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日曜日, 8月 30, 2015

旋覆花

○旋覆花(せんぷくか)

 日本の各地、朝鮮半島、中国に分布するキク科の多年草オグルマ(Inula japonica)および同属植物の頭花の部分だけを用いる。またオグルマの全草は金沸草として薬用にする。

 オグルマは野原や田畑などの湿ったところに生え、夏から秋にかけて黄色い花が咲く。花は中央の管状花の周りを整然と一列の舌状花が取り囲み、これを小さな車に見立ててオグルマという名がある。旋覆花という名も、周囲の舌状花が花序を覆うことを意味する。

 花の成分にはブリタニン、イヌリシン、クロロゲン酸などが含まれるが、詳細は不明である。漢方では去痰・止咳・止の効能があり、胸の痞塞感や咳嗽、喀痰、オクビ、嘔吐、しゃっくりなどに用いる。

 このように旋覆花には痰を除き、気を降ろす作用があり、嘔気や咆逆などの消化器症状、咳嗽、喀痰などの呼吸器症状に応用される。ただし、そのまま使用するとかえって嘔気や嘔吐を催すこともあるので蜜炙して用いたほうがよい。

 胸が痞えてオクビがでたり、嘔気や嘔吐のある場合には代赭石などと配合する(旋覆花代赭石湯)。粘稠な痰が胸に凝結して食べ物が下がらないときに附子・細辛などと配合する(旋覆花湯)。

金曜日, 8月 28, 2015

川貝母

○川貝母(せんばいも)

 中国では貝母を浙貝母と川貝母に区別する。浙貝母は、ユリ科のアミガサユリ(Fririllaria veticillata)の鱗茎であるが、川貝母にはアミガサユリと同属植物の巻葉貝母(F.cirrhosa、烏花貝母F.cirrosa var.ecirrhora、稜砂貝母F.delavayi)の鱗茎を用いる。

 川貝母の基原植物は一般に四川省をはじめ、雲南省、チベット自治区の高山地帯に分布している。これらの鱗茎(川貝母)はアミガサユリの鱗茎(浙貝母)よりも小さい。

 川貝母にはペイミン、ペイミニン、フリチミンといったアルカロイドが含まれ、鎮咳、去痰、排膿作用が知られている。漢方では止咳・化瘀・潤躁・散結の効能があり、咳嗽、喀痰、喀血、胸の塞がり、瘰癧(頸部リンパ腺腫)、扁桃炎、乳腺炎などに用いる。

 適応は浙貝母とほぼ同じであるが、浙貝母が急性の咳嗽に適しているのに対し、やや慢性化した呼吸器感染症に用いる。一般に川貝母は虚証に、浙貝母は実証に用いる。また川貝母には潤肺作用があるので、痰が少ないとか痰に血が混じっているような肺陰虚の症状に適している。さらに去痰すると同時に痰の分泌を抑制する作用もあり、痰の多いときにも使用できる。気分が落ち込み、胸が塞がり、食欲がないときにも川貝母が適する。ただし、日本では一般に貝母といえば、浙貝母のことをいう。

木曜日, 8月 27, 2015

センナ

○センナ

 アフリカを原産とする常緑低木、マメ科のセンナ(Cassia acutifolia)やホソバセンナ(C.angustifolia)の小葉を用いる。中国では異国の瀉下薬という意味で番瀉葉と呼ばれている。

 センナはアレキサンドリアセンナとも呼ばれ、ナイル川流域で栽培されるもので、アレキサンドリアとはエジプトの集散地の名前である。ホソバセンナはチンネベリセンナとも呼ばれ、アフリカ東岸やアラビア、インドなどに産するもので、チンネベリはインド南部の栽培地の名前である。現在、中国の海南島や雲南省でもアレキサンドリアセンナが栽培されている。現在、日本に輸入されているのはおもにチンネベリセンナである。

 センナは最古の医学書である「エーベルス・パピルス」にアロエなどとともに収載されている下剤であり、古くからアラビア医学で使用されていた生薬である。今日でも欧米諸国で繁用され、日本には明治以降に西洋医学の薬物として導入されたものである。

 成分にはアントラキノンのレイン、アロエエモジン、ジアンスロン配糖体のセンノサイドA~Dなどが含まれる。センノサイド類は経口では強い瀉下作用があるが、静脈内投与では効果がみられない。センノサイドA・Bは腸内細菌によりレインアンスロンが生じ、これにより瀉下作用が発現する。

 センナは少量で苦味健胃薬となり、消化を促進する。適量を用いれば緩下作用を起こす。センナの成分を製剤化したものがプルゼニドである。漢方処方に配合されることは余りないが、家庭用の下剤には単独で、あるいは配合されて用いられている。センナには子宮収縮作用もあり、妊婦には用いない。ちなみにセンナ、大黄、アロエなどの生薬などのアントラキノン系下剤を連用すると大腸に色素沈着(大腸メラノーシス)が発現する。

火曜日, 8月 25, 2015

蝉退

○蝉退(せんたい)

 中国ではセミ科のクマゼミによく似た黒蚱(Cryptotympana atrata)の羽化後の抜け殻、日本ではアブラゼミやクマゼミの抜け殻を用いる。ただし市場品の種類は多く、黄金色で透明なものを金蝉衣、灰褐色で光沢のないものを土蝉衣という。

 成分は明らかではないが、抗痙攣鎮静作用、神経節遮断作用が報告されている。漢方では散風熱・透疹・止痒・退翳・解痙の効能があり、熱性疾患、咽頭腫脹、嗄声、発疹、掻痒症、目の翳障、ひきつけ、腫れ物などに用いる。とくに小児科領域で用いることが多い。

 麻疹の透疹を促進するために葛根・牛蒡子・薄荷などと併用する。炎症性の目の充血や角膜混濁などには菊花などと配合する。湿疹や皮膚掻痒症には荊芥・防風などと配合する(消風散)。破傷風の痙攣には天麻・全蝎・白僵蚕などと配合する(五虎追風散)。夜泣きや小児のひきつけには釣藤・薄荷などと併用する。化膿症や中耳炎には粉末にして塗布する治療方法もある。近年、中国では破傷風、慢性秦麻疹、化膿性中耳炎などに対する臨床研究が報告されている。

月曜日, 8月 24, 2015

茜草根

○茜草根(せんそうこん)

 日本をはじめ中国・東南アジアからヒマラヤにかけた広く分布するアカネ科の多年草アカネ(Rubia cordifolia)の根および根茎を用いる。

 根が赤いことからアカネという名があるが、アカネは古くから茜染めの染料として有名である。茜染めはあらかじめ灰汁につけて乾かした布を、根を煎じた液で数十回も浸して染めるもので、灰汁の濃さで赤から黄色になる。色素成分のアリザリンが合成されるようになってから染料としての栽培はすたれてしまった。現在、工芸染料としては専らセイヨウアカネ(R.tinctorum)が用いられ、日本のアカネは用いられていない。

 アカネの根にはオキシアントラキノン誘導体のプルプリン、ムンジスチンなどが含まれ、止血、抗菌、去痰作用などが認められている。漢方では止血・活血の効能があり、子宮出血や鼻出血、吐血、あるいは無月経や産後の悪露に用いる。生で用いると活血作用が強く、炭にしたものは止血作用が強い。

 喀血や吐血、鼻血、歯肉出血などには大薊・小薊などとともに炭にして用いる。(十灰散)。ヨーロッパでは古くから赤色染料の原料として栽培されているセイヨウアカネも黄疸、浮腫、無月経、尿路結石などの治療に用いられていた。2004年、厚生労働省はセイヨウアカネから抽出されたアカネ色素の発癌性が報告されたため、食品添加物としての使用を禁止した。

金曜日, 8月 21, 2015

蟾酥

○蟾酥(せんそ)

 ヒキガエル科のシナヒキガエル、ヘリグロヒキガエルなどの耳後腺および皮膚腺から分泌される乳液を加工、乾燥したものを用いる。これらのカエルをそのまま乾燥させたものは蟾蜍という。

 ヒキガエルの分泌物は日本でも古くから「ガマの油」として有名であったが、毒性のあるガマ毒である。一般にガマ毒はそれほど強烈なものではないが、目に入ると激しく痛む。

 捕獲したヒキガエルをよく洗い、耳後腺や皮膚腺を刺激して乳液を分泌させ、それを磁器で採取して銅製のふるいで濾過し、円形の型に流し込んで乾燥させる。日本に輸入されている蟾酥は団蟾酥または東酥と呼ばれるものが中心である。これは直径8cm、厚さ1.5cmくらい、濃褐色の偏平な円盤状のもので、おもに河北・三東省で生産されている。

 1匹のカエルから約2mgの蟾酥が得られるといわれている。ガマ毒は最初にブフォトキシンが発見されたが、これはブフォタリンなどの結合物で、そのほかシノブファギン、シノブフォタリンなど現在までに数十種類の強心ステロイドが報告されている。そのほかステロール類、ブフォテニン、ブフォテニジン、セロトニン、トリプタミンなどが含まれ、ブフォテニンには幻覚作用がある。

 薬理学的に蟾酥には強心作用、局所知覚麻痺作用、胆汁や膵液、胃液の分泌促進作用、抗炎症作用などが報告されている。蟾酥の強心作用はジギタリスに似ているが、作用が早く、蓄積性がない。局所麻酔剤として蟾酥チンキがある。

 漢方では開竅・解毒・消種・止痛・強心の効能があり、意識障害、瘡癰などの皮膚化膿症、咽頭の腫痛、小児の疳積、歯痛、心臓衰弱に用いる。癰などの皮膚の化膿、乳腺炎、骨髄炎などには軽粉などの配合された蟾酥丸がよく知られている。

木曜日, 8月 20, 2015

穿心蓮

○穿心蓮(せんしんれん)

 マレーシアからインドにかけて分布しているキツネゴマ科の一年草センシンレン(Andrographis paniculata)の地上部全草を用いる。中国では長江以南の温暖な地域で栽培されている。漢方医学では穿心蓮と呼び、インドのアーユルヴェーダではカンジャンと読んでいる。最近、日本ではアンフィスとも呼ばれている。

 成分には苦味質のアンドログラフォライドが含まれ、抗菌・抗ウイルス、抗炎症作用のほか、胆汁の流れを促進し、肝臓を保護する作用が認められている。漢方では清熱解毒の効能があり、咽頭炎、気管支炎、細菌性腸炎、膀胱炎、皮膚化膿症、湿疹に用いる。黄連の代用に用いることもある。

 生の汁や煎液は腫れ物や、咬傷、中耳炎などの外用薬としても利用されている。近年、中国では錠剤や注射薬としても開発され、さまざまな感染症に応用されている。インドでは新鮮な葉から汁をとり、カルダモンやシナモンと混ぜて錠剤にしたものが細菌性赤痢などの下痢症状の治療に用いられている。

 インドネシアでは利尿・解熱薬のほか、堕胎薬としても用いている。スウェーデンでは20年以上前からエキス剤が風邪薬(KoldKare)として一般的に利用されている。近年、日本でもエキス剤が発売され、胆石の予防や二日酔いなどに有効といわれている。欧米では、癌やエイズに対しても効果が期待され、ブームになっている。

火曜日, 8月 18, 2015

蟾蜍

○蟾蜍(せんじょ)

 ヒキガエル科のシナヒキガエル(Bufo bufo gargarizans)。ヘリグロヒキガエル(B.melanostictus)などの全体のまま乾燥したものを用いる。これらの耳後腺および皮膚腺からの分泌物が蟾酥であり、皮、舌、肝、胆なども薬用にされる。

 シナヒキガエルは中国全土に分布し、泥の中や岩石の下に生息する体長10cm以上のカエルで、皮膚には多数のイボが密に分布している。ヘリグロヒキガエルは中国南部に分布し、体長は10cm以下で全身がざらざらした黄褐色のカエルである。これらヒキガエルの耳の後ろには耳腺があり、有毒な乳液が分泌される。

 漢方では解毒・消腫・消癥の効能があり、疔疳などの腫れ物や腹部腫瘤、浮腫、小児の疳症などに用いる。小児の脾疳には黒焼きにした蟾蜍に人参・甘草を配合する(蟾蜍散)。ちなみに日本ではヒキガエルのことをガマ(蝦蟇)ともいうが、中国での蝦蟇はアカガエル科のヌマガエルのことである。

月曜日, 8月 17, 2015

穿山甲

○穿山甲(せんざんこう)

 有鱗目の動物、ミミセンザンコウ(Manis pentadactyla)の鱗甲片を用いる。東南アジアや中国南部の丘陵地帯や樹木のある湿地帯に生息している。体長は50cm~1mぐらいの動物で、頭から尾の先まで瓦のように硬い角質の鱗片に覆われている。

 洞窟に住み、夜行性で木にも登り、泳ぐこともでき、敵に襲われると丸く体を縮める習性がある。食物はシロアリ、クロアリなどの昆虫である。捕獲した後、甲羅だけをとり、熱湯に入れると鱗片は自然と剥がれ落ち、それを乾燥して薬用とする。

 通常、幅4~5cm、長さ3~5cmぐらいの薄い扇形ないし菱形で、外面は濃く褐色で縦に多数の線紋があり、内面は色が薄く光沢があり、強靭で弾性がある。

 漢方では排膿・通乳・通経・通経絡の効能があり、瘡癰などの腫れ物、乳汁不足、無月経、リウマチなどの関節痛などに用い。皮膚化膿症で、まだ潰瘍化していないときに用いる排膿を促進する透膿の効果がある(透膿散)。しかし口が開いた瘡癰には用いない。あるいは王不留行・木通などと配合する(下乳涌泉散)。現在、ワシントン条約
により入手できなくなっている。

水曜日, 8月 12, 2015

川骨

○川骨(せんこつ)

 北海道、本州、四国、九州、朝鮮半島に分布するスイレン科の多年草コウホネ(別名:カワホネ Nuphar japonicum)の根茎を用いる。川骨という生薬名は日本名の「カワホネ」を読み代えただけで、中国名ではない。中国では生薬としてコウホネを用いていないが、近縁種のネムロコウホネ(N.pimilum)を萍蓬草といい、根茎や種子を薬用にしている。

 コウホネは水性植物で、掘り出した根茎は乾燥すると骨のようにみえるためその名がある。コウホネの根茎にはアルカロイドのヌファリジンやデオキシヌフアリジンなどが含まれ、中枢麻痺や血管収縮などの作用がある。

 日本漢方では利水・活血・強壮の効能があり、浮腫や婦人病、打撲傷などに用いる。打撲による内出血や腫張、疼痛に川芎・桂枝などと配合する(治打撲一方)。産前・産後の血の道症に当帰・地黄・人参などと配合する(実母散)。民間では生の根茎をすって小麦粉とあわせて練ったものを乳腺炎に外用する。

火曜日, 8月 11, 2015

川穀

○川穀(せんこく)

 熱帯アジアが原産で日本各地に自生するイネ科の多年草ジュズダマ(Coixlacryma-jobi)の果実を川穀という。根は川穀根という。中薬大辞典では薏苡仁の基原植物としてジュズダマの種子をあげ、とくにハトムギ(C.lachryma-jobivar.yuen)と区別していない。一説に「中国名の川殻ハトムギのことで、薏苡はジュズダマである」という見解もある。

 ハトムギはジュズダマの栽培変種とされ、両者は極めてよく似ている。ジュズダマの表面は硬いホウロウ質で灰黒色をしていて、指で押しても砕けないが、ハトムギは茶褐色で縦じまがあり、指で強く押すと砕ける。ちなみにジュズダマは数珠を作る玉、ハトムギは鳩の食べる麦という意味である。

 川殻の成分も薏苡仁とほぼ同じであり、一般に薏苡仁の代用とされるが、日本ではほとんど用いられない。根にはコイクソール、スチグマステロール、β・γシトストロールな度が含まれる。漢方では川殻根に清熱・利湿・健脾・殺虫の効能があり、黄疸や排尿困難、関節炎や下痢、回虫症などに用いる。民間療法では根を鎮咳剤として、あるいは神経痛、リウマチ、肩こりなどに用いる。

月曜日, 8月 10, 2015

前胡

○前胡(ぜんこ)

 本州の関東以西、四国、九州、朝鮮半島、中国に分布するセリ科の多年草ノダケ(Angelicadecursiva)などの根を用いる。日本にみられるノダケは紫色の花をつけるが、中国では白い花をつける白花前胡(A.praeruptorum)もあり、薬用にはおもに白花前胡を用いている。現在、日本産の前胡は市場性がない。

 ノダケの根にはフロクマリンのノダケニンやデクルシン、精油成分のエストラゴール、リモネンなどが含まれ、抗炎症、坑浮腫作用などが知られている。漢方では解表・止咳・去痰の効能があり、熱性病(風熱)による頭痛や気管支炎に用いる。

 頭痛や発熱、咳嗽、鼻炎などの感冒症状には蘇葉・葛根などと配合する(参蘇飲)。化膿症の初期で悪寒、発熱、頭痛のみられるときには荊芥・防風などと配合する(荊芥敗毒湯)。また気管支炎などで粘稠な痰が多く、呼吸が苦しいときには紫蘇子・半夏・陳皮などと配合する(蘇子降気湯)。前胡と杏仁はいずれも去痰薬として用いるが、前胡は炎症性の粘稠痰(熱痰)、杏仁は希薄な痰(寒痰)に適している。

土曜日, 8月 08, 2015

川芎

○川芎(せんきゅう)

 中国を原産とするセリ科の多年草センキュウ(Cnidiumofficinale)の根茎を用いる。本来は神農本草経にある芎藭と称したが、四川省産のものが有名であったため川芎の名が一般的になった。

 江戸時代に薬用として日本にも渡来し、現在ではおもに北海道で栽培されている。ところが日本産は雑種性2倍体で結実しないため、株分けで繁殖させている。また結実しないため分類学上の位置づけが困難で、中国産と日本産との基原植物の異同に関して諸説がある。現在、中国産川芎の基原植物はLigusticumchuanxiongといわれている。日本薬局方では日本産の川芎のみを収録しており、輸入品は適合しない。現在、日本から持ち込んだ株が中国でも栽培されている。

 日本産川芎の成分にはクニデライド、リグスチライド、ブチルフタライドなどが含まれ、鎮痙、鎮痛、鎮静、降圧、血管拡張作用などが認められている。漢方では活血・理気・止痛の効能があり、頭痛や腹痛、筋肉痛、生理痛などに用いる。

 当帰とともに婦人科・産科の要薬として有名で、活血作用と行気作用とがあり、血中の気薬といわれている。また李東垣は頭痛には必ず川芎を用いると述べているが、川芎は頭痛だけでなく、瘀血による痛みや関節痛、四肢の麻痺や痺れにも用いられる。

木曜日, 8月 06, 2015

全蝎

○全蝎(ぜんかつ)

 クモ類のキョクトウサソリ科のキョクトウサソリ(Buthusmartensii)の全体を用いる。捕獲した後、水に漬けて泥を吐かせ、沸騰した湯の中で食塩とともに煮沸する。とくに後腹部だけを蠍尾または蠍梢という。

 サソリの多くは熱帯ないし亜熱帯に分布するが、キョクトウサソリは中国の北部・中部、朝鮮半島の一部に分布する。中国では飼育されており、おもに河南。山東・湖北・安徽省に産する。体調は約6cm、体色は黄緑色で、後腹部の末端節に毒袋があり、先端は鋭い毒針が上屈している。

 人命にかかわるサソリの猛毒種はアフリカやメキシコにしかおらず、キョクトウサソリの毒は比較的軽い。サソリの毒はカツトキシン(ブトトキシン)といわれ、ヘビ毒によく似た神経毒のあるタンパク質であり、筋肉の痙攣や流涎、呼吸麻痺などが生じる。

 全蝎にはそのほか、レシチン、コレステロール、ベタイン、タウリン、脂肪酸などが含まれる。薬理学的には抗痙攣作用、降圧作用などが報告されている。市場品には塩漬けにしたものが多く、止痙・熄風・止痛・通経絡の効能があり、癲癇や痙攣、小児のひきつけ、脳卒中、半身不随、顔面麻痺、関節痛などに用いる。

 癲癇や中風、破傷風などによる痙攣には蜈蚣・白僵蚕などと配合する(止痙散)半身不随や顔面麻痺には白僵蚕・白附子などと配合する(牽正散)。