スポンサーリンク

土曜日, 3月 30, 2013

麝香

○麝香(じゃこう)

 中国東北部からチベット、ヒマラヤにかけて生息しているシカ科の動物ジャコウジカ(Moschus moschiferus)の雄のジャコウ腺分泌物を用いる。ジャコウジカはシカを小型化したような動物で雌雄ともに角はなく、上顎の犬歯が下に伸びて牙のようになっている。岩石の多い高山地帯に生息し、夜行性で単独あるいは一対で生活する。

 オスの陰茎と臍の間に外皮と密着して袋状のポッド(麝囊)と呼ばれるは器官があり、その中に含まれる分泌物が麝香(ムスク)である。発情期の雄は雌を誘うためにこのムスクを少量ずつ排出する。

 ジャコウジカの麝という字は鹿と「鼻を突き刺す匂い」をあわせたものであるが、ムスクはそのままでは糞尿以上に強烈な悪臭が鼻を刺す。ところが、これを千分の一以下に薄めると芳香を放つ。中国では古くから薬用にしているが、ヨーロッパやアラビア人が愛好している。健在でもシャネルの5番など高級な香水の原料になっている。

 かつては捕獲したジャコウジカを殺してポッドごと摘出したいたが、絶滅の恐れがあるとして現在では生きたままポッドから分泌物のみを採取している。分泌物は新鮮なときは黒褐色の軟膏状であるが、乾燥すると黄褐色や赤紫色の粉末となる。とくに黒褐色の顆粒状のものを当門子という。

 麝香は非常に高価な薬材であり、現在、中国の四川省などでジャコウジカの人工飼育が行われている。同様の動物性の香料としてジャコウネコの霊猫香があり、同じく薬用にもされる。麝香の芳香主成分はムスコンであり、また少量のノルムスコンや男性ホルモンが含まれ、薬理的に中枢神経刺激、強心、呼吸増加、降圧、抗菌・抗炎症作用、性ホルモン作用などが報告されている。

 漢方では開竅・活血・催産の効能があり、おもに芳香開竅薬として高熱時の意識障害や脳卒中、痙攣発作、危急の症状などに用いる。そのほか狭心痛、腹痛、分娩促進、腫れ物などに用いる。

 脳卒中や高熱時の意識障害には牛黄・竜脳などと配合する(至宝丹)、興奮状態やひきつけ、高熱に伴う精神不安などには牛黄・羚羊角などと配合する(牛黄清心丸)。難産や後産が遅れたときには肉桂と粉末にして服用する(香桂散)。咽頭の腫痛や癰疔などの皮膚化膿症に牛黄・蟾酥などと配合する(六神丸)。日本でも気つけ薬として知られ、動悸や胸痛に用いる六神丸救心、小児の発熱や痙攣に用いる宇津救命丸や樋屋奇応丸などの家庭薬にも配合されている。ただし子宮に対する興奮作用があり、妊婦は服用しないほうがよい。

金曜日, 3月 29, 2013

鷓鴣菜

○鷓鴣菜(しゃこさい)

 温暖な地域の沿岸や河口付近に分布する海藻コノハノリ科のセイヨウアヤギヌ(Caloglossa leprieurii)の全藻を用いる。かつて鷓鴣菜を日本の駆虫薬である海人草の別名とする説もあったが、海人草は紅藻類のフジマツモ科のマクリ(Digenea simplex)のことである。ちなみに鷓鴣とは中国南部に生息する鶉に似た鳥のことである。

 アヤギヌは1~4cmくらいの紫色の偏平な海藻で岩や防波堤に付着している。鷓鴣菜は海人草と同様にカイニン酸を含み、鷓鴣菜の煎液には回虫の駆虫作用が認められる。内服による副作用はほとんどないが、とき下痢、悪心、めまいがみられることがある。

 漢方でも駆虫の効能があり、回虫や蟯虫の駆虫薬として大黄・甘草と配合して用いる(三味鷓鴣菜湯)。また南西諸島から台湾、フジマツモ科のハナヤナギ(Chondria armata)を南西諸島ではドウモイと呼んで、古くから駆虫薬として用いていた。その有効成分はドウモイ酸と呼ばれ、カイニン酸より強力といわれる。

木曜日, 3月 28, 2013

芍薬

○芍薬(しゃくやく)

 白芍は外皮を除いて湯通ししたもの、赤芍は中国東北部の野生種の皮を去らずに乾燥したものを使用する。現在、四川省で栽培された芍薬の皮を去らずに乾燥させたものが日本薬局方のシャクヤクに適合することから、日本で赤芍として使用されている。

 中国北部原産のボタン科の多年草シャクヤク(Paeonia lactiflora)の根を用いる。日本には、奈良時代に渡来したといわれ、室町時代には栽培の記録がある。現在では奈良県や北海道で栽培されている。シャクヤクの属名をペオニアというが、これはギリシャ神話の医神、パイオンに由来するもので、西洋でも古くから薬用植物として知られていた。

 同属植物にボタン(P.suffruticosa)がある。ボタンは落葉低木であるのに対し、シャクヤクは多年草であり、冬にはその地上部が枯れてしまう。シャクヤクは初夏に大きな花を咲かせるためよく観賞用として栽培されているが、薬用にするときには蕾を全部摘み取ってしまい、植え付けから4~5年栽培した後の肥大した根を用いる。日本の芍薬は「第13改正日本薬局方」では乾燥重量でペオニフロリン2%以上を含むものを規定されている。

 芍薬は最古の本草書「神農本草経」の中品に収載され、「シャクヤク、味苦、平、邪気腹痛を主り、血痺を除き、堅積、寒熱、疝瘕を破り、痛みを止め、小便を利し、気を益す」とあり、赤白の区別はされていなかったが、宋代の頃から区別されるようになった。今日、中国では芍薬は赤芍と白芍に区別され、通常、古くは白い花のものを白芍、赤い花のものを赤尺といっていたこともある。

 現在、日本では赤尺は日本薬局方に適合しないことが多いため、白芍のみを芍薬として用いている。また日本では皮を去って生干しした芍薬が用いられているが、中国では皮を去った後、湯通ししてから乾燥させた芍薬(真芍)が白芍として流通している。中国医学において白芍と赤尺の効能は異なり、白芍はおもに補血・止痛として、赤芍はおもに活血・清熱薬として用いる。

水曜日, 3月 27, 2013

赤石脂

○赤石脂(しゃくせきし)

 中国の各地で採掘される赤褐色ないしは淡紅色のケイ酸塩類の粘土状鉱物ハロイサイト(Halloysite)の一種を用いる。神農本草経には五色石脂として収載されているが、古来よりおもに赤石脂と白石脂が薬用にされてきた。

 赤石脂の主成分は含水ケイ酸アルミニウム(Al2O3・2SiO2・4H2O:カオリナイト)であるが、酸化第二鉄(Fe2O3)を多く含むため赤色を帯びている。また脂のような滑らかさや光沢があるため赤石脂の名がある。

 鉄分のほかにもマグネシウム、カルシウム、マンガンなども少量含まれている。アルミニウム類薬物は胃腸ではほとんど吸収されず、内服では胃腸の局所作用が種であるといわれる。一般に収斂・吸着作用が強いとされ、下痢や出血、潰瘍などに効果がある。

 漢方では止瀉・止血・生肌の効能があり、慢性の下痢や血便、脱肛、遺精、子宮出血、皮膚潰瘍などに用いる。遷延化した細菌性腸炎などによる下痢、粘血便、膿便、腹痛に粳米・乾姜などと配合する(桃花湯)。不性器出血や帯下などに代赭石・五霊脂などと配合する(震霊丹)。

 内蔵下垂や脱肛などには黄耆・柴胡などと配合する(提肛散)。熱病に伴う痙攣やひきつけ、半身不随、顔面神経麻痺などに竜骨・牡蠣などと配合する(風引湯)。また外傷や皮膚潰瘍にも外用する。

火曜日, 3月 26, 2013

柿餅

○柿餅(しへい)

 東アジアの温帯に分布するカキノキ科の常緑高木カキの果実を加工して餅状にしたものを用いる。英語でもkakiというが、奈良時代に中国から渡来したという説が有力である。

 樹のままで渋みが抜ける甘柿と自然には脱渋しない渋柿とがあり、前者はお温暖地に多く、後者は寒冷地でも栽培できる。おもに渋柿の成熟した果実の外皮をむき、1ヶ月間、日や夜露にあてて乾燥し、さらに1ヶ月は室内でムシロの中に放置すると柿餅ができる。そのうち、日干ししたものを白柿、火で薫じたものを烏柿という。

 柿の果実は糖類、ペクチン、カロテノイド、ビタミンC、タンニン、酵素類が含まれ、栄養価は高い。カキの渋みはシブオールを主成分とするタンニンのためであるが、熟していくにつれタンニン細胞が凝固、収縮して褐色班に変化し、タンニンが不溶性となって渋味がなくなる。熟した柿には止咳・止渇の効能があり、二日酔いなどの酒毒を解する作用がある。

 漢方では潤肺・止血・止瀉の効能があり、咳嗽や血痰、喀血、痔、下痢などに用いる。なま生のカキは冷やす性質が強く、食べ過ぎると腹痛や便秘の原因となる。

月曜日, 3月 25, 2013

梓白皮

○梓白皮(しはくし)

 ノウゼンカズラ科の落葉高木キササゲ(Caralpa ovata)の根皮や樹皮の周皮を除いたものを用いる。また果実を梓実、日本ではキササゲという。

 キササゲは中国中南部原産の落葉高木で10m以上にも達するため俗に雷の木ともいわれている。秋には葉が落ちても長さ30cmくらいの細長い果実をつけている。日本では梓をアズサというが、アズサはカバノキ科の落葉高木のことである。いずれの材も弓(梓弓)や版木に利用されたといわれる。

 日本ではおもにキササゲの果実を利用するが、中国では専ら根皮や樹皮を用いる。樹皮・根皮の成分にはフェルラ酸やイソフェルラ酸が含まれる。漢方では清熱解毒・止痒の効能があり、発熱や黄疸、皮膚掻痒症に用いる。

 湿熱による黄疸には生の梓白皮を麻黄・赤小豆などと配合して用いる(麻黄連軺赤小豆湯)。また湿疹などの皮膚疾患には湿布や浴剤など外用薬として用いる。

金曜日, 3月 22, 2013

地膚子

○地膚子(じふし)

 ユーラシア大陸に広く分布するアカザ科の一年草ホウキギ(Kochia scoparia)の成熟果実を用いる。ホウキギ(箒木)とは茎全体を乾燥して束ね、草ぼうきに用いたことに基づく名である。

 ハハキギとも呼ばれ、近年は園芸植物として属名のコキアという名でも呼ばれている。秋田や山形地方では農家で栽培しており、若芽や若葉、種子を食用にしている。秋に小さ目の実を集めて30分ほど煮た後に水に浸して果皮を除いたもの(種子)をトンブリと称し、大根おろしやとろろを加えて醤油をかけて食べる習慣がある。

 果実は直径2mmくらいの偏平な球形である。種子は含油量が多く、成分に強壮作用のあるサポニンが含まれているといわれている。漢方では清熱燥湿・通淋の効能があり、排尿障害や膀胱炎、帯下、湿疹などに用いる。また他の利尿薬の作用を強めるため「響導(道案内)」薬ともいわれている。

 膀胱炎や尿道炎には猪苓・瞿麦などと配合し、湿疹や皮膚掻痒症などの皮膚病には黄柏・白蘇皮などと配合して用いる。また皮膚疾患には煎液で洗う方法もある。日本の民間では利尿薬のほか強壮薬としても有名で、脚気や下痢などに用いる。

木曜日, 3月 21, 2013

自然銅

○自然銅(じねんどう)

 漢方生薬でいう自然銅とは硫化鉄鉱石である黄鉄鉱(Pyrite)のことである。鉱物学では自然に産する銅の単体を自然銅というが、生薬の自然銅にはほとんど銅は含まれていない。

 自然銅は比較的ありふれた鉱物であるが、真鍮色をしているため黄銅鉱や金などと間違えられやすい。黄鉄鉱は結晶しやすいが、その形はさまざまで典型的なものは立方体か五角正十二面体である。

 組成は二硫化鉄(FeS2)のほか、微量の銅、ニッケル、ヒ素、アンチモンなどを含むこともある。動物実験では骨折癒合を促進する作用が認められている。漢方では活血・止痛・接骨の効能があり、打撲傷、骨折、瘀血、疼痛、腫瘤などに用いる。

 一般に焼いて硫黄分を除いて薬用にする。打撲や骨折による腫痛には自然銅を強火で焼いた後、乳香・没薬・当帰などと配合する(自然銅散)。骨折や捻挫などの外傷には骨砕補続断などと配合する(接骨Ⅱ号方)。

水曜日, 3月 20, 2013

柿蒂

○柿蒂(してい)

 東アジアの温帯に分布するカキノキ科の落葉高木カキの宿存花萼を用いる。つまり成熟したカキのヘタを柿蒂という。生薬としては葉を柿葉、干し柿の表面の粉を柿霜、柿のしぶを柿漆という。

 ヘタにはオレアノール酸、ウルソール酸、ヘミセルロースが含まれる。柿蒂はしゃっくりをとめる特効薬として知られているが、成分のヘミセルロースが胃の中で固まって物理的にしゃっくりを止めるという説がある。

 漢方では降気・止嘔・止逆の効能があり、逆気を降ろす作用があるといわれ、しゃっくりや嘔吐、咳嗽などに用いる。しゃっくりには単独で、あるいは丁香や生姜などと配合して用いる(柿蒂湯・丁香柿蒂湯)。また民間では夜尿症に用いられる。

火曜日, 3月 19, 2013

蒺藜子

○蒺藜子(しつりし)

 世界各地の温帯から熱帯にかけて広く分布するハマビシ科の一年草ハマビシ(Tribulus terrestris)の果実を用いる。一般に海辺の砂浜に自生し、果実が菱の実に似ているためハマビシ(浜菱)の名がある。

 古来、蒺藜と呼ばれる生薬には蒺藜子とは別に潼蒺藜がある。潼蒺藜というのはマメ科のツルゲンゲの種子のことで、今日では沙苑子と呼ばれている。さらにアカザ科のハマアカザ(Atiplex sibirica)の果実のことを軟蒺藜というのに対し、ハマビシの果実は硬くて刺のある五角形をしているため、硬蒺藜とか刺蒺藜と呼ぶこともある。生薬には一般にハマビシの未成熟果実を用いる。

 ハマビシの果実にはケンフェロールなどのフラボノイド、種子にはハルミンなどのアルカロイドが含まれ、鎮痙作用、降圧作用、利尿作用が知られている。漢方では平肝・明目・止痒の効能があり、肝陽上亢に伴うめまいや頭暈、眼科疾患、皮膚搔痒感、腹痛などに用いる。またインドの民間では利尿薬として用いている。

 一方、ヨーロッパではハマビシ(トリビュラス)の全草が、古くから強壮薬、筋肉増強剤として利用されていた。トリビュラスに含まれているサポニンは脳下垂体から黄体ホルモンの分泌を刺激し、男性ではテストステロンの分泌を促進して精子の量や運動性を高めるとともに、性機能の低下を改善し、女性ではプロゲステロンの分泌を促進し、月経前緊張症や更年期障害などを緩和すると説明されている。テストステロンにはタンパク同化作用があり、最近でもスポーツ選手の筋肉増強に応用されている。

月曜日, 3月 18, 2013

紫壇

○紫壇(したん)

 インドから東南アジア、マレー半島など熱帯から亜熱帯にかけて分布するマメ科の常緑高木シタン(Pterocarpus indicus)の心材を用いる。

 シタンの心材は黄褐色で美しく、家具や床柱、工芸品として利用されている。ただし日本で一般に紫壇と呼ばれている木材はこのシタンではなく、ビルマやインドシナに分布するツルサイカチ属Dalbergiaの心材であり、暗紫褐色から紫黒色である。このためシタンの心材は花櫚と呼ばれている。

 シタンにはプテロテカルビン、アンゴレンシンが含まれる。また同属植物のサンダルシタン(P.santalinus)には紅色色素やサンタリンなどが含まれ、紅色染料はヒンドゥー教徒の額を染めるのに用いられている。

 漢方では消腫・止血の効能があり、腫れ物や外傷による出血などに用いる。煎じて服用することもあるが、一般に紫壇の粉末を腫れ物や傷口に塗布する。口内炎や歯痛に乳香・細辛などと配合する(乳香散)。日本漢方では婦人の生理を延期させる経口薬、延経期方に続断・蒲黄などと配合されている。

金曜日, 3月 15, 2013

紫蘇子

○紫蘇子(しそし)

 中国原産のシソ科の一年草シソ(Perilla frutescens var.acuta)やチリメンジソの種子を用いる。シソの葉は蘇葉、茎は紫蘇梗という。日本にも古くから伝わり、各地で野生化している。

 かつて紫蘇子の油は灯火油として用いられていた同じシソ科のエゴマの代用にされていた。ちなみにエゴマは白蘇といい、現在、シソ油として市販されているものはしばしばエゴマが利用されている。

 シソの種子の主成分としてアピゲニン、ルテオリンなどのフラボノイド、ロスマリン酸などのポリフェノール、またシソ油の脂肪酸としてα-リノレン酸が多く含まれ、ヒスタミンの遊離を抑制し、花粉症などのアレルギー症状を緩和することが報告されている。

 漢方では降気・去痰・止咳・潤腸の効能があり、咳嗽や喘息、便秘などに用いる。とくに痰が多いときの咳嗽や呼吸困難、胸苦しさに効果がある。また油脂成分が多く、便秘に麻子仁・杏仁などと配合する。逆に、下痢や軟便の時には用いない。使用方法は軽く炒って砕いて用いる。

木曜日, 3月 14, 2013

紫蘇梗

○紫蘇梗(しそこう)

 中国原産のシソ科の一年草シソやチリメンジソの茎を用いる。シソの果実は紫蘇子、葉は蘇葉という。シソはアントシアニン系の赤い色素の有無によって赤ジソと青ジソに分けられ、薬用にはおもに赤ジソ、とくにチリメンジソが用いられる。

 シソは全草に精油を多く含むが、青ジソはおもにペリラアルデヒドを主成分とする精油を含む。かつてペリラアルデヒドから紫蘇糖(ペリラルチン)と呼ばれるショ糖の2000倍の甘さといわれる甘味料が作られた。しかし熱や唾液などで分解されやすいため、今日ではおもにタバコの味付けとして利用されている。日本では一般に茎は用いないが、中国では茎と葉を区別して用いている。

 紫蘇梗は漢方では理気・安胎の効能があり、気分の鬱した症状、胸の痞え、食物の滞り、胃腸の疼痛、胎動の不安などに用いる。とくに妊娠中の悪阻や胃腸障害、胎動の激しいときに用いる。

 蘇葉・紫蘇梗のいずれにも解表・理気・安胎の効能があるが、蘇葉が発散・解表の作用が強いのに対して、紫蘇梗は理気・安胎の作用に優れている。日本の民間では葉を採取した株を刻んで乾燥し、体を温める浴湯料として用いている。

水曜日, 3月 13, 2013

柿霜

○柿霜(しそう)

 干し柿の表面に生じる白粉を柿霜という。成熟したカキ(Diospyros kaki)の果実の外皮をむき、1ヶ月間、日や夜露に当てて乾燥し、さらに1ヶ月は室内でムシロの中に放置すると柿餅、つまり中国式の干し柿ができる。このとき表面に生じる白い粉を柿霜という。

 この白粉の成分はマンニトール、ブドウ糖、果糖、ショ糖などである。これを加熱して飴状にしたものを柿霜餅という。口に含むと甘くて清涼感がある。漢方では潤肺・止咳の効能があり、咽頭痛や咳嗽、口内炎の治療に用いる。トローチ剤のようにも服用できるので小児の咳嗽・去痰薬として適している。

火曜日, 3月 12, 2013

蓍草

○蓍草(しそう)

 日本の中部以北、北海道を始め東アジアから北米に分布するキク科のノコギリソウ(Achillea alpina)の全草を用いる。葉が深く切れ込みノコギリ状になっているためノコギリソウの名がある。

 ノコギリソウの属名、アキレア(Achillea)という名はギリシャ神話の英雄アキレスが、これで切り傷のときの止血に用いたという故事に由来している。近年、日本ではノコギリソウとして観賞用に栽培されているのはおもにセイヨウノコギリソウ(A.millefolium)で、最近ではこのセイヨウノコギリソウが野生化している。

 ノコギリソウにはイソ吉草酸、サリチル酸、タンニン、フラボノイド、ステロールが含まれ、また精油成分としてカマズレン、アキリン、シネオールなどが含まれる。漢方では活血・止痛・解毒の効能があり、打撲傷、リウマチ、腹部の腫塊などに用いる。

 ヨーロッパでは古くからセイヨウノコギリソウは解熱薬として風邪や熱病に用いられている。また生の葉を揉んで、汁を傷口につけると止血作用があり、ノーズブリード(鼻血)という別名もある。そのほか痔や無月経、リウマチの治療に、また健胃薬や止咳薬としても利用されている。

月曜日, 3月 11, 2013

紫石英

○紫石英(しせきえい)

 紫石英は紫水晶(アメジスト:Amethyst)のことであったが、現在ではおもに紫色の蛍石(フルオライト:Fluorite)の鉱石が用いられている。また中国南部では方解石の紫色のものを紫石英として用いている。

 蛍石はおもに熱鉱脈中に産し、加熱すると蛍光現象を示す。蛍石はハロゲン化鉱物のひとつで、主成分はフッ化カルシウム(Caf2)である。

 漢方では重鎮安神薬のひとつで、安神・定驚の効能があり、動悸、不眠、頻脈、精神不安などに用いる。また止咳・強壮の効能もあり、老人の咳嗽や不妊症、性器出血などにも用いる。熱性痙攣や癲癇、脳卒中、麻痺の治療に竜骨・牡蠣などと配合する(風引湯)。神経衰弱や精神障害に人参・茯苓などと配合する(茯苓補心湯)。

土曜日, 3月 09, 2013

紫珠

○紫珠(ししゅ)

 日本各地に分布しているクマツヅラ科の落葉低木ムラサキシキブ(Callicarpa japonica)やコムラサキ(C.dichotoma)の葉及び根を用いる。中国ではホウライムラサキ(C.formosana)の葉や若枝を紫珠という。

 ムラサキシキブの名は鈴なりになった紫色の小さな美しい実を紫式部に例えたもので、日本ではおもに観賞用に植えられている。中国では紫珠草ともいうが、高さ2~3mの木である。ムラサキシキブの材は硬いため、げんのうやの材料として利用されている。また南洋諸島では枝葉の汁を流して魚を捕っている。

 葉の成分にはトリメトキシテトラメトキシのフラボンやオレアノール酸が含まれ、フラボノイドには解毒作用や抗菌作用がある。漢方では止血・解毒の効能があり、外傷や手術時の出血、鼻血、血尿、血便、痔などさまざまな出血に用いる。

 近年、中国では紫珠の注射液の臨床研究が行われ、血小板増加、出血時間や凝固時間の短縮、血管収縮などの作用を報告している。また外用として粉末や煎液を創面や火傷の治療に応用している。日本の民間療法では葉の汁を寄生性皮膚病などの患部に直接塗布する。

金曜日, 3月 08, 2013

磁石

○磁石(じしゃく)

 世界各地に産する天然の磁鉄鉱(マグネタイト:Magnetite)である。通常、火成岩や変成岩の中に入っており、鉄の原料としても用いられる。おもに成分は四酸化三鉄(Fe3O4)であり、酸化マグネシウムや酸化アルミニウムを含むこともある。

 鉄を吸引する磁性という特徴があるが、採取後放置しておくと磁性が減退する。磁性のあるものを活磁石、磁性の失ったものを死磁石という。表面が黒色で光沢があり、磁性の強いものほど良品とされる。

 漢方では肝腎を補い、精神を安定させ、咳を止める効能があり、高血圧、不安、不眠、煩躁、咳嗽などに用いる。高血圧(肝陽上亢)に伴う眩暈、頭重感、のぼせ、動悸などには竜骨・牡蠣などと配合する。熱病による高熱、煩躁、意識混濁、痙攣などには犀角・羚羊角などと配合する(紫雪丹)。腎虚による喘息には熟地黄・五味子などと配合する。腎虚による視力の低下、不安感、動悸、不眠などには朱砂・神麹と配合する(磁朱丸)。腎虚による耳鳴には六味丸に配合する(耳鳴丸)。

火曜日, 3月 05, 2013

柿漆

○柿漆(ししつ)

 カキノキ科のカキ(Diospyros kaki)の渋を用いる。カキの未熟な果実(青柿)を容器に入れて搗き砕き、水を加えてときどき攪拌しながら3週間ほど放置して発酵させ、滓を除くとニカワ状の液が得られる。これを柿漆あるいは柿渋という。

 かつては傘や渋紙、渋ウチワなどの紙や絹糸、皮革などに塗布して防水、防腐などの強化に用いていた。現在ではおもに日本酒製造における清澄剤として知られている。

 柿渋にはシブオールを主成分とする多量のタンニンが含まれる。このタンニンのため柿の果肉には渋味があるが、熟していくにつれタンニン細胞が凝固、収縮して褐色斑に変化し、タンニンが不溶性となって渋味がなくなる。

 柿漆には血圧効果作用が認められ、高血圧や脳卒中の後遺症などに少量ずつ服用する。夜尿症にも有効である。そのほか扁桃炎や含嗽薬として、火傷や湿疹などでは冷湿布として用いる。また凍傷の塗布薬としても用いる。

月曜日, 3月 04, 2013

紫根

紫根(しこん)

 日本の各地や中国、朝鮮半島に分布しているムラサキ科の多年草ムラサキ(Lithospermum erythrorhizom)の根を用いる。中国では紫根を硬紫根と軟紫根とに区別し、ムラサキの根を硬紫根というのに対し、同じムラサキ科の新疆紫草(Arnebia euchroma)の根を軟紫根という。いずれの根も紫色で、ナフトキン誘導体のシコニン、アセチルシコニンなどの紫色色素が含まれる。

 日本でもムラサキの根は天平の頃から紫色の染色に用いられ、江戸時代には江戸紫として有名であった。今日、軟紫根は日本薬局方の適用外であるが、かなりの量が流通している。

 薬理的にはシコニン、アセチルシコニンには抗炎症、肉芽促進作用などの創傷治癒促進作用があり、紫根の抽出液には抗菌、抗浮腫作用などがある。また近年、抗腫瘍作用が注目され、絨毛上皮腫や白血病、乳癌などへの臨床応用が研究されている。

 漢方では清熱涼血・解毒・透疹の効能があり、水痘や麻疹の初期の発疹ができらないとき、紫斑、黄疸、吐血、鼻血、血尿、腫れ物などに用いる。近年では麻疹の予防や肝炎の治療に用いている。また湿疹や外陰部の炎症に外用する。

 紫根を主薬とした紫雲膏は火傷や凍瘡、痔などの外用薬として有名である。また乳腺炎や乳癌の治療には牡蠣・忍冬などと配合する(紫根牡蠣湯)。ちなみに北米インデイアンはセイヨウムラサキ(L.officinale)の全草を避妊の目的で煎じて服用している。

金曜日, 3月 01, 2013

地骨皮

○地骨皮(じこっぴ)

 本州以南、朝鮮半島、台湾、中国などに分布するナス科の落葉低木クコ(Lycium chinense)の根皮を用いる。クコの果実は枸杞子、葉は枸杞葉といい薬用にする。枸杞葉はクコ茶、枸杞子はクコ酒としても親しまれている。

 クコの根皮にはベタイン、シトステロールなどが含まれ、血糖降下作用、解熱作用、降圧作用などが認められている。枸杞子は滋養薬として知られるが、地骨皮は去熱を冷ます作用がある。

 漢方では清熱涼血・清虚熱・止血の効能があり、滋養作用のある解熱薬として結核などの慢性的な微熱や体力の低下に用いられるほか、盗汗、咳嗽、吐血、鼻血、血尿、糖尿病、高血圧などに応用される。吐血や血尿には新鮮な地骨皮の汁を用いることもある。