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金曜日, 2月 19, 2016

草豆蔲

○草豆蔲(そうずく)

 台湾、海南島など中国南東部に分布するショウガ科の多年草アルピニア・カツマダイ(Alpinia katsumadai)の成熟した種子塊(果実)を用いる。従来、「名医別録」などに記載されている豆蔲は草豆蔲のこととされているが、形態から検討すれば別の植物という説もある。現在、豆蔲とか蔲仁と称されているものは白豆蔲のことである。

 草豆蔲の果実は直径約2cmの球形をした団塊上で三部に分かれ中に3mm前後の多数の種子がびっしりついている。種子には精油成分のαフムレンやカンフェン、フラボノイドのアルピネチンやカルダモミンが含まれ、芳香性の健胃作用が認められている。

 簡保では健脾・止嘔の効能があり、腹痛、嘔吐、下痢、食欲不振、唾液過多などの症状に用いる。急性胃炎などで胸や心窩部が痛んで嘔吐するときには枳実・縮砂などと配合する(枳縮二陳湯)。腹が冷えて脹満したり、痛むときには厚朴・乾姜などと配合する(厚朴温中湯)。

桑椹子

○桑椹子(そうじんし)

 クワ科の落葉高木クワの花穂についたままの果実を用いる。中国ではおもにトウグワ(Morus alba)を用い、日本ではヤマグワ(M.bombycis)を用いる。クワの葉は桑葉、根の皮は桑白皮、幼枝は桑枝という。

 果実は多汁で甘酸っぱく、欧米ではアカミグワ(M.rubra)やクロミグワ(M.nigra)などが食用に栽培され、マルベリー(Mulberry)と呼ばれている。また欧米では果実をジャムのほか、ブドウ酒と同様に発酵させた桑実酒がつくられている。日本でも生のまま焼酎に漬けたクワの実酒がよく知られている。薬用には紫紅色に熟したときに採取される。

 果実には有機酸や糖類、ビタミンB1・B2・C、カロテンが含まれる。漢方では肝腎、特に血分を補う補養薬の効能があり、口渇や便秘、体力の低下、眩暈などに用いる。

 高齢者にみられる眩暈や視力低下、口渇、盗汗などには何首烏・女貞子などと配合する(首烏延寿丹)。老人の便秘や眩暈になどには単独で煮つめて膏剤とする(桑椹子膏)。焼酎につけた桑椹酒には五臓を補い、耳や目の機能を強めるといわれている。

水曜日, 1月 27, 2016

蒼朮

○蒼朮(そうじゅつ)

 中国大陸に分布するキク科の多年草ホソバオケラ(Atractylodes lancea)やシナオケラ(A.chinensis)などの根茎を用いる。中国から輸入されている唐蒼朮のうちホソバオケラの根茎をとくに古立蒼朮あるいは茅朮という。

 日本ではオケラ(A.japonica)を和白朮と称しているが、中国の地方によってはオケラも蒼朮のひとつとされている。もともと日本にはオケラ一種しかなかったが、江戸時代に中国から渡来してホソバオケラを栽培して佐渡蒼朮と称している。古立蒼朮は密閉貯蔵すると白い毛状の結晶が析出し、良品とされている。

 朮には蒼朮と白朮があるが、その区別に関して日本薬局方にはアトラクチロジンを多く含んで、アトラクロチンを主成分としてアトラクチロジンを含まないものを白朮と規定している。ただしシナオケラ(商品名:西北蒼朮)にはアトラクチロンが少量含まれている。そのほか蒼朮の成分にはヒネソールやβオイデスモールも含まれ、これらの結晶の断面から白い綿のように析出している。

 漢方では白朮には主に胃腸の湿を除いて健胃・滋養する作用があるのに対し、蒼朮には体内の湿(内湿)だけでなく、体表の湿(外湿)を除いて関節の腫脹や疼痛を改善する作用がある。

金曜日, 12月 04, 2015

蒼耳子

○蒼耳子(そうじし)

 日本各地に自生するキク科の一年草オナモミ(Xanthium strumarium)の果実を用いる。オナモミはユーラシア大陸に広く分布し、日本にも古くから帰化して普通に見られる植物である。近年では北米原産の帰化植物であるオオオナモミ(X.occidemtale)が多くなっている。

 トゲのある果実は衣服によくひっ付くが、オナモミの「ナモミ」とは引っかかるという意味の「ナゴム」に由来する。また蒼耳とは婦人の耳飾りに似ていることによる。果実を包む総苞には多数のかぎ状の刺があり、動物に付着して分散される特徴がある。

 果実の成分としてキサントール、キサンツミンが知られ、キサンツミンには中枢神経の抑制作用があり、有毒である。果実のほかに葉や茎にも神経毒が含まれ、中毒症状として眩暈、頭痛、嘔吐、下痢、蕁麻疹、さらには意識障害や痙攣、肝機能障害などが出現する。

 漢方では鼻孔(窮)を通じ、風湿を去る効能があり、感冒による頭痛、鼻炎、歯痛、四肢のしびれや痛み、皮膚病などに用いる。急性・慢性鼻炎や蓄膿症、アレルギー性鼻炎などには辛夷などと配合する。炎症性の鼻づまりには菊花・金銀花と配合する(鼻淵丸)。鼻がつまって頭痛がするときには辛夷・白芷などと配合する。

木曜日, 12月 03, 2015

桑枝

○桑枝(そうし)

 日本産は北海道から九州、朝鮮半島、中国に分布するクワ科の落葉高木ヤマグワ(Morus bomnycis)の幼枝を用いる。中国産は中国、朝鮮半島を原産とするトウグワ(M.alba)を用いる。クワはおもに養蚕用に栽培され、毎年刈り込まれているため低木になっているが、自然状態では樹高は10mに達する。

 生薬ではクワの葉を桑葉、根の皮を桑白皮、果実を桑椹子という。桑枝は晩秋から初夏に採取し、葉を取り除いた直径0.5~1cmくらいの枝を用いる。

 漢方では去風湿の効能があり、関節の痛みや四肢のひきつり、搔痒感、浮腫などに用いる。関節リウマチや関節炎などで腫れて痛むときには羗活・独活などと配合する(程氏蠲痺湯)。上海の民間療法では関節痛に虎杖湯や臭梧桐根などと配合して用いる(桑枝虎杖湯)。

 桑枝のみを濃く煎じた液に砂糖を加えて膏剤にした桑枝膏は四肢の関節痛や麻痺に用いられている。ちなみに日本では桑枝をクワ茶として飲用している。

木曜日, 11月 05, 2015

皂莢

○皂莢(そうきょう)

 日本産のものはマメ科のサイカチ(Gleditsia japonica)、中国産(G.sinensis)のものはトウサイカチの果実を用いる。日本の本州、四国、九州に分布するサイカチの豆果は長さ25cmくらいでねじれている。

 トウサイカチの豆果の長さは同じくらいであるが、まっすくで肉厚である。熟すと濃く褐色になり、中には扁平楕円形な種子が多数入っている。中国では小形の果実を特に猪牙皂というが、これはトウサイカチの木が衰えたときなどにできたものといわれている。

 果皮にはサポニンが多く含まれ、石鹸の代用として利用されていた。莢や種子にはサポニンのグレジシアサポニンやグレジニン、スチグマステロールなどが含まれ、去痰作用や抗菌作用が報告されている。ただしサポニンには溶血作用や胃腸粘膜の刺激作用があり、過量に服用すると嘔吐、下痢が出現し、さらには中枢神経にも影響する。

 漢方では開竅・去痰・止瀉の効能があり、脳卒中や顔面神経麻痺、発作性の頭痛、咳嗽、喀痰、下血、下痢などに用いる。猪牙皂は開竅の作用が強いとされている。

 脳卒中や失神などで急に意識不明となったときには細辛と共に粉末にしたものを鼻に吹き込んで覚醒させる(通関散)。明礬と共に粉末にしたものを口に流し込んで嘔吐させる方法もある(稀涎散)。痰が多く、胸に痰が痞え苦しく、横にもなれないときに細辛・麻黄などと配合する(冷哮丸)。なお皂莢子には潤腸・解毒・消種の効能があり、便秘や皮膚疾患などに用いる。

月曜日, 9月 28, 2015

蚤休

○蚤休(そうきゅう)

 中国各地に分布しているユリ科の多年草、金線重(Paris polyphylla)や七葉一枝草(P.polyphylla var.chinensis)、そのほか数種類の同属植物の根茎を用いる。ただし、蚤休草河車と称されている基原植物は混乱しており、しばしばタデ科のイブキトラノオ(Polygonum bistorta)の根が流通している。このイブキトラノオの根は、本来、拳参という。

 蚤休の成分にはパリフィリン、パリジン、バリスチニンなどが含まれ、鎮咳・去痰作用や抗菌作用などが知られている。毒性もあり、過量に服用すれば悪心、嘔吐、頭痛がみられ、ひどければ痙攣が現れる。近年、成分のステロイド様サポニン、ポリフィリンDに癌細胞に対してアポトーシスを誘導する抗癌作用が認められ、肝癌や乳癌など様々な悪性腫瘍に対する研究が行われている。

 漢方では清熱・解毒・止咳・鎮驚・消種の効能があり、小児の熱性痙攣、肺炎、気管支炎、喘息、マラリア、脳炎、扁桃炎、腫れ物や蛇咬傷などに用いる。たとえば毒蛇に咬まれた時には内服と併せて創口の周囲に湿布する。また腫れ物や乳腺炎、耳下腺炎、神経性皮膚炎などの患部にも湿布する。

火曜日, 9月 22, 2015

桑寄生

○桑寄生(そうきせい)

 さまざまな樹木に規制するヤドリギ科の常緑小低木ヤドリギ(Viscum albumvar.coloratum)やオオバヤドリギ(Taxillus yadoriki)、桑寄生(Scurrula parasitica)などの茎葉を用いる。日本では、近年までサルノコシカケ科の菌体も桑寄生と呼ばれ、断面の赤黒いものを梅寄生、白いものを桑寄生と称して誤用されていた。

 ヤドリギ科の植物は半寄生性の植物で、樹木に寄生するが葉緑体も有している。たとえばヤドリギはニレ科、ブナ科、バラ科、クワ科などの植物に寄生する。本来、桑寄生とはクワの老大木に寄生するものを指している。日本のヤドリギ科の植物にはヤドリギやアカミヤドリギのほか、マツ科に寄生するマツグミ(Taxilluskaempferi)などがある。ヤドリギは鳥が果実を食べて種子を運ぶ鳥散布型で、鳥の消化管を通過しても種子に粘着性が残っており、その種が他の樹木に付着する仕組みになっている。

 宿木の茎葉にはオレアノール酸、アビクラリン、イノシトール、ケルセチン、ルペオールなどが含まれている。漢方では補肝腎・去風湿・強筋骨・安胎の効能があり、肝腎を補って筋骨を強め、風湿を除いて腰や関節の痛みを和らげ、胎動不安や妊娠時の出血を治す。

 腰痛には独活・防風などと配合する(独活寄生湯)。近年、桑寄生は高血圧や狭心症の治療にも応用されている。また日本の民間療法ではマツグミをマツの緑と称し、糖尿病や高血圧などに用いている。ヨーロッパでは古くからセイヨウヤドリギ(V.album)を躁鬱病や癲癇、高血圧などに用いている。

金曜日, 9月 18, 2015

皂角刺

○皂角刺(そうかくし)

 日本においてはマメ科のサイカチ(Gleditsia japonica)、中国ではトウサイカチ(G.sinensis)の刺を用いる。サイカチは日本の中部以南、四国、九州に分布し、川原など水辺に生える落葉高木で、カワラフジノキともいわれ、サイカチの名は種子の皂角子に由来する。

 サイカチの幹や枝には太くて鋭い刺があるが、刺は枝が変化したものである。かつては日本でも採取していた。サイカチの果実は皂筴、種子は皂角子といい薬用にする。

 樹皮や刺にはアルカロイドのトリアカンチンやタンニンが含まれている。トリアカンチンにはパパベリン様作用があり、高血圧や喘息、潰瘍などに有効といわれている。

 漢方では消腫・解毒・排膿の効能があり、腫れ物やでき物、ハンセン病(癩病)、乳腺炎などに用いる。皮膚化膿症の初期には金銀花や生甘草を配合して消退させ、腫張しているときには黄耆・当帰などを配合して自壊を促進して治す(皂裏消毒飲)。

水曜日, 9月 16, 2015

草果

○草果(そうか)

 中国の雲南・広西・貴州省に分布するショウガ科の多年草アモムム・ツァオコ(Amomum tsao-ko)の果実を用いる。果実は褐色の長さ2~3cm、直径1~2cmの楕円形で、中が三室になり、各室には10個前後の多年体の小さな種子が固まって入っている。果実には特徴的なにおいと辛味があり、中国ではアヒルや鶏の煮込み料理などの香辛料として用いている。

 果実には精油のピネン、ボルネオール、カンフェンなどが含まれる。漢方では芳香化湿・消食・健胃・抗瘧の効能があり、消化不良による腹部膨満感や悪心、嘔吐、胸の痞え、下痢、マラリアなどに用いる。草果は温性の芳香健胃薬であり、とくに肉食の消化不良に効果がある。

 胃腸型感冒などで発熱と下痢のみられるときには藿香・蒼朮などと配合する(人参養胃湯)。マラリアなどで高熱が続くときには柴胡・黄芩などと配合する(九味清脾湯)。またマラリアの治療に常山の補助薬として用いられ、常山の副作用である嘔気を抑制する。

火曜日, 9月 15, 2015

草烏頭

○草烏頭(そううず)

 キンポウゲ科の多年草トリカブト類の母根を烏頭といい、とくにカラトリカブト(Aconitum carmichaeli)やエゾトリカブト(A.kusnezoffii)などさまざまな野生種のトリカブト類の根を総称して草烏頭という。つまり四川省などで産する栽培品種の川烏頭と区別された呼称である。

 日本では佐渡島などに産する野生種のトリカブトを草烏頭と称して扱っている。また韓国産の草烏頭はミツバトリカブトである。川烏頭と草烏頭は明代以前には烏頭と総称されており、本草綱目ではじめて区別されたといわれる。またトリカブト類が栽培されるようになったのは、宋代以降と考えられている。

 一方、中国で一般に附子といえば減毒処理されたものをいうが、これに対して烏頭はほとんど減毒処理を受けていない。このため附子より烏頭のほうが毒性が強い。しかも川烏頭と草烏頭とを比較すれば、草烏頭のほうが毒性が強い。そのほか性味や効能は川烏頭とほぼ同じである。

 1804年、<華岡青洲<が乳癌の手術に用いた全身麻酔薬、通仙散の中には曼荼羅華・天南星などとともに草烏頭が配合されていた。