○硫黄
天然に産する硫黄の単体、硫黄鉱(サルファSulphur)を加熱、加工したものを用いる。火山国の日本で盛んに採掘され、海外へ輸出していたこともある。現在、硫黄は石油精製過程で得られるため、日本の硫黄鉱山はほとんど閉山となっている。また金属硫化物や硫黄塩として地球上に広く分布し、生物体内にもタンパク質および有機化合物の成分として含まれている。
古くから燃える不思議な物質として知られ、西洋の錬金術でも、中国の錬丹術でも重要な原料であった。単体のままマッチや黒色火薬の原料にされるが、精製硫黄はパルプ製造用の亜硫酸や二硫化炭素の原料になる。薬材の硫黄は表面がざらざらした軽い黄色の塊で、質はもろく砕けやすい。特異な臭いがあり、燃やすと炎を出し刺激性のある二酸化硫黄(亜硫酸ガス)の臭気を発する。粗製硫黄を昇華させて固定したものは硫黄華といい、無味無臭の黄色い粉末である。
硫黄イオンは細胞膜を通過しないため薬理的作用はないとされているが、服用すると腸内細菌により還元され、硫化物や硫化水素となって腸壁を刺激し、また水が腸内に滲出して下痢をおこす。また硫黄を皮膚に外用するとSH基をS-Sに変えて角化した皮膚を軟化させ、また硫化水素やペンタチオン酸となって抗菌作用が発現する。かつては痤瘡の治療にクンメルフェルド液、湿疹や疥癬の治療に硫黄軟膏などがよく使用された。
漢方では止痒・補陽の効能があり、湿疹や疥癬、痤瘡などの外用薬として用いるほか、インポテンツや慢性の下痢、老人性便秘などに用いる。小児の寄生虫症で腹痛、夜泣きするときには平胃散に硫黄を加える。老人性の虚寒の便秘に半夏と配合する(半硫丸)、老婦人の腰冷えや帯下に竜骨と配合する(竜硫丸)。近年、北米原産のテーダ松から抽出された有機硫黄成分MSM(メチルスルフォニルメタン)に鎮痛作用や抗炎症作用、抗アレルギー作用があり、関節炎や筋肉痛の緩和、アレルギー性鼻炎の改善、髪や爪の成長促進などに効果があるとして注目されている。
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