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金曜日, 3月 30, 2012

弟切草

○弟切草(おとぎりそう)

 日本各地、朝鮮半島、中国などに分布するオトギリソウ科(Hypericum erectum)の全草を用いる。この近縁植物でやや大きめのトモエソウ(H.ascyron)は紅旱蓮あるいは大連翹という。オトギリソウは日本の民間薬として有名であるが、中国でもおもに民間療法として用いられている。オトギリソウは弟切草と書き、平安時代の伝説に、これを鷹の秘伝の傷薬としていた鷹飼いが、この秘密を他人に漏らした弟を切り殺したという話が残っている。

 全草にタンニンを多く含むほか、アントラキノン類のヒペリシンやフラボノイドのケルセチンなども含まれる。ヒペリシンは紫外線を強く吸収する黒紫色色素であり、これを含む植物は有毒牧草で、ウシやウマなどの家畜が多量に食べて日光に当たると皮膚炎を起こして脱毛する。

 日本の民間療法では主に外用薬として、生の葉や茎の汁を切傷や腫れ物の塗布薬に、煎液を打ち身や捻挫の湿布薬に使用する。ただ生の汁で皮膚炎を起こすこともある。また、内服では煎じて生理不順や扁桃炎、咳嗽に用いるほか、酒に浸したものをリウマチや神経痛、中風などに用いる。中国でも止血・消腫・通乳、調経の薬として鼻血や月経不順、乳汁不足、腫れ物、外傷出血、捻挫などに用いている。欧米では同属植物のセントジョーンズワート(西洋オトギリソウ)をうつ病に有効なハーブとして利用されている。

水曜日, 3月 28, 2012

黄連

○黄連(おうれん)

 日本の本州以南に自生するキンポウゲ科の常緑多年草オウレン(Coptis japonica)の根茎を用いる。オウレンには葉の形の違いによりキクバオウレン、セリバオウレン、コセリバオウレンなどがあるが、いずれも薬用とする。中国では四川・湖北・ 西省などで栽培されている黄連(C.chinensis)をはじめ三角葉黄連(C.deltoidea)、峨眉野連(C.omeiensis)、雲南黄連(C.teeta)が基原植物とされている。

 根は球を連ねたように短く節くれ、折ると断面が濃黄色のため黄連の名がある。江戸時代に日本の野生種の黄連が中国などに輸出されたとの記録があり、良質と知られていた。幕末のころより丹波黄連などの栽培が始まったといわれるが、現在、兵庫県ではほとんど栽培されておらず、福井県(越前黄連)、鳥取県(因州黄連)などでわずかに栽培されているだけである。中国産では四川省に産する黄連が有名で、とくに川連といわれている。なお、代用にされる胡黄連はゴマノハグサ科の植物の根茎である。

 黄連にはアルカロイドのベルベリン、パルマチン、コプチシンのほか、酸性物質のフェルラ酸などが含まれる。ベルベリンは苦味が強く、抗菌作用や整腸作用が知られている。このベルベリンは黄柏の主成分でもある。黄連エキスには鎮静、抗潰瘍、抗炎症、抗菌作用などが認められている。

 漢方では黄連の性質は大苦・大寒で瀉火・燥湿・解毒の効能があり、チフスなどの流行性熱性疾患、細菌性腸炎、肺結核、嘔吐、鼻血、下血、咽頭炎、口内炎、湿疹などに用いる。古くから「心火を瀉し、胃腸の湿熱を清し、湿と熱の欝結を治療する要薬」といわれている。

火曜日, 3月 27, 2012

黄薬子

○黄薬子(おうやくし)

 本州の関東地方以西、朝鮮半島、中国、東南アジアなどに分布するヤマノイモ科のつる性多年草ニガカシュウ(別名:カシュウイモ Dioscorea bulbifera)の塊根を用いる。ニガカシュウにはヒゲ根を多く付けた大きな偏球形の塊根がある。この塊根は食用にもなるが、苦味が強いため灰汁でよく煮て水にさらし、十分にアクを抜く必要がある。苦味の少ない栽培品種にカシュウイモがある。

 ニガカシュウの塊根にはジオスゲニン、ジオスブルピンなどのステロイドサポニンが含まれ、エキスを用いた動物実験では心抑制作用、子宮興奮作用、抗甲状腺作用、抗菌・抗真菌作用などが報告されている。また黄薬子酒の胃癌、食道癌に対する抗腫瘍作用も注目されている。

 漢方では清熱涼血・清熱解毒・止血・散結の効能があり、鼻血、吐血、喀血などの出血、咽頭腫痛、皮膚化膿症、甲状腺腫などに用いる。また出血や腫れ物に、つき潰したものや粉末にしたものを患部に塗布する方法もある。なお中国ではキンポウゲ科のセンニンソウの植物名を黄薬子というので注意を要す。

月曜日, 3月 26, 2012

王不留行

○王不留行(おうふるぎょう)

 王不留行は、ヨーロッパ、アジアに広く分布するナデシコ科の一年草、ドウカンソウ(Vaccaria pyramidata)の種子を用いる。日本には江戸時代に渡来し、おもに観賞用に栽培されている。中国の広東省産はクワ科のオオイタビ(Ficus pumila)の果実であり、日本に輸入されている王不留行はおもにこれといわれている。

 ドウカンソウの種子にはバクセゴシド、バッカロシドなどのサポニンが含まれる。一般に生のままでは煎じ難いため、鍋で炊いてはじかせてから薬用とする。漢方では通乳・通経・止痛などの作用があり、乳汁不足や乳腺炎、月経閉止、難産、腫れ物、外傷などに用いる。特に中国では乳汁分泌の不足に応用されている。

 金匱要略では外傷の後が腫れて痛むときに用いている。また腫れ物には外用薬としても応用できる。ただし内服では妊婦に禁忌である。

土曜日, 3月 24, 2012

桜皮

○桜皮(おうひ)

 日本各地、朝鮮半島などの温帯に分布しているバラ科の落葉高木ヤマザクラ(Prunus jamasakura)やソメイヨシノなど桜類の樹皮を用いる。桜皮というのは和名であり、中国にはない。サクラ類は日本に多く、数十種が知られているが、一般に植えられているのはソメイヨシノである。

 サクラは北半球の温帯に広く分布し、美しい花の咲く種類は東アジアを中心に自生している。ヨーロッパのサクラ類はおもに西アジアを原産とするセイヨウミザクラ(P.avium)で、サクランボなど食用に栽培されている。ヤマザクラやソメイヨシノの果実は苦くて食用にならない。薬用には主にヤマザクラの樹皮を用いるが、主幹が20cm以上の太くない木を利用する。桜皮の外観は赤褐色ないし灰褐色で光沢があり、特有の匂いとかすかな渋みがある。

 樹皮にはフラボノイドのサクラニン、サクラネチン、グルコゲンカニン、ナリンゲニンなどが含まれ、葉にはクマリン配糖体が含まれる。クマリン配糖体が分解されると芳香物質が生じるが、これが桜餅の独特の香りである。江戸時代の民間療法として桜皮は様々に応用され、魚の中毒、蕁麻疹、腫れ物などの皮膚病の治療、また解熱、止咳、収斂薬として知られていた。日本の漢方家も解毒・排濃の効能があるとし、華岡青洲は桜皮を配合した十味敗毒湯をよく用いた。

 十味敗毒湯は荊防敗毒湯の内容を加減したもので化膿傾向のある湿疹などに対する処方である。現在でも桜皮のエキス製剤は鎮咳虚痰薬として臨床に用いられている。北米でも先住民が古くからワイルドチェリー(Wild Cherry)の樹皮を下痢や呼吸器疾患の治療に用いていたが、その後、咳止めドロップなどの原料に利用されている。

金曜日, 3月 23, 2012

黄柏

○黄柏(おうばく)

 日本全土、朝鮮半島、中国北部、アムール地方に分布するミカン科の落葉高木キハダ(Phellodendron amurense)の樹皮を用いる。中国産にはシナキハダ(P.chinense)の樹皮も市場に出ている。日本では樹皮科の剥がしやすい梅雨明け頃に採取され、周皮を除いて乾燥する。

 キハダという名は樹皮を剥ぐと内側が黄色いことを表している。この内皮は古くから黄色染料として用いられていた。この染料には防虫作用もあるため、中国ではかつて公式文書は黄柏で染めた黄紙が用いられていたと記録されている。実際、黄柏で染色された写経用紙が今日まで正倉院にも残されている。

 樹皮にはアルカロイドのベルベリン、パルマチン、マグノフロリンや苦味トリテルペノイドのオーバクノン、リモニンなどが含まれる。ベルベリンや黄柏エキスには抗菌、抗炎症、中枢抑制、降圧、健胃・止瀉作用などが知られている。

 古来より日本各地で黄柏を主成分とする民間薬が多くあり、奈良の陀羅尼助信州のお百草、山陰の練熊などが胃腸薬として有名である。なお陀羅尼助の名は、苦いため経を読む時の眠気防止に利用されたことによるといわれている。

 漢方では清熱燥湿・解毒・清虚熱の効能があり、下痢、糖尿病、黄疸、膀胱炎、痔、帯下、肺結核、湿疹、腫れ物などに用いる。特に下焦の湿熱の症状に対して効果があり、下痢や排尿以上、性器疾患、下肢の神経症などに用いる。民間では黄柏を酢でねって湿疹や打撲傷などの外用薬として用いる。また煎液を目薬や口内炎、扁桃炎の含嗽薬として用いる。

木曜日, 3月 22, 2012

黄土

○黄土

 中国の西北部から華北にかけて広がる第四紀層に沈積した土を黄土という。アジア内陸のモンゴル、タクラマカンなどの砂漠から偏西風によって渡来した微細な砂粒の風成堆積物で、黄河流域に谷壁をなして露出している。日本には産しないが、関東ロームが比較的近いといわれる。

 K、Na、Ca、SiO2などの塩を含む灰黄色の土である。ただし、日本漢方では一般に伏竜肝のことを黄土と称して用いている。黄土の性味は甘・平・無毒で、和胃・解毒の効能があり、嘔吐、下痢、腫れ物、打撲傷に用いる。金匱要略の黄土湯などに用いる灶心黄土は、この黄土で作ったかまどの土、つまり伏竜肝を用いる。

水曜日, 3月 21, 2012

罌粟殻

○罌粟殻(おうぞくこく)

 西アジアを原産とするケシ科の越年草ケシ(Papaver somniferum)の果殻を用いる。いわゆるケシ坊主の乳液を採取したあとの果実であり、割って種子を除いたものである。乳液を乾燥させたものは阿片といい、種子は罌粟という。

 中国には5、6世紀ごろにインドから伝えられ、唐代の「新修本草」(659年)には底野迦(アヘン製剤)に関する記述がみられる。日本には室町時代にとらいしたといわれるが、芥子と書いてカラシとケシの両方の読み方があるなどのため詳細は不明である。また津軽地方で栽培されたためツガルとも呼ばれていた。江戸時代には津軽地方に阿片の配合された「一粒金丹」という胃腸薬や強壮強精薬として用いる秘薬があった。今日、津軽のケシは絶えて子孫がない。

 現在ではナイル河畔、ヨーロッパ頭部、カザフ及びキルギス、イラン、アフガニスタン、インド北部、東南アジアなどで栽培されている。東南アジアのラオス、タイ、ミャンマーの三国に接する山岳部はゴールデントライアングルといわれ、かつて非合法な栽培地として有名であった。

 成分にはモルヒネ、コデイン、パパベリン、ナルコチンなど20種以上のアルカロイドが含まれ、鎮痛・催眠・鎮咳などの作用がある。漢方では止痛・止咳・止瀉の効能があるが、最初、罌粟殻は北宋の時には止瀉薬として用いられ、止痛薬として用いられるのは元の時代からである。ただし日本では麻薬及び向精神薬取締法によって使用が制限されている。なお、ケシ粒といわれる小さな種子のケシノミはポピーシードとも呼ばれ、しばしばアンパンやクッキーなどに粒のまま用いられている。

火曜日, 3月 20, 2012

鴨跖草

○鴨跖草(おうせきそう)

 日本全土、朝鮮半島、中国、シベリア地方に分布するツユクサ科の一年草ツユクサ(Commelina communis)の全草を用いる。ツユクサは古くはツキクサと呼ばれ、青い花の色素を布に浸けて染める着草の意味であった。花で和紙を染めたものが青花紙であり、この紙から浸出した青色液は友禅染めの下絵を描くのに利用されている。また中国や日本では若芽を食用として利用する。

 薬用には、一般に夏の開花期に全草を採取した日干しにする。全草にはフラボノイドのアオバニン、アオバノールが含まれ、花にはアントシアニン系色素のフラボコンメリニン、デルフィニジンなどが含まれる。中国や日本で民間薬として知られ、利水消腫・清熱・解毒の効能があり、浮腫、脚気、尿量減少、感冒、咽頭炎、耳下腺炎、肝炎、陽炎、帯下、丹毒、腫れ物などに用いる。

 近年、中国ではリウマチにより関節が赤く腫れて痛むときに蒼朮・石膏・知母などと配合した加減蒼朮石膏知母湯がよく用いられている。また日本の民間療法に花の絞り汁を腫れ物や口内炎、痔などに外用する方法がある。

月曜日, 3月 19, 2012

黄精

○黄精(おうせい)

 本州から九州、朝鮮半島に分布しているユリ科の多年草ナルコユリ(Polygonatum falcatum)の根茎を用いる。中国産の黄精はカギクルマバナナユコユリ(P.sibiricum)およびその近縁植物の根茎である。花の咲く様子を鳴子に見立ててナルコユリという。同属植物のアマドコロとよく似ているが、アマドコロの根茎は玉竹である。

 ナルコユリはアマドコロより暖地性で、花が一ヶ所から3個以上つけることが多い。しかしこのアマドコロ属は非常に種類が多く、区別しがたいものも少なくない。このため薬材では太いものを黄精、また一般に黄精よりも玉竹のほうが甘い。

 ナルコユリの根茎には粘液質のファカタンやポリゴナキノンなどが含まれ、降圧作用や強心作用、降血糖作用などが報告されている。ただ、生で用いると咽を刺激するため、蒸した熟黄精を使用する。漢方では補気・潤肺・強壮の効能があり、胃腸虚弱や慢性の肺疾患、糖尿病、病後などによる食欲不振、咳嗽、栄養障害などに用いる。

 日本の民間では江戸時代に滋養・強精薬としてブームとなり、砂糖漬けにした黄精が売られていた。現在でも東北地方には黄精のエキスを入れた黄精飴が売られている。黄精に砂糖を加え、焼酎につけたものを黄精酒といい、精力減退や病後回復の滋養・強壮薬として知られている。小林一茶も黄清酒を愛飲したと書き記している。

土曜日, 3月 17, 2012

黄芩

○黄芩(おうごん)

 朝鮮半島、中国、モンゴルなどに分布するシソ科の多年草コガネバナ(別名コガネヤナギ Scutellaria baicalensis)および同属植物の根を用いる。日本では江戸時代に朝鮮から種子を輸入し、小石川御薬園で栽培されたのが始まりで、今日でも薬用や観賞用として栽培されている。

 コガネバナは葉が狭いのでコガネヤナギともいうが、コガネとは根が黄色いことを指すもので花は紫紅色である。根の断面は濃い黄色で中に赤褐色の芯があるが、古い根の内部は黒く空洞状となっており、枯黄芩または枯芩と呼ばれている。

 根にはフラボノイドのバイカリン、バイカレイン、オウゴニンなどが含まれ、バイカリン、バイカレインには利胆、抗炎症、抗アレルギー、降圧、利尿、鎮静作用などがある。また黄芩エキスでは抗微生物、解熱、鎮痙、抗動脈硬化作用なども報告されている。

 漢方では清熱・燥湿・解毒・安胎の効能があり、咳嗽、下痢、黄疸、膀胱炎、吐き気、皮膚化膿症、胎動不安などに用いる。黄芩は代表的な清熱燥湿薬のひとつで呼吸器、消化器、泌尿器などの炎症や熱性疾患に幅広く応用され、とくに肺熱(呼吸器感染症)を清するといわれている。また頭痛やのぼせ、不眠など頭部に熱が上がっている肝陽上亢の状態や、妊娠中の胎動不安や切迫流産のときにも用いる。

金曜日, 3月 16, 2012

黄狗腎

○黄狗腎(おうくじん)

 食用である。イヌ科のイヌ(Canis familiaris)の雄の睾丸、陰茎を用いる。牡狗陰茎、狗鞭、狗腎、あるいは広東省広州産が有名なため広狗腎ともいわれる。ただし単に狗腎といえば腎臓を指すこともある。ちなみに海狗腎といえばオットセイの陰茎・睾丸のことである。

 犬の種類は非常に多いが、一般に柴犬のような家犬が飼育されている。そのほか中国ではイヌの肉は狗肉、胃の中の結石を狗宝として薬用にしている。冬に陰茎と睾丸を切り取って、まっすぐにして乾燥する。乾燥した陰茎は長さ12cmくらいで、3~4cmの楕円形をした睾丸が輪精管とつながっている。

 漢方では補陽・強壮の効能があり、インポテンツや帯下などの症状に用いる。滋養・強壮薬の至宝三鞭丸に含まれる三鞭とは黄狗腎と海狗腎、および鹿の外生殖器である鹿鞭のことである。なお狗肉には温腎・滋養の効能があり、狗宝には降逆・開欝・解毒の効能がある。

木曜日, 3月 15, 2012

黄耆

○黄耆(おうぎ)

 中国の東北、華北地方、朝鮮半島などに分布するマメ科の多年草キバナオウギ(Astragalus membranaceus)、または中国東北部から蒙古にかけて分布するナイモオウギ(A.membranaceus var.mongholicus)などの根を用いる。品質の良いものは外部が淡褐色、内部は黄白色で、甘くて香気があり、断面は繊維性で毛状となっている。とくに山西省綿山に産する綿黄耆は上質とされている。日本の本州中部以北や朝鮮半島などに分布するマメ科のイワオウギ(Hedysarum vicioides)を和黄耆と称し、かつては黄耆の代用にされたこともあるが、現在では使用しない。また中国ではイワオウギの近縁植物である多序岩黄耆の根を晋耆あるいは紅耆といい、黄耆の一種として用いている。晋耆は品質良好とされるが、日本薬局方では黄耆から除外されている。

 黄耆の成分にはイソフラボノイドのホルモノネチン、トリテルペンサポニンのアストラガロシドのほか、コリン、ベタインなどが含まれ、黄耆エキスには利尿、強壮、降圧、抹消血管拡張、抗アレルギー作用などが報告されている。近年、黄耆の降圧作用のある成分としてγ-アミノ酪酸(ギャバ、GABA)が注目されている。また最近の研究で、免疫機能を高める効果が注目されており、T細胞やNK細胞を活性化することが認められ、エイズ(免疫不全症候群)や癌に対する効果が期待されている。

 アメリカではアストラガルスという名で健康食品にも利用され、アンチエイジングや男性用強壮剤として利用されている。日本でもオウギの葉をペイチー茶と称し、健康茶として市販されている。漢方では補気・利水消腫・止汗・托毒の効能があり、疲労倦怠、胃腸虚弱、内臓下垂、浮腫、盗汗、自汗、皮膚化膿症などに用いる。

水曜日, 3月 14, 2012

黄瓜

○黄瓜(おうか)

 インド北部のヒマラヤ地帯の原産で現在では世界中で栽培されているウリ科のつる性多年草キュウリ(Cucumis sativus)の果実を用いる。日本には平安時代にすでに渡来していたが、長い間、完熟して黄色くなったものを食べていたとされる。キュウリとは黄瓜のことである。かつてキュウリは苦味が強かったためか、評判はあまりよくなく江戸時代の末期ごろまでは普及しなかった。

 果実の苦味質はククルビタシンCで、そのほかビタミンA・C、イソクエルシトリンなども含まれる。イソクエルシトリンには利尿作用があり、ククルビタシンCは抗腫瘍作用が報告されている。薬用には新鮮な果実を用いる。

 漢方では利水・止瀉・解毒の効能があり、熱病や浮腫に用いられる。日本ではつるを切って得られる浸出液をキュウリ水、つるを乾燥させたものをキュウリズル(胡瓜蔓)として用いている。キュウリズルには熱をとり、口渇を抑え、利尿する効能がある。キュウリ水も口渇や浮腫、二日酔いに用いるほか、火傷やあかぎれ、汗疹などの外用薬としても利用されている。

火曜日, 3月 13, 2012

王瓜仁

○王瓜仁(おうかにん)

 日本の本州、四国、九州、台湾、中国に分布するウリ科のつる性多年草カラスウリ(Trichosanthes cucumeroides)の種子を用いる。カラスウリは王瓜あるいは土瓜とも称し、王瓜仁は土瓜仁とも呼ばれる。根も薬用にされ、土瓜根という。なお同属植物のキカラスウリ(T.kirilowii var.japonica)は栝楼と称し、漢方薬としては、この栝楼仁栝楼根の方が重要である。

 カラスウリの種子の中央には特徴的な帯状の隆起がある。種子の成分としてはトリコサント酸などの脂肪酸や有機酸などが知られている。官報では清熱・涼血の効能があり、肺結核などによる喀血や鼻血、下血、黄疸などに用いる。なおカラスウリの果汁や果肉はしもやけやあかぎれの外用薬として用いられる。

月曜日, 3月 12, 2012

延命草

延命草

 北海道から四国、九州、朝鮮半島などに分布するシソ科の多年草ヒキオコシ(Isodon japonicus)の茎葉を用いる。長野県、新潟県、石川県、富山県などを主産地とする日本の民間薬で、中国では知られていない。生薬名を延命草というが、漢名ではない。弘法大師が腹痛で倒れていた行者を回復させたという故事にちなんでヒキオコシとか延命草という名がある。

 茎葉には苦味成分のジテルペノイドのエンメイン、イソドカルピン、ノドシン、オリドニンなどが含まれ、エンメインやオリドニンには抗菌作用、抗腫瘍作用などが報告されている。日本では苦味健胃薬として家庭薬などに配合され、消化不良、食欲不振、腹痛などの治療に用いられている。ただし苦味質はアルカリによって容易に分解するため、重曹などとの配合は適さない。

 戦時中に供給が不足したゲンチアナの代用品として小豆島の寺院で栽培されていたヒキオコシが有名となり、全草を粉末とした延命草末が苦味健胃薬として全国で用いられるようになった。

土曜日, 3月 10, 2012

鉛粉

○鉛粉(えんぷん)

 酢酸鉛に炭酸塩を加えると生成する鉛白を鉛粉という。鉛に酢酸を加熱した蒸気を作用させると酢酸鉛となり、さらに二酸化炭素が反応して白色の塩基性炭酸鉛2pBCO3・Pb(OH)2の粉末ができる。古くから知られている白色顔料であり、ペンキや油絵の具のシルバー・ホワイトなどに用いられる。しかし有毒であり、硫化水素によって硫化鉛PbSとなって黒変する欠点がある。

 鉛白はすでに平安時代の貴婦人が白粉として用い、江戸時代には京白粉の名で知られ、塩化第一水銀の伊勢白粉(軽粉)とともに広く普及していた。このため江戸時代の遊女や役者たちが鉛中毒に悩まされたといわれる。またその毒性が胎児や乳児にも影響するため、昭和9年に化粧品に入れることが禁止された。

 漢方では駆虫・解毒・生肌の効能があり、寄生虫症や腹部の硬結、慢性下痢、マラリア及び皮膚疾患などに用いる。かつて腹痛や硬結、下痢などの治療に内服としても用いられたが、今日では外用薬として疔瘡、湿疹、潰瘍、火傷、脇臭などに用いられる。皮膚化膿症の外用薬にもしばしば炭酸鉛が配合されている。

金曜日, 3月 09, 2012

鉛丹

○鉛丹(えんたん)

 鉛(黒色鉛)を鉄の鍋に入れて動かしながら長時間加熱(300~400℃)し、空気中の酸素により酸化されて得られる赤色の結晶性の粉末を鉛丹という。黄丹あるいは光明丹ともいい、主成分は四酸化三鉛でPb3O4あるいは2PbO・PbO2と記される。一般には赤色顔料として鉄材のさび止めに用いられるほか、鉛ガラスの原料や陶磁器のうわ薬として用いられる。

 漢方では解毒・生肌の効能があり、おもに外科の要薬として疔、瘡蓋などの皮膚化膿症や湿疹、潰瘍、外傷、蛇咬傷などに外用される。また日本では江戸時代から疔瘡など皮膚化膿の吸出し薬として知られる雨森無二膏、あかぎれや打ち身、筋肉痛の貼り薬として知られるあかぎれ膏や万金膏などにも配合されている。

 傷寒論の柴胡加竜骨牡蠣湯には鎮静の目的で鉛丹が配合されていたが、一般に省略されたり、生鉄落や代赭石で代用される。また、かつてマラリアや癲癇、下痢などの内服にも

木曜日, 3月 08, 2012

鼴鼠

○鼴鼠(えんそ)

 モグラ科ニオイモグラ属のニオイモグラ(Scaptochirus moschata)などモグラ全体のあるいは肉を用いる。モグラは体調15~20cmで茶色ビロード状の毛で覆われ、耳介はなくなり、目は退化し、シャベル状の大きな手と細い尾が特徴的である。一生地下の中でトンネルを掘って生活し、地中のミミズや昆虫、植物の根などを食べる。

 生薬では黒焼きにして粉末にした鼴鼠霜(別名:土竜霜)を用いる。漢方では解毒・止咳などの効能があり、腫れ物などの皮膚病、痔、喘息などに用いる。咳が止まらず、諸薬の効果がないときに単独で用いる(勝聖散)。梅毒などによる皮膚病や胎毒などには軽粉・赤小豆などと配合する(鼴鼠丸)。また黒焼きを皮膚病の患部に塗布する。

火曜日, 3月 06, 2012

延胡索

○延胡索(えんごさく)

 浙江省をはじめとする中国各地で栽培されているケシ科の多年草エンゴサク(C.ambigua)、本州、九州、朝鮮半島、中国東北部に分布するヤマエンゴサク(C.lineariloba)など同属植物の塊茎を用いる。なおジロボウエンゴサク(C.decumbens)の塊茎や全草を中国では夏天無と称している。延胡索はかつて玄胡索という名であったが、宋代の眞宗の諱を避けて玄を延に改め、以来、延胡索と呼ばれるようになった。

 エンゴサクの塊茎にはアルカロイドのコリダリン、テトラヒドロパルマチン、コリブルビン、プロトピンなどが含まれ、コリダリンやコリブルビンには弱い麻痺作用、テトラヒドロパルマチンには鎮静・鎮痛作用が認められている。

 漢方では活血・理気・止痛の効能があり、胸痛、腹痛、脇腹部痛、月経痛、打撲痛などに用いる。延胡索は気血の流れを促進するため、「血中の気、気中の血を行らせる」といわれている。また止痛薬として気滞や血瘀による痛みに効果があり、「一身上下の諸痛を治す」といわれ、特に胃痛や月経痛の治療に優れている。日本でも胃薬や婦人用保健薬などの家庭薬にしばしば配合されている。止痛作用は乳香・没薬などよりも強く、酢で炒めれば止痛効果はさらに強くなる(醋延胡索)。

月曜日, 3月 05, 2012

燕窩

○燕窩(えんか)

 熱帯地域の沿海部や島に生息するアナツバメ科のアナツバメ(Collocalia esculenta)の巣を用いる。アナツバメは体調9cmくらいの小さなツバメで、主に東南アジアのマレー半島、インドネシア及び南洋諸島に分布し、海岸の絶壁や洞窟に巣を作る習性がある。産卵期になると雄鳥は肥大化した唾液腺から粘質の唾液を出し、この唾液を約1ヶ月かけて固めて巣を作る。この巣は唾液と絨毛からなり、白くてハスの花弁のような形をしている。中国料理では最高級の材料とされ、採取するのが困難なため非常に珍重されている。

 燕窩にはたんぱく質、ビタミンA・B1・B2、カルシウム、鉄分などのミネラルのほかに、糖タンパク質のシアル酸が含まれている。近年、細胞表面に存在する糖鎖が研究されているが、燕窩には糖鎖を構成する8種類のうち6種類が含まれており、中でもシアル酸(N-アセチルノイラミン酸)を含むことから、健康食品の素材として注目されている。

 シアル酸の誘導体にはさまざまな生理機能があり、抗インフルエンザ作用のほか、癌の転移抑制、アルツハイマー病予防などにも期待されている。また燕窩には表皮成長因子(EGF)が含まれ、DNA合成を活性化すると報告されている。

 漢方では養陰・益気の効能があり、虚弱体質の改善、疲労回復、労す予防をはじめ、結核などの慢性病、咳嗽、下痢、悪心、嘔吐などに用いる。一般に薬膳料理として用いられるが、近年ではサプリメントとしても商品化されている。

土曜日, 3月 03, 2012

エブリコ

○エブリコ

 北海道、択捉島、色丹島、中国の東北部、シベリア、ヨーロッパの北部などに分布し、カラマツなどのマツの幹に寄生するサルノコシカケ科の担子菌類エブリコ(Fomes officinalis)の子実体を用いる。樹幹から垂れ下がり、下方が膨らんで馬蹄形ないし釣鐘型をしている。エブリコはアイヌ語で、東北地方ではトボシ(トウボシ)とも称され、また江戸時代の本草書にはテレメンテイコの名でも呼ばれていた。

 エブリコにはアガリチン酸やエブリコ酸が含まれ、アガリチン酸は汗の分泌を抑制する作用があると報告されている。旧ソ連ではアガリチン酸は製剤化され、結核などによる盗汗の治療に応用されているという。副作用として胃に対する刺激がある。噛むと苦味が強く、苦味のため時に悪心がみられる。

 エブリコはイケマ(牛皮消根)とともにアイヌの霊薬のひとつで、疝気、腹痛、食あたり、眼病、脚気、結核、盗汗、火傷、創傷などの万能薬として用いていた。江戸自体に緩経湯という四物湯にエブリコを加えた処方があり、月経痛の治療に用いられた。中国の民間療法では気管支炎や胃酸過多、関節リウマチなどに用いられている。

 最近、毛穴を収縮し、皮膚分泌を抑制すると同時に、皮膚を乾燥から防ぐことから化粧品にも配合されている。

金曜日, 3月 02, 2012

エニシダ枝

○エニシダ枝

 地中海沿岸部を原産とするマメ科の落葉低木エニシダ(Cytisus scoparius)の枝を用いる。日本には江戸時代に渡来し、今日では庭園などに広く栽培されている。エニシダという名はオランダ語のヘニタス、あるいはスペイン語のイエニスタに由来する。4~6月に鮮黄色の蝶形の花が小枝に群がるように咲く。

 枝や葉にはアルカロイドのスパルティン、サロタムニン、ゲニステインなどが含まれ、スパルティンには強心作用がある。エニシダは浮腫や頻脈、不整脈の治療に用いられるほか、また抹消血管収縮作用があり、月経過多にも効果がある。

 現在、スパルティン硫酸塩は子宮収縮薬として微弱陣痛に用いられている(ウテロスパン)。ただ、毒性が強く、誤って服用すると流涎、胃腸痙攣、知覚麻痺、嘔吐、下痢などをひきおこす危険性がある。現在、スパルティン硫酸塩は子宮収縮薬として家畜の微弱陣痛に用いられている。

木曜日, 3月 01, 2012

衛矛

○衛矛(えいぼう)

 日本各地、朝鮮半島、中国、サハリンなどに分布するニシキギ科の落葉低木ニシキギ(Euonymus alatus)の翼状物のついた枝を用いる。紅葉が美しいためにニシキギといわれ、庭木としてよく植えられている。枝に沿ってはコルク質の薄い翼状物が2~4枚つくが、中国ではこれを矛や矢羽にみたてて衛矛、鬼翦羽という。一般に中国でも日本でもこの翼状部分のみを用いる。煎液には血糖降下作用が報告されている。

 漢方では活血・通経の効能があり、無月経や産後の腹痛などに用いる。日本漢方では枝を煎じて心痛の治療に用いている。また日本の民間では昔からトゲ抜きの妙薬としてよく知られ、黒焼きにしたものを米飯とねって、紙にのばしてトゲの部分に貼り、1~2時間たって紙を剥がすとトゲが出るといわれている。秩父地方ではニシキギをシラミコロシと呼ぶが、これはニシキギの果実に毒性があり、すり潰してアタマジラミの治療に用いたことによる。