菖蒲(すいしょうぶ)

 日本をはじめ中国、東アジア、インドに分布し、池や沼などの水辺や水中に自生するサトイモ科の多年草ショウブ(Acorus calamus)の根茎を用いる。日本では菖蒲根という。

 同じサトイモ科でよく似た植物にセキショウがあり、生薬名を石菖蒲というが、中国で菖蒲といえばセキショウのことである。ショウブには芳香があり、古くから魔除けや邪気払いなどに利用され、端午の節句に葉を菖蒲湯とする風習がある。

 精油成分にはアサロンやオイゲノールなどが含まれ、鎮痛、鎮静、珍痙、健胃、去痰作用などが認められている。漢方では芳香開竅薬のひとつで開竅・去痰・化湿・解毒の効能があり、高熱時の意識障害や湿疹、癲癇あるいは健忘症や精神病などに用いられるほか、腹痛や下痢、関節痛、打撲傷、腫れ物、気管支炎にも用いる。

 煎じた液や粉末にして服用するほか、腫れ物に煎液を塗布したり、歯痛にも粉末をすりこんだりする。日本の民間療法でも胃炎、発熱、ひきつけ、創傷、リウマチなどの治療に根を煎じたものややろしたものが利用されている。また打ち身には根をおろして患部にすり込む。

 しかし煎剤の服用でしばしば悪心や嘔吐を催すため、最近はあまり用いられていない。この服作用は新しいほど起こりやすいので、1年以上たったものや、粉末を用いるほうがよい。ヨーロッパではショウブの根茎はカラムスと呼ばれ、食欲不振や消化不良の治療に、北米では呼吸器症状の治療に用いられている。またアロマオイルではスイートフラッグ(sweetflag)とも呼ばれている。

水曜日, 6月 26, 2013

水銀

○水銀(すいぎん)

 常温で液体金属の水銀(Hg)を用いる。おもに天然の赤い辰砂鉱(HgS)を煉製するが、一部は天然水銀からとるものもある。古くから知られた金属のひとつであり、汞とは水銀のことを表す。水銀化合物の朱砂、霊砂、軽粉なども漢方では薬用にする。

 水銀には消毒、利尿、瀉下の作用があり、塩化第二水銀の昇汞は殺菌消毒薬として、有機水銀のマーキュロクロム(赤チン)は傷の消毒薬として知られている。かつて甘汞(塩化第一水銀)は緩下、利尿薬として、水銀注射は駆梅剤として、水銀軟膏は梅毒、毛虱、の塗布駆虫剤として、そのほか農薬としても使われていた。しかし、水銀の毒性により、今日ではほとんど姿を消している。

 一般に無機水銀はわずかして腸管から吸収されないが、有機水銀はほとんど吸収される。無機水銀を摂取すると腹痛や下痢、嘔吐、疲労感、腎障害などの急性中毒や水銀蒸気による気管支炎、肺炎などが現れる。また慢性の水銀中毒では口内炎、貧血や白血球減少、肝障害、腎障害、消化不良、さらには知覚喪失、精神異常などの神経症状を生じる。有機水銀中毒として水俣病がよく知られている。

 かつて中国の神仙家は朱色の辰砂から白く輝く水銀に、さらに白色の塩化水銀や黒色の酸化水銀に変化することに象徴的な意味を起き、不老不死の薬を求める錬丹術にしばしば水銀を用いた。このため錬丹術の流行した唐代には皇帝6人が丹を飲んで死んだといわれている。

 近年、内服薬に水銀を用いることはないが、かつて脚気衝心や脳卒中で危篤の時には黒錫と配合した黒錫丹や養生丹が用いられたり、浮腫や梅毒に水銀を配合したものを薫じて鼻から入れる方法もあった。また油脂とよく混ざるので外用薬として用いられ、疥癬や真菌症など皮膚疾患の治療に応用され、とくに梅毒による悪瘡にしばしば用いられた(神水膏)。

火曜日, 6月 25, 2013

水牛角

水牛角(すいぎゅうかく)

 中国南部、東南アジアなどで飼育されているウシ科のスイギュウ(Bubalus bubalis)の角を用いる。黒褐色の湾曲した中空の角で、基部は方形~三角形になっている。

 成分は犀角とほぼ同じであり、水牛角にも強心作用、血液凝固時間短縮作用、鎮静作用などがある。漢方では清熱涼血・解毒の効能があり、発熱時の頭痛、意識障害、熱性痙攣、出血症状、紫斑などに用いる。サイの捕獲がワシントン条約により禁止されているため、犀角の代用として使用されることが多い。

月曜日, 6月 24, 2013

蕤核

○蕤核(ずいかく)

 中国の内モンゴル自治区、山西・甘粛・河南省などに分布するバラ科の落葉低木、プリンセピア・ウニフローラ(Prinsepia uniflora)の成熟した果実の種子(核果)を用いる。

 7~8月頃に直径1~1.5cmくらいの球形の果実がなり、黒く熟す。熟した果実を摘みとり、果肉を除いて核果を取り出して乾燥する。使用するときには割って内果皮を除いて心臓形の種仁を用いる。

 種仁は脂肪油を多く含む。漢方では明目の効能があり、目の炎症や鼻血、不眠に用いる。眼病の要薬といわれ、結膜炎などで目が赤く腫れたり、涙や眼脂の出るときに用いる。内服にも用いるが、おもに点眼薬として外用する。外用には油分を除いて練って膏として点眼薬にしたり、煎液を眼洗浄に用いる。

金曜日, 6月 21, 2013

○酢(す)

 米、麦、高梁などの穀物や酒などを醸造して得られる酢酸を含む酸性の液体、酢のことである。醸造酢の作り方は、穀物などのデンプンや糖分原料を糖化し、アルコール発酵させた後、酢酸菌によって酢酸発酵させて作るものである。

 酢は酸拝した酒が起源と考えられ、かつて中国では苦酒と呼ばれ、日本でも「からさけ」といわれていた。紀元前5000年頃にバビロニアで樹液や果汁から酒やビネガーをつくったという記載があり、中国では周の時代に酢を司る役人がいたということが周札に書かれている。

 日本には応神天皇の時代、約5世紀のころには中国から酢の製法が伝えられていたといわれてる。米酢などの成分として酢酸(3~5%)、フマル酸、蟻酸、乳酸、コハク酸、クエン酸などの有機酸のほか、グリシン、アラニン、バリン、ロイシンなどのアミノ酸、糖類などを含み、複雑な酸味や香気がある。酢はその酸によって細菌類のタンパク質を変成させる性質があるため、殺菌作用や防腐作用があり、酢洗い、酢漬け、酢じめなどの料理方法に応用されたり、夏の食品保存にも利用される。

 また酸味はストレスを和らげ、酸味の刺激により、胃液の分泌を高め、食欲を増進させる。胃酸分泌の低下しているときには、胃酸の代わりにペプシンなどの消化酵素を活性化させ、タンパク質の消化を促進すると同時に、食物中の雑菌を殺す。

 酸味の感じ方は感情の変化を受けやすく、ストレスや情緒不安定の時には酸味の感覚が鈍るといわれる。また妊娠している人も酸味に対する味覚が鈍るため、酸味の強いものを好むようになる。また高血圧や動脈硬化の予防、水虫などの白癬菌に対する治療効果なども知られている。

 漢方では肝胃に入り、活血・止血・解毒の効能があり、産後のめまい、黄疸、盗汗、鼻血や吐下血、腫れ物などに用いる。咽に炎症があり、声が出にくいときには半夏と醋を卵殻の中に入れて沸騰させたものを冷やして服用する(半夏苦酒湯)。また金匱要略の中に黄汗の治療に黄耆・芍薬・桂枝を苦酒と水を混和した液で煎じる方法がある(黄耆芍薬桂枝苦酒湯)。腫れ物には大黄の粉末を酢で調えて塗布する。ちなみに薬用には古いほどよいといわれている。

 近年、鹿児島県の福山町などで伝統的に作られてきた黒酢が注目されている。黒酢は玄米を原料として陶製の壺(アマン壺)の中で1年以上にわたって糖化・発酵させて熟成したもので、一般の米酢に比較するとアミノ酸の含有量が著しく多いという特徴がある。また、中国の鎮江でもち米を長期に熟成させて作られる香酢(香醋)沖縄県で泡盛の製造過程でできるもろみを原料にしたもろみ酢なども健康食品として登場している。

木曜日, 6月 20, 2013

秦皮

秦皮(しんぴ)

 日本の本州中部以北に自生するモクセイ科の落葉高木トネリコ(Fraxinus japonica)などの樹皮を用いる。中国ではオオトネリコ(F.rhynchophylla)やヒメトネリコ(F.bungeana)などの樹皮を用いる。

 これらの幹や皮にイボタロウムシが白色の蠟を分泌することから白蠟樹の名があり、これを練ったもので戸のすべりをよくしたことから、戸ねり粉という語源説もある。市場にはクルミ科のヒメグルミの樹皮も秦皮として出ているが、適当ではない。

 秦皮にはクマリン類のエスクリンやエスクレチン、タンニンなどが含まれ、エスクリンのために切り口を水をつけると水は青い蛍光をする。薬理的には消炎、鎮痛、尿酸排泄作用が知られている。

 漢方では止瀉・清熱燥湿・明目の効能があり、下痢、帯下、目の充血などに用いる。裏急後重を伴う細菌性下痢には白頭翁や黄連・黄柏と配合する(白頭翁湯)。目の充血に秦皮の煎液で洗眼したり、目の痛みには菊花や黄連と配合して服用する。ヨーロッパや北アジアに分布する近似種のセイヨウトリネコ(F.excelsior)は通風の治療薬として知られている。

水曜日, 6月 19, 2013

人尿

○人尿(じんにょう)

 健康人の小便の中間尿を用いる。とくに10歳以下の男子の小便を童便といい、良品とされている。また妊娠2~3ヶ月の健康な妊婦の尿を妊娠尿として用いることもある。

 用法は新鮮な尿をそのまま1~2杯飲むか、薬湯に混ぜて飲む。成分は電解質や尿素、硫酸、尿酸、アンモニアなどのほかビタミンやホルモンも含まれる。妊娠尿では2ヶ月前後に尿中HCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)の含量が最も多くなる。妊娠尿は尋常性乾癬に効果があるという報告もある。

 漢方では滋陰清熱・止血・活血化瘀の作用があり、結核などの発熱や喀血、高齢者や病後の衰弱に用いる。傷寒論では下痢で陰液まで損なわれたときに白通湯に猪胆汁とともに人尿を配合する。

 古くから世界各地に民間療法として自分が排泄した尿を飲む飲尿療法が行われている。かつてヨーロッパで歯磨き粉や口腔洗浄液の原料として人尿が利用されていたといわれている。また人尿を癌治療に応用する試みも行われており、中国で人尿から抗癌作用がある成分が抽出されたとの発表もある(CDA-Ⅱ)。

 今日、医薬品として人尿から血栓溶解剤のウロキナーゼや酵素阻害剤のウリナスタチンが抽出精製されている。また尿中の沈殿物が便器に付着したものを人中白、童尿と石膏で加工したものを秋石という。

火曜日, 6月 18, 2013

沈丁花

○沈丁花(じんちょうげ)

 中国原産のジンチョウゲ科の常緑低木ジンチョウゲ(Daphne odora)の花を用いる。中国では宋の時代から栽培されているが、今日では栽培種ばかりで、自生種は発見されない。日本に渡来した年代は不明であるが、室町時代にはすでに栽培されていたという。

 早春に芳香の強い花をつけるため、中国では瑞香と呼ばれている。また沈丁花という和名は沈香と丁香をあわせた匂いの花という意味である。ただし花弁のように見えるのは萼である。

 花や葉にはクマリン類のダフニン、ウンベリフェロンなどが含まれる。民間療法では利咽・止痛の効能があり、咽頭の腫痛や歯痛にうがいや、内服薬として用いる。また中国では乳癌の初期に外用したり、リウマチの痛みに内服する民間療法もある。日本にも花や葉の煎じ汁で、腫れ物を洗う治療法がある。

月曜日, 6月 17, 2013

人中白

○人中白(じんちゅうはく)

 人尿が自然に沈殿して固まってものを人中白という。

 便器などの内側に長年に渡って凝固したものを削り取って夾雑物を除いて乾燥する。尿を放置しておくと尿中のpHが酸性からアルカリ性へと変化し、酸性のときには尿酸、尿酸塩、硫酸カルシウム、リン酸水素カルシウムなどが、アルカリ性のときには炭酸カルシウム、リン酸マグネシウム、リン酸カルシウム、尿酸アンモニウムなどが沈殿する。人中白の主成分はリン酸カルシウムと尿酸カルシウムである。

 漢方では清熱解毒・止血の効能があり、結核などの消耗熱や喀血、鼻出血、口内炎などに用いる。咽頭腫痛や口内炎には黄連・黄柏・竜脳などの粉末と混ぜて口中に吹きつける。一般には粉末を外用にして用いることが多い。また尿と石膏を混ぜて固めたものは秋石という。

土曜日, 6月 15, 2013

人中黄

○人中黄(じんちゅうおう)

 甘草の粉末を竹の筒に入れ、人の便壺の中に浸してできたものを用いる。荒く挽いた甘草の粉末を節のある竹筒に入れ、もう一方を布で堅く塞ぎ、これを人糞の溜まった便器の澄んだ液の中に冬季の2~3ヶ月間漬け、取り出し後、臭いがなくなるまで日干しにする。薬材は暗黄色の円柱形をしたやや固い甘草の塊である。

 漢方では清熱解毒の効能があり、高熱や斑疹のある急性伝染病や丹毒、咽頭痛、腫れ物に用いる。温疫などの熱病には黄連・黄芩などと配合する(人中黄丸)。

木曜日, 6月 13, 2013

真珠

○真珠(しんじゅ)

 ウグイスガイ科やイシガイ科などの貝の体内にできる球体を真珠あるいは珍珠といい、その貝殻の真珠層を珍珠母という。日本ではウグイスガイ科のアコヤガイ(Pinctada fucata martensii)が養殖真珠として有名であるが、真珠は海水産のシロチョウガイ(P.maximz)、クロチョウガイ(P.margaritifera)、淡水産でもイシガイ科のカワシンジュガイ(Margaritifera laevis)などにできることがある。

 養殖品も天然品も市場に出ているが、装飾用にならないシジミ真珠を薬用にしている。貝川の内部にある外套膜が、異物にも膜の層を形成し、球状の真珠を作る。このため真珠の成分は、母貝も真珠層と同じで、ほとんどが炭酸カルシウム(CaCo3)で、有機物としていくつかのアミノ酸も含んでいる。養殖真珠では核に貝殻を用い、真珠の大部分は核である。

 薬理的には抗ヒスタミン作用などが知られている。漢方では安神・定驚・清熱・解毒・除翳・収斂生肌の効能があり、心肝の火を清して動悸や痙攣、目の混濁に用いる。

 動悸や心悸亢進には単独で、高熱による痙攣には犀角あるいは石膏などと配合する。消化性潰瘍には単独で用いて胃酸を中和する。また口内炎や咽頭の腫痛に牛黄と配合する(珠黄散)。また結膜炎には内服し、角膜混濁には点眼薬として外用する。さらに傷口の治癒促進や化膿症に外用する。

 珍珠母には平肝潜陽・明目安神・止血の効能があり、安神・定驚作用は真珠よりも弱いが、肝陽上升による眩暈、頭痛、動悸、不眠、鼻血や性器出血に用いる(安神補心丸)。なお古くから真珠の配合された化粧品、珍珠霜(パールクリーム)などが市販されているが、近年、真珠に含まれるコンキオリンというポリペプチドに保湿効果や皮膚細胞の活性効果が認められ、アンチエイジング効果も期待されている。

水曜日, 6月 12, 2013

鍼砂

○鍼砂(しんしゃ)

 鋼鍼を製造するときに削り落とされた鉄屑を用いる。主成分は鉄であり、酸化鉄や炭素、リン、ケイ素、硫黄なども含まれる。鉄は一般に吸収されにくいが、一部は胃酸の作用で塩化第一鉄となり、小腸上部で吸収される。

 西洋で鉄が貧血の治療に有効であることが知られたのは17世紀のことである。近年まで硫酸鉄や塩化第一鉄などの還元鉄が用いられていたが胃腸障害が起こりやすく、現在では除法性鉄剤や有機酸鉄、有機鉄(ヘム鉄)がおもに用いられている。

 漢方では補血・利水の効能があり、血虚黄胖や浮腫の治療に用いる。貧血に伴う動悸、眩暈、呼吸困難、浮腫などの症状に苓桂朮甘湯に鍼砂・牡蠣・人参を加える(鍼砂湯)。

火曜日, 6月 11, 2013

沈香

○沈香(じんこう)

 台湾や中国南部、東南アジアに分布するジンチョウゲ科の常緑高木ジンコウ(Aquilaria agallocha)の樹脂を含んだ木材を用いる。古来より、有名な香木として知られ、良質のものは比重が大きく水に沈むために沈香あるいは沈水木という名がある。

 ジンコウは生木に芳香性の樹脂が含まれているではなく、切株の損傷部や枯死した後に自然と集まってくる樹脂である。また木材が倒れて土中に長い期間埋まり、腐敗した後に樹脂を含んだ部分だけが残ることがあり、これを珍重する。最近では、幹に人工的に傷をつけて樹脂を分泌させたり、木材を10年以上土中に埋めて腐らせて沈降を採取する方法が用いられている。

 黒色の最良品を伽羅木とか奇楠木というが、漢方では伽南香とも称されている。日本には推古天皇の時代に沈水という香木が淡路島に漂着したことが記録されており、また正倉院には黄熟香と全桟香といわれる2種類の沈香が収蔵されている。この黄熟香は蘭奢待と呼ばれ、最高級の沈香といわれている。

 沈香を燃やすと独特の甘い芳香を放つため、燻香料として材を粉末にしたものが練り香や線香の中に入れられている。仏教をはじめとする宗教儀式や香道には不可欠のものである。

 芳香の精油成分はベンジルアセトン、P-メトキシベンジルアセトン、高級テルペンアンコールなどがあり、そのほかにヒドロケイヒ酸やアガロスピロールなどが含まれる。精油には鎮静作用が、煎液には抗菌作用が報告されている。

 漢方では降気・止痛・止嘔・平喘の効能があり、体内を温めて痛みや吐き気を止め、腎気を補い、喘息を治す作用がある。たとえば下腹部痛や嘔吐、しゃっくり、便秘、気管支喘息、インポテンツなどに用いる。

 胸が苦しく、煩悶して食欲不振や喘息などの見られるときには人参・烏薬などと配合する(四磨飲)。気が滞って大便が秘結するときに大腹皮・蘇葉などと配合する(三脘中湯)。四肢の冷えるときには紫蘇子・乾姜などと配合する(喘理中湯)。小児の疳の虫に用いる樋屋奇応丸や急病の際に用いる気付け薬の万病感応丸などの家庭薬にも配合されている。

 近年、人口の葉(沈香葉)に含まれるゲンクワニン配糖体が、アセチルコリンの分泌を促し、腸の蠕動運動を促進して排便を促すことが報告されて注目されている。ただし、沈香の取引はワシントン条約などで制約されているため、一般には入手困難である。

月曜日, 6月 10, 2013

秦艽

○秦艽(じんぎょう)

 中国の東北部から内蒙古、西北部に分布するリンドウ科の多年草ジンギョウ(Genitiana macrophylla)をはじめ、チベット自治区、雲南・四川省などに分布するソケイジンギョウ(G.crassicaulis)、チベットリンドウ(G.tibetica)などの植物の根を用いる。いずれもリンドウと同じゲンチアナ属の植物である。

 根にはゲンチアニン、ゲンチアニジンなどのアルカロイドが含まれ、抗炎症、鎮静、降圧、抗菌作用などが認められている。漢方では去風湿・清虚熱・退黄の効能があり、リウマチなどによる関節痛や筋肉の痛み、痙攣、結核などによる虚熱、黄疸、小便不利などに用いる。

金曜日, 6月 07, 2013

神麹

○神麹(しんきく)

 日本では米を蒸して酵母菌により発酵させた麹を神麹という。中国では小麦粉や米の麩に赤小豆粉、杏仁泥、青蒿、蒼耳、野辣蓼を混合して発酵させたものをいう。

 現在、一般的な中国の製法は新鮮な青蒿(カワラニンジン)、蒼耳(オナモミ)、野蓼(ヤナギタデ)を細切りにし、これに赤小豆の粉にしたもの、杏仁の渋皮をとってスライスしたものを加えてかき混ぜ、さらに小麦粉と米のふすまと水を加えて練って団子状にする。その後、これを押しつぶして厚さ1cmの平板状にし、表面に黄色い菌糸が伸びたころに乾燥させて作る。もともと小麦を除いた六味で作られてたため六曲ともいう。神麹の薬材は厚さ1cmで、3cmくらいの方形に切ったものである。

 神麹には酵母菌のほか、アミラーゼ、プロテアーゼ、ビタミンB複合体、配糖体類などが含まれ、消化酵素製剤に類するものと考えられる。漢方では健脾・消化・止瀉の効能があり、消化不良や食欲不振、腹部膨満感、下痢などの症状に用いる。

 小児の食べ過ぎや消化不良による痞満やむかつきには山査子・陳皮などと配合する(保和丸)。食欲不振、消化不良には人参・白朮などと配合する(人参健脾丸)。また胃腸虚弱者の眩暈症に用いる半夏白朮天麻湯にも神麹が配合されている。

 ちなみに福建省産の有名な建麹は約40種類の生薬を混ぜ合わせて作ったもので茶料として利用されているが、かつて日本では建麹を神麹として用いていたこともある。

木曜日, 6月 06, 2013

晋耆

○晋耆(しんぎ)

 中国の甘粛省・寧夏・四川省などに分布するマメ科の多年草ヘディサルム・ポリボトリス(Hedysarum polybotrys)の根を用いる。これと同属植物にイワオウギ(H.esculentum)があり、イワオウギの根は和晋耆と称されている。

 いわゆる黄耆の基原植物はマメ科ゲンゲ属のキバナオウギ(Astragalus membranaceus)やナイモオウギ(A.mongholicus)などであるが、この晋耆は同じマメ科でもイワオウギ属である。この晋耆は日本市場で束黄耆として流通していたが、日本薬局方では除外されている。ただし、中国ではこの晋耆も黄耆のひとつとして扱われ、むしろ本品のほうが尊ばれて高価である。

 晋耆には黄耆と同様に利水・止汗・補気の効能があり、浮腫や盗汗、麻痺、脱肛、子宮下垂などに用いる。

水曜日, 6月 05, 2013

辛夷

○辛夷(しんい)

 中国を原産とするモクレン科の落葉樹モクレン(Magnolia quinquepeta)やハナモクレン(M.heptapeta)、ボウシュンカ(M.bionadii)などの花蕾を乾燥したものを用いる。

 中国で辛夷といえば紫色の花のモクレン(シモクレン)のことで木蓮・桂蘭ともいい、一方、白い花のハナモクレンは中国では玉蘭あるいは白木蓮という。日本ではコブシ(M.praecocissima)に辛夷の漢字をあてているが、コブシは日本特産である。

 ところで現在流通している日本産の辛夷はほとんどタムシバ(M.salicifolia)の花蕾である。タムシバはコブシに似た落葉高木であり、本州、四国、九州に自生している雑木である。現在、日本に流通している辛夷はおもにボウシュンカの蕾ともいわれている。これら花蕾は毛筆状で、外面に細かい毛が密集し、特有の芳香がある。

 花蕾の成分にはシトラールやオイゲノール、シネオール、ピネンなどの精油が含まれ、消炎、抗真菌、降圧、クラーレ様作用などが認められている。漢方では解表・通竅の効能があり、おもに鼻の竅を通じる要薬としてよく知られている。鼻炎や蓄膿などによる鼻づまりのほか、頭痛や歯痛などに用いる。

 風邪に罹患して鼻閉や鼻汁の症状がひどいときには葛根湯に配合する(葛根湯加川芎辛夷)。慢性鼻炎や蓄膿症で鼻閉や頭痛のあるときには山梔子・黄芩などと配合する(辛夷清肺湯)。また、同様の作用を有する蒼耳子とも配合する(鼻淵丸)。

月曜日, 6月 03, 2013

地竜

○地竜(じりゅう)

 日本、朝鮮半島、中国の山野や畑などに生息するミミズ科の乾燥したものを用いる。中国ではフトミミズ科の参環毛蚓(Pheretima aspergillum)やツリミミズ科に属するカッショクツリミミズ(Allolobophora caliginosa trapezoides)というミミズを用いる。

 前者は大きなものでは体長36cm、幅1cm以上もあり、後者は大きなものでは体調25cm、幅4mm程度とやや小さい。生薬名で前者を広地竜、後者を土地竜という。広地竜は腹を開いて内臓を出してから乾燥したもの、土地竜は草木灰の中に入れて殺し、そのまま乾燥したものが流通している。日本産の地竜はカッショクツリミミズである。

 地竜は古くから薬用に用いられ、神農本草経の下品に白頸蚯蚓という名で収載されている。成分にはルンブリフェブリン、ルンブリチン、テレストロルンブリシンなどが含まれ、解熱作用、降圧作用、気管支拡張作用、鎮静、抗痙攣作用などが認められている。

 漢方では清熱瀉火・定驚・通経絡・止咳の効能があり、高熱時のひきつけや煩躁、癲癇、脳卒中後遺症、喘息、気管支炎、リウマチなどに用いる。例えば脳卒中による半身不随や言語障害、小児麻痺などに黄蓍・当帰などと配合する(補陰還五湯)。またリウマチなどによる関節痛や神経痛に用いる大・小活絡丹にも配合されている。

 日本の民間でも発熱性疾患や咳嗽、中耳炎、尿路感染症、浮腫などに用いる。また生のミミズはひょう疽の特効薬ともいわれ、すりつぶして米飯と混ぜて患部に塗ったり、裂いた皮を指に巻いて用いる。

 近年、欧米に広く生息している体長3~4cmのアカミミズ(red worm)の一種、ルンブルクス・ルベルスからルンブルキナーゼという血栓溶解酵素が発見され、アカミミズの皮を除いた内臓を凍結乾燥させた粉末が健康食品として市販されている。

土曜日, 6月 01, 2013

蒔蘿子

○蒔蘿子(じらし)

 ヨーロッパの地中海沿岸地方や西アジアを原産とするセリ科の一年草イノンド(Anethum graveolens)の果実を用いる。ヒメウイキョウとかデイルという名の香辛料としても知られ、古代メソポタミアやエジプトで栽培された最も古い香草、薬草の一つである。

 果実はデイルシードと呼ばれ、サラダや煮込み料理、ソースやスープなどに用いられる。イノンドという名はスペイン語のEneldoの音訳で、江戸時代の中期にスペイン人が長崎に伝えたといわれている。葉もスープやピクルスの香り付けに使用される。

 果実には精油成分のカルボン、リモネン、ジラピオールなどのほか、キサントン配糖体のジラノサイドなどが含まれ、芳香性の健胃薬、駆風薬として知られている。

 漢方でも脾腎を温めて健胃・理気の効能があり、食欲不振や嘔吐、下痢、腹痛などの症状に用いる。民間では嘔吐やしゃっくりを止めるのに用いている。水蒸気蒸留した蒔蘿水は小児の食べ過ぎに用いる。ヨーロッパでは泣き叫んでいる幼児を鎮めるために用いている。

金曜日, 5月 31, 2013

女貞子

女貞子(じょていし)

 中国原産で、日本でも公園樹としてよく植えられているモクセイ科の常緑小高木トウネズミモチ(Ligustrum lucidum)の果実を用いる。日本の関東南部から沖縄県、朝鮮半島、台湾などに分布するネズミモチ(L.japonicum)の果実も女貞子として用いられる。

 トウネズミモチは樹高10mに達し、ネズミモチよりも大きい。果実が紫黒色でネズミの糞に似ており、木がモチノキに似ているためネズミモチという和名があり、冬でも葉が青い様子を貞女になぞられて女貞と名づけられた。

 ネズミモチやトウネズミモチは公害や病虫害に強く、生け垣や高速道路の分離帯、都市の公園樹として利用されている。またトウネズミモチはイボタノキと同様にイボタロウカイガラムシがつき、中国では虫白蠟を採取するためにも栽培されている。戦争中に果実を焦がしてコーヒー豆の代用にしたという話もある。

 果実にはオレアノール酸、ウルソール酸、マンニトールなどが含まれる。オレアノール酸には強心・利尿作用が知られている。漢方では肝や腎を補い、腰や膝を強める作用があり、滋養薬として足腰の筋力低下、頭暈、白髪、視力低下、かすみ目などに用いる。

 倦怠感や足腰の衰え、目まい、不眠などには人参・地黄などと配合する(滋補片)。焼酎に漬けた女貞子酒も滋養強壮の薬用酒として知られている。葉の女貞葉は消炎・鎮痛の作用があり、民間療法では生の葉を火であぶって柔らかくしたものを腫れ物に貼付したり、浴湯料として皮膚疾患に用いるほか、口内炎や火傷などの外用薬としても用いる。

 近年、リンパ球の増殖を促し、放射線や抗癌剤治療による白血球減少を抑制する効果があると伝えられている。